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家族旅行編:日常は唐突に

もはや何も語るまい

センシティブ判定と言うのはいつの時代もある訳だ。


いきなり何を言い出すのだと思われるだろうが、今の現状を一言で言うとそれなのだ。


普段が普段なのでそれが当たり前だと思っていたので完全に油断したと言うか、見落としていたと言うか。ともかくだ。何が起きてるかと言うと。


「いやぁぁ~いい湯だねぇ~ふぃ~」


「・・・まぁまぁじゃない?」


「えへへ・・・お家だと皆で入れないですから新鮮ですね。えへへ」


「気持ちいい」


混浴である。家族温泉なので当然と言えば当然なのだが。問題はそこじゃない。一応ここは町の施設扱いの為、家と違い然るべきルールと言うものが存在している。それはこの家族温泉でも例外ではなかった。


さて問題。今のマイ含めた女性陣の格好 (一応男性陣も含めておく))はどんな格好でしょうか?


正解まで






はい。正解は・・・水着である。


お風呂で水着である。


正直、火力がデカすぎると思う。


違うんっすよ。来るとわかっていれば全然平気なんですよ。でも急にきてそのプロポーションを見せつけられながら家族そろって仲良く温泉に浸かってる訳なんですよ。


馬鹿野郎お前。水着の破壊力舐めるなよ。水着って言うのはな、叡智なんだよ。躰を引き立て、美しさをより輝かせる兵器みたいなものなんだよ。何なら裸よりも叡智だと思う。


ここがゲームの世界で本当に良かったと思うわ。リアルだったらちょっとヤバかった。


つまりだ。マイ、マジ、ヤバい。


俺は水着の種類とか名称とか良く知らんけど、ビキニタイプでなんか布とか紐で結んでると言えばいいのか? こう、品やかさとバスト感が凄まじくビューティー。目の保養にはなってるけど、破壊力あり過ぎて、ここが現実ならちょっとムーディーで叡智な展開になってると思う。と言うか俺が多分我慢できん。それくらいにキレイだ。


んで、アキハ達もマイに選んでもらったのか同じようなタイプの色違いを着用している。オイ。言っとくけど娘に発情はしてないからな? 流石にそれだったら父親としては不味いわ。なに? 血が繋がってないからOK? よし、お前あとで校舎裏な。


「なぁアキハ姉さんもだけどハルナもフユカもそんなの着て恥ずかしくないの?」


「パンツ一枚しか着てないアンタに言われたくないんだけど」


「というか元々私達ボロ布羽織ってるだけの時とかもありましたしこれ位全然平気ですよ?」


「私はお風呂が気持ち良ければそれでいい・・・それにこれを着たら父さんとも一緒に入れると言われたから着ているだけだ」


「流石に裸で家族とはいえ混浴はお母さん看過できないからね。それにアール、こういうのクるでしょ?」


「・・・ノーコメント」


あちょうでにたわわがあたってやわらかきもちいいですじゃなく心頭滅却心頭滅却スケベ退散スケベ撃退煩悩退散退散あぁダメですお客sまさま足まで絡められるとあ゜っ


「こういう時のアールってわかりやすいよねーうりうり~」


「「「「????」」」」


「アキちゃん達はまだわからなくていいよ。もう少し心が大人になったらお勉強しようね? ねぇ? お父さん♡」


・・・極楽浄土。楽園はここにあった。我、悟りを得たり。


この後アキハ達に背中洗って貰ったり頭洗ってやったりしてめちゃくちゃ家族温泉満喫した。








ーーーー










「いやぁーいい湯だったね~。皆で入れるくらい大きいし備品も充実してたし流石王都の施設って感じだったね。仮想世界こっちでの娯楽も捨てたもんじゃないね」


「うへへ・・・お父さんの背中流せたの初めてでした・・・!!」


「・・・プニツ」


「太ってる訳じゃねーし!!」


「・・・お肉摘まめたんだから諦めて認めなよプニツ」


「プニツ言うなバカハルナ!! お前だって摘まめたじゃん!!」


「デリカシー?がないぞミナツ。女子にそういう事言うのは良くない事だって前にももちゅんさんが言っていた」


「そうだよプニツ。それに女子は少しくらい摘まめたほうが健康的なんだって変な語尾の人も言ってたよ」


「ミナツはデリカシーゼロ男子?ってやつなんですね。」


「うがぁぁあああああんっ!! かあさーん!!」


「おーよしよし。最近ナツ君アキちゃん達に口で勝てなくなってきちゃったね」


いつものミナツ弄りと言うか、貶しというか、とにかくいつもの我が家の光景を繰り広げている姉弟たちを見ながら、来て良かったと思う。


ちょっと悟りを開きかけた(?)が、簡易サウナまであって、家族温泉と少々侮っていた自分も大満足な時間だった。


ハルナ達も温泉を満喫してくれたみたいだし。六人揃ってサービスのアイス片手に涼みながらその余韻に浸っている訳だ。チルってるって奴だな。


ここの家族温泉個室まで用意されててソファーにベッドまであるのでこのまま寝れるのだ。こんないい所見つけてくれたマイには本当に感謝だな。


「ほーら、アイスもう一個食べて良いから元気出すんだよナツ君」


「え!! いいの!!? やったー!!」


「「ハァ・・・」」


「やっぱプニツじゃん」


「ならアキハ達はアイスもう一個いらない? いらないなら俺が食べちゃうけど?」


「食べないとは言ってないし・・・!!」


アイスで釣られてる時点で、ハルナ達もあんまりミナツの事言えないと思うんだけど、そう言うと不貞腐れるので言わない。


二個目のアイスを各々持っていき、幸せそうに食べ進めていく。この子らは本当に食べる時幸せそうに食べるから見ててほっこりするんだよな。


「今日はこのまま旅館に帰ってのんびりしてもいいかもね」


「だな。観光であちこち行く気にはもうならないし」


「晩御飯は旅館のご飯お願いしよっか。もう少ししてから帰っても十分用意してもらえるはずだし」


「アキハ達もそれでいいか?」


「うふ、わはひはそへでいひ」


「お肉がいい・・・でもねむい・・・」


「私もへいきです・・・けどねむいです」


「俺も~・・・むにゃ・・・」


もっきゅもっきゅと可愛らしくアイスを食べながら返事をするアキハと温泉に入ってアイス食べて気持ち良くなって眠そうなミナツ達。これ完全にネムネムモード入っちゃったな。


「まだ時間あるし皆少し寝てもいいぞ?」


「そうそう。温泉気持ちよかったもんね。ほーれ、マミーのお膝も解禁しちゃうよ」


「むにゃ」


「へにゃ」


ベッドに移動してぽんぽんと膝を叩くマイに吸い寄せられるようにミナツとフユカはそのまま膝の上に頭を置いて、ものの数秒で気持ちよさそうな寝息を聞かせながら夢の世界に旅立っていった。


「アキちゃん達はお父さんのお膝借りて寝ていいよ?」


まだ何も言ってないんだが、まぁ、元からその気だったしいいか。ベッドの空いてる所に腰掛けて、マイと同じように膝を軽くたたいてやれば、二人もポケェ~としながら千鳥足で向かってきて、そのまま膝の上に頭を乗せて、同じようにそのまま寝てしまった。


「温泉の魔力ってすごいよね。あっという間に皆寝ちゃうんだもん」


全くその通りだ。四人ともすごく気持ちよさそうに寝てる。夜寝られなくなるから一時間くらいしたら起こすけど、起こすのもちょっと躊躇う位気持ちよさそうな寝顔だ。


「アールは現実あっちだったらギンギンだったかもだけどね~?」


「お前あれはズルいよお前マジで」


「オッパイ星人だもんねアール。狙ってみたけどどうだった?」


「俺がスケベみたいに言うのやめて? 一般性癖だからね?」


「ニヒヒ、そういう事にしといてあげるよ。で? 感想は?」


「綺麗だった」


「なら良し。気が向いたらあっち”でも”着てあげるから楽しみにしてて」


「・・・その時は正直どうなるかわからん」


「それも込々で着てあげるね♡」


勝てる気がしない。








ーーーー






王都滞在も今日で三日目。さて何をしようかと考えながら、家族仲良く街を歩いている。先頭は三日目も元気なミナツと、ミナツがはぐれない様に手を繋ぐマイ。あとじゃんけんで負けて俺から離されたハルナが凄く嫌そうに。


んで俺の両手はアキハとフユカが片方ずつ握っている。三日目にもなると人の多さに対してもある程度免疫が出来たのか、初日程硬くない。手を繋がないと少々不安がるのは仕方ないとして。まぁこっちとしては逸れて迷子なんて事になると焦るから万々歳なのだけどな。


「・・・マミー抱っこ」


「ハルちゃん甘えないの。まだ歩き始めたばっかりだよ?」


「・・・お父さんなら抱っこしてくれるし」


「こりゃダメだ。しばらく私がこの子見てないと堕落した大人になっちゃうわ。という事でハルちゃんしばらくマミーと一緒に過ごそうね?」


「・・・余計な事言うんじゃなかった・・・わかった。わかったからその怖い笑顔辞めて」


「???」


ハルナはマイに最近の甘えん坊っぷりをどうやら矯正される事になるみたいだ。確かに少し甘えん坊ではあったと思ったけど。でもここで口出しすると俺まで余計なお説教喰らう可能性あるからスマンハルナ。諦めてくれ。


「ハルナには良い薬になるな。最近父さんに甘え過ぎだったからな」


「お父さん独占してた罰が当たったんですね」


「・・・聴こえてるからねアンタ達。マミー、アキハ姉さんとフユカも甘えてると思うよ」


「二人も直してもらうけどまずは一番重症なハルちゃんからだよ」


「・・・ぐぬぬじゃんけんにさえ負けなかったら・・・!!!」


母は強し。次女ハルナ完全敗北ってか? 半分は自分で自爆した気もするが。ともあれ嫌そうに歩くハルナだが、マイの手はがっちりと握ってるし、何なら指を絡めた俗にいう恋人繋ぎってやつで絶対に離さないと言う様に力を入れて握ってる所を見るに、マイ憎しという訳ではないようだ。


「そう言えば母さん今日どこ行くの?」


「今日は皆の服を買いに服屋さんにいくよ。折角物流が多い町に来たんだし皆の普段着のバリエーション増やしていかないと」


「おぉ新しい服か! カッコいいのがいい!」


「多分あるから大丈夫だよ・・・あの変態がちゃんと仕事してればだけど」


ちょっと最後聞きたくないワードが紛れてたんだが? 変態がいるのか? 大丈夫なのかそのお店・・・?








ーーーー








「いらっしゃいませぇぇぇえええええ!!?!?!?」


「五月蠅いわよ変態」


着いたのは町の生活圏にあるごくごく普通の服屋さん。王都も城前通りから少し離れるとあっという間に地元住民の生活圏に早変わり。


大きな通りでは観光客相手に働く人が多いが、こっちは王都では王都住民相手に商売してる人が多いので呼び込みとか大きな暖簾とかは上がらず、店前に看板があるだけのシンプルな店が多い。


そんな地域住民行きつけの服屋さん的な店に迷わず進んできて、店の扉を開けば、第一声がこれである。


「アール。此奴は『睦月卯月』、覚えるのが面倒なら変態でもいいから」


「初対面の相手に変態呼びは逆に難易度高いんだが?」


と言うか、名前的にプレイヤードだな。って事はここはクランハウスな訳か。地元密着型のクランハウスなんなんだな。


「違うわよ」


「え?」


「此奴ソロだからクランハウスなんて大層なもん持ってないわよ」


「ちょっ!!? マイ待ってくれ!? それって」


「大丈夫よ。此奴はプレイヤードに対するルールの中で数少ない例外枠よ」


「どうも例外枠ですゲヘヘへ、所でお嬢さん方ニーソにきょあいたぁああ!!?」


「パパ!! いつも言ってるけど初対面のお客さんにいきなりニーソ進める変態さん行為しないでください!!」


パコーンといい音と共に後頭部を叩かれた・・・うん、変態でいいや。いきなり人の娘にニーソ進めてくる奴は変態以外の何者もないだろう。


パパ呼びという事はこの子はこの変態の娘さんみたいだ。見た目は少々幼いが、言動と立ち振る舞いは良く、アキハよりも少し年上だと思う。年齢的には高校生くらいか?


「ハズキちゃんこんにちわ。この変態に泣かされてない? 何かあったら言ってね?」


「こんにちわマイお姉さん! パパが変態なのはいつも通りですけど泣かされては無いです。こんな変態さんだと私も心配で困っちゃいます。せっかく来てくれたお客さんがパパの変態発言で逃げちゃう事は特に困ってます」


マイとも交流があるみたいだ。どう見ても初対面ではなさそうだ。


「いやいや目の前に至高の作品が映えそうな子が来たんだよ!!? 押さなければ成らぬ!」


「パパ、今度は”これ”でぶっ飛ばすですか?」


「あ、はい大人しくしてまーす」


「わかればいいのです。パパの変態さんが直るなら私は鬼さんにもなるのです」


明らかに棍棒、どう見ても棍棒。物騒な棍棒。血糊の様な赤い斑点が見える明らかな凶器の棍棒をスっと取り出したのを見て、変態は大人しくなった。


「このお店の持ち主はこっちのハズキちゃんなの。んで変態は店員。名目上ではね」


「ハイなのです。服屋さん『ニーニーソー』の店長さんなのです!」


「そして真の店長の卯月睦月です。げへへへ」


「パパ? お話しましょうか」


「ウッス・・・」


娘ちゃん基ハズキちゃんの圧のある顔で見られ、変態性を見せかけた変態はスグに変態の姿を隠した。普段の力関係は娘ちゃん>変態なんだろうな。


「簡単にいえば此奴の作った品物の一つがこの国の王族に気に入られたのよ。んであれこれあって今じゃ露店の店主から街密着型の服屋の運営までこぎ着けたのよ。変態だけど」


「そ・・・そっか・・・」


それって滅茶苦茶凄いことなのではないだろうか?端折って説明されたけど、ものすごい事だろそれ。王族の行きつけのお店で職人とか普通に凄いポジションだなオイ。


さっきから変態面と反省面を交互に繰り返してるのを見なければもっと素直に凄いと思えたと思うんだけどなぁ・・・


「ところでマイさん! 今日はどんなご要望で!!?」


「話を逸らされました。パパ、あとでまたお話なのです」


「皆の普段着を見繕いに来たのよ。動きやすい服とお出かけ用の服を三着ずつ買う予定よ」


「でしたらあっちの棚にしんしゃくがありゅのでしゅ!!・・・噛みました」


「テンション上がった俺の娘の嚙み嚙み店員マジカワユス。ニーソと合わさって最強で究極に可愛い!!」


「パパ!! 恥ずかしいから人前ではあんまり褒めないでください!!」


アカン。今の変態発言聞いて誉め言葉に捉えちゃうのはあまりよろしくないと思う。ちょっと染まりかけてない? もしもしお巡りさん? え?家庭の事情、あ、はい。すみません。


「私達もあんまり人の事いえないからね」


「??? どうしたんですか?」


「何でもないわ。それじゃぁその新作見せて貰えるかな?」


「はいなのです! パパは変態さんですがお洋服を作ったら世界一なのです! こっちなのです!!」


そんな感じで、店長と店員の親子に色々と服を見せて貰いながら時間を過ごした。なんだろうこの気持ち。確かに服は良い物が多かったしデザインも見事だったのに、合間合間で『ここでニーソなんk『ていっ!!』あいたぁぁああ!!?』なんて見事な手刀とかを見てなければもっと素直にいい店だって思えたんだけどなぁ・・・


でも多分通っている内に『いつものだ』って慣れてくるんだろう。初見なのが悪かったとしか言えないか。


因みにミナツは前に”唯我独尊”後ろに”絶対絶望”なんて滅茶苦茶達筆に書かれ、カッコいいドラゴンが描かれたなTシャツを一枚『かっけぇぇええ!!』を気に入って買った。


元ネタ絶対にアレだろ。見たことあるぞそのサイキック〇リーチャー。しかもDCGシークレット版。さてはコイツやり込んでたな?








ーーーー








がしゃり、がしゃり、がしゃり。


その存在は”日の光の下”を歩いていた。


目的は無い。


だが歪められた使命が身体を動かす。それがもう意味のないものだと知る由も無く。


鎧武者は一歩一歩進んでいく。


その瘴気ともいえる異質な威圧感を纏いながら歩く存在に、森に生きる生命は本能的に悟り少しでも威圧感の主から離れようと逃げ出す。


森の縄張りなど、この存在を前にすれば無意味だと言わんばかりに、強力なモンスター達も我先にと逃げていく。


逃げなかったのは力の差も、その異質さも理解できなかった低知能で縄張り意識が強いモンスター達。その数は100強。


自身の領域を無断で侵された怒り半分、此奴を殺せば自分が森の支配者になれると言う打算半分。力の差などわからずに、モンスター達は鎧武者を囲むようにその姿を現した。


『民ヲ・・・”生命”ヲ・・・殺ス・・・ソレガ、我ガ主トノ誓イ』


此処にもしも、生前鎧武者を知る者がいれば、今の言葉を聞いて正気ではないと理解するだろう。鎧武者の戦いは防衛、守護、そして使命により行われるものだった。


殺すためだけの戦いなど、鎧武者の主が望む訳も無いのに。


鎧武者が静かに刀を抜いた。刃は赤く染まっていた。手入れされていない血糊の付いた刀。所々どす黒く染まり、多くの血を浴びてきたであろうその刀を、鎧武者は静かに構えた。


囲むモンスター達も臨戦態勢に移行した。誰が先に仕掛けるか、低知能ながらにもモンスター達も考えた。少なくとも最初の先鋒は死ぬだろう。それくらいはわかっていた。


だから狙うならば・・・なんて思考をした次の瞬間。


鎧武者は己を囲むモンスターの群れの一つに既に入り込んでいた。


首、四肢、あるいは身体。斬る瞬間すらその目にすること出来ず、死んだことすら理解できないまま、その群れは終わった。


群れの一つは鎧武者の先制攻撃にて壊滅した。それが開戦の合図となる。モンスター達が一斉に鎧武者を殺すために向かってきた。


その牙を、爪を、怪力を、魔力を、持てる全てを使い、鎧武者を殺さんと次々と走っていく。


『殺ス・・・ソレコソガ生存理由』


違う。それは違うと、世界を知る風の音が言う。それは鎧武者の主が残した言葉ではないと呼びかけるように、風が森を吹き抜ける。


だが、その風すら、鎧武者は斬り捨てる。モンスターと共に。


飛び掛かってきたモンスター、足を狙ってきたモンスター、怪力で潰そうとしてきたモンスター。


それら全てを、鎧武者は瞬きの合間に切り伏せる。一撃で。確実に。


急所を狙った斬撃は、絶え間なく襲い掛かるモンスター達を死体へと変えていく。ここでようやくモンスター達は相手の事を理解した。だが既に遅い。


鎧武者は逃げる為の行動をしようとしたモンスター達を察し、そのモンスター達から殺していった。


生前、鎧武者は敗走、あるいは逃走するものを追わなかった。それは己が強者で相手が弱者であるから。弱者を害することは恥であるという信念を持っていたからだ。


それはもう、年月と共に歪められ、信念は書き換えられた。


全てを殺す。


それだけが行動原理。言葉に意味はなく、会話は成立しない。ただただ生命を殺すと言う本能のままに動く傀儡と変わらない。


強国の英雄、民の英雄、解放の侍剣豪。そう呼ばれていた武者はもういない。


ここに在るのは・・・星を殺すためだけに存在する邪神となり果てた生命だったもの。


後に残るは死体のみ。血はまるで意志を持ったように動き、鎧武者へと吸収されていく。吸収された血は、鎧武者の纏う鎧をまた赤黒く染め上げる。


『・・・』


刀を収め、鎧武者はまた歩き出す。その先には小さな村がある。鎧武者が奪うべき命がある。身体が求めるままに、鎧武者は歩く。より多くの生命を求めて。








ーーーー


それは歴史への冒涜。


それは魂の凌辱。


それは生命への宣戦布告。


戦火の悲種は遂に芽吹く。長い年月と共にその種は世界の裏で静かに芽を伸ばし、ゆっくりと成長した。


数百年という年月をかけて、長い年月を耐え続けて、その悲種は星に姿を見せるのを我慢し続けた。


全てはこの時の為に。


枯死に新たなる種の為ではない。


己で全てを終わらせるために。


宿願の時ここに来たり。


依り代は歴史を動かした一騎当千の英雄。それらは魂の死後も悲種により縛り付けられ、そのあり方を変えられた。


これはもう英雄ではない。これはもう人ではない。これにもう魂は無い。


ただ、宿願を、星を殺すために動く怪物。


過去の邪神とは違う別の成長を遂げ、神化し、変異を遂げて邪神と成った。


いずれではなく、今。


ゆっくりと殺すのではなく、今殺す。


その為だけに、戦火の悲種はそのあり方すら捻じ曲げて、邪神と成った。


ここに星の運命を決める戦いが始まる。勝利しなければ訪れるのは生命の滅び。星の滅び。世界の終わり。


ただ一つの生命すら残らず、この星は朽ちる。


ーーーー


メインシナリオ『星殺す荒武者』発生。


クリア条件:『生命種の天敵たる荒武者』の撃滅


敗北条件:生命の総数50万以下に減少or『荒武者』の撃滅失敗


現在の状態『異形神化した邪神種』


ーーーー


『異形神化した邪神種』


・通常とは違う形に成長した戦火の悲種。枯死と言う概念が無くなり、活動が可能な限り星を殺すために行動する邪神生命体。


ーーーー








旅行も終わりに差し掛かって、皆でお土産を買う為に王都を歩いていた私たちの平穏は、そんなアナウンスと共に終わった。


私含めたプレイヤードは直ぐに手元に画面を呼び出して、今のアナウンスをもう一度確認する。


メインシナリオの更新がこんなに早いなんて事、今まで無かった。そして聞いたこと無いワード『異形神化した邪神』って何よと思うけど、説明を読んで騒然とした。


「・・・マミー?」


「マイ?」


「・・・ごめんアール。今すぐに家に転移させるからアキちゃんたちと待ってて」


「・・・状況はわからんが何か起きたんだな。わかった」


「ありがと。ごめんね皆。旅行はここで一旦終わり。悪いけど家で待ってて『転移』」


状況に追いつけないアキちゃん達の困惑した表情に申し訳なさを感じたけど、正直私にも状況が分からない。


メインシナリオが始まったのは理解したけど、今回は多分今までの比じゃ無いくらい、難易度が高いのは間違いないから。


情報収集は敵の荒武者ってやつと交戦した、あるいは発見した人からの証言待ちになる。それか私も荒武者って敵を探して情報を持ち帰るかだ。


『緊急事態だからいきなりだが文句言うんじゃねぇぞテメェら』


『文句なんて言わないのにゃ』


『ログアウトしようとしたらいきなり始まったんだゾ☆』


『枯死しない邪神とかヤバすぎじゃね?』


『ヤバいわよ』


強制的にと言う感じに音声通話が始まった。これは私達ブレイドエンセスターの専用回線。画面を確認すれば今こっちにいるのは私、チーザー、にゃーる、ももちゅん、マー坊、レイレイの五人だけ。


他のメンバーはいないか、戦力としてみれば十分かも知れないけど、相手が相手な以上過剰戦力であることに越したことはないんだけどね。


『私はアールと旅行してたけど、今家に帰したわ。アキちゃん達も一緒だったから』


『あいよ、アイツはこっちの切り札だ。簡単に出しはしねぇよ』


『ぶっちゃけマスターがいると一人で倒しちゃいそうだしにゃ』


『情報も少なすぎるから妥当じゃね? それにアイツ怪我したらめっちゃ痛いんだろ?』


『クリエイションモードそのままだもんね。それに今は家族だっているし簡単に死なせるわけにはいかないでしょ』


『みんな、ありがと』


『なんだマイオメェ? 俺らがそんなこと理解してねぇとか思ってたのか?』


『違うわよ。それでも、お礼は言いたかったの』


『クリエイションモードの辛さはみんな知ってるからね☆』


『そうじゃなくてもアールに初見殺しは天敵なはずだから私らで情報集めてから戦って貰った方が勝率も高いでしょ?』


『切り札は最後まで取っておくのにゃ。切らずに済むならそれに越したこともないのにゃよ』


『そーゆこった! アール本人も今は戦うのがこっちでの目的じゃないみたいだし、メインは俺らで頂こうや』


『ぶっちゃけ俺ァ最近覚醒者がマスターの劣化版とか裏で言われてんのがムカつくからマスター抜きで今回の奴ぶっ殺してやりてぇってのが本心だがなァ?』


『・・・確かにそう考えるとアール抜きで倒してぇな』


『ちょっとムカつくわねその発言主』


『覚醒者アンチかな★?』


『そいつはいずれ斬るにして、今は荒武者とやらを斬る事に専念するにゃ』


『私は別にアールの劣化って言われても気にしないけど』


『オメェは嫁で新参だから良いだろうけど、俺らにもそれなりにプライドはあんだよ』


『そーゆーこと。もう調査部隊とかが各地で動き始めたらしいから情報次第で突撃してもいいかもね』


『マイちゃん情報収集任せていいかなカナ♪?』


なんか皆かなり火がついてると言うか、チーザーが引火させたと言うか、まあやる気満々なのは良い事ね。


『任せて。集められるだけの情報は集めてみるよ。あと他の皆にも連絡入れとくね』


『シャァオメェら!! ブレイドエンセスター結成後初の邪神戦だ!! 盛大にやんぞ!!』

はい。そろそろ本気で戦闘パート入ってくるメインシナリオ開始です。

のんびり書いてたらストック切れてて焦ってます。

もし更新しない日があったら『此奴一生懸命書いてるな』って応援してくれると嬉しいです。


感想メッセージとかで応援してくれると尚嬉しいです。よろしくお願いします。

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