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家族旅行編:王都観光

家族旅行中ですね。平和平和。

酒場での夕食は有意義なもので皆揃って大満足だった。しいて言うなら支払いは俺がしたかったんだが、マイが『おつりはいらないから』ってかっこよく支払い済ませた事がちょっと悔しかったくらいだ。


夕食後は少し街を歩いて消化を促しつつ、明日どこに行きたいかとか、何がしたいかとかを話していた。


アキハは記念になるようなものを買いたいと言ってお土産屋を希望し、ミナツはカッコいい装備が見たいと装備店を希望。


ハルナは家に帰っても食べられる王都でしか買えない肉希望。フユカは想像通りと言うべきか王都で散歩がしたいと言っていたので予定はそういう事になった。


ハルナだけちょっと価値観がズレてるけど、本人がそれでいいなら良いかと納得しておこうと思う。


そういう訳で翌日。王都での家族旅行二日目だ。いきなり飛びすぎ?特に面白い事も無かったから良いんだよ。お腹いっぱいになったアキハ達が宿に戻るや否やすぐに夢に中に入っていったんだからそれで王都一日目終了だよ。


んで、たっぷり寝て起きた子供たちは皆朝から元気なものだ。


「なんにがあっるのかな~」


「ナツ君、くるくる回ってると転ぶから少し落ち着きなさい」


「大丈夫大丈夫!」


最初の目的地は王都の朝市。毎朝各地の鮮度のいい食料や嗜好品が届くようで、観光スポットにもなっているらしい。そこで朝食も済ませる予定だ。


他にも、運がいいと珍しい品物も市場に並ぶらしく、見つけたら早い者勝ちで買えるらしいから早く行くのは良い選択ではある。


それを聞いて珍しいものを見たいとミナツが大はしゃぎ。昨日の様に手を繋ぐのではなく、少し前を歩いてくるくる回りテンションが天元突破してるが如くご機嫌だ。


「・・・適当なもの渡しても喜びそうだねミナツ」


「いや流石にミナツでも・・・だが今のミナツなら・・・」


「浮かれてますね」


「お前たちもそう言ってはいるけどいつもより早歩きだからな? ワクワクしてるの隠せてないぞ?」


「「「っ!!?」」」


ガーンッ!!なんて音が聞こえそうなくらい絶望した顔になった。なんでだよ。


「バカミナツと・・・同類・・・!!!」


「くっ・・・!!!」


「・・・すくいはないんですか?」


「そこまで言うかお前ら・・・いつかミナツ泣くぞ?」


「そのナツ君は聞こえてないみたいだけどね。あ、こけた。大丈夫ナツ君?」


「ちょ・・・ちょっとだけ痛い・・・」


「もぅ、嘘いわないの。涙目になってるよ。ほら、治してあげるから傷見せて」


別の意味で泣いちゃった。








ーーーー








流石観光スポットにもなってる王都の朝市と言うべきか。


朝早いにもかかわらず、市場には人で溢れていた。あちこちで仕入れた品物を売ろうと店主の声が聞こえたり、市場で働く人たちの声であふれている。


そこに俺達と同じく観光目的か、はたまた店舗の仕入れの為なのか、市場にそれぞれの目的をもってやって来た人でいっぱいだ。それこそ、昨日の酒場とは比べ物にならないほどの人の量だ。


「「「「・・・」」」」


「予測可能回避不可能って奴だな」


人混みがあるとアキハ達は静かになる。まだ人に慣れていないから仕方ない事ではあるが。先ほどまでのテンションの高さは何処へやら。借りてきた猫の様に俺とマイの両手を握りカチコチに固まってしまった。


「皆もそろそろ人に慣れていかないと駄目なんだからね? 旅行だけど今日はその練習も兼ねてるんだからね?」


「あうあうあうぅ・・・」


アキハは昨日の長女ムーブは何処へやら。俺の腕に顔を埋めてあうあう言ってらぁ。


「ほら動くよ。皆で一緒に行けば大丈夫だからね」


「べ・・・べべべべべつにこわくねーもんんん!」


「そうだねー」


「あああああ・・・母さんもうちょっとゆっくり歩こ?」


「怖くないなら歩けるよね? 行くよ。フユちゃんも背中に逃げようとしないで歩くよ」


「あうぅぅ・・・マミー酷いですぅ」


マイと手を繋いでいた二人はマイに引きずられるように市場へと入っていく。


「俺達も行こうか」


「わ・・・わかった・・・」


「・・・おんぶして」


「駄目。したらマミーと手を繋ぐことになるけどそれでも良いの?」


「・・・マミー、今度化けて出てやる」


アキハとハルナはミナツとフユカに比べたら諦めがいいので、がっちりと手は掴むが、ちゃんと自分で歩いてくれる。マイめ、これが分かっててこの二人を俺に任せたな?


そういう訳で人ごみの中に溶け込む様に俺達も市場の中へと入った訳だ。


前を歩くマイを見失わないように呼吸を捉えつつ、誰かがはぐれない様にアキハ達の呼吸にも耳を傾ける。


市場の中の店を祭りの露店を物色するように見ながら進んでいく。本当に何でもあるな。加工品も結構あるし、食い歩き出来そうなものもあちこちにある。


「あ」


ポロっと漏れた声、アキハの視点が一つの店に止まった。視線の先には異文化食堂と書かれた看板がみえた。


「マイ」


「はいはーい。ナツ君フユちゃんちょっと戻ろっか」


「アキハ、あそこ気になる?」


「えっ!? いや・・・でも」


「ハルナはいいか?」


「・・・お肉あるならどこでもいいよ」


「なら行こうか」


「いやでも私の希望で皆を巻き込むのは・・・」


「家族なんだから良いんだよ。それに昨日の晩御飯はミナツ達が選んだんだから、今度はアキハの番。気になったんだろ?」


「・・・うん」


「じゃ、行こうか」


異文化食堂。一体どんなお店だろうか。看板に向かって進んでいけば、やがて数人の行列と、『異文化食堂入り口』と書かれた置き看板。すでに店としては開店しているようで店内から人の声も聞こえる。


「すいません」


「あ、はい?」


「え?どしたん?」


列の最後尾に並んでいた二人組に声をかける。一応確認しておきたいからな。


「ここ『異文化食堂』の列であってます?」


「あってるよ。多分少し待ってれば入れるんじゃない」


「うちら常連だからね。ここのご飯は本当に美味しいよ」


「そうですか。ありがとうございます」


「うちのおすすめはルンダンって料理だよ。一晩じっくり煮込んだ肉料理なんだけどめっちゃ美味い! ドワーフ料理なんだって」


「アタシは日替わりガルガンチュアソース定食。魔人族定番ソースに付けた魚を油で揚げた定食。一度食べたらまた食べたくなるよ」


「ありがとうございます。折角なんで食べてみますね」


常連さんがいるなら味は間違いなさそうだ。ドワーフ料理に魔人領の料理か。はじめて食べる。煮込み料理に揚げ物か。昨日の夜も似たようなものを食べた気はするが問題ない。


既にハルナは眼を輝かせ、アキハもそわそわし始めた。マイを見ればミナツ達も同じような状態らしく笑顔で返事をしてくれた。


うちの子たちは朝だろうと昼だろうと何でもたくさん食べるからな。こういう時『朝からこれはいやだ』って言わないのが良い所だ。










ーーーー








「うへぇ、美味かった」


異文化料理恐るべし。どの料理も初めての味だったがとても美味しく、食べやすかった。


ルンダンと呼ばれていた肉料理はパンチの効いた味がして、ご飯によく合い、それでいて食べやすいと言う不思議な味。


ガルガンチェアソースは醤油とトマト風味のたれに付け込んだ魚の開きを揚げた料理で、俗にいうアジフライみたいな感じだった。これまた美味で米が進むのだ。


三人ずつで二品頼んで皆でシェアして食べたのだが皆美味しく食べた。特にハルナは俺が一緒に頼んだものあるけど、俺の分を全部食べるかの勢いで食べてたからな。


しかし、どこの種族でも米は主食なんだなと思わせてくれるご飯だった。やっぱり米は最強。なんにでもあう万能食品だな。


「値段もお手頃だしいいお店だったね。アキちゃんグッジョブ!」


「う・・・うん。それならよかった」


「・・・流石アキハ姉さん。ミナツにはないセンスがあるね」


「ねぇなんでハルナは毎回俺の事ディスるの?」


「さっきハルナ姉さんのお肉取ったからじゃないですかね?」


「一口じゃん!」


「・・・私のお肉に手を出すとか絶対に許さんからなお前」


「代わりに俺の魚も一口あげたじゃん!」


「・・・許さんし」


「お父さんから貰えばよかったんですよミナツ。馬鹿ですね」


「だって一番近かったのハルナだったんだもん!」


「はいはい。喧嘩しないの。ご飯も食べたし市場見に行くよ。珍しい物探すんでしょ?」


「そうだった!!」


「・・・お肉」


「俺ハルナの肉に対する執念がちょっとこの先不安だよ」


「大丈夫だ父さん。いざとなったら私がハルナを止めるから」


肉一枚とられて大乱闘位しそうでちょっと不安なんだよ。まぁ、そうなるくらいハルナが独り立ちしたって事にもつながるから良い事ではあるんだろうけどさ・・・不安だよ。


「はいフユちゃんナツ君いくよ。お父さんもちゃんとついて来てね」


「了解、アキハ、ハルナ行くぞ」


手を差し出せば二人がそれぞれ手を握ってくる。さっきはくっ付いてきたけど、今度は手を握るだけだから腹も満たされた事で少しは人混みへの緊張も落ち着いたのかもしれないな。


なんて、思っていたのだが、その数分後にはまたくっ付いてきたわけなのだが・・・


ともかく、王都観光はまだまだ先が思いやられる事になりそうだ。








ーーーー








旅行と言えば何か。


例えば旅行先での買い物。普段の生活では見かけない珍しい物だからこそ興味を惹かれ、欲しくなる。


例えば体験型のアトラクション。日常生活の中ではなかなか体験できない事を体験できるが故に楽しい。


例えば観光地巡り。上記した二つ同様に、日常では見られない景色に心が躍り、その瞳を夢中にさせてくれる。


俺が思い浮かぶ旅行と言えばそんなもんだ。あとは個人的な事ならば温泉旅行なんてのも乙なものだと思ってる。


まぁ例を挙げはしたが、旅行での楽しみ方は十人十色、人それぞれに心が躍る状況は違う訳だ。


「・・・凄い、見たこと無いお肉」


が、まさか王都に来てまで肉屋に足を運ぶ事になるとは誰が予想できただろうか?


何があったかと言えば簡単な事で、王都で格好いい装備を見てみたいミナツと、それに全く興味がないハルナの意見が激突。


数分の討論の結果、じゃんけんという世界共通で勝ち負けを簡単に付けられる平和的な解決方法と、親二人が分かれてそれぞれ王都を見て回る事で話がついた訳だ。


じゃんけんの理由はミナツとハルナが俺を巡ってだ。どっちについて来てもらうか。それだけである。因みにマイは二人に見えない角度でホロリ涙を零していた。


んでその結果、フユカが勝利して、ミナツはマイと一緒に王都の武具店巡りに行くことになった。


それに同行したいと手を上げたのはアキハだけで、うまい具合に半分に分かれたのである。


そういう訳で俺とハルナにフユカの三人で王都をぶらついていたのだが、『肉屋』の文字を見るや否や、興奮したミナツが如くグイグイと俺の袖を引っ張ってハルナがこうして肉屋に突撃したのである。


「これも見たこと無い・・・これも・・・これは・・・『香味熟成』・・・?」


「えへへ・・・普段見たこと無いお肉ばっかりですね・・・どんな味がするんでしょうか・・・!!」


四人姉弟の中で食いしん坊二人がこうして揃っている訳で、ハルナに感化されてフユカも並んでいる肉に夢中になっている。


俺も凄く美味そうな肉だと思うし、食べてみたいとも思った。けど値段を見てちょっとだけビビったのは許してほしい。庶民感覚だと一切れ五桁はなかなか手が出ないんだよ。


「うん。これは全部食べてみるべきだと思うんだよお父さん」


「・・・全部? どれか一つじゃなくてか?」


「全部。ここに並んでるお肉が皆に私に食べてほしいって訴えてきてる」


「お父さん。私も食べたいです・・・!!」


王都に来て二日目だが、たぶんこの旅行の中で一番と言えるほど瞳の奥からキラキラとした星が見えるほどに、満面の笑みだった。


静かにウィンドウを開いて所持金を確認・・・は、しなくていいか。装備のスキル効果で俺たち家族の所持金は共通の財布に入っているようなものだ。


んで、家の稼ぎ頭のマイと共用という事は、まぁ、そういう事だ。


十桁より上は数えるのをやめた。


が、ここで甘やかしていいものかと考えるのだが・・・


「「・・・」」


「て・・・店主、棚に並んでいる商品全部六切ずつ購入したいんだがいいか?」


「毎度あり!」


娘のお願いポーズには勝てなかったよ・・・


まぁこの後同じ手法であちこちでハルナとフユカが興味を持った物を手当たり次第買うことになった。恐るべし娘の力。






ーーーー










「アール。旅行だけど甘やかしすぎるのは教育に良くないって前に話したよね?」


「・・・返す言葉もございません」


「ま、アールがハルちゃんに甘いのは今に始まったことじゃないけどさ? 甘やかしすぎたら依存しちゃうよ?」


「いやホント、本当にスマン…」


 あの後もいろんなお店を巡っては欲しいものを流石に買いすぎたかな? ってくらい買ってしまった訳で訳で、それを知ったマイからの耳が痛くなるお説教を受けている訳である。


 分かってるんですよ。でもね? 俺もダメだと言ってやるつもりなんだけど、ハルナとフユカのあのキラキラした眼を直視すると断りにくいと言うか、期待に応えてやりたいと言うか…ハイ、スミマセンイイワケデス。


「次から別行動の時はハルちゃんフユちゃんは私と一緒ね?」


「「…ぐぬぬ」」


「ほらアール見て。この子たちもうお父さんなら甘いって理解してる反応だよ? 女の子はスグに魔女みたいになるんだから」


「ハルナ、フユカ。あまり父さんに迷惑をかけるなよ」


「そうそう、俺に滅茶苦茶言ってた割にじゃん」


「…プイ」


「えへへ…お父さん相手だとつい甘えちゃうので」


「これ以上はやめよっか。折角の旅行だし。ハルちゃん達の教育方針については帰ってからちゃんと話そっか」


 こういう時のマイは本当に強い。完全にお母さんである。今もお母さんだけども。


「そういう訳だからお昼にしよっか。さっきアキちゃんナツくんと歩いてた時にちょっとお洒落なカフェ見つけたからそこでお昼食べよ?」


「カフェで昼食か、なかなか乙なもので良いんじゃないか?」


「でしょ~? テラス席も全員で座れそうな席あったしこんないい天気なら丁度いいっしょ?」


 女子のこういう嗅覚と言うべきか、お洒落に敏感なアンテナは本当に凄いと思う。マイとデート(現実かそう問わず)しててもそういうお店選びは絶対にマイは外さないからな。


 逆に俺は当たりはずれの落差が激しい。それを含めて楽しいと言ってくれるマイにはいつも惚れ直してる。


「…私はお肉があればいい」


「私はお父さんと同じもの食べるので、えへへ」


「俺甘いお菓子も食べたい!!」


「こ…こらお前たち…!! 父さんとマミーに我儘言いすぎだぞ…!!?」


「全部要望叶いそうだから今日のお昼はマミーセレクトで決定ね? ハルちゃんフユちゃんはマミーと手を繋いで行こうね? アキちゃんナツ君はお父さんとだよ」


 拒否とか意見とか言われる前に、マイは二人の手を優しく包む様に握る。二人も一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐに顔を綻ばせて楽しそうに歩き出す。なんだかんだマイにもかなり懐いてきたな。


「さて、置いて行かれないように俺達も行こうか。さ、二人とも」


「おう! にへへ! 父さんと手を繋ぐのやっぱいいな!」


「そう…だな。うん。やっぱり父さんの手が一番いい」


 背丈こそ中学生くらいあるけど、情緒はまだ小学生低学年なんだなって思う発言をする二人だけど、いい顔で笑っているしいいや。


 そんな訳で、マイ先導の元、目的地のカフェまで歩いていく。家族六人で王都で見た事を話しながら、あーでもないこーでもないと話をして歩いていくとあっという間に目的地に到着した。


 目的地である喫茶店の看板には『キャメロット』と書かれている。急に電卓騎士団を思い出したな。彼らも円卓モチーフのネーミングだったし。この店はもろキャメロットって書いてあるけど。


 そこそこ繁盛してるようで満席とまではいかないが、ほとんどの席は埋まっている。それにお客さんの顔もいい顔だ。過ごしやすい店づくりが出来ている証拠だな。


「いらっしゃいませー! 何人様でしょ・・・マイさん!!?」


「あらオルガンじゃない。六人よ。空いてる?」


店の中から出てきたのは見覚えのある顔の人物。普段の戦闘服ではなく、フリルがやや目立つロイヤルメイド姿のオルガンだった。


 ついさっき電卓騎士団の事を思い出してからのフラグ回収が早すぎると思うんよ。


「ほら、お客なんだから案内して貰える?」


「ひゃい!! じゃなかった、はい! 六人ですねー?店内とテラス席どっちにします?」


「テラス席」


「かしこまりました! こっちですどーぞ! 六名様ご案内でーす!」


 手慣れた様子で席まで案内して貰い、席に着く。俺たちが座ったのを確認すると、どこからか取り出したメニュー表をサササッと並べてくれた。


「改めてようこそカフェキャメロットへ! またの名を私達電卓騎士団のクランホームへ!」


「皆好きなもの頼んでいいよ。 」


「お肉どれだろう?」


「らざにあ? にょっき? 聞いたこと無いのがいっぱいあるぞ?」


「ま…迷ってしまうな…私が知らないものがこんなに沢山ある」


「華麗にスルゥー!」


早速メニューに釘付けなアキハ達と、特にオルガンの言葉には興味も無さげにメニューを見るアキハ達を見守るマイ。スルーされても元気なオルガン。うーんカオス。一応交友もあるし拾っておくか。


「拾わなくていいよアール。こっちはただのお客だもの。そうでしょオルガン?」


「まぁね。見るからに『旅行です!』って感じだから私も店員さんに専念しちゃうのです! 決まったら呼んでくださいね。ではごゆっくり~」


拾う前にマイに諭され、オルガンもそう言って店内のフロアに戻っていく。なんというかうん。言葉では言い表すのが難しいけど、置いてけぼりにされてる気がする。


「むむむむむ・・・スパカツってやつとオリジナル味噌カツサンドで迷う」


「なら私がもう片方頼むからハルちゃん一緒に食べよ?」


「っ! マミー天才? そうする」


「これとこれとこれにします! えへへ・・・どれも美味しそうです」


「フユカ頼みすぎだぞ・・・私も一緒に頼むからえっと・・・シェア? しよう」


「良いんですかアキハ姉さん!! やりました。これでお腹いっぱいでも無理しないで食べれそうです。えへへ」


「大盛りデラックスプレート…!!! 俺これにする!! 名前もカッケーし!!」


 おや、どうやらみんなメニューが決まったらしい。俺も決めるとしようか。ちょっとお洒落にランチ限定日替わりパスタにでもしようかね。


 そんな感じで、昼食を取ったのだが、滅茶苦茶美味かった。追加で少し注文もしたがランチメニューもデザートも高級店かと思うほど美味かった。やっぱりマイの店選びに外れなしだわ。














ーーーー










がしゃり、がしゃり、がしゃり。


金属が打ち合い鳴らす音が誰もいない場所に木霊する。


人だけでなく、生物もいない廃れた土地で、何も無かった場所に、それは突如として現出した。


戦国時代の武将が如く、あるいはファンタジーで全身装甲に身を包む騎士が如く。


その存在はがしゃりと音を立てながら歩きだす。


『・・・民ヲ・・・救ウ・・・主ヘノ・・・忠義ノ・・・為ニ・・・』


それは言葉とは裏腹に、この世の生物の声とは思えないほど重く、沈むような声だった。


ここに生物がいればすぐに逃げ出すだろう。それほどの恐怖を感じるほどに、声の主である鎧武者の声は恐ろしさを含んでいた。


同時に、恐ろしいほど、優しい言葉だった。


『・・・民ハ・・・苦シム姿ハ・・・主ハ・・・望マヌ・・・』


その言葉は慈愛の言葉だった。自国の領民を思う武者の様に、または領主の様に、鎧武者は言の葉を何度も繰り返し、ただ真っ直ぐに歩く。


この存在にとって、己が口にする言葉だけが、自身がここにいる意義であった。


此処に己がいる活力であった。でなければ、武者の意識はここにはないであろう。


例えそれが、本来の自我ではないとしても、自分の存在そのものが、星を蝕む癌だとしても、武者の魂は、死ぬ間際まで己が生きる理由だったすべてを引き継いでいた。


恐ろしい執念、あるいは気高き魂と言うべきだろう。


死して尚魂は輝きを失わず、それを利用せんとした憎悪すら飲み込んで、武者は前へと歩く。


しかし、それは破滅を起こす行為でしかない。例え魂が気高くとも、言葉に慈愛が有ろうとも、星を蝕む力は消える事はない。


そして、言葉と行動が合致するとは、限らない。事今回の事で言えば猶更である。


操られているのではない。『そうであれ』と存在意義を作り替えられているのだ。


魂と肉体は相反する。常識ではありえない現象がこの武者には起きている。


だが、これこそ『常識』。ごくごく当たり前の、ありふれた結果だと思う存在がいる。


その存在からすれば、この個体はその存在性から乖離し恐ろしさが増すだろうとしか思わない。


その種はそういうものだ。そういう存在を生み出すものだ。


ただ種の中にで発芽するはずだった存在が、依り代の残存意識に飲まれただけの事。


人格も、意志も、関係ない。


『そうなった存在』であれば、種は役割を果たしたと言える。


故に、種の中にあった存在の消失などは、然したる問題ではない。


そう。例えどのような依り代であったとしても、既に存在は『戦火の悲種』によって作り替えられた。


もう、ここに存在しているのは星を蝕み滅ぼさんとする邪なる化身に他ならないのだから。


『忠義ヲ・・・此処ニ・・・』


その道が、言葉とは真逆の地獄を生み出す道であることを、宿る意識が知る事は無いだろう。


星を蝕む武者が、星の大地に足を踏み入れるまでの時間は、あと僅か。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 店の手伝いとかで多少人に慣れても、人混みには耐性ありませんでしたか。無事に戻れたら自宅周辺の人達との交流から始めませんとね。 [気になる点] 忠義を果たすべき相手は既に亡く、守るべき民も大…
[一言] 悲しい……けれどそれがいい………。 曇らせようぜ、この調子で!
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