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村の英雄

「一つ気になる事があったんだけどいい?」


 デスペラードを討伐して、一応付近に別個体が居ないかを確認するために見回りをしている中、マイが言った。


「アールって攻撃の時にスキル使うみたいに技名言うじゃん? スキル発動してる訳じゃないからあれって意味あるのかなぁって」


 確かにその通りだな。別に言葉なんていらない。動きは全部頭の中に、この体に染みついているから別に口上する必要はない。が、しかし。


「俺の中での切り替えも兼ねてだな。『今からこの技を使うぞ』って行動に示すのが一つ。もう一つは師匠がそういう人だったからだってこと」


 師匠は『この一撃で相手を殺す可能性もある。相手が何も知らずに殺されるのは嫌であろう。故に相手は自分を殺した技くらい知る権利はあるのだ』って言ってたし。


 つまりは口に出すのは相手に対する敬意でもある。お前を殺した技はこれだって認識、あるいは理解するくらいの温情って奴だ。


「あとかっこいいだろ?」


 五割くらいはこっちが理由だったりする。技使う時に技名言いながら放つのやっぱロマンだし。


「でもそれで見切られたら元も子もないよね?」


「ははは、面白いこと言うなマイ」


 言ってる事は正しい。けどな?


「使う技を知られた程度で防がれるほど腑抜けじゃねぇよ」


「ミ゜」


 なんで今の発言でその声出るんだよ。出る要素無かったろ。


「ぃまのこぇしゅきぃ………」


「溶けるな溶けるな」


 ふにゃふにゃになるようにマイがもたれかかってきた。足腰が生まれたばかりの小鹿の如くガクブルしてらぁ。


 それからマイが復活するまでその場で休憩をはさんでから、周辺に二体目の存在がいないことを確認して村へ戻ろう。








――――








 村に戻って報告すると村人たちは大いに喜んでくれた。それだけ神経を削られていた証拠なんだろう。今日という日を村の記念日にするとまで話が膨らみ始めたので流石に止めにはいったが。


 村の若い衆に討伐の確認をしてもらうため、ついでにデスペラードの死骸から取れる物を取るついでにデスペラードの死骸のある場所まで案内するつもりだったのだが。


「それくらいは私がやるよ。アールは村で休んでて」


 マイにそう言われて俺はマイに甘えて村で休むことにした。したのだが………


「ギルドのお兄ちゃん! モンスターどうやって倒したの!?」


「その武器で倒したんだよね! ずっばーんって!!」


「ねーねー! 町ってどんな場所?」


「モンスター倒したらお金稼げる場所あるの?」


「あそんで!」


 村の子供たちに揉みくちゃにされていた。それはもう村中の子供たちに揉みくちゃにされたと言っても過言じゃないだろう。村の子供が少ないみたいでそこまで大勢ではないが、それでも10人以上はいる。それが皆揃って俺を囲み、あーだこーだと言いながら無邪気に触れ合ってくるわけだ。


「モンスターはこの刀って武器でズドンって切ったんだぞ。町はそうだな、村よりもでっかくて人が多い所だ。ギルドで倒してくださいってモンスターが居れば倒すだけでお金稼げるぞ。でもとっても強いモンスターがほとんどだから難しいかもな。遊ぶのはこの人数だしかけっこくらいならいいぞ」


「かけっこ!! やるー!!」


「えー、僕その武器触ってみたい!」


「やー! 冒険者ごっこするの!!」


「お兄ちゃんたちが倒したモンスターの話ききたい!」


「私大きくなったらお兄さんみたいな強い人のお嫁さんになるー!」


 子供は無邪気だなぁ。もみくちゃにされながらそれはもう子供たちに付き合ってあげた。村では出会えない珍しい人だもの、好奇心が高のぼりだろうさ。


 それも一応村の救世主って事になるだろうから憧れとかそういうのになってしまうのは仕方ないな。自意識過剰? こういう時は状況に飲まれて喜んでしまうのが楽しく生きるコツだ。


 親御さんらしき人たちが申し訳なさそうに子供たちに声をかけるが俺がそれを制する。下手にこの好奇心を発散させずにおけば無謀に村の外に出て危ない目に合う事くらい予測できる。


 だったらここで全部発散させてしまう方が子供たちにとっても、村にとってもWIN・WINだろう。


 俺は幸い体力は有り余ってる方だし疲れて寝るまで遊んでやろう。


「よーしお兄さんお前たちがやりたいこと聞きたいこと全部やってやろう! 遊ぶぞ!」


「「「「「「「「「「やったー!!」」」」」」」」」」


「その前に、ちょっと村の事案内してくれる元気な子手ぇあげて!」


「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」


「よーし皆に頼もうか」


 こういう事で子供たちの体力を少しずつ削って早く疲れさせてやろうという俺の策略だったりする。


「あっちあっち! あっちに井戸あるの!!」


「私のパパ向こうで畑仕事してるの!」


「僕の家族森で狼とか倒してくるの! 村で食べてるお肉取ってきてるんだよ!」


「ママがぎょーしょーにんっていうお仕事してるんだ。村のお買い物ママがしてるの! あそこが私のお家でお店!」


「あそこ村の大人の人が良く集まってる場所なの! お祝いで使ってるんだよ!」


「向こうに行けば川があるの! 川で釣れるおさかな美味しいんだよ!」


「モンスターのせいでお肉もおさかなも取りに行けなかったの」


「でもお兄さんがやっつけてくれたからまた食べれるの! ありがとう!」


「ふふ、どういたしまして」


 お礼を言って貰えるのはやっぱり嬉しいな。裏の無い本音だって事はすぐに分かる。純真な心で言われるお礼が何よりの報酬だっていう人がいるけど、こういう経験をしたからそういう言葉が出てくるんだと思ってる。


 お返しじゃないけど、たっぷり遊び倒して満足させてやろう。


「た………大変だぁ!!!」


 直後、その雰囲気をぶち壊す悲鳴に似た叫びが村に木霊する。同時に呼吸を切り替えて周囲への索敵を開始。気配は………村の反対側、俺達がデスペラードを倒してきた方角とは真逆、そこにでかいのが一匹いる。


「モ………モンスターだぁ!!!」


見張り台に上る男性の声に反応し村中で悲鳴があがっていた。今やるべきことは。


「落ち着け!! 恐怖に飲まれないで!! 避難行動を!!」


 このパニックを収めて的確な判断をさせる事。が、パニック状態ならその状態に自分からなれるかと言われれば無理だ。だから出来るだけ声を張り上げ、村全体に響くように叫ぶ。


「大人は子供たちを守って!! それ以外の方は出来るだけ集まって隠れてて!!」


「わ………わかっりました!!」


 近くにいた村人に子供たちを預け、気配のする方へと駆け抜ける。デスペラードよりも少し大きいくらいの気配。一直線で村の方角へ向かってくる。


見えてきたのは一見デスペラードに類似した四本腕のモンスター。しかし、デスペラードと違い四本腕すべてが太く、頭には巨大な角が二本生えている。


「お………おいらがこの前見たモンスターだ!!」


「角なんて生えてなかった!」


「なんであんなモンスターまで!!」


 男性の声が聞こえた。おいらが見たモンスター………か。つまりこの村には最初から二匹のモンスターがいた。あるいは最近二匹目が居付いていた。どちらかだろう。もっと村人からモンスターの話を聞いておくべきだったか。そう考えを纏めている間にもモンスターは村の柵を破壊し、村の中へと入ってきた。


 その口は森の野生動物であろう狼の死骸を咥え貪っている。此奴は肉食か。その眼光が次に捉えていたのは村人達、そして村人に守られるように恐怖で震える子供達だった。


 此奴、知性があるのか。


 モンスターは獲物を見つけたのか咥えていた狼の死骸をか噛み砕く。ゴリュゴリュと生々しい音と、恐ろしい光景を見た村人たちがやや取り戻した正気を失い、恐怖に飲まれていく。


「おいコラテメェ。どこ視てやがる」


 それが気に入らん。お前の目の前にわざわざ来てやった俺がいるんだ。にも拘わらず此奴は俺を無視して食いやすい獲物しか見ていない。敵とすら俺は見られていないって訳か。


 良いだろう。そっちがその気ならこっちにも考えがある。俺を侮辱したその精神、命で償わせてやる。


 呼吸を変えて、深呼吸。全身で演じられるように体を揺らし、大きく動く。


「Laー」


『Gura?』


 歌声を響かせる。声につられてモンスターが『なんだお前?』くらいの気持ちでこっちを見たんだ。その一度の視線が取れれば十分だ。


「『桜花戦舞』。ご照覧あれ」


『GORAAA』


 まるで邪魔だとばかりに乱雑に振るわれる腕。しかしその一撃は人程度の命ならば簡単に奪えてしまうであろうモノだ。


「La‐La LaLa‐」


 腕の動きに合わせて体をずらし、鞘の先端で腕を受ける。触れ合った瞬間の重量、衝撃は凄まじいものだ。が、月光真流はそういう衝撃を司る流派だ。


 受ける技は基礎の技『月波(つきなみ)』。攻撃を受け止めその衝撃を自分の体内に蓄積させる月光真流の基礎防御技。


 開幕の一撃は手に持つ鞘を通じて俺の身体が吸収する。その現象に驚愕したのかモンスターが目を見開いて俺を見た。意識を捉えた。


「LAAAAA!!!!」


『GOOO!!!?』


 声が響き、モンスターの認識を奪い取る。その目は先程の邪魔者を退けるのとは違い、明確な脅威を排除する為のものに変化している。知性持ちのモンスターはこういう時楽で良い。


 歌声で、仕草で、あらゆる行動で相手に『目を離したら殺される』と言う認識を叩き込む事が『桜花戦舞』の基本。より多くの味方を生かし、より長く生き残るための戦技。


 脅威を排除する為にモンスターが行動を起こす。振りかぶる一撃。これは同じく『月波』で対応。二撃目、続く腕の振り下ろしとぶん殴りも同じように受け流し受け止める。


『GYAAAAA!!!』


 大きく体を逸らし頭の角で突き刺さんと突撃してきた。武器の耐久度を確認している訳じゃないからはっきり言えないが、武器での受け止めはやめよう。何かの拍子で武器が砕けるのは勘弁願いたい。


 刀を大きく上に投げ飛ばし、突っ込んでくる角に合わせて両手で掴む。凄まじい勢いだ。俺じゃなければ確実に体を貫けただろう。


『GYAAAOOOO!!!?!?!?!??!?!』


 相手が悪い。歌声と共に体の軸をずらし、より正確なタイミングで角を掴み『月波』で衝撃を受け止める。若干手が震えるのはまだ体が貧弱であるからだろう。この世界に来たばかりだ。体はまだ完全に出来上がっていない。


 停止したその巨体。それに合わせて空に投げ飛ばした刀が戻ってくる。掴みながら抜刀し差し出されたかのような状態の角目掛けて斬撃を放つ。


「『針撃スコルピア』」


 想像通り、この武器ではこのモンスターの角をまともに傷つける事は出来なかった。弾かれた金属音だけが聞こえたが、その直後。


 バキリッ。


 角内部から破壊音が響き、砕けるように右側の角を粉砕した。


『GYAAAAAA!!!!?!?!?!?!』


 痛覚は角にもあるらしく、痛みで大きく体を後退させたモンスター。この程度で砕けるならば俺基準ではあるが、苦戦を強いられるモンスターではないだろう。


 月光真流奥義『針撃スコルピア』。衝撃を対象内部へと叩き込み爆発させる奥義。最初に覚えるべき月光真流の全てが詰まっていると言っても過言ではない奥義だ。この奥義が使えないと他の奥義にこの技術を応用することは出来ないからだ。


 ここが村の中でないならもう少し生態を確認しつつ、体作りのサンドバックにしてやるのだが、そうはいかんだろう。だが、お前がやったことに対する贖罪は受けて貰う。


 地面に落ちる鞘を左手で拾い上げ、地を蹴り飛び上がる。四本の腕は砕けた角を擦るように頭に集まっている。もう片方の角は完全に無防備だ。そっちも貰っていこう。


『GYA「遅い『双極ジェミニ』」GYAAAAA!??!?!?!!??!!??!!!!!?!?!?!?!』


 奥義『双極ジェミニ』。打撃と斬撃を同時に、鋏のように放つ奥義。その一撃は対象を切り裂きながら砕く。


 一瞬で二本の角を失ったモンスターはその痛みに悶絶し、その巨体を大地へ落した。そしてのたうち回りながら自身の角があった場所を押さえるように四本の腕が覆っていた。


「今のが村の柵を壊した代金だ。諦めろ!」


 その眼光が己の角を粉砕した憎むべき対象、つまり俺に向けられた時、既に俺はそこよりも上にいた。『星波ピスケス』でさらに上昇、推定20m上空で刀を鞘に納め、体勢を変えて必殺の一撃を放つ。


「じゃあさよならだ!『天波流星アルフェルグ』!!」


 月光真流の奥義はその一つ一つが必殺級の破壊力を生む。先程使った二つもそうだ。『針撃スコルピア』で心臓を狙えば心臓を破壊し、『双極ジェミニ』で首を捉えればその首を跳ね飛ばせる。


 じゃあそんな奥義を二つ混成しせればより強い奥義になる。俗にいうオーバーキル。過剰戦力。師匠はこれを『極大奥義』なんて呼んでいた。そしてそれは師匠だけが使う専用技。必殺ではなく確殺。絶対に相手を殺す為、倒す為の技。それが『極大奥義』。


 『天波流星アルフェルグ』は『星波ピスケス』『天翔サジット』を混成させた極大奥義。


 空を蹴り、流星の様に駆ける俺の身体。射出時の体の上下を反転させて叩き込む必殺のキック。ただ一点だけを蹴り貫く矢と己を変えて放つ。


『GYA』


 叩き込んだ一撃はモンスターの身体から空気を全て奪い取り、鈍い音が足から伝わり、モンスターの骨をへし折り、心臓を押しつぶした。衝撃が全て押し込まれた瞬間、止めとばかりに貫く衝撃の一矢。既に瀕死だった心臓を穿ち、何かが破裂した音が聞こえた。


 ビクン! っと大きく体を跳ねらせた後、顔から血を流し、全身から力が抜けていくモンスター。最後のセリフすら言い切らせず、その命はここに終わった。


「お………おおお…………おおおおおお!!!」


「や…………やったぁぁ………やったぁぁぁ!!!!」


 村人達の歓声が周囲を揺らした。










――――








 そこから先は村中がお祭りだった。先程は止めた祭りにしようという勢いを今度は止められず村長始めとした大人達がそれはもう大騒ぎだ。


 村で狼煙を上げていたらしく、デスペラードの死骸を確認しに行っていた若い衆とマイも道を引き返して戻って来たらしくすぐに村に戻ってきたのだが、彼らまで大盛り上がり、終いにはマイまでそれに便乗して盛り上げ始めたんだから俺一人じゃもう止まらない。


「だって此奴デスペラードⅡだよ!! それをソロ討伐なんだからお祭りどころじゃないよ!!」


 倒したモンスターはデスペラードⅡと言うのか。確かに類似してはいたがネーミングそのまんまなのかよ。


 聞く所によるとデスペラードⅡはギルドで懸賞金の掛けられたモンスターらしく。討伐した証を持っていけば懸賞金を貰えるとの事。しかも素材も希少らしく高価買取を期待して良いらしい。


「強かったんだなこいつ」


「強かったんだなこいつ。じゃないよ!! 普通に偉業だよ!! 少なくともレベルカンストしてる人くらいしか出来ないよ普通!!」


 全く無理という訳ではないらしい。やっぱりレベルの概念があるのは強い。鍛え上げれば出来ない事が無くなる訳だからな。


「あと接敵から討伐まで三分くらいだって聞いたけどこれはもう前代未聞だよ!! 二三パーティー合同での討伐クラスの速さだからね!! 何したら倒せたのさ!?」


「極大奥義使った。非常事態だったし」


「きょっ!!? いいやマイ、落ち着こう。使えるって言ってたじゃないうん。よーし落ち着いた………訳ないじゃん!! アールの師匠マリアーデ確定じゃんそんなの!!? 噓でしょ!!?」


 流石に分かるよな。極大奥義は俺の師匠『剣聖マリアーデ』だけが使える専用奥義。プレイヤーすらも使えない文字通りの専用技だ。


 じゃあなぜ俺が使えるかと言えば、俺が『クリエイション』モードで師匠に選んだのは通常モードでも修羅と言われたマリアーデと言う妖精剣士だ。


 古今東西あらゆる剣に通じ、月光真流と言う流派の始まりにも関わった文字通り生きる伝説だ。


『剣聖物語』は自分の戦い方に合わせて師匠を選び、その道を究めていく事になる。当然月光真流も『桜花戦舞』も別の師範代が存在していて、二人以上の師匠を持つことは出来ない仕様になっている。が、ここに実は抜け穴があってそれがマリアーデだ。


 数百年生きる生きた伝説。存在する剣術ならば全て使えるマリアーデを師匠に選んだ場合、登場する全ての戦技、武術、剣術を教えてくれる。


 が、しかし当然その要求値は高く、『クリエイション』モードを除く完全攻略後、周回三周目になって初めてマリアーデに教えを乞う事が出来るようになる。正確には別に一周目から出来るのだが、要求される技術が高すぎて引き継ぎ特典無しでは無理なのだ。


 その代わりそこまで頑張ったプレイヤーにだけ得られる絶対的な強さの証とも言える爽快感は多くの人を引き付けた。分かりやすく言うとRPGではなくて急に無双系のゲームにジャンルが変わる程度に凄い。


 そんなご褒美を得て尚覚えられないのがこの『極大奥義』。マリアーデだけが使える唯一無二の専用技。そのうちの一つ『天翔サジット』と言う月光真流最強の奥義と『星波ピスケス』と言う高速移動を可能とする奥義二つを掛け合わせた『天波流星アルフェルグ』は某特撮ヒーローの必殺技そのままの見た目とカッコよさ。そして威力を持つロマン奥義。


 再現しようとした多くのプレイヤーは居たが、結局見た目だけは再現できても威力だけは再現することが出来なかったらしい。


 じゃあ俺はどうやって覚えたかと言えば、本人に教えてもらったから。そう答える以外の答えを持っていない。


 何もない状態で放り出される『クリエイション』モード。だが唯一得られたものがある。それは莫大なやり直しの時間だ。死ねば最初からというやり直しが利かない極限状態ではあるが、逆を言えば死ねば最初からであるとも言えた。


 生き残る為に、あの世界を生き抜くために必要なのはマリアーデに教えを乞う事だと見出した俺はマリアーデに出会うために、弟子と認めてもらう為に何度も何度も何度も何度も、数えきれない程の死と誕生を繰り返し、その果てにマリアーデに弟子と認めて貰えたのだ。


 弟子と認めてもらってからも何度も死んだが、一度出来たことだ。何度だって挑めた。全てがやり直しの世界でも、マリアーデの弟子になれた。これだけで俺は頑張れた。


 そして『弟子』呼びから『愛弟子』呼びに変わった時、俺はマリアーデの技を教えて貰った。


 生傷は絶えなかったけど、少しずつ確実に、一歩前に進んでいった。


 そして遂にマリアーデから『免許皆伝』の宣言を貰い。月光真流を極めた証明を貰った。あの時の感動はクリア以上に嬉しかった。出来なかった全てが出来るようになったあの瞬間は本当に感動したし泣き崩れた。そこからはメインストーリー攻略の為に奔走したのだがそれは今はいいだろう。


 つまり俺の師匠は『剣聖マリアーデ』で、その全てを俺は教えて貰っているという訳だ。


「………と言う感じかな」


 そんな話をしながら、夜の村でお酒を片手にマイと話をしていた。村はお祭り状態で皆が楽しそうに騒いでいる。振舞われているのはデスペラード及びデスペラードⅡの可食部。どちらも倒したのは俺なので村の人に協力してもらい川で解体して買い取ってもらえる部分はポーチに仕舞い、可食部の肉は村に譲ったのだ。とは言っても全部ではない。解体を手伝ってもらったそのお礼と言う形で渡したものなので労働にあった分だけ渡した。まぁ手伝いが大勢いたからその分多くなったのは問題無いだろう。


「どうしよう。理解も納得も出来たんだけど。そりゃマリアーデならアールの強さも納得だよ。だって作中最強キャラだもん」


 デスペラードの焼き串を頬張りながらマイも一献傾けた。二十を超えているのでしっかりアルコールだ。酒で酔うことはまぁないとは思うが、雰囲気で酔う。


「ドヤァ」


「うっわすごい良い笑顔」


「自慢だからな」


 マイが言うようにマリアーデは作中最強キャラだ。敵としても味方としても初期からいるキャラでは考えられない程強い。大多数のプレイヤーが最強は誰だと問われれば『マリアーデ』と答えるだろう。


「だよねぇ。条件さえなければラスボス倒せたもんね」


『剣聖物語』のラスボスは特殊能力を持っていて、それに対抗できるのがW主人公が与えられた加護だけだったのだ。その加護がもしもマリアーデに与えられていればラスボスだって倒せたんじゃないかと言うのがプレイヤーの考えである。それくらいマリアーデは強いのだ。


「けどあの人結構身内に甘いんだぞ?」


「噓だぁ………本編じゃ修羅の化身としか言いよう無かったのに」


「俺愛弟子って呼ばれてた」


「嘘マジで!?」


「マジマジ。最初呼ばれたときビビったもん。それから修業は厳しかったけどめっちゃ優しかった」


「うわぁマジかぁ………認められたらあの人甘くなるんだ………情報流していい?」


「えぇ………いいよ。なんか御馳走してな?」


「じゃ、かつ丼作ったげる」


「やったぜ!」


 大好物なんだよなかつ丼。あの肉と卵と米のマリアージュがもうたまらん。特に出来立ては最高だ。


「じゃあ作ろう! 今作ろう! 」


「え? 今?」


「うん今! デスペラードかつ丼作ろー!! 材料は………ある!!」


 ポーチからトトトトっと出された食材と調味料。ヤバい。それはめっちゃ食いたい! デスペラードの肉結構美味いし絶対これでかつ丼作るの美味い!


「はいはーい! 暇な人料理作る人これからプレイヤードの郷土料理作るから興味ある人こっちきてー! 作り手多い方が楽できるからおいでー!」


 マイの言葉に村の給仕をしてる人たちが寄って集る様にやってくる。皆プレイヤードの郷土料理が気になるんだろう。あとデスペラードの肉美味いから別の料理作りたいのもあるんだろうし。


「かっこよかった兄ちゃん!! 助けてくれてありがとう!! かっこよかった!!」


「お、少年嬉しいこと言ってくれるじゃん」


 今日と言う日は子供たちも夜遅くまで起きてることを許した村長。そのお陰で子供たちは隙あらば俺の所にお礼と突進、あとその他諸々で来たりで大騒ぎだった。現在進行形で。


「私だってそう思ったもん! お兄さんの事お嫁さんにしてあげるんだから!」


「ハハハ少女、そこはお婿さんにしてほしいな」


「すごかった!! ズガァンて攻撃されたのにふわっとしてて、そう思ったらバシィて止めて、バァンバギャーンビューンズドーンって倒しちゃんたんだもん!!」


「僕も大きくなったらお兄ちゃんみたいな剣士になりたい!!」


「ほほぅ? それじゃあ明日ちょっと剣を教えてやろう」


「これお酒? ちょっと飲んでいい? にがぁ………」


「こら、勝手に飲まない。ほら水飲みなさい。あとお酒はまだ早いからダメ」


「おひくおいひい」


「その串は全部食べていいからゆっくり食べな」


「ズルい僕もほしい!!」


「私も!!」


「向こう言って俺が欲しいって言ってたよって言ってたくさんもらってきてくれ。そうしたらお駄賃って事であげるから」


「「「はーい!!」」」


 子供たちは元気だねぇ。


「ねぇねぇこの剣すっごい剣なの?」


「うーん。まぁまぁすごい剣だな。もっとすごい剣は沢山あると思うぞ」


「えぇ!!? あんなでっかいやつのパンチ止めたのにもっとすごい剣あるの!!?」


「あれは剣じゃなくてお兄さんが強いんだよ」


「すごーい!! かっこいぃ………!!!」


「人生で一度は言ってみたいセリフ………!!」


「君達まだそんな年じゃないでしょ。面白いなお前ら」


 寄りかかる子供の頬をツンツンつつく。良い笑顔で笑っているものだからずっとツンツンしていたい。


「あぁ!!ズルい!! 僕もつんつんされたい!!」


「お兄さんのお膝乗るもん私!!」


「おひくいっひゃいおいひい」


 そんな感じで子供たちが疲れて寝静まるまで俺は子供たちに揉みくちゃにされた。因みにかつ丼も少し食われたがかわいいから許した。


 そうして子供たちが寝静まった後、ここからは大人の時間と言わんばかりに村の人達との交流が始まった。


「本当に今回の事はなんとお礼を言えばいいのか。本当にありがとうございますじゃ」


「しかも村にこんなに沢山のモンスターの素材をいただいてしまって………感謝してもしきれません」


「持ち寄っていただいた食料もこんなに頂いてしまって………これならまた村で生活できそうです」


「半分は子供たちに絆されたからですよ」


「食料も私たちはいくらでも買えるからね。その代わり今後何かあったら適正価格で依頼を出す事。それか私たちに直接依頼を送ってくれればいいよ」


 マイ曰く、村や町と契約するプレイヤードは一定数いるらしい。メリットとしてはそこの特産品を貰えたり、良い依頼を回してもらえるようになるらしい。この村だと特産品を貰える感じだろう。


 マイは依頼をこの金額で受けた代わりに村との契約を結ぶことを提案したのだ。無論村側は拒否することなく要求を呑みこの村と俺達は契約関係になった。


「アール殿とマイ殿と契約できるのならば私らはなんでも差し出しますとも」


「そういうの良いから。正直アールの初めての依頼達成記念みたいな所もあるし。何かあっても間に合わない時もあるからその時になっても恨まないでよ?」


「無論ですとも! えぇえぇ!」


「ちょっとアンタ! 飲みすぎだよ! 村の英雄様に迷惑かけんじゃないよ!」


「母ちゃんいたいぜ!」


 何かあっても必ず駆けつけるつもりだけどな。折角ここまでしてもらったんだ。いなくなってから何かあって村が無くなりましたじゃ寝覚めが悪いからな。


 こうして夜は更けていく。


変更点教えてほしいとあったのでおおよその変更点。


流派周りはごちゃごちゃしすぎていたので改名したりしてまとめました。

・桜花はすべて『桜花戦舞』に統合。唄などは完全新規予定です。

・月光は『月光真流』にすべてまとめて一部消去、および改名。

・天匠流は完全消去です。好きだった人ごめんなさい。代わりに月光真流に居合剣術を組み込んでいます。


世界感について

別世界線の話だと思ってください。良くあるパラレルワールドを思い浮かべてくれると良いです。

『剣聖物語』の設定はほぼそのままに、一部キャラクターの改名を行っています。が、本筋は大きく変わりません。

『プラネットクロニクル』の設定は完全に一新していますので過去作は忘れてください。


とりあえず思いつく範囲はこれくらいです。


感想・評価いただけるとモチベーション上がるので、良かったらください。沢山下さい。一言でもいいのでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] モンスターって倒したら光になって消えてなかったっけ?
[一言] 全体的に技がシンプルになったのですね。 前の沢山ある感じも歴史の中で変わってきた感じがあって好きでしたが、これからの纏まったのも楽しみです! ちょうどさっきリメイク前のプラクロ読み終わった…
[一言] 感想要求されてたので、この言葉も久しぶりですね ふむ、居合廃止ですか、残念ですね その分電磁居合さんが頑張ってくれるでしょう
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