荒武者編:勇敢なる戦士たち
夢見こころというプレイヤーは、動画配信者である。同時にゲーマーである。
個人勢時代は好きなゲームを好きな様にやり込み、考察し、また研究して世間で言う完全クリアする事を柱に配信していた。
それはRPGに限らず、時にはFPS、対戦格闘、パズル。ジャンル問わず選んだゲームは全てのモード、難易度、ランキング上位、高得点。とにかく上を目指す配信者だった。
そんな経歴があって、配信中に安価で決めた大会に出ると言う企画をして、選んだeスポーツ大会に出場し、それで優勝したことをきっかけに、世間の目を大きく集めた。
特に決勝戦の相手が日本のeスポーツチームのリーダーだった事も彼女が世間から注目された要因にはあるだろう。
そんな事があって、プロeスポーツ選手兼アイドル配信者を育成すると銘打っていた事務所にスカウトされ、個人配信者『ネクロロン』の名前をそのままに、新たに肉体と『夢見こころ』という名前を得て、virtual動画配信者として転生したのである。
そんな彼女の配信の目玉になっているのはこれまで積み上げた経験から得たゲームスキルを遺憾なく発揮することにあるだろう。
彼女が気まぐれ企画で視聴者参加型ゲーム大会など開こうものならば、エンジョイ勢から野生のプロ、世界チャンピオンまで参戦してくると言う、トンデモ大会になることはよくある事だ。
そんな彼女が今、プラネットクロニクルに熱を上げて、プラクロ一本でしばらく配信を頑張ると言ったのだから、プラクロには多くの新規ユーザーが入ってきた。
エクスゼウスはそれが目的で彼女に動画配信の許可を出したわけではない。エクスゼウスは配信許可を得る為に彼女が送った手書きの原稿用紙400枚にも及ぶ熱意を買って、彼女の動画配信を許可したのだ。
その熱量は本物だった。彼女はプラネットクロニクルの配信を開始してから一か月程度で体を慣らし、レベリングと各種スキルや装備を集め、あっという間に上位勢に名を刻むほどの実力を身に着けた。
そして今回、メインシナリオのターゲット『生命種の天敵たる荒武者』の撃滅を掲げ、協力者を募り、情報を集め、資材を集めた。
更に仲間たちに頼まれたお願いを叶えつつ、本気で荒武者を倒すために様々な用意もしてきた。その結果、これまで知りえなかった多くの情報が次々と判明した事で、彼女の頭の中では既に荒武者を倒す道筋が描けていた。
ただしかし。情報を得た事で用意不足だった事も露見した。それは集まった参加者たちの”スキル”だ。これはゲーム内スキルではなく、ゲームセンスと言い換えてもいい。
要するに荒武者と対峙した際に彼女と同等の立ち回りが出来る程度のセンスを持つプレイヤーが圧倒的に少なかったことだ。
無論いない訳ではない。当然いるし彼女の配信の事を聞きつけて参加した上位勢も多くいる。しかし、足りないのだ。荒武者の実力はそれほどまでに特出していることもあるが、実力不足のプレイヤーのフォローも考えれば、荒武者有利の状況は変えられない。
彼女の配信を見ていた視聴者の中にもそれを知って指摘する人もいた。それに対しての彼女の返事は。
『それがどうしたってのよ! 足りないなら他のもので補ってこそよ! ここで諦めたら私は私が許せなくなるのよ!!』
無い物ねだりを彼女はしない。無いのならばあるもので補う。それでもダメならその時であると彼女は考える。そして彼女の考える『ダメな時』はまだ来ていない。
ゲーマー『ネクロロン』の眼は未だ輝きを失っていない。荒武者と言う強大な敵を前にして、彼女はまだ勝つ気でいる。その熱が、集まった参戦者たちの闘志を引き上げ続けている。
「うおぉぉぉおおおお!! 死んでたまるかぁぁあああ!!」
『 』
「フレーム回避ィぃィ!!!」
「こなくそくらえェェ!!」
『 』
「ヒエッ!!?」
「バッキャロウ!! 油断すんな!! 一人やられるだけで戦線持たねぇんだから!!」
「ごめーん!!!」
荒武者は現在、対峙する10人のプレイヤードと対峙していた。彼らは回避特化にステータスと装備、スキルを極振りし直したプレイヤーだ。
特に彼らは目立つプレイヤーではない。特別なスキルも、覚醒者という訳でもない大勢の中のいる普通のプラクロユーザーだ。けれど。
「ちょっと目が慣れてきた希ガス!!」
「慢心すんじゃないわよアンタ!!」
「してねぇーし!!」
彼らは善戦している。勝つことは出来ない。しかし同時に彼らは絶対に負けない。それはこの作戦で得られた多くの情報と荒武者の戦闘パターンを知る事が出来たから。
それら全てを言語化し、参加者たちにわかりやすく纏めたネクロロンの一つの功績が今この瞬間を作り出している。
一騎当千ではなく、一撃必殺。一対多数ではなく、一対一の連戦。誰かが一撃で倒されなければ荒武者のターゲットはその一人に絞られる。それを利用した持久戦。
「ちょだれかいいかげん交代してマジむりぃいいい!!!」
「ウチが変わったる!! カウントいくで!! 3! 2! 1!」
「「スイッチ!!」」
『 』
「こっちや!!」
彼らは崩れた戦線を立て直すために時間稼ぎとして、今この場で荒武者との戦闘に臨んでいる。常に死角に入り、自分の命を奪い取る刃に常に襲われながらも、彼ら10人はこの場に荒武者を張り付けにしている。
高機動戦闘の荒武者相手にダメージを与える事は彼らには出来ない。その為の攻撃力を彼らは持っていないから。しかし、彼らの闘志は今、ネクロロンの作戦に参戦参加した者たちの中で、最も高いと言ってもいいほどだった。
『 』
「イッタァあああ!!? 今掠ったで!!?」
「5カウント後にAラインに回復薬投げるから射線に入れよ!! 行くぞカウント1!!」
「うおぉぉおりゃぁぁああ!!! やったるわぁぁああ!!!」
行動パターンの詳細化で、荒武者の小さな動きから次の行動を予測し、動く。コンマ一秒でも動きがズレたり遅れたりすれば、即死する攻撃を、彼らは避け続けている。
彼らの頑張りは映像には映らない。もしこの映像が映れば、彼らは英雄と呼ばれるほどには善戦しているのにも関わらずだ。要するに彼らは裏方。決して表に出る事はないだろう。それでも、彼らは頑張れる。
『ごめんあと任せt』
それは遺言にも近い、ネクロロンの首が荒武者によって落とされた刹那、ネクロロンが残った彼らに頼んだこと。
これでもし逃げたり、諦めたりしても誰も攻める事は無いだろう。
でも、それでも、作戦の最高司令官兼最高戦力の一角である彼女から頼まれたのだ。彼らが頑張る理由はそれだけで十分だった。
崩れていく戦線の中、回避特化で戦闘に挑んでいた彼らは即座に行動を開始。崩れた戦線を立て直すためにチャットにて自分と同じようなビルドをしているプレイヤーを集め、防御主体の戦闘から回避主体の戦闘へと移行すべく行動を開始。
10人の回避特化が集まったのちに、文字通り体当たり戦法戦で荒武者の注目を奪い、他のプレイヤーに撤退と回復の指示を出して時間を今に至るまで稼いでいる。
「5!!」
「ナイスタイミングや!! あとで好きなもん御馳走したる!!」
「だったらデートでもしてもらおうか!!」
「ほざけ!!」
首、心臓、頭。荒武者の攻撃は全てこの三点に集中している。更にその三点を狙う場合のも5パターンあり、全てを覚え、瞬時に判断するのは、それこそ覚醒者クラスのレベルにならなければ難しい。
「次心4!」
「了解や!!」
「心1の可能性もあるから気を付けろ!!」
「おおきに!!」
『 』
「ナイス指示や!!」
「首1か3!!」
「一息もつけんなホンマに!!」
それを10人が力を合わせて補い合っている。初動観察に自信がある人がやっているとか、そういうのではない。彼らは全員素人だ。ごく普通のゲームが好きなだけの1プレイヤー”だった”。
しかし、この瞬間にも、彼らは成長している。絶対強者相手に挑み続け、その動きを、戦い方を磨きながら、彼らは今この瞬間、誰にも知られぬまま上位勢への扉を開けていた。
「あかんもうげんかいやっ!!」
「変わる!! カウント3! 2!」
「スイッ・・・しもたっ!!」
「なんのぉぉぉおお!!!」
バランスを崩した一人が、荒武者の攻撃を回避できず、死にかけたその瞬間。仲間の一人が荒武者に突っ込んだ。
接近する敵に対し、荒武者は必殺の挙動を取りやめ、背後から迫る敵に対して迎撃行動に移る。
「フェイクだこの野郎!!」
「頭5!! もしくは2!!」
その瞬間、突撃したプレイヤーは急停止し、襲ってくるであろう荒武者の攻撃を回避するためにに態勢を整える。
それに合わせて次の動きを予測したプレイヤーが指示を出す。そして次の瞬間には荒武者はプレイヤーを自分の刀が届く範囲に取り込み、刀を振るう。
「やばい”追撃”くる!!」
「”ハズレ”パターン引いたな畜生!! っぶねぇ!!?」
「スマンおおきに・・・!!!」
「気にしない! 出来るだけ多く休んで!!」
難を逃れたプレイヤーは仲間に救い出されて、所持していアイテムで回復していく。常にステータスはMAXに。そして己の集中力も出来るだけ多く取り戻す様に。けれど仲間の為に荒武者から目は離さずに。
「足狙われとる!!」
「ちょま今足は無理!!?」
「私が!!」
また別のプレイヤーが先ほどと同じように荒武者からターゲットを奪い、仲間の窮地を救う。そしてまた仲間の指示を受けて回避を繰り返す。たった10人が荒武者を押さえつけている。この光景は、配信者たるネクロロンがこの場にいない為映る事は無い。
けれどこの光景は今多くのプレイヤードの犠牲と協力の果てに生み出した小さな奇跡。最適化された対荒武者戦における回答。
覚醒者と言う最強札を自ら封印してしまったプレイヤード達が望んだ結果を、意図せずに彼らは成し遂げていた。それはそうしたかったから生み出された物ではない。彼らの心にあるのはただ一つ。
大好きな推しの願いを叶える事。推しが荒武者を倒したいと口にし、多くのファンや友人たちに協力を募った。
その頼みが例え自分一人に向けられたものではなくとも、彼女の頼みは自分と同じ大勢に向けて頼まれた事。
ならば叶えなければ。推しを全力で推す。支援するために、今彼らはここで戦っている。
『 』
「二段攻撃腰から首3!!」
「ごめんそれは無理!!!」
「だと思った!!」
瞬間移動が如く、高速で動き、懐に入った荒武者は、獲物を狩るべく動く。だがその一太刀が振るわれる事は無かった。
仲間の窮地を救うべく、こうなると思っていた一人が荒武者へ横やりを入れて無理やり行動を阻害する。無傷では済まなかったが。
「げふっ」
その刃が、仲間を救ったプレイヤードの腹を抉るように突き刺した。刺されたプレイヤーのHPがものすごい速度で減っていく。
『 』
「ちょっとくらい余韻に浸ってもいいだろうさ・・・なぁ荒武者よお!!!」
刺されたプレイヤーは荒武者の手首を両手でつかんだ。絶対に逃がさんと言わんばかりに力強く、それこそもっと深く自分の腹に刃を突き刺す様に。
『 』
「やらせるかよっ!!!」
荒武者が無駄だと言わんかの様に刀を横へ薙ぎ払おうとした。だがその前にたった今救われたプレイヤーが荒武者の腕を組みつくように抱きかかえる。無駄かもしれない。それでもやらないよりマジだと。ほとんど考えなしで取った行動だった。
だが、まさかそれが有効札になるなど誰が想像できただろうか。
『 』
荒武者が抑え込まれた腕を無理やり払おうとしたが、その腕が動くことは無かった。全く、ピクリとも、動かなかった。
『 』
「全員で押さえ込めェェぇぇぇぇ!!!!!!」
「「「「「「「「うおぉぉぉおおおおお!!!!!」」」」」」」」
だから荒武者は空いているもう片方の腕を上にあげて、掴んでいるプレイヤーを殴ろうとした。だが、それよりも先に、刺されているプレイヤーが仲間達に声を張り上げて。
今この瞬間に出る最高速度で突っ込み、荒武者の全身に組み付いた。関節技のような技術は無く、本当にただしがみつくようなものだった。でも、それが10人ならば話は変わる。
ここにきて、荒武者の弱点が新たに発見された。それは人型であるからこその弱点。そして怪力ではなかったが故の当然の事象。
”荒武者は組み付けば抑え込める”
彼ら10人は今次の作戦を出し、行動しているネクロロン達がしようとしていた事の最終型をこの瞬間成し遂げた。
「げぼっ」
「ほらよ!!」
「回復!」
「うぶっ・・・さんきゅー」
腹を貫かれたプレイヤーは、HPが無くなる前に、突き刺さる刃から抜け出し、その場に倒れ込んだ。それと同時に、荒武者に組み付いているプレイヤーの2名が回復アイテムを投げつけた事で回復が間に合った。
「ちょっとごめんしばらく動けそうにない・・・!!!」
「いいや充分よ!! よくやったわアンタ!!」
「ナイス根性や! 今度デートしたるで!」
「それ俺の権利だったはずなのにぃ!!!」
「うっさいわボケ!! 余所見せんとがっちり押さえ込んどき!! そしたら考えたるわ!」
「絶対絶対離さん!!!」
『 』
荒武者は全身に組み付かれたプレイヤー達によって完全に抑え込まれた。しかしこれは偶然が生んだ奇跡でもあった。
彼らが抱き着くように抑え込んだ箇所は、荒武者にとっての力場。荒武者が力を籠める最初の場所だったのだ。
座っているときに指一つで立ち上がれなくなる現象がある。あれは立ち上がる為に重心を前に動かすことが出来出来ない事で起こる現象だ。
それが今、荒武者の身体を動かす箇所を全て押さえこむことに成功しているのだ。もし1か所でもズレていれば、そこから一人ずつはがされていただろう。
だからこそこれは奇跡だ。諦めなかった彼らが掴んだ奇跡。数時間に及ぶ荒武者との戦いで諦めなかったからこそつかみ取ったもの。
「誰かが来るまでお前ら死んでも荒武者から力抜くんじゃねぇぞ!!」
「言われなくても!!!」
「あんたこそへばるんじゃないわよ!!」
『 』
荒武者は完全に身動きを封じられた。身動きひとつ出来ず、ただこの場にいることしか出来ない。荒武者が出現して、初めての膠着状態と言っても過言ではないだろう。
だが、それもいつまで持つかは押さえ込んでいる彼等次第だ。肉体疲労は感じなくとも、確かにある。
いつか彼らが力が緩んだ時、荒武者は即座に彼らを引きはがし、惨殺するだろう。だからそれまで力み続ければいい。荒武者は邪神種だ。疲労は存在せず、空腹も限界も無い。しいて言うならば殺した生物の血を取り込み力を増すくらいだろう。
荒武者の行動原理は殺す事だけだ。どれだけ時間が掛かろうとも、それだけを考えて行動する。
だからこの瞬間も殺すために力を入れようとする。もし荒武者に理性や考える思考能力があれば話はまた違うが、それらは今荒武者には存在しない。
だから。ここが分岐点になった。
「ど・・・どうなってんだ!!?」
それはネクロロンが次の作戦の前に、現状を知る為に送った偵察組だった。そんな彼らが見た光景は、思わず目を疑うほどの光景だった。
「誰か来た!!」
「ナイスぅ!! そこの誰か!! ネクロロンに伝えてくれ!! この状況から上手い事荒武者を倒してくれってな!!」
「うちらの事は気にせんでええ!! この荒武者を倒す事だけ考えや!!」
「わ・・・わかった!!!」
「聞いたねお前ら!! 死んでも力緩めるんじゃないよ!!」
「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」
彼らが起こした奇跡が、荒武者撃滅作戦を次の段階へと移行させた。
ーーーー
「・・・やばいわ。何も言葉が出てこない」
目の前の光景に、私は言葉が出なかった。私が倒されて蘇生するして、次の作戦計画を練り上げて実行する前に、私が目指した光景が目の前にあった。
完全に荒武者が抑え込めてる。たった10人のプレイヤーが、100人単位で実行しようとしてた作戦の最終段階の光景を生み出していた。
先に送った偵察が興奮気味に報告してくれた時、正直言葉を鵜呑みにはしなかった。けど、こうして現実を見せられると認めるしかない。
あの人たちはたった10人でやり切ったんだ。初めて荒武者の身動きを封じ込める事に成功したんだ。
「今の声ネクロロンだ!!」
「うおぉぉぉおおおネクロロン!! 俺達やったぜ!!」
「ドアホ気ぃ抜くんやない!!」
「見えないけど吃驚してるのは解かる!! これが最古参ネクロイドの本気だぜ!!!」
「うん・・・うん!! 見てるよ君たち!! ほんとに最高!! よくやってくれたわ!! 流石私のネクロイド!!」
「「「「「「「「「「ネクロロン最高!!」」」」」」」」」」
そんな彼らに報いる為に、私が、”私たち”がすることは一つ。この奇跡が何度も起こせると考えちゃいけない。このチャンスを必ず生かす。
「誰でもいい! 一撃で荒武者を倒す方法思いつく人いる!? このチャンス必ずものにするわ!!」
司令部に残ってくれてる先輩とのチャット経由で向こうの人たちにも何かないかと問う。
「超重量の何かで押しつぶすとか?」
「それをどうやって用意するん?」
「攻撃力全振りの一撃必殺の技とかないの?」
「あるっちゃあるけど魔法での強化前提のだから無理っぽい」
「いまこの状態でもHPゲージ見えてないから何かあるとは思うんだけどなんだろう?」
「ちょっと小突いてみる? 今まで触れる事も出来なかったし」
「止めといたほうがいいと思うよ。それに前にニコニーコさんが殴り合いしてたから小突いた程度じゃなにも変わらないと思うし」
一撃必殺が絶対条件なのは共通認識っぽいのから説明しなくて良さそうなのが助かる。けど、その一撃必殺が今私達が出には出せない。
「押さえてるネクロイドの方々そこから関節技決められたりしない?」
「「「「「「「「「「無理!!!」」」」」」」」」」
「デスヨネー」
「遠距離狙撃攻撃できる人に最高火力の弾丸打ち込んでもらう?」
「それならゼロ距離射撃で良いと思うけど、それするくらいなら近接攻撃の方が強い攻撃出来そうじゃない?」
「うぅうううううう~ここにきて火力不足はきつ過ぎる・・・!!」
「絶対なんか出来るはずだから考えよう! 集合知でなんか出来るはず!!」
思いつくことはたくさんあるけど、それを実行するための力がない。魔法が使えたらなんてたらればで話をすれば幾らでも出来るけど、それが出来ないから皆でこうして頭を抱えてる訳で。
「高速餅つきみたいにズダダダダって物理で殴り続けるとかどうとかどう?」
「やるなら荒武者が押さえつけなくても動けない状況になってからじゃない? 今は勇者10人が押さえつけてるから動けないだけだから不安要素の方が多いかも」
「発想良くない? この状態で荒武者を達磨に出来れば良いって事じゃん?」
「・・・悪くないよね。でもその為にどうするかだよね」
「「「「「「「「「「うーん・・・」」」」」」」」」」
「やっぱそうなるよねぇ!!!」
「出来るだけ早めに決定打を討てるとありがたみ!!」
「ウチらかて無限に押さえるのは不可能やで!?」
「正直ちょっと疲れてきたかも!! なるはやで!!」
そうだよねぇ!! 押さえつけてくれてる人達も疲れるもんね! 時間もそんなに無いのもキツイ! この際多少の危険は覚悟で何かするしか・・・。
「おいおい随分と困ってるじゃねぇかォネクロ?」
「っ!!? チーザー!!? それに皆も!?」
ーーーー
現れたのはネクロロンの仲間達。
そして世界で確認されているのは約20名程度のプラネットクロニクル世界最高戦力。『覚醒者』と呼ばれるプレイヤーたちの中でも、その頂にいる絶対強者たちだ。
その態度言動行動は宛ら暴君。魔法に質量を持たせるように錯覚させる世界唯一の幻想魔法を自由自在に操る『幻想術師:チーザー紫 』
居合切りにその身全てを捧げた者。ただ一つを極めた彼女は居合切りという技術において、誰一人として追随を許さない高みに存在している『居合仙人:にゃーる』
彼女は世界の代弁者。彼女の声に導かれあらゆる力は集結する。そして彼女は己の力を他者へと分け与える。その姿は聖女がごとく『祝音聖女:レイレイ』
この世界の物質には意味がある。その大多数はその意味を知らず、風化していく。だが彼女はその意味を識る。彼女だけがその意味を顕現させる事が出来る『真銘解放:ももちゅん』
その一撃は文字通り嵐を起こし、対峙する全てを蹂躙する。それは神の所業が如く止められず、彼が戦場に立てば後に残るのは嵐の傷跡のみ『剛嵐武神:俺はマー坊』
対邪神戦において最高戦力とも呼ばれる覚醒者5人がここに集う。
「どうしてここに!?」
「あァ? んなもん決まってんだろ。手伝いに来てやったんだよォ」
「いやいや・・・!! いやいやだって皆あれだったじゃん!!」
彼らが今まで動かなかったのは多くのプレイヤー達に”そう望まれていたから”。だから彼ら含めた覚醒者は皆誰一人として邪神撃滅の為の行動はしなかった。
「”知るかんなことよォ”」
「はえぇ?」
「気が変わったんだ。だから来た。理由なんざそれで十分だ。文句あっか?」
「い・・・いやでもそれって・・・いいの?」
「この俺様がそうするって決めたんだ。文句あるなら正面から今この場で文句言いやがれやァ」
今ネクロロンが見ている光景は、不特定多数の大勢が見ているものだ。彼ら覚醒者を取り巻く事象を知っている人もいれば知らない人もいる。
知らない人が見れば増援に来てくれた仲間としか思わないが、知る人が見れば約束破り、あるいは常識無しなんて思われるかもしれない。
だから暴君チーザー紫は先手を打った。
「何とか”都合付けた連中集めて””お前を助けに来た”んだ。それともあれかァ? 俺様達じゃオメェの”手伝い”も出来ねェか?」
『助けに来た。手伝いに来た』
こう言われて大多数の人間はどういった印象を持つか。言わずともわかる事だろう。ネクロロンが公言している事だが、彼らはネクロロンの”昔からの友人達”だ。
そんな彼らが”都合をつけて”ここに来た。そう宣言されれば『苦戦してる友人ネクロロンの為に駆け付けた戦友』にしか見えない。これに文句を言う事はつまり、そういう人たちの方が非情だと指をさされる事になるだろう。
そして仮にもしも今後彼らに喧嘩を売ることになれば必ず報復されるだろう。それは既に闇ギルドにカチコミを掛けた配信で実証済みだ。
この場にいない他の仲間達も加わることを考えれば、ここで彼らの援軍を否定することはメリットデメリットを考えたとしても、利口な事で得策ではない。
それはもう、ただの我儘だ。それが共通認識になるだろう。
この増援に対し唯一拒否を出来る立場にいる人がいる。それはネクロロンだ。これは彼女が始めた戦いだ。彼女が拒めば丸く収まることだ。無論。
「そんなこと無いよ!! うん!! 頼もしすぎる増援だよチーザー!!」
彼女がそれを拒むことは、まずありえないのだが。
「にしてもやるじゃねぇかネクロイドとその他大勢!! テメェらだけで荒武者の事丸裸にした上で無力化出来たのはマジで驚いたぜェ!」
「「「「「「「「「「褒めてるのか貶してるのかわからんけどありがとう!!!」」」」」」」」」」
暴君チーザーは更に戦い続けた彼らを称えた。言葉は決して綺麗な言葉ではない。しかし覚醒者と呼ばれる彼女から称えられて悪い気分になる人は少ないだろう。
要するに『覚醒者なしでここまで出来たのは凄い』と言われてるのだ。それは嘆願書を出した集団が求めた結果の一部なのだ。それを認められた。もしこれ以上を求めるのならば、それこそ荒武者を倒す以外には無いだろう。
でもネクロロンの配信を見ているのならば、現地にいるならばわかる事がある。今は何よりも時間が惜しいのだ。
「言葉を良い方向に捉えるのは良い事だぜェ? んで単刀直入に聞くが”何が足りねェ”?」
「超超超火力!!」
「オイオイオイ喜べネクロ! その足りねぇもんは俺達が持ってるぜェ! んじゃオイそこの組み付いてる奴ら。死ぬ覚悟出来てっか?」
「「「「「「「「「「出来てる!!」」」」」」」」」」
「よぉし気合ある良い返事だァ! ネクロ! 全員下がらせろ! 余波でぶっ飛んでも責任取らねぇぞ!」
「何するかわかんないけどわかった!! 皆下がるよ!! 押さえ込んでるネクロイド達!! 君たちの雄姿は絶対に忘れないから!!」
「「「「「「「「「「さらば!!!」」」」」」」」」」
そうして荒武者から集まった参戦者たちが”全員”が距離を取る。
「あれ? チーザー達が何かするんじゃのないの?」
「黙ってみてな。っとこの距離か。『起動』」
「あれ? チーザーそんな首飾りしてたっけ? それに魔法?」
チーザーがネックレスに触れ、魔法を起動するとネックレスに紋章が浮かび上がる。浮かび上がった紋章はチーザーの眼にも浮かび上がる。
「どこぞの女帝が作った新作だぜェ?」
「え? マイさんも来てくれたの? でもどこに?」
「此処にはいねぇよ。ここに来ても無能だからな」
「うっわ言葉キッツ・・・じゃぁどこに?」
「秘密だ。だけどあの色ボケ女帝が”対策された程度”で荒武者に何もしないと思うか?」
「それってどういう
言葉は繋がらなかった。ネクロロンが全て言い終える前に大地に何かが衝突し大地をひっくり返す。そして轟音が鳴り響く。
それは隕石が落ちてきたかのような音と、激しい砂嵐にも似た土煙。そして巨大生物が歩いた時に起こる衝撃の様にプレイヤー達にも襲い掛かる。
「 !!!?!?!?!」
「 !!!!!???」
叫び声すら消し去るほどの轟音と自身のような揺れに、集まったプレイヤー達は戸惑い焦る。中には立っていることもままならず、転んでしまうプレイヤーもいる。
「 !!!!」
周囲を覆う土煙を吹き飛ばしたのはマー坊。大剣を大きく振りかぶって、まるでバットの様に振り抜けば、視界を覆っていた土煙は吹き飛び、視界をクリアに戻す。
そこで初めて、一体何が起きたのかを大勢の人たちが知った。さっきまで平地だったはずなのに、そこはクレーターになっていた。”荒武者が居た場所を中心”に推定30m以上のクレーターがそこにはあった。
「魔法が無力化されたなら”魔法で物理攻撃”すればいい。簡単だろォ?」
「な・・・なにあれ・・・っ!!?」
クレーターの中心。そこにあったのは鉄球。摩擦熱で赤く熱を帯び、今も大地を溶かし焼くそれはサッカーボール程度の鉄球だった。
「色ボケ女帝様の命名『魔術式超砲撃』だとよ。ゼッテェレールガンのパクリだぜこれ。まぁ動いてる相手には当てられねぇってほざいてたから精度はたかがしれてるがなァ?」
大地を凹ませ、クレーターを生み出したのは、此処にはいないもう一人の覚醒者であることをチーザーは告げる。それはもう軽々と、さも当然の様に。
先ほどまでネクロロン達が求めて仕方がなかったそれを軽々と上回る物を、チーザー達は用意し、ぶつけてきた。
「絶対に敵対したくない事だけは理解したよ」
「それで十分だァ」
これは、最高戦力たちが邪神撃滅に向けて動き出すと言う宣言でもある。




