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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐02‐1 魔導書

 秋学期第一週 3日目


 わたしの名前はフィデューシ。

 学舎の販売所を管理している神官だ。学舎では錬金を主に学び、神官見習いの期間も錬金に磨きをかけ、魔道具やポーション作成には自信がある。


 なのに、である。何故自分は販売所の管理者をしているのだろうか。


 学生達とやりとりを行うのは基本神官見習い達でわたしではない。わたしの仕事はその彼らを管理し、商品の管理を行うことである。であれば、わたしでなくてもよいのではないか? わたしが得意とする魔道具作成やポーション作成部門への配属こそ適材適所というものであろう。


 まぁ、愚痴を言ったところで何か変わるわけでもなく、自分がみじめになるだけだ。神官長も無意味にこのようなことはなさるまい。


 今日も神官見習い達の報告を聞き、出入り商人達と商品手配の打ち合わせ。学期の切り替わりであるこの時期は講義で必要なものを求める学生達がひっきりなしに訪れるため非常に忙しい。毎回必要なものは決まっているため、予め商人達には手配済みでモノは十分に用意してある。それでも予想外のことは常に起こる為、この時期はいつも以上に気をつかうのだ。


「フィデューシ様、ご依頼の品を持ってまいりました」

「リュークさん...... それ、やめてくださいって言いましたよね。“様”なし、“さん”か呼び捨てで、って。わたしはちゃんとリューク“さん”って言ってますよ!」


 販売所の隅で壁に背を預けて考え事をしていた自分に声がかかる。


 その声に振り向けば、1人の商人が近づいてくる。歩みとともにさらりと揺れる金の髪、いたずらっぽく輝く金の瞳、その顔の造形も均整がとれ、服装さえ整えれば他国の貴公子と紹介されたら信じてしまいそうだ。


 ああ、学生や神官見習い達の動きが止まった。無理もない。この容姿だ。わたしですらはじめて会ったときは思わず凝視してしまった。こんなに完璧な容姿の人間がこの世に居るのかと。


 どこぞの国の貴族の御曹司かと問えばただの商人だと自己紹介を受けた。だが、彼の容姿と知識、クラーヴィア様や神官長との近さを見れば“リューク様”と最上位の礼を尽くさねばならない気がしてしまう。


 しかし肝心のリュークは非常に腰が低く、こちらを上位のものとして扱おうとする。年齢的には同世代に見えるのだが、交友関係やその物腰、どうみてもリュークは上流階級に属するように思えるのだが。


「はは、ごめんごめん。頼まれていた商品は後方へ納品済み。はい、これが納品書。ついでに魔導書が何冊か手に入ったから持ってきたけど、どうかな?」


 ああ、まったく悪びれていない。まぁいい。魔導書か、この時期というか昨日魔法学の説明会があったな。選択肢が多いほうが学生達にも良いだろう。


「ありがたく魔導書も受け取るよ」


 リュークから納品書とともに魔導書を受け取る。魔導書を確認しながらリュークと話していると、手伝いの神官見習いが声をかけてきた。魔導書を選びに学生達がやってきたらしい。


「リュークさん、悪い。続きはまた。支払いは財務から連絡がいくはずだ」

「ああ、また後で立ち寄るから、必要なものがあればまとめておいてくれ」



 △▼△▼△▼



 まずは二人、本日の第一陣は終了か。

 今期の受講者は何人いるのか後で確認しておくか。用意した魔導書は数としては足りるだろうが、性能は変わらずとも見かけというか見た目の好みがあるからなぁ。本当にリュークがタイミングよく魔導書を持ってきてくれて助かった。


 リュークが持ち込んだ魔導書。相変わらず良い品を選んでくる。つい魔道具師として見てしまう。どれも悔しく感じる出来なのだが、リュークはいったいどこから仕入れているのだろう。以前尋ねた時は上手くはぐらかされてしまったが。

 まぁ、大切な取引先はあかしたくない、ってことだろうが。


 あれこれ考えながら魔導書を検品していると再び声がかかる。


 魔導書を並べてある小部屋へ再び赴くと、一人の少女が並べられた魔導書を見ている。


 確かあの学生は今年の春学期入学だったはず。この秋から魔法学を履修できるとはかなり優秀ではないか。


「ナギサさん、で合っているよね。ここにある魔導書から君が気に入ったものをわたしに教えてくれればいい。どれも物としては同じ。装丁の違いがあるだけ、と考えればいい。あとの手続きはこちらで行い魔法学の講義に間に合わせるから」


 机上に並んだ何冊もの魔導書の中に、リュークが持ち込んだ魔導書も追加で並べておく。さて、彼女はどれを選ぶか気になるところだが。


「あの、本当にどれを選んでもよろしいのですか?」


「どれを選んでも問題ないよ。マグナルバ先生に言われたと思うけど、これは学舎から魔法学を学ぶものへ与えられるものだから費用のことは気にしなくていい。人によっては一生使うものとなるから、君が気に入ったものを選ぶことをお勧めするよ」


「…皆さんはどんな基準で選んでいるのでしょうか?」


「選ぶ基準か。人それぞれ、というのがわたしの感想だが。まぁ、見ている限りは魔導士を目指しているものは重厚感、治療神官を目指しているものは白い装丁のものを選ぶ傾向があるね。ただ、一目見て気に入った、って直感で選んでいる学生もそれなりにいるよ」


「なるほど。興味深いです。あの、その今置かれた魔導書。表紙の材質って皮ではないですよね?」


「ああ、これか。先ほど入荷してね。素材は石。かなり珍しい石を使っているけど、色がかなり地味だよね」


 ナギサが気にかけた魔導書は先ほどリュークから受け取ったものだ。スレートグレーといえばいいのか、濃い灰色の石を表紙に使用し、中央にある魔石の色は淡い金色、という至ってシンプルな装丁だ。リュークが持ち込んだものはどれも地味なのだが、他のは表紙に皮を使っている。だが、どれも魔道具師としては悔しくなるほどの技術で作られた特級品だ。


 ナギサの様子を窺っていると、余程気になるのかこの石の表紙を凝視している。


「これにするかい?」

「―そう、ですね。この子に呼ばれている気がするのです。変ですよね」

 見れば何故か自嘲気味にナギサは微笑んでいる。


「そういう直感めいたものは大切にしたほうがいいとわたしは思うよ。じゃぁ、手続きをするけどいいかな?」

 ナギサが肯くのを確認し、マグナルバに届けるための手続きに入る。




「最後にここに指輪をかざしてくれるかな。これで君以外が封を開けることができない。この状態で先生に渡すから安心してほしい」

「ありがとうございます。あの、他に魔導学の講義であらかじめ用意しておいたほうが良いものってありますか?」

「う~ん、慌てて揃えるようなものはないかな。それに必要なものは大体講義室に揃っていると思うよ」

 この後重ねてナギサから礼を言われ、丁寧な挨拶の後ナギサは戻っていった。


 ナギサを見送った後落ち着く暇もなく次の魔導書選びの学生がまたやって来た。

 この学生が選択肢としているものは“いかにも魔導書”といった重厚感のあるタイプだ。その重厚感タイプの中から瞳の色と同じ魔石が嵌め込まれているものに決めたようだ。

 何気なく選んだ基準を聞いてみたところ『偉大な魔導士が持っていそう』と思った通りの返答だった。


『魔導書に呼ばれる』か。面白いな。それはまるで魔導書が既に意志を持っているようではないか。





魔導書って憧れます。勝手なイメージで中世頃の写本が頭に浮かんでしまいます。

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