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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐02‐2 預かり物

 秋学期第一週 3日目 夜 神官長ウォーリの私室


 時間が欲しい。

 今回こそはなんとか終わらせたい。

 その為にはもっと力をつけなければ。


 焦る心をなんとか抑えながらウォーリは呪文の構築に頭を悩ませていた。

 前回はここで失敗した、その前のときは序盤の展開を間違えた、そのもっと前には......

 これまでの失敗を思い出し、今回の対策にしようとあれこれと状況をシミュレートする。

 だが、毎度毎度今回こそはと、これならばと繰り返し、未だ成功していない。


 失敗したならまた挑めばいいだけのこと。

 これまでも何度も繰り返してきたことだ。

 わかってはいる。

 だがこの繰り返しの中で様々な物事が擦り切れていく。表情が乏しくなった自身の顔などそのいい例だ。


 それに、いつまで待たせれば......




「ウォーリ、相変わらず熱心だね」


「こんな時間になんだ。ここは私室だぞ」


「ごめんよ。ちょっと急ぎでね」


 最近聞き馴染んだ声が唐突に部屋に響く。

 声がした方に顔を向ければ、声の主―リューク―が眉を垂らしてすまなそうな表情で立っていた。


(表情はそれだが、絶対に悪いと思っていないだろう。もう時間は深夜。こんな時間に何か厄介事か?)


 ウォーリは軽くため息をつくと、話を聞くべく魔導書をしまい、座らないかとリュークに声をかける。



「いや、すまない、時間がない。かなり急いでいてね」


「珍しいな。で、なんだ?」


「しばらく留守にする」


「それだけか? いつも何も言わずにおまえは出掛けるだろうが。戻りは?」


「収穫祭が終わってから、12の節には戻ってきたいと。できれは11の節には戻りたいのだが......」


 わざわざ言いに来るぐらいだから長期間かと思っていたがそうでもないようだ。だが、これくらいであればいつも何も言わずにフラッと出掛けていたと思うが。




「それと一つ頼みがある」


「頼み? それもまた珍しいな」


「これをナギサに渡して欲しい。そして必ず常に身につけているように伝えてほしいんだ」


「それはわたしに頼まずとも自分で渡せばよいだろう? それに明日ではダメなのか?」


「すぐに出立したい。僕が渡せれば一番なんだが、この時間にナギサの私室に行けないだろ?」


 一見すればリュークの表情は先とは異なり、いつもの飄々とした雰囲気に見える。だが、ウォーリから見れば、頼みごとをして申し訳ない、といった感情が珍しくも透けて見える。それとともに、かなり焦っていることも感じられる。


 一体何をそんなに焦っているのだろうか。リュークが焦って対応しなければならないことなど、そうそうあるものではない。


 ウォーリが問いただしても答えが返ってくることは期待できない。


 仕方がなくもその渡すものを預かることにする。


「ありがとう。助かるよ。これなんだが」


 リュークが差し出したのは小ぶりな魔封箱。装飾品等を納めるためによく使われる大きさだ。魔封箱を手に取ってみれば中はやはり装飾品なのであろう、重さを感じない。

 ウォーリがリュークに目で問うと、中を確認しろとばかりに肯かれた。


「これは見事な細工だな。護符か。それもひどく厳重な。ここまでの多重魔法でいったい何から彼女を護る必要があるんだ?」


「おいおいね。今はごめん、時間がないんだ」


 リュークは軽くうなずいたかと思うと、ウォーリの問いかけにに答えることなくすっとその場から消え去った。






この世界では1年は12節です。

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