2‐03‐2 魔導書への魔力登録
最初に呼ばれたのは神官服をまとった若い男性だ。てっきりマグナルバの助手と思っていたが、受講者らしい。神官になってからでも学舎で学べるとは知らなかった。
1人目ということもあり、皆の視線が神官の背中に集まる。ナギサからは彼の背中越しに白っぽい装丁の魔導書が見える。
微かに聞こえる会話と所作から、神官がマグナルバの指示に従って魔導書に魔力登録を行っているのがわかる。
「!」
その彼の手元というか魔導書が白く眩い光に包まれる。が、その光はすぐにおさまり、困惑気味な神官の声が聞こえてくる。
「マグナルバ先生、わたしの魔導書が変化しているのですが......」
「ああ、魔力登録を行うと装丁が変化する。魔石も色が変化しているはずだ。間違いなく君の魔導書になった証だと考えればよい」
神官に対し愉快そうな声音で言葉が返され、さっさと自席に戻るようにと促されている。
その後も一人ずつ魔導書を受け取るのだが、どの魔導書も光とともに装丁の変化があった。皆の会話をそれとなく聞いていると瞳の色がどこかに反映しているようだ。
「最後はナギサか」
名を呼ばれマグナルバの前に立つ。心なしかマグナルバの表情がひきつったように見えたが気のせいか? 他の学生と同様に魔導書を包む封印を解くように促される。
机上には販売所で最後にナギサが見たとおりの形で布に包まれた魔導書が置かれていた。指輪を以前かざした場所に再度かざすと覆っていた布がするりと解かれる。
「ほう、表紙が石とは。久しぶりに見たな」
興味深げに魔導書を見やりながら、マグナルバが魔力登録の為にと針をナギサに差し出した。
やはり石の表紙は珍しいものなのか、とマグナルバの言葉に改めてスレートグレーの表紙を見る。なんの装飾もなく真ん中に魔石が、薄い黄金色の魔石が置かれたシンプルな表紙の魔導書だ。
今もそうなのだが、何故かこの魔導書にナギサは惹かれる。惹きつけられるままに、受け取った針を親指に軽く刺し、魔石に親指を軽く押しあてた。
皆と同じように一瞬の光が走った後、そこには美しく紅に染まった魔導書があった。
「これは劇的だな。驚いただろうが、間違いなく君の魔導書だ」
マグナルバは先とは異なりあきらかに口端を上げて楽しそうな表情をしている。
何がそんなに愉快なのだろうとナギサは思うのだが、ここでそんなことを流石に聞けず、大人しく席に戻る。
改めて魔導書を見れば魔石の色も淡い黄金色ではなく、燃えるような金色に変化していた。それに加え飾り鋲といえばよいのか、表紙の四隅や魔石の周りを金色の極細の線が美しい流線形をなしている。
隣に座るカエル―学舎での数少ない友人の一人である―が「すごくナギに似合っている魔導書だよ」とそっと耳打ちしてくれる。褒められて嬉しいのだが、何故だか妙に気恥ずかしい。
「カエルのだってすごいよ。魔石の輝き、まるでカエルの瞳のようだもの」
そうやって褒めてくれるカエルの魔導書も純白の皮表紙に中央にある魔石は澄み渡る青空の煌めきだ。
室内を見渡せば皆自身の魔導書に見入ったり、ナギサ達と同じように周りのものと見比べたりしている。
そんな柔らかなざわめきの中、マグナルバから魔導書を開いてみるようにと声がかかる。
「先ほどわたしが言った呪文が記述されているはずだ」
見れば確かに呪文が書かれている。何やら注釈付きで書かれている。それを読むと“魔導書の格納”といった内容だ。
「魔力を込めてその呪文を正しく唱えると、発動するから気を付けるように。注釈にもあるようにこれは魔導書を異層に格納する呪文だ。そして格納された状態で再度この呪文を唱えれば手元に魔導書が現れる。つまり、今日からこれは必要になる呪文である。故に、今から完璧に暗記したまえ、諸君」
ふんふんと呪文を眺めているとマグナルバがとんでもないことを口にする。今からこの呪文を暗記!? 呪文詠唱しなくても魔法は発動するのでは?
「マグナルバ先生、魔法って先ほど呪文詠唱なくても、っておっしゃっていましたよね?」
幸いにも誰かがナギサの疑問をぶつけてくれている。
「ああ、そうだ。だが君たちはまだ未熟だ。“異層に格納される魔導書”をイメージできるか? そしてそれを手元に取り出すことを。出来るのであればもちろん詠唱せずとも魔力を込めてイメージすればそれで事足りるが。ああ、あと、短縮詠唱という手もある。まずは無詠唱よりもこちらを目指すべきだな」
あっさりとナギサを含め皆の“無詠唱で大丈夫”という希望は打ち砕かれる。
「あの先生。先ほど今日から必要になると言われましたか?」
ナギサはもう一つ気になったことを確認する。
「今日から必要だろう? 常にその魔導書を持ち歩くつもりか? 自室に放置して、隠されたり燃やされたりしたらどうするつもりだ?」




