荒武者編:状況変化
1日更新できなくてスミマセン。でも五日ごとの更新は頑張りますので見捨てないでください(´;ω;`)
なり続ける破砕音。
轟き響く圧倒的力(極振り)での蹂躙音。
それは機械によって響く音にも思えてきそうなほど途切れない音だった。それを生み出している彼らは、例えここで死んででもこの音を止めない覚悟で各々武器を、拳を振るう。
それでも尚、力をぶつけられる鎧はまだ形を留めている。これがもし普通の鎧であれば、既に砕け、破片すら砕かれて砂の様に微細なものへと変わり果てていただろう。
そうならないのはこの鎧が戦火の悲種と言う生命を滅ぼす邪神の力を持っていたからこそだろう。
それでも、それでも。
限界はある。邪神は完全な存在ではない。完璧な存在ではない。必ずどこかに欠点を持つ。それは生命体であれば逆らう事が出来ない定理。
荒武者と呼ばれるこの邪神の欠点は荒武者と言う”側だけ”を使った事だろう。ある魂を侵食した悲種は己の都合のいいように魂を組み替えた。
だがその際、その魂が持っていた”余分なもの”は不要と切り捨てた。そして悲種はその魂が持っていた最も強い姿を己の力で作り替え、強化した。
結果生まれた『生命種の天敵たる荒武者』は伽藍洞の怪物として生まれた。ただ殺す。滅ぼす。それだけを本能として。
故に、今現状を変える思考を荒武者は持たない。
打ち付けられる様々な攻撃を受けても、ただ受けるしか出来ない。防御と言う概念が悲種にはないからだ。その圧倒的な邪神としての能力で再生し、動き出せるその時まで待てば良い。
変えられないのならば変えられる時が来るまで待てば良い。ただそれだけだ。相手の都合を悲種は理解しない。状況を理解しない。ただ、この程度の攻撃では自分を滅ぼす事は不可能だと、悲種は理解しているから。
だから悲種はこの状況でも効率よく殺すための事しか考えない。考えられない。そういう種であるが故に。
例え”不要と切り捨てた余分”が悲種の存在を侵食するほどのものだったとしても、悲種はそれに気付かない。
ーーーー
「・・・・んん・・・んぁ?」
「起きたか」
「「「「マミー(お母さん)!!!」」」」
・・・そう。思い出した。確かチーザー達を戦場に送り出してから、レールキャノンの発射準備をして、預けたネックレスの魔法陣に魔眼が呼応したから発射して気を失ったんだっけ。
ゆっくり起き上がれば私の護衛で残った面々と、居なかったはずのアキちゃん達がみんなして私の手を握っていた。
「発射音に驚いてアキハちゃん達が飛び出してきてね。そしたら気を失ったマイさんが倒れてくのを見てからずっと手を握っていたんだよ」
老眼鏡が今聞こうとしたことを先に教えてくれた。そう言えば発射時の音は盲点だったね。弾丸の制御に全神経を集中させないとだから他の事は出来ないのが欠点。
クランハウスから少し離れたとはいえ、あまりにも大きな音だったら聞こえちゃうか。
「大丈夫だよ。ちょっと疲れて倒れただけだから」
「それは・・・大丈夫ではないんじゃないかな? この子たちずっと半泣きだったわけだし」
テイマーズの言う通りアキちゃん達の顔には涙の跡があった。それを見て、最低かもしれないけど私は嬉しくなっちゃった。私はちゃんとこの子たちの母親やれてるんだなって思えたから。
「全く、彼奴らから話は粗方聞いたが無茶な事を平然とするものだな嫁よ」
「この程度は無茶の内に入りませんよマリアーデ様。この私達と邪神との生存戦争なんですから・・・火力さん。今の状況は?」
「チーザーからの連絡では『採掘作業が如く』だそうだ。お前の一撃は荒武者に届いたようだ」
「そう。それは何より」
「自分の事も少しは大切にせぬか・・・いや、こういう所は存外愛弟子に似ているのかもしれぬ」
アールと似てる・・・か。ダメだちょっと嬉しい。こういう状況じゃなかったら私はきっと笑顔でありがとうって言うんだろうなぁって考えちゃう。
けど今はそんなのんびりした状況じゃない。
「火力さん。荒武者へのダメージ的にはどうだったの?」
「届いただけで致命傷には至っていない。今は攻撃力に極振りした連中が絶え間なく攻撃を続けている。お前のその眼なら見えるんじゃないか?」
火力の言う様に、魔眼を起こす。うん。見える。ちょっとズームして焦点を合わせれば・・・うんバッチリ。
光景だけ見れば完全に集団リンチね。相手が邪神じゃなかったら見た瞬間にまとめて消し飛ばすわ。アキちゃん達の教育に悪いから。
「どういう状況か僕らに実況してもらってもいいかな?」
こっちにいる間はネクロロンの配信は見れないからね。チーザーとのやり取りは出来るけど、チーザーも向こうで色々やるだろうから、事前に私が起きたら状況説明は私が引き継ぐって話になってたからね。
「ちょっと待って。私が見てるものを皆にも共有するから・・・マリアーデ様。アキちゃん達連れて家に戻ってもらえます? この魔法は範囲内全員に効果が及ぶので」
ただ視界を共有する魔法だから特に識別出来るようには作ってないんだよね。
「嫁よ」
「はい?」
「お前は良い嫁で母だと余も思うが、時にはちゃんと子供の事を良く見てみよ」
「???」
「子の成長と言うものは、あっという間なのだぞ」
手を握る四人の子供たち。その表情を見たら・・・あぁ、これは・・・うん。この目を私は知ってる。良く見る目だもん。大好きな(大切な)人が本気で怒ったり、覚悟を決めた時にする力強い光の眼。
そっか。そう言えばアール言ってたもんね。”見せた”って。この世界を殺す邪神の姿を見せたって。
私はこの子たちを危険な事から遠ざける為に色々決めてたけど、アキちゃん達はアキちゃん達なりに、自分たちが向き合うべきことに対して、覚悟を決める事にしたんだね。
「言っとくけど怖いものを見る事になるからね?」
「「「「うん」」」」
首をコクリと縦に振って、不安そうだけど強い光を残して、決意した眼を私に向けてくる。この眼に私は弱いんだよなぁ。血は繋がってないはずなのに、ここまで最愛の人に似るとかこの世界の子供ってどうなってるのよ。
「『魔導女帝の領域』」
この魔法は私が直接見ているもの、そして魔眼で見ているもの全てを、展開した魔法陣内にいる全員に共有する魔法。
普通に見せると、私の視界、魔眼が見ているもの、そして自分自身の見ているものと言う三つの視界に入っているものを見る事になるから頭が混乱するんだけど、私が目を閉じれば見るものは魔眼と自分の二つのものに絞れるように調整した。
「どう? 皆見えてる?」
「マイさんすっごっ・・・!!」
「よく見えているよ。凄いねこれ」
「流石に音は聞こえんが光景から凄まじい攻撃力で殴っている事だけは解かるな」
「歩きスマホしてる気分だねこれ。ちょっと罪悪感だよ」
準にルークくん、老眼鏡、火力さん、テイマーズさんの声が聞こえた。反応的に共有出来てるみたい。
「アキちゃん達もマリアーデ様も見えますか?」
「ちょっと不思議な気分だが、ちゃんと見えてるよマミー」
「・・・集団リンチしてるのが見える」
「うわぁぁ・・・あれ痛いですよね・・・」
「うん。あれ痛かったよな。俺あの時死ぬかと思ったし」
「ふむ。魔法の恵まれなかった余にも見えるとは。嫁の力は凄いのだな」
アキちゃん達にもちゃんと見えてるみたいでよかった。それはそれとして、ナツ君とフユちゃんを集団リンチしてた奴らは今度草の根分けてでも見つけ出してやる。
昔の事だからって許せるかと言われたら私は絶対に許さないので。この世の地獄を体験させてやる。
「もし気になったところがあったら言って。そこをアップで見えるように調整するから」
「まるで高性能カメラですねマイさん・・・いや多分そう目的のために作ったとは思うんですけど・・・馬鹿姉貴も言ってたし」
若干声が震えてるねルークくん。大丈夫だよ。君をこの魔眼で監視することは多分ないから。それにまだ改良の余地があるからねこれ。
「・・・あー、ちょっと失敗したかも。先にチーザーに連絡入れとけばよかった」
「それなら俺がしておいた。伝言だ。『二射目のタイミングは任せる』だそうだ」
「了解。今の所は必要なさそうね」
と言うかしない方が良さそう。魔眼の見ている光景から考えてクレーターが出来るほどの破壊力があったのは間違いないし。
「チーザーさんから話があったけどHPゲージは未だ出現せずだそうだよ。現状ではギミックか、はたまた時間経過で何か起こるかのどちらかだと向こうでは判断したみたい」
「む・・・嫁よ。鎧の罅の部分をもっと大きく見ることは出来るか?」
「出来ますよ。ちょっと待ってくださいね」
チーザーの今いる場所が偶然いい場所なのか、はたまたチーザーが配慮してくれてるのかはわからないけど、魔眼で荒武者を見るのには丁度いい場所だから、見ようと思えば荒武者の隅々までよく見える。流石に戦ってる人の陰になってる部分は見えないけど。
「これでいいですか?」
「うむ。出来れば少し明るく出来るか?」
「それくらいなら任せてください・・・これくらいですか?」
「うむ。丁度良い。してお主ら。これは何かわかるか?」
「・・・よく見つけましたねマリアーデ様」
「これは・・・!!!」
「これってもしかしてだけどさ・・・!?」
「実物を見たのは初めてだよ」
新規勢のテイマーズと頭に?マークを浮かべてるアキちゃん達を除く全員が”それ”を知っている。
邪神撃滅後に必ずドロップする武器強化アイテム『悲種のかけら』。この世界にある属性の一つ、邪属性を武器に付与、あるいは強化する為のアイテム。
それが鎧の罅跡に植え付けられている。そして、その欠片から黒い蔦が伸びて鎧を修復しようとしてる。その途中でプレイヤーの攻撃が当たって蔦が傷つけられると、動きが止まり、それを繰り返して蔦が切れ、欠片がまた蔦を伸ばす。これをずっと繰り返していた。
「なるほど。これが荒武者の再生能力の正体か」
「って事は荒武者って邪神にしては珍しく素直に邪属性ってこと?」
「そういう事になるね。すぐにチーザー君に連絡するよ。攻略の糸口発見だね」
「・・・??? マミーどゆこと?」
そっか。ハルちゃん達には属性の話をあんまりしてなかったから知らないのね。
「この星にある命には皆属性があるんだよ。正確には魂に刻まれたものがね。その属性はいくつかあるんだけど、今回で言えば邪属性。相反する属性に聖属性って言うのがあるの。この邪属性に対して聖属性の攻撃はかなり有効なんだよ」
「ふーん・・・でも邪神なんだし皆その邪属性じゃないの?」
「ナツ君良い事気付いたね。この属性って魂に刻まれたものなの。そして私たちが邪神って呼ぶ存在は魂を持たないの。概念・・・そうだね。分かりやすく言うとゴースト系のモンスターみたいな存在なんだよ。
「ゴースト系のモンスター・・・本で読んだが確か敵に憑依?という事をするんだっただろうか?」
「アキちゃん博学だね。そう。ゴースト系モンスターが他者に憑依するように、私達がいう邪神・・・正確には戦火の悲種は自分以外の存在に憑依して邪神に成るんだよ」
これが邪神種の一番厄介な所。どんな存在でも邪神に成る可能性があるという事。それが例えなんであろうと。この世界に在るものなら何でも邪神に成る可能性を秘めている。
それを取り除くことは私達には出来なくて、それを認識することも出来ない。邪神に成ってようやく私達は邪神を認識できるようになる。これが厄介なのよね。
危険の芽を摘む事が出来ないから、全て後手に回ることになる。
邪神に成るまでにはその憑依した”もの”の意識があった上で、思考が邪神種の生命種を殺す事に傾斜するから、それが邪神になる前兆なのか、はたまた生物としての食物連鎖の中で起きている事なのか判別が出来ないのよ。
人間とか知性がある生物に憑依したら割と判断しやすいんだけど、それも状況次第で『此奴は邪神種になっている』って判別できないのよね。
昔倒した邪神。確かエグゼファンだったかな? それは元々人と亜人と魔人のそれぞれに戦火の悲種が憑依してたんだけど、当時は種族戦争が起こってたから誰も邪神による思考汚染がされてたなんてわからなかったし。
おっと。話が逸れちゃった。ん? 今誰に話してたの私? ま、いっか。
「あくまでも憑依だから魂に刻まれた属性は憑依元によって異なるんだよ。だから邪神戦ではまず邪神の属性を判別することも結構重要な要素なの」
「じゃあこの荒武者? っていう邪神の属性って今までわかんなかったの?」
「そうだよ。お父さんが戦ってるの見たかもしれないけど、お父さん以外に戦えた人がいなかったの。だから攻撃がまず当てられなかった。けど今マリアーデ様が『悲種のかけら』を見つけてくれたおかげで荒武者が邪属性だってわかったの」
「そうなんですね・・・じゃぁこれで邪荒武者を倒せるんですか?」
「うん・・・とは断言できないけど、間違いなく状況は動くよ」
ーーーー
今現状を作業と称したチーザーだが、その視線を荒武者から外しはしなかった。50mという距離も、視力を高める魔法で目視出来るようにして、荒武者の些細な変化も見逃さんと監視し続けていた。そんなチーザーの元に届くのは一通のメッセージ。
「おいレイレイ。ちょっと俺ァ目離すから代わりに見てろや」
「言われなくても見てるわよ。双眼鏡でだけど」
「ネクロオメェも配信画面で荒武者くぎ釘付けにしとけよォ?」
「映像的にはあんまりよくない映像なんだけどなあ・・・」
「猫とゴリラは何かあったら自己判断で突っ込め」
「猫いうにゃ。にゃーるって言えにゃ」
「俺はもう慣れちまったよ。トホホ」
「ネクロイド諸君も眼球ひん剥いて見てろよ?」
「「「「「ラジャー!」」」」」
既にネクロロンの配信に集まった参加者たちの心をつかんでいた暴君チーザーの言葉に、誰も文句を言わずに従った。
そうして荒武者への監視の目が多くなったことを確認して、ようやくチーザーは届いたメッセージを開封した。発信者は火力魂。
此処にはいない待機組で、今現在、マイの魔眼の力でこの戦場を見ている内の一人だ。
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『荒武者の中に『悲種のかけらを確認した。荒武者は邪属性でほぼ間違いない』
ーーーー
ニヤリ。この言葉が似合うほどチーザーの口元は上がっていた。
「オイ総司令官様よォ。良い情報だ。聞きたいか?」
「え? 聞きたい聞きたい!」
「待機組が見つけたありがたい情報だ耳の穴かっぽじって良く聞け」
「うん!」
「荒武者は『邪属性』だ。今すぐあそこでリンチしてる連中に『聖属性』の武器届けてやれ」
「ここに来て弱点属性判明は激熱!! 伝令役カモン!!」
「「「御意!!」」」
ネクロロンが呼ぶと、まるで待ってましたと言わんばかりに忍者衣装に身を包んだネクロイド三人組が膝をついて出現した。
「今のチーザーネキの言葉聞いてたね? それをそのまま私の言葉として司令部に伝えて! それから極振り組の交代要員の武器を『聖属性』に持ち替えさせてすぐに出撃させて!」
「「「サーイエッサー!!」」」
チーザーの『忍者なのか軍人なのかどっちなんだテメェら』という言葉に『キリッ』とポーズを決めながら忍者三人組は司令部へと帰還する。
「おいにゃーるにゴリラ。テメェらも武器持ち変えとけや」
「にゃー」
「あいさー」
歴戦の猛者たるにゃーるとマー坊は直ぐに装備を切り替える。
「どうする? 一旦俺らで攻撃引き受けるか?」
「にゃーはいつでもいけるにゃ」
「現状悪化してねぇェし介入しなくていいだろォ。折角あの蛮族ども楽しそうにしてるからなァ」
ケラケラ笑みを浮かべながらチーザーは荒武者への攻撃を絶え間なく行う極振り組を見る。正確にはその隙間から見える荒武者の様子をだ。
チーザーも邪神戦を数多く経験してきた猛者の一人。現状荒武者相手に優位な状況を下手に崩す事はしない。
「変わるとしたら状況が変化した瞬間だァ。テメェらはその時自己判断で突っ込め」
「「りょーかい(にゃ)」」
ーーーー
蛮族の様に武器を振るい続ける極振りプレイヤー達は、今荒武者を粉砕することしか考えていない。だが理性が蒸発している訳でもない。
「なんかわかった事とかないっ!?」
「わかったら大声上げてるわい!!」
「ヒャッハー!! 撃ッ滅ッ!!」
「ひたすら硬いけど攻撃は通る事くらい!!!」
「HPバー見えた!?」
「手元狂うから知らん!!」
「ウラーラーラーラー!!!!」
「そろそろなんか状況動かねぇかな!!」
「考えるのは待機してる奴らに任せればいいのさ!! 私らは脳筋担当!!」
ひたすら攻撃を続けているネクロイド達。彼らは攻撃の手を緩めずに自分たちの出来る範囲で荒武者の情報を集めていた。
このプレイヤー達は正確にはネクロイドではない。以前からずっとこのプラクロを楽しんでいるただのユーザーで、この作戦の事を知って新造ネクロイド化した一般人。
だが見知らぬ他人同士という訳でもない。偶然なのか、はたまた必然だったのか、ここにいる彼らは『プラネットクロニクル』という世界が生まれた初期から今日までこの世界に魅了されているユーザー達で顔見知りであり、お互い名前を見たり戦いで共闘したことも数回あるくらいの交流はあった。
そして、邪神の恐ろしさも、それに望むときの心構えの重要さも全て理解している俗にいう名前の無いトッププレイヤーの一角だ。
そんな彼らがネクロロンの作戦に加わった理由だが、単純に指揮官が優秀であり、そこに集うプレイヤーの質が良さそうだったからだ。
最初の作戦、正確には覚醒者込みで行うはずだった初戦の時、彼らもそこに集っていたが、覚醒者への”自重”を要望した嘆願書の流れと、それでやる気をなくしたチーザーの反応を見て、彼らも参戦を見送っていた。
彼らはごくごく普通の一般人だ。チーザーのような人を引っ張る能力も、ネクロロンの様に人を魅了する能力も無い。だが、誰についていけばいいかを判断する能力はこれまでの戦いで養ってきた。
故に負けが濃厚だった初戦に彼らは参加せず、いずれ来るはずの本格的な邪神戦に向けて準備をしてきた。無論初戦に挑んだ者たちを下げる訳ではない。寧ろあの時『私達に出来る事をしに行こう!!』と声を上げたニコニーコには敬意を示している。
だがそれでも、敗戦の匂いに敏感だった彼らは参加を見送った。ここは自分たちが戦う場面ではないと。
そして時間が経ち、ネクロロンと言う配信者が大々的に邪神掃討戦を行うと宣言した時、その戦いに参戦することを彼らは迷わずに決めた。ネクロロンというプレイヤーの裏にいるのはチーザー紫始めとする覚醒者が集うクラン『ブレイドエンセスター』。
もしネクロロンに何かあれば彼らは必ず助けにくる。それはつまり邪神戦が本格化するという事だと察した彼らは、限られた時間の中で各々夢見こころ(ネクロロン)という配信者を研究し、ネクロイドと呼ばれていた彼女の視聴者の雰囲気と民度を知った。
そして彼らはそこに普通に馴染んだ。突発した才能を持たない彼らだが、いいや、彼らだからこそ、大多数の中の一人になる事は他愛なかった。
長期戦になる事は覚悟したうえで、邪神を討伐するためにあらゆる投資を惜しまなかった。
そんな風に考えたプレイヤーが今、ここに集まっている。ここだけではない。この作戦にはそんな覚悟を決めたプレイヤーが大勢参戦していた。彼らの支援や援護があったが故に、ネクロロンの初邪神撃滅作戦はここまで順調に進んでいたのだ。
でも彼らはそれを自慢したりはしない。彼らはそれを”当然の事”だと思っているからだ。邪神戦は個人の戦いではない。邪神戦は世界全体が共闘して挑む星の命運を決める戦いであると彼らは知っている。
いずれ邪神は自分たちの想像を上回る怪物になるだろうとも確信している。そんな化け物相手に戦う者たちへ、自分の後続へ少しでも多く情報を与える為にここで戦っている。
けれど、けれど彼らだって死ぬために戦っている訳じゃない。自分の役割を理解した上で、あわよくば倒してしまおうとも考えていたりもする。それくらい妄想したっていいじゃないか。
自分たちだってこの世界の主人公の一人なのだから。世界を救ったっていいじゃないかと考えるのは普通だ。
「へい蛮族ネクロイド先輩方! 交代の時間でっせ!!」
「「「「「「「「「「えっ!? あんだって!!?」」」」」」」」」」
「こ・う・た・い・!」
「「「「「「「「「「早くない!!?」」」」」」」」」」
「弱点属性が聖属性らしくて一式聖属性に特化した自分らが交代です!!」
「理解!! 一人ずつ抜けるから抜けた所に一人ずつ入って!!」
「じゃあ私から時計回りで一人ずつ行くわよ!! アンタ達攻撃の手止めるんじゃないわよ!!!」
だが作戦に加わった以上司令官には従うのだ。彼らはそうやって今まで戦ってきた。
決して名前が挙がる事は無いが、彼らがいたからこそ倒せた邪神はいる。相性有利はあったとしても、一人の英雄が全てを解決出来た邪神との戦いは無い。
彼らと言う『無名の英雄』が居たからこそ、今まで邪神との戦いは成立していたのだ。
「おらぁ弱点(仮)の属性極振り攻撃じゃァぁ!!!」
「のめす!! のめす 叩きのめす!!」
「滅ッ殺ッ!!!」
交代に来たプレイヤーも当然の如く殺意が高い。そして当然の如く攻撃極振りである。人員は変わり攻撃力が多少変化してはいるが、それでも、荒武者の再生能力を上回る。
順番に交代していく極振り攻撃組。その中の一人、後続に攻撃を任せて、一仕事終えたように、身体を伸ばした一人のプレイヤーが荒武者の鎧から転がっていく小さな球に気が付いた。
「なんだあれ?」
黒いビー玉のようなそれに気が付き、彼は駆け寄って、そのビー玉状の球を拾った。
「どしたの?」
「なんか真っ黒なビー玉転がってたから何かなって」
「叩きすぎて鎧の一部がビー玉みたいに丸まったんじゃないの?」
「ありえそうだね。でも一応持って帰って報告しとこう」
「だな。にしても本当に真っ黒だな。実はこれが戦火の悲種だったりして」
「あり得そうで怖いな。ちょっと砕けないか試してみて良い?」
「せっかくだし三人で先発組全員交代できるから揃ったら試してみない?」
「りょー
そして、言葉を言い終える前に、黒いビー玉を持ったプレイヤーの首が飛んだ。
「・・・は?」
首を飛ばしたのは、”荒武者”だった。
「え」
間違いなく、荒武者だった。現在進行形で叩き潰してるはずの荒武者がそこにいた。鎧には罅が入り、ボロボロだった。それでも、声を上げて我が目を疑ったプレイヤーの眼には荒武者が確かにそこにいた。
「っ!!? なにやっ・・・!!?」
そこ”にも”荒武者がいた。ボロボロで、今尚攻撃が続けられ、動けない荒武者が、そこにいた。
「二体m」
『・・・』
次の瞬間。荒武者を囲み攻撃していた、そして交代に来た総勢20名のプレイヤーの命が散った。まるで、認識された瞬間には既に攻撃が終わっていたかのように。
『・・・』
荒武者は死体となったプレイヤーの手から黒いビー玉を奪い取る。そして・・・
『・・・』
握りつぶした。握りつぶされたビー玉は黒い霧となり霧散する。するとボロボロだった荒武者の鎧は瞬時に修復され、倒れていた荒武者はビー玉同様に霧散し消えた。
『 』
そして、次なる獲物を求めて動き出す。第一歩を踏み出す。
「こんにゃろう!!! 『居合一閃』!!」
前に、覚醒者による必殺の一撃が、荒武者の兜ごと、頭を斬り飛ばした。
これが、荒武者と覚醒者による初戦となった。
何が起きたか理解出来た貴方は是非感想で『こうなるんじゃね!?』みたいな感想と共に是非教えてください!! それを見て私はニヤニヤしたいです!!
なので皆さん!! ぜひ感想を私に下さい!! 切実に求めます!!!




