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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐04‐4 この平和な日々

 この後は薬草学の講義がある。

 今日は薬草園での実習。昼食を終え、ナギサは少し早めに薬草園へとやってきた。お気に入りのベンチに腰を下ろし、目の前の風景に心を和ませる。


(やはりここは落ち着く)


 ナギサの眼前に咲くのはアルタ・ルブラ。

 リュークがこの薬草園に持ち込んだという薬草だ。


 リュークが言っていたとおりの深紅と黄金と白の饗宴が美しい花である。八重咲の花弁は深紅。花芯の周りは白く、外側に向かって深紅へと一気に染まる絶妙なグラデーションをなしている。

 葉の濃緑が深紅の花色をより一層引き立てている。確かにこの花が一面に咲いていれば壮観であろう。


 だが、残念なことにここは薬草園。せっかく咲いた花の半分は既に根こそぎ採取されている。標本とポーション作成用である。残りは種を取るためにこのままにしておくそうだ。先日、薬草学の時間に担当神官が教えてくれた話だ。


 リュークがこの地面が見えている箇所を見つけたらどんな表情をするのだろうと、ナギサはつい想像してしまう。ふざけた言い方ではあったが、リュークはこの花が咲くのをとても楽しみにしていることは、あの時会話の端々に感じられた。帰ってくるのはまだ先だと神官長は言っていたが、せっかく花が咲いたのに、それを目にすることができないことがなんだかすごく可哀そうに思えてしまう。




 今週も毎日があっという間に過ぎて行った。

 明日はもう聖の曜日だ。春学期に編入したときも周りについていく為に必死で、時間の経過が物凄く速かった。秋学期は秋学期で初めてのことばかりで、この2週間が溶けるように消えていく。先週は履修登録(と、訳のわからない事がいくつか)で忙殺された。今週は初めての講義が大半なので戸惑いだけで終始している。


 幸いにも履修登録では希望した講義がすべて許可が下りた。特に希望していた魔法三学―魔法学・魔法陣学・錬金学ーが受講できることになってとても嬉しい。

 元の世界で魔女と揶揄された自分が、今はその魔女になるために頑張っていると思うと、少しだけ不思議な気分であり、愉快でもある。


 魔法三学の一つ、魔法陣学も昨日初めての講義があった。

 元の世界でのアニメやらなんやらの刷り込みのせいか、魔法陣=呪文詠唱とともに空間に魔法陣が描き出されて巨大魔法が発動する。そんなふんわりとしたイメージを勝手に抱いていた。

 もちろん洗濯場で利用する設置型の転移魔法陣のようなものもイメージとしてはあるのだが、やはり呪文詠唱とともに空間に描き出される壮大な魔法陣...... アニメやラノベの刷り込みは絶大なようで。


 そんな妄想を持った自分は、この魔法陣学で魔法陣を描くことを学ぶと考えていた。しかし実際は、魔法陣の読み解きを中心とした学問的な講義であった。魔法陣の文法(お約束事)をマスターすれば自身で魔法陣を描くことも可能らしいが、中途半端なものを作成すると危険なのでやめておくようにと、しっかり注意を受けている。


 また、読み解きが中心となる理由もこれまたしっかりと告げられた。

『迷宮対応の為です。未踏破の迷宮では初めて見る魔法陣がとても多く、その大半が罠で危険です。本来なら神々が本当に必要な箇所にだけ設置する転移陣が、迷宮内で罠として出現することもあります。そのような場合の転移先は、凶悪な魔獣が待ち構えていると思って間違いありません』真剣な表情でそう話す神官の表情が未だに忘れられない。


 そう、迷宮、である。

 これも元の世界での刷り込みが多い。いろいろ勝手に想像し、この世界にもあるのか、などとぼんやりと療養棟にいるときに想像していた。

 そして、当然というかやはりというか、この世界に迷宮はあった。春学期の講義ではその簡単な説明を受けた。


 森や草原で見つかることが多いのだが、この世界のあちらこちらに“魔力溜まり”というものが出来る。

 人や魔獣、草花と、すべての生物が魔力を持つ故に、生あるものから洩れ出た魔力や放置された死体からの魔力が、溜まりやすい“場”に自然と集まり魔力溜まりを形成する。

 魔力をどんどん溜めこみ成長した魔力溜まりが、何らかのきっかけで迷宮化する。迷宮核に適したものをその魔力溜まりが取り込むことで迷宮化するのであろう、というのが最近の有力説らしいが、正確にはわかっていないらしい。


 ただ、魔力溜まりが存在した場所に新しい迷宮が出来ている、という関係性はあるらしく、その為魔力溜まりを見つけた時は積極的に浄化しているという。

 この説が確定にならないのは、何故か何もなかったところに突然迷宮が出来ていることがあるからだそうだ。


 そして迷宮内には魔獣がいて、罠もある。中を探索すれば貴重なものが見つかることもある。

 ただ危険だからと迷宮を探索もせず放置しておくことも危険なのだそうだ。中で魔獣が増えすぎて、外に一気に出てきてしまうことがあるらしい。なので貴重なものを求めての探索という目的もあるが、魔獣が増えすぎないようにという目的も合わせて、迷宮が見つかれば必ず探索隊が派遣される。そして迷宮核を破壊して迷宮を消滅させることもあれば、鍛錬や研究用、貴重品獲得の手段として保存管理することもあるとのことだ。




 神殿内での生活ではこの迷宮や魔獣といったものは無縁すぎて脅威度がうまく認識できない。ただでさえこの世界に放り出されて1年も経っていない現状では、魔獣の姿形ですらよくわからない。そもそも街、聖都イスにすら出ることを許可されていない自分が迷宮や魔獣とかかわることはあるのだろうか?


 薬草園のこの場所にいると余計にそんな危険な世界があることを疑ってしまう。吹く風は優しく見渡す景色も長閑なものである。


 だがこの世界に来た理由、いや、招かれた理由は《女神》の手助け。そうやって考えれば迷宮も魔獣も将来的にかかわってくるのだろう。この平和な日々はちょっとしたご褒美期間なのかもしれない。


 あれこれ考えても埒が明かないし、先に進むわけでもない。とりあえず今に集中しよう。

 この後は薬草学。これは春から続けての受講なので少し肩の力を抜くことができる。

 きっと薬草学は錬金学で役に立つ。ローズマリーを少し分けてもらえないか頼んでみよう。こちらの世界でも植生は似ている(ほぼ同じ?)ようだから少し試してみたい。分けてもらえたら錬金学で神官に相談してみよう。



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