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プラネットクロニクル ~極地に至った男の物語~  作者: 月光皇帝
戦火の悲種と踏み躙られた魂
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荒武者編:その眼で捉えた真実と立ち向かう者達

古戦場頑張りました。では古戦場250HELL以上の強敵荒武者のお話ですどうぞ

「結論から言おう。荒武者はあの瞬間に蘇り、眠りについた」


「「「「「・・・???」」」」」


何を言っているのか、聞いている彼らは全く理解できなかった。


「前提の話をするとするとしよう。お主たちにとって”死”とはどういうものだ?」


「・・・自分の意識が二度と目覚めない事かな?」


年長者である老眼鏡はそう答える。


「うむ。それも”死”には違いない。では余・・・エルフと言う種族にとっての死を教えよう。余らにとっての死とは”魂の死”だ」


「魂の・・・死?」


「エルフ族というのは魂を見る事が出来る。余はその中でも色まで見えるのだが、ほぼ全てのエルフ族は魂を認識出来るのだ。」


ここに来て亜人種エルフ族の新情報、それもかなり重大な事をまるで日常会話の一つの様に話すマリアーデに驚きながらも、話の腰を折る訳にはいかないので新人種(プレイヤード)は何も言わばい。


「以前童たちには話した故反応は無いと思っていたが、お主ら表に反応を出さないのは驚いたぞ」


「・・・それに関しては後で根掘り葉掘り聞きますのでマリアーデ様、御覚悟を」


「気が向いたら話してやろう。して死への認識の違いを話した上でだ。余は一度愛弟子と共に荒武者を実際に見た事がある。あの時の荒武者は確かに死んでいた」


それはアールが敵を知る為に荒武者と戦ったあの日。マリアーデの眼は荒武者を捉えていた。


「伽藍洞の怪物。生命ではない何か。余はそう認識していた。だが・・・たった今過去を巡り荒武者を見た余は、荒武者の中に魂を見た」


「どういう事なのかさっぱりわかりません・・・」


「そのままの意味だ。中身のない鎧の中に魂が生まれた・・・違うな。あの瞬間、生命ではない何かに奪われていた魂を取り戻し、荒武者は蘇ったのだ。余はそう認識した」


「まさか・・・『戦火の悲種』から自我を取り戻したとでもいうのですか・・・!?」


「取り戻した・・・か。うむ。その言い方がしっくりくるな。その通りだ」


「その切っ掛けが何かわかりますか!?」


驚きと興奮を制御できずにルークが前のめりにマリアーデに詰めよる様に問いかけた。


「うむ。荒武者の中にあった黒き何かが荒武者の中から逃げた。それが切っ掛けだ」


「・・・!!?」


「荒武者と戦火の悲種が分離した。そう考えるべきだろうね」


「前例がない・・・が、前例がないからと言ってそれは無いとは言えない、か」


「僕はよくわかってないから後で詳しく教えてほしいかな。とりあえず今は進めてくれるかい火力さん老眼鏡さん」


驚くルークと柔軟な思考でマリアーデの言いたい事を要約した火力と老眼鏡。新人のテイマーズはよくわかっていないので後で教えてほしいと願う。


「黒い何かを『戦火の悲種』としよう。マリアーデさん。戦火の悲種が逃げたのはどのタイミングだったのかな?」


「プレイヤード達に囲まれ袋叩きにされてしばらくしてからだな。完全不利を悟って逃走しようとしたのだろうな。戦火の悲種・・・だったか? それは鎧を砕くが如く振るわれた攻撃に紛れて少しずつ己の身体を散らしてその場から逃げていた」


「つまり・・・あの攻撃はかなり効果的だったんだね」


「そのようだな。その行為が大きくなったのは後から来た者達が攻撃を変わった時だ。よほど焦ったのだろう。残り全てが一気に鎧の外へ逃げていた。お主らも”見た”はずだ。黒い球体を。あれは逃げた戦火の悲種が一か所に集まった故にあの場にいた者達も認識出来たのだ」


「戦火の悲種の実体化・・・!!!」


「・・・待ってくれ。だとしたらおかしくないか? 逃げるなら何故鎧は動いていた? そんなことが出来たのなら戦火の悲種が逃げる理由は無いはずだ」


「よい着眼点だ。戦火の悲種が逃げ始めて身体を三割外へ逃がした時だ。鎧の所有者の魂が蘇り始めた。その魂が少しずつあの場にいた者達の”認識”をずらし始めた」


「「「「っっ!!?」」」」


”認識をずらす”。言葉で言えばたった一言だが、此処にいる彼らは”知っている”。その”技術”を使うとある武闘を。


「蘇った魂はそうしながら少しずつ攻撃を受ける場所を誘導し、ずれて行った。そして戦火の悲種が認識出来るようになった時、魂は完全に蘇り肉体の所有権を取り戻した。そして魂は認識をずらした事で生まれた空白の場から逃れ、己が誇る速度で囲む者たちから逃れた。あとは見ていた通りだ。戦火の悲種を持った者を斬り捨て、周囲の者全てを瞬時に切り裂き、そして何故か逃げた戦火の悲種を”取り込んだ”」


「「「「    」」」」


「取り込まれた戦火の悲種は再び鎧に溶けるように同一化し、蘇った魂は戦火の悲種という部外者に肉体を任せ深い眠りについた。これが余が”見た”あの光景に対する回答だ」


誰もそれを言語化できなかった。違う。出来なかったのではない。理解できなかったが故に、それを正しく言語化出来なかったのだ。


「荒武者には戦火の悲種とは別にもう一つ魂があった。これを荒武者本来の魂と考えよう。その魂は結果的に戦火の悲種から”解放”された。だけど、その魂が自分から戦火の悲種を取り込んだ。そういう認識でいいのかな?」


それでも、年長者としての意地か矜持か、老眼鏡は混乱する思考の中でマリアーデの話を復唱するように口に出した。


「その通りだ。あの荒武者め、まさか”桜花戦舞を使える武人”だったとはな」


まさかとは思っていた。


そうだと考えたくなかった。それはあまりにも絶望的な事だから。


だがそんなことなど知らぬと言わんばかりに、マリアーデは彼らが思考の外に投げ捨てたそれを口にした。


『桜花戦舞』。


認識と意識。生物が持つ五感と思考能力に干渉し、自分に有利な状況を生み出す武術。


一騎当千の力こそないが、殿や囮などの陽動、その逆に自分の存在を薄めて周囲に溶け込み、敵の急所のみを狙う暗殺。その技術を極めたものが使えば、一騎当千の力を遥かに凌駕する脅威となる。


その力を荒武者が使う。超高速戦士である荒武者がだ。その脅威は現状から一気に跳ね上がる。


「・・・少し時間を貰うよ。今話してもらった事を出来るだけ簡潔にまとめてすぐにチーザーさん達に伝えるよ」


「頼む。俺ではうまく伝えられる気がしない」


「右に同じかな。邪神戦の情報はあまり持ってないのもあるけどね」


「・・・ごめんなさい僕も出来ません・・・」


「・・・わた・・・し・・・が・・・」


「お前は休めマイ。無理のしすぎで子供を心配させるな」


この中で、最もアールに近かったが故に、マリアーデの話を理解し、飲み込めたマイが弱弱しく声を上げるが、当然の如く火力が却下した。現在進行形でチーザーとの視界を繋げ続けているマイにこれ以上負担をかける訳にはいかないのが一つ。


そんなマイを心配して、今にも泣きそうな顔で母親を介抱する四人の子供たちの事を気遣っているのが一つ。


「俺達にも出番を分けてくれないと、不甲斐なくて消えてしまいたくなるのでな」


覚醒者としては新人のマイがここまでやったのに、自分たちは何も出来ない事に対してのせめてもの意地が残りの理由だ。


そして、この瞬間にこの場にいる彼らが荒武者と戦う事に対して全くの無力・・・それ以下の有象無象でしかない事が確定したが故に、戦闘以外の戦いで荒武者に挑む事に切り替えた彼らの決意表明の代弁でもあった。






ーーーー








『以上が、僕らが視た荒武者の動きと現状の報告だ』


「・・・クソが」


簡潔に、けれど的確に話を纏めて戦場にいる者たちに老眼鏡が伝えた事実だ。


「リスナーの皆も言い方はそれぞれあるけど大よそ同じことを言ってるから確定で良さそうだね。考えたくない事実だではあったけどさ。伝達組今現在の荒武者の様子を見てきてくれる?」


仮に今現在の荒武者が桜花戦舞を使える場合。抑え込んでいるはずの二人は既に亡き者にされている可能性がある。仮に生きていたとしても、意識が完全に荒武者から外れた場合、瞬殺される。


覚醒者ですらそうなのだ。戦闘面ではなく、斥候や先駆に特化した彼らが生き残る可能性は限りなく低い。つまりネクロロンは伝達組に『死んで来い』と言っているようなものなのだ。


「「「承知」」」


それでも、彼らは最高司令官ネクロロンの指示を受けて了解した。


「ありがとう。君たちの強さに敬意を。そして続けて命令だよ。必ず戻ってきて」


指示を受けてくれた者たちへネクロロンは敬礼をする。それに敬礼で返す伝達組は移動を開始した。


「・・・さてチーザーネキ」


「あ?」


「”どうやって倒そうか”?」


「・・・やっぱオメェ最高だゼェ・・・!!!」


この絶望的情報を受けて尚、ネクロロンとチーザー紫の戦意は消えてなかった。集まった多くのプレイヤーはどうしたらいいのか沈んでいたにも関わらず、彼女たちは打開策を考え始めていた。


「皆も何か思いついたら何でも発言しちゃって! 状況は最悪かもしれないけど”まだ”だよ。”まだ終われない”。”まだ負けてない”んだ。絶望するにはまだ早いんだよ!!」


「で・・・でもこころん・・・」


「”でも”じゃないよ。確かに状況は最悪。荒武者の脅威は跳ね上がった。私たちの士気は急降下。でもね? ”負けてない”んだよ私達。寧ろ”勝った”って言ってもいい!! だってまだ私達は”第二形態の荒武者”にならざるを得ない状況に追い込んだんだから!!」


「「「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」」」


「前人未踏の荒武者第二形態への移行は私たちの誇るべき戦果だよ!! チーザーネキ達覚醒者の力は確かに借りた! でも第一形態のままだった!! 第二形態にさせたのは他ならぬ私たちの攻撃の成果なんだよ皆!!」


大きすぎる絶望だった。その前に得た全てを忘れてしまうほどに大きな絶望だ。


しかし、ネクロロンの言う通りだ。マリアーデが視た光景の中で、第二形態へ移行したのは極振りで荒武者を攻撃し続けていた者たちの戦果だ。そしてそれを支え続けた者達の戦果だ。


他の誰でもない。ここに集う皆の戦果だ。


「ここからまた始まりなんだよ皆!! もう一度最初から始めるだけなんだよ!! 前よりも戦力を得て! 情報を得て! 私達はもう一度やり直すんだ!! 絶望する必要なんてないんだよ!!」


その言葉は力強く、真っ直ぐだった。深い闇に沈んだ心に差す光。上がってこいというような闇の中に差し込んだ光。


「さぁ皆!! 荒武者撃滅作戦第二段階開始だよ!! 何度やられても!! 最後まで戦い抜くんだ!! 諦めずに全力で!! それさえ出来れば私達だって!! ただのプレイヤードの私達だって英雄ヒーローになれるんだから!!!」


「「「「「「「「「「オオオオオオオオオ!!!!!」」」」」」」」」」


爆発した。それは戦意。


圧倒的力(覚醒者)と、絶望的脅威(荒武者)の前に折れて沈んでいた心は、彼らのアイドル(ヒーロー)の演説のような決意表明と共に浮上した。


「さぁ皆作戦会議だよ!! 責任は私が負うから皆思いつく限り作戦立案をしていこう!!」


荒武者との戦いに絶望している者は、この場からいなくなった。


そして、荒武者との戦いに闘志を新たに宿す者たちが、この瞬間、立ち上がった。


「桜花戦舞は絶対の武術じゃないっス! 気配を希薄にしても攻撃行為を行う時は必ず気配が戻るッス!」


「確かに桜花戦舞自体には攻撃的な技は無いな。それを補うのが荒武者の速度だと考えられるな」


「第一形態で桜花戦舞を使わなかったのは、使えなかったからって考えも出来るよね。荒武者と戦火の悲種がそれぞれ肉体の所有権を持ってるなら、第一形態は戦火の悲種の、第二形態は荒武者本来の能力で戦ってた訳だ」


「あの速度があるなら生前の荒武者は多分強襲と離脱を繰り返すタイプの戦士だったと思うんですよ。それなら桜花戦舞が輝く場面が多いですから」


「荒武者が二人に見えたのは分身(デコイ)を見せる能力の可能性も否定できないですよね!」


「魔法が使えないなら・・・確かそういうアイテムがあったはずだからそれ由来の能力持ちの可能性もあり得る。それを桜花戦舞と組み合わせればこっちの認識を完全に外せたのも納得できます」


名も無き未来の英雄たちはそれぞれの意見を口に出し、共有し、思考する。様々な意見が飛び交い、それらをネクロロンが纏めて広げた用紙に書き出す。


「チーザーネキ、何か桜花戦舞対策無いっスか?」


「あぁん? 対策があったら俺様が教えてほしいんだがよォ? 強いて言うならタイマンで戦るくらいだなァ」


「そうなると戦力を一人に集めた方が良さそうっスね。アザッス!!」


「おゥ。あ、そうだオメェ。集めるのは良いが1000を一人じゃなくて100人くらいは用意しとけ。特に速さと動体視力が自慢の奴にしな」


「なるほど!! こころん今のチーザーネキのアイディア実行してもいいっすか!?」


「いいよやっちゃって! 試行回数は神だからね! 私の指示として志願者集めちゃって! 準備が出来次第第一陣として荒武者と戦闘してもらうよ!」


「ウッス!!」


「指揮官様。その時には観測班も同行させてほしいです。魔法は使えなくてもアイテムでの観測と能力対策が可能かどうか試したいので」


「資材庫にあるアイテムの使用を許可するよ。集合知で試してみたいアイテム候補全部上げて試してみて! 誰か彼の手伝いをお願い!」


「それなら自分が行きますこころん!!」


「協力感謝します。行きましょう」


「こころん司令官!! 意見具申であります!!」


次々に参戦した者たちそれぞれのグループ、あるいはここで同じ意見が出た者同士が集まって考え、指揮官たるネクロロンへ向かって動き出す。その眼は力強く輝いて。


様々な作戦や考察が次々にあがり、議論される。それらの意志は伝達し、拠点全員が燃え上がる。








ーーーー










「良いじゃねぇか。昔を思い出す」


始動し始めた荒武者第二形態攻略の様子を見ながら、チーザー紫は少し離れた場所に移り、動き出した司令部を見ながらつぶやく。 因みにレイレイはネクロロンの元に残り補佐をしている。


チーザーも本来ならそういう事をすべきなのだが、今回の主役はネクロロンなので自身曰く自重中なのだ


『随分ノスタルジックな声を出すじゃないかチーザー』


通話を繋げたままだったのか、その呟きを火力魂に聞かれた。少々驚きはしたが、表に出すことなく、チーザーは最初から聞こえるように言った風に見せて言葉を返す。


「ハッ。違いねェ。実際この空気感懐かしいからなァ」


チーザーが言う昔とは、プラネットクロニクル初期。初めての邪神戦の事だ。あの頃は何も知らず、誰もが絶対的な力を持っていなかった。


ある意味全員が平等で、全員が弱者だった。


絶望的な状況下で、当時バラバラだったプレイヤーをまとめ上げ、指揮系統や戦力分配。


そして後方支援の重要性を説き、今日までの邪神戦の基礎をとなる物を作り上げたと当事者からすると、この光景は正に自分がしてきたことと同じ道だったのだから。


今でこそ、不特定多数をまとめ上げ、指揮する枠は別人に押し付けたが、チーザー紫という女はそういう事をするのが好きな人間だ。そして無茶苦茶を押し付けて尚、自分に着いてくる奴を気に入る。


そんな自分が気に入った連中を集め、クランを作りチーザーはこの世界でやりたい放題やりつくした。危険な冒険も、強敵との戦いも、時に共闘し、時に対峙し、時にこの大陸を巻き込んだことにも首を突っ込んだ。


青春といっても過言じゃないほど、当時のチーザー紫はこの世界が楽しかった。現実でのストレスも全て忘れるほどに楽しんだ。そしていつの間にか、少数精鋭ながらもチーザー紫が立ち上げたクラン『チーザー軍』は一大勢力として名を轟かせた。


だがそれも、チーザー紫が『覚醒者』になったと共に終わりを告げた。覚醒者の存在は当時はまだ三人しかいない特別視される存在だった。その四人目として、チーザー紫の名はこの世界に知れ渡った。


最初は良かった。そんな彼女に魅了されてクランは大きくなった。彼女の無茶苦茶の規模が大きくなりそれこそ、やろうと思えば国盗りも出来るほどに大きくなった。けれど、それを繰り返すごとに嫌でも彼女は理解してしまった。


つまらない。と。


チーザー紫は自分に集まる人間がどんなふうに自分を見ているか大よそ想像できる人間だ。それは現実の自分の仕事上役立つ為身に着けた処世術でもあった。


それが故に理解してしまった。今の自分の元に集まっているのは、覚醒者という圧倒的力のお零れを集めるだけの人形じみた連中だという事を。


そして聞いてしまった。彼女の元にいた初期クランメンバーが今の環境が合わず、彼女の元から離れる決意をしている事を。


覚醒者という立場が、チーザーの環境を大きく変えた。残念ながらそれは本人が望んでいた方向ではなかった。


彼女だって社会人、望むものすべてを得られるとは思っていない。だが『それがゲームにまで反映されるのは違うだろう』!! 彼女『新藤ゆかり(チーザー紫)』はヒステリックに不満を叫んだ。なんで自分は覚醒者なんかになったのかと。


それ後、彼女は誰にも心情を吐露することなく、いつもの無茶苦茶を言う暴君と言う仮面をつけて、彼女は不満の一切を跳ねのけて立ち上げたクランの解散を宣言した。こうして当時最大勢力にまでなったクラン『チーザー軍』はあっけなく解散した。


それからは完全に個人として活動し始めた。チーザー紫という個人は、既に人外の力を持っており、出来ない事は無かった。知略と力を兼ね備えた彼女はやがて『暴君』というあだ名まで付けられた。


勧誘やクランの再結成の提案を蹴り、彼女は個人として活動し続けた。その方がまだ楽しかったからだ。


全てをかき乱し自分という個を押し付けて、笑う。それが『暴君』の由来。その生贄になった弟は気の毒ではあったが。


そこまでして、彼女がこの世界に残り続けていたのは、心の何処かで楽しかった日々をもう一度取り戻したかったからだ。


覚醒者『チーザー紫』ではなく、ただの『チーザー紫』として接してくれる友人が欲しかった。それは皮肉にも『幻想術師』である彼女の中に残る、手に入らない幻想だと理解していても。


そんな日々を過ごす中で、ゲームをする気にならなかった彼女は、自分の部屋を掃除しようと思い、掃除を始めた。汚部屋ではないが最近掃除をしてなかったので棚の上に少々埃が乗っていた。ついでだから少し模様替えもしてみようと、棚の中にあるモノを取り出していく。


そんな中で、彼女は自分の始まりと再会した。


エクスゼウスの名を世界に轟かせたVRMMORPG『剣聖物語』。その初版パッケージ。人生初めて心を持っていかれて、まだ新人アナウンサーだったが、休みの申請をして数日分の仕事を全て片付けて、発売日初日の朝、DL版ではなく、手元に残るように初回限定パッケージ版を予約し、店舗に並んで買った思い出の作品。


プラネットクロニクルの様に、オンラインで共闘することも、対戦することも無く。よくある王道RPGと言われればただそれだけ。だがただそれだけのゲームに彼女は取りつかれた。


現実の時間にして二年以上。彼女は剣聖物語というゲームに熱中し続けた。そして、地獄とも天国ともいえる自分のこれからを変えた領域へと足を踏み入れていた。


『剣聖物語』の正真正銘最高難易度(クリエイションモード)。世間で言われている普通ではなく、彼女はそれを望み試行回数を重ねた。そんな彼女が自分と同じ道を進んでいる連中の集まる掲示板へ参加したのは極極当たり前だった。


無論ネタだったり、中途半端な覚悟で参加してきた参加者もいた。けれど掲示板の主は本気でクリエイションモードクリアを掲げていた。そして徐々に参加者が洗練されて良き、最終的に残ったのは頭のねじがハズレた馬鹿野郎ども。そしてそこに自分もいた。


それぞれの経験を書き込み、共有し、意見を交わす。そしてその中の誰かが手を上げて実行した。これを何度も繰り返していくのがこの掲示板に集まった者達の日常だった。


それがずっと続くうちに、『せっかくだしオフ会してみる?』なんて発言を真に受けたスレ主がその行動力を発揮してお店までセッティングしたので、面白そうだと彼女は参加した。


当日、集まったのは老若男女関係なく、自分と同じように沼ったか、頭のねじが外れた連中。自分の正体を知らせたときの驚き様は面白かったが、サインくらいは求めてこいと内心思っていたりした。


けれどその時間が彼女にとっては最高の時間だった。その記憶が、彼女の中にあった火を再び灯した。


たった一度顔を合わせてバカ騒ぎした年齢も性別もバラバラなその時だけだと思っていたのに、もう数年前の事なのに、今更あの時の自分が一番楽しかったのだと理解した時、彼女の始まりはあそこだったのだとようやく理解したのだ。


あの馬鹿者共とならもう一度・・・そんな僅かな希望が、彼女をこの世界(プラクロ)に繋ぎとめていた。それが無ければ、彼女はとっくにこの世界から去っていただろう。


ただ自分は既にこの世界では『覚醒者』。ある種の異端児。その現実が、新藤あかりという女性に『お前ら全員プラクロやらねぇか?』の一文を、オフ会の時に交換した幹事への連絡先への連絡を戸惑わせた。


(ルーク)にも『馬鹿姉らしく気にせず送ればいいじゃん』なんて言われたのは生涯で初めてだっただろう。当然〆た。弟は泣いた。


そんな日々を過ごす中、彼女の携帯に一つの通知が届いた。それは彼女が連絡を取ろうとした相手の一人からだった。


『超久しぶりにオフ会しない?』


『参加してやるわ。最近暇だからなァ』


見てから返答まで()()()()だった。信じられない位食いついた自分がいた。内心はしゃいでいたが、自分のキャラ的にそう言うのは違うと我慢して、言い出しっぺにセッティングを全部任せた。


その日は絶対に空けると決めて。


するとどうだろう。案外人数が集まった。それだけじゃなく、プラクロでオフ会しようという話にまでなった。渡りに船、一石二鳥だった。


けれど同時に不安もあった。自分の存在を知って、友人たちがどんな反応をするか。それが不安で、弟も同伴させた。弟には『馬鹿(クリエイションモード)野郎(挑戦者)どもに会わせてやる』と言えば簡単に食いついた。


最悪弟が会いたいってうるさかったと言えば後腐れなく、自分は『暴君チーザー紫』として友人たちと再会して別れる事が出来るからと、自分を納得させて。


でも、その時プラクロ世界で大きく名を上げていた覚醒者の新人『超越者マイ』と無名ながらに月光真流のスキルを使う『アール』。


自分が知る友人と同じ名前。もしもこれが偶然たまたま友人同一人物だったら。なんて希望を持って、彼女はその日を迎えた。


そして、彼女(チーザー紫)は、この世界で生まれ変わった。


覚醒者『チーザー紫』から、普通の『チーザー紫』へと。


何ともまぁ奇妙な偶然で、彼女の友人たちはほとんど『覚醒者』だった。同名の他人ではなく、同一人物だった。


それだけじゃない。覚醒者を知っていて尚、彼女をただの『チーザー紫』と呼んで当時の様に触れ合ってくれた。


そして何よりも、自分(チーザー紫)を今でも大切で大事な友人だと言った年下のガキが、覚醒者を超えた存在にまで成長していた。


もう、我慢しなくていいか。


彼女は、自分の理性を吹き飛ばした。勢いのままにその場で全員とのつながりを強くするためにクランを作るぞと思い付きを思い付きと思わせないような嘘をつき、テンションのままにクランを作った。


そこからはもう彼女にとって第三の青春だった。『仕方ないなぁ』と言って自分の無茶苦茶に自分の意志で付き合ってくれる友人。


文句を言われても、このメンバー相手に喧嘩を売ってくる馬鹿はいなかった。売ってきた連中もいたが、売られた本人がやる気満々だったので全力で乗っかった。


ついでに世界中の有象無象共に忠告もしてやった。


当時以上にプラクロユーザーは強くなったが、それでも尚自分たちならば国盗りどころか天下取りも出来ると確信している。というか、面白そうなのでやってみたいなんて野望も実はある。


けど自分たちの大事なリーダーがその気がないみたいだから、ちょっとだけ妥協した。代わりに世界最強だと世間に見せつけろと言えば『前に貸しあるししょうがないか』と、自分が望み求めていた返事で引き受けてくれた。なのでやりたいようにやって最高に楽しんだ。


次なる目的は邪神の討滅。人外の理不尽を押し付けてくる相手に人の理不尽を持って挑む。それはもう楽しいものになるだろうとワクワクしていた。


まぁ自分の望む形にはならなかったが、今こうして、いつか自分が辿った道を、友人が辿っている。これはこれで中々に面白いものだと、実は結構楽しんでいた。


だから協力は惜しまないし、手を貸せと言われたら何でもするつもりだ。だって懐かしい自分を思い出させてくれたのだ。そう『しょうがないから手伝ってやろう』なのだ。


いつも振り回してるからたまには振り回されてやろうというチーザーなりの優しさなのだ。絶対に他人には見せないが。見せたら最後生涯死ぬまで弄られると自覚しているから。それこそ今までの怨みとばかりに弄られるだろう。特に動物共(にゃーる&マー坊)には。


『懐かしい・・・か。確かにあの日のお前を思い出すな』


「んだオメェキッショ」


『あの時は確か『皇帝』などと呼ばれていたなお前は。『暴君』もあまり変わらないがな』


「おい火力馬鹿。それ以上言うんじゃねぇ。しばくぞ」


『話を振って来たのはお前だろうに』


「だ・ま・れ・。俺がルールなんだよォ。あとゼッテェその時の話知らねぇ連中にすんじゃねぇぞゴラ」


『知らない方が少ないだろう』


「俺は知らねェからノーカンだボケ」


『プライバシー問題もあるが、俺達はほとんど初期勢だ。互いに当時から名前だけは知っている。同名の他人だとつい先日まで互いに思っていたんだからな』


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・知らねェなァ」


『ふっ、そういう事にしておこう』


「今決めたわ。帰ったらテメェ縄なし逆バンジーで飛ばして地面にキスさせてやるよォ」


『出来るものならやってみろ。とだけ言ってやる』


もし彼女がポーカーフェイスの出来ない人間だったなら、それはもう満面の笑みで笑っていただろう。いつもの暴君の笑みではなく。ただのチーザー紫の純粋な笑顔で。


「それよりもだァ。荒武者だが中々に曲者だ。火力どうせ暇だろォ?」


『何を押し付ける気だ?』


「雷女とその仲間共に連絡取っとけ『多分”テメェら”が有利取れる相手だぞ』ってなァ」


『それくらいならやってやろう。彼女はともかく、彼にとっては美味すぎる話だろうから食いつくだろう』


「ついでに言っとけ『来ない小心者なら最速の名を猫女にゃーるにくれてやれ』ってァ」


『そういうニュアンスで伝えておこう』


「わかったらさっさとやれ火力馬鹿がよォ」

唐突に突っ込むチーザーネキの回想。実は死神√(闇落ち)だった過去持ち。


感想沢山下さい!!待ってます!!返事もします!!


近況報告:アラサーで足首捻挫しました。めっちゃ痛い。皆さんも気を付けてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 感想要求以下略 いやあんなに塗りつぶされたと強調されたのに普通にまだ意識あるんかい!!!予想できるかァ! 雷女は雷華かな?となると彼もくるかな… 今の彼は正面張るには速さも疾さも足りてない…
[一言] 深夜テンションで書いた感想が振り返ってみるとキッツイ。 なんでプラクロの宣伝みたいなのかいてんの私。 返信嬉しいですけど消そうか本気で迷う。 どうしよ。消そうかな……? 大分恥ずいんだが……
[良い点] 第一形態の荒武者は戦火の悲種に寄生され動いていた。それから解き放たれた姿が第二形態、しかし解き放たれた直後に悲種を取り込み再び第一形態へと戻っている。裏を返せば悲種を取り込まないとならない…
感想一覧
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