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月女神祭り編:武人

今回は最初から最後まで戦闘回。

対人戦闘におけるもっとも重要な事は判断力だと思う。


相手の行動に対して、どう動くか、あるいは、攻撃される前にアクションを起こして攻撃そのものを停止させるか。


これはどんなゲームでも同じでメジャーな所で言えば対戦ゲームのガード崩しなんかがそれだろう。


ガードする相手を崩すために、上段中段下段、それぞれの攻撃を組み合わせて繰り出し、相手のガードを崩し、体力ゲージを削る。


逆に相手はそれを先読み、あるいは動きから読んでガードを切り替えたり、あるいは素早い攻撃でカウンターを狙ったりする。


こういう瞬間的な駆け引きが勝負を決めるのが対人戦、あるいは対戦格闘ゲームの醍醐味だ。


「『山穿空割さんせんくうかつ』!!」


「『月波』」


今まさに対峙している徒手格闘で戦う相手、『拳翔』というプレイヤー。何度も打ち合っているが正に格闘ゲームからの参戦者を思わせる戦い方だ。


戦い方に癖があり、それでいて全て高水準。けれど様々な武術を取り込んでいるのか、動き一つ一つが似ているようで違う。


要するに、俺とはまた別方向で強い奴だ。


基礎こそ奥義とでもいうのだろう。


それくらい無駄のない動きと立ち回りだ。


「おうおうアールよぉ! なかなか苦戦してんじゃねぇか!? いいぞ小僧頑張れや!!」


「オメェはどっちの味方だチーザーこの野郎!!?」


「決まってんだろ! 面白い方だ!!」


「そう言うと思ったよ!!」


「スキアリ!!」


「ねぇよ!!」


腰を入れたアッパーカット。シマカゼ改の柄で押し込むように受けて相殺。続けざまに放たれるフック、ジャブ、ストレートの連撃も防御。だんだんこいつの癖がわかってきた。


「負けません! 『山穿空割』!!」


「『月波』」


距離を取りたい時、こいつは必ずこの『山穿空割』という技、あるいはスキルを使う。受けた限りだが、攻撃範囲を広げる技だ。範囲は腕二本分程度。多段攻撃ではなくあくまでも一度の攻撃。しかし押し込むと言う効果があって距離を取られるのはなかなか厄介だ。


衝撃は受け止められるが、押し込む事に対しては踏ん張るしかない。


んで、相手の能力は押し込むことに関して俺より優れており、こうして距離を取られてしまう。


「いいぞ拳翔!! やったれぇ!!!」


「儂の弟子として恥じぬ戦いを見せよ!!」


「頑張れ拳!!」


「情けない戦いすんじゃねーぞ!! 頑張れー!!」


「はい!! 師匠たち兄弟子の皆ありがとう!!」


拳翔と言う男の強さの一つにこの応援団の存在がある。


プレイヤードではない現地人(NPC)の武闘家らしき応援団。どいつもこいつも戦い慣れている雰囲気を隠そうともしない実力者たち。


彼らから武術の基礎を学んだのだろう。それにかなり可愛がってもらえている様子だ。それに呼応するように拳翔の動きも鈍ることなく最高潮を維持している。


こういう奴が一番強い。メンタル的に余裕があると判断力の切り替え、思考の回転速度が速くなる。


だから相手の一手に対し適切な行動で返せる。


「厄介だな」


「えへん! たくさんの師匠に兄弟子たちからいっぱい教わったので!!」


全くその通りだろう。沢山可愛がられてその技術を吸収し、自分の中で組み立てていったんだろうさ。


そりゃ強くもなる。


「でもまぁ、俺ほどではねぇよ」


「むっ・・・なら僕が一本取ってアールさんの弟子になります!!」


「生憎今弟子は取ってないから諦めろ」


「いいえ! 勝ったら弟子にしてもらうので!!」


何ともまぁ貪欲な奴だ事。後ろの応援団に交じってる師範的立ち位置の人たちも『またいつものか』みたいな表情をしている。そういう所もこいつの魅力なのかもな。


「やる気も湧いてきたので行きます!!」


右足を軸に拳翔が飛んでくる。さて、こっちもそろそろ見慣れてきた。月光真流の神髄、味合わせてやろう。シマカゼ改を納刀し、構える。


「『破山撃』『山穿空割』!!」


「『風花雪月』」


伸びる一撃を往なし、拳の目の前まで迫り、鞘で受け止める。


「『十六夜』」


「っっ!!?」


ゼロ距離からの居合切り。まずは二撃目の為に構えていた拳翔の片腕を貰う。


シマカゼ改の刃を翻し、そのまま両足の膝下を切り落とす。更に刃の角度を上にして一閃。


攻撃を受け止めた事で無防備に動きを止めた腕を切り落とす。


納刀しながら腹部を蹴り上げ、拳翔の身体を身長よりも高く、宙に飛ばす。


構えるは一撃必殺の奥義。拳翔が選択し、憧れたと言ってくれたこの一撃で幕引きとする。


「望みの一撃、味わっていけ『天翔サジット』!!」


突き抜ける一撃。衝撃の込めた天に突き立てるように放った一撃は拳翔の心臓を穿つ。そして、身体に穴をあけた拳翔はそのまま、地面に力なく叩きつけられた。


決闘用の結界が解除され、拳翔の失った四肢と空いた穴が修復されていく。


「いい勝負だった。お疲れさん」


起き上がった拳翔に手を差し出せば、握り返してくれたので、そのまま引っ張り上げる。悔しそうにしつつも、何処かスッキリしたような表情で拳翔が言う。


「うわぁあああ負けたぁ!! でも楽しかったです!! どうもでした!!」


「おしかったぞ小僧!!」


「いい勝負だった!! 次は勝てるぞ!!」


「負けぬように稽古をつけてやる!!」


「山穿空割はまだまだ未完成よ! もっと磨き上げるわよ拳翔!!」


万雷の喝采が如く、見ていた人たちから大きな拍手が上がる。どこから持ってきたのはラッパの音まで聞こえてくる。


「押忍!! 師匠たちお願いします! それじゃぁアール師匠またね!!」


「誰が師匠だ。誰が」


つったかたーと言う足音が聞こえそうな駆け足で拳翔と言うプレイヤーは応援団の元へと駆けていく。


「怒涛の102連勝!! ッハハハ!! 流石マスターだなぁオイ!!」


「お前途中から相手の応援しかして無かったろ」


「そりゃおいアレだよ! 無敗の剣聖を倒せる奴がいたら応援するだろJK!!」


お前一応俺と同じチームでクランなんだけどなぁ?


「父さん!!」


「おっと」


飛び込んできたアキハと受け止める。顔を上げればそれはもう凄まじく真っ直ぐで、純粋な敬意を感じる視線。


「凄かった・・・!! 本当にすごかった・・・!!」


「ありがとうアキハ」


「俺だって凄いと思ったんだからな父さん!!」


「えへへ・・・無敵ですね」


「・・・当然」


ふんすと聞こえてきそうな顔つきでミナツ達もやって来た。後ろから追ってきたマイの両手にはお祭りで買ったであろうお面やおもちゃなど、たくさん握られていた。


アキハ達の事を任せていたから露店回って楽しんでいたはずだ。


「お疲れ様。はいこれ、糖分補給」


「ありがとう。貰うよ」


「おい俺様には?」


「あんたは後ろの特等席で鑑賞してたでしょ。飲みたかったら自分で買ってきなさいよ」


「ちぇー、しゃーねぇ。おいお前ら!! 気が向いたら再開するから一旦終わりだ終わり!! ついでにどっかでトラブル起きてねぇか調べてこい!」


チーザーはそう言って露店の方へと消えていく。んで、観戦してた奴らも、一旦終わりという事でどんどん離れていく。


こうなってようやく緊張の糸が切れたと言うか、一息ついた俺はゆっくりと深呼吸。呼吸が落ち着いてきたので、受け取ったジュースをグイっと一口。ミックスジュースだな。美味い。


「やっと一息ついたって感じだよ」


「でしょうね。二百人以上は相手してたんだし」


対人戦闘ってモンスターと戦うよりも頭使うから疲れる。十人十色で思考が違うし、攻め方も変わってくる。しっかりと観察しつつ、防御して、最適な行動を選ばないと死ぬからな。


これも全部、剣聖物語ぜんせで師匠に仕込まれたおかげとも言える訳だ。


マリアーデという長寿族代表とも言うべきエルフの世捨て人で俺の師匠。ゲーム内では最強のお助けキャラ、あるいはアシストキャラの立ち位置で、主人公である自分の窮地を助けてくれた人。


俺にとってはマリアーデは0から100を全て教えてくれた師匠だ。


拳翔と言うプレイヤーと戦って、その時の戦闘会話を思い出したからかな。無性にマリアーデと話をしたくなった。


やっぱり今度少しだけ、前世むこうに戻って手ほどきを受けてみようかな。






ーーーー






「ようやくついた。お主だな? ここで試合をしていると言うのは」


昔の事を考えながら休憩していると、後ろから一人の女性の声が聞こえた。振り返ってみれば編み笠を深く被り、顔全体を手拭で隠した俺より少し小さな女性だった。


「そうだけど、貴女は?」


「余は旅人だ」


「アール。この人NPCだよ」


耳元でマイが教えてくれた。俺の視点では見えないが、普通のプレイヤーは頭の上に名前が見えるらしい。NPCだと、一度話して名前を聞くまではわからないらしいけど。


「どうだ。良ければ一戦、交えてくれはせんか?」


「勿論構いませんよ。ルールは御存じで?」


チーザーはいないが旅人さんがせっかくこうしてきたんだ。相手してあげても良いだろう。


「知らぬが、不要だ。お主の全力が見たい」


「全力・・・あーそれはちょっと」


流石にルール無視して戦うのは不味い。一応催し物だし。そう言って納得してもらおうと色々説明していたのだが。


「つまり、疲れたから全力はだせん。そういう事だな?」


「カッチーン・・・上等だコラ」


アイテムポーチから回復アイテムを取り出しがぶ飲み。ついでに糖分補給で種なしマスカットもぶち込む。補給完了。


「お望み通り全力で相手してやる。一瞬でケリ着くかもしれないが悪く思うなよ?」


「無論、しかしそう簡単に勝てるかな?」


「マイ。アキハ達も、ちょい下がっててな」


「アールたまに煽り耐性低い時あるよね。はいはい皆下がるよ」


マイたちがフィールドから離れたのを確認して決闘用の結界魔法を起動させる。決闘場に埋め込まれた魔法陣に魔力が流れ込み、半径10m程度の決闘場が出来上がる。


周囲に残っていた人たちもなんだなんだと集まり始める。あっという間に結界の外は観戦者でいっぱいだ。


「先手は譲るぜ旅人の御仁」


「そうか、ならばありがたく」


殺意が伝わる。戦意が方向を上げた。旅人から伝わるそれは、今日誰よりも強いものだ。


背負っていた太刀を抜く旅人。あの太刀。相当な業物だ。そう感じる。


呼吸を整えて集中。相手もかなりの手練れだ。雰囲気でわかる。けど、急に挑発されて逃げるとか手加減とかしてやる義理はねぇ。本気でやる。桜花戦舞、参る。


「『Laaaaaa』」


桜花戦舞だとっ!!? しかも不味い乱れた・・・!! 視線を持っていかれる・・・!!不味いっ!!


「『Laaaa・・・月光閃』」


「『月波』っ・・・くっぅ!?」


月光真流までかっ!!?俺と同じ、いや、もしかするとそれ以上に強いぞ!?


ギリギリで視線を取り戻し、防御に回った。衝撃は吸収したけど、身体にかかる衝撃が想定の倍あった。


すぐに受け止めるではなく受け流すに思考を切り替えて地面に流して耐えたけど、瞬間火力が洒落になってねぇ!


「『暁月』」


切り替えろ。


此奴は格上、下手したら俺の上位互換。舐めてかかっては負けるのは俺。今までの余裕と慢心を全て削ぎ落とし、目の前の絶対強者への戦闘に思考を切り替える。


「『月波改』」


横薙ぎに振るわれた暁月に対して、衝撃を受け止めるではなく、受け流すことに特化させた月波改で応戦する。


ぶつかる互いの刀から腕に伝わる一撃は受け止めるにはあまりにも強すぎた。判断は間違えていない。全て受け流し、身体には残さない。


「ほぅ? 賢い判断は出来るようだな。『月華美刃伍蓮』」


「『風花雪月』」


月華美刃伍蓮と言われ放たれた攻撃は一撃で態勢を崩し、次の一撃で仕留める通常の月華美刃を改良したもの。一撃で態勢を崩すのではなく、一撃で仕留める一撃が連続で来る。


だったらこっちも真正面から受け流す。


一閃、ふるい落とす。


思考と肉体を全力で動かし、迫りくる攻撃全てをひたすら受け流す。


それでも、流しきれなかった分の衝撃が身体に襲い掛かってくる。


「『月波』」


技の同時使用でこれをやり過ごす。一撃一撃が凄まじい。


鳴りやまぬ剣戟音の中で、次の一手を読み抜き迎撃する。そうすれば相手はそれをさらに上回る軌道で一閃を放つ。


ギリギリで回避するが体勢が崩れた。これを逃してくれる相手じゃない!!


「『LAAAAAA』!!!」


「『LAAAAA』ピスケス!!」


使えるとわかったなら二度目は対応できる。声を相殺するように唄い、ピスケスで距離を空ける。俺が相手なら次の一手は。


「「『剛歌キャンサー』!!」」


空間で衝突する衝撃壁。建物を破壊するかの如く音を響かせ地面が抉れる。


「悪くない腕だ『星波ピスケス』」


弧を描くように飛びぬけて、俺の死角へと入り込んでくる旅人。いつもなら鞘を抜いて迎撃するんだが、相手の方が強い。片手で対応するのは自殺行為だ。


「『月風』!!」


なら衝撃を乗せて無理やり姿勢を変える。真正面、捉えた。


「「シィッ!!」」


突きを弾き、撫で斬りに、そうすれば相手は即座に太刀を逆手に持ち、シマカゼごと突き上げてくる。


何度もぶつかり合い、互いの刃を吹き飛ばしあう。リーチの差が厄介だ。シマカゼよりも相手の太刀の方が長い。そして重い。


こんな言い訳したくないが、シマカゼと相性が悪い。


武器としても、この人を相手にするとしてもだ。


「『ピスケス』!」


「逃がさんぞ『ピスケス』」


「この一瞬が欲しかった!!」


シマカゼ改を納刀し、『フルタカ』を抜く。振るわれた一閃に対し、迎撃が間に合った。受けた衝撃は受け流す先が無かったので体内に蓄積したが、相手も空中に来たため、耐えきれない衝撃ではない。


「『響詩ヴェルゴラ』『星波ピスケス』!!」


体内の衝撃を信号に変えて肉体を動かす糧に、空を踏み、さらに空へ飛ぶ。結界の頂点へと着地し、全ての力と衝撃を足へと集める。殺す気でやらねぇと、この人相手じゃ勝てねぇ!


『月光真流極大奥義『天波流星アルフェルグ 』!!』


「良かろう。月光真流極大奥義『天波流星アルフェルグ 』!!」


もう驚かんさ!! と言うか、アンタの正体わかりかけてきたからな!!  女性の声は本当に自由自在だなオイ!


ぶつかり合う二つの流星。空から大地へ、大地から天へと流れる流星は、ぶつかり合い互いを吹き飛ばす。


お互いに吹き飛びながらも地面へと落ちたが、それでも相手から視線は外さない。


「腕は落ちていないようだな」


「簡単に落ちるかよ」


「安心した。ではゆくぞ『月風改』!!」


速い。月風をさらに磨き上げた事で改へと進化を遂げた戦技に、一瞬目が追い付けなかった。が、感覚で打ってくる場所は解かる。


切り払えばジャストタイミングで互いの太刀がぶつかり合う。


「相変わらずお前のそれは、余としても羨ましく思うよ」


「力量で負けてるからこれで補強してるんだ・・・よっ!!」


フルタカを振り抜き、攻勢に転じる。リーチの差は埋めた、あとは手数が追い付くかどうかだ。


「『月下美刃伍蓮』」


「『風花雪月』!!」


再び放たれる一撃必殺の連撃。


思考を回し、肉体を回しながら見る。覚える。


何を起点にしている? 月風? いいや違う。一撃の重さで言えば月輪だ。だがそうなると今度は速度が問題だ。月輪よりも十六夜に近い。


そうか。起点を作って動いてるんじゃなくて『ヴェルゴラ』で身体を動かしてるんだ。それなら一撃の重さも速さも納得できる。


そう考えたら、月輪ではなく『リブラ』、月風ではなく『ピスケス』。それなら全部の一撃に筋が通る。


名前で完全に騙された。極大奥義生み出してんじゃねぇよオイ。


けど原理はわかった。受けきれない理由も納得した。そして・・・見終えた。


「むぅ!!」


「ラァッ!!」


身体を外と中から、筋肉と思考から、ヴェルゴラで切り替えた振動を最大限使って、動かす。ピスケスで加速し、大振りながらも速度を意識してリブラを放つ。


一撃


二撃


間を作って三、四、五蓮! これか!!


「ふっ・・・まさかこの短時間で盗まれるとは、本当に腕は落ちていないようだ」


「はぁ・・・はぁ・・・きっつぃわ・・・」


旅人を自称した彼女は距離を取り、称賛するように軽く拍手をする。


褒めて貰って光栄だが、この技消耗が激しすぎる。衝撃のコントロールもそうだが、肉体面での負担もデカい。この技何度も使える技じゃねぇぞ。


「その技の真名は『月光真流極大奥義『星裁波状フォルトレナ』だ覚えておけ、『愛弟子』」


「・・・あいよ、『師匠』」


もう確信したさ。この教え方。忘れるわけがない。何度も何度も泣かされて、何度も何度も教えて貰った戦い方。


全てが線で繋げさせて、自分で試させる稽古。


戦場を知るからこそ殺す気で、怪我をさせるつもりで武器を振るう俺の先生。


編み笠と顔を覆っていた布が地面に落ちる。整った顔。緋色に輝く瞳。長い耳。美しい朱色の髪が表に現れる。


「うっそだろ・・・」


誰かの声が漏れる。剣聖物語で彼女を知らない人はいない。彼女の助けを受けた事がない人もいない。それだけ有名人。それだけの実力者。


そして、この世界ゲーム剣聖物語ぜんせから繋がっていると事の証明となる存在。


様々あるけれど、今そう言うのは全部いらない。


「では本命を見せようか」


「っ」


空気が変わる。文字通り本命が来る。


周囲の声も物音も、全てが消えたような感覚。鳴り響く心の悲鳴。受けるなと声を上げている。


旅人を名乗る彼女・・・マリアーデはゆっくりと太刀を鞘に納め、構えた。


「月光真流極大奥義『天來真翔ニクスアラウダ』!!」


それは。本当に奇跡だった。


考えるよりも先に身体が動いた。


気が付けば、俺は結界の壁に激突していた。フルタカを目の前に構えていなければ、死んでいた。


そう思う。


「がぁっっ・・・!!?」


何も分からなかった。それだけは解かる。


身体も動かない。


思考は、いつも通り動く。けど、視界がおぼつかない。衝撃を過剰に受けて身体が混乱している。感覚的にはカプリゴイルとヴェルゴラを両方暴発させたときに似てる。


距離は離れていた。太刀の攻撃範囲に入ってはいなかった。はずだ。最後に見えたのは太刀を抜いた姿。その場から動いてはいない。


考えろ。つまり、何をしたかを。


あの距離を一瞬で詰められる行動、月光真流で詰める事が出来るのはピスケスと月風。


けど、この二つを使った痕跡、動きは見えなかった。


どちらかと言えば十六夜。抜刀術に似ている。


でも・・・いや、そうか。


斬撃を飛ばせばいい。


衝撃を乗せて、斬撃を飛ばせば、あの距離でも関係ない。可能かどうか。


目の前での出来事が真実だ。出来る。斬撃は飛ばせる。どうやって。


それはこれから考えていくしかない。


「余の勝利だな。愛弟子よ」


首に刃が当てられる。あぁ、そうだよ。まだ視界はぼやけてるけど、満面の笑みを浮かべてるのだけはわかるよ。


「おれの、まけだよ」


「うむ! しかし愛弟子の剣が鈍っていなくて余は嬉しいぞ!!」


動けない俺を抱き上げて、師匠は歩きだす。


「アール!!」


「「「「父さん!!」」」」


「安心するがよい。殺していない。まぁ余が殺す訳が無いのだがな!!」


「それより、かいふくまほうかけて」


満身創痍なんだよ。思考は回るけど、それ以外は無理。










ーーーー










「「「「・・・」」」」


「余こそ愛弟子の師! マリアーデである!」


回復魔法をかけて貰いはしたが、マイに絶対安静を言い渡されたのでベンチで休憩中。アキハ達は明らかに『この人嫌い』みたいな視線で俺の師匠、マリアーデを見ている。


「む? なぜそのような目で見るのだ!? 余、何かお主たちに嫌われるようなことしたのか!!?」


「いや多分、俺をボコボコにしたからじゃないですかね?」


「何っ!!? ボコボコにはしてないぞ!? ただ少し稽古をしただけではないか!!?」


「世間的にはボコボコにしたって言うんじゃないですかねぇ」


「「「「・・・」」」」


「ち・・・違うのだ! 愛弟子がいると話を聞いて居てもたってもいられなくなったのだ!! 顔を合わせてしまえばもう見間違えようも無かったのだ!!」


あわあわしながら身振り手振り誤解を解こうとしているマリアーデなのだが、アキハ達の視線は変わる気配がない。


「ま・・・愛弟子よ! お主の子供たちちょっと怖いぞっ!!?」


「ほーらお前たち。こっちおいで」


「「「「・・・」」」」


無言のまま近寄ってきてくれて、そのままマリアーデの壁になるように整列した。


完全に敵視してますね。どうしよう?


「オラ散った散った!! 関係者以外立ち入り禁止!!」


マイに助けを求めようにも、マリアーデだと知って声を掛けようとするプレイヤード多数だったため、マイが対応してくれている。具体的には結界を張ってくれている。おかげでこうしてマリアーデと話が出来ている。


「・・・父さんをいじめる奴は嫌いだ」


「「「・・・」」」


「虐めてなどいない!! あれは稽古! 手合わせなのだ!! お主たちも愛弟子から剣を習っているのだろう!? それと同じだ!! ただちょっとやり過ぎたかも知れぬが」


「「「「・・・」」」」


「愛弟子ぃ!! 余はこのような幼子の視線には弱いのだ!! 助けてくれ!!」


助けてほしいのは俺の方なんですが。マジで戦ったから全身痛い。回復魔法とはいえ、有能ではないとわかる程度には痛い。


「この人、悪い人違う。おーけー?」


「「「「やだ」」」」


「駄目だわ師匠。アキハ達完全にへそ曲げてる」


「むぅぅぅうう!!?」


こうなると俺でも大変だ。寝て起きるまではずっとこのままだろう。寝て起きたら少しはましになってるかもしれないけど。まだ昼過ぎだし寝るには早すぎる。


「一応紹介しとくな? この人が俺の剣の師匠。マリアーデだ」


「「「「・・・」」」」


「無視は泣くぞ!? 余は泣くぞ!!? 良いのか!!?」


「「「「・・・」」」」


「愛弟子ぃぃ・・・!!」


どうしようも出来ないよ。


「師匠」


「ううう・・・なんだ愛弟子」


「『星裁波状フォルトレナ』確かに受け取った。ありがとう」


こうなったら話を強引に切り替えてしまおう。立ちふさがるアキハ達をそれぞれベンチに座らせて、マリアーデと顔を合わせる。


奥義を三つ混成接続するのは骨が折れたが、俺の中に新しい可能性を教えてくれたのも事実。


「・・・うむ!! 余としては『天來真翔ニクスアラウダ』も覚えてほしかったのだがな」


「カプリコイルとヴェルゴラの暴発に似てたのはわかったんだけど、外は何したかすらわからん」


「ふっふっふ、それを見つけ出すのも修業である! 精進するのだぞ愛弟子!」


相変わらず、最初は自分で気付けって事ね。


マリアーデは1から100は教えてくれるけど、まず0は自分で覚えろっていう指導をする。不格好でもなんでも、1が成功したら、残りは全部教えてくれる。


まあ、その1にするのが滅茶苦茶大変なんだけどな。


「・・・ブラキアスに似ていた気がする」


「むっ?」


アキハが口を開く。


「父さんを吹き飛ばした時、構えと抜刀の見た目がブラキアスに似ていた」


「おぉ! まさか見破られるとは! その通りだ娘っ子! 構えばブラキアスの応用である!」


「・・・一瞬波が見えた方エアリードとかあるんじゃない」


「にゃーるさんの動きよりも早かったですね・・・えへへ、実はヴェルゴラ? も使ってたり?」


第三者視点からだとわかることも多いのか。そっか。『フォルトレナ』がヴェルゴラ起点で使ってたなら『ニクスアラウダ』もヴェルゴラ起点で考えれば繋がりそうだ。


ヴェルゴラの身体能力強化でなら、他の奥義も威力が上がる。


ブラキアスの構えなら抜刀術の可能性が高い。んでもってエアリードなら衝撃の波紋で距離も稼げる。


吹き飛ばされた時の感覚的に、一点集中だったと考えるなら・・・


「抜刀術、十六夜、エアリード、ヴェルゴラ、サジット。これか?」


「おぉ・・・おぉ!! 愛弟子もその娘も素晴らしいぞ!! 余は嬉しい!!」



どうやら当たりだ。マリアーデの顔が満面の笑みを浮かべてる。


「ならばあとは覚えるだけだな!! 愛弟子よ!! 明日から久方ぶりの稽古だ!! ちゃんと朝起きるのだぞ?」


「あー・・・ごめん師匠。俺しばらくお祭りの催しで動けん」


「はっ!!? そうであった。愛弟子も祭りの参加者なのだものな」


急にがっかりするじゃん。表情があちこち跳んでみてる分には面白いけど。


「むむ・・・では祭りが終わったらまた会いに来よう! その時は修業をするからな!」


「アハハ・・・お手柔らかに」


「うむ!! では人も増えてきたから余は帰る! ではな!!『星波ピスケス』!!!」


そう言ってマリアーデは瞬間移動のようにピスケスで何処かに消えてしまった。


「・・・お父さん。あの人ホントにお父さんの師匠なの?」


ジト目で聞いてくるハルナに首を縦にして答えれば、嫌そうな顔で返事を返してくれた。


あれを稽古だ修業だと言われたら確かにそういう顔にもなるよな。分かるよ。うん。


解かるよ。俺も最初そうだったもん。

師匠マリアーデ登場。サブシナリオ『剣聖の師』発生しました。クリア条件は謎です。


感想・星評価・レビューにブックマークなど、作者月光皇帝の私の大好物です。

是非是非たくさん下さい。お願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 天匠流がないから初月雀もなくて飛ぶ斬撃が奥義級になってるのか...! いいですね!
[良い点] 前半戦は何故か格ゲー、後半は同門の師弟対決。 [気になる点] マリアーデのポジションが比古○十郎系なら鉄板。やってることもまぁ似たりよったり。 っていうか前作人気キャラを他の師匠ポジにす…
[良い点] 前作とは違い、序盤の戦力が整ってない時期で師匠が登場したとなると、最後まで味方でいてくれるか怪しく感じてしまいますね。例えるならGガンの東方不敗みたいな。 [一言] アールさんの初の敗北が…
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