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「プロローグ」


 「ねぇ…最近どうなの?お宅の家に居候している例の…」


 「あぁ…あの変な勇者ね?

 まだ居るわよ。もう早く出ていってくれないかしら。

 家事はしないわ、掃除はしないわ、手伝いも仕事もしないわでもう大変たらなんの……

 うちも生活が苦しいって言うのに……」

 

「あら、本当に"クズ"ね……勇者か英雄か知らないけど金無いくせに一日中飲んだくれるらしいじゃない…疫病神ね疫病神」


「もう…早く消えてくれないかしら。あの疫病神のせいでみんなが不幸になるわ」




 


 うん。


 しっかりぜーんぶ聞こえてますよ。



 


 俺は一年前、世界を救ったらしい。

 今や勇者や英雄、天帝様なんて呼ばれている。

 あ、今は疫病神か。

 

 しかし世界を救った後、俺はもうやる気と言うやる気を失った。

 でも許されると思った。

 

 だって世界救ったんだよ?!

 魔物も俺のおかげでほとんど顔を出さなくなったらしいよ?!

 俺の魔術で何千人、何万人と助けたんだよ?!

 もう働かなくたって許されるくらいの偉大な功績をしたよね?!ね?!

 女の子を助けたとかそういうのじゃない、世界だ。

 

 せ・か・い!!

 なぁ?許されるだろ??


 まぁ……女の子は助けられなかったが。


 ……その話は置いといて、現実ってやつは思った以上に厳しいらしい。

 武勇伝をちょっと話せば女の子からキャーキャー言われ、街に行ったらようこそおいでくださいましたと歓迎させる。そんなチヤホヤは一年で終わった。

 

 今じゃこの通り。

 悪口、陰口のオンパレード。


 そう。

 俺は一つ重大なミスを犯していたんだ。

 それは『世界を救っても俺の人生は続く事、そして平和に慣れてしまった民衆は平和である有り難さを一瞬にして忘れてしまう』と言う需要なミスを。



 

 しかし今の俺は文字通り、"最強"になった。

 たが需要と供給と言う言葉があるように、平和と言う供給によって最強はどうも需要が無いらしい。


 ああ…もういっその事この街を焼き尽くして魔王にでもなって平和と言うやつがどれだけ有難いのか身体に直接教えてやろうか…。

 

 ……いやいや、めんどくさっ。

 もうそんな元気残ってないよ。

 

 最強?

 勇者?

 英雄?

 全てがどうでもいい。

 実際、俺の力でも無いしな。

 

 あーあー俺は家を追い出され、何もせずコロりと死んでいくんだろうなぁ。



 





 

「ここに居たか……おい…ニート」

 そんな事を考えていると突然、倉庫の扉から声が聞こえてきた。

 ちなみに部屋は半年で追い出され、今は家の小さな倉庫で衣食住を共にしている。


「よう……これはこれはイズモさん。久しぶりだな?元気か~?

 俺は見ての通りだそ~、アハハハハ」

 このゴミムシを見るかの如く、俺に蔑みの目線を送っている黒髪ロングちゃんはイズモ・セドナー、水属性の頂点に訓ずる天帝級の剣士だった奴だ。

 何故過去形かだって?

 それは俺が全属性頂点になってしまったからね。てへ。


「おいニート、いつまでそこにいるつもり?」

 イズモはいつも通り、俺をゴミムシを見るかの如く蔑みながら言った。

 しかし不思議も何も思わない。

 この一年その目を周囲から浴びせられ過ぎて慣れちまったな、これは本当の意味で最強になっちまったかもな。えへへ。


「んー?死ぬまで?」

「……」

 無言。

 そして真顔でこちらを見続ける。

 

 ちょ、イズモ恥ずかしいからそんなに見ないでっっ。

 ……しかし、いよいよ追い出さそうだしな。

 武勇伝を盾に、次なる居候できる場所を探せるといいが。

 



「なんだよ、そんなに見るなよ。俺がそんなにかっこいいか?」


「……前はそんなやつではなかったはず」

 呟くようにイズモは言った。

 

「ん?なんだ?なんか言ったか~?」

 

「前はそんなやつではなかったはずだ!」

 荒々しく胸元を掴まれた。

 

「ちょ…なに?」

 

「あんたの……お前の気持ちは痛いほど分かる。

 私にも後悔がある。

 あの時一緒に居れば…助けられたかもしれないも何度も思った。

 だが過去には戻れないの。

 うっ…頼む…お願いだ。昔のお前に戻って…」

 イズモは、涙を溜め込んでいた。

 そして、悔しそうな表情で、弱々しい声で言葉を漏らした。


「イズモのせいじゃないさ。

 ぜーんぶ不甲斐ない自分の責任。

 それと……昔の俺ってなんだ?

 今も昔も無い、俺は俺だ。

 勝手に決めつけるな。」


「あんた……今楽しい?」

「そうだな、見た通り、もう死んだ方がマシかもな」


「そうか……」

 呆れたようだ。

 イズモも俺の胸元を離し、何も言わず歩いた。

 そうだそうだ、

 もう俺に構うな、

 もう俺のニート生活の邪魔をするな。

 


 しかしイズモは十五メートル先まで歩きピタリと止まった。


「私と勝負しろ」


「……はい?」

 

「私と勝負しろと言った。私が勝ったらお前は願い通りこの世からさよなら」

「負けたら?」

「潔く帰ろう」

 勝負だって?この俺に?

 文字通りだが腐っているが、腐っても俺は最強だぞ?

 しかしその勝負は不平等だな。

「金だ」

「……?」

「勝ったら従うのに負けたら帰るだけとはアンフェアだ。

 金だ。金をくれたら受けてやろう」

 

「ちっ…このニートが…。

 いいよ、分かった。金貨四枚でどう?」

「よし。やるか」

 はいラッキー。

 とっととぶっ倒して今日は酒を浴びるように飲むぞ~。



 俺は重い腰を上げ定位置へついた。

「それではいくぞ」

 イズモは優美なポーズで刀を構えた。

 

「ああ。いつでもどうぞ?」

 イズモは強い。

 ものすごく強い。多分、世界で五番目くらいには。

 

 『最恐』の異名を持つ彼女の対抗策は一つ。

 それは"決して目を合わせてはいけない"だ。

 

 イズモの加護『神の目(ゴッドアイ)』は目を合わせるだけで"圧倒的な敗北感"が全身を襲う。

 

 剣の素人が剣豪と戦う時なんてレベルじゃない。

 海だ。

 まるで世界を覆い尽くす強大な海を相手にしているかのような圧倒的な敗北感。

 

 俺ですら足がすくんでしまう。

 そこをイズモは見逃さない。

 すくんだ瞬間に斬りつけ、勝負ありって寸法さ。




「……」

「……」

 しかしイズモは一向に動く気配がない。

 そうだった、

 イズモは待つのが大好きなカウンター大好きっ子だったな。

 

 早く終わらせたいな…もう俺から行くか。



 そうだな…死ぬギリギリに調整した毒魔術で瀕死させる戦法でいこう。

 俺が格上だって分からせた後に治癒魔術で直し、お帰り願おう。

 しかし相手の目を見てはいけないのはきついな…


毒弾(ベノメスバレット)

 俺が無詠唱で唱え彼女の前方に、次々と毒々しい玉が次々現れる。

 瞬く間に形成され、音速をもって彼女に向かって放たれた。

 さてイズモ、どう出る。




 

「……は?え、ちょっと、おい」

 イズモの行動は全くもって予想外だった。

 イズモのとった行動、

 それは動じないだ。

 

 俺の魔術を何もせずくらったのだ。


「うっ……これは…キツイわね」

 何発もの毒弾をくらいイズモはバタリとその場に倒れた。


「おい!大丈夫か!」

 治癒魔術をかけなければイズモが死んでしまう。

 俺は一瞬にしてイズモの元へ駆け込んだ。


 そしてイズモに治癒魔術をかけようとしたその瞬間。


 イズモの目と目が合ってしまった。


「うっ…」

 俺は寒気と鳥肌マックスで後ずさりしてしまった。

 その一瞬。


 『落葉(らくよう)

 イズモが素早く立ち上がり、刀を抜きながら言葉を放った。

 もう一度言う、イズモは強い。

 その流れる水の如く、美しい斬撃は俺の胴体へと向かっていった。

 

「……お前…それはズルだろ」

 

「あんた。手加減したでしょ、

 魔物をも一瞬で殺すいつもの毒魔術じゃなかった。

 ほんとバカね……その優しさが勝敗を決したのよ。

 でも大丈夫。もう時期私も死ぬ。あの世でみんな一緒に話ましょ?」

 

 朦朧とした意識の中、微かに聞こえてきた。


 いや、まだ死んでない。

 治癒魔術を自分にかければ一瞬で復活だ。

 ああ…でもかけたくねぇな……

 

 どうせ生きててもニート生活なんだ。

 俺は死ぬきっかけが欲しかったのかもな。

 ここまま死ぬのも悪くねぇかもな。


 でも最後に。

 

 『ウォーターヒーリング』

 俺は無詠唱で隣で倒れているイズモに治癒魔術をかけた。

 イズモ、お前は生きるんだ。

 お前には何度も助けられた、

 お前が罪を背負うことは無い、男でも引っ掻き回して幸せにでもなれ。


 ――意識が遠ざかっていく。






 俺は自分の真っ赤血を見ながら、静かに息を引き取った。

 お読み頂き感謝の気持ちでいっぱいです。


 大変励みになりますのでもしよろしければ下部にあります、評価とブックマークの程よろしくお願いいたします!!

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