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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐12‐1 12の節 第二週

 

 早朝からの呼び出しである。

 以前、トランキリタに呼び出された時のことが頭に過る。続けて同じようなことはないだろうとフルフルと頭を振って気持ちを切り替える。


「トランキリタ先生。ナギサです。お呼びとのことですが」


 入室の許可の声があり、ナギサが中に入ると、


(── やっぱりか)


 目の前には神官長ウォーリ、そしてその脇に控えるトランキリタの姿があった。


「また“わたし”で申し訳ないな」


 表情にそれほど出ていたのだろうか? 神官長が眼鏡を軽く押さえながら、半眼気味にナギサを見下ろしている。


「いえ、そのようなことは。ただ、トランキリタ先生からの呼び出しと聞いておりましたので」


 正直に“またお前か”などと言えるはずもなく、ナギサは静かに礼の姿勢をとる。


「ああ、礼はとらずともよい。そこの椅子に座り給え。トランキリタ先生も座ってください」


 見ればトランキリタとナギサの近くには椅子が用意されていた。トランキリタと神官長が座るのを確認し、ナギサも腰をおろす。


「今日、ナギサ君を呼んだのはご両親の件だ。トランキリタ先生には君の保護者代理を務めてもらっているので、一緒に聞いていただきたい」


 神官長はそう前置きをすると、先日参事会で了承を得たことも交えながら説明をしてくれた。

 《女神》から伝えられた行商人夫婦の確認が取れたという。やはり《女神》が示した場所で盗賊に襲われ、その近くの村で亡くなっている。その時盗賊対応にあたった騎士達にも確認がとれている。

 ナギサの両親がはっきりしたことで身元は保証されたのだが、孤児であることは変わりない。この為、トランキリタが引き続き身元引受人─保護者となることも決まった。


「ああ、それから。外出の許可を出そう。神殿外、街の外への外出は基本自由だ」


「まぁ、よかったわね、ナギサさん。モリス達も喜びそうね」


 トランキリタが目尻をさげて喜んでくれる。その言葉に、以前のモリスのことが思い出されて、若干恐縮した気分になってしまう。だが、街に出れることは素直に嬉しい。今までモリスやカエル達に誘われても断ることしかできなかったのだから。


 元の世界で友人と一緒に街で遊ぶ、そんなことはほとんどなかった。数少ない友人との外出記憶を辿っても、髪色と瞳の色のことで頭がいっぱいで、楽しんだ記憶がまったくない。そもそも友人といってもクラスメイト。学校や学年が変わるたびに新しく友人を作ろうとする動きの一環で誘われて、といった程度だ。そのうちナギサが一人浮いてしまい、気づけば周りに人はいないの繰り返しだった。


 でも今は髪色も瞳の色も気にすることなく友人と呼べる人達が周りにいる。そんな彼ら彼女らに誘われて一緒に行けないことは本当に残念だったので、この外出許可はとても有難くも嬉しい。


「ありがとうございます」


 ナギサは椅子から立ち上がると深々と頭を下げた。




 △▼


(驚いたな)


 ウォーリはナギサが示す感謝の態度が意外だった。普段から彼女は年齢の割に落ち着いて、誰に対しても冷静に受け答えしている印象が強い。それがここまで素直に感謝の意を伝えられるとは。

 だが、相変わらず子供の喜び方というよりも、大人の喜び方だ。10、11歳といった少女がとる態度ではない。記憶を失っているというが、行商人の子供がいったいどこでこういった礼儀作法や教育を受けたのか。他国の宮廷作法ほどではないが、この神殿内であれば十分通じる礼儀は弁えている。


 まぁそれよりも、これだけ素直に喜んでもらえるのであれば、無理を通したことも悪くはなかったと、ウォーリは先日のやり取りを思い出す。




『神官長! 本気か? あのような報告だけであの子供の監視を解くというのは』


 定例の参事会が終わった後、戻ろうとするウォーリの背を追いかける声があった。参事の中でも古参の神官だ。クラーヴィアの説明やそもそものナギサの現れ方から疑っている。今回も《女神》が介入していることをクラーヴィアが説明し、その裏付けとして騎士からの報告書も説明したのだが納得は出来なかったようだ。クラーヴィアが話をする間、不満というか異議を申し立てたいという雰囲気をかなり強く放っていた。確か他にも何人かそのような気配があったはず。代表として古参の彼が言立てにきたのだろう。


『身元もはっきりしました。ごくごく普通の孤児扱いで問題ないはずですが?』


『《女神》様が介入なされたという話だが、それは本当なのか? 大神殿内に突然現れた子供だぞ。どこかの間諜である可能性はないのか? そちらの件は確認がとれたのか!』


『年長の神官であるあなた様が、《女神》様のお言葉を疑うと?』


『! 《女神》様を疑うなど。ただ、今回の件はクラーヴィア様の言葉が唯一の証拠のようなもの。実際に《女神》様からのお言葉なのか』


『それはそれでクラーヴィア様を疑っていらっしゃると。どちらも不敬ではありませんか?』


『クラーヴィア様が《女神》様を騙るものに騙されている可能性もあるのでは?』


『どうしてそこまで“ただの子供”を気になされる? 他の孤児達と同様の扱いではないですか。これまでの素行をみていても何も問題はなく、どちらかといえば優秀な子供だとわたしは考えますが』


『油断させているだけとは考えないのか?』


『では、油断させてそれからどう動くと。“他国を攻めてはならぬ”これはあるじことわり。子供ができることなど限られましょう。それに先ほどの参事会でも決まったことです』


『しかし......』




(思い出したら不愉快な気分になってきたな)


 ウォーリはこっそりため息をつき、気持ちを切り替える。


「ご両親についてだが、詳細はクラーヴィア様へ報告をあげているので、そのうち声がかかるであろう。それから聞いていると思うが、雪の間は生徒のみで街の外には出れないが......」


「ええ、大丈夫です! ありがとうございます、神官長。皆に話しても問題ありませんか?」


 さえぎるようにナギサが勢い込んで問いかけてくる。

 余程外出許可が嬉しかったのか。そうであれば、もう少し早く許可を出せばよかったかもしれないが、その根拠を示さないと煩い奴らがいるから仕方がない。

 ウォーリはナギサの様子に驚きながら「ああ、構わない。今日はこのことを二人に伝えたかっただけだ」とナギサに告げる。


「では、これで失礼します!」


 再び深く頭を下げたかと思うと、すぐさま部屋からナギサが飛び出していった。




ナギサの物語にお付き合いいただいてありがとうございます。

なんと100話目です!

序盤、一話あたりの文字数が少なかったこともありますが、ここまで続けてこれたのは読んでくださる皆さまがいてのこと。

ブクマや評価、とてもありがたく、かつ励みになっております。


やっと《女神》のお手伝い内容が判明したような状況ですが、ナギサに幸せになってほしい自分としては頑張って続きを書いていきますので、ゆるりとこの先もお付き合いいただければ幸いです。


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