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噂話と決闘と

誤表記報告です。『エクスゼウス』と『エクスマキナ』が混じっていましたが、『エクスゼウス』が正規です。見つけたものは修正しましたが、出来てない部分があったら教えてくれると嬉しいです。


今更ですがいつも誤字報告いただける皆さまありがとうございます。とても助かっています。

「いやーなんだかんだ結構滞在したな」


 契約した村から始まりの町ルーキストに戻ってきた俺達。こっちの時間で言えば一週間位だろうか。そう考えると結構な時間滞在していたな。稽古もちょっと本腰入れて鍛えてやったし、村の再開発………とまでは言わないが柵の整備に狩場のモンスター討伐、河川敷の整備と言った感じで結構色々な事をやって来た。


「アール結構あの村気に入ったんでしょ?」


「分かる?」


「そりゃあれだけ入れ込んでいたらわかるよ。それに楽しそうだったし」


 実際楽しかったからな。ああいった事をするのは好きだ。アフターストーリーでもボロボロになった村の復興とか色々やって来たからだろう。そういったあまり人がやりたがらない事が割と好きになったんだよな。何かを成し遂げた時のあの感動。一度味わってしまうと抜け出せない一種の劇薬だよあんなの。


「なら良かった。『転移』の魔法陣も設置させて貰ったし後はアールが『転移』の魔法使えるようになったらいつでも行けるようになるよ」


「いつ頃使えるようになるかとか分かるか?」


「うーん。ステータス見れないからハッキリとしたことは言えないけど、次の町に到着する頃にはMP量も良い感じになってると思うよ」


 次の町に到着する頃って事は進もうと思えばすぐに動けはするのか。どうしようか。


「迷ってる?」


「すげぇ迷ってる。もっといろいろ見たり感じたりしたいけど、やっぱ魔法での移動って心がわくわくするからなぁ」


「一応ファストトラベルも次の町で開放されるから迷ってるなら行くのもありかもね」


 ファストトラベルか。町の移動に関して言えば解放されるのは便利だよな。まぁ行ったことない町には行けないからまだルーキスト間での移動しか出来ないけど。


「とりあえずギルド行こう。道中狩ったモンスターだったり依頼の完了報告したりしてから決めよう」


「分かった。じゃあいこ?」


 マイに手を引かれてギルドまで向かおうとした矢先の事だった。俺たちが少し前に通ってきた町の門の方から大きな歓声が上がった。


「なんだ?」


「さぁ?」


 歓声が大きくなって来ると町の人達が皆道の中央を開けるように動いていく。俺たちもその波に身を任せるように道を譲ってしまう。そうして見えてきたのは大きな台車に乗せられて運ばれてきた巨大なモンスターの亡骸だった。


「何あのモンスター?」


 見た感じは双頭の竜種型モンスターに見える。生々しい傷は戦闘の激しさを物語り、台車の前を歩くパーティーメンバー達も誇らしそうに胸を張って歩いていた。彼らが討伐したらしい。


「なんでルーキストに? ただの自慢にしては連中の装備はガチ装備っぽいからそれはなさそう。でもルーキスト近郊でワイバーレッドの出現報告も目撃も無かったはず。それに適正レベルが違いすぎる。こんな場所に現れて良いモンスターじゃない。でも実際現れて討伐されている。レアモンスターってだけでこの辺でたまたま出たなんて偶然で済ませて良いはずはないし、でもだったらなんで………」


「マイ?」


 隣で考察に耽っているマイに声を掛ければ、ハッとした表情で顔を上げ、マイはこっちを見た。


「あ………ごめんアール。ちょっと考え事してた。あのモンスターの事だよね? 双頭竜ワイバーレッドってモンスターだよ。右側の竜は火炎、左頭は雷撃のブレスを吐くモンスター。結構レアモンスターで討伐した時の報奨金も相当高いんだ」


 二種類のブレス攻撃か。それは厄介そうだ。


「マイの話的にこの辺じゃ普通でないモンスターなんだな?」


「うん。適正レベルが92からなの。そこに装備とスキルも整えて対策もしっかりした上で討伐に行くのが普通なんだよ。だからレアモンスターだからって理由でも出現するのはどう考えても変だと思うの」


「………俺の考え言ってもいい?」


「うん。今はどんな考えでも考察の余地があるから聞かせて」


 それじゃあ遠慮なく。


「モンスターだって生き物だ。単なる偶然でもありえない話じゃない。ゲームで考えれば確かにありえないけど、異世界って考えならあり得る話だ。けど俺も直感だけど偶然じゃないと思う」


急にこんな危険度の高いモンスターが現れた。誰だって偶然と決めつけるには難しい問題だ。


「俺たちが討伐したデスペラード、デスペラードⅡ、ゴブリンチャンピオン。この三体だけでもマイの話からすれば適正レベルを大きく超える化け物モンスターだ。そしてワイバーレッド? そいつまで現れた。偶然で済ますには確かに違和感がある。が、今の俺たちにはそれを紐付けるものが何もない」


「………続けて」


「情報を集めよう。そういった話はギルドには集まるだろう? 出現場所や目撃日時、そういった事を地図上にまとめていけば何か掴める可能性もある。まずはそこから始めよう」


 無論、同じように考える人は多いだろう。が、結果だけ聞くよりも結果に辿り着くまでに自分達で情報を集めた方が他の人が辿り着いた結果以外の可能性を見つけることも出来る。


「そうだね。自分の足で情報を集めて纏めるのは賛成。掲示板でもちょっと情報漁ってくるから手分けしよう。アールはアールの出来る情報収集を、私はアールに出来ない方法での情報収集するよ。ギルドでの依頼報告はそれからでもいい?」


「勿論」


 そこから俺たちは二手に分かれて情報収集を始めた。マイはゲーム掲示板にて既に集まっている情報を、俺はゼロから現地で聞き込みを。夕刻に噴水前で落ちあうことにして動き始めた。


 まずは定番のギルドでの情報収集。主婦の情報ネットワークへの聞き込みから最近聞こえてきた噂話に至るまで様々な情報を集めに集める。


 こういう時裏の情報通的な人が見つけられたら金を払って情報を買うのもありなんだがまだルーキストの町に馴染んでいない俺では門前払いの可能性も高い。と言うかそこに辿り着くことも出来ないだろう。そっち方面で動けるように今後は町でも立ち回ろうか。










 ――――










『イベントの予兆?』ルーキスト近郊での高レベルモンスター出現情報まとめpart3




222:名無し


タンクウォーリアーズがワイバーレッド討伐してきた件について




223:名無し


うらやまc




224:名無し


レアモンス討伐良いなぁ。しかも死骸全部残りとか一攫千金待ったなしじゃん




225:名無し


最近マジでルーキスト近郊熱いな。レアもの出現報告多いじゃん




226:名無し


初心者には激渋なんだよなぁ。勝てない相手バコバコ出てくるとか悪夢じゃん。喜ぶの高レベル帯のプレイヤーだけよ




227:アーノレ


高レベルプレイヤーでもビビる相手だっているんですよっ!




228:ミラファ


この前サザンデスと出会ってソロ中の私涙目。その後でクランメンバーに泣きついて討伐したけど




229:トリスたん


蒼牙氏憤慨案件じゃんwww あの人クランメンバーに甘いからwww






230:名無し


サザンデスって巨人だっけ?




231:ヴァンレイ


>>230 五つ目のジャイアント種モンスターで目から麻痺毒性の涙飛ばしてくる化け物




232:名無し


自分で調べろ




233:ああああ


サザンデス相手に『フハハハ!! いいぞ! 貴様も俺の強さの生贄にしてやろう!!』って超元気だったよねぇ蒼くんwww




234:カトレア


それただキレてただけじゃなくて?




235:名無し


両手に花の蒼牙氏マジうらやま妬ましいパルパルパルパル




236:カレイさん


蒼牙くんマジ主人公




237:シロマサ


ギルドで依頼見たときはこんな大物倒すことになるとは思わんかったんですわ




238:ライトニング


ゴブリンの集落討伐依頼だったのに何で竜出てくるんですかね? いや倒したけども。うちの新人落ちなかったの奇跡だったわ




239:天サジ


蘇生アイテム無かったら確実に死んでたっすわ。先輩方マジでありがとう




240:山田


噂をすればじゃん。乙~




241:コハク


うちのメンバー説得してしばらくルーキストで活動することに決まったやったぜ。これで俺らも大物狩るわ




242:名無し


火力極振りが動き出したらそんなのもう平原になるじゃんあの辺




243:忍者


修正と言う名の弱体化を受けたから平原にならぬ




244:隠密


然り、その火力は健在ではあるが、無差別に焦土に変える事はもうない




245:弥生


身内がすみません。でも大丈夫………のはずですから………たぶん………きっと




246:雷華


不穏なこと言わないでくださる? ちゃんと手綱を引いて下さい頼みますから




247:名無し


有名所がここまで動き始めたらそんなのもうイベントの予兆確定じゃん!!




248:アルトりす


違ったとしてもレアモンスター素材手に入る。動かないメリット無いからね。




249:黒衣


初心者にもやさしいイベントがいいなぁ(願望)




250:オルガン


防衛系のイベントなら初心者でも参加できるからいいんじゃないかな? 下手な討伐系だとそれこそレベルの暴力で初心者何もできなくなる可能性高いし。




251:白黒


まぁどっちも可能性あるから怖いよなエクスゼウス。




252:名無し


何があっても『エクスゼウスだから仕方ねぇ』って一言で解決してしまうのが悪い。




253:ライーダ


完全に初心者殺しではないからいいとは思うがな。この世界ではゲームの常識は非常識だからな




254:クロサカ


全体報酬と個人報酬毎回用意してくれてるからいいんだよな『プラクロ』。個人報酬だけだとマジで戦争勃発だけど、全体報酬あるからみんなで頑張ろう感ちゃんとあるから結構平和。他だと中々こうはいかないんだよな




255:マイ


デスペラード及びデスペラードⅡの出現報告。討伐済み。


地図上はこのあたりhttp://




256:名無し


ファァアアア!!?




257:根倉マンサー


よりによってなんでそんな害悪モンスターまで出て来てんのよ!!? 被害報告は!!?




258:カレイさん


落ち着こう。書き込みはマイ氏だ。つまり。もう安全、おーけー?




259:シロマサ


よりにもよってⅡとかそれはもう災害なんですよ………あいつ町村襲うんですよ?




260:サクラ


第一種特殊討伐指定モンスターまで出てくるとかもう悪夢じゃん。と言うかソロ専のマイさんが討伐したんですね。やば。電卓騎士団人数差あったとはいえ本当にどうやったらこの人に勝てたの?




261:マーガリン


決死の作戦勝ちです。失敗したら全滅必至のやつ。でもデスペラⅡソロ討伐とかマジぃ? 前よりも強くなってないですかね?




262:黒衣


初心者の私デスペラードってなぁに? 状態。教えて先人さん!!




263:名無し


ただのデスペラードはワイバーレッドが三匹以上の群れで挑んでギリ勝てる程度の実力。デスペラードⅡは肉食で一匹見たらワイバーレッドは逃げ出す程度の実力。




264:ぞうもつまる


さてはお主幻想郷の者だな?




265:ライトニング


初心者がトラウマ植え付けられるレベルの害悪モンスター。目の前で人が食われるのはガチの恐怖映像なんよ………だから見かけたら絶対に殺すようにしてるって言うのがプレイヤー共通認識だから第一種特殊討伐指定モンスター(非公式)なんだよ。ただ此奴狡猾でそこそこ頭脳戦もしてくる上に一撃でレベル80超えててもHP半分削ってくるから凶悪。




266:朱雀


一回クラン連合でデスペラードとデスペラードⅡの群れ討伐遠征したけどあれは出来るなら二度としたくない。仲間が目の前で食われるのは心臓に悪い。Ⅱは絶対許さん。




267:ミラファ


他の特殊討伐指定モンスターも出てきますもしかして………?




268:名無し


可能性はある………嫌だけど




269:マー坊


ちょっと知り合いのクラン全員に声かけてくる。ルーキスト近隣の一斉調査しないと不安しかない。




270:レイレイ


>>255 マイ貴女よくソロでやったわね。貴女魔法剣士だから相性悪いでしょうに




271:マイ


正確にいえば私と組んでるアールが倒した。今は別行動して情報収集中。




272:名無し


アール? 誰?




273:アルトりす


もしかして例の威圧放った人では?




274:マイ


私のリアル恋人。最近『プラクロ』始めたから組んでる。




275:名無し


ちょっとまてぇ!!? 情報量がえぐいぃ!!?




276:黒衣


???




277:ゴザイ


ハハハ!! ただものじゃぇねとは思ってたが大物だったなぁあんちゃん!!






 ――――








「ハックシュン!!………風邪か?」


 なんか急に寒気が………。


「どうしたんだい?」


「あぁ、いやすまない。情報ありがとう。これでいいかい?」


「大丈夫だよ。久しぶりの肉だ。今夜は御馳走だよ」


 町を歩き回って現在。スラム街とも言える裏道に足を運んだ俺はそこに住む人々に話を聞いていた。対価として金やら食い物やらを強請られたが、必要経費だ。帰ってくるまでにゴブリンやら狼やらを多く狩っていたし素材はそこそこある。


 とは言っても有力な情報と言えるものは特に得られなかった。不審な人物がいたとかいないとかそういう情報はたくさん聞けたが、モンスター関連と思える情報は極僅か。


 幾つか見ておきたい場所はとりあえず目星をつけたがそれは後でマイと一緒に回るとしよう。


 そろそろ夕方だ。マイと合流する時間だろう。


 スラム街から表通りに戻り、噴水の方へと向かう。情報収集から既に数時間経過しているのもあるが、見た目が明らかに初心者ではない人が多くなっている。


 レアモンスター討伐の情報を受けて各地からレアモンスター狙いのプレイヤーが集い始めたんだろうか? あるいは俺達のように異変を感じて警備や調査に乗り出したのか。


 ともあれこの人数が町にいるならば安全は確保できるだろう。余程のことがない限りは、だが。


「アール。こっちだよ」


 町の様子を見ながら歩いて噴水まで辿り着くと、マイが既に到着していたのか噴水の端に腰掛けて待っていた。今回は変な輩に絡まれていないようで良かった。


「お帰り。どうだった?」


「珍しいモンスターが見られるようになった位の情報しか集まらなかったな。モンスター以外の情報はそこそこ集まったけど」


「私の方ももう出回ってる情報くらいしか見つからなかったよ。ただ今回の騒動を見てたくさんのクランが動き始めるみたい。ルーキストに実力者が集まってくるよ」


「だろうな。町の様子がもうそんな感じだったから」


 始めたばかりの頃はまだ新人っぽい装備が多かったが、今は明らかに強い装備の人が集まっている感じがある。


「とりあえずギルドも少しは落ち着いただろうし依頼完了の報告行こっか。お互いの情報話しながら」


「すまないがその前に時間を貰えるか?」


 俺が返事をする前に、誰かが話しかけてきた。声の主は一人の青年。武器は両手剣。俺たちと同じプレイヤーであることはなんとなく分かる。


「俺は蒼牙と言う。アンタが威圧で有象無象を追い払ったと噂になってる男だな?」


 有象無象ってあの時のナンパ野郎どもか。そういう意味では正しいか。と言うか噂になってるのかよ俺。


「多分そうだな。初めまして、アールだ」


「初めましてだ」


 蒼牙と名乗った青年はそういうと表示したであろうコンソールを操作して何やら設定をしているようだ。もしかしてフレンド登録とかそういうのだろうか?




 ――――


プレイヤー:『蒼牙』より決闘(デュエル)の申し出がありました。


 ――――




「え?」


「は?」


 思わず何が起きたのか理解出来なかった声が出た。マイはがっつり怒声籠った声で反応していたが。


「言葉は苦手なんだ。こっちの方があんたを知る為には早い。受けてくれると嬉しい」


 あぁそういう人なのね。マイと組んでる事に関して云云かんぬん絡んできた輩ではないらしい。にしても言葉苦手だからっていきなり決闘申し込んでくるのはお兄さんびっくりだなぁ。


「そういう事なら構わないよ。その申し出、受けよう」


「アール!!」


 マイが大きな声で俺と青年、蒼牙との間に入って抗議の声を上げる。当然だろう。相手は間違いなくレベル格上の相手だ。始めたばかりの俺が戦っても勝てる相手ではない。そう思ってるんだろう。


「大丈夫だって、この人悪い人じゃないのは直感でわかる」


「そうだけどそうじゃなくてぇ………あぁもう! レベル差どれだけあるか分かっててやるんだよね!!?」


「おう!」


 けどなマイ。それは俺に対する侮辱なんだぜ? 格上だからって勝てない相手だと決めつけられるのは良くない。とても良くないぞ。


「………蒼牙! あんたもそれを分かった上での申請でしょうね!!?」


「無論だ。俺は戦いで相手を理解するのが一番分かり易いんだ」


「………納得出来ないけど、本人同士が状況理解してるなら好きにしていいよ」


 渋々と言う感じでマイも納得してくれた。一応パーティー組んでるからマイにも決闘申請は届いていたんだろう。手出ししないと言って手元のコンソールを操作すると、そのまま引き下がっていった。


「場所はここでいいのか?」


「少し向こうに広場がある。決闘が始まれば専用のフィールドを出してくれるからそこにしよう。こっちだ」


 先を歩く蒼牙についていくように俺たちは歩き始めた。


「アール。さっきはああ言ったけど、アールが勝てないと判断したら私も介入するからね。これは譲らない」


「そこの判断は任せる。パーティーだからな。蒼牙、君もそれでいいか?」


「勝敗に意味は無い。俺はただあんたを知りたいだけだ」


 なんというか戦いの中で生きてる男って感じだな蒼牙。不器用さんだ。そんな感想をもって歩いていくと、蒼牙はそこそこの有名人らしく周囲の目を多く引いていた。


「おいアレ」


「蒼牙じゃん。後ろのって………え?」


「超越者マイじゃん………ならあの男は?」


「知らん」


「ばっ!!? お前今すぐ掲示板見てこい」


「今『プラクロ』一熱い情報と言っても過言じゃねぇぞ」


 過言だよ。どう考えてもモンスター異常出現の方が情報としては熱いだろうよ。そんな事を考えながら歩いていると正面に広場があった。数人のプレイヤーがちょうど決闘をしていた。外から見るとドーム状の膜で覆われており、ドームの外に魔法やら戦闘の破片やらが飛び出てこないバリアの役目を果たしているらしい。


「あー蒼くんやっと見つけた!!」


「蒼くん急に飛び出したからさがしたん…だ……よ?」


「あいえぇええええ………もしかして蒼牙氏ってばもしかしてですかぁ?」


「お………終わったっス。僕ら超越者に獲物にされるっス………」


「かっかっかっ! やはり行動力の化身じゃな蒼牙よ! 愉快愉快!」


 蒼牙の友人、いや、クランの仲間と思われる奴らが近付いてきたが、俺とマイを視界にとらえるや否や言葉が掠れていった。一人実力者らしい風貌を漂わす少女、いや幼女? の姿をしたプレイヤーだけは変わらず平常運転だったが。


「心配ない。合意の上だ」


「「そういう問題じゃない(の)よ!!」」


 少女二人に胸倉を掴まれて揺らされる蒼牙。しかし彼は何か問題があるかと言わんばかりの平常心だった。


「あー!! もう申請通っちゃってるじゃん!! 取り消して! ハリーハリー!!」


「何故だシア? アールも合意してくれた。マイも好きにしろと言っている。問題無いだろう」


「レベル差!! 蒼くんと彼のレベル差を考えて!! 明らかにどう見ても強者と弱者だから!!」


「ミラファ、決めつけは良くない。戦ってみなければ何も分からないはずだ」


「「うがぁぁ!!この分からず屋!! ボケ!! 蒼くんのアホ!!」」


「???」


 あ、これ面白いやつだ。天然に振り回される友人(仮)だこれ。ちょっとしたラブコメ作品が出来てしまうような関係だと面白いぞ。


「………はぁ、仁義組の。私は別にいいよ。アールが構わないって言って始めたことだから別にもう好きにしていいよって言ったから。場合によっては介入するけど」


「「うちの蒼くんが本当にすみません!!」」


「なぜ二人は謝る?」


「やっべぇラビットwww 蒼牙氏マジおもしれぇwww」


「と………とにかく僕らに被害はなさそうで安心しました」


「蒼牙のおかげで噂の威圧者の実力を見られるのは吉報ではあるさ。皆もそう悲観せずに結末を見守るのも仲間の度量と言うものではないか?」


「雷華。そういって貰えると俺も嬉しい。結末に失望はしないはずだ」


 もしかしてこれ、俺甘く見られてる? いや仕方ないことだけども。けどそう言われるとお兄さんちょっと頑張っちゃうぞぉ?


「ん、場所が開いた。アール、行こう」


「あいよ」


 言われるがまま、ドームの中へと向けて歩いていく。ドーム状のそれは俺たちを拒むことなく、すんなりと受け入れてくれた。内側に入った時に、試しに膜に触れてみると見えない壁があるかのような硬さがあった。見かけ以上にしっかりとした魔法? らしい。


 ドームの中心に足を進めていくと、蒼牙は既に初期位置に着いたのかこちらに向き直っていた。


「良い戦いにしよう」


 そう言って背負っていた剣を握り構える蒼牙。型は不明だが出鱈目なものではなさそうだ。我流だろう。しかし足腰はしっかりと落され、構えから動きを予想出来はするものの、確実にそれだけではない雰囲気が出ていた。


「こちらこそ。手加減は不要だ。全力で死合おうか」


 携えた刀を抜き、鞘も手に取る。さて、どうしかけてくるものか。呼吸を変えて意識を相手へと向ける。一挙動一呼吸全てを見逃さず確実に勝つために。


「………」


「………」


 互いに動きは無い。ただ彼の目が言っていた。『先手は譲ると』。ふむ。


「言ったはずだ蒼牙。全力で死合おうと。先手を譲る? 冗談を言うな。お前のそれは先手で動くタイプの構えだ」


 構えから想像は付く。蒼牙の戦いは自発的に動くタイプのスタイルだ。それこそ先手を取って自身のペースに持ち込むタイプ。そんな戦い方をする奴が先手を譲ると?


「もう一度言うぞ蒼牙。全力で来い。格の差を教えてやるよ」


 挑発するように刀を向けて蒼牙へと言葉を投げつける。俺は手加減されるのが嫌いだ。特に互いに試合をするならば猶更だ。勝つにしても負けるにしても全力で相手をして決めたい。


 だからこそ大きく出る。俺が上でお前が下であると。分かりやすい挑発だ。


「ッ!! ハハハ!! 言ったなアール!! ならば全力をもってお前を倒す!!!」


 だがこういう戦いの中で生きてたような奴にはこんな言葉が一番伝わる。自信があるからこそ相手を見下せる。そんな相手が逆に自分を見下してきた。それに応えずにいればそれは相手の言葉を認める事に他ならないからだ。


「『握星:連』!!」


 振り下ろされる剣はその大きさに似合わず速く、そして多い。一撃で多段攻撃並みの威力があるだろう事が想像できる。故に、そのまま返そう。


 剣に合わせて体を這わせるように内側へと入り込み、剣の軌跡に鞘を沿わせ、薙ぎ払うように剣を打ち、その衝撃を刀へと乗せる。やはり多段攻撃か。走る衝撃がその一撃の重さを伝えてくれる。


「『月波』」


「っ!!?」


 弾かれたのは予想外だったんだろう。表情が一瞬で歪んだ。


「『月輪』」


 その衝撃を乗せた弧を描くように放つ一閃。『月輪』。『月波』で入り込み受け流したことで生まれた蒼牙の決定的な隙。脇下を切り裂くように放った一閃が吸い込まれるように蒼牙へ直撃し、彼の身体を吹き飛ばす。


「ガッ………ハァッ!!?」


 硬いな。流石に今ので終わりはしないか。装備の差も大きいだろう。俺と同じような装備なら確実に殺った自信があったが装備の差がここで出たか。


「ア………ガァッ………ギィィ………」


 吹き飛ばしドームに直撃した蒼牙は、直撃した脇下を押さえながら、肺の中の空気を絞り出すような呼吸をしながら立ち上がる。斬ることは出来なかったが、外傷は与えられたようだ。


 追い打ちをするようで悪いが試合だ。許せ。


「『月風』」


 駆ける。走る事で生まれた余分な衝撃を体に蓄積させながら距離を詰める。一歩進むごとに一撃の重さは大きくなり、身体に流れる衝撃も満ち溢れていく。


「ッ『キュ・ア』ックッ!!」


「『月光閃』」


「アアアアアアアアァァッ!!!」


 衝撃を乗せ、速度を乗せた突き『月光閃』。狙いは心臓だったんだが、ギリギリで避けられた。とはいえ脇腹に大きな切り傷は付けられたのでダメージとしては及第点だろう。ゴロゴロと転がる様に雄叫びを上げながら蒼牙は『月光閃』を避けた。


「『キュアエリクサー』!! 『ヒーリングウィンド』!!」


 転がりながら魔法を唱え蒼牙は外傷と減ったであろう体力を回復する。あの状態からも回復できるのか。やっぱり魔法の概念は戦いに大きく影響を及ぼすんだな。そう考えるとこの世界での対人戦は初めてか。


「ハァ………ハァ………ハァ………!!!」


 額に浮かぶのは尋常ではない脂汗。相当な消耗をしたみたいだ。だがそうだな。対人戦でどこまで通じるか試してみたい事がある。


「蒼牙、舞は好きかい?」


「舞………だと………?」


「舞とはいっても歌舞伎やダンスのような分かり易いモノじゃない。俺も人相手にどこまで出来るかわからないんでな。試させてもらおう。さぁ吟じようか!」


 身体を揺らし、足踏みでリズムを生み出し、両手に持つ刀と鞘で軽く地面を鳴らし、音楽を奏でる。カンカンカン、トントトンタン。身体で奏でる音楽に乗せて肺と腹から声を出す。


「『Wooooo』!!!」


 声に合わせ音を鳴らし、舞い踊る様に身体を揺らす。指先一つに至るまで、俺自身が唄の中にある登場人物の様に歌と共に舞い踊る。


「なんだ………!! この感覚っ!? くっ!!」


「『WOOOOO』」 


 ゆらり風に流れる様に足を進め音楽を表現する。一歩進むだけでも、足音一つすらもこの劇中歌に変える。


「………だがそれがどうした!! 行くぞアール! そこだぁ!!」


 鼓舞するように声を荒げ、蒼牙は剣を振るう。俺がそこを狙うように魅せた隙を狙って。剣に合わせて宙へ身体を浮かし、自身の上下を入れ替える。横薙ぎに振るわれた一撃を鞘の先端で受ける。その衝撃を受け入れて刀を握る方へと流す。流した衝撃と共に合わせて回転を加えて蒼牙に放つ。


「ガァ゛!!?」


 再び吹き飛ぶ蒼牙。先程と違うのは威力だ。『桜花戦舞』はそこまで大きなダメージを与える戦技ではない。見た目こそ派手に吹き飛んだが、ダメージは先程の半分も無いだろう。


 くるりと周り着地した俺は再び舞う。


「『Wooooo』!!!」


「ダメージは大きくない………だが何故お前は無傷でそこから動いていないんだ!!? ハハハ!! 面白い!! あぁ謝罪するぞアール!! 俺は無意識でお前という男を格下だと思っていた!! 違う!! お前は間違いなく俺よりも強い!! あぁ認めよう! だが勝つのは俺だ!! 行くぞぉ!!!」


 再び繰り広げられる攻防。一撃食らえば確かに俺は負けるだろう。蒼牙もそれを理解したからこその先程の発言だと思う。逆に言えば蒼牙は俺に一撃入れる事が出来れば勝てる事にも気付いたんだろう。


 それは正解だ。どんな一撃であれ食らえばレベル差の暴力の前に俺は沈むはずだ。だからこそお前の攻撃を完全に封殺する。『桜花戦舞』が人間相手でもある程度作用するのが判明した。なら俺の勝利条件は………消耗戦だ。


 蒼牙の体力、気力、魔力を削り切った上で必殺の一撃を叩き込む。一か八かの短期決戦ではなく長期戦で確実に勝つ。


「『握星:打』!!」


「『WOOOOO』」


 刃ではなく面での攻撃。『打』と声を上げただけにそういう攻撃らしい。カウンターは………あまりよくないだろう。流石に連続で使えば警戒もする。実際今の蒼牙からはカウンターに対する警戒が見える。ならばここは攻撃に乗せてもらい回避を選ぶ。


 飛び上がり、振り下ろされる前に剣の面に脚を乗せ、振るわれる勢いに乗って大きく距離を取る。衝撃は、なかなかデカい。月光真流が使えていなければこうはいかなかっただろう。


「回避行動だと!!? だがその隙は逃さっ!!?」


 一歩前に出たと思ったが蒼牙の動きが止まった。誘ったのだが乗ってこなかったか。ならこのまま距離を取って着地を選ぼう。


 ふわりと衝撃を吸収しながら地面に降りて、三度舞う。攻撃誘導、行動誘導の為に幾つか舞を織り交ぜているが『剣聖物語』とまったく同じように相手を乗せる事は難しいみたいだ。


「本能が刺激される感覚………これがお前の舞という奴か!! あぁ厄介だ!! 理性で無理矢理抑え込まなければお前が目論むとおりに俺は動いているんだろう!! あぁ! あぁ! 何をしているのかはさっぱり分からんが世界にはまだお前のような強者がいる!! ならば俺はお前も超えて強くなるぞ!! 行くぞアール!! 俺の名は蒼牙!! 誰よりも強くなる男だ!!!」


 中々に熱い男じゃないか。気に入った。だから油断はしない。確実に勝つために俺の土俵に入ってきてもらおうか。 

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― 新着の感想 ―
[一言] いつまでも待ってるぜ月光皇帝
[良い点] 僕らのプラクロが帰ってきた! [一言] 旧プラクロの続きが読めない事はとても残念ですが、シン・プラクロとしてまたこの世界が読める事がとても嬉しいです! ゆっくりでもいいので更新頑張って下さ…
[気になる点] 今作の友人ポジ、マー坊じゃなくて蒼牙になるのかな?
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