2‐01‐2 魔法学履修希望
秋学期二日目。
今週中に学生達は秋学期の履修登録を終えなければならない。希望すれば特に問題なく受講できる講義もあれば、人気がありすぎて抽選のものもある。また、条件を満たしたうえで面接が必要なものもあり、なかなか思うようにはいかない学生も多い。
春学期に入学したナギサにとっては初めて自身で希望する講義が履修できる。入学最初の学期は必須講義で埋め尽くされていたからだ。
そして今ナギサが今いるのは魔法学の履修希望者が集まる部屋。この講義は条件ありの面接あり、希望者多し、というかなり条件が激しい講義である。
広い部屋の中、多くの希望者が集められている。その正面に立つ女性が説明を行っている。
彼女の名前はマグナルバ。魔法学の講師である。燃えるような紅い髪色に紅い瞳、以前ナギサが見かけて目で追ってしまった女性神官だ。
「これから半年間の講義では基本的に魔法の構文を中心に学んでもらう。故にこの講義で私たちから授ける魔法は極限られたもの。それらの構文の理解と実践、その繰り返しだ。
最初は防御魔法から君たちには学んでもらう。平行して治療魔法の習得も行う。それ以外の属性魔法や攻撃魔法などはそれらが満足いくものになってからとなる」
「防御......」
「え、構文が中心......」
「マグナルバ先生、わたしは騎士を希望しています。コーマの身体強化で防御は足りると思うのですが、必要でしょうか?」
マグナルバの言葉に戸惑いの言葉がこぼれる。
「毎回君たちの反応はかわらんな。そこの騎士希望の君。魔獣に襲われ腕をかまれたがコーマのおかげで無事なのと、防御魔法のおかげでそもそも魔獣を寄せ付けないのと、どちらがよい?」
マグナルバは騎士を希望する少年に問いかける。
「騎士であれば守るものがあるはずだ。自分ひとり身体強化で無事なのと、横にいるものも一緒に守れるのとではどちらがよい? そして治療神官が到着するまで騎士自身が少しでも治療魔法を使えたら、と考えないか?」
質問した学生は言葉につまり、他にも何か言いたげだった者たちも黙り込む。
「治療神官もしかり。いつも神殿内での治療ばかりではない。遠征についていったとき、治療中に襲われたらどうする? わたしはこの神殿に属するものとして君たちが良き人であることを嬉しくおもっている。だからこそ、人を助け、助けた君たちが傷ついてはいけないのだ。君たちも無傷でいてこそ、なのだから。故にまずは防御魔法と治療魔法を完璧に学んでもらいたい」
マグナルバが静かに学生達を見渡す。ナギサはなるほどと思いながらマグナルバの話を聞いていたが、講義室から立ち去る気配もあった。
「もう一つ。履修をする者には講義開始までに必ず“神祖契約”をしてもらう」
静まっていた部屋の中が再びざわつき始める。言われた内容に特に驚くことなく平静なものもいるが、大半のものたちは一様に驚きあらわにしていた。
「講義で学ぶことを口外しないために。魔法を使うなというわけではない。ここで詳細は伝えれないが秘匿を要するものがとても多いからな」
ナギサはマグナルバの言葉に驚くよりも、部屋内で驚き慌てている学生達に戸惑う。彼ら彼女らは何に驚いているのか。恐らく聞き覚えのない“神祖契約”という言葉に慌てているのであろうことはなんとなく想像がつくのだが、この契約が意味することをナギサは生憎と知らない。
「ナギ、ひょっとして“神祖契約”を知らない?」
「えっ、ええ。皆さんが何に動揺されているのかわからないのですが」
隣の席から声がかかる。同期入学で仲良くなった友人達だ。彼らもこの魔法学を履修希望している。
「契約魔法の中でも最上位。どの国へ行っても有効。かなり縛りが厳しい契約魔法よ」
「そうそう。契約を違えた時の罰則もかなり重たいものが設定できるの」
「だけど、これって確かすごくお金がかかったと思うけど......」
次々とナギサが知らないことを告げられる。
学舎入学手続きで行った神殿契約を思い出すが、その上位版なのだろうか。
「マグナルバ先生! 罰則はどのようなものですか? それから費用は学生が出さないといけないのでしょうか?」
先ほど騎士希望と言っていた学生が再び声をあげる。
「詳細は契約時に伝える。秘匿せよと言われた内容を、口にしようとしたり、書面などで伝えようとしても、声は出ず、手は動かなくなる。それが度重なると、魔法が二度と使えなくなり、神官資格を失う。このことだけは伝えておこう。費用は学舎が負担する。
講義の方針、“神祖契約”、これらを踏まえて魔法学を履修希望するものは今週中に手続きを終えてほしい。手続きはわたしの部屋で行う。今日これからでも希望するものは来るといい」
部屋の中が再びざわつく。そんな学生達を軽く見渡すとマグナルバは伝えるべきことは伝えたという表情で部屋を出ていった。
マグナルバの話を静かに聞いていた何人かがそのあとに続いて出ていく。学生と神官のようだが、神官は助手か何かだろうか?
「ねぇ、どうする?」
「受講希望は変わらない。みんなは?」
「わたしは今晩考える。属性魔法を最初に習いたいんだよ」
マグナルバが出ていくと友人達も騒ぎ出す。
「で、ナギは?」
「もちろん、受講する!」




