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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐03‐4 講義を思い返し


 夕食を終え、夕べの祈りも早めに済ませて自室に戻る。


 自室にある小さな椅子に座り、呼吸を落ち着かせる。


(魔法、本当に使えた)


 こんなことを人に言えば「コーマが使えるでしょ」と言われそうだ。

 確かにコーマの技も広義では魔法だ。魔力を用いて普通ではできないことができる。素の力では持てないほどの重さのものを持ち、冷たい水を感じることなく扱い、他にも元の世界では夢物語であったことができる。


 だが、今日の魔法こそが“元の世界で思い描いていた魔法”だ。言い方は間違っていると思うけど“本当の魔法”が使えたのだ。


 ナギサは今日の講義を思い返す。




 魔力登録を行ったことで紅く染まった石の表紙をめくり、見返しの遊び紙をめくる。

 そこには綺麗な飾り文字で記された呪文があった。正しくは呪文とその用途等の記述だ。何故だがとても嬉しくて指でその文字の上をなぞってしまった。


 そして、マグナルバに言われるままに魔導書に書かれた呪文をひたすら暗記した。暗記は苦手なほうだけど、この魔法だけは暗記しないと魔導書が取り出せなくなってしまうと、ナギサとしてはかなり真剣に暗記に取り組んだ。


 もう大丈夫、そう自分で納得できた時、魔力を込めて呪文を呟いた。


 魔導書は音もなく“フッ”と消えた。


 あまりのあっけなさに拍子抜けした。


 どうも自分は何か劇的なものを期待していたようである。


 あまりにもポカンとした表情をしていたらしく、気づけばカエルが私の眼前で手をヒラヒラとさせていた。

 いや、実際にポカンとし過ぎてカエルの手に気づくまでかなり間があったらしい。


 とりあずその時はカエルに礼を言い、もう一度呪文を唱えた。そして、魔導書がやはり音もなくナギサの前に現れた。


 何度かそれを繰り返し、呪文を暗記ではなく体に覚えさせるようにしていると、

『魔導書の出し入れはあまり人前では行わない。必要な時は、ローブの下から取り出すように、鞄の中にしまうかのように、自然な所作を心掛けてほしい。この呪文はこの国、この講義をうけた者しか知りえないものなのでな』とマグナルバからの注意があった。


 これは出し入れする場所をある程度コントロールできるようにしろと。コントロールできなくても、偽装しろということだ。

 格納する時はいい。鞄の中に入れる動作とともに術を発動させればいい。取り出すときは練習しないと自然に見せるのは難しそうだ。だがどちらも慣れないうちは鞄を使うとしても、このサイズのものが出し入れされて不自然と思われない鞄を用意しないといけないか。いっそダボっとしたローブを羽織って、そこから出し入れしているように見せた方が自然かもしれない。


 ここでも再び考え込んでしまってカエルに心配されてしまった。カエルは呪文を唱えるのが楽しいらしく、わたしの様子を気にかけながらも、ひたすら呪文を唱えて魔導書を消したり出したりしていた。




 そんなあれやこれやを思い出しながらも心を落ち着かせ、魔導書を取り出す為に呪文を唱える。


 やはり魔導書は音もなく静かに現れる。


 ナギサの前にある小さな机。その上に魔導書は音もなく現れ、ずっとそこに置いてあったかのようである。


 魔導書をそっと手に取る。講義の時はじっくりと見ることができなかった。改めてじっくりと見てみる。表紙の色はナギサの瞳を思い起こさせる紅。中央の魔石は燃えるような黄金色。飾鋲と魔石の周りや表紙の縁を飾る極細の線も黄金色。ただ、よく見れば魔石の周りには金色に混じって白と黒の線模様もある。見返しや遊び紙は濃緑で何かの透かし模様が入っている。


 販売所で見た時はとても地味な装丁だった。魔力登録でここまで変わることに驚いたが、あの時も今も何故かナギサを呼んでいる気がして仕方がない。魔導書に意志があるとは聞いていないので気のせいだと思うのだが、何故だか魅かれてしまい、ずっと見つめていたくなる。


 それとこの魔石。まるで魔石の中に黄金の炎を閉じ込めているかのように見える。動いているはずはないのだが、見つめているとまるで流れ動いているような気がしてくる。


 魔石をずっと眺めていたいような気もするが、今は魔法の復習をしよう。


 今覚えているたったひとつの呪文を丁寧に唱える。


 魔導書はやはり音もなく机上から消え去る。


 魔導書を異層に格納するイメージを得られないだろうか、と期待したが甘かった。流石にまだ無理なようだ。


 そもそも異層って何? という問題がある。異層が何かよくわかっていないので、マグナルバから教わった通りにやらされている感が自分の中にある。この感覚がある限り無詠唱は無理な気がする。

 呪文をいちいち唱えずに魔導書をパッパッと出し入れ出来るようになりたいと思うが、それはやはりまだまだ先、ということらしい。





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