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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐01‐3 神祖契約

 午後、夕方近く。

 魔法学の履修説明の後、ナギサはマグナルバの部屋を訪ねた。

 が、受講希望者が既に順番待ちをしており、午後からそれも夕方近くに出直してくるようにと告げられた。




 再びマグナルバの部屋を訪れると今回はすんなりと中へ通される。


 部屋の中にはマグナルバのみ。彼女が座るソファーの前に同じようなソファーが置いてある。定例の名乗りと挨拶の後、促されるままにナギサはマグナルバの正面へと座る。


「まずは適正について再度確認させてもらおう。両手を出しなさい」

 やはり促されるままに両手を差し出せば、マグナルバがそっと両手で包み込む。


「魔力量ランクは問題ないようだな。コーマも技量は充分。必須講義も薬草学の後半以外は終えていると。受講希望ということで、このまま“神祖契約”をすすめていくが構わないか?」

 質問の形をとっているが、この状態で否と言えるのかと思うのだが、もとより受講するつもりなので大人しく肯いておく。


「今回の神祖契約内容は、‘口外を禁じる’と私たち教師が言ったことは口外したり書き伝えることができない。できないがそれらを行おうとする行動を繰り返した場合、魔法は二度と使えなくなる。当然魔法の派生形態である錬金・魔法陣なども作成や行使はできないと思ってほしい。この効力は聖国以外の国でも有効なものだ。この契約を反故にする方法は上位契約を結ぶことのみ。契約内容の確認は......」

 マグナルバは神祖契約についての説明を手短に終えるとその両手をナギサの両手から両頬へと移す。


「学舎入学時の“神殿契約”もそうだが、本人が内容を納得し受け入れない場合は成立しない。このため、今日この“神祖契約”が成立した場合のみ魔法学の履修が認められることになると理解してくれ」


 ナギサが頷くとマグナルバがまとう空気が変わる。


「ナギサ、わたしと目を合わせて。

 ヴィルディステ聖国、魔導士長たるマグナルバが問う。大いなる(あるじ)に誓って、ナギサ、あなたはこの契約を了承しますか?」

「はい、了承いたします」


 マグナルバの瞳は紅い。ナギサと同じ紅である。自分と同じ色の瞳をはじめてこんなにしっかりと見つめることができる不思議さに戸惑いながらも見つめていると、その紅い瞳の中心が炎が激しく燃えた時のように白く変わる。


 そして、己の体全体に金糸銀糸で編まれた網をかけられたようなイメージが浮かぶ。

 実際なにかに絡めとられる窮屈さに驚いていると、突然景色が変わった。







(――ここって)


 ナギサは薄ぼんやりとした空間にいた。


 見覚えがあるといっていいのだろうか、ここはあの最初の場所“万象の狭間”のように思える。

 ひょっとしてまた振り出しに戻ってしまったのか、急いで戻らなければ、と焦っていると、


 《案ずるな。その身は精神体》


 《契約に引きずられたのであろう》


 《すぐにかの世界へ戻れよう》


 頭の中に声が響く。あの時と同じだ。一方的に言うだけ言ってそのまま放置。今回もそうなりそうだと思い至り、慌てて声をあげる。


「万象の(あるじ)様、ありがとうございます。今、わたし生きています。ちゃんと生きている気がしています」


 なんとか感謝の気持ちを口にできたと安堵していると、再び景色が歪みだす。


 《ただ人として終えるかと思っていたが》


 《なかなか稀有なものをひきよせたようだ》


 《よかろう、我の加護をそなたに与えようぞ》


 ナギサの精神体が万象の狭間から消えていくのを感じながら、万象の主は一人呟くのであった。






(――戻っている)


 気が付けば目の前にはマグナルバの紅い瞳があった。ほんとうに一瞬だけ万象の狭間に引きずられたようだ。

 いまだ契約の儀式は続いている。マグナルバの両手から伝わる魔力はまだ消えていない。紅い瞳の中心の白い炎もまだ激しくうごめいている。


 再びあの空間を目にするとは思っていなかった。万象の主の言葉通りであれば、実際は精神体が引っ張られただけのようだが、その言葉を聞くまでは本当に焦ったし悲しくもなった。せっかくこの世界で居場所が作れてきているのにと。


 そういえば、最後に主が何か言っていた気がするけど聞き取れなかった。あの方は誰に対してもあんなふうなのだろうか。なんだか会話が成り立たないというか、そもそも会話をする気があるのだろうか。流石にもう会うことはないであろうが、なんとなく気になって万象の主のことをあれこれと想像してしまう。




「契約は無事完了だ。何か体に異常は出ていないか?」


 両頬に添えられていた手が離され、合わせていた瞳も伏せられた。マグナルバの言葉に自身の状態を確認するが特に問題ないようだ。引きずられる前に感じた網で絡めとられたような窮屈さも消えている。


「大丈夫、のようです?」


「自分自身のことなのに、何故疑問形なのだ? 本当に大丈夫か?」


 マグナルバは面白がるようにナギサに問いかけてくる。先ほどまでの真剣な表情と違い少しからかいが入っているようにも見える。


 その問いかけにマグナルバへ目を向けると、


(あれ?)


 何か今見えたような気がしたのだが......

 恐らく怪訝な表情をしたのであろう、再度体に異常がないか問われるが、重ねて問題ないと伝えると、再び表情を切り替えたマグナルバがこの後の予定などを話し出す。


 加えて“魔導書”を学舎の販売所で選んでくるようにとも。選んだ“魔導書”は初回の講義でマグナルバより渡されることになるらしい。


「あの、“魔導書”の費用は? 魔道具なのでかなり高価なものだと思うのですが」


「ああ、これも学舎でもつ。あえて自分で用意するという富裕層の子女もまれにいるがな。ここで用意したものが気に入らなければそれは後日置き換え処理をすればよいだけだ」


 “神祖契約”に“魔導書”。どちらもかなり高価なもののはず。それを魔法学を学ぶものには分け隔てなく用意するとは驚きだ。そもそも学舎の費用だって全学生無料のはず。いったいここの運営はどうなっているのだろう。




「最後にひとつ。君が魔法を学ぶ目的は何だ? これはわたしの単純な興味ゆえ、畏まって答えなくてもいいぞ」


 わたしが魔法を学ぶ理由。なんだろう?


 考えたこともなかったが、問われてみれば不思議なくらいに魔法を学ぶことに抵抗を持たずにいる。向こうの世界では“魔女”と呼ばれ、使えない魔法を使ってみろと言われ、いろいろ辛かった。あまりいい思い出がない“魔法”なのだが。


 今はただ知りたい、学んでみたい、使ってみたい、ただそれだけ。目的じみたものなど何もない。

 だから、

「―─そこに魔法があるから、だと思います」


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