2‐02‐4
(普段もこれくらい席がとりやすいといいのだけど)
昼食時の食堂は激混みである。学生、神官見習い、そして神官が一斉に食堂にやってくるため、空いている席を探すのにいつも苦労してしまう。
だが今は少し後ずらしした時間だからか、そこまでの混雑ではない。講義がある日も少しずらして食事をとれると気楽なのだがと、ナギサは思う。
今朝は予想外の呼び出し。この首飾りの件、まったく理解できていないけど、リュークがいないことには埒が明かない。
この護符、どういう意図なのだろう? 子供の日常使いにも違和感がない首飾りに変化してくれたので、人目を気にせず身につけていられるが、元の形状はかなり豪奢なものだった。
身に着けた時も、神祖契約の時とは違う何かに包まれた感があったが、これが護符としての機能なのだろうか。だが、一体何に対しての護りなのだろう。リュークと会話したのは二回だけ。たったそれだけでこの護符。その意図が本当に読めない。
うだうだと考えているナギサだったが、悩んでも仕方がないことよりも、今なんとかしないといけないことへと意識が向かう。
秋学期の履修届である。結局、午前中に終わらせられなかった。明日中に済ませればよいのだが、できれば今日中に終わらせたい。流石にギリギリで手続きするのは落ち着かない。
「ナギ、ここ、いい?」
突然の声に、見上げればセラスがトレーを手に立っていた。
「もちろん。セラスは今から休憩?」
「ええ。順調? 履修届は全部済ませた?」
セラスは席につくなり食前の祈りもそこそこに食事を始める。余程急いでいるのか物凄く食べる速度が早い。それでも合間合間に会話を振ってくる。といっても今日は学舎卒業生として、後輩の履修届の進捗が気になる、って感じのお姉さんモードだ。
錬金学と魔法陣学、魔法三学の残り二つの講義も無事に履修許可が下りたので、後は面接なしで履修できるものをいくつか決めるだけ。それ以外は中等科で学習するような講義も一通り終えておきたい。魔法三学の合間にそのあたりの講義を入れて、基礎鍛錬と馬術も履修できるようにしたいと、ナギサは考えていた。
そんなことをセラスにポツポツと説明する。
「そうね、体力はかなり重要だから基礎鍛錬は必須から外れても、とっておくのはいいわね。馬術も収穫祭で村を回るときにも役立つから、馬車の扱い込みで習っておくといいわよ」
「収穫祭? 収穫祭って神官が徴税を兼ねて各村を回る行事だよね? 学生に何か関係あるの?」
「学生は関係ないけれど、神官見習いになればすぐに関係するから」
そう、セラスがすごく急いでいるのはこの収穫祭が原因らしい。
収穫祭と言っているが、実際にその収穫の祭りを行うのは各村。大神殿側にとっては神官を派遣して徴税業務を行う“秋の巡回”が正式名称である。
そしてこの収穫祭、神官だけでは人手が足りない為、神官見習いも研修という名目で手伝わされる。そして今回はその研修参加者の一人としてセラスが選ばれたという。
約2~3週間ほど聖都イスを留守にするため、留守中のあちらこちらへの手回し、自身の旅支度、そしていつものお仕事と勉学、とやること満載で食事の時間ももったいない、と言いながら目の前でしっかり昼食をとっているのだが。
「まぁ、わたしのことはいいや。ナギ、受講枠が空いているなら、音楽もとっておくといいよ。ナギは魔法系で進むと思うから、儀礼式典は縁が薄くなるかもだけど。それでも神殿にいるからには突然式典参加で困ることもあるから」
(音楽...... 確かにあちらの世界でも教会であれ神社であれ、歌や舞、楽器って常に式典とセットであったような。でも、それって普通は声楽隊とか音楽隊のような専門部署を設けると思うのだけど。ここは違うのかな)
「専任ではないの? なんていうのかな部隊? 部署? みたいな」
「あると言えばあるわ。だけどね、その部署って役付き以外は兼任なのよ。そして、神官見習いは全員兼任扱い。だから戸惑わないためにも、ね」
セラスのこの物言い......
「セラス、大変だった?」
「ええ、とっても......」
(あ、しまった。セラスの目が遠くを見ている......)
「音楽の講義ってどんなことを習うの? 楽器? それとも歌?」
「歌も楽器も舞も、基本この3つね。神官見習いになるとどれも満遍なくできるようにって。で、神官になったらなったで出来て当然、ってことらしいわ。はぁ~」
(あぁ、セラスの肩が落ちている。これはなかなか厳しいかも。元の世界での音楽の嗜みなんて学校の授業のみ。習い事はしていなかったからピアノやバレエなんて基礎素養もないし。セラスの助言に従って受講しておいたほうがよいのかも)
「ん、セラスの助言、参考にする。ところでセラス、急いでいなかった?」
「あ、しまった! いや、大丈夫。うん、食事時間は確保してここにきたから。ナギに言っておかなきゃと思っていたことがもう一つあったわ」
「音楽以外にもとっておいたほうがいい講義があるとか?」
「違う違う。話は戻るけど、収穫祭。わたし、多分来週ぐらいに出発する。他の人達の準備ができ次第、ってことになっているの。ひょっとしたら挨拶なしで出かけるかもしれないから、予め伝えておこうと思っていたの」
収穫祭は“秋の巡回”という名称のとおり、街——聖都イスにとっては祭りではなく徴税の為に各村をまわる行事だ。神官が徴税役、そして各村に駐在する神官の交代要員もこの時一緒に行く。村に駐在する神官では手に負えない病人を診るために治療神官も同行する。そして雑務を行う神官見習い達もいる。
これだけでも大所帯だが、それを率いる班長格の神官とその補佐、そして護衛役の騎士達がそこに加わるのだ。
これらの人々の都合をやりくりし、各班——エリアごとに班を組む——ごとに準備が出来たら出発する。出立式——出発前の簡易な式典——のようなものはなく、それぞれいくつもの村をまわることもあり、何があってもいいように余裕を持って出立するのだそうだ。
「そういう話なら、先に言っておこうかな。気を付けて行ってきてください。それとお土産話、楽しみにしています!」
2025.03.07
修正を入れました。ネックレス表記を首飾り表記へと。あとは気になっている箇所に少し手を加えました。




