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一部の5 手伝い

「ただいま」


魔力灯をつけるとシェバがソファで丸くなっていた。そういえば、新しい住人がいるのだった。


「どうして明かりをつけなかった?真っ暗じゃないか」


「つけかた、わかんない。よるだから、くらいのあたりまえ」


テーブルの上に置いておいたパンが半分くらい減っていた。

今日も今日とて疲れた。またいつも通りの感想を抱く。とりあえず夕食の準備をするとしよう。鍋に水を入れて火にかけ沸騰するのを待っているとシェバがやってきた。


「また包丁を使うぞ。向こうで待ってなさい」


「だい…じょうぶ。やくに、たちます」


シェバがせがむので包丁を握らせてみるがとても扱えそうにない。扱い方を知らないのに加えて怯えてしまっている。野菜に刃を振り下ろすとズルッとずれて、包丁を落としてしまった。


「やはりやめよう。急ぐことはない」


「でも!やくに、やくにたたないと…」


泣きそうになりながらシェバは包丁を拾ってまた挑戦しようとする。心がけはありがたいが怪我をされても困る。


「いいかシェバ。君はまだ何もできない。それは君のせいじゃなく今までの境遇のせいだ。

それから、私は君が何もできないからといって売り払ったりはしない。それは承知の上で買ったのだ。この前言った通り焦る必要はない」


「でも……」


だが確かにこのままではいつまで経ってもシェバは知恵を身につけられないだろう。私の身は一つしかなく他に頼れる相手はいない。強いて言えばペシムぐらいだろうが、仕事を休んで他人の奴隷の面倒を見てくれるほどお人好しな人間ではなかろう。

近く休みをとって最低限の生活技術を教えなければ、帰ってきたら死んでたなんてこともあり得る。なにしろ魔力灯のつけ方も知らないのだから。奴隷とはいえ管理が不十分で死なせたとなれば流石に罪に問われるし、そもそも私の個人的感情として死なせるのは胸糞悪い。

他にも何か案を考えなければならないが、とりあえず今は放そうとしない包丁の使い方を教えなくてはなるまい。シェバの後ろに回って強張っている右手を握る。一緒にストン、ストンと切り刻んでいく。


「左手は切らないように握っておくんだ。力を入れすぎずにゆっくりやればいい」


シェバの右手から少し力が抜けたのが分かる。すぐにコツを掴んだのか最後の方は私はほとんど触っているぐらいの力しか入れていなかった。

形は不揃いだが食べられる大きさにはなった。私も形については文句が言える腕前ではないし、これで十分だろう。沸騰したお湯に野菜を入れしばらく待つ。


「よくやった。明日からもこうして手伝ってくれると助かる」


「はい!」


嬉しそうにニコリと少女は少し笑った。笑顔を見せたのは始めてか。元々綺麗な顔だったが、笑うと花が咲いたようだ。まだぎこちないが、これから感情表現も上手になっていくだろう。


完成したスープを2人で運び席に着く。机には今朝渡した虫籠が置いてあった。


「カチ、おいで」


シェバが虫籠の蓋を開け伝書虫を外に出した。小さくパンをちぎって虫に与えている。


「カチ?」


「カチカチって鳴くから。それとも、もうなまえ、ありますか?」


伝書虫に名前なんて考えたこともなかった。2人、いや1人と1匹?は私がいない間に友達になったらしい。何もない部屋だが退屈はしていなかったようだ。


「いや、好きに呼んでいい。そいつの名前は今日からカチにしよう」


なかなか面白い試みだ。席を立ちペンを持ってきて、虫籠に「カチ」と書き込む。


「これ、カチってかいてある、ですか?」


「ああ。文字もそのうち読み書きできるようになってもらおう」


食事そっちのけのでカチと遊び始めそうだったので注意するとシェバは恥ずかしそうにスプーンを取った。それでもちらちらカチの方を見て笑いかけている。子供はいないが、いたらこんな感じなんだろうか。子供らしいと思える反応が出てきたということは少しはここにも慣れたのか。


「そういえば、シェバの名前の由来を聞いてなかったな。教えてほしい」


なんとなく気になったので聞いてみると、シェバは俯いた。


「ずっとむかし……ぼんやり、おぼえてる。私をだっこして、そう呼んでた人がいた、きがする」


母親、であろうか。もう誰なのか分からないその人とはずっと前に別れたという。……シェバが奴隷の身分ということは売り渡されたか、死別したかのどちらかだろう。戸籍のない獣人も多いので探すのは困難だ。


「会えれば会ってみたいか?その人に」


が、不可能ではない。もし生きていれば私が返却を申し出て奴隷から解放し親の元に帰すこともできる。


「でも、顔もわからない」


「ということは会ってはみたいわけだ。分かったよ」


教育の他に親探しもしてみるか。手がかりは全くないが、ぼちぼちやってみよう。

食べ終わってシェバの方からも話しかけてきた。


「ベレンさん」


「ん?」


「ごはん、ありがとうございます」


「私だけで作ったわけじゃない。君も手伝っただろ」


「でも、おれいは、立場関係ない、から」


今朝のことを覚えていたらしい。言われてすぐに実践できるのは賢い証拠だ。改革庁に欲しい人材だな。

「そういうことなら、どういたしまして」

皿を受け取ってキッチンに戻ろうとするとシェバもついてきた。洗い物も教えてみよう。

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