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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第一章】

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34/298

1‐12‐2 それぞれが思うこと 2



 △▼ セラス


 明日から10の節が始まる。

 また新しい学生達が入ってくる。


 セラスが新入学の学生たちに“コーマの技”を教えるようになって何度目の新入生であろう。神官見習いであるセラスが講師をすることは本来ありえない。しかし、コーマの技を担当している神官が『あなたの為になります。上級すら終えそうな貴方なら問題ありませんよ』と、神官長はじめ周りを説得し、特例としてセラスが講師となることを押し通してしまった。

 以来、学舎で教鞭をとっているのだが......。


——このままだと追い抜かれてしまうかも。


 セラスはここ最近のナギサの成長ぶりを思い返す。

 コーマの技を全く知らず、魔力の扱いさえ知らなかったナギサだが、たったひと節ほどでコーマの技を中級レベルにまで上達させていた。


 学舎での必須講義では、セラスが教える範囲は中級まで。5の節から編入した講義時間内では、ナギサは一人自習状態で、上級を目指してコーマの技に磨きをかけていた。一応自習用にと上級の書を渡してあるのだが、魔法学の知識が必要な内容が多いためか、わからない箇所が多いらしい。書の序盤にある魔力をより上げる方法を試しながら、中級までのコーマの技を極めると意気込んでいた。


 セラス自身、“見習い”であるにも関わらず講師を務めている時点で他を抜きん出ているのだが、ナギサはそんなセラスを追い抜かんばかりの勢いで技を磨いている。これで秋学期からナギサが魔法学を履修すれば、コーマの技も益々磨きがかかることは簡単に想像できる。


——ちょっと自信なくすよなぁ......。


 嫉妬、も少しあるのかもしれない。が、それよりもナギサに追い抜かれ、自分の居場所がを奪われるような、漠然とした恐怖が消えない。




 それに、ナギサ自身は気づいていないようだが、神官長はかなりナギサに肩入れしている。


『ナギサが記憶喪失であることは主だった者には周知させている。ただし、ナギサが神殿内で倒れていたことを知るのは一部のみ。決して口外しないように』


 この言葉を聞いた時、なんと返せばいいのか判断に困った。その後、神官長は何もなかったかのようにその場を去ったが、言われた意味をどうとればいいのか。神殿内で倒れていた、しかも記憶を失って。何らかの騒動が起きているのではと考えたが、神殿内も聖国内でもここ最近大きな問題が起きているとは聞いていない。その前触れとも考えられるけれど、神官長の落ち着きようはそれとも違う気がする。

 それに、そのようなことを何故自分に伝えるのか? 別に記憶喪失であることだけ知っていれば問題ないと思うのだが。


 ナギサをよく知るようになってみれば、何か物騒なことを考えたり実行したりする気配どころか、思考すらしない性格なのがよく分かった。もちろん彼女自身が望まずとも、騒動に巻き込まれている可能性があるのだが、そんな気配はまったく感じられない。

 それに、もうそんなことどうでもいいと思う程度にはナギサのことが気に入っている。年齢差はあるが、妙に大人びている彼女とは、友人として永く共にありたいとさえ思っている。


 が、そうは言ってもナギサの力。この秋からは魔法学の講義も始まる。きっと自分を追い越すのはあっという間であろう。過去に騒動に巻き込まれていなくても今後はわからない。自分自身がそうであったように、立場が弱いながら力を持つものは狙われやすい。


——彼女を守るためだ。


 間者のようで気に入らないけれど、神官長との連絡は続けないといけないようである。





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