荒武者編:攻略開始
オペレーションネクロロンパペット
「ネクロイドの皆ちゃろー! 夢見こころだよー。この前のお疲れ様放送の時にも話したんだけど、近々プラクロのメインシナリオを皆でやろうって話したと思うんだけど、今日はそれについての作戦会議配信だよ。プラクロ知らない人、今のメインシナリオ良く知らない人に向けて簡単な説明もしながらの、まぁ雑談枠だね。まずは私がまとめたプラクロについてと最新メインシナリオの話をするね。はいこれみてー」
・プラネットクロニクル(通称プラクロ)とは?
株式会社エクスゼウスが提供しているオンラインVRMMORPG超大作。異世界転生したんじゃないかと思わせるほどのリアリティがプレイヤーの様々な感情を刺激し、自分がその世界で本当に生きているように感じる事が出来る。
・メインシナリオ『星殺す荒武者』とは?
プラクロ世界を滅ぼそうとしている邪神という存在が引き起こす災害の一種。敗北すると世界滅亡に一歩近づくので必ずクリアしなければならないシナリオ。
今回は『生命種の天敵たる荒武者(プレイヤー間では『荒武者』名称)』という人型の邪神討伐がクリア条件。荒武者は既に人類領の都市二つを落としていて、被害は推定二千人以上(プレイヤー除く)。
第一次邪神撃滅戦(仮)にて様々な情報が集まったが、十分とは言い難い(個人的見解)
荒武者はおそらく速度重視の敵で、攻撃力は大きくないと判明している。その為物理特化だったら即死することはないからスキルと装備さえ整っていれば誰でも戦闘可能。逆にいえば防御力が300以下だと即死するので近接戦をするのであれば防御力300以上は必須。
遠距離攻撃に関しては速度が速すぎるためプレイヤー側が追えず、ほぼ魔法も発動する前に対処される為、現在遠距離ジョブは荒武者に対して無力。
索敵範囲は半径50m。プレイヤーが荒武者の範囲に入ると荒武者は戦闘態勢になって、高速で接近、的確に弱い所や急所を狙った攻撃が特徴。この範囲に自分以外の生命体が存在する限り、荒武者が攻撃行動をやめる事はない。
攻撃手段は日本刀による攻撃と手刀を始めとする徒手格闘が確認されている。目潰しや口に日本刀を刺し、心臓を抉るなど、武者と呼ばれているが、武士道の欠片もない殺す事に特化した戦闘スタイルでプレイヤー側の心をへし折った。
「こんな感じかな。痛手なのはこれ以上の情報がない事だね。もっと色々欲しい所だけどここに書いたけど心をへし折られたから萎縮気味で進捗が無い感じだね」
・攻略動画上がってたから見たけど荒武者エグイ
・無力なのに遠距離攻撃持ってってる人一定数いるのどうして?
・俗にいう上位勢はまだ参戦してない感じなのね
・こころん所のクランの人達はまだ様子見?
・速度重視(常時高速移動)
・これで戦闘可能なの? プラクロユーザーヤバくない?
・個人()が都市二つ陥落させてるのヤバい
・プレイヤー以外が二千人以上この武者に殺されてるの怖っ
・首狩目潰しモツ抜き手刀。これ全部してくるのホラーよりホラーしてるわ
「ちょっとしたトラブルさえなければもうちょっと情報が集められていたと思うんだけど、人のエゴと言うか欲望と言うか、まぁ色々あって上位勢は動けてない感じなの。詳しくは個人で調べてみて。コメントにそれに関することの書き込みは禁止ね?」
・わかった!
・了解~
・おk
「んで私としてはこの荒武者から情報引き出しつつ、あわよくば倒したい訳なのよ。だからはい画面に注目!」
『夢見こころ統括・荒武者討伐戦 〇月〇日19:00開始』
参加条件:夢見こころの指示に従う事。レベル条件なし。
集合場所:荒武者の状況によるが、荒武者から最も近い都市
「私とネクロイドの皆で荒武者倒すよ!」
・おぉ!!
・視聴者参加型久しぶりや!!
・レイドキチャァぁああ!!!
・プラクロ共闘きたぁぁぁ!!!
・レベル制限なし!!? それってつまり今から始めても参加できるって事っ!!?
・勝てる気はしないけど挑戦はしてみたいかも
・拙者新米プレイヤードでござるが参加していいって事でござるな?
・先輩プラクロユーザーとして参加してもいいんか!!?
・明日速攻で有給取ってくる!!
「参加条件は私の指示に従う事だけでレベル制限なしだよ。指揮系統を一本にしたいから、私の指示が絶対ね? ネタ配信とかじゃなくて本気で倒しに行くからそこは参加してくれるネクロイドの皆も了承してね? はい次」
作戦及び検証事項
・荒武者から2~3Km程度離れた場所に簡易作戦司令部を陣取って作戦を行う。
・司令部には蘇生スポットと回復スポットなどの補給所を設置。
・荒武者に対し様々な検証を行い、最終目標は荒武者撃滅。
・夢見こころは状況次第で前線と司令部を行き来する。
・作戦行動中は小隊から中隊程度の部隊で行動。部隊長は夢見こころが当日任命。
・遠距離ジョブの有効性の確認。
・その他状況により柔軟に作戦を決行。
「遠距離ジョブに関してだけど検証したい事がいくつかあるから、気兼ねなく参加してね。むしろ長距離射撃系の攻撃手段を持ってる人が一人は欲しいな。もちろん近接の人も是非是非。検証したい事の一つに『荒武者』の誘導は可能かどうかも試したいからゾンビアタック出来る人も是非来てね。後方支援の人員も欲しいから当日始めましたって人でも参加OKだから」
・そこそこガチ?
・マジ攻略やな
・ちょっと気合入れて参加するわ
・ゾンビアタック前提の作戦もあるのか
・遠距離参加OKみたいだから嬉しい
・俺の狙撃魔法が火を噴くぜ!
・ガチムチオッサンアバターのワイが盾になるで!(速度極振り)
#このコメントは不適切な発言が検知されたので消去されました#
・明日プラクロ買ってくる!!
・ワイ引退勢。こころんの攻略に参加したくて復帰を決意しますた。
・人海戦術で情報吐き出させつつ、倒せる機会を見つけてぶっ倒す感じか
・こころんの配信だから当然ちゃ当然だけど、指揮系統の一極化はナイス判断だと思う
・こころんは常時戦場に立たない感じ?
・総司令官こころんで、各部隊の部隊長が作戦に従い行動って感じね了解。
・#このコメントは不適切な発言が検知されたので消去されました#
・これで勝ったら世界トレンド取れるな !!
・今こそネクロイドの製造された意味を見出す時!!
・こころんの駒になれるとかご褒美です
・#このコメントは不適切な発言が検知されたので消去されました#
・なんか荒らしが少し沸いてるの嫌だな
・最初にいってたトラブル関係かね。放置でおk
・運営の素早い対応助かる
・当日荒らしが混じっても対応できるように強い人にも多めに集まって欲しいな
・プラクロの民度の問題なのか、エゴの問題なのか、はたまたどっちもなのか
・速攻で不快コメ消去されてるから視界に入らなくて助かる。運営GJ
・気に入らないなら見なきゃいいのに
・流せ流せー!! こころん当日荒武者に勝とうね!!
・うおぉぉおおおお!!! こころんとプラクロのメインシナリオ攻略できるのマジ感謝!!
・折れた心もこころんとなら再起できる!!
・有名人と一緒に戦えるの光栄です!
・こーこーろー!! こーこーろ!!
・ネクロイド起動しました。オーダー『荒武者撃滅』を受理。作戦準備開始します
・こーこーろー!! こーこーろ!!
・古参ネクロイドの意地を見せたるぜ!
・俺達がヒーローになるぜ!! 一緒に行こうこころん!!
・ネクロイドの戦闘能力はこころんの思いに比例して強くなるんだぜ!
・おっと抜け駆けは許さねぇぜ?
・俺だってヒーローになりたぁぁぁい!! 皆でなりたぁぁああい!!
・世界を救ってやろうぜ!! こころん!!
・後方支援の大切さを感じさせてみせる!
・物資の供給は任せて!! 有り余ってるから!!
・生産系も出番ありそうで感謝! 後方でひたすらアイテム加工する!
・部隊長とかやってみたい!!
・マジで作戦って感じで心躍る!
・男の子ってこういうのが好きなんでしょ!!? 女の子も好きなのよ!!
・オラワクワクしてきたぞ!!
・一番槍貰います! にゃー!!
・何度も立ち上がって最後に勝てばヒーロー!!
「皆の優しさが本当に嬉しいよ。アリガトネ! 可能な限り準備は私の方でもするけど、物資持ち込みとかしてくれると本っ当に助かる! 長時間の作戦になるかもだからもし途中で抜けたい人がいたら抜けて良いからね。私は勝つか司令部が落ちるかするまで徹底的に戦うから着いてこれる人は最後までついて来てくれると心強いかな」
・もちろん最後までお供します!
・イエスユアマジェスティ!
・時間が許す限りになるけどお供します!!
・やぁぁぁってやるぜ!!
・推しの為なら頑張れる!!
・有給三日ぐらい取ってくるわ!!
・上司から連絡来たwww 当日こころんと一緒に世界救うぞってwww
・ニートに時間の概念など存在しないのだ!!
・プラクロの友人に声かけて参加します!!
・自分がこころんの心の柱になれるなら最後までお供しますぞ!!
・プラクロ配信者でガチ攻略してくれるのマジ感謝だし、ネクロイドとしても誇らしいので必ず最後まで戦います!
・これ自分がこころんの動画に映ってたらニチャァってなるから絶対に最後まで参加する!んでもってこころんの視界に映って見せる!
「愛されてるなぁ私。こうなったら絶対に勝ちたいね!! 皆当日は絶対に勝つぞー!!」
・おぉー!!
ーーーー
「ということで、お願い抜きにしてもガチで勝つつもりでやるからアイテムちょーだいな?」
「そのつもりだぜ俺らはよォ。ほら受け取りな」
チーザーがネクロロンに差し出したのは大型のアイテムボックス。この中には私たちが準備した物資がありったけ詰まってる。
回復アイテムは当然完備。各種アイテムはそれぞれ20スタック用意してる。装備破損時の為に着替える&荒武者のあらゆる状況に対して対応できるように用途別の装備を多数用意。
他には私が作った転移魔法陣と簡易蘇生所の魔法陣もある。通常死んだらその場から一番近い都市の蘇生スポットである泉に戻るのが原則。
だけど例外として簡易蘇生陣って言うものがある。これは魔法陣が破壊されるまで魔法陣に自分の情報を登録しておけば、死んだらそこで蘇生できるアイテム。
転移魔法陣は私が簡単に作れるけど、簡易蘇生陣は制作にかなり希少な素材を相当数要求されるから簡単に用意できない。けど邪神相手なら必須級のアイテム。
ま、頼んだ手前用意しない訳にはいかないし、本人もそのリスナーもかなり戦意高そうだし託さない理由は無いわ。
「此処に入ってるアイテムの一覧はこっちだ。んでこれ見ろ。荒武者の侵攻状況と進行速度から俺達が上げた司令部の候補地だ。最終判断は当日までしないほォがいいだろうが、有効なら使え。立地含めて悪くねぇ場所だ」
「サポートが手厚い! しかも想像よりもアイテム数が多い!!」
「とーぜんだァ。テメェらに俺らの代わりをやれって言ったんだ。用意できるもんは全部用意してやらぁ」
「現在進行形でアイテム製造してるから当日足りなかったらすぐ教えてね」
「ありがとうチーザー! マイ!」
ネクロロンは今回が初の邪神戦って言うのもあるからね。視聴者の中には経験者がいるとは思うけど、主催のネクロロンが無知で恥をかくのは誰も見たくないと思うから私達としては全力サポートしなきゃね。
「そういうことよネクロロン。あとはいこれ。私とゴリラが集めた荒武者の予備動作含めた攻撃モーションのまとめ」
「これ助かるぅ~!! ありがとうレイレイ! あとゴリラ」
「あとって・・・まぁいいけどさ」
「にゃーは特に用意出来にゃかったからおみゃーの目を速さに慣れさせる手伝いをするにゃ」
「つまり組手ってことね?」
「にゃ!」
「胸を借りるねにゃーる!」
「俺らからこれまでの邪神戦で最低限必要だった行動をまとめたノートを用意させてもらった。活かしてくれ」
「火力さんありがとう!」
あとは当日までに集まる荒武者の情報次第ね。現状戦ってる連中から得られる情報は多くはないかもだけど、無いよりはマシ。啖呵切ったのだから気合入れて情報くらいは集めてほしいわね。
「でもさー・・・本音言えば皆と邪神倒したかったなぁ・・・」
「なァに勝った気でいやがる。この後テメェらが死んで集めた情報で俺らが戦うんだから働け下僕ゥ」
「ひっどーい!! 鬼! 悪魔! チーザー!!」
「一発で勝てるなら今まで苦労してねェんだわ。まぁその第一号がオメェらになるってんなら気張れや」
「ぐぬぬ・・・経験者の言葉は重いなあ・・・けどそれなら尚更やる気出てきたわ! チーザーに『クッソやっぱ強行して参加しとけばよかった』って言わせてやるから見ててよね!」
チーザーなりの激励とそれを受け取ったネクロロン。ゲーマーとしてのプライドが刺激されて俄然やる気が出てきたみたい。
「そう言えばマスターは?」
「寝てんじゃね? 今の時間帯子供らの寝る時間だし」
「そう言えば今夜中だったね。マイはこっちにいていいの?」
「大丈夫。荒武者に集中していいってアールにも言われたし」
アールだってこっちで情報が集めにくいだけで、現実なら情報集めは出来るから、ある程度の事は知ってる。それこそネクロロンみたいな配信者の荒武者に関するまとめ動画とかはチェックしたみたいだし。
今積極的に動かないのは荒武者の現在地が私たちのホームからかなり離れているからだし、状況次第ではアールも動くって言ってた。
都市が二つ壊滅したって知った時は少し苦しそうな顔をしてたけど、すぐに表情を切り替えて『大丈夫』って言ってた。
そういう事だから、今私がすることは荒武者の討伐。家の事はしばらくアールに任せてこっちに全力を注がせてもらう。
ーーーー
生命が消え去った荒野を歩く。
邪神の通った後には何も残らない。草木すら、生命を吸われたように徐々に枯れていく。それが邪神と言う存在がもつ脅威。
進んだ先に残るのは死んだ大地だけ。枯れ葉も死体も、何も残らない。全て、全て邪神と言う存在に吸われ、死んでいく。
存在するだけで生命を殺し、星を殺す。それが邪神と言う存在。
がしゃり、がしゃり、がしゃり。
荒武者は鎧の音を立てながら本能が示すままに生命を殺すために歩みを進める。
”ここまで音が聞こえるほどに、静まり返った荒野に響く大きな音だ”
「荒武者といったか・・・見た目だけは武人だが、邪悪な何かが溢れ出ているな」
「あれでも邪神らしいからな。見た目じゃ判断できないってのはまさにこの事だろうさ」
「ほぅ? あれが噂で聞いた戦火の悲種から生まれた邪神か。愛弟子が過去に滅ぼした奴と比べて随分と小さくなったものよな」
「邪神としての力は多分あの時戦った奴と同等だとは思うけどな」
生命種の天敵たる荒武者。メインシナリオのボス。あるいは星を揺るがす災害。世界が一丸となって倒すべき生命共通の敵・・・のはずなんだけどなぁ。
オンラインとなれば不特定多数の人間がここにいる。善意も悪意も欲もひっくるめてだ。世界の中心だった前世とは違って、俺はこの世界に住む一人にすぎない。
だから正直出しゃばる気はない。でも、撃滅すべし相手を知らないままでいることほど愚かな事も無い。だからこうして監視を掻い潜ってここに来た。
少々マリアーデに協力してもらい、空から監視している魔人種の協力者に視線を外してもらっている。少々強引だが、これでここから先の事は記録には残らない。
「さて、行ってくる。アキハ達の事は頼むな師匠」
「任せよ」
「「「「・・・」」」」
この世界で生きている限り、この災害からは逃れられない。残念ながら無知のままでいる事は自分の生存に繋がる。
いつかは見せようと思っていた事だ。以前の様に偶発的な接触ではなく、意図的に、自分たちから接触する形で。それが今日都合がよかった。
連れてきた理由はそれだけだ。だが、大切な事だと思う。
「いいかお前たち。見てるだけでいい。今日は知るだけでいい。この世界で生きていく中で絶対に知らないといけない敵だ。この後感じる全部を覚えておけ」
生唾を飲み込みながら、”四人”がコクリと頷く。それを確認して足を踏み出した時だ。
「と・・・父さん」
不安な顔で、ぎゅっとアキハが腕をつかむ。行かないで欲しい。無言だがそう言いたげな顔だった。
「アキハ。大丈夫だ。今回は倒すために戦うんじゃなくて知る為に戦いに行くんだ。危険だと思ったらすぐに戻ってくるよ」
「・・・う・・・うん」
「必ず戻ってくるから心配すんな」
「あうぅ・・・」
不安そうに声を震わせるアキハの頭をわしゃわしゃと撫ぜて、思考をゆっくりと戦いへと切り替えていく。マイ達には悪いけど、先に此奴と手合わせさせてもらう。
「じゃ、今度こそ行ってくる」
意識を切り替え、呼吸を切り替える。ピスケスで空を蹴り、大回りしながら距離を詰める。そうして地面に着地したのはアキハ達がいる場所とは反対側の地面。そして荒武者の索敵範囲50mに入る位置だ。
『 』
「なるほど、動画で見た通り範囲内に入ればすぐ認識するのか」
進む足を止め、ゆっくりとこちらに向き直る荒武者。闘志などは感じないが、殺意は感じる。
そして、微弱だけど、体中に悪寒のような、むず痒いものが走った。なんて言えばいいのか解からないが、身体の信号を鈍らせる感覚と言えばいいのだろうか?
ハッキリと言葉に出来ないが得体のしれない何かに阻害されている感覚がある。これは今まで感じたこと無い感覚だ。だけど、今の所俺の身体に悪影響を及ぼすようなものではないみたいだ。
『 』
荒武者からすれば、そんなことは関係なく、ただ俺と言う生命を殺すだけだと言わんばかりの姿勢だ。
「甘い」
しかしあれだ。殺気が駄々洩れで、次の動きが容易に予測できる。振るわれた刀が狙ってきた位置にフルタカを置くように構えれば、次の瞬間には互いの刃から火花が散る。
「なるほど・・・なっ!!」
『 』
「速いし重い。ここまで鍛えるのに相当時間をかけた御仁だったみたいだな」
荒武者は応えない。無言のまま荒武者は次の行動に移っている。それも、邪神に完全に利用されて今では殺すことしか出来ない道具にされた訳だ。反吐が出る。
荒武者・・・邪神の道具にされた鎧武者が動いた。また死角に入った。けど地面を伝う衝撃が鎧武者の位置を教えてくれる。そして殺気と心の悲鳴が狙いを教えてくれる。
急所のみを狙った攻撃。殺す事に最適化した最低限の行動だ。だからこそ、動きが読みやすい。振るわれる攻撃に合わせてフルタカを振るい、弾いてやれば吸い込まれるように受け止められる。
前後左右から振るわれる攻撃を的確に防御していく。確かに速い。そして速ければその分受け止める際の力量は増え、強くなる。
けれど、この程度ならば”視えるし追える”。太刀筋をなぞる様に、フルタカで迎え撃ち衝撃を吸収する。
『 』
荒武者の攻撃は何度も言うが急所狙いのみ。そして死角になる場所に立ち、確実に仕留めるスタイルだ。例えば今みたいに、自慢の速度で後ろに回り込み、首を撥ねる一閃を放つ。
一撃一殺。荒武者のスタイルはそれだろう。それが故に一撃ごとに動きが止まる。衝撃を吸収しているのを考慮しても停止時間が体感長い。これなら全然対処できる。
そしてこの停止時間は反撃には十分すぎる時間だ。
「『月輪』!」
動きが止まった瞬間を狙い、大きく弧を描くように、荒武者の攻撃を避けて、此方の間合いに持ち込み、胴体めがけ目掛けてフルタカを振るう。
「シィッ!!」
ここまで受け止めた衝撃を全て乗せて、荒武者を腰から真っ二つに叩き切る。分断されした体は完全に勢いを失い、その場に瓦礫の様に崩れ落ちるように地面に落ちる。
これで終わるのが肉体を持つ生命体だ。けれど相手はその常識は通じない。邪神と言う存在は肉体がそこにあっても、肉体には縛られない存在。血が流れていない器である荒武者は俺の想像通りの現象を起こした。
黒い植物の蔦の様なものが切り口から伸び、それぞれの半身を接合するように引き寄せあっていく。縫い目を結ぶように、蔦の様な何かは体を斬られる前の状態まで戻っていくが。
『 』
「トロい!『月光脚』!」
荒武者が構え直す前に今度は兜を蹴り飛ばす。足に伝わる破裂音。頭を蹴り飛ばしたんだから当然だが、想像以上に脆い首だ。けど、相手が相手なだけに情け容赦はしない。時間も限られている。速攻で仕掛ける!
「月光真流極大奥義:改『星裁波状フォルトレナ』!!」
マリアーデが生み出した新たな月光真流極大奥義。二種ではなく二種以上の奥義を混成させたことで生まれた奥義の事を、俺は通常の極大奥義と区別するために『改』とした。
マリアーデも『そうしたいならそうしてもいい』と言ってくれたのでそういう事にした。
月光真流奥義の連撃。鎧は固いが、俺のこれまでの経験を全て乗せて、放つ。
がしゃりがしゃりがしゃりと、瓦礫の様に地面に落ちていく鎧だったもの。あまりにあっけ無さ過ぎる。これが邪神と言われれば、何もしなければ俺はNOを突きつける。
ただ不死身の存在。その程度の認識だっただろう。だがこれは邪神であると証明されている。運営と言うこの世界の神ともいえる彼らが今まで嘘のアナウンスはしたことはないらしい。だからこれは邪神だそうだ。
そんな思考を回している間にも、荒武者の鎧はまた蔦を伸ばして接合していく。俺の経験が全てとは言えないので邪神ではないと言えないが、正直に言えばそうだな。
この程度なら俺がいないとどうしようもないという事にはならないだろう。そして逆に言えば此奴はまだ全力じゃないはずだ。その時は、マイを始めとした覚醒者が出張ることになるだろう。こっちでの邪神戦闘経験は巨大生物型戦ばかりだったが、ここに来て初めての人型邪神との戦闘。
過去に出現した邪神には元人間もいたらしいからその時の経験で乗り切れると思う。だけど楽観的な判断はしない。
「仕掛けだけはさせて貰うぞ荒武者っ!!『月波:朔』!!」
三度鎧が戻った瞬間、今俺の中にある衝撃を全て叩き込む。叩き込んだ衝撃は爆発させず、鎧武者の中に蓄積させておく。この衝撃はこれから受ける衝撃を全て吸収し続け、来たる時まで残り続ける爆弾だ。
一撃を受けて吹き飛ぶ荒武者から距離を取り、認識範囲から外れる。同時に最初に感じた正体不明の感覚も消えていく。通常戦闘では問題は起きなかったが、あの感覚の正体は何なんだ?
『 』
荒武者は元に戻った身体を確認するように動かすと、何事も無かったようにまたがしゃりがしゃりがしゃり音を立てながら歩いていく。夜とはいえ、月の光で比較的明るい夜だ。正常な視覚があれば俺の事を認識できるはず。
それが出来ないという事は、視覚ではない別の何か、それこそ索敵範囲の中にある何かを判断材料に、対象を識別しているんだろう。おそらくだが先ほど感じていた謎の感覚が荒武者の視覚の代わりを務めているモノなんだろう。
もう一度索敵範囲に入り込めば戦闘出来るだろうが、戦闘面だけで言えば今の荒武者と戦って得られるものは無いだろう。ならここは素直に撤退しよう。
フルタカを収め、アキハ達が待つ場所まで駆け抜ける。たまたま目が合ったのでマリアーデと視線を交わせば、マリアーデは俺の考えを理解してくれたようで、ひょいひょいとミナツとフユカを持ち上げる。
そうして俺もすれ違いざまに両脇にアキハとハルナを抱えてそのまま駆け抜ける。
「「「「!?!?!?!?」」」」
「撤退だ。状況はわかった。あとはマイや他の皆に任せる」
「そういう訳だ童たちよ。現状は安心して良いようだ」
この後俺がやるべきことは自己鍛錬だ。自分よりも強いと想定して、荒武者と戦えるように仕上げておこう。
ーーーー
「そういう事だ童たちよ。現状は安心して良いようだぞ」
父さんの先生はそう言ってるけど、今のアレを魅せられて、どれだけの人が素直に安心できるんだろうか。
私は父さんの種族がどれだけ優れているのかわからないけど、少なくとも私は、今の戦闘を目で追えなかった。
距離が離れていたからハッキリしたものじゃないが、一呼吸しない内に父さんが戦っていた鎧は父さんの背後に回って、剣を振るっていた。
あの場に私がいたら、間違いなく死んでいた。そう思える速度だった。それを父さんは全て捌き、圧倒していた。
私はそんなに強くないから、自信は無いけど、父さんは間違いなく強くなってると思う。前に一緒に戦った時よりも、ずっと強い。
少しは、追いついていたと思ったのに、父さんはまだずっと先にいる。この感情を何と言えばいいかわからないが、とても、もやもやする。
「アキハ」
「・・・ん、すまない父さん?」
「確かに知れとは言ったけど、焦るなよ?」
「・・・?」
「ズバッと言うけど、俺とお前じゃ経験が違いすぎるから。今アキハが思ってる焦りの感情は今はまだ無視していい感情だ。今はただ知った。それだけでいいんだ」
「焦り? これが・・・焦り・・・なのか?」
焦り・・・この感情は焦りの感情なのか。でも、なんで私は焦っているのだろうか?
「・・・どうせ姉さんは早く大きくならないととか思ってるんじゃないの?」
「ハルナ?」
「今言ってたじゃん。何も知らないでいるのはダメだから今知れって。姉さんは難しく考えすぎ・・・難しく考えないでゆっくりしてればいいんだよ」
「そう・・・なのか?」
「・・・私はもう難しく考えるのやめたよ。どうせ考えてもわかんないし、お父さんが今知っただけで良いって言ってるし」
「・・・」
「・・・ハァ、アレだよね。姉さん馬鹿真面目って奴だよね多分」
「むっ、ハルナに馬鹿と言われるのはちょっと嫌だな」
「言われたくなかったらフユカの半分くらいは図々しさ分けて貰いなよ。そうしたら馬鹿真面目じゃなくなるよ、たぶん」
「むぅ・・・」
「別にそこはハルナのぐうたら感を半分あげても良いんだぞ?」
「やだ。姉さんの真面目成分はいらない」
「それはそれで将来心配なんだが?」
「・・・そのうち治るからお父さんも焦んないで待ってなよ」
「こいつめ」
・・・よく分かってはいないが、このもやもやは大丈夫なもやもやだって事はわかった。父さんがそう言ってるし、ハルナにも私のもやもやを見抜かれたくらいだ。
だから、うん。多分大丈夫だ。
「父さん。帰ったら手合わせしてほしい」
「もう夜も遅いから寝て起きたらな」
「・・・やっぱ馬鹿真面目」
ーーーー
その夜の出来事は、記録に残らなかった。
だが、もしこの場にアール以外のプレイヤーがいれば、実力差を見て、また別の方向で折れていたかも知れない。少なくとも、実力足らずの自分たちだけで倒そうなどと言うことはもう考えなかっただろう。
そもそも、特別じゃない自分たちだけでと言い始めたのは、以前の邪神戦で活躍できなかったからだけじゃない。もっと前からだ。ずっと言ってきた者たちは初期からいたのだ。
それがたまたま、覚醒者じゃないアールと言う存在を知って、自分たちも頑張ればと思い、それが今回爆発しただけだ。
アールを”自分たちと同じ”と思い込んでいた彼らの思考不足。その経験の差を全く考えていなかった勘違い。
まぁだからと言って、この先の展開が変わるわけではない。しいて言うならば早いか遅いか、多いか少ないかの違いだ。
主人公は聖者ではない。主人公は剣聖である。
主人公は勇者ではない。主人公は今はただの父親である。
だから、守るべきものに優劣はつける。だから世間の言葉にある程度は耳を傾ける。
だから、アールは、ここで決着をつける判断をしなかった。
この先の未来を知る者がいれば、この時の選択は正しかったと言える。アールの判断は、間違いなくアールの守るべき者を守る行動だった。
だからそう。この先に起こるその他大勢の悲劇は、アールにとっては良くも悪くも無関係。しいて言えば多くの主人公たちが起こしてしまう悲劇だ。
あの時どうして・・・そう後悔する。そんな悲劇。
悲劇と言うものは、そういうものだから。
一足先に摘まみ食い。一応言っておきますがアールの普通は普通じゃありませんので。
近況報告
FGOイベントえぐくない? 情報過多で叫び散らかしました。




