荒武者編:剣聖としての考え
投降頻度下げると話はしましたが、告知なしで二回投稿しなかった分くらいは皆さんに還元したかったので、久しぶりの一日二回投稿です。
書き立てほやほやです。(2024/10/3/20:23完成)
マイが寝ている間に起こった事を包み隠さずすべて話し終えると、マイも状況を飲み込んでくれたみたいだ。
「なるほどね。つまり第二形態が強すぎて四の五の言っていられなくなったって事でOK?」
「OKだと思う」
「私も行った方がいいかな?」
「「「「ダメ!!!」」」」
マイも参戦しようと発言すれば、四姉弟が揃って不許可のダメ発言であった。まぁ気持ちはわからんでもない。目の前でぶっ倒れてまだ調子戻ってないのにってのもあるだろう。
「嫁よ。子供らの気持ちも汲んでやれ。お主の意識が朦朧としている間ずっとそばにいて手を握っていたのだ。頑張れと応援するようにな」
「・・・それを聞いちゃって私行ったら私ダメな母親みたいじゃないですか」
「子を守る事こそ親の役目だ。目先の事ではなく、長期的に見た上で子を守れる親であれ」
「・・・わかりました。確かにそう。目先の安全のために、未来の危機を安全を捨てるのはダメだもんね。守るなら今も未来もどっちも守れる方を選ばないと」
「うむ! その判断が出来るならお主は立派な親であろうとも!」
「あはは・・・ちょっと恥ずかしいなぁ」
マリアーデとマイの母親とは何ぞやトークを聞きながら、場違いではあるがほっこりしていた自分がいる。嫁姑問題がないいい家族関係を感じているみたいな。そんな感じ。
「そういう意味ではアールの残るって選択は親として満点だね。本心は別として」
「おっと?」
「ぬっふっふ! 愛弟子よ! 逃れられると思っておったのか? 残念だったな! 余はお主も逃さぬぞ!」
外野でほっこりしてたかったんだけどなぁ。
「アール。本当は参戦したいでしょ?」
「間違いないな。愛弟子も本来ならば今すぐ行きたいはずだ」
「そ・・・そうなのか父さん?」
嫁姑が俺の事を完全に理解してる件について。
「本心を言えばな。けど今はダメだろ」
「・・・行かないで」
「行かないでください~!!」
ハルフユコンビが両サイドから腰を抱きしめるようにくっ付いてきた。確かマイの魔眼の力で荒武者とプレイヤーの戦いを見てたんだっけな。まぁ実際に俺と荒武者第一形態との戦いは見てるんだけども。
「ふふ、大丈夫だよハルちゃんフユちゃん。少なくとも今スグお父さんが飛び出したりする事は無いよ」
「・・・なんでさ」
「それはね。お父さんがお父さんでもあって剣聖でもあるからだよ」
「母さん・・・どゆこと?」
俺マイに完全に思考読まれてない? コテンと首を傾げて?マークを浮かべたミナツに対して、その頭を優しく撫ぜながらマイは言った。
「半分は家族がここにいるから。今のお父さんの行動指針には私たち家族が第一優先なの。だから現状私達に被害が無い今は行く必要が無いって事」
「じゃあもう半分は何なんだマミー」
「半分はね。お父さんの我儘なの。荒武者は確かに邪神で世界の敵だけど、今のお父さんの眼では、一武芸者として荒武者が映ってる。剣聖であるお父さんが荒武者と戦うなら、一武芸者として、戦いたいって思ってるんじゃないかな。援護とか作戦とか、そう言うのを抜きにして、どっちが強いか確かめ合う戦いを一度したいんだよ」
速報&朗報&悲報。
ウチの嫁が完全に俺のわかり手な事が判明したことについて。
いやさ? 何も言うことなく俺の心理完全に当ててくるの一周回って嬉しいけど怖くもあるんですけど。嬉しさの方が勝るけども。これ完全に隠し事とか絶対に出来なくなる奴だわ。
「・・・そうなの?」
「うん。母さんが父さんのこと全部言ってくれたから何も言うこと無いわ」
「余も驚くくらいに愛弟子の理解者で驚いておるぞ」
「ずっと一緒に居ましたから。わかりますよ。この人の事は全部」
これさ、絶対にマイの事手放しちゃダメだわ。手放したら俺絶対に後悔するだけじゃ済まんぞ。元より手放す気は全くないけれどさ。
「でもアール。貴方が荒武者の事を知る手伝いは私にもさせてね」
そう言うとマイは手の平を上にし、魔法を使った。三重に重なった魔法陣からは稲光が走り、まるで小さな天地創造の瞬間を見ているかのような魔法だった。
「母さん!!?」
「大丈夫だよナツ君。この程度の魔法なら今の私でも余裕なんだから」
この程度と言うが、どう見てもこの程度で済まないレベルの魔法だと思うんですが?
そう言う前に魔法陣が拡散したと思えば今度は一気に縮小した。そして『ポン』と何ともまぁ可愛らしい音を立ててそれは生誕した。
「「「可愛い・・・」」」
「・・・とり?」
『ぴー!』
どう見ても小鳥。シマエナガとかそれくらいの可愛らしいサイズの鳥がマイの掌の上で羽を広げていた。
「うん。魔力生物創造成功。貴方は今から『ピーちゃん』だよ」
『ぴー!』
「まりょくせいぶつ?」
「そ。私の魔力を元にして生み出した生物だから魔力生物」
「余、今愛弟子が何を言いたいのか理解したが正直余も目の前の光景を信じられぬ。というか嫁お主、今日見た全ての魔法この世界の禁忌にでも触れたのではないのか?」
「さぁ? でも禁忌に触れたから罰されるなら、罰する存在を消す魔法くらいは創る気ですけど」
さらっととんでもない会話するのやめて貰えないかな!!? おじさん全然ついて行けないんだけど! 誰がオジサンじゃい!! まだ二十歳だボケ!!
完全に置いてけぼりなんですけど!!?
「それじゃあピーちゃん最初のお仕事。荒武者の偵察に行ってきて。着いたら上空で待機ね?」
『ぴー!!』
するとピーちゃんと名付けられた小鳥は消えてしまった。でも一瞬魔法陣らしきものが見えたからもしかして転移魔法で飛んでった?
「と・・・というか母さん起きたばっかりなのに魔法使っちゃダメだろ!! さっきまで倒れてたのに!!」
「ナツ君。私が教えた魔法使いが強くなる方法」
「え?」
「答えられるよね?」
「ま・・・魔力が空になるまで使って超回復で回復してまた魔法を使います」
「今私がした事ってどう見える?」
「・・・ま・・・前に魔法教えて貰った時の俺と一緒・・・」
「そ。だからこれが私の魔法の訓練なんだよ」
「「「・・・マミー恐るべし(ですね)」」」
「向上心の塊かよマイ」
「余もビックリだ・・・」
「すぐそばに常に先を目指す人がいるからね。立ち止まってられないんだよ」
全員の視線が俺に集まった。マリアーデからは”そう言えばお主の嫁だったな”という視線が。
四姉弟からは”あぁ、そう言われれば確かに父さんもこんな感じな人だった”という視線が。
俺自身も、そう言えばマイは俺に影響受けて剣聖物語のクリエイションモード挑戦してたっけなぁって思い出してたり。この世界での二つ名が超越者だったりと、マイはかなりぶっ飛んでる奴だった。良い意味でだぞ?
「お。ピーちゃん優秀だね。着いたみたい。アールは初めてだよね。今から魔法使うけどその時に自分の中に別の力が入り込んでくる感覚があると思うけどそれを受け入れて」
「わ、わかった」
「・・・マミーそれも平気なの?」
「過去を観るのは流石に無理だけど、今を見せるくらいは全然問題ないよ。それじゃぁ行くよ『魔導女帝の領域』」
それは足元に顕現した魔法陣。それは俺たち家族全員をその陣内に取り込むと、体の中に得体のしれない何かが入ってきた。一瞬気持ち悪い感覚があったが、すぐにそれがマイの魔力だとわかった。
理由を聞かれると答えられないんだけど、これは間違いなくマイの魔力だ。ある意味でマイの血肉である。マイの中で生まれて循環していた物が俺の中に流れ込んでくる。
これを受け入れるか。なんだ。そうと分かれば簡単だ。全身の力を抜き、マイの魔力が身体をに入り込むことを受け入れる。足の指先から頭の先まで、マイの魔力が俺の中を満たしていく。
「ん~アールゴメンちょっと目を瞑ってそのまま力抜いててね。アールの魔力回路普通の人と違うからそれに合わせて調整するね」
「手間かけてごめんな?」
「気にしないで? それにあアールを好きに出来るってある意味役得じゃない?」
「そこ、子供らの前でイチャいちゃつくでない。悪影響を与えたらどうするのだ」
「??? 父さんと母さんいつもこんな感じだよ?」
「・・・うん。いつも通り」
「ですです」
「仲良しだ」
「そういう事なら良いか。では存分に仲良しするがよい!」
あ~体の中を弄られてる感じがする~。体内がもにょもにょしてる~。
とか馬鹿な事考えてたらスンと魔力の動きが落ち着いた。
「取りあえずこれで仮回路出来たから準備完了っと。目を開いていいよアール」
「ん。おぉ・・・すげぇなこれ」
自分の眼で見てるはずなのに、画面越しに物を見ている。しかもかなりの高画質。細部までバッチリ見えるのがまたすごい。
「それじゃ荒武者の光景を見せるよ。『魔導女帝の義眼』」
すると映像越しに見ていた目の前の光景が、紙芝居の様に切り替わった。空から地上を見ている。視点は安定していて、ブレる事も無く、眼下で行われている戦闘がハッキリ見える。
「皆見えてる?」
「見えてるよ母さん」
「見えてます~」
「・・・問題ない」
「大丈夫だ」
「二度目だがやはり凄いな嫁」
「なんか望遠鏡で地平線見てる気分だわこれ。マイスゲーな」
小粒くらいにしか見えないが動いてるのが三つ。動き的に連携してるのが多分にゃーると雷華。残り一つが荒武者だろう。流石に遠すぎるけど速度を知れるだけで十分すぎるし文句は無いな。
「どうアール? なんか希望ある?」
「いやいや、これ見せてくれるだけで充分だよ」
「って事はもっと近くで見たいのね。了解。調整するね」
「え?」
するとなんてことでしょう。カメラのズームが如く。見える光景がより繊細に、見やすくなっていく。先ほどとは比べ物にならない位三人の動きが良く見える。
「嫁よ。真上からではなく先ほどの様に横方向から見る事は可能か?」
「出来ますよ。ピーちゃん近くの高台に降りて」
見ている光景が徐々に下へと降りていく。そして丁度いい場所に着いたのか視点が落ち着き、まるでスタジアムの最前列で野球選手を見るような、あるいは中継カメラで投手と打者の戦いを見るような、本当にそういうものが観える。
「これさっきよりも見やすくないか?」
「さっき見た時よりもすごく見やすいですマミー」」
「・・・すご」
「母さんすげぇ・・・!!!」
「さっきと違って私の魔力で創った魔力生物越しに見てるからね。魔法を介した時よりも繊細に見えるはずだよ」
「本当に。魔法というのはすさまじいな。余の時代からは想像も出来ぬ進化を遂げておる」
多分。この世界の中で最上級の魔法使いだからできる芸当だよ。多分その辺の魔法使いにこれやれって言っても絶対に出来ないと思う。
これはメタ発言だけど運営もマイ対策するわな。マイが本気出せば地平線の向こうから邪神に対して攻撃出来るから邪神というメインコンテンツをマイ一人で完封できるようになってしまうから。
更に言えばマイの発想から着眼点を得て魔法を使える人、魔法を創れる人が似たような魔法をたくさん作るかもしれない。そうなると完全に魔法ゲーになる。
運営としてはそれは避けたいので魔法無効の敵とか出す。こうすることで魔法と物理両方を使えるようにスキルや装備を整えたり、パーティーを組んだりするようになるから。
で、考えを目の前で起きている戦闘に移そう。
聞いていた通りにゃーると雷華が二人がかりで荒武者を抑え込んでいる。
先手の後、後手の先とでも言うべきか、二人は荒武者の挙動に対して後手に回っているが、後手に回っているだけで自由に動かせないように立ち回っている。
雷華の速度前戦った時よりも速いな。にゃーるの抜刀速度も比べ物にならない。しかも両者的確に荒武者の動きを殺している。
荒武者がしたいであろう最善手の予備動作は許してもそれ以外は許していない。距離を取れば雷華が、間合いに入っていればにゃーるの抜刀術が。荒武者の行動を完全に阻害する。
「・・・これ、”可笑しくないか”?」
「うむ。”可笑しいな”」
「「「「「え?」」」」」
俺とマリアーデの意見は一致した。一見にゃーると雷華が荒武者を完全に抑え込み負傷させているように見える。それは正しい。荒武者だけを見ればこの二人がこのまま粘れば荒武者という”邪神”は倒せるだろう。
「と・・・父さんどういう事なんだ!?」
「荒武者が桜花戦舞をあまり”使ってない”んだよ」
「えっと・・・使えないじゃなくて?」
「桜花戦舞はやろうと思えば呼吸するのと同じなのだミナツよ。お主は呼吸するとき何か特別な事をするか?」
「し・・・しないけど」
「だろう? では荒武者はそれが出来るはずなのに”何故それをしない”?」
「・・・? ・・・っ!!? まさか・・・”学んでる”!!?」
「「「っっ!!?」」」
ハルナがおそらく正解だと思われる答えに辿り着いた。正確に言うならば、錆落としをしているんだと俺とマリアーデは判断した。
「待って!? 荒武者は桜花戦舞と超速度で戦う邪神じゃないの!!?」
「マリアーデ。確認するけど桜花戦舞を使ったのは間違いないか?」
「間違いない。余の名に懸けて良い」
「マイ。可能な限りでいい。荒武者だけにを注視できるか?」
「わ・・・わかった!!」
視線が動く。速度に視界が追い付かないが、動いてる荒武者が見える範囲まで視界が近づき、その様子を観せてくれる。
「「・・・!!!」」
マジか。
「マリアーデ」
「言うな愛弟子。分かっておる」
「ごめんわかんない!! 教えてアール!」
「この荒武者。俺が戦った荒武者じゃない」
「っ!!?!」
「正確に言うならば中身が違うのだ。直接見ている訳ではないから断言は出来ぬがな」
「っ!! ちょっと無理する!!」
「「「マミー!!」」」
「母さん!!」
「大丈夫! アールマリアーデ様三秒で判断して!!」
「充分だ」
「スゥーっ!!!『魔導女帝の義眼』同調!!」
今見ているものが画面越しから俺の眼に変わった。見逃すな。意識を全て荒武者へ。
身振り手振り、呼吸。気迫。そして・・・眼。
「フハァッ!! フーフーっ!」
「母さん!!」
「大丈夫、余裕持って戻したから・・・ハァーハァー・・・!!」
「こ・・・これ飲んでください!」
「ありがとうフユちゃん。んぐっ・・・ぷはぁー・・・」
再び画面越しの映像に戻る。
「それで・・・わかった・・・?」
深呼吸を繰り返すマイ。本当に頑張ってくれたんだな。ありがとう。
「あぁ。間違いなく中身が違う。俺が最初に戦っていた時には感じなかった戦意を感じたし、奴の眼に火が燈ってた」
「魂の色も違った。だが近くに最初に見た邪神の魂もあった」
「邪神の場所は・・・?」
「抜刀娘が持っていた球体にあったぞ。そして微かに荒武者の中にも残っていたが・・・他ならぬ荒武者がその残骸を削っていた」
俺達の話を纏めるとこうなる。邪神としての荒武者は間違いなく存在している。今それは黒い球体になり、にゃーるが持っている。そして中身が無くなったはずの荒武者の中には別の魂が入っている。
その魂の持ち主こそ桜花戦舞を使える者だ。そして今、そいつは桜花戦舞を使っていない。使っていない理由は、おそらく身体がまだ魂に定着していないから。あるいは体に残る荒武者の残滓を消すために何らかの力を使っている為桜花戦舞を使えない状況なのか。
そして今の荒武者が戦っている理由、行動原理の様なものはおそらく、にゃーるがもつ邪神の魂を奪う為だろう。何故そうしているのか。それはわからないが、荒武者に邪神の魂を渡してはいけない。そんな気がする。
俺とマリアーデが話しながら答えを纏めているのを四姉弟とマイは静かに聞いている。だけではなく。
「でもあの黒いの荒武者が奪い返した時、自分で壊してたよ?」
「多分壊したら邪神の魂が身体に戻ってるんじゃないねぇかな?」
「・・・なんで戻すのさ。あれ好き好んで戻すものじゃないんでしょ?」
「第一形態に戻ったことも不思議・・・でもないか。魂が戻って来たから元に戻った。けど今の状態も荒武者からしたら元の姿。でもそれなら尚更どうして?」
俺達の話を聞きながら何故そうしているのかを幼いながらも考えを出し合いながら、マイはこれまで見てきた荒武者の情報を纏めながらその理由を求めて問答を繰り返す。
現状を見ながら出てきた情報を皆で精査していく。長いようで短い時間の中で、全員が納得できた答えに辿り着いた。
「私達はアレの事をずっと荒武者って呼んでた。そして荒武者=邪神だって考えてた」
「うん。だけど”そこが違った”んだよね母さん」
「うん。あれは『邪神種』っていう”邪神であって邪神とは違う”別の新種族なんだ」
「・・・その邪神種ってのは戦火の悲種だっけ? それが変な事が起きて生まれた存在ってことでしょ。たぶん」
「おそらくな。だが明確に生命に対して”敵意”がある。邪神が本来持っていないはずの感情をな」
「邪神から生まれたけど邪神が嫌いで、でも人も嫌いって事ですよね」
「邪神種は邪神を殺すために邪神を自分の中に戻す。そして邪神を自分の身体に戻してその魂を殺す。その為に邪神の魂を狙ってる」
「邪神種の目的は定かではないが下手をすれば邪神以上に人類種に対して脅威となりうる存在であるという事であるな」
要するに『邪神』=『邪神種』ではなく。『邪神』と邪神から生まれた『邪神種』がいる。そして邪神種は生命種に対しだけでなく創造主とも捉えられる邪神に対しても敵意がある。
俺たち家族がたどり着いた答えがこれだ。これなら俺たち全員の違和感が全て無くなる。
「ちょっと今の話チーザー達にするけどいいよね?」
「勿論。でもあくまでも俺たちの想像の領域だ。絶対じゃない」
「わかった。ありがとうアール」
「気にすんな。アキハ達も一緒に考えてくれてありがとうな」
「いつか私達も無関係じゃいられない相手なんだろう父さん。なら今から考えていけばいいって思ったんだ」
「邪神も邪神種も全部倒すけどな俺!」
「・・・短絡的過ぎ」
「馬鹿ですね~」
いつも通りの四姉弟だけど、前より少し大きくなったな。見てる世界が少しだけ広くなっている。それに心も強くなってる。
「さて、愛弟子よ」
「勝つよ」
おそらく勝てるかと聞きたいのだと察したので心のままに答えた。
「根拠は?」
「無い。けど前世からそうだった。勝てる勝てないじゃなくて、俺の戦いはいつも勝たなきゃ次が無い戦いばかりだった。なら今回も何も変わらな・・・くはないな。今はこの子たちがいる。この子たちの未来の為に、俺は勝つよ」
「・・・最近、その眼を見る機会が無かった故、活を入れるべきか迷っていたが、余の早計だったな。愛弟子はあの頃と変わらない澄んだ眼を、その中に熱く輝く光がある。そしてその覚悟を持った強い魂がある。余が好んだ。余が見出した見つけた大切な愛弟子の魂のままだ」
つまり鈍っているように見えた訳だ。イージーゲームばかりしていたからあの時の様な戦いが出来るのかと、マリアーデは心配してくれていた。
けど今の俺の返答を聞いて、問題ないと判断してくれた。
「あぁもうこういう時に出ないんだからアイツ!! アールどうする!? 行く!?」
「落ち着けマイ。焦っても良いこと無いんだから」
「・・・ごめん。でも私たちの考え通りなら考察の域を出ない内に倒さないといけないんじゃない?」
「逆だよマイ。最悪を知らないといけないんだ」
「ふぇ?」
「今行けば確実に倒せる。けど、そうしたら最悪の状況を知る事が出来ないんだ。最終形態を、文字通り人類種の天敵の姿を見る事が無いまま俺達は”次”に備えないといけなくなる」
「そうなる前に毎回倒せば」
「ここが俺を中心とした世界ならそうする。でもな。ここは皆を中心とした世界なんだよ」
この世界の主人公は俺じゃない。俺達なんだ。だから、俺だけですべて解決するわけにはいかない。そうしてしまえば最後、この世界はから新人類は減っていくだろう。
俺はそれを望まない。少なくとも。俺が主役の物語は一度幕を閉じたのだ。言うなら俺は前作主人公。今の主人公たる彼らは自分たちの力で立ちはだかる脅威を振り払う使命がある。
「剣聖に頼りっきりの世界にしちゃいけない。立ちはだかる脅威に対して誰もが様々な形で挑まないといけないんだ。今を生きる命として」
その機会を俺が奪えば二度と取り戻せない。前作主人公がいるから任せて良いだろうと、堕落する。もしそれを運営が見たらどうするか。間違いなく英雄√エンドだろう。救いは無く、全ての生命は死に絶え終わる。それも一つの物語ではあるだろう。
けどそれはあくまでもここが仮想世界であるプレイヤーだけに限る話。この世界で生きる生命にとっては文字通りの終わりなのだ。そんな終わりに、俺はしたくないんだ。
「じゃぁ、アールは戦わないの?」
「戦うよ。でもそれは皆が頑張って頑張ってギリギリまで踏ん張って、何度も立ち上がって、それでもダメな時、もうダメだって諦めた時だ。『まだだ。まだ終わりじゃない!』そう言って、絶望した皆に希望をもう一度持たせるのが、この世界で俺が剣聖としてやるべきことだ」
「・・・父さん随分傲慢じゃない?」
「これくらい傲慢でも良いんだよ。俺は二度世界を救ってるから。次は別の奴にその役割を繋ぐのが剣聖の仕事だ。まぁ状況次第では俺は普通に速攻で敵潰すけど」
「・・・その状況って?」
ハルナの頭に触れながら、しっかりと目を見て答える。
「アキハに、ミナツに、ハルナに、フユカに、マイに、マリアーデに、死ぬ可能性が生まれた時。俺は今話してた事情も状況も無視して、悉くを薙ぎ払う剣聖として戦うよ」
「・・・父さん家族好きすぎじゃん・・馬鹿」
「そうだよ。俺はただの父親だ。それでいいんだよ。それ以上を望まない。それ以上が必要な時が来ない事を俺は願ってるんだ」
前作主人公は隠居したい。なんてな。
「何気にマリアーデ様も家族判定になったんだねハルちゃん」
「っっ!!?」
確かに。今否定しなかったな。というか俺も当たり前のように家族認定してたけど皆良かったかなって今になって心配だったけど、一番人見知りのハルナが受け入れてくれたんなら行けるだろう。
「やっ!!? ち・・・ちが「ぬおぉぉおおおお娘っ子よぉぉぉ余は! 余は嬉しい!! ぎゅーっと抱きしめさせるのだ!!」ふぃゃ!? ちょはずい・・・!!」
宣言通りハルナをぎゅーって抱きしめるマリアーデ。声は凄く嫌そうだけど、表情はそこまで嫌そうではないハルナ。なんだかんだマリアーデの事を身内判定してるんだなと思うと嬉しく思う。
「今ハルナじゃない声したけど」
「ミナツに聞かれるとかハルナ姉さんも災難ですね」
「その・・・まぁなんだ」
「ちょっと待ってその反応!! 俺だけ!?知らなかったの!?」
「みたいだね。私はお風呂で可愛いハルちゃんの声聞いたことあるよ」
「俺も昼寝してた時に寝言で可愛らしい声聞いたな」
「安心するのだミナツ! 余は今初めて聞いたぞ!!」
「~~~~っ!! 忘れろ馬鹿とおばさん!!」
「っっ!!聞いたか愛弟子!! 今ハルナが余の事を”叔母”さんと呼んだぞ!!」
「ちょっ!!? 多分それ文字が違う!!!」
「恥ずかしがりおってこやつめ~! なでなでもしてやろう!!」
「あああああああっっ!!!」
「・・・うん我が家は今日も平和だね!!」
ガチ目の悲鳴を上げ始めたハルナから目を逸らしつつ、マイの平和宣言であった。
「っと、師匠切り替えの時間だ。荒武者の動きがまた変わった」
「む。そのようだ」
「やっと解放された・・・お父さん」
疲れたとばかりに解放されたハルナは直ぐに俺の元にやってきて膝の上を占拠した。そのまま俺に体重を預けてきたので、それを受け止めつつ、目に映る映像に目を向ける。
「・・・これって」
マイでもわかるほど、荒武者の動きが変わった。
「桜花戦舞」
邪神種『荒武者』が遂にその本来の力を発揮する。
皆さんの感想が私を支えてくれる何よりの応援です。是非応援メッセージなどの感想を下さい。よろしくお願いします。
次の更新は10月20日を予定しています。今度はマジです。




