2‐03‐1 魔法学 授業初日
いよいよ魔法学初日である。
集まった生徒たちを前に、挨拶や前置きもそこそこに講義が始まる。
当面の講義は先日の大きな講義室ではなくマグナルバの部屋で行うという。
そしてこの講義で教えてもらえる呪文、魔導書に関する事柄は秘匿事項になるので“神祖契約”の対象になると改めて念をおされる。
誰かが「外で呪文を唱えられないではないですか」と、言われてみれば納得の質問をする。
「ここで授ける呪文はすべて呪文隠蔽の構文を織り込んである。この構文が組み込まれている呪文は、他者からは正しく聞き取れず、口の動きも読み取れない。故に他者へ教えたりするのではなく、使うのであれば問題ない。そもそも呪文など唱えずとも魔法は使えるのだからな」
とあっさり返された。
だが、先程の質問者は納得できないのか、
「ですが、詠唱なしでの術の行使はかなり難しいと聞いております。実際、皆さん唱えていらっしゃるではないですか」と質問を重ねる。
「ああ、それは未熟、もしくは癖だな。あと、かなり技量が必要だが見せかけとしての欺瞞詠唱だ。本来唱えている魔法を悟られない為にな」
なるほど。別に詠唱しなくてもいいんだ。少し気が軽くなった、などとナギサは一人安心感に浸っていたが、幾人かは呪文詠唱に拘っているのか釈然としない表情を見せている。
「魔法はイメージ。そこに技量と魔力量があれば叶うもの。例えば、こんな風に“蒼くて冷たい炎”を出すとか......」
言葉とともに現れたのは蒼い炎。マグナルバの指先でチラチラと揺れている。確かに今マグナルバは詠唱の素振りさえ見せなかった。
「この世界が許すものであれば必ずできる。許されているのに出来ないのは自分の何かが足りないだけ。その足りないものを知って、どう補うのか、どう組み立てるのか。
魔法で実現したいことを文法にしたがって構築したものが呪文だ。前提を満たして完璧に自分の中で理解しきれていれば詠唱は不要だ」
かなり高度なことをマグナルバは言っている。聞いている学生達は皆しんと静まり返ってしまっている。
「まぁ、そうは言ってもいきなり無詠唱で高度な魔法は使えないから安心しろ。短縮詠唱もあるし、魔導書を見ながら詠唱しても力量と魔力が伴えば魔法は使えるからな」
詠唱等の詳しいことは魔導書を渡してからにしようとマグナルバが話題を切り替える。
彼女が軽く手を振ると執務机の上に丁寧に布に包まれた魔導書とおぼしきものが現れた。
販売所で魔導書を選んだ後、確かあんな風に布できっちりと包み封印をした記憶がある。色違いの布包みがいくつも積み重なっている。
そしてそれらはやはり魔導書で、ここにいる皆が販売所で選んだものだった。
「手渡す前にこれだけは」とマグナルバからいくつかの説明がなされる。
この魔導書には既に一つ呪文が書き込まれている。それは地味ではあるが魔導書を持つうえでとても手助けとなる呪文であると。
この後、一人ずつ魔導書の魔力登録をマグナルバの前で行うことで、魔導書の所持者を固定化する。
魔力登録後はこのように他者が魔導書に何か影響を及ぼすようなことはできなくなり、持ち主のみが開くこと、書き込むことができる。
万一開いているときに他者がのぞき込んでも読み取ることもできなくなる。
魔導書への書き込みは自身の魔力を使うため、魔道具の魔石ペンが必要であるとも言われた。
他にも紛失や盗難時についての説明を受けたが、かなり面倒な話だった。
「今後講義で学舎より伝授される呪文は君達自身で魔導書に記入することになる。自身で魔法を構築中の走り書きや、自身が完成させた呪文、そういうものも当然書き込める。普通に魔法学以外でも覚書用のメモとしても利用できるぞ」
「ああ、それと。
魔導書に書かずとも身につけた魔法は自動的にこの魔導書に現れる。使えずとも先に暗記してしまえば勝手に魔導書に現れるので書く手間が省けて便利だぞ。それと君達の中にも既に魔法をいくつか使える者がいるが、魔力登録後に確認してみたまえ。わたしが贈った魔法の後に君達が既に使える魔法も記載されているはずだ」
なるほど。自分専用、他人は見たくても見れないノートみたいなものか。おまけに覚えた魔法は書かなくても勝手に記載されると。これは便利かも。
でも、今の話からすると、学舎のこの魔法学をとらなくても、どこかで魔法は教えてもらえるのか。それはどんな魔法なのかな? さっき魔法はイメージってマグナルバ自身が言っていた。独学やここで学んでいない魔導士から学ぶとか、他国では違う方法で学習する可能性もあるのだろうか。どこかで調べたいと思うが、今は目の前の講義である。
ナギサがあれこれ考えている間に、マグナルバの魔導書についての説明が一通り終わり、続けて魔力登録が始まった。




