荒武者編:動き出す戦場
ヨッシャやるぞー
「にゃー・・・飽きたのにゃ」
立ち上がる荒武者を一刀両断しながら、にゃーるは愚痴を漏らした。繰り返す事はや数十回は超えて三桁目に突入するほどだった。
「じゃんけんは絶対だぜにゃーる」
「わかってるにゃし。でもこれだけやって二体目も形態変化もしにゃいとかどうなってるのにゃ」
「そこは司令部に戻ったチーザー達の報告待つしかないんじゃね?」
「にゃー」
じゃんけんで決めた現状維持の為に、にゃーるとマー坊は只管に荒武者を倒し続けていた。にゃーるとしては推定第二形態、あるいは二体目との戦いを望んでいたので状況的には不本意であった。
それでも、じゃんけんの結果は絶対なので仕方がない。
「んにゃ? 誰かこっち見てるにゃ」
「・・・マジじゃん。あれ装備的にネクロロンの所の偵察組か?」
「伝令でもあるのかにゃ? もしかして遂に遂に動くのかにゃ!?」
「あ、帰ってった」
「・・・にゃーんだ」
見て分かるほど肩をがっくりと落すにゃーるだが、起き上がった荒武者への攻撃は一切の迷いはなかった。もはやにゃーるは荒武者の気配を完全に掴んでおり、目で見なくても何をしているかを察することくらい容易だった。
「いつも思ってたけど後ろにも目着いてるのかよお前」
「気配察知スキルと感覚強化スキル二つをにゃーの配合で合成して生み出したにゃーのオリジナルスキルにゃ」
この世界にはスキルがある。ジョブ固有のスキルと装備に付与されているスキル、そして特定の行動をする事で習得できるスキルの三種がある。
それぞれのスキルは一定以上使用することで熟練度が上がり、熟練度がMAXになる『宝珠:○○』というアイテムが入手できる。
この宝珠は装備のスキルスロットに装着することができ、ジョブを変更したり、装備を変更した場合でも、他のジョブのスキルを使用できるようになる。
そしてこの宝珠は通常のアイテムと違い、宝珠を生み出したプレイヤー限定ではあるが、使用しても個数が減らない無限アイテムの扱いなのだ。正確に言えば、宝珠とは、プレイヤードの肉体と魂に刻み込まれた力を外に形にした物なのでその何方かが残る限り無限に生み出す事が出来る。
更にこの宝珠は他者への受け渡しが可能であり、これにより錬金術師や鍛冶師の力を借りる事で『スキル合成』というのが出来るようになる。スキル合成時には宝珠の他に様々なアイテムを使用でき、その配合次第で様々なスキルに変化する。
魔法の創造と違い、絶対に自分が望むものになるとは限らないが、魔力やMPなどに依存しないという意味ではうまく住み分けが出来ている。
だが逆にそれが楽しいと一部のプレイヤーからはスキル合成の事を『ガチャ』や『ギャンブル』と言って沼に嵌っている層もいる。
にゃーるが独自に生み出したスキルはにゃーる自身が言ったように『その他』に分類される『ジョブ:偵察者』の固有スキル『気配察知』と特定の行動をした事で習得したスキル『感覚強化』の二つの宝珠といくつかのアイテムを合成したことで生み出した唯一無二のスキルである。
勿論宝珠化出来ている為他人への受け渡しも可能なのだが、にゃーるのアイデンティティが無くなるので誰にも渡していない。
にゃーるに限らず、自分だけのスキルを創ったプレイヤーは基本的にそれを他人へ公開しない。そのスキルが有る限り自分は主人公なのだと信じられるというのが主な理由だ。つまり、性という奴である。
「それは知ってるけど、スキル名とかさ。そろそろ教えてくんね?」
「他人じゃにゃくにゃったけど秘密にゃ。親しき中ににゃんとやらにゃ」
「ちぇー」
「逆におみゃーは汎用性が過ぎるのにゃ。自分のビルド公開とかしてるのおみゃーくらいなのにゃ」
自分のステータスや装備・スキル情報の公開はある意味自分をさらけ出している事と同意だ。それを見られれば対策されることもあるし、装備目当てで襲い掛かってくるPKを呼び寄せる事にもなる。
それでも、自分のステータスを全公開している『俺はマー坊』というプレイヤーはそれを更に上回る異常者である。
マー坊はそれだけでなく、自分が創った合成スキルの配合まで公開しているのである。それこそ、宝珠にして売れば簡単に大きな稼ぎになるにも関わらず、一般無料公開しているのだ。
その為、初心者から上級者になるまでのスキップに、彼が生み出したスキルを入手することも非公式の攻略サイトに掲示されているくらいだ。
逆に言えば、それくらい汎用性の高いスキルばかりを彼は創り装備している事になる。汎用性に特化したステータスと装備で全身を固める一般人上級者と言われても全く違和感が無いのが『俺はマー坊』というプレイヤーなのだ。
ただ一点、『覚醒者:剛嵐武神』という能力さえなければ。
「俺は能力値自由に弄れる力持ってるからな。汎用的に強い方が応用もしやすいんだよ。それに俺は全体的に全員が強くなってくれればそれだけ俺だけが試す事減るし楽が出来るからな」
ステータスが平均的に高いという事は、その全てを集約すればどの数値も一時的に極振り状態になれるという事だ。
防御が高い相手には、その防御を上から砕ける攻撃力を。
高い攻撃力を持つ相手には、その攻撃が通らない圧倒的防御力を。
他にも機転を利かせれば様々な状況に応用でいる覚醒者。『剛嵐武神:俺はマー坊』という男の強さはそこにある。
「・・・まぁ、それで助かってる層もいるし、にゃーも一部世話にはにゃったからにゃ」
「だろ? そういうそういう訳だから最近は新しいスキル合成の素材集めとか結構してたんだよ」
そして、この俺はマー坊というプレイヤーはスキル合成の沼に嵌ったプレイヤーである。様々な配分でスキル合成を行いその結果を全体公開してまた新しいスキルを合成する。
その為にわざわざ戦闘職ではない錬金術師のジョブをカンストさせてスキル合成に必要なスキルを宝珠化させて装備に組み込んでいるくらいには。
公開したスキルの使用感を作り試したプレイヤーから聞き出してまた合成する。要するに彼にもメリットがあったからこそ全体公開をしている訳だ。
これが『俺はマー坊』というプレイヤーのこの世界の楽しみ方なのである。ある意味で次世代の主人公を育成していると言っても過言ではない。
「にゃー。相変わらず沼ってるにゃー」
「お? 興味あるか? 布教していいならいくらでもするが?」
「お断りにゃ。にゃーは居合に全て労力を捧げてるのにゃ」
「ちぇー」
「露骨にガッカリしてるのにゃ。このスキルガチオタクめ」
「ガチオタクって。普通にオタクでよくね?」
「周知されてる既存のスキル全部宝珠化させてる奴が何言ってるにゃ。所持スキル数ならおみゃーを超えるのにゃんかいねーのにゃ」
「それくらいはスキルに対する礼儀だろ?」
「駄目にゃコイツ。早くにゃんとかしにゃいと」
そんな雑談をしながらも、二人は仕事はきっちりこなす。
横に転がりながら起き上がり、即座に斬りかかろうとしてきた荒武者の動きを見逃さず、にゃーるは荒武者の動きを先読みし、立ち上がった荒武者の背後に回り抜刀術にて一閃。
マー坊は徒競走の如く走り、距離を詰めて荒武者の頭部を鷲掴みにして、力を込めて兜を砕く。
完全にバランスを崩した荒武者の胴体目掛け、マー坊は大剣を持ち上げ、にゃーるは抜刀の構えを取り、特に合図することなく同時に荒武者を砕き切った。
「さっきよりも荒武者の頭脳上がってね?」
「そうにゃね。にゃーたちから距離を取る事覚えてるのにゃ」
「それでもバラバラにしてるけどな。一応欠片とか集めとくか」
「そうにゃね。現状維持には下手にゃことしないのが一番にゃ。にゃーとしては下手なことして現状打開したいにゃけど」
砕けた鎧の”欠片など”を蹴り寄せて一か所に集める。すると荒武者はす少しずつ再生していく。
「この”黒いの”が再生の起点にゃね」
「どっちかというと黒いのが利用されて再生させられてる感じもするけどな」
「にゃあこれを奪ったら二体目かあの残像じみた奴が出てくるにゃね」
「マジやめろよ? 俺らがここから荒武者動かしたら多分戦線崩壊するからな? 少なくとも対策案か試験案試す準備が出来てからだぞ?」
「おみゃーもしつこいにゃ。わかってるにゃって。でも形態変化したらにゃーが最初に戦いたいのにゃ。今度はにゃーが勝つからにゃ」
「それはネクロロンの作戦次第じゃね? 俺らは今回”参加者”って体でここにきたんだし」
「そこはネクロにゃんを信じるのにゃ・・・チーザーが変な事言ってにゃいと良いけど」
「それは・・・無理じゃね?」
「いやわからんにゃ! もしかしたら昔の事思い出してセンチになってるかも知れんのにゃ!!」
「あぁ~邪神戦初期時代に指揮官やってた時代の事か。今じゃ考えられんほど丸かったよなチーザー。絶対赤の他人だと思ってたもん俺」
「にゃーもにゃ。あんな真面目な奴がにゃー達が知るチーザー紫な訳にゃいと思ってたのにゃ」
「そのあとハチャメチャしてたのもあの真面目さを隠すための演技だと思ってたぜ俺」
「わかるにゃ~いつの間にか『此奴演技しかしにゃくなったにゃ。チーザー二世にゃ』って勝手に思ってたにゃ」
「俺もだよ。この前オフ会メンバーとして初めて会った時マジで『お前マジでチーザーだったのかよっ!!?』って叫んだし」
「聞いてたのにゃ。あの時のおみゃーが皆の代弁者だったのにゃ」
「にゃーるは猫キャラ作ってたから全くわからんかったし」
「ふ、キャラづくりは大事にゃ。逆におみゃーはやってる事が変わってなくてすぐわかったけどにゃ」
「それも込みで似たようなことやってたからな。おかげでももちゅんとレイレイとは早い内にこっちで交流できたし」
「当時でも前衛のゴリラ、後方支援のレイレイ、前衛支援のももちゅん。なかなかバランス取れてたパーティーで有名だったからにゃ」
「大体俺の素材集めに付き合って貰ってばっかりだったけどな」
「それでプレイヤー戦力の平均値上がったんだからおみゃーの功績はデカいのにゃ」
実はにゃーるもマー坊も、今しがた名前が挙がったレイレイとももちゅんも、チーザーと同じく初期勢なのだ。剣聖物語の完全クリアという目標に心折れてしまったが、それでも、エクスゼウスのゲームに食いつかずにはいられなかったのだ。
というか、この『プラネットクロニクル』という世界に最も食いついていたのは他ならぬクリエイションモード挑戦者たちだった。
クリエイションモードに心折れたからこそ、それ以上の実績をこっちの世界で得たかった。あるいは成し遂げたかったという思いが強かったのだ。
その中でもさらに上澄みだったもの者たちは『覚醒者』となり、世界へ順応していった。無論彼らだけが『覚醒者』になった訳ではないが、最初に覚醒者となった者達はクリエイションモードクリアを目指した修羅が多い。
現に『ブレイドエンセスター』の覚醒者は皆クリエイションモード経験者オンリーであり全員が初期勢だ。
ネットリテラシーの為お互いが他人同士だと思っていたが、こっちでオフ会ならぬ同窓会をしたことで互いが互いを友人と認識したわけである。
「急に褒めるじゃん。でも現状維持の方向からは変えんぞ?」
「駄目かにゃ」
「駄目だよ馬鹿タレ。分かりやす過ぎるわ」
「ちぇ~」
「ほら荒武者が動き始めたぞ。仕事だ頑張れ」
「おみゃーもやるんにゃよ!!」
ーーーー
「以上が現状のお二人の様子でした」
「ナイス判断過ぎるね。これなら設置した転移陣も使えるしクレーターを利用して無力化距離の再測定もしやすい。他には?」
「チーザーネキに言われたようにこっちの状況は伝えませんでした。けど見た感じ多分黒い球体に関しては何か察してる感じはありました」
「流石歴戦の猛者。戦えばわかっちゃうのかぁ~。作戦準備担当諸君、第二形態移行作戦の準備はどのくらい?」
「防御極振りにステータス調整をした人と装備を防御特化させたグループをそれぞれ作ってる最中です。レベル差があるので可能な限りスキルに関しては偵察系のスキルを持つ人を集めて観察班を結成してる所です」
「部隊のレベル差についてはだけど。平均値じゃなくて強さが段階的になる様に部隊配置をお願い。どの程度なら交戦可能かどうか確認もしたいから。攻撃部隊の準備は?」
「ロストしたアイテムの補充とスキルビルド調整中みたいです」
「OK。こっちはステータスの微調整はしてないね?」
「聞いた感じではして無いはずです」
「うん。なら良し。攻撃部隊はただ当てる事だけ考えて。観測部隊の準備は?」
「測定アイテム各種メンテ完了してます! いつでも行けます!」
「ねえネクロロン」
「なにレイレイさん?」
「回復部隊は?」
「一応ありますけど本部待機・・・というよりも本部で死に戻りしてきた人たちの補佐をしてもらってます」
「うん。なら投擲系のスキル持ってる人を集めてその人たちに蘇生アイテム持たせて戦場待機させてみようか」
「???」
「やられたら即死するけど、多少の猶予はあるから、その猶予の間に蘇生アイテムを投擲して蘇生できないか確かめてみて。それが出来るなら回復も同じ様に出来るはずだよ」
「っ!! その発想は無かったです!! 総員に通達! 投擲系のスキルで長距離狙える人はアイテム担いで戦場に参戦して!!」
「「「御意!!」」」
「現状確認も出来たし改めて第二形態情報収集作戦の最終確認だよ。第二形態移行条件は黒い球体を持つ事と想定してる。マー坊さんにゃーるさんの様子から考えればすぐに球体の確保は出来るはず。確保者は物理防御特化の部隊リーダーが担当。確保と同時に防御スキル全開で初撃に注意。ここまではいいね?」
作戦の最終確認のためにネクロロンが声を上げる。集まった頭脳担当達は頷く。
「第二形態移行後は防御に徹して魔法無効距離の再計測。それから狙撃攻撃に対する反応も確認するから狙撃部隊・観測部隊は迅速に行動開始。防御部隊は可能な限り球体を確保し続けて」
荒武者の第二形態の情報をアップデートするためにネクロロン達は一番最初にしたことをもう一度やり直す。しかし全く同じではなく、今必要な情報だけを確実に集めるための行動に変更する。
「荒武者の認識距離に関しては状況に応じて行うけど、絶対じゃない事をしっかり全員に伝えてね。最優先は魔法無効距離の再計測と戦闘能力の観測だからね。これらの情報精査が完了次第荒武者撃滅作戦に移行するよ」
一つ一つ確実に。一気にやるのではなく段階的に荒武者討伐に向けて行動していく。数百人規模のプレイヤーが参加するこの作戦。指揮系統の混乱なくこうして進んでいるのはやはりネクロロンと言う最高司令官に指揮権を集中させたことが大きい。
何よりも。
「作戦進行中のイレギュラーに限り、作戦行動は各部隊の部隊長に委ねるよ。その責任は私が持つから安心して」
状況に応じて戦場に立つプレイヤーが判断を託し、その結果の責任は彼女が持つと宣言したことも大きい。
これにより作戦通りの行動が出来なかった場合でも、部隊長指示の下で作戦を継続するか撤退するかを部隊長に任命されたプレイヤーが判断できる。それがどうなったとしても選択した部隊長に責は無いと最高司令官たるネクロロンが言っているのだ。
これにより部隊長に任命されたプレイヤーの負担も少なくなる。無論好き勝手を許可している訳ではないが。
「それから。もう長時間戦闘状態だから休憩したい人は各自休憩や帰還を。部隊長の人は代理を立てて休む様に。以上! 行動開始!」
作戦司令部に集まったプレイヤー達が椅子から立ち上がり、決定した作戦行動を各部隊・グループへ伝えに走る。
「お疲れネクロロン。最高司令官、様になってたよ」
「ありがとレイレイさん。私個人としては戦場に立って戦いたいけどね。けどこうして皆が協力してくれてるんだもんどうせなら皆で勝ちたいって気持ちもあるからさ・・・コメントの皆もありがとー。おいこらー! 仮面被ってるってどういうことだよ! 私がド真面目だって良いじゃんよ!!」
コメントと大喜利をしながらネクロロンも司令部から外へ出る。それを追ってレイレイが続く。
外ではもう先ほどまでの作戦が伝わったのか、人の動きが大きい。それぞれが出来る事を最大限、全力で取り組んでいる。
荒武者と再び相まみえる時間は、そう遠くない。
ーーーー
「142回目にゃ!!」
荒武者を一刀両断したにゃーるが叫ぶように声を上げる。
「にぁ・・・にぁ・・・疲労感出てきたのにゃ・・・単純作業は得意じゃないのにゃ」
「居合に関する事ならいくらでもやるくせに」
「それとこれとは違うのにゃ。というか此奴にHPって概念は存在しにゃいのかにゃ?」
推定ダメージだけならば、前回のエレティコスの半分ほど削れてるであろう攻撃を繰り返しているにゃーるとマー坊。それでも尚荒武者のHPは表示されず、ただただ再生を繰り返している。
「してないだろうなこれ。この形態は前座確定だな」
「そこに転がってる黒いの直接触れば形態移行しそうにゃにょに触れにゃいのがじれったいのにゃ」
視線の先には戦火の悲種と想定されている黒い球体。にゃーるは雑に球体を蹴飛ばしてバラバラになった荒武者の鎧の中央へ転がした。
「一撃バラシで50回連続で出現してるから第一形態のHPがあれば1だけだとは思うけどな」
「むしろそうじゃにゃかったらキレてやるにゃ」
最初はオーバーキル火力を叩き込んでようやく出てきた黒い球体は、二人が適当に放った一撃でいとも簡単に出現するようになっていた。鎧自体の耐久度も下がっているのか、二人の感覚としてもかなり脆くなっていると感じていた。
実際、神視点(運営)から見ても、既にこの荒武者のHPは僅かしか残っていない。その僅かの数値が全く削れない故に、荒武者は何度も再生し続ける事が出来ている。
このわずかな数値は二人のような覚醒者でなくとも、攻撃力ある程度振っている者の攻撃であれば簡単に削れる程度であり、文字通り風前の灯なのだ。
「・・・そう言えばマスターが仕掛けた『朔』はもう発動したのかにゃ?」
「流石にしたんじゃね? バラバラになったし」
「マスターの『朔』なら粉砕しにゃいと残ってそうなのにゃ」
「・・・ありえるな」
「にゃろ?」
「逆に『朔』が発動してないからミリ残り~何てことあり得たりするのか?」
一瞬二人の会話が途絶える。
「「いやいや、ないない」」
でももしかして・・・なんてことを二人は考える。が、流石に無いと思う事にした。
「にょ? 大勢来たのにゃ」
にゃーるが視線を向けた先には、戦闘準備が完了したであろう武装を身に纏う戦士たちが歩いていた。
『おーい聞こえるか動物どもーっ!! 返事しろー!!』
「「誰が動物だ(にゃ)!!」」
その後方から拡声器でも通したのか、スピーカー越しにチーザー紫の声が聞こえた。正確に言えば声を拡げる魔法で、実際に拡声器を通したように話しているのだが。
良く見ればクレーターの端、丁度魔法無力範囲外にチーザーが立っていた。その両翼に展開していくのは長距離攻撃特化ですと言わんばかりの武器を持つ狙撃手たち。
更にクレーターの端を基準として魔法無力化範囲に弧線上にプレイヤーが走り展開していく。
『こっちの準備が出来たから次荒武者バラしたら黒い玉蹴り飛ばして重装備の奴に蹴り渡せやァ!!』
「「その後はどうする(にゃ)!!?」」
『それが終わったら上手くやれェ! 邪魔は済んじゃねぇぞ!!』
かなりぞんざいな扱いである。
「「あいよ(にゃ)!!」」
それでもチーザー紫がテキトーな事を言ってる訳ではないと理解しているので二人は体を大きく揺らして返事をした。
「なんであいつらゆらゆらしてんだァ? 馬鹿なのか?」
チーザーには全く伝わっていなかったが。そもそもの話、50m以上離れている声が簡単に届く訳が無いのである。大声で返事はしていたが、チーザーの周辺には作戦行動中ののプレイヤーが大勢いる。
全員が声出し確認をしながら作戦開始の最終確認中。二人の声など聞こえないのである。この女、伝える事だけ伝えて二人の返答など求めていなかった。
「って考えてそうだよなあのチーズ女」
「絶対そうにゃあの暴君なら絶対こっちの都合なんて知ったこっちゃ無いのにゃ」
「しゃーねぇ。ウチの暴君閣下に従ってやるか」
「だにゃ。貸し1だにゃ。利子付けて返済させてやるにゃ」
「踏み倒されそうwww」
「うるせーにゃ!! あと気づいてるから油断探ろうとすにゃ!!」
瞬間、にゃーるは振り向き様に二歩前に出て一閃。その時には既に荒武者が跳び上がり後ろに下がろうとしていた。が、距離が足りなかった。
それすら見越してにゃーるは二歩前に出てから居合切りを放ったのだ。普通なら空かすか、近すぎて不発になるが、にゃーるは寸分の狂いなく的確な距離に荒武者を捉えて胴を輪切りにした。
「バラシご要望なのにゃ!! 文字通りバラしてやるのにゃ!! 『居合一閃』!!!」
神速の抜刀術が連続して放たれる。輪切りにして地面に崩れ落ちていく荒武者の鎧が更に輪切りに、次に半月、いちょう切り、最後にみじん切りとまるで野菜でも切るかのように粉砕していく。
「ふ・・・またつまらぬものを斬ったのにゃ」
鞘に納める際に聞こえる金属音を気持ち大きめに鳴らし、言葉とは裏腹に、満足げな表情でにゃーるは刀を鞘に納める。
「ほらおみゃーら受け取るにゃ!! これが此奴の本体(仮)にゃ!!」
「下がるぞにゃーる!!」
「応にゃ!!」
その粉砕した鎧の破片の中から迷わず球体を蹴り上げてボレーシュートですぐそばまで来ていたプレイヤー。防御部隊の先頭に立つ奴に放った。
球体を受け取った戦闘の部隊長は即座に防御スキルを全開放。共に来た防御部隊が隊長を中心に隙間なく大楯を構える。
その両翼に、受け取った部隊よりも更に防御力が高い二つの部隊が展開する。今の彼らがやられた時にすぐ球体を強奪し、第二撃を受ける。
それも突破されたら現状最硬の防御部隊がそれを受け継ぐ。正に三重の構えである。更に今回は遠距離部隊が投擲などにより蘇生アイテムを投げつけてすぐさま蘇生する手筈も整えている。
ここに来る前に何度か訓練し、命中精度最も高かく、反射神経が良かった者がすぐにアイテムを投擲出来るように全方位に展開している。
更に更に、近距離からも速度特化のプレイヤーが球体の受け渡しやアイテム使用などの支援が出来るように分散して臨戦態勢。
思いつく限りの盤石の構え。そして彼らの闘志は高く、鋭い。誰も荒武者の鎧片から目を離さない。二度も同じ手は食わないとばかりに展開した部隊も遠見の魔法で敵を捉えた。
「・・・にゃ?」
「・・・再生しない?」
十秒、十五秒と経過しても、荒武者だった鎧片は再生することなく、その場から動かない。
それが一分二分と長引けば、全員が状況を飲み込めなくなる。
「にゃーる気配は?」
「それが・・・にゃいけどあるけど」
「???」
「にゃーの視覚聴覚では何もにゃいにょに、確かにそこにいる事だけはわかるのにゃ」
視線の先には動かない鎧片。中身のない伽藍洞。けれどにゃーるの第六感ともいえるものは確かにそこにいると認識した。
「っ!! 来るにゃ!!」
「構えェェ!!」
にゃーるの第六感が叫びをあげた同時だった。まるで画像を切り替えたように、それは突然現れて刃を振るった。瞬き一つの時間とでも言うべきか、あるいは1フレームとでも言うべきか。
それは突如現出し、大楯を構える部隊の真正面に立ち、刃を振るう。
そして、構えた全員を大楯ごと切り裂いた。
横一線に斬られた防御部隊は今まで荒武者がにゃーるにそうやられたように胴から輪切りにされて地面に崩れ落ちていく。
「こんにょぉおおお!!!」
にゃーるは即座に動く。今回は出遅れたとは誰も思わない。間違いなくにゃーるは対応出来ていた。確かに認識出来た。だから防御部隊が盾を構えスキルを発動する事が出来た。
だが、荒武者はそれらを遥かに凌駕した一閃で全て薙ぎ払った。そして。
『・・・』
「にゃっ!!?」
荒武者はにゃーるの刃を受け止めた。必殺の一撃を、荒武者は振り返りざまに刀の腹で受け止めた。受け止めたのだ。
『・・・ッ』
「くっ!!」
「にゃーる!!」
「構うにゃ!!!」
文字通り力に差があった。荒武者はにゃーるを刀で吹き飛ばし、宙を舞う。そして荒武者はこの戦闘で初めて両手で刀を持ち、構えた。
「クソ!!」
次の狙いは自分だと感じたマー坊が大剣を構えた。構えてしまった。
「っ!!? 馬鹿違う!! おみゃーじゃない!!」
『・・・』
瞬間、荒武者の姿が消える。この場の全員が完全に荒武者を見失った。
「盾持ち共!!おみゃーらの後ろだにゃ!!」
そして斬った。一つ、二つ、三つ。背後を取り、前に進みながら重装備の戦士たちをその装備ごと斬っていく。それはあくまでもにゃーるの視点。
神速の居合を行うために磨き上げたにゃーるの能力故に捉える事が出来た事。
荒武者が消えてから時間にして僅か二秒。その時間で最硬防御力を誇る防御部隊が全滅した。
『・・・』
その一秒後。残っていた大楯持ちが全滅した。
『・・・』
その二秒後、周囲にいた速度特化の部隊が半壊した。
『・・・』
蘇生の為に投擲されたアイテムは悉く荒武者に撃ち落とされた。
「・・・化け物めにゃ」
これがにゃーるが地面に着地するまでに起こった全てである。
「・・・わりぃ」
「気にすんにゃ」
覚醒者が二人いて、その惨劇を防げなかった。
『・・・』
荒武者はゆっくりと歩き、黒い球体の元へと向かう。だが当然。
「させる訳ないにゃろ!!」
『・・・』
にゃーるがそれを阻止すべく駆ける。間違いなくプレイヤーの中では最速だろう。あくまでも一般プレイヤーと比べればではあるが、この場にいた誰よりも速い。
『・・・』
だが、対応される。抜刀された刃は荒武者を傷つける事出来ず、刀を抜刀に合わせた荒武者が防御した。
そう。防御したのだ。阻止ではなく防御。正真正銘真っ向勝負で受け止めたのだ。神すら斬ると呼ばれていたにゃーるの抜刀術を。
「この程度でビビるかにゃ!!」
ここでにゃーるの心が折れる事は無かった。既に経験済みだ。この程度の事でにゃーるの心は折れない。
『・・・』
「シィィイイッ!!!」
今度は宙に吹き飛ばされないように地面を這うように後ろに下がる。そして、荒武者が消えた。
「「っっ!!!」」
認識の外。荒武者から目を反さなかったが故に起こった回避不可能な不条理。『桜花戦舞』の”ずらし”の技術。二人の死角に移った荒武者が、二つの首に狙いを定め、刃を放たれた。
「”それ”に関してはよく知ってましてよ?」
『・・・』
彼女、現世界最速の覚醒者『雷華』がこの場に現れなければ。
荒武者との戦いは新たなる局面を迎える。
作戦崩壊。荒武者の本領発揮と同時に最速の女登場。
感想下さい待ってます!!
一言でもいいので是非お願いします!!




