2‐01‐1 秋学期の始まり
秋学期初日。
学舎では半年に一度の健康診断が行われている。
体重に身長、視力や体調、元世界でも普通に診断項目としてあったもの。この世界でナギサは療養棟にいる時に何度も調べられた。
ここ学舎では学生達は春と秋、学期の初日に全員が健康診断を受けなければならない。ただこの健康診断、元世界と異なる点がある。魔力検査が診断項目にあるのだ。
この魔力検査、まずは魔力量の測定から始まる。
この世界では命あるものすべてが魔力を持つ。だが、当然その量は個人差・個体差がある。人属に限定すれば、訓練によって魔力量を増やしていくのはこの世界の常識だ。だが、多くの者はコーマの初級を扱える程度で壁に突き当たる。理論上、魔力に絶対的な上限はないと言われているものの、ある段階から先は一生をかけても誤差ほどしか増えなくなるため、そこが実質的な限界だと考えられているのだ。
そして、魔法が関わる講義は、ある程度の魔力量がないと受講できない。この為受講したくても魔力量が足りず許可が下りない学生は、半年間魔力量を増やすべくより一層訓練に勤しんでいた。
さて、魔力検査には魔力量以外にもう一つ調べるものがある。属性である。生まれた時点では、属性持ちの者はいない。これは神が定めた理で、絶対らしい。
それならば、火や水といった属性魔法を使うには、どうすればよいのか。
方法は二つ。
一つ目は、ひたすら属性魔法の呪文詠唱を行い自分の体に覚えさせる。これを際限なく繰り返すことで、極めて弱い属性魔法が使えるようになる。その後もひたすら練習である。努力の賜物で手に入れるわけだが、非常に効率が悪い。稀にとても早く属性が発現する者もいるが、大半は発現(習得)するまで何年もかかる。
二つ目は、神々の加護を賜ること。ただし、神々は気まぐれである。加護を賜っても、それが魔力属性であるとは限らない。しかし、そうは言っても最初のきっかけとして、神の助力で属性を持てれば、それはとても有利なのである。
そのような理由から、この健康診断は、半年間の成果を確認できる大切な機会なのである。
これらの結果は各々の指輪を通して記録される。
この指輪は、学舎に入学されるときに支給される魔道具だ。見かけはシンプルな銀色の指輪なのだが、この健康診断の結果の記録に用いたり、元世界でいう学生証と大神殿内でのIDカードの機能を持っている。
故に、常に身に着けている必要がある。学舎や学舎寮の門は当然であるが、食堂やその他神殿内の各施設も、利用できるのか入ってもよいのか、それらはすべてこの指輪を通して判断されている。どのような技術なのか、ナギサにはまったくわからないのだが。
例えば、ナギサの洗濯場の手伝いでもこの指輪が役立っている。
ナギサが洗濯場から正式に派遣されていることを指輪が証明してくれるため、本来学生では入れない場所への立ち入りも許可されているのだ。
さて、ナギサも健康診断を受けるため、この場にいるわけである。
既に身長や体重などの検査は済ませた。結果は、療養棟を出た頃より、身長が伸びていた。スカート丈が心持ち短くなっている気がしたのは気のせいではなかったらしい。体重は変わらずで、この辺りの体質は元世界の頃と変わらない。身長ばかり伸びて、祖母にひどく心配されていたことが少し懐かしい。
残るは魔力関連だ。
魔力測定は初めて行う。どのような方法で行うのかと、内心ワクワクしていた。待ち合いから呼ばれて行った先は、白い布で区切られた、小さなブース状の部屋が並んだ場所。中に入れば、椅子に座らされ、手渡された棒をしっかり握れとだけ指示された。見た目はドラムのスティックを握っているだけである。
が、しばらくすると、測定された内容が眼前の空間に浮かぶように表示された。空中に浮かぶ透明のモニターと言えばいいのか。
“魔力量:ランク10超え 属性:あり”
事前に確認した話では、魔法学履修に必要なのは、ランク10。とりあえず魔力量は問題なさそうだ。
だが、属性の表示内容が聞いていたものと違う。聞いていた話では、火属性あり、水属性あり、といった表示になるはず。これはどういうことなのか。立ち合いの神官も不思議そうな表情を一瞬見せたが「こういうこともあるでしょう」と、何故か軽く流されてしまった。
一抹の不安は残るのだが、魔法学の履修条件は満たせたと思う。これで明日の履修希望には行けそうだ。
ここでの魔力量検査はランク10以上はひとまとめに ランク10超え で表される物語上の設定です。
目的が、魔法学や錬金学等の受講資格を満たすほど魔力量があるかどうかを調べることだからです。
正確な魔力量は個人情報=弱点なので、この魔力測定では測らないのです。




