無限の雨男
青年は、頭を垂れて我が家へと足を運んだ。どうして、自分が行く場所、行く場所に雨が降るのだろうか。なぜ、神様は僕をこんな風に創ったのだろうか。青年は、泣いた。悔しくて堪らない。確かに、自分が行く所に雨が振るのは認める。それに、なぜだか自分の父もそうだったらしい。しかし、青年が産まれてからと言うもの雨男ではなくなった、と父は言っていた。
「そう言えば、父さんの父もそのようなことを言っていたなあ」
青年はまだ自分は結婚していないことに溜息を吐いた。
「そんなのないって。たまたまだよ、たまたま」
初めて青年に会う人は皆一様にそう言うが、すぐにそうは言わなくなる。本当に雨が降るからである。そういう人生がずっと続いてから、とうとう青年は我慢できなくなった。
「僕は、もう日本にいるのは嫌だ。どこかに行こう。そう、それこそ文明の発達していない国へ。そこでなら雨が降っても文句を言われるようなことはないだろう」
青年は、日本を出た。
「さようなら、日本」
青年は、二度とそこへ戻る気はなかった。もう沢山だ。
言葉こそ通じないが、青年は原住民と打ち解けあった。原住民達は、青年を受け入れたがった。その土地で雨が降ることは珍しく、やはりここ最近も日照りが続いているのだから、当然のことだろう。
もちろん、青年が来てからというもの奇跡の恵みとまで言われた雨が、普通に降るようになった。いつしか青年は生き神として崇められ、その地に住む原住民の統率者の娘と結婚した。
一方その頃の日本では日照りが続き、青年の帰還をあらゆるメディアを通して報道した。しかし、青年がそのような情報を受け取れるはずがない。なんといっても、彼の住む国にはテレビもなければ、新聞もないのだから。
あれから、五年。青年は、子供を授かった。かわいらしい男の赤子だ。すると、青年は雨男ではなくなった。代わりに、赤子に雨男の力が移った。
そうして、代々青年の雨男の性質は伝わり、その国は発展していった。それに反比例するかのように日本は衰退し、ついにはその国の文明は滅び、原住民のような文明と化した。一方で、青年のいた国は繁栄した。
「この雨男!」
「お前が、いるから雨になっちまったじゃねえか!」
そうして青年の子孫である青年は、その国から去った。彼は、日本へと――