家族旅行編:待ちに待った時間
優しい世界
???『現在死亡生命体総数****』
「皆! 冒険行こうぜ!!」
「「「やだ」」」
ミナツの冒険は、反対多数にて始まる前に終わったのであった。
そんなある日の読書中の出来事。マイと一緒に帰ってきたミナツの第一声は三人の否定で返された。
「なんでだよ!!? せめて話くらい聞いてくれても良いじゃん!!」
「・・・その話なら前にもして話纏まったじゃん」
反対派筆頭のハルナがアキハとフユカの代表の様にミナツの言葉を否定した。
確かに以前ミナツの冒険したいの話は軽くした。その時はミナツ達の睡眠障害などの問題で冒険は現状不可能という事になった。あとアキハ達のモチベーションの問題で。
「そうだけど!! あの時とは違うんだってば!!」
「・・・しつこいよミナツ」
「まぁまぁハルちゃん。ちょっとだけ話聞いてあげてくれない?」
諭すようにマイがハルナに頼みこむと、嫌な顔をしつつも、ハルナは渋々、仕方なく、嫌々という感じで『で?何?』みたいな感じで聞き始めた。
「あのな!! 俺魔法使えるようになったんだ!! これで冒険できる!!」
「意味わかんない。魔法使えるから冒険出来るって言われても意味不明だし」
「えーっと・・・あれ!! そうあれ!! シュンっとなってシュババってなる魔法!!」
擬音だらけで俺も良くわからない。まぁ多分当時あった問題を解決できる魔法を覚えたんだとは思う。
ここで助け舟を出してやるのは簡単だけど、自分でやりたいことなんだから、自分でしっかりと相手に伝える事も練習してもらういい機会だ。頑張れミナツ。
マイも同じことを考えているのか、こちらの顔を見て頷く。ここはミナツの成長した姿を二人で見せて貰おう。
「人にわかる言葉で話しなよ。もしかして理由伝えられないくせに冒険行こうとか言ったの?」
「違うし!! ちゃんと言えるから待ってろ!! んんっと・・・あれ!! 母さんが使う魔法教えて貰ったから皆で冒険出来るんだ!!」
「マミーの魔法が使える事が皆で冒険できるにはならないじゃん。そこまで冒険したいならマミーと一緒に二人で行けば?」
「そーじゃなくて!! そう!! 旅行!! みんなで旅行でいいからどっか行こう!! それなら冒険だけど冒険じゃないし!!」
「結局冒険したくないみたいに聞こえるけど?」
「ハルナ意地悪過ぎない!!?」
「・・・別に、ただめんどくさいし」
「本心それじゃん!!
「そうだけど?」
「ぐぬぬぬぬ!!! でも旅行!! 旅行なら皆楽しいじゃん!!?」
「・・・・・・・・・・・・別に」
「今絶対考えたよな!? 迷ったよな!?」
「・・・前みたいに馬車使うなら考えてもいいけど?」
「それは嫌だ! 皆で冒険みたいに歩いていきたい!!」
「・・・じゃぁやだ。夜は布団でお父さんと一緒に寝たいし」
「それ!! それが出来るって話!!それが出来るから冒険誘ってるの!!」
「???」
「俺母さんの魔法でシュババ、ぴゅーんって移動できる魔法覚えたの! だから冒険行ける!!」
「・・・マミー、ホントに此奴魔法覚えたの?」
信じられないと言わんばかりの言葉の棘を見せながら、ハルナはマイに真偽を確認した。
それに対してマイは良い笑顔で答えた。
「本当だよ。それは私が保証する。条件として私が一緒に居る事が必須ではあるけどね」
「・・・ミナツの癖にちゃんと覚えたんだ。良かったね」
「ちょっとムカつく言い方だけどすげぇだろ俺!! 有言実行ってやつだ!!」
「それはそれ。だからって私たちが冒険する理由無くない?」
「うぐっ・・・!!? そ・・・それは・・・」
「それこそマミーと二人で冒険すれば良いじゃん。マミーだってミナツの頼みなら聞いてくれるだろうし」
「でもだって・・・!!」
「別にあんたの冒険したい事を止めはしないけど、私たちに押し付けないで」
「うううう・・・」
「冒険したいならしてきたらいいじゃん。止めないから。アンタは昔から一人でも動けたんだし」
「あううう・・・」
「はいはいハルちゃんそこまでにしてあげてね? ちょっとナツ君が可哀そうになって来たし」
流石に分が悪すぎると言うか、口論でミナツに勝ち目がなくなったと言うか、敗戦目前まで追い詰められたのでマイが助け船を出すようだ。
ハルナの自論踏まえたうえでの正論パンチは流石にミナツには切り崩せないかな。聞いてて確かに可哀そうに思えてくるし。
「じゃ、そういう訳だから二人で冒険行けば?」
「・・・かあさーん!!」
「あーよしよし、頑張ったね。泣かなくていいよ」
ミナツ、泣いちゃった。言い返せなくてもうどうしようもなくてマイに泣きついた。割とガチ泣きしてる。
ハルナはムスっとしてるから俺はとりあえずハルナの方を宥めておこう。
「ハルナもそんなに怒らないの。ほら、おいで」
「・・・別に怒ってないし」
ぽんぽんと膝を叩いてやれば、のそのそと這い寄ってきてそのまま膝の上にハルナが収まる。髪を解き解す様に撫ぜてやれば、気持ちよさそうな、嬉しそうな声を漏らしながら身体をこちらに預けてきた。
「ハルナは冒険したくない理由しっかりある?」
「・・・めんどくさいじゃん。色々」
「めんどくさくなかったら冒険行っても良いって事?」
「・・・場合による」
「例えば?」
「・・・父さんが絶対に一緒」
「他にある?」
「夜は布団で寝たい」
「なるほど、外には?」
「疲れたらおんぶして」
「ハルナ姉さん!お父さんの背中は私のです!」
「・・・じゃぁ抱っこ」
「いいよ。抱っこしてあげる」
「・・・父さんは私に冒険してほしい?」
「うーん。冒険かどうかはともかく歩いて足腰鍛えては欲しいかな」
「・・・しょうがないから冒険してあげる。足腰鍛えるついでだからね」
「ありがとうハルナ」
「ほらナツ君。お父さんがハルちゃんの事説得してくれたから後二人だよ。頑張って説得しよ?」
「ひぐ・・・ぐず・・・う゛ん゛・・・!!」
鼻水をぐずぐずさせ、涙を流しながらミナツがマイの胸元から顔を放して残る二人、アキハとフユカに顔を向けた。
「そんなに冒険したいんですかミナツ?」
「う゛ん゛・・・!!」
「しょうがないですね。えへへ、ハルナ姉さんがいいよって言ってたので私も着いていってあげますね」
「ブユ゛ガァ゛ァ゛あ゛り゛がどう゛!!!」
二人目思った以上に簡単に説得に応したな。ハルナが行くからしょうがないって感じではあるけど。
「悪いが私は反対だ。まだ冒険できるほど自分に自信が持てない。今の自分ではどうしようも出来ない事があると以前学んだから、時期早々だと思う」
「そっか。アキちゃんはそう思うんだね?」
「うん。ごめんマミー」
「謝る必要はないよ。その意見も一つの正解だからね」
「そうか。良かった」
アキハの意見も正しい。自己分析が出来てるって事だからな。それにアキハは邪神教団と出会って自分の無力さを一番感じてたのもある。そう考えるのも不思議じゃない。
「私からアキちゃんの考えを変えてもいいけど。アールお願いね」
「わかった。アキハ」
「父さん」
「お前の判断は正しいと思う。自分で出来ない事をしっかりわかってて、その不安を払拭しない限り危険な行為はしない方がいいって思ってるんだろ?」
「そうだ。そのせいで以前父さんだけじゃなくてハルナ達まで巻き込んでしまったから」
そっか。アキハは今日までずっとそういう風に思っていたんだな。
自分のせいでハルナ達に怖い思いをさせてしまったと。そう考えてたのか。
これは俺の失敗だな。怖い思いをしたからそれを癒すだけしか考えてなくて、アキハが責任を感じていると見抜けなかった。
「一つだけ。アキハの間違いを訂正するぞ? あの時怖い思いをしたことに対して、アキハは責任を感じる必要はないよ」
「そんなことはない。私があの日依頼を受けたいなど言わなければ」
「そういう責任は父親の俺が負う責任であって、子供のアキハが負うべきものじゃないよ」
「しかし・・・」
「そういう責任をアキハが背負うのは、アキハが大人になってからだから。子供である今、アキハが背負わないといけない責任は無いんだよ」
「・・・そう・・・なのか? でも、私は・・・」
「難しく考える必要はないさ。アキハが大人になるまでは、責任なんて気にしなくていい。責任を負うのは父さんと母さんの役割だから」
「・・・わかった。すぐにはきっとそう思えないけど・・・そう思う様に努力してみる」
「うん。それでいいよ。時間はあるからゆっくり考えて。それを踏まえてさ? アキハも冒険してみないか?」
「父さんはズルいなぁ・・・そう言われて嫌がったら私が父さんの話聞かないって思われそうだ」
「そういうつもりは無いけどな? さっきも言ったけど、足腰鍛えるいい方法だからさ。あと旅行って話もあって大人げなくワクワクしてるのもある」
「うん。わかった。そういう事なら私も行くよ」
「よーし! これで皆で旅行もとい冒険決定だね! 良かったねナツ君」
「う゛ん゛っ゛!!!」
「冒険に出るのは明日から。今日はゆっくり休んで明日朝から出かけよう!」
こうして、俺たちの家族旅行が決定したのだった。
ーーーー
その日の夜。アキハ達が寝静まった中で、マイと二人で旅行の話をした。
最大の問題はハルナ達の睡眠障害だ。それが解決できるならどこにでも行けるだろう。
当然マイもそれは理解していた。
「だから考え方を変えたんだよ。進んだ地点を魔法で記録して、毎晩ファストトラベルで家に帰ってくる。普通の旅行とは言えないけど、これなら皆大丈夫でしょ?」
「一応確認だけど、そのための魔法は完成してるんだよな?」
「当然。正確にいうならその為の魔法は前から作ってあったし、使えたの。でも今日やっとナツ君が私が作った魔法を使えるようになったから、皆に冒険しようって誘っていいよって許可出したの」
そう言えば、マイは前デスサイズ掃討戦の時もクランハウスに帰還するための魔法アイテムを用意してくれてたな。あの時既に魔法は完成してたのか。
「私が使えるからって甘やかすのは違うって思ってたから、ナツ君がこの魔法使えるようになるまでビシバシ鍛えてたからね」
確かにインしてる時はほぼ毎日ミナツに付きっきりで魔法教えてたからな。毎日ぐったりして帰ってきてたのは見てたから。
「聞いたことなかったけど、具体的にはどんなこと教えてたんだ?」
「前に話したけど、魔法はイメージが大事なの。そのイメージを培うのに必要なのは実体験でしょ? だから魔法で酔う位連続で転移魔法をナツ君に使ってひたすら転移するイメージを体験させてったのが第一段階」
つまり、最初の内はミナツはお手玉の如くマイに転移させられ続けたのか。
「次に自分以外の対象に魔法を使う練習。簡易的な転移魔法の練習だね。石を魔法で持ち上げる練習から初めて、次は移動させる。ここがナツ君一番苦労してたね」
「確か・・・魔法の才能が低いんだっけか?」
「うん。こればっかりはしょうがないからね。でもアールみたいに努力で才能の壁を乗り越えた前例があるから厳しく教えたよ。毎日疲れてたのは魔法使う為に集中力を限界まで酷使してたからだね。数値目標としては200を超えるまでひたすら魔法の練習だよ」
「ステータスって、練習で増減するのか?」
「ナツ君含めて皆レベル上限が無くなってるからね。そのお陰で修業と同じで魔法の反復練習で魔法は伸ばせたからね。あとはナツ君が魔法を自由に使えるようにひたすら練習。この段階をクリア出来たら次に転移魔法の練習ね。私を対象にして、最初してた三点間の転移をひたすら練習。MPに関しては問題になってなかったから、あとはナツ君の努力次第の段階にはなってたね」
「その結果が今日だったということか」
「そ。ナツ君の一生懸命だった努力が報われたというか、これはもう認めざるを得ないなってレベルまで転移魔法を使えるようになったから良いかなって。実際皆に対して使う時のフォローは私がしてあげればいいからあとは実戦で回数熟すのがいいかなって」
実戦に勝る経験なしだからな。マイの判断は正しいと思う。魔法の事は詳しくないけど、魔法の専門家であるマイがそう判断したならそこは信じよう。
「転移魔法の失敗とかは大丈夫なんだよな?」
「大丈夫。失敗というか、うまく行かない時は魔法そのものが発動しないから体の一部だけ転移するみたいなバイオレンスな事にはならないから」
「なら良かった」
そんなことになったらミナツ一生のトラウマになるからな。
「そういう事だから毎日日帰り冒険旅みたいな気持ちで大丈夫。アールも私もいるし何とでもなるし何とでもするでしょ?」
「勿論」
「他に気になる事ある?」
「そうだなぁ・・・」
「んん・・・んん・・・むにゃ?」
「とりあえず大丈夫。ハルナ起きちゃいそうだからまた明日」
「うん。わかった。おやすみアール」
「おやすみマイ」
ーーーー
「ふんふふーん!!」
「ナツ君テンション高いね」
「うん!! 遂に冒険! 初めての冒険!!」
目指すは王都『アラドメレク』。プラクロ世界の人類領で最も大きく、人と物が集まる場所。初めての旅行なのだから離れた場所で、大きな場所に行こうという事になった。
先頭を歩くのはテンション高めのミナツと道を知るマイの二人。その後ろから俺とアキハ、ハルナにフユカが続いている。
旅の予定は朝に家を出て、夕方に家に転移で戻る。そして翌日は前日まで進んだ場所に転移してまた歩く。これを繰り返して王都まで歩いていく。マイの予定では一週間と少し歩けば王都に到着すると言う。
「冒険冒険らんらららーん!」
「楽しいのは解かるけど警戒怠っちゃだめだよ?」
「うん!」
念願叶ったミナツはもうウッキウキで先頭を歩いている。対して・・・
「・・・何が楽しいんだか」
ハルナはテンションが死んでる。目が死んでると言ってもいい。アキハとハルナはいつも通りのテンションなのだが、ハルナがそれはもう目が死んでいる。
「・・・お父さんおんぶして」
「ハルナ姉さん早すぎませんか? まだ歩き始めて少ししか経ってませんよ?」
「・・・眠いの」
「そっかぁ、ならおいで」
背負っていたフルタカを腰に携えて、背中を空ければ、ハルナは直ぐにぴったりとくっ付くように背中に乗ってきた。
「ん・・・ぐぅ・・・」
「すぐに寝たな」
「寝ましたね」
背負った瞬間に寝てしまった。昨日ちゃんと夜寝たのは確認したんだけどな。運動不足は無いし、ストレスも多分ないとは思うけど。
「おぉ!! 見たこと無い石!」
「ただの石だよ?」
「でもすげぇ!!」
そんなことなどつゆ知らず、目に映る全てが楽しいようで、ミナツはとても楽しそうだった。隣を歩くマイもどこか嬉しそうに笑っているからミナツの反応が面白いんだろうな。
「ミナツ。マミーに迷惑かけないと良いのだが・・・」
「気にすんなよアキハ。マイも楽しんでるみたいだから」
「そうなのか・・・? なら、いいのか?」
「いいのいいの。あの調子だと多分昼休憩以外の休憩はミナツの体力次第になりそうだけど、アキハとフユカは大丈夫そうか?」
「大丈夫だ。伊達に父さんと稽古をしていないから」
「私も大丈夫ですよ。お父さんと一緒なら沢山歩けますから。えへへ」
二人は大丈夫そうだからとりあえずはこのまま歩こう。こう見るとミナツが一番年下に見えてくるんだよな。
好奇心旺盛な弟を見守る、あるいは呆れる姉一同みたいな光景だ。
それから歩き始めて数時間後、だいたい昼前一時間くらいの所でだ。
「モンスターだ! 見たこと無い奴!」
「ハンターオーガだね。武器に気を付けて」
出会ったのはまるで狩人の様にモンスターの皮で作ったチグハグな装備を身に着けた全長2m超えのモンスター。ハンターオーガと言うらしい。
「この程度なら私とナツ君の二人で倒せるね。アール達は後ろで休んでていいよ」
「だってさ。アキハ、フユカ。見稽古って訳じゃないけど、ミナツの動きを見て自分ならどうするか考えながら見ていこうか」
「とりあえず全体バフで行くよ『ブレイブティアエンハンス』『ディフェンスティアエンハンス』『マジックティアエンハンス』。よし準備OK。やるよナツ君。GO!」
「おっしゃぁ行くぞぉ!!」
ハンターオーガ相手に、大剣を構えたミナツが突撃する。
相手もこちらを敵と認識したのか、拳を構え、振りかぶる。
叩きつけられた拳をミナツは躱し、一閃。空いた腹をぶった切る勢いで剣を振るった。
「思ったよりかったい!!」
『OOOOOO!!!』
「ナツ君回避!」
「うっしゃ!!」
ゴリラのドラミングが如くハンターオーガはミナツに向けて連続で拳を叩きつける。
踊るように身を翻してミナツはそれらの拳を一つ一つ的確に回避していく。動きは悪くない。重心も安定しているし、安定している。
「攻撃が途切れたら一撃!!」
「わかった!!」
マイの指示のもと、ハンターオーガのラッシュを回避しながら、それが途切れるのを待つ。
そうしている内に、息が上がったハンターオーガが攻撃をやめて、一歩後ろに下がった。
「『月風』ぇ!! か・ら・の・! 『月輪』!!」
後ろに下がると同時に距離を詰め、大剣を振るい、ハンターオーガの膝を切り裂きながら背後へと回る。
膝に一撃を受けたハンターオーガは僅かに怯み、背後に回ったミナツから視線が途切れた。
「『月華美刃』!」
横薙ぎの一撃からの唐竹割り。十文字に振るわれた二連撃をハンターオーガの背中に叩きつける。
その痛みから悲鳴を上げるハンターオーガだが、同時に激怒したのか、叫びと共に太い腕を大きく広げ、その場でグルリと回転して腕を振り回した。
だが、既にミナツはハンターオーガの攻撃範囲から離れており、その攻撃は当たらない。
「『フリーズフィールド』!」
マイの魔法がハンターオーガの足元周辺を凍らせた。回転していたハンターオーガは、その凍った足元に脚を取られ、叩きつけられるように転んだ。その隙をミナツは逃さない。
「『月輪』!!」
ハンターオーガの肩を切り落とす様に大剣を振るい、肉を断つ。一撃は大きいが、ハンターオーガの腕を切り落とすには足りなかったようだ。
「もう!! 一!! 撃!!」
だからもう一撃叩き込む。一歩後ろに下がり、大剣を担ぎ直してタメの構えを取った。体内を巡る衝撃を担ぐ大剣に集中させ、必殺の一撃の為に。
ハンターオーガはその隙に立て直そうとするが、マイの魔法により地面は凍り、上手く立てない。
「やっちゃえ!!」
「たたき・・・込む!! 月光真流奥義『葬爪レオ』!!」
大剣より放たれた衝撃の一撃は、今度こそハンターオーガの肩を抉るように切り裂いた。それだけでは足らぬと言わんばかりに衝撃の爪撃は傷口から更に抉るようにハンターオーガを剥ぐ。
『----!!!』
その痛みに絶句し、ハンターオーガは凍る地面でのた打ち回る。
「ナツ君! アレやるよ!!」
「うん!!」
「『トランスポート』!!」
ミナツの姿がその場から消える。その姿はすぐに別の場所に現れる。それはのた打ち回るハンターオーガの上方3m程度の空中。
「大! 車! 輪! か・ら・の!! 月光真流奥義『裁天リブラ』!!」
大車輪。その名の如く空中で回転しながらミナツは落下してくる。遠心力と落下によるエネルギーを全て大剣にのせて、月光真流奥義『裁天リブラ』がハンターオーガを文字通り切り裂いた。
大剣がハンターオーガの肉体を断ち、地面にぶつかる。その衝撃を受け止めながら、ミナツは綺麗に着地した。
ハンターオーガがこと切れたのを確認すると、ミナツは此方を向いて嬉しそうにブイサイン。
「勝利!! ブイ!!」
「お見事! よくやったねナツ君!」
「にへへ!」
マイに頭を撫ぜられながらミナツは嬉しそうに笑っていた。
これはアレだ。余計なこと言わずに褒めてやるべきだろう。自分よりも遥かにデカい相手に対して恐れずに立ち向かった事もそうだし、動きも悪くなかった。
突き詰めればつつける部分もあるけれど、現状のミナツとしてならば満点だ。
「ミナツ」
「お? なんだアキハ姉さん! もしかして姉さんも褒めてくれるのか!?」
「相手の連続攻撃は受け止めて動きを止めた方がもっと早く倒せたんじゃないか?」
「うぐっ・・・そ、それは」
「アンタ苦手だもんね『月波』」
「はぐぅっ!?」
「まだまだですね」
「うぎゃぁっ!!?」
残念ながら三人娘からは俺が思っても言わなかったことをズバズバ言われてがっくりと膝から崩れ落ちた。
「まぁまぁ、アキちゃん達のいう事も正しいけど、あの速度のラッシュを回避できるのはナツ君がしっかり相手の事を見ていたからだよ。そこは認めてあげてね?」
「・・・まぁ、確かに回避は上手かったと思う」
「だろだろ!!? やっぱ俺凄いよな!!?」
あまりミナツを褒めないハルナが回避を褒めた、と言うか認めた事で膝から崩れ落ちたのが嘘のようにミナツははしゃぎ喜んでいた。
ぼそっとアキハとフユカが『やっぱりガキ』と言っていたが、聞こえていないのか、マイにあーだこーだと嬉しそうに褒めて褒めてと自己アピールしていた。
マイは愛おしそうにそれを見ながらくしゃくしゃと頭を撫ぜる。やっぱ男の子だから母親から褒められるのが好きなのかもしれないな。
少し前まで俺にしかそういう顔を見せなかったミナツがマイにもここまで心を開いたのを見ると、ジーンと来るものがある。
「父さん」
「どしたハルナ?」
「ミナツだけが調子乗るのもムカつく。だから次は私がやるから」
「私もやるぞハルナ」
「えへへ、女子三人で倒しましょう」
「・・・いいよ。バカミナツより速く倒すから、父さん、見ててね」
対抗意識に火がついたのか、アキハ達三人もやる気を出し始めた。
ちょっと先の話になるが、二体目のハンターオーガと接敵した時、アキハ達はミナツの三分の一の時間でハンターオーガを仕留め、ミナツにほくそ笑む様にどや顔を向けていた。
「三人で戦ってるんだからそうなるのは当然だし!!」
「・・・負け惜しみ」
「んだとハルナー!!」
「えへへ。お父さん褒めてください」
「わ・・・私も褒めてほしい。有言実行したから」
「よしよし、三人とも流石だよ。特にアキハの月波は見事だった」
ラッシュの初撃から月波で防御して速攻で沈めたのは間違いなかったからな。流石アキハ。
ーーーー
昔話だ。
人こそ世界を統べる種族だと豪語し、他種族と争いが絶えなかった時代。
現代で言う戦国時代の様に武士・戦士の位が高い国があった。強き者が長となり、頂に君臨し、民を守る。民は長に従い、国を栄えさせる。
強き国だった。人類種の国の中でさえも、頂点にふさわしいと言われるほど、高い戦力と国力を持つ国だった。
民は笑顔で過ごし、武士たちはその民たちの平和を守りながら、長を支える。理想国家がそこにはあった。
それが、同族同士の争いの種になった。
周辺国はその国に嫉妬し、その国力を欲した。
武士たちの持つ力を欲した。民が持つ国を栄えさせる労働力を欲した。
当時、まだ人類種は亜人種の様に手足の様に魔法を使えた訳でもなく、魔人種の様に強靭な肉体も持っていなかった。
だが、それでも、人類種はその知恵と技術で他種族と渡り合っていた。そして、その矛先を同族にも向け始めた。
強国だった武士の国に対し、人類種の国々は連鎖的に開戦を宣言。四方八方から攻め込まれた武士の国は善戦こそすれど、広範囲から同時に攻められたことで戦力を分散せざる得なく、量で圧倒されて追い詰められていく。
そこに住む民は他国に奪われ、国土は少しずつ、着実に奪われていく。
武士の国は何処にも逃げられず、どこにも頼れず孤立させられた。
じわじわと削られ、奪われ、やがて滅んだ。
他国は武士の国から奪った国力を得て、自国の力を高めた。
各国が様々な手段、方法で強国の力を自国の物にしていく中で、ある国では、奪ってきた強国の民だった者たちは死ぬまで働かせ、反逆を許さず、笑う事を禁じ、娯楽を禁じていた。
その国では、強国の民は奴隷だった。老若男女関係なく、国の為に働かせられていた。文字通り死ぬまでずっと。人の尊厳など存在しないと言わんばかりの扱いだった。
だが、それを許さなかった者が存在していた。武士の国で最も強く、最も長・・・主と定めた者に忠義を誓った武士だ。
武士は他国の軍勢に攻め込まれた城をたった一人で守り続け、千を超える軍勢から三日三晩城を守り続けた猛者だった。
だが、主を失い、武士は抜け殻だった。侵略国の一つに戦利品として生捕りにされた武士は、生きた死骸の様に檻の中で過ごしていた。
その国は武士を戦力として扱う為に好待遇を用意した。領地も任せると、捕らえた民も任せると交渉した。しかし、忠義を誓った主無き今の武士には、何も届かなった。
だが、主が大切にしていた民が、他国では尊厳を奪われ、馬車馬の如く働かされていると知って、武士は心の火を取り戻した。
『良いか、人が人である事こそ、我が理想国のあり方だ。努々忘れる出ないぞ』
それは今亡き主が常に武士に対し言っていた言葉だ。それは、武士が忠義を誓った主が最も大切にしていたことだ。その尊厳が、人であることが、奪われている。
既に主はいない。しかし、主が守っていた民はまだ残っている。ならば、その民を守る事こそ、主への忠義の証明だと。武士は今まで屍だったことを憂いた。
この忠義、死んでも守るのだと。
武士は遂に動き出す。
ある日の夜に牢獄より脱し、兵から武器を拝借し、守るべき民を救うために、たった一人の戦いに赴いた。
その日から、元強国の民を使っていた国々が襲われ、武士は民を解放していった。たった一人、武士は主に捧げた忠義を全うせんと、民を救い続けた。
その武勇は大陸と海を越え、亜人種、魔人種にも届いた。その武勇は種族の枠組みを超えて誰もがその力を恐れた。
鋼鉄すら切り裂く剣術。魔法を切り裂く剣術。それらを支えるのは千を超える軍勢相手に三日三晩戦い続ける体力。
それは個人が有していい物ではなく、正しく全種族の天敵と言っても過言ではないほどに強力だった。
欲する以上に、恐れ、恐怖した。
だから。
武士は殺された。
種族間の蟠りも、意地の張り合いも、たった一人の武士を殺すために、世界は一丸となって武士を殺した。
たった一人を殺すために、世界は全体の約2割強の戦力を失った。
そして、第二の武士を産まないために、人類種は強国の民の扱いをより慎重にした。
恐怖での支配ではなく、隷属による支配でもなく、自国の民として丁重に扱い始めた。
他二種族も、武士のような存在が人類種にいる事を知り、攻められる事を恐れ、人類種への敵意を緩和した。
たった一人が、世界のあり方をほんの少しだけ変えたのだ。
武士にとって、それは重要ではない。武士はただ、己が忠義を亡き主に示しただけなのだ。その結果、主の民が救われたのならば、それだけでよいと、武士は最後の瞬間を迎えた。
その魂は誇り高いものだった。
その魂は気高きものだった。
最後まで、汚れる事無く、武士は主へ誓った忠義を貫いて、死んでいったのだから。
無論、そんなこと、戦火の悲種には関係ない。
ただ、そう。
使えると判断したから、その魂に寄生した。
種は誇り高い騎士の魂を、気高き魂を、躊躇なく汚す。己の都合がよいように。
種は長い年月をかけて、その魂にあった肉体を構築していく。
その武力だけを、十全に生かすための肉体を。
少しずつ、少しずつ、種は魂を汚しながら、肉体を作っていく。
種は、やがて、発芽する。
私の近況
ブルアカでアビドスストーリーでテンション上がって雄叫びあげて
学マスの手毬と莉奈のTRUEエンド見て興奮して喜びの悲鳴でて
グラブルのバブイールの塔が想像以上にめんどくて悲鳴を上げて
NIKKEのイベントで推しが水着になって我慢できずに課金して、ミニゲームのデイヴザダイバーコラボで盛ろハマりしてこれも買ってやり始め
”しかのこのこのここしたんたん”と”ぶいでん””キン肉マン”はじめとする今季アニメでテンション爆上がりで
あれ?叫びしかあげてないな・・・?
ともかくそこそこ充実しながら生活しつつ、こつこつ最新話書いてます。
でもやっぱり皆さんの応援(感想・レビュー・誤字報告)が何より書き手としてはモチベーション上がります。ですので応援してください。出来れば褒めて!!(クソデカボイス)
PS.学マスサークル作りました。興味ある方いたらメッセージ待ってます




