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プラネットクロニクル ~極地に至った男の物語~  作者: 月光皇帝
戦火の悲種と踏み躙られた魂
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荒武者編:桜花戦舞

まずは謝罪を。本日0時に投稿できずにすみません。

でもどうしても、どうしても書きたい展開が変わってしまったので、ギリギリまで書き直しを繰り返していたんです。その結果この時間に投稿になりました。

その場に居ない俺にもわかるほどに、荒武者が纏っていた雰囲気が変わった。


まず構え。今までは構えの概念は無く、ほとんど戦う為だけに構えていただけだったものが、強敵を前にした戦士の如く、殺すための構えを取った。


時間にして数秒。そう。たかが数秒だ。


にゃーると雷華の攻撃を往なしながら、あるいは受けながら態勢を立て直し、構えを取った。


ーーー来る。


次の瞬間、荒武者が空間の支配をにゃーるから奪い返した。


その存在感で空間を塗りつぶす。前後左右、全方位に荒武者がいるかのような感覚で戦場を包み込んだ。


『    !!!!』


声は拾えない。けれどにゃーるが混乱しているのはわかる。


次に、雷華の一撃が空を斬った。


そこにいたはずなのに、確実に直撃コースの一撃だったのに、雷華の一撃は空を斬った。


ただそれだけの事なのに、先ほどまで苛烈を極めた攻防戦が全く嘘のように静まり返った。


桜花戦舞『烈華』。


より多くより強く、より大きく自分を見せる技術の最終形態。


一騎当千の英雄がその場に降臨したかの如く、戦場に自分を強く映す技術の集大成。


ただ『そこにいる』と相手を認識しなければ死ぬと、存在感が届く全ての範囲の生物に無条件で押し付ける存在感。


敵の中央に単身突撃した時にした時にこの技術を使う事で、敵の認識を外ではなく内へ強制的に向ける事が可能であり。蔑ろにせざる得なくなった外側から、別動隊が敵部隊を討てる事実上の挟撃状態を強制的に起こす。


半面、敵味方識別が出来ない為有効範囲内の全ての存在の意識が武芸者に向くという欠点はあるが、そこはあらかじめ戦術や作戦、配置などでどうとでも出来る。


俺がにゃーるに教えたのもこの技術の一片。正確に言えば『烈華』は意識の押し付けという技術の最終形態なのだ。


これによりにゃーるの優位性は完全に無力化されたと言っても過言じゃない。


簡単に言えば上位互換が目の前にいるのだ。下位互換では太刀打ちが出来ない。


『    』


荒武者は動く。その名の如く荒々しく、纏う鎧を鳴らしながら、目で追える程度の速度で近くにいたにゃーるへと向かう。


『   !!!』


上等っ!! と言ったんだろう。にゃーるは迎え撃つと言わんばかりに居合の構えで迎え撃つ。


あぁ、にゃーる。それは悪手だ。狙いはお前じゃない。


『    』


首が飛ぶ。


マー坊の首が。


何が起こったのか。残る二人は理解が追い付いていない。目に困惑が浮かんでいる。


そして何よりも、殺されたマー坊自身が『殺された事』に気が付いていない。


「「「「「・・・? ・・・っ!!?」」」」」


桜花戦舞『戦烈華』の恐ろしさはここに在る。


ばら蒔かれた圧倒的強者の存在感が、ある一人に向けられた。向けられた相手は何かしらの反応を見せる。


強者に相対した高揚感。あるいは死への恐怖感。他にも様々な感情が向けられた一人には浮かんでくるだろう。そして、”向けられなかった者”はこれから一対一の戦いが始まると誤認する。


そこは戦場。試合のようにルールがある戦いではなく、明確な勝利条件が決められていない無秩序な戦場。唯一唯一存在する戦士の勝利条件はただ一つ。生き残る事だ。


どんなに無様であっても、どんなに偶然が重なった奇跡だったとしても、戦場か戦い、生きて帰れば勝利なんだ。”次”があるのだから。


死ねば”次”はない。


戦場に向かう戦士は皆それ分かっているはずなのに、あの瞬間、今から始まるのは意地と意地のぶつかり合い。


強者同士の戦いだと誰もが信じて疑わなかった。そんなルールも矜持も存在しないのに。


そして、その場に雰囲気に飲まれ、当事者から傍観者へとなった者が今荒武者によって討ち取られた。ただそれだけだ。


「意識とは、ただ相手に対して向けられるものではない。その場にも大きく影響を与えるものだ。塗り替えられた意識はそう簡単には変えられぬ」


マリアーデが何が起こったか理解が追い付いていないマイ達に何が起きたのかを話す。


「そ・・・それってありなの!!?」


「童よ。あの場は戦場。誇り高き試合ではなく命を奪い合う場所だ。どんなに誉れ高き戦士でも、穢れなき高潔な騎士でも、死ねばそれで終わりだ。相手からすれば、これから殺す相手の事など、関係ないのだ」


「・・・」


「英雄であろうとも弱者に殺される。どんな弱者であろうとも英雄を殺せる。自分の常識が、ルールが、倫理観が通用しないのが戦場という場所だ」


「・・・でも」


「それらを貫きたいのならば、貫けるだけの力を持つ者でなければならないのだ。強者だけが矜持を戦場で語れるのだからな」


「・・・じゃぁ、あの荒武者の矜持ってなんなんだよ・・・」


「余にはわからぬ。奴が自ら語らぬ限りな」


その通りだ。


荒武者にしか荒武者の信念は語れない。ただ分かる事は、荒武者は殺せる相手を確実に殺す者であるということだ。だから最も気が緩んでいたと思われるマー坊から殺された。


『    』


『   っ!!!』


殺されて消えていくマー坊の死体から零れ落ちた黒い玉。荒武者はそれを静かに拾い上げようとした。


だがその前に雷華が動く。その速度を持って荒武者に急接近し、槍を放つ。対する荒武者は拾い上げる行為を中断し、雷華の攻撃に対して防衛行動を取る。


『   !!!』


『    !!!』


おそらく雷華は荒武者の戦い方をある程度把握したんだろう。にゃーるに向けて怒号の如く声を張り上げてそれを伝えれば、にゃーるもそれに返答し、戦闘に復帰する。


二人の最速が代わる代わる荒武者へと攻撃を叩き込む。先ほどまでならばこれで荒武者の動きを完封出来ていた。


『『  !!!?』』


だが、今はもうそれが出来なかった。二人の最速に荒武者では追いつけない。しかし、二人のコンビネーションは即席のもの。その速度で無理やり繋げ合わせ、追いつけない速度で繰り返していたからこそ荒武者は対応できなかった。


でも、今の荒武者は今までと違う。


コンビネーションの隙を逃さず、的確にその間を潰した。切り替わる瞬間を見逃さず、攻撃を置くことでそれを無理やり断ち、応用できないほどに二人のポジションを崩す。


まるで最初から二人の動きを熟知していたかのように的確に。


二人の最速は一人と一人に分断された。


『   !!!』


『   !!!』


『    』


そして最も狙われやすいのは荒武者にとって殺しやすい方。今の場合なら誘いに簡単に乗ってきたにゃーるだろう。桜花戦舞に的確な対応が出来ない者から狙うのは常套手段だ。


だが、これはあくまでも俺たちの常識の範囲内で考えられる事。荒武者にとってはまた別の考えがある可能性だって十分にある。


二人がそれに気付けるかどうか、それがこの戦いを左右するだろう。


「アール。アールが荒武者ならどっちから狙う?」


「明確に狙いは決めない。打ち合ってやれる瞬間が来たらそっちから殺る・・・が、『烈華』と『静華』は違うからな。まぁそうだな。『烈華』で戦うなら雷華からだな。速い方が乗せやすいしや殺りやすい」


「って事はアールの桜花戦舞は『静華』なんだ。ずっと『烈華』だと思ってた」


「む、嫁よ。お主桜花戦舞の二つの根幹を知っていたのか」


「ちょっと切っ掛けがありましたから。でも意外かも。どう見ても『烈華』だと思ってたから」


「むふー! そこは余の教え方が上手いと言って貰おうか嫁よ! 愛弟子の桜花戦舞は見ただけでは全く判別出来ぬように叩き込んだからな!!」


「「「「『しずか』??」」」」


「静かな華って書いて『静華』。桜花戦舞『静華』。荒武者が今使ってる『烈華』と対を成す桜花戦舞のもう一つの根幹を司る流派だよ」


「・・・何が違うの?」


「存在感で戦場を満たすか満たさないかの違いだよ」


「「「「???」」」」


「『静華』に関しては今度教えてやる。今は荒武者の動きを見とけ」


その辺は追々話すとしよう。今は荒武者だ。


にゃーると雷華と荒武者の三人の戦いは変化した。優位性を失ったにゃーる達は徐々にコンビネーションを崩され始める。


元々クランが違う二人が即席で組んだコンビだ。それを速さという力技で隙が無い様に見えていただけだ。常人であればこの隙を見つける事は絶対に叶わない。


が、荒武者はこの隙を的確に見つけ、切り返しが不可能な様に立ち回りコンビではなく個人へと二人を分断し続けている。


そして一対一に持ち込まれればおそらく二人に勝機は無い。それは先ほどマー坊の首が簡単に飛ばされた事から容易に判断できる。


だから二人はそうさせないために荒武者を押し込めるしか手立てがない。


あるいは土壇場で荒武者の『烈華』に適応して勝つか。


「どうする愛弟子。残酷な事を言うが彼奴等では荒武者に勝てぬ可能性が高い。技量の差が違いすぎる。だが愛弟子があそこに今行けば間違いなく勝てる相手であることもまた事実だ」


「お・・・お父さんが行けば勝てるんですかっ!!?」


「勝つとも。言い切っても良い。技量の差は愛弟子が行けば無くなる」


「父さんってそんなに強いんだな」


「この戦いにおいて最重要なのは桜花戦舞に対応できるかどうかだ。仮に荒武者が『烈華』だけではなく、『静華』両方の桜花の根幹を使えたとしても、愛弟子ならば対応できる。覚えておくがよい。桜花戦舞の武芸者が最も相対したくない敵は桜花戦舞の武芸者なのだ」


「そ・・・そうなの?」


「考えてみるのだミナツよ。戦場を存在感で支配できる自分が最も戦いたくないのはどのような相手だ?」


「ん・・・・と、支配できない人?」


「そうだ。自分優位な優位な状況に持ち込めない相手。つまり存在感を打ち消せるだけのモノを持ちうる相手だ。古の戦場では桜花戦舞の使い手が自軍にいるのが常識だったのだ。攻守共々にな」


「そうなんだ・・・!!!すっげぇ・・・!!!」


「まぁそれも魔法によって根底を覆されて時代に埋もれてしまったがな」


「あ」


「だが、いまこの場においてのみ、現在の常識ではアレには勝てぬのだ。あれに勝つならば古の常識を持ち出さねばならぬ。そしてこの世界でその常識を使えるのは」


「アールとマリアーデ様だけって事ですね」


「余が知りえる範囲ではだがな。余でも愛弟子でもない桜花戦舞の使い手且つ荒武者に対応できる実力がある奴がいれば話は別だがな」


「・・・そんな人いるの? 叔母さんの話的にそんな人今はいないんでしょ?」


「少なくとも人類領にはいないな」


「・・・じゃぁ”向こう”にはいるんですね?」


「いるとも」


「「「「いるの!!?」」」」


うん。正直マリアーデが生きているならもしかしてとは思ってた。


人類の最大の強みであり弱みはその寿命の短さだ。短いからこそ停滞せず前に進み続ける。進み続けるが故に古く使わなくなったものは忘れ去られていく。


だがもし、もしも寿命が長い種族ならばどうか。俺が知る限り寿命が長い種族は新しい事を受け入れる事が少ない。今までずっと守り続けてきたことをずっと磨き続けていく。良い意味で継承がしっかりしている。悪い意味では古い考えにこだわり続けているともいう。


だがこの瞬間にはそれが生きてくる。桜花戦舞は魔法という新時代の力について行けずに過去へと消えたもの。しかしそれはあくまでも人類に限った話。


例えばそう、魔人や亜人など、人類とは考えが違う種族ならばこの技術が残っている可能性は十分にあった。


「お主らは知らぬ相手だが、余と愛弟子にとっては旧知の戦友でな。愛弟子が現れるまでの長い時の中でも時折、余の元に来ては外の話をしながらお茶を飲む関係である」


「アアリーじゃねぇか」


アアリーとは、アフターストーリー時代の仲間である。種族は精霊。決まった肉体を持たないという意味では不老不死に最も近い存在である。


精霊という種族は魂を元にして生まれる種族だ。肉体が出来てそこに魂が宿るのではなく、魂が生まれて、その魂に適した肉体を世界から構築する。


更に肉体が死んでも魂は生きている為、時間が経てば新しい肉体を得て大地に立つ。仮に魂を殺されても、輪廻の輪に戻り生まれ変わるのだが、この際前回の記憶を持ち越せる。


要するに何度でも蘇り、殺しても時間と共に復活するので、個としては完結している種族である。


「だが彼奴は人類に愛想を尽かしたと言っていたからなぁ。協力はしてくれぬだろな」


「なんで? アイツかなり人類大好き勢だったはずだけど?」


「愛弟子の子孫、その血族が守り続けてきた国を気に入らないからと滅ぼした人が嫌いになったと言って人の前から姿を消したのだ」


「あー・・・もしかしてその妖精って性別的には女だったり?」


「難しいな。妖精は雌雄同体種である故そうとも言えるし言えないし、難しいな」


「言葉使いと見た目だけなら男だけどな。名前はアアリーって言うんだけど」


「漢の娘かぁ・・・」


「おいコラ」


くっそ言い返せねぇのがちょっと悔しい。見た目は完全に漢って感じなんだが、花が好きだったり、見た眼よりも可愛らしい仕草だったりをするので、まぁ身体は漢。心は女な奴なのだ。


「愛弟子が説得すれば手を貸してくれるとは思うがそれ以外だと見つける事すら困難であろうな。余ですらどこにいるのか把握しておらぬ故な」


「ならいない方向で考えた方が良さそうですね・・・ってなるとやっぱり荒武者を倒すならアールかマリアーデさん必須かぁ・・・」


「今の荒武者を見ている限りは間違いないであろう。ほれ見よ。戦う娘どもの呼吸が乱れ始めてきたぞ」


視界に映るにゃーると雷華の額には疲労が見え始め、今まで見えなかった呼吸の乱れも見え始めてきた。戦闘時間は決して長くはない。だがその技術の差を埋める為に二人は今極限を超えた集中力であの場に臨んでいるはずだ。肉体の疲労以上に、精神疲労が凄まじいだろう。


「考え方を変えれば、アールとマリアーデさんがやる気になればいつでも荒武者は倒せるって事ですよね?」


「うむ! 愛弟子が全力を出すならば余も本気でやるとも!!」


「絶対とは言い切らんが、まぁ勝てるな。師匠が本気で手伝ってくれるなら負ける方が難しいだろうさ」


桜花戦舞の使い手同士が戦う時、戦いを決定するのは数だ。桜花戦舞の使い手が多い方が勝つ。圧倒的実力差が無い限りはな。


例え俺でも平均的強さと技術を持つ桜花戦舞使い五人以上と正面から戦えば相手に飲まれてこっちの桜花戦舞は無力化される。残念な事に桜花戦舞は数には差を覆す力は無いのだ。


そしてそれが桜花戦舞の弱点でもある。意識や認識の支配で相手の意識を自分に向けさせることが出来ても、数で圧殺されてしまえばどうしようもない。例え桜花戦舞使いが周囲に居なくても、桜花戦舞だけで敵陣を滅ぼす事は不可能なのだ。


だって桜花戦舞はあくまでも、意識と認識を司る武術であって、戦う為の武術ではないからだ。


だから、桜花戦舞使いはそれとは別の戦う為の技術を身に着ける。それが剣であれ槍であれ、弓であれ、何だっていい。一度桜花戦舞で意識と認識を取り込めば、後は持久戦で生き残って、周りの友軍に文字通り背後から倒してもらえばいい。


これはあくまでも普通の桜花戦舞使いだった場合の話。


ここで以前言った話を覚えているだろうか。一騎当千の英雄が桜花戦舞を使える場合の話。その脅威度は跳ね上がると。


その理由はもうわかるだろう。


桜花戦舞だけでは出来ない事が、出来るようになるからだ。


敵の拠点を単騎で陥落させる事も、防衛を行う事も出来る。桜花戦舞を封じられても、それに頼らない戦いで生き残る事が出来る。


最もわかりやすいのは剣聖物語の主人公だ。桜花戦舞+αで武術を習得すれば今話したことが出来る。戦場で簡単に英雄になれるのだ。その為には周回プレイだったり高いプレイヤースキルだったりを求められるのだが。


んで、俺も例に溺れずあの世界では主人公だった訳だ。しかも俺の師匠は世界最強。んで俺も世界を救った剣聖な訳で荒武者に勝つ条件は全てクリアしている訳だ。しかも今、マイのおかげで荒武者の戦い方を視ている。そして癖も太刀筋も立ち回りも大方理解した。俺がそうなのだから師匠のマリアーデも同じだろう。二人でやれば、倒せる。


「けど、それは今じゃないだろうさ」


言い方は悪いが俺はもう主人公ではないと思っている。言うならばお助けキャラ。ある種の救済処置であると自分では思っている。特に俺とマリアーデが揃えばほぼ確実。今判明したアアリーがもしも合流すれば万が一も無いだろう。


更に言えば、アアリーが生きていたんなら他の長寿種族の仲間も生きている可能性は高いし、俺が知らない俺の時代の仲間もいる可能性だってある。協力してくれれば勝てない相手なんていないと思ってる。


だってそうだろ? 俺達はあの時代の邪神を完全に倒したんだから。それはこの世界に残る記録が、マリアーデの存在がそれを証明している。


戦火の悲種から生まれる邪神とあの時の邪神とのつながりは定かではないが、あの物語は一度完結している。なら次の物語は今の主人公たちに任せるべきだ。


これくらいの傲慢・慢心は許されるだろ?


まぁ何度も言うが例外はあるけどな。


「確かにアールが出てって解決したらそれはそれで不満たらたら言う連中はいそうだし・・・」


不特定多数が共生しているオンラインMMORPGならではの問題なんだよなココ。というかそれがあるからこそ俺はそういうRPで行こうと決めた訳だし。


もっと深く言うならそうだな・・・うちの子達が大人になった時に英雄になったりしたら嬉しい。なんて夢を今は見ていたりする。


「そういう事だからその時までは俺は動かない。新時代に意地を見せて貰うさ」


そう言って視点を戦場へと移す。


戦う二人からは遂に目に見えて疲労が見え始めた。動きにも粗が見え始め、キレが徐々に失われ始めている。状況は最悪だ。


この二人以外にまともに第二形態の荒武者と対峙出来る者が現状プレイヤード側に居ないのが何よりも重い。


一騎当千の桜花戦舞使い相手に集団で挑むのは自雑行為。故に少数精鋭で挑みこれを撃滅するのが最適解なのだが、その為の最低ラインが高すぎる。


装備やスキル、レベルだけでは埋められないプレイヤー自身の実力が求められる。それも魔法に頼らない高レベルの戦闘技術。


これを満たせるのが現状あの二人だけなのだ。あと一人、それこそ桜花戦舞使いがいれば戦況は変わるだろう。だがまぁ残念な事に、それを満たせる奴が今あの場にはいない。


俺もマリアーデも口には出さないが、完全に負け戦状態なんだ。


敗北を認め第一形態に戻し、対策を練るのが一番賢い選択だ。俺ですらここまで考え付いたんだ。人の集合知がこれ以上の事を考えられない訳が無い。


でもさ。


うん。でもなんだよな。


俺がにゃーるや雷華の立場なら、いいや、あの二人の立場じゃなくてもいい。あの戦場に立つ名も無き一人のプレイヤードだったら、それが分かった上で尚、挑むだろうさ。


負け戦だからなんだと啖呵を切って、無様だと言われても戦って、やり直しがあるからとかそういう安直な理由じゃなくて、一人の剣士として、諦めたくないからだ。


今もずっと戦ってる奴らもきっとそう。分かっていても諦められなくて、諦めたく無くて、必死に頑張ってる。今見えていない場所ではきっと、そんな奴らが全力で荒武者を倒すために頑張っているはずだ。


いつか俺がそうだったように、無理だとわかっていてもやると決めた事を貫くためにやれることを必死に探して、必死に試して、戦い続ける。そんな奴らがこの世界には大勢いるんだと、俺は信じてる。


そして、そんな奴らをほっとけない奴がいる事も、俺は知っている。


出会った時からずっとそうだ。お前はずっと見ていたと、大地と一緒に俺を見ていたと言っていた。そして言ったんだ。


『私は頑張る子が大大大好きなのよん』ってさ。


にゃーると雷華が荒武者により完全にバランスを崩された。そしてそれを逃す荒武者ではない。その凶刃が二人の首を飛ばす。二人も理解してしまった。これは避けられない。これは防御できないと。それが表情に出ている。それが悔しくて、でもでも諦められなくて、二人は必死にその凶刃から逃れる為に身体を動かす。


だが一手足りない。一歩遅い。荒武者は二人の抵抗を許さず、その首を斬り落とすだろう。


『    ♪』


『『   ッ!!?』』


『    』


そこに第三者が現れなければ、そこに立つ為のすべての条件を満たした戦士が加勢しなければ、二人の首はあっけなく狩られていた。


だがそのの未来はたった今否定された。他ならぬ第三者によって、すべての条件を満たした戦士がそこに出現したことによって。


『   ♥    ♪』


『『「「「「「なに此奴っっっ!!??!?!?!?!?」」」」」』』


きっとこういってるはずだ。


『人に愛想を尽くしたつもりだったけど♥あなた達見てたら昔を思い出しちゃった♪』なんて場違いは発言をしているはずだ。


声は見た目通り屈強な戦士で漢の声。だけど言動は乙女。そんな此奴の事を俺は漢女おとめって呼んでいた。本人も発音が好きだって言って気に入ってるくらいだった。


そんな奴が、たかが一回愛想尽かしたからと言って、二度と人に愛着を持たない薄情な奴ではないんだわ。


戦場に今、大地より生まれた精霊の戦士が、降臨した。




ーーーー




それは屈強の漢だった。


2mは超える高身長。動きやすさ重視でありながら、守るべき場所はしっかりと守り、動きを阻害しない軽装備。見せつけんばかりの筋肉。


そして・・・ツインテール。


「いやぁ私キュンキュンしちゃったわ♥ 貴女たちってばもう彼にそっくりさんなんだもの!!」


「「」」


絶句とは今の状況の事を言うだろう。


にゃーると雷華は自信の状況を正確に理解していた。連携を潰され、スタミナを消費し、何よりも精神疲労が限界に近かった。


一瞬。呼吸を整えるための一瞬の気の緩み。それが”被った”。偶然、ではない。二人は荒武者の支配下にあり、荒武者は完全に二人の動きを制御していた。いつかくるこの時をずっと待っていた。


そして待ちに待った瞬間。荒武者は二人の前から消え、二人の首を一直線上に捉える場所に立った。


それに気が付いた時、二人にはもう成す術はなかった。それでも、諦められなくて、認められなくて抗おうとした。けれどどうやっても二人が助かる手段は無くて、どちらかだけを生き残らせる手段もわからなくて、悔しさだけが彼女たちの中に溢れていた。


だが、第三者の登場で全てが変わった。


それは突如として表れて、ヤクザキックで荒武者を蹴り飛ばした。それも防御を許さぬ直撃。完全に認識の外からの一撃だった。


自分たちが生きている事を理解する前に、二人は現れた屈強な男の言葉に突っ込んだ。


「「お前誰だぁぁ!!?!?」」


それに関する返答が先のキュンキュン発言である。返答が返答になっていないのはさておき、この屈強な男が自分たちを助けてくれたことは確かである。


「と・・・・ともかく助かりましたわ・・・・その・・・お名前は何と?」


「アアリーよん。あーたんでもりーたんでも好きに読んでいいわよん♪」


「キャラ濃過ぎにゃ!!?」


「そういう貴方もキャラ戻ってますわよ?」


「・・・にゃ!!? ホントにゃ!!? あまりにびっくりしすぎて戻ったにゃ!」


「あら~♥猫ちゃん子なのね! かわいいわ!!ハグしてあげる!」


「ぎにゃぁぁぁあああ!?!?!?!?!」


するするっとにゃーるに近寄り是非も無くアアリーはにゃーるを抱きしめる。にゃーるは悲鳴を上げているが苦しくはなく、見た目とは裏腹にかなり繊細なものを扱いが如く優しいハグであった。悲鳴はそう・・・反射的にである。


「かわいいわん!!すりすりしちゃう♥」


「ぎにゃぁぁぁぁぁあああああ!?!?!?!?!?!」


「ちょっと今そういう状況ではありませんn「そうよネ無粋よね♪」っ!!?」


きゃるんと膝から足を上げてステップするアアリー。


それだけならば可愛らしい(?)仕草なのだが、それはいつの間にか迫っていた荒武者を、その軽快さから繰り出したとは思えないほどの破壊音と共に空へと蹴り飛ばした。


「全くもう邪神っていう存在はいつの時代も無粋よねん。でもこれで50秒は空に撃ちあがったままだから安心ねん♥」


「「」」


「さあ貴女達。一旦ここから逃げるわよん♥戦術的撤退ってやつね? あ、この黒いのはここにポイよ」


「っ!!? ちょい待つにゃ!! それは出来んのにゃ!!」


「そうですわ!! 私達はまだやれますわ!!」


「ダメよ。蛮勇は見逃せないわ。時には敗北を認める事も強い娘の魅力なのよ?」


「いや魅力とかそう言うのじゃn「その代わり、ここで引いたら貴女があの無粋な鎧ちゃんに勝つための事を教えてあげる」っ!!?」


「・・・ここは退くにゃ雷華」


「・・・わかりましたわ・・・けどアアリーという貴方。今の発言嘘だった時は容赦しませんわよ


「勿論ヨ♪じゃ、行きましょう? 貴女達の拠点にね♥」


こうして、荒武者第二形態との戦いは一旦の区切りを迎えた。結果としては敗北。


だが、敗北以上に、彼らは大きなものを得た。それは今後この世界に大きく変革をもたらすほどん大きなものだと気づくのは、もう少し先の事である。

漢女とかいて『おとめ』と読む。

最初は正直壊滅展開だったんですが、アールのポジション考えているうちに、こうしたいああしたいが幾つも浮かんできて構成変えたり今後に支障でない程度に設定考えたりしてこうなりました。


出現条件

・絶対に諦めず、最後の最後まで抗う事を辞めなかった勇者である事を、いつか共に戦った剣聖の姿の影を戦う彼らから漢女が見えた事。

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― 新着の感想 ―
ううむ…口惜しや…新に秀でるも古きに伸びず… 彼には逆立ちしても古き武術の頂きは目指せないでしょうね…彼にはその気も無いでしょうが 故にこそ、根底から「壊す」技術で対抗したい所…(今後の成長案を思考中…
 既に自分が主役だった物語の幕は降りた以上、『今がMMOゲームと云うプレイヤー全員が主役である舞台である事も踏まえて、あえて言うならば「前日譚の舞台の主役」である自分が出張る気はない』って事だな。  …
荒武者との戦いは第二形態まで到達し撤退。とはいえこれはイベント敗北みたいなものですから、対策して再戦するまでそう時間はかからないでしょう。その再戦までの間、少しでも荒武者の足止めが出来るのなら、齎され…
感想一覧
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