モンスター討伐戦
何人か質問来てたので対応しますね。
このリメイク作品は同一作品ではなく、設定を一部引き継いで完全に別世界線として書いています。そうなるとリメイクって言っていいのかわかりませんが、私の中ではリメイクです。
それともリテイクの方がいいのでしょうか?
意見あれば少し考えてみます。
昔から、人は空を飛ぶことを夢見て様々なことに取り組んできた。例えば飛行機、例えばVRでの飛行体験。例えば夢の中で空を飛ぶ夢を見る。何時になっても空への憧れは決して薄れることは無いだろう。
「イィヤッホー!!!!!!」
がっしりと捕まり、俺の背中に乗るマイは感動するように声を高らかに叫ぶ。とても無邪気に楽しそうに笑ってる。
「アール凄い! 凄いよアール!! 私たち空飛んでるぅ!!」
「正確に言うと空を駆けてるんだけどな?」
「こんなのもう飛んでるだよ!! ひゃっほーい!!」
月光真流の奥義が一、『星波ピスケス』。衝撃を体外へ押し出し爆発的な威力をもって敵を粉砕する奥義。だが、この奥義の真骨頂は別にあると考える。それは衝撃で空を蹴ることが出来るという事だ。分かり易い所で言えば空中ジャンプが出来る。衝撃の蓄積が必要ではあるが、十分な衝撃の蓄積さえあれば一時間位は駆け抜けることが出来る。移動距離はまぁ精々40Km前後だと思う。
自分で言うのもあれだが、結構自信あるんだぜ? 師匠直伝の奥義だ。攻守共に練度は高いし、応用もバッチリだ。
「今どの辺だ?」
「えっとね! 村まで半分くらい!! 早いよ!! うひゃぁ!!!」
マイってばハイテンションで凄く楽しそうだ。
「魔法で空飛べたりしないのか?」
「飛べないことないけど、こっちの方が凄く楽しい!! アール本当に凄いよ!!」
そう言われると悪い気はしない。寧ろちょっとだけ調子に乗りたくなってきた。
「ちょっとアクロバット決めちゃっていいか?」
「モチ!! 何してくれるn………みぎゃにゃぁぁぁ!!!!」
それなら要望に応えていくぜ! 体を捻り、若干上方向きに空を蹴り、回転を加える。錐揉み回転って奴だ。人体ジェットコースターってか?
「アハハハハ!! 楽しい!!」
「そりゃ何より! じゃあ目的地までぶっ飛ばしてくぜ!! 『星波ピスケス』!!!」
再加速!! 衝撃の貯蔵は十分だからな!
そうして飛ばしていく事数分。マイの言葉を受けて着地したのは丘の上。着地時の衝撃もきっちりと受けさせて貰ったので消耗分はほぼトントンだ。
「あ~楽しかった! 着地も凄く優しかったし三十分位で目的地に着いたね」
馬車で一時間の所を半分の三十分で駆け抜けたらしい。個人的にはここで満足せずもっと速度を出せるようになりたい所ではある。目指せ一桁。
丘の上から見渡す景色はTHE森林って感じの見渡す限り森。そんな中にひっそりと家屋が見えた。どうやらあそこが依頼人がいる村らしい。大体700mちょいか。
「ここからは歩くよ。空から人が来たら村の人警戒しちゃうかもだし」
「同感だ。けどここから飛び降りるまでは乗っててくれな?」
「凄い。話だけ聞くと完全に自殺行為なのに、アールと飛んで来たから全然そんな気しないや」
「安心と安定の月光空走です。なんてな?」
「なにそr………急に飛ぶのは心臓に悪いかなぁぁぁああ!!?」
ちょっとした悪戯心だ。許して。
――――
「こんにちは、ギルドで依頼を受けてきた者です」
「おぉ! あの依頼を受けてくれた方ですか!! 長らくお待ちしていました! 村長の家まで案内します!」
村の入り口で発見した第一村人に紋章を見せ事情を話すとあっさりと話が進んでくれた。村人さんの後に続き村を歩いていく。良くある小さな集落といった感じの村で、小さいながらも立派な畑が見える。その隣には貯蔵庫らしき高床式の家屋もある。
「小さな村でしてね。あんまりお金は無かったので正直最近は泣き寝入りを覚悟してた者も多くて」
「でしょうね。言ってしまうとデスペラードの討伐に対して報酬が少なすぎます。あれじゃ誰も受けてくれませんよ?」
バッサリと言い切るマイ。それを聞いて何とも苦い声で答える男性。
「あはは………皆わかってはいるんです。あんな凶暴なモンスター………デスペラードでしたか? そいつを討伐してもらうのにあれじゃ足りないことくらい。でもこの村で必死に集めたのがあの金額でして………」
どうやらこの村の人はデスペラードというモンスターの事すらあまり知らないらしい。凶暴なモンスターと言う位だしこの辺じゃ滅多に出現しない所か、出現することすら考えられたこと無かったんだろうな。
そうじゃなきゃギルドの対応ももう少し変わってくるはずだ。
「モンスターの事知らないのにデスペラードだって判断は出来たんですね」
「あぁ、あれは実は村長がギルドに出向いた時に話を聞いてくれたギルドの方が教えてくれたんです。多分デスペラードってモンスターだろうって」
「成程。ありがとうございます」
ってなるとだ。もしかしたらデスペラードではない可能性も少しある訳か。まぁ俺もデスペラードは初めての討伐対象だしそこは深く気にしなくてもいいな。
歩いていると村人数人がこちらを見て話しだす。それを聞いてまた一人、また一人増えて行った。皆こちらを見る表情はとても感動してるって言うのが正しいだろうか? ある人は信じられないものを見たかのような反応までしている。
「ここです。村長! ギルドから依頼を受けて来てくれた方々を連れてきました!」
「何っ!!? 本当か!!?」
他の家屋より少し大きな家屋から飛び出してきたのは初老の男性。この方が村長さんらしい。俺達を見ると目頭に涙を浮かべた。
「そうか………そうかぁ………!! お二人とも本当に来て下さりありがとうございます………!!!」
「ちょっと………まだ私たち来ただけですよ。そういうのはちゃんと討伐した後にしましょう?」
「ううう………すまないねぇ娘さん。でも儂は嬉しくてなぁ………!! やっとあの凶暴なモンスターの恐怖から解放されると思うと………儂らはもう………」
「村長ぅぅ………グスッ」
「あぁ泣かないでくれ村長さん。モンスターの住処と詳しい話を聞きたいんだがいいだろうか?」
「ぐずっ………勿論だ! 外では申し訳ない。お二人とも中に入ってくれ!」
「じゃあ遠慮なく………ねぇアール。ちょっと待遇良すぎて引くよ私」
「そういってやるな。それだけ困ってたんだろうよ」
村長さんに連れられて家の中にお邪魔する。中は想像通りの小さな村の村長宅って感じの内装だ。必要な物を揃えた感じの。
「そこに座ってくだされ。今お茶を用意しましょう」
「あぁお茶は構いません。討伐した後でゆっくり頂きたいので」
そのまま村長さんに言われるがまま乾草の座布団に座らせてもらう。好意を無下にしたくは無いので討伐後のご褒美って事にしておこう。そういうと村長さんは少し考えた後、ゆっくりと腰掛けた。
「まずは感謝を。依頼を受けて頂き本当にありがとうございます」
深々と頭を下げる村長さん。もしかしてだけど。
「依頼を受けて貰ったこと自体初めてなんですか?」
「えぇ、実はそうなのです。あのデスペラード? というモンスターがとても強いらしく町の方はおろか旅人の方にも受けて貰えずに途方に暮れていたんです」
「デスペラードはこの辺じゃ出ないモンスターだからね。しかも素材も特別良い訳じゃないから見向きされないのも仕方ないよ。でもルーキストじゃない町で依頼した方がまだ可能性はあったと思うけど?」
「マイ。結構ズバズバ行くのな?」
「悪いけどルーキストで依頼する内容じゃないもん。ちょっと遠いけど隣のファクリアで依頼した方がまだ人目にも着くし受注される可能性は高いよ」
「耳が痛いですなぁ。実は私らも最初はそうしたのですが………」
「依頼金が少なすぎて相手にされなかった?」
「あ………あはは………おっしゃる通りです。それで藁にも縋る思いでルーキストのギルドに出向きまして」
「確かにルーキストのギルドなら来るもの拒まずだから依頼を出す事だけは出来るよね」
そういう背景もあるのか。現実は非情だな。結局は金の話が出てくる訳で金が無ければ村を守るのにも一苦労って事か。
「しかし今日という日にお二方に来て頂けました。空の女神様に感謝せねばなりますまい」
「………そろそろ仕事の話をしましょう。感謝の言葉はそのあと改めて受ける事にするわ」
――――
村の門から北東に向かった先、小さな洞窟があり、そこをデスペラードは住処にしているらしい。村への被害は少なくないらしく。穀物を始めとする備蓄を奪われたり家屋の破壊や討伐しようと出向いた村の男達を返り討ちにしたらしい。
その時は村の備蓄で何とか治療し、死亡者は奇跡的に出なかったとの事。
受付さん被害ないって言ってたけど、村ではそこそこ被害があるじゃん。いやそれを届け出ない村にも原因はあるけども。
少しくらい職員を派遣して現状の確認くらいは………と思ったけど、全部の依頼に対してそういう対応していたら今度はギルドが悲鳴をあげちゃうか。残酷だけど、村の責任って諦めるのが落し所ではあるか。
「戦い方はアールが前衛、私は最初は様子見でいいんだよね?」
「それで頼むよ。強敵相手にどれだけ正気のままやれるかも確かめておきたい」
そんなデスペラート討伐に村から向かう俺たち二人。適正人数ではないが、マイのレベルが適正以上であることを考えれば倒せない相手ではないだろう。勿論俺も負けるつもりは無い。
「チャンピオン倒せてたし不安がる要素全くないけどなぁ」
「実戦での魔法の通りを確認したいんだよ。だから多少の切り傷は負うつもりで戦うから」
訓練場では満点花丸を貰ったが、やはり実戦での確認はしたい。町周辺のモンスターでは役者不足である以上、強敵との戦闘で確かめたい。
「そこまで言うなら止めはしないけど、危ないと思ったら私横やり入れるからね? 一応アールはこの世界初心者だし」
「初神者? 俺が?」
「字が違う気がする」
そんな緩いやり取りをしながら歩き続ける事数分。洞窟へ向かう俺たちの周囲には幾つかの気配があった。その中の幾つかが近づいてくる。
「マイ。一応警戒態勢」
「ん………ウルフ三匹だよ。雑魚だね」
確かホーンウルフの進化前個体だったな。良くある狼型のモンスター。その最たる例。どんな時代でも狼って言うのはモンスターとして扱いやすい。
「ちょっと威嚇してみるか」
近付いてくる気配へ向けて軽く刀を振るう。もちろん鞘から抜くことはしない。あくまでも威嚇だからな。
「っ………」
視線を向けてみれば連中の動きが止まった。馬鹿ではないらしい。実力差を理解したのかウルフ三匹はそれ以上近付くことなく、ずるずると引き下がっていく。
「アールの圧がすごい」
「そりゃな。そう感じるように圧を出してたし」
これでなんの脅威にも感じなかったら何のために威圧したのか分からんだろうさ。その後も同じようなやり取りを数回行ったが、どのモンスター達も素直に引き下がり、戦闘に入ることは無かった。
言ってしまえばこの程度だが、逆を言えばこの程度のモンスターしかいない場所に高レベル帯のモンスターが出現したって言うのは住民からしたら脅威以外の何物でも無いだろう。
ギルドに一回直談判した方がいいんじゃなかろうか?
いくら現状大きな被害がないとはいえ、放置していいような相手でもないようだし。
っと、そんなこと考えてたら向こうからやってきてくれたみたいだ。流石に森の異変には敏感らしい。
「マイ。今までのとは違う奴が近付いて来てる。多分デスペラードって奴だ」
「今更だけどアールの気配察知能力高すぎない? 私のマップにも表示出たけどそれより早く察するの常人じゃ無理だと思うの」
こちとら常人ではないからな。この世界限定とはいえ人類卒業試験を合格してる武芸者だ。気配の有無と大きさ位は朝飯前だ。
木々を揺らす音を鳴らしながら近付いてくる存在。やがてその姿が視界に入った。デスペラードと言うモンスターを見た第一印象は大きなゴリラ。言ってしまえばこの一言に尽きる。胸元から生えた二本の腕さえ無ければな。大きな両腕で地面を突きながらこちらへとやってくるデスペラード。
『ウッホオオオオオオ!!!!』
直後、こちらへ向かって敵意を剥き出しにして駆けだしてきたデスペラード。話す余地無しってか。可能なら会話とかして穏便に済ませたかったんだが、奴さんがその気なら仕方ない。が、まだ様子見だ。脅威を感じて咄嗟に敵意を出しただけの可能性もある訳だからな。
鞘から刀を抜き、右手に刀、左手には鞘を構え迎え撃つ。
「私下がるよ?」
「おう。とりあえず俺の強さを見定めてくれや」
接敵。一手目はデスペラードからだった。突撃からその勢いを生かしたままのラリアット。直撃すれば俺の身体程度は簡単に圧し折られそうな一撃だ。けど遅過ぎるし、質量が全然足りん。
「『月波』」
月光真流の技『月波』。あらゆる攻撃を受け止め衝撃を自身の体内に流す基礎の中の基礎。そして極めれば推定自分より十倍程度の大きさ相手のあらゆる打撃攻撃を防御する事が可能だ。振り切られる一撃を鞘で受け止め軽く飛ぶ。勢いを飲み込みふわりと後方へと着地し、感覚を確かめる。問題無さそうだ。
対するデスペラードは何が起きたか理解できず、硬直している。あの一撃なら確かに防御しようがこの程度で収まるものでは無いだろう。俺のような軽装備の人間なら猶更だ。
「ようデスペラード。俺の言葉が理解できるか?」
類人猿はおおよそ頭脳が発達している為人間の事をある程度理解できるとされている。今回俺がやろうとしてることはなぜ此奴がここを拠点にしているか、どこから来たか? その目的を聞きたかった。モンスター相手になどと言われるかもしれないが、人間の勝手な判断・常識で自然を決めつけるのは自らの選択肢を狭めることに他ならない。何事も常識を破り、タブーを犯してみるのは人が出来る好奇心が出来る行動だ。
「俺はお前の討伐を依頼されて来た訳だが、事情によってはその考えは捨てる気もある。何を話してるか理解できるならとりあえず拳を納めt『ウゥオオオオウウ!!!』………駄目そうだな」
振り降ろされる拳を受け流し、払い落し、捌いていく。どうやら本能で生きるタイプのモンスターらしい。理性は無さそうだ。じゃぁ会話は通じないか。
「なら今からお前は俺の現状確認の道具だ。終わったら一瞬で終わらせてやるから構わず打ってこい」
『ウホォォォォオオオオ!!!』
「それは却下」
胸の内側の腕で捕まえようとしてきたので姿勢を下げてこれを回避、そのまま背後に回りつつ左手に持つ鞘で軽く頭を一突き。挑発だ。今お前を殺せたぞってな。
振り向きながら振るわれる腕のフルスイングを再び鞘で受けて衝撃を吸収し後ろに飛び距離を取る。少しでも考える頭があれば今のは攻撃ではなく掴みを選択すべきだっただろう。その方が有利に事を運べたかもしれない。
『ヴォオオオオ!!!』
頭に来たのか顔を歪ませ突撃してくるデスペラード。腕を何度も振りかぶり拳の連打を叩き込んでくるが全て対応。鞘で打ち鳴らし流す。刀で受けつつ衝撃を流して空振り。時折狙ってくる掴みにはバックステップと姿勢の高低差で回避し背後へと回る。一応此奴がどの程度学習能力があるかも見たいのであえて同じように回避行動を取り続ける。
その度に後頭部、腕の裏、背中、脛、踵へと軽く突く行為を何度も行い相手の冷静さを奪っていく。
下手に追い詰めてしまうより、冷静さを奪った方が戦いは優位に運びやすい。冷静ではないって事は、ここ一番で大事な判断をし損なうって事だ。つまり死ぬ。
どんなに昂ろうとも、窮地であろうとも心だけは冷静に。生き残るためには、勝つためにはこれが何よりも大切だ。覚えとけ。
『ヴヴヴヴヴ…………ヴォォォォオォォォオ!!』
「へぇ、こっち来るんだ」
どうやらデスペラード、ターゲットを俺から待機しているマイへと切り替えたらしく踵を返してマイへと向かっていく。
「『星波ピスケス』」
空を蹴り、マイとデスペラードの間へと躍り出る。
「お前の相手は俺だ。余所見すんな………いいや、ここからは余所見出来ないほど魅せてやるよ!!」
そっちがそのつもりなら俺だってやることがある。呼吸を整え大きく息を吸う。心に鳴らすのは一定のテンポで聞こえる鐘の音。
「LAaaaLaLaa!」
吹き飛ばそうとしてきたデスペラードの一撃を左で受け止め体に流し、勢いに乗るように体を浮かせてその右腹部へと蹴りを叩き込む。骨の軋む音が聞こえ、その巨体が吹き飛ぶ。
「LAaaaaLAaaa」
心に響く鐘の音に合わせて唄う。体を揺らしながらリズムを取るように、一挙動一挙動全てを魅せるように。決して目を離せない相手である。現象であると魅せ付けるように舞う。
「嘘『桜花戦舞』!?」
「Laaa」
『桜花戦舞』。それは『剣聖物語』で習得できる戦技の一つ。流派と言っても差し支えないこの武術。より多くの敵から味方を守る為に。より多くの敵を確実に倒すために編み出された戦う演舞。奏でるは歌であり詩でもあり唄でもある。舞い踊る演舞に決まりは無く、一定の音頭とテンポ、状況に応じて様々な音色を奏でながら戦いを支配する武術だ。
マイと決めたのは奥義の使用の制限。技の使用に対しては一切の規制は決めていない。
腹部を抑えながら立ち上がるデスペラード。口からは吐血しながらも未だ戦意は削がれていない。いいや、格下相手にここまでやられて引き下がれないと言ったところか?
なら吟じよう。ここに開演しよう。『桜花戦舞』の開幕だ。最後の瞬間までその目を俺から離させないから覚悟しろ。
――――
アールの戦いは既に独壇場だった。最初の内こそデスペラードとアールの攻防はアールが全部防衛だったけど、今ではどうだ。私の視界で行われているのは完全に手玉に取られているデスペラードの姿だった。振り下ろす拳は空を打って、その度にアールの攻撃が四肢に叩き込まれていく。全て打撃攻撃で刀の刃側での攻撃は一切無い。
『ヴォヴォヴォヴォヴォヴォオオオオオオ!!!!』
「LAAAALALA」
まるで何かの音楽に合わせて繰り広げられる目の前の攻防に、私自身も目が離せなくなっていた。デスペラードの動きは一見規則性は無いけれど、明らかにアールに先導されている。
『ここを打ってこい』と言わんばかりの隙を見せながら、狙える場所を見せつけるように謡いながらアールは体を揺らす。
先導された場所に攻撃を繰り出せばアールに受け止められてその反動すら使用しながらデスペラードの四肢に打撃を打ち込んでいく。
アールから逃れられなくなるって言うのが一番この状況を言い表せる。
『桜花戦舞』っていう流派はそういう事をする武術だ。集団個人を問わずに戦う相手を引き付けて時間を稼ぐ。相手に逃げることが出来ない。
目を離せば殺されるという意識を植え付けて自分以外を見させない。強制的に消耗戦に持ち込んだ上で、極限まで磨き上げた体力で武術者は相手が果てるまで舞い踊り続ける。故に無敵とまで言われたトンデモ武術だ。
ゲームシステム的なことを言えば強制的にターゲット固定をさせられた挙句、逃げることを封じられた状態。今のデスペラードは正にそれだ。
ステータスにも『状態異常:魅了』のデバフが付与されている。この状態。私が何をしようが、何を仕掛けようがデスペラードはアールから目を逸らせない。逸らせば死ぬ。本能がそんな警鐘をかき鳴らしているからだ。実際私も『クリエイション』モードで『桜花戦舞』を使う武芸者と模擬戦をしたことがあるけど、あれは無理だ。完全にまな板の上の鯉、釈迦の手の平の上。こちらの行動を制限されたかのような感覚と迫られた選択肢しか選ばせてくれない状況。全く勝てる気がしなかったし勝てなかった。
それでもって習得の為に必要な技能は戦う為のものではなく魅せるための立ち振る舞いとどんな状況でも冷静に舞う集中力。状況に応じた舞と歌を選び奏でる判断力だ。これらを習得した上でようやく戦う為の技能を覚えていくんだ。
ハッキリ言ってしまうとこれはNPC専用の武術だと誰もが信じた。こんなもの誰が使えるようになると言葉を吐き、諦め、他の武術の道を選び、最後にはその選んだ道すら潰えた。
それが『クリエイション』モードの実態であり現実だったから。誰もが『仕方ない・しょうがない』と諦めたその世界線でアールは生き続けた。戦い続けたんだって改めて理解した。
チャンピオン討伐やネームドモンスター討伐なら正直、圧倒的なプレイヤースキルがあれば倒せない相手ではない。けれど目の前で繰り広げられている光景は例えどんなプレイヤースキルが有ろうとも再現できないと断言できる。
これは武術者が持つ技能だ。ただのプレイヤー、一般人では決してたどり着けない領域にアールはいるんだって理解させられる。
デスペラードを選んだ時、反対しなかったのは私がいれば何があっても対応してクリアは出来ると考えていたから。けど、それは間違いだったと気付いた。
アールだけでも十分にこの戦いは勝てる。下手なことをすればむしろ邪魔になる。そんな気持ちすら浮かんでくるほど、圧倒的で、とても綺麗な光景だった。
――――
大体分かった。
この世界で俺がどれだけ動けるか、実戦でどの程度の事が出来るのかもだ。
「LaLaLa」
謡いながら唱えた魔法もしっかりと機能している。腕に僅かに負った切り傷が修復されていく。体から抜けるMPの感覚も戦闘に影響を与えるものではない。それからMPは時間経過か攻撃判定で少しずつ回復するのも分かった。既に数値を100とした場合でも200は超える消費MP分の魔法は使ったはずだ。この戦いで得たものは大きい。そろそろ終わりにしようか。
放たれたストレートを受けて後ろに飛び着地。距離は5mって所か。
「………ふぅー」
一息つき刃を鞘に納める。ここからは一瞬で片を付ける。カチリと収まる金属音に、呼吸を荒げていたデスペラードも息を詰まらせ動きを止めた。
「確か心臓は三つだったな。安心しろ。その心臓は綺麗なままで終わらせてやる」
位置は戦いの中で大体わかった。上腕二頭筋の位置にそれぞれ一つずつ、首の下、肺に当たる場所にもう一つ。つまり。肩と首なら切り落としても問題無いって事だ。
『ヴォ…………ヴォヴォヴォオオオオオ!!!!』
恐れながらも向かってくるその蛮勇。逃げ出さなかったことに対しては敬意を示そう。故に痛みは無く一瞬で終わらせる。
「居合抜刀『月光閃』三閃」
身体に流れる衝撃を解放し、刃に込めて抜刀。
一振り目、右肩から腕を切り落とす。
二振り目、左肩を胸部を削ぎつつ切り落とす。
三振り目、首の付け根と骨の境を沿うように刃を走らせて刈り殺る。
突撃してきた衝撃すら殺し、その場で止まるように体からずれ落ちる両肩と頭部。予想通りの場所に心臓があるらしく切断面からは血が噴水のように吹き出た。その場から崩れ落ちるように倒れるデスペラードの死体。これで無事に討伐完了だな。
「汝の魂が空の楽園で安らぐ事を願う」
自然の摂理として命を殺したんだ。祈りの一つくらいは捧げても良いだろう。
「………アール」
待機していたマイが近付いてきた。その表情はなんというか、見覚えのある顔つきだった。実力差を叩きつけられて打ちひしがれた敗北者のようなその顔を。俺は知っている。
マイもそれに気付いたのか、慌てて表情を変えて笑う。
「あ………あはは、なんかごめんね辛気臭くて! でも大勝利! おめでとう!」
「マイ。無理しなくていい。何を考えてるのかはなんとなく分かるから」
「………ごめん。ちょっと現実は非情だって叩きつけられてる」
ポスンと俺の胸に涼むようにマイは顔を埋めた。
「アフターでも似たようなことあったんだ………」
「まぁ、な」
あっちでは一流を名乗る武芸者、力を求める挑戦者が後を絶たずに俺に挑んできた。俺はそういう時手加減したくないから全力で戦う訳だが、その度に、実力差を思い知って心折れていく人が多数いた。自覚はある。そうさせないために手加減することを覚えようかと考えた時もあった。けど師匠が言ってくれたんだ。
「命は常に前に進むもの。どんな困難が待つ道でも、決して歩みを止めてはいけない。歩き続けた者にだけ、未来に続く道が見える」
「………前に進むもの」
「俺の師匠の言葉だ。壁にぶち当たっても、そこで止まってはいけない。外周を回ることになっても、歩き続ける事が出来るのが命ある者の特権なんだって。壁を避けて歩いたって良い。どんな道を選んだって良いんだ。その道の極致に至れないなら、別の、新しい道を見つけたって良い。壁を超えるために登ったって良い。壊しても良い。だからその場で止まる事だけはしちゃいけない。自分の限界を自分で決めて、歩くことをやめてはいけない。師匠がいつも言っていた言葉だ」
「………すごい人だったんだねその人。メンタルお化けじゃん」
間違いない。師匠は俺が知る中で間違いなく最強のメンタルを持つ人だ。何があっても自分で決めた道は曲げないし、超えるために必要ならばどんな悪路だって進んでいく人だった。
「マイが何に対して打ちひしがれているかはわからないけど、俺で出来る事なら何でも協力する。隣で手をつないで歩いたって良い。だからさ?」
「うん。もう平気だよ。切り替えた。アールの隣に立つ為に私ももっと頑張る。今はまだ後ろから追いかけることしか出来てないけど、いつか必ず隣に立って一緒に戦うんだから!」
こうして、マイの新しい目標が決まりながら、デスペラード討伐は成ったのだった。
感想・評価いただけるとモチベーション上がるので、良かったらください。是非ください。承認欲求モンスターが暴れているんですお願いします(懇願)
よろしくお願いします。