連鎖反応切腹
戦を避けてなんとか勝てないものか、と将軍は考えていた。
「皆の者、何か名案はあらぬか?」
それに対して、一人の武士がこう答えた。
「たとえ、敵といえども自尊心はあるでしょう。そこを突くのはいかがでしょうか?」
「ふむ。して、そちはどう突く?」
「この作戦では、必ず我々の内の二人が犠牲とならねばなりませぬが、それでもよろしいか?」
将軍は、頷いた。
「では、申し上げる。敵国のあの憎き将軍の片腕のような武士一人をひっ捕らえ、誰かがその武士の影武者となるのです。そして何か仕事をしくじり切腹、残り一人はそれを見て私の責任だと言って切腹するのです。すると責任だと言って死んだ武士を見て、また誰か一人が切腹するでしょう。それを繰り返せば、敵国の武士は消滅します」
部屋にいた武士達は、ううむと唸った。卑怯極まりないやり口だ、と誰もが思っていたからである。
「お前という奴は……そのようなものが私の家来とは、許せぬ! 誰かこやつを斬って捨ててしまえ!」
将軍が喚き立てると、
「どうか、拙者の切腹に免じて御許し下さい」
妙案を出した彼の傍らにいた武士が、切腹した。それを見て、次々と武士達が拙者の切腹に免じて、と言って切腹し始める。
敵国の将軍は、心苦しそうに笑った。
「なんとも不甲斐無い勝ち方をしたものよ」
「ですが、勝ちは勝ちです」
将軍に送りつけた二人の影武者が役目を果たしたのを、敵国の将軍は手放しで喜ぶことができなかった。