月女神祭り編:VS仁義組
覚醒者雷華所属のクラン仁義組との戦闘回。
ギアスとウマ娘の映画最高だった。
「あわわわわ・・・これってもしかしてピンチなんじゃないですか?」
フユちゃんが徐々に押し込まれているアールを見ておどおどし始める。
状況はチーザーを抑え込んでいた雷華がアール戦線に加わって一変した。ほぼ最初から覚醒者としての能力を使って最高速度で攻撃を放つ。
雷華の獲物は十文字槍。それもそこそこ穂先が長いもので下手な防御では武器を払い落とされる。
あの速さは厄介なのよね。元から速度重視の軽装備高速アタッカー。ただですら早くて面倒なのに、覚醒者としての能力まで使われたら”普通は追えない”。
大体一方的にやられて終わり。なんだけど。実際は見てのとおりね。
「クゥゥッ!!?」
「『風花雪月』」
攻めているはずの雷華が苦しそうな声を漏らし、アールはいつも通り攻撃を捌いている。さっきチーザーがかけたバフは思考加速と俊敏性強化。あとアールが生み出した聴力強化の三つ。
たったそれだけで、最速の雷華相手の攻撃を捌き切っている。
言葉にすれば簡単だけど、実際同じことをやれと言われたら、まず現状の三倍はバフを掛けて、万が一に備えて防御力も上げてと、やることは多い。
「・・・頑張れ」
「が・・・頑張れ父さん!」
「負けんなぁ!!」
それがわかんないから、うちの子たちはこんなに無邪気に応援出来るんだろうねぇ。
野次馬見てみなよ。あっけにとられてぽかーんとしてるよ。( ゜д゜)みたいな阿保面してる人もいるよ。
「アヒャヒャヒャ!!!! オイオイ最速女ァ!! 対処されてんゾォ!! テメェの本気はその程度かぁ!!?」
「言ってくれますわね!! 紫!!」
あ、アールから視線が外れた。流石に油断しすぎだよ雷華。その一瞬の隙を逃すアールだと思う?
「『月光拳』」
「アグァッ!!?」
喉に拳を叩きこんだ。斬った方が間違いなかったけど、鞘に納めたまま戦ってたから強く握って拳を叩き込む事にしたんだんね。
「「「「いけぇええ!!!」」」」
「『月華美刃』」
「防いで見せます!!『汲波流槍術 津波風』!!」
そう言えば雷華は汲波流と言う武術を使うんだった。ゲーム内に登場するスキルではなくてリアルから輸入してきた本当の武術。
ちょっと調べたけど戦国時代に槍術を使う武士は良く学んだ武術だったらしい。
「なっ!!?」
けど、流石に大剣と片手剣の二刀流は予想外だったね。大振りの一撃が雷華の十文字槍を弾き飛ばし、片手剣が片腕を奪い取る。
ぐるりと回ったアールはそのまま真っ向斬りで二振りの剣を振り下ろす。
「この時を待っていたぞアール!!!」
大振りの攻撃は隙が生まれやすい。そして、蒼牙と言うプレイヤーはそういう相手の隙を絶対に見逃さない。態勢を崩した雷華の背後から飛び出るように、蒼牙がアールに生まれた隙目がけて剣を突き立てるべく構えた。
「『星波ピスケス』」
けど、想定内とでもいう様にアールは剣を振り下ろしながら空へ飛ぶ。剣筋が動いたこともあって、雷華への直撃は無くなった。
けど、アールは空中に着地し、全員の定位置を視覚で知ると言う優位を得た。
「『星波ピスケス』。一つ!」
「ひっ!!?」
まずは一人。僅かに孤立していたラビットを二振りの剣が三枚おろしの如く切り裂く。このゲームにはHPが設定されていると同時に部位欠損も丁寧に反映される。腕をバッサリ切られれば、回復しない限り腕を失い、頭を失えば、即死と言う感じに。
じゃぁ真っ二つに斬られたらどうなるか。即死だね。一部例外があるとすれば課金アイテム『身代り人形』を所持している事。即死級の一撃を受けた際に、その攻撃を代わりに受けて消滅する消耗アイテム。お値段10個セット1000円。
んで、このラビット身代り人形を所持してたみたいで、懐から身代り人形が飛び出て消えてった。
「・・・『十六夜』」
大した動揺することなく、両手に持つ剣を手放し、アールはシマカゼに手を掛けて抜刀。首と心臓を輪切りにした。
そうして、今度は二つの身代り人形が飛び出して消し飛ぶ。
「オラ援護!! 『幻想十文字刀手』!!」
ルール上一度だけ使うチーザーの幻想魔法。それがアールの両手に篭手として表れた。そして次の瞬間。
「あと何回死ねばお前は死ぬのかな?」
「ひぃぃぃ!!?」
目を抉り、心臓を貫き、首を狩り、縦に切り裂く。次々と飛び出ては消滅を繰り返す身代り人形。あいつガチで勝ちに来てるじゃないの。これ予行練習なんだけど。
「無視するなぁぁ!!!」
蒼牙が何度目かの特攻。自分が作った魔法武術『星握剣』でアールの首を狙うべく剣を振るった。
「忘れてないさ。だからちょっと借りるぞ」
攻撃に合わせて身体をずらして回避、そのまま手刀で蒼牙の両手首を切り落とす。一瞬、何が起きたか理解できない顔をした蒼牙。そして次の瞬間。アールの一撃が炸裂した。
「『暁月』」
地面に突き刺さった片手剣を握りしめ蒼牙とラビット両名を纏めて撫で斬りにした。それだけでは終わらない。携えた短剣を両名の心臓へと叩きつけ、その勢いのまま地面に縫い付ける。
オーバーキルじゃないと思うけど、前衛なら食いしばり系のスキルは所持している。生きていれば常時発動スキルと魔法での回復で事実上の自己蘇生が出来る。アールはそれを潰しに行った。
「『月光閃』」
「あぐっ!!?」
昼行灯が放った矢があった。アールはそれを手に取った大剣で突き”返した”。鏃が節と呼ばれる羽と鏃のあいだの棒部分を破壊し、真っ直ぐに放った昼行灯へと突き刺さる。
ダメージは大きいけど、致命傷じゃない。けど大きくバランスは崩した。フォローするためにミラファとああああが動くけど、アールの方が早い。
「『星波ピスケス』」
「そう簡単にやらせはしなっ!!!?」
衝撃で飛び、アールが次の獲物に定めたのはまさかの雷華だった。これには虚を突かれた雷華が思わず動きを止めた。と言うか私も驚いてる。視線。態勢。どこを見てもアールの狙いは間違いなく昼行灯だったはず。けど実際は昼行灯を無視して雷華の隣へと跳んでいた。
「っっ!!!?」
「『月輪』」
雷華の首が飛ぶ。そして蒼牙たちにしたように短剣で心臓を貫く。徹底した行動に思わず笑みがこぼれる。対人戦闘慣れすぎじゃない?ってね。
時間にして僅か三十秒足らず。
チーザーが一瞬雷華の意識を持っていっただけだ。その一瞬で前衛二人と遊撃一人を確殺して見せたアール。特にラビットなんか身代り人形推定12個は消えてたから実質14人やってる。
「『星波ピスケ「降参!! 降参降参!!! ムリムリムリムリ!!!!」・・・そうか」
ああああの悲鳴のような投降宣言でフィールドが解除される。同時に試合中に負ったダメージが完治していく。首を飛ばされた雷華も、輪切りにされた蒼牙とラビットも怪我一つない完全な状態で復活した。
アールも構えを解いて散らばった武器を回収していく。前よりも確実に強くなってる。そう思わせる試合だった。
「・・・・・・・・・・」
覚醒者であり、速度に自信があったであろう雷華は呆然と立ち尽くしていた。そりゃ自分が自信を持っていた速度を上から叩き潰されたらそうもなるよね。しかも武芸者っぽいしそういう所でもプライドはあったと思うから余計にね。
「クソッ・・・クソォォォ!! また負けた!!」
悔しそうに叫ぶのは蒼牙。アールを超えるべき壁として見た彼は、勝てると自信を付けたからこそ挑んできたんだろうけど、壁はまだまだ高かったって事だね。
ーーーー
「おいテメェら。どうすんだ?」
武器の回収を終えて、チーザーの隣まで戻って来た時のチーザーの一言だ。
「えっと・・・どう・・・とは?」
「二戦目すんのかしねぇのかだよ。予行練習だ。こっちとしては数で熟しておきてぇ」
チーザーの言う通り、まだまだお互い甘い。主に連携に関してはまだまだ詰めるべきだろう。
もっとうまくやれるはずだし、コソ泥小僧のようにアイテムによる死亡回避手段があることも知識不足だった。限定条件下であっても、ちゃんと仕留める手段を見つけるべきだ。
一番は極大奥義の一つ『飛動一針グラフィアス 』で持続的に内部破壊をぶち込むか、その前提となる奥義『飛波エアリード 』で体内振動を衝撃の波紋で揺さぶり続け、機能不全に陥れる。あるいは『針撃スコルピア』で爆発四散させてしまうのが良いんだろうけど、使えなかったし。
とにかく、今回みたいな状況になった場合、恐怖を乗り越えて特攻かましてくる奴も出てくるはずだ。そういう奴相手にするとき、どう立ち回るかも実戦で確認しておきたい。
「無論やるぞ俺は!! 次こそかつ!!」
「・・・・・・」
「あー・・・すみません。雷華さん戦意喪失しちゃってるんでパスで」
ぺちぺちと雷華の頬を叩くああああが言う様に、雷華は完全に戦意を喪失した表情をしている。まぁこの中では一番強かったしそれだけの自信もあったんだろう。負けて戦意喪失も仕方ないか。
けど、それはダメだろうよ雷華さんよ。
「何っ!!? ならば俺一人でもやるぞ!!・・・む? アール?」
蒼牙の横を通り過ぎ、呆然と立ちつくす雷華の前に立つ。
「いい加減目を覚ませ」
「へぶっ!!?」
技も何も関係ないただの拳で思いっきりぶん殴る。
「「「「ちょっ!!?」」」」
「いったぁぁぁ・・・!!? 何するんですの!!?」
「それはこっちのセリフだ。たかが一回負けた程度で何戦意喪失してやがる」
「いやどう考えても私のセリフで「だまらっしゃいスカポンタン!!」・・・す、スカポンタン!!?」
慢心傲慢大いに結構!! 人間だものそう言う感情は状況次第で誰もが陥る心情だ。否定はしない。けどなぁ!!
「たとえどんな理由で負けたとしても、相手に無様晒していい理由にはならねぇだろうよ」
「・・・っっ!!!」
「俺もアンタも武芸者だ。なら試合で敗北した時は相手を称えろ。無様を晒すのは生死が掛かった本当の殺し合いでだけだ」
殺し合いに作法もルールも無い。最後に立っている奴が勝者だ。
けど、これはルールにのっとった試合。殺しが殺しではない決闘だ。
勝者は敗者を、敗者は勝者を。互いの健闘を認め合い、次につなげていく。そういうものだ。
「それともあれか? アンタは俺が勝手に武芸者だと思っていたただの一般人だったか?」
「・・・言ってくれますわね・・・しかしえぇ。事実ですわ。武芸者として情けない姿をさらした事。謝罪いたしますわ」
腰から頭を下げる雷華。まぁ、立ち上がって頭下げたから及第点だろう。
「速さは確かに武器だ。けど速さを生み出す始点がわかりやすすぎる。次の一手を晒してるのと同じだった。それに初動もにゃーるの居合切りに比べて遅い。0から100。最低でもそれが出来るようにならんとカウンターでやられるぞ」
チーザーからの強化前提ではあるが、今回は観察に集中していたから見つけたが、何度かカウンターチャンスはあった。
「それにお前ら! 俺と雷華が一騎打ちみたいなことしてる時もっと斬り込んで来い。試合中に立ち尽くすのは倒してくださいって言ってるようなものだぞ。あと蒼牙! お前叫びすぎ。自分の居場所を教えてるもんだから、隙をついた攻撃狙いなら黙って叩き込んで来い」
「あうぅぅうう・・・なんか飛び火したんだけどぉぉ?」
「シアちゃん・・・まぁ事実だから何も言えないし・・・」
「・・・一理あるか。だが・・・いいや、勝つためには己の心情すらコントロールしなければならんか」
「あの攻防に横やり入れるのまぁまぁムリゲーじゃね?」
「ですよねー・・・あぁ、僕の身代り人形・・・せっかく集めたのに」
「あとコソ泥小僧! 俺の武器返せ。短剣も少し持ってったろ」
「あ、はい・・・」
とりあえず早急に改善すべき点はここだろう。雷華戦闘中に立ち尽くすのは勿体なさすぎる。多少強引でも混ざって攻撃に参加すべきだ。仲間なら尚更そういう連携もするべきだし。
蒼牙に関してはもう言った通りだ。吠えるのは良いんだが、居場所を知らせてしまうのは勿体ない。あいつの速さなら隙をついて一撃叩き込めれば誰相手でも勝てるはずだ。
コソ泥小僧に武器を返してもらいながら他に指摘点が無いかを思い出す。
連携は悪くなかった。隙を作る行動も悪くない。雷華以外のコンビネーションはまだ先があるけれど、現状でもかなり良いものだ。あとはそこに雷華を組み込んで完璧にすればまだまだ伸びるな。
うん。やっぱり雷華が加わったコンビネーションが一番の課題だな。
「アナタ、無茶苦茶言いますわね」
「そうか?」
立ち直った雷華が少々呆れたように口にした。
「私達覚醒者とそれ以外では超えられない壁がありますの。そこに飛び込んで来いと言うのは酷ではありませんか?」
「・・・それは気に入らない考えだな」
「え?」
「覚醒者だから追いつけない? 超えられない? それは誰が決めた?」
「誰って・・・そもそもステータス数値の差が」
「数値でしか自分と相手を評価しないのか?」
「いいえ、そういう訳ではないですが・・・ゲームである以上、その壁は覆すことなど」
「出来ない。やれない。無理。俺はその言葉が嫌いだ」
「・・・」
「それを免罪符に自分の限界を決めて、成長することを諦めてはいないか?」
「っ!!?」
「限界を知ることは結構。立ちはだかる壁を越えられないと判断するのも結構。けれど、それらは自分が成長することを諦める事にはつながらない。無駄と誰もが言う事を、言葉だけで決めつけて、自分で試したか? 何故無理と呼ばれるか、体験したか? 話だけ聞いて出来ないと判断してないか? 成長の幅を、決めつけてはいないか?」
「「「「「・・・っ!!?」」」」」
「いいか! 例えどんな事情が有ろうとも! 己の成長を諦める理由にはならない! 何度倒れても、何度失敗しても、出来ないと全ての人に言われても! それでもと言い続けて成長を信じ、挑め! 手段を変えてでも、プライドを曲げてでも! 自分と言う人間を成長させる思いだけは消してはならん! 消した瞬間。人は己の限界だからと、無理だからと諦め、先に進む事すらやめてしまう。そんなの、人生としてつまらないだろ」
俺だって何度も失敗した。何度も死んだ。無理だと言われたことだってある。
けど、それでも、挑み続けたいという気持ちに嘘はつけなかった。その気持ちを裏切った時、俺はきっと、自分全てを否定してしまう気がしたから。
「偉そうなことを言ったが、限界を知ったなら、限界の中で出来る事を模索し続けろって事だよ。その挑戦がいつか、自分を一つ成長させてくれるからな」
「・・・・・・完敗ですわ。アナタの言う通りですわ。どうやら私、挑み続ける心と言うものを忘れていたようです。感謝しますわ」
「せっかくの異世界だ。自分だけがたどり着ける理想の自分を追い求める方が絶対に人生楽しいさ」
人生何時からでも挑戦が出来るんだ。今の状態で出来ない事でも、別の自分なら出来るようになるかもしれない。それを信じて挑み続けた方が絶対に、人生楽しいんだよ。
「では、ミスター剣聖。不肖私めの成長の為、もう一戦宜しくて?」
「無論だ。お互いまだ学ぶことは多い。互いの体力が持つ限り戦おうや」
それから、雷華たちとは数十戦ほど試合をした。勝ち越したが、チーザーとの連携を無理やり断ち切られたり、アドバイスをすぐに生かしてきた蒼牙に一本取られたりして数度の敗北はした。
ーーーー
あれ素でやってるんだよ?
偉そうな事って言ってるけど、事実だと思うんだよね。
現実だろうとゲームだろうと、直ぐに諦めたり、自分には無理とやる前から諦めたりする人って結構多い。
逆に、そう言わずに何度もトライして、別の方法を見つけた人は精神的にも強くなる。
精神が強くなると新しい事に挑戦したり、別の手段を探したりするとき強い。
アールなんてその典型みたいな人だ。剣聖物語に対する情熱と挑む心の強さは常人よりも凄まじかった。
別の娯楽だってたくさんあったのに、買ってからずっと剣聖物語に熱をつぎ込み続けてたのを私は隣でずっと見てきたからね。
その熱に当てられて、私まで色々頑張ろうって思えたんだから、アールの人を動かす力って言うのは強いと思う。
それをこの人が多い場所で言い切るんだから相当強い人だよ。だって言ってる事『覚醒者が何だ! 倒せる手段を見つけるまで挑め!!』って言ってるものだし。
事実アールはそれを有言実行してるから文句言える人いないし。
「っっっ!!!」
「スゴイスゴイスゴイ!!!」
「ハァァァァ・・・・・!!!!」
アキちゃんナツくんフユちゃんはもう五度目になるアールチーザー対『仁義組』の試合に目を輝かせてる。反応が薄いハルちゃんもアールの動きに夢中で呼吸を忘れてるみたいだ。
「・・・お父さん。すごいね」
不器用に雷華の全力についていこうと援護、あるいは連携を目指してミラファ達が攻撃に加わる。チーザーは本当に支援しかしないので攻撃には参加してない。
六人からの同時波状攻撃を受けて全部切り払っては受け止めてるアールはホント凄いと思う。
武器の使い分けもそうだけど、判断の速さ。迷いの無さは見てるこっちも参考にすべきことだし。
あと地味に凄いのは行動中のキャンセル。無理やり身体を動かして行動キャンセルし、即座に別行動をとるのはさ。ずるじゃんって言いたくもなるよね。
あ、ミラファとああああを同士討ちさせた。今の動き上手。
「これ俺様の支援いらなくね?」
「流石に思考加速は無いと返せん!! チーザーマジで支援頼むぞ!!?」
「弱点発見ですわね!! 思考加速の限界まで押し込んで押しつぶしますわよ!!」
「クハハハハハ!!! 今度は勝つぞアールゥゥゥゥウウウウウ!!!!!」
「スキアリ」
「ねぇよ!! コソ泥小僧テメェもだ!!」
「なんで僕の居場所毎回バレるんですかぁ!!?」
多分空気抵抗無しで空中移動しない限りアールの索敵範囲から逃れられないと思うのよね。
「お、やってるじゃん」
「四対一。相手は雷華。良くやるわ」
マー坊とレイレイがやって来た。手には露店で買ったと思われるたこ焼きと焼きそば持ってるし。
「今五戦目。アール側の全勝中よ」
「流石剣聖。訳してさす剣」
「ゴリラアンタそれ気に入ってるの?」
「ゴリラの思考なんてそんなもんよ」
「二人して酷くね? あ、雷華落ちた」
「『月華美刃』」
そのまま残る三人を膾斬りにして五戦目終了。流石に疲れたみたいだけど、アールもチーザーも当然、仁義組もやる気満々ね。
ーーーー
お祭り前日。正確にはあと数時間すれば向こうの時間でお祭り開始だ。んで、俺は何してるかと言うと、バイト中。
「今日はイベント初日だから早めにお店閉めるよ」
そう言ったマスターの言葉通り、15時には店を閉めて向こうでお祭りを楽しむ予定だ。調べてみるといろんな町で様々な出し物をするみたいだ。俺がファストトラベル出来るのは三つの町だけだけど、その三つだけでも全く内容が違う出し物や露店が並びそうだ。
「真央君イベント初めてだもんね」
「半年やっててそうなんですよね。なんで結構楽しみです」
チーザーとの催しも宣伝効果があったようで予約したいと申し出てきたプレイヤードまで居たくらいだ。
「楽しむと良いよ。僕らも僕らで色々楽しむからさ」
「ちなみに、具体的に何するんです?」
「君の最終戦績がどうなるかで賭けをしていてね。僕は八割で賭けてるよ」
やっぱりか。最近コソコソしてるなとは思ってたけどそんなことしてたのね。
「因みに真衣ちゃんは全勝に賭けてるよ。愛されてるねぇ」
「・・・ウッス」
正面からこう言われるの苦手なんだって。
ーーーー
「いやぁよかった! ギリギリセーフだぜあんちゃん!!」
お祭り開始の時間ギリギリ。ゴザイの兄さんから連絡があったので、マイにアキハ達を任せて、一足先にルーキストの町にやって来た。
「此奴があんちゃんの為に打ち直した太刀だ!!」
受け取ったの剣はおおよそ刃渡り100cmを超える長さ。この時点でもわかる。手に馴染むいい塩梅だ。鞘から抜いてみればまず目につくのは軽さ。想像よりもずっと軽い。
装飾は最低。ほとんど無く、本当に戦う為の刀って感じの装飾だ。
「あんちゃんは鞘も使って戦うからな、刀もそうだが鞘にもこだわって作った。堅く強い上に振動が伝わりやすい特別な鉱石を惜しげも無く使った。鞘だけで打撃武器としても使えるぜ」
確かめるように鞘を持つ。軽く地面をたたき衝撃の感覚を確かめると、想像以上に伝達してきた。これは、凄いな。月光真流の為にある鞘と言っても不思議じゃない。
シマカゼ改の倍以上の重さは覚悟していたのだが、そこまで重くない。振り回しも悪くない。
「どうだい? 悪くねぇ一本に仕上がったと思ってんだがよ」
「良い刀だ。此奴の銘は?」
「戦刀フルタカ! オーダーメイドの世界に一本しかない刀だ!」
戦刀フルタカ。うん。シマカゼと同様に戦艦の名を宿しているところもまた気に入った。
「戦刀フルタカ・・・うん。ゴザイの兄さん。感謝するよ」
「おうよ! あんちゃんの催しの試合楽しみにしてるからそいつで本物の剣術って奴を見せてくれや!」
「本物って、まぁ、期待に応えられるように頑張るよ」
「抜け駆けか、ゴザイ」
「ひでぇ言い方だな火力よ!」
ぬすっとやってくるな火力魂! と思った言葉を飲み込んで、どうしたのだろうかと思えば、火力魂も剣を差し出してきた。
「予行練習でお前がドロップ品を使っていたと聞いてな。クランの鍛冶師としては納得がいかん。受け取れ」
受け取ったのは両手剣と刀二本。それと短剣が数本。まさかこの時間無い中で全部作ったのかっ!!?
「両手剣『イラプション』刀はそれぞれ『炎帝』と『炎王』。短剣は『焔火』だ。全てに火属性と燃焼効果を付与してある。切り口から相手を燃やせる」
「流石だなぁ火力よぉ! 相変わらず炎に取りつかれてんぜ!!」
「ふっ、そういうお前も名刀に強いこだわりを感じるな」
鍛冶師同士、通じ合うものがあったのか、固い握手を交わす二人。
「「そういう訳だあんちゃん(アール)!! 全力で暴れてきな!!」」
「アハハ・・・まぁこれで無様は晒せないわな」
専属の鍛冶師が打った武器振って負けましたは情けないもんな。やったりましょうか。
ーーーー
始まった祭りは思ったよりも盛大で、町中の皆で盛り上げる祭りだった。あちこちで飲めや騒げや、踊れや踊れと凄い盛り上がりだった。
彼方此方で演奏会もとい、バンド発表会みたいなのが始まったと思えば、演劇まで公演してる。話には聞いて居たし想像もしてたけど、本当に祭りだ。
「オッシャァこれで五十連勝!! アヒャヒャヒャ!!!」
「次俺達!! 挑ませてもらいます!!」
「おうこいこい!! 頑張れマスター!!」
「そろそろ休ませて?」
絶賛五十連戦全勝の記録を打ち立てたが、流石に疲れてきたのでその場に座る。自分で言うのもなんだけど、皆怖いもの知らず過ぎない?
初心者からガチ勢っぽいの迄、老若男女問わずたくさん来た。すでにチーザーが用意した残念賞は完売したのだが、誰も文句言わずに帰っていく。
「わーったよ。この一戦終わったら一時間休憩させてやるから」
「マジで頼むな?」
体力には自信はあるが、人と話したりするのにも体力がいる。思考を回すのにも裂いてるから激減してる気がする。
でも、わざわざ俺たちの催しに参加しに来てくれたプレイヤードを楽しませないのも悪いので頑張るさ。けどマジで休ませてね? そろそろ思考停止でぶった切るしか出来なくなりそうだから。
メンタルお化けここにあり。素で剣聖ムーブかましていく。
感想・星評価・レビューにブックマークなど、作者月光皇帝の私の大好物です。
是非是非たくさん下さい。お願いします。