月女神祭り編:準備
月女神祭りと言うイベントは、人類領の各町で行われる。それぞれの町で個性があり、ファクリアなら、最近できた闘技場を上げて大闘技大会なる催しをするらしい。
マイが楽しそうに話していた。普段はPvEなのだが、その時だけはPvPも解禁するらしい。
あとはこの前少し訪れたヒーリアスだな。砂漠に面したあの町では、水に関わるものをいつもより多く取り扱うらしい。
また、魔法使い達は水の魔法でちょっとした曲芸なんかも見せるようだ。
んで、あと聞いたのは王都の話。何でも町中がお祭りムードになって露店も多く並び、パレードなんかもやるらしい。他にも劇場を使って演劇もするみたいだし、各地にある町とは比べ物にならないスケールで祭りをするらしい。
流石王都と呼ばれるだけはある。
んで、俺たちが住むルーキストの町で行う催しは基本的に露店だ。あと小さなステージを作って有志による演奏会をするらしい。こっちは本当に文化祭って感じの祭りになりそうだ。
「おはこんチャロちわー! Vの者『夢見こころ』ことネクロロンだよ! 皆元気ー? 今日は個人的にも最近ドはまりしてるプラネットクロニクルの生配信始めるよー!」
愉快な声で配信を始めたのはネクロロン。俗にいうvirtual配信者と言う職業で、コンシューマーゲームから、こうしたVRゲームまで、とにかく自分が興味を持った作品をとことん遊び尽くすスタイルで配信をしている。
「お祭りで使う素材集めにフィールドに出てまーす! 初心者にとってはそこそこお金も貰えるしイベント報酬も貰えるから割といいと思うんだよねこの依頼。斧とかも安く買えるから伐採も簡単! こういうゲームはコツコツと積み上げるのが大事だよ? おいこら、誰が飛び級したくせにだよ。この前の生放送はクランのお仕事だからいいんですー! 見てよ皆。今日はちゃんとおしゃれ装備じゃん私!」
なんかこの前のデスサイズ討伐戦での生放送でつけていた火力魂作のガチ装備じゃないからと何か言われているようだ。
「『舐めプ? ねぇ舐めプしてるの?』ってオイコラー! スパチャはありがとうだけど煽ってくるなー! 今日はそういう気分なの!! ドッセイ!!」
カコーン、カコーンと斧を振って彼女は木を伐採していく。ドッセイって掛け声は良いのかそれ?
「ん? はいはいそろそろゲストにも触れますねー。と言うか皆興奮しすぎじゃない? はい改めて今日のゲスト紹介! 最近話題絶頂だった我らがクランマスター『アール』さんでーす!!」
遂に話題が振られたのでありきたりだが返事をしよう。
「どうもこんにちわ。はじめましての方は初めまして。クラン『ブレイドエンセスター』のクランマスターを務めてるアールだ。よろしく」
「いやぁ正直断られるかなって思ってたんだけど、マスターってば案外簡単に了承してくれたから助かるよ!」
「この前俺の頼み聞いてもらったし、そのお礼だよ」
「うちのクランマスターは義理堅くていい人だよ。お、スパチャありがとー『マスターって呼んでるんだね』。うん。最初は名前で呼ぼうと思ってたんだけど友達・・・というかクランの皆がマスターマスター呼ぶから私もマスター呼びになっちゃったよね」
ネクロロンはゲーム配信者。んで今日はルーキストのギルドが貼り出している祭りの為の資材集めの依頼を受けてルーキスト近郊の森にいる。
「今更だけど俺、面白い話題とか提供出来ないからな? そこは諦めてほしい」
「今の絵だけでコメントめっちゃ書き込まれてるから平気だよ~」
「そうか?」
因みに今してるのは木材の採取。とはいっても落ちてる枝葉と拾うんじゃなくて、木を伐採して、枝葉を落してアイテムポーチに突っ込んでいるだけだ。
刀で。
丁度シマカゼ改の性能チェックをしていきたかったのもあるし。
「にゃーるちゃんの居合切りも訳わかんない領域だけどマスターもなんでそんなにゆっくり斬って樹木斬れるのか訳わかんないってコメントが溢れてるね。ハイマスター。どうして切れるんですか?」
「刀って押し込んで切るんじゃなくて引いて斬るのが一般的だろ? それと同じことをゆっくりしてるだけだよ。慣れたら出来るようになるさ」
「そっかー・・・皆聞いたね? うちのマスターの規格外な返答だよ。鋸じゃないんだから」
「あとは、シマカゼ改の切れ味が良いからだな。ルーキストで商売してるゴザイの兄さんに気に入られたら売ってもらえるかもな」
「ん。コメント的に有名人みたいだねそのゴザイって人。皆どんな人なの? ふむふむ、なるほど」
視聴者とネクロロンが会話してる間に俺は黙々と木材集めに勤しむ。たまに会話を振られるのでそれに受け答えしながら、二人仲良く作業中。
「む・・・ネクロロン。向こうからモンスター四体。多分狼型だな」
「はいはーい。ん。ねぇマスター。『なんでわかるの?』だってさ」
「んー・・・経験と勘」
「はい人外~。そしてホントに狼型のモンスターだしね」
此方の視界内に入った。ちょっと大きめの狼型モンスター。『フォレストウルフ』。この森林ではよく見るごく普通のモンスターだ。
「マスターマスター。ここは初心者にもわかりやすい狼種のモンスターの倒し方をレクチャーしながら戦ってみようよ」
「お前は本当に急に提案してくるじゃん・・・」
どことなくチーザーに似てきた気がする。
「まぁいいか。いいよ。とはいっても難しい事じゃない。狼種のモンスターの基本は『飛びつき』と『噛みつき』だ。面倒なのは群れで来る事だから、下手な位置取りや立ち回りだとあっという間に前後左右から囲まれてガブリだ」
「だよねー。私も初めてVRRPGやった時は狼相手にするの凄く大変だったもん」
意外と馬鹿に出来ないからな狼。群れで行動するのとチームワークで獲物を追い詰めると言うのは、思っている以上に面倒で危険な相手だ。
「で、だ。倒し方って訳でもないが、楽な方法は群れの頭。司令塔個体をさっさと潰す事だな。連携さえ潰してしまえば各個撃破で問題ない」
「それが出来ない場合は?」
「まずは観察。良く相手を見て回避。そこから動きの中心、あるいは軸を見定めてそこを崩していくように倒すといいと思う」
「オッケー! じゃぁ私がやってみよう! 行くぞものどもー!」
そう言って片手剣と盾を構えてネクロロンが前に出た。フォレストウルフ達ものこのこ前に出てきたネクロロンをターゲットにしたようで四匹が散開し、彼女を囲む。
「アドバイスいるかー?」
「大丈夫ー!」
彼女の視線が俺に向いたのに合わせて、死角となった正面からフォレストウルフが牙を向けてとびかかる。
「よっと。それはお見通しだよ!」
シールドバッシュでカウンター。とびかかってきたフォレストウルフを突き飛ばす。ならばと、左右にいた二匹が飛び掛かる。片方は足、片方は首を狙ってきた。そして後ろにいた一匹は後ろに逃げられないようにいつでも動ける姿勢で待機している。
「『ステップ』!」
スキルを使い、ネクロロンが瞬間移動の如く前に動く。とびかかった二匹はそのまま交差するようにネクロロンの残像を突き抜けた。
「オラァ素材よこせぇ!!」
さっきのレクチャーとは何だったのか。最初に突き飛ばしたフォレストウルフ目掛けてネクロロンは突っ込む。袈裟斬りからの逆袈裟斬り、体を捻りながら一文字斬りと流れ良く連続攻撃を放つ。
「『バッシュ』!」
風を切るエフェクトを出しながら、盾を持って突っ込む。顔面を潰すように放たれた一撃はフォレストウルフの首を折り、フォレストウルフ一匹はそのまま息を引き取った。
仲間がやられたことで焦ったのか、三匹は時間差攻撃に出た。
まず一匹目が突っ込み、二匹目がタイミングをずらし飛び掛かる。二匹の隙を埋めるように三匹目が牙を向けて走る。
「これ最初の町付近のモンスターがしていい動きじゃないと思うんだよね!!」
文句を言いながら一匹目はシールドで上に突き飛ばし、二匹目は踏みつけて動きを止める。三匹目に対してはギロリと睨みと利かせて動きを止める。
上に飛ばされた一匹は空中でバランスを整えようとするが、その前にネクロロンの攻撃範囲に入ってくる。
「『バッシュ』!!」
大きく振りかぶりながら盾の鋭利な部分でフォレストウルフの首をへし折りに行った。ぐしゃりと音を立てながらフォレストウルフ二匹目の息の根を止めた。
「セイ!!」
踏みつけた一匹に対しては、片手剣を逆手持ちに持ち替え、同じく首目掛けて突き立てて始末した。
「さてあと一匹。どうするよ狼君。逃げるかい?」
『ウォォオオオオオン!!』
「あら、ホントに逃げちゃった」
勝てぬと判断したフォレストウルフは即座に撤退を決め、森の奥へと逃げようとした。こういう賢い個体が長生きすると被害も増えそうなんだよな。
「『月風』」
『ゥォゥ!?』
逃げた正面に躍り出て抜刀。真っ向斬りで逃げてきたフォレストウルフを縦半分に両断する。
「ナイスマスター!」
「ネクロロンもお疲れ様」
刀についた血脂を拭い、鞘に納める。そうしたら死体に近づいて触れ、スキルを発動させる。
「『解体』」
倒したモンスターを素材に解体するスキル。魔法でもあるんだが、この前ゴザイの兄さんに頼んで装備のスキルスロットに付けて貰った。
こうしてマイもアキハ達もいない時に一人でも問題なく素材を得られるようにしときたかったからな。
「うーん。肉と皮に骨と牙。普通だね」
「普通だな」
フォレストウルフは特別なモンスターではない。レア素材も特にないので入手できる素材はありきたりな肉や骨だ。
それでも、我が家にとっては飯のおかずになるので大変ありがたい素材たちだ。骨は洗ってガラを取ればスープになるし。割と美味しいんだぞ? ウルフガラのスープ。フユカお気に入りの一品だったりする。
「とりあえず納入分の木材集めに戻るね。お、スパチャありがとー『戦い慣れてる』。そりゃゲーマーだからこれまでたくさん戦闘してきたからねぇ。おっ!!まゆゆ見てくれてるー! ありがとー!!」
コメントを拾いながら俺たちは木材集めに戻った。ちょこちょこ月光真流に関するコメントに俺が答えたりもしたけど、他には特に見どころがある画は取れなかった気がする。
ーーーー
「みたぜアール。ネクロロンの配信出てたろ?」
「まぁね。この前手伝って貰ったし恩返し的な意味で」
ある日の昼下がり。我が家の庭先でアキハ達が自主練をしているのを見ていると、マー坊がやって来たので仲良くお茶してる。
「正直地味な配信だったと思うんだけどあれでいいのか?」
「ネクロロン・・・virtual配信者名は夢見こころさんだけど、そういう動画は今までも何本も出してるし、そういうまったり配信も需要あるから問題ねぇよ。寧ろゲストにお前がいたから盛り上がってたぞ」
「ふーん。そういう需要もあるのか」
動画はあまり見ないからよくわかんないけど、そう言うのもあるのか。何が需要あるかなんて、意外とわからないものだな。
「ま、一番はお前が襲い掛かってきたモンスターをにゃーる顔負けで速攻斬る場面が一番の映えポイントだったけどな」
やっぱりそういう場面を求める人が多いんじゃないか。動画よくわからん。
「話は変えるけどアール。町でチーザーと組んでPvPすんだってな」
「耳が早いな」
「火力さん言ってたぜ? 『チーザーの無茶振りはいつもの事だがマスターまで巻き込んでいるとは』ってな」
「やっぱりチーザーって無茶振り多いのか」
「そりゃ多いよ。『龍王狩りしてぇな』って言って俺らに声かけて集め出したと思ったら、『TAしようぜ! 能力縛りな!』とか言って急に別の事やることになるし」
「あっはは・・・」
「まぁ、あの人なりに俺らの息抜きの場を用意してくれたんだとは思うけどな」
「なんだよ。変な言い方すんな?」
「覚醒者ってわかりやすくゲーム崩壊させてっから普通のモンスター相手だと暇つぶしにしかならねぇんだよ。だから戦闘職じゃなくて生産職ジョブで持つ奴が多いんだ・・・お、このクッキーうめぇ」
ちょっとつまらなそうに話しながらクッキーをつまむマー坊。覚醒者なりの贅沢な悩みって奴か。
「弟子でも取ればいいんじゃないのか?」
「弟子ねぇ・・・俺人に自分の技術教えるの苦手なんだよ。知ってるだろ?」
「まぁ・・・確かにお世辞にも上手とは言えなかったな」
クリエイションモードでの情報交換でも、実体験を伝えるのが下手な筆頭だったからなコイツ。それでも、俺らの中では最初に一番早くボス的な存在に挑めた勇者だったんだけども。
「生産職云々の話だけど、マー坊もなんか作ってるのか?」
「いいや、こう何か作るってのも性に合わなくてな。ソロの時は臨時で他パーティーに入って適当に戦ってた」
「戦闘狂?」
「ちげーわ。せめて技術磨きと言え。お前なら特に」
でもそっか。それなりには楽しんでいたんだろう。
「ま、今はお前含めてクラン組んで戦ってるから悪くない気分だな。月光真流のスキル開拓も積極的に取り組んでるし」
「それならよかった。で? どこまで習得できてるんだ?」
「これがまぁた難しいんだわ。『月波』はまだ無理。見た目だけなら『月光閃』と『十六夜』は良い感じなんだけどな。なぁんで衝撃をコントロールするってこんなに感覚掴めねぇのかねぇ」
「それならこの後ウチで練習していくか? アキハ達に教えたやり方もあるし、たぶんお前も感覚掴めると思うけど?」
「いや、遠慮しとくよ。折角なら自分で切っ掛けを見つけたいしな」
本人がそういうなら仕方ない。それにそういうマー坊も楽しそうだったし、下手にあーだこーだ言うよりも、好きなようにやらせてあげた方がいいかもしてない。
「あ、でも本当に何も出来なかったら頼むな?」
「任せな」
「あー!! お父さんズルいです!! お菓子食べてますぅ!!」
「・・・!!?」
フユカに見つかって、ハルナが滑るようにこっちにやって来た。
「お客さん来てるから、その前にあいさつしてな?」
「・・・どうも。はいあいさつしたからお菓子食べていいよね」
「せめて手を洗ってきなさい」
二人はスババっと家に上がって手を洗いに行った。この食いしん坊どもめ。
「お前も父親やってんなぁ」
「実際大事な娘だからな」
「洗ってきましたぁ!!」
「・・・甘さ控えめ?」
「あっ!!ズルいですハルナ姉さん! 私も食べますぅ!」
「いいぞ小娘諸君。俺の分も全部やるからいっぱい食え」
「・・・お前も親戚のオジサンみたいだぞマー坊」
「誰がオジサンだ!? まだ二十歳になったばっかりだわい!!」
そう言いながらオジサンムーブ楽しそうにしてるじゃんかよ。
ーーーー
お祭りまであと十日ほどのある日。
ルーキストの町に俺はいた。
「ハハハハハ!! この時を!! 待っていたぞアール!!」
正面にはテンション高めの蒼牙。
そう。ここはルーキストの試合場。そして、お祭り期間の間。俺とチーザーが挑戦者たちを待ち受ける決戦場でもある。今日はその予行練習。
「あいっかわらずテンションたけぇな蒼牙の野郎。おいアール。あの鼻っ頭へこませてやるぞ」
此方も多少ウザがりながらもテンション高めのチーザー。メイン武器の槍は今回使わず、今日は支援の魔法使いジョブと杖で戦闘だ。
「そうはいかないよチーザーネキ! 今日は私達もいるんだから!!」
「仁義組として、無様は晒しません!!」
「胸を借りるつもりでいくんでよろしくー」
「とりあえず僕はいつも通り武器強奪狙ってみますね」
「個人としては一騎打ちしてみたいのですが、まぁ良いでしょう。皆さんと共に勝利を勝ち取りに行きましょうか」
今回は予行練習。んでその相手は蒼牙の加入してるクラン『仁義組』。活動内容は主に賞金首や犯罪者の討伐、あるいは捕縛らしい。弱い者いじめを許さない、義を慮る事を信念に掲げるクランだ。
前衛には『蒼牙』『雷華』、遊撃には『ああああ』『ミラファ』、支援及び援護に『昼行灯』『ラビット』と言う構成になっているようだ。なんでわかるかって? 相手の装備と雰囲気を見れば大体わかる。
魔法使い系の奴がいないのが特徴で、真正面から突破すると言う気概を感じる。
「とりあえずオメェーら。アールが使う奥義選べや」
「決まっている!! 『星波ピスケス』だ!! あの技を俺は破る!!」
「ちょっ!!? 蒼くん!? 『剛歌キャンサー』って話だったじゃん!!」
「良いではありませんか。不肖私も、速度には自信があります。どちらが早いか勝負してみたいと思っていましたわ」
「なんか雷華さんが乗り気ぃぃ!!? どうしようミラファちゃん!!?」
「あー・・・うん。いいんじゃない? 蒼くんもテンション高いし、雷華さんも本気出してくれるっぽいから何とかなるでしょ」
「投げやり!!? そっちの男性陣はどう思う!?」
「僕のスキルは相手の速度関係ないので」
「俺ッチも動き見れれば何とかなると思うから構わんぜー」
「うがぁぁぁ!! そういう奴らだったっ!!」
見てて面白い奴らだな。蒼牙はやっぱテンション高いし。
「が・・・頑張れ父さん」
「行けー頑張れー!!」
「が・・・頑張れー」
「・・・」
「ハルちゃんも応援しよ?」
「・・・別にいい。勝つって信じてるし」
フィールドの外ではマイと一緒にアキハ達が応援団として、声援を送ってくれる。かっこ悪い所は見せられないねぇこれは。
武器は・・・手持ちはシマカゼ改、あとは共有倉庫から借りてきた武器が少々。相手の人数的にいくつか装備しておこう。シマカゼ改は帯刀し、太ももにベルトで革製のケースを固定し、そこにいくつか短剣を収めていく。
大剣も出来るだけ軽めのを選んで背負い、両手には片手剣二本を見繕って持つ。
背負う大剣の名は火属性『紅蓮大火山剣』、右手に氷属性『雹粒蝶の飾り剣』、左手は対魔法武器『アンチマジカルバランサー』。納めた短剣は毒と麻痺属性の『痺猛の刃』。
全部デスサイズ掃討時の戦利品だ。アンチマジカルバランサー以外の武器は特定のボスドロップらしく、そこまで高価ではない。唯一プレイヤーメイドのアンチマジカルバランサーも制作者がレシピを公開しているらしいので鍛冶師ならだれでも作れる一品。
つまるところ俺の全身コーデは手に入れた武器を適当にまとめて装備しました見たいな感じになっている。
「・・・アール貴様、その格好で戦うつもりか?」
「不満か?」
「武器なぞいつだって取り出せる。背負う身に着けるなど時間の無駄だろう!」
確かにこのプラクロと言う作品はあらかじめ設定しておけば思考操作で武器の出し入れが可能だ。寧ろ、それを推奨している。身に着けるって事はその分重量がかさんで動きに影響が出るからな。
「生憎俺は古い人間でな。使う武器はこうして身に着けてないと落ち着かないんだよ」
元々俺は武器一つに固執するタイプの人間じゃない。状況と戦場に応じて適した武器を使って戦う方が得意だ。もちろん愛刀はあった。でも、愛刀が不利な場面で無理やり愛刀を使って負けては本末転倒だろ?
だから今回も同じだ。現愛刀『シマカゼ改』とそれを各方面から補う武器で身を固めたのだ。寧ろ蒼牙たちをこれほど警戒していると見てほしいんだがな。
「それを負けの言い訳などさせんぞ!!」
どうやら蒼牙、これが原因で俺が勝てないと思っているらしい。ほほーん。言ってくれるじゃないか。
「心配すんなよ小童ども。お前らと俺とじゃ格が違うんだよ」
挑発には挑発で返す。ついでに周りの連中も巻き込む。むすっとしたのがわかるわかる。後ろで援護予定のチーザーがケラケラ笑い、覚醒者の一人である雷華は表情を変えず、それでも闘志は湧き上がるように漏らし続けている。
「オッシじゃあやんぞオメェーら! 軽く捻ってやるからかかってこいやぁ!!」
「「「「上等!!」」」」
「せめて楽しませてくださいまし?」
チーザーの号令と共にゴングが鳴る。ポジションは想像通り前衛と遊撃のみ。後方支援はなし。
「『ブレイブエンハンス』『ソニックエンハンス』『アンチマジックエンハンス』!!」
ああああは遊撃兼支援か。前衛の蒼牙に対して魔法で強化が入っていく。
「シャァ久しぶりの支援特化見せたらぁ!! 行くぜマスター!!」
「アナタを自由にしておくと思いまして?」
チーザーの支援が入る前に、チーザーは雷華と激突した。数では相手方が有利、こっちの支援を断ち切りに来たか。
「んだよ雷華ァ!! アール無視して俺と遊ぶ気かァァ!!?」
「そう言ってるんですのよ!!」
武器を杖から槍に持ち替え、チーザーと雷華が激しくぶつかり合う音が聞こえる。
「『星握剣』!!」
同時にこちらにも攻め手が来た。攻撃を受け流しながら、相手陣営のポジションを再確認する。蒼牙が前衛。それ以外の四人は遊撃で間違いない。
っと!!
「オラァ!!」
「ひぃ!!?」
手癖の悪い奴が一人いたもんだ。こっちの装備奪おうと気配まで消して背後まで迫ってきていた。蒼牙に意識を集中させて少しずつ相手を無力化、あるいは状態異常にしようってか。
やらせん! 蒼牙の剣を振り払い、サマーソルトで距離を取る。そのまま背後にいた奴に対し、右手に持っていた剣『アンチマジカルバランサー』を勢いよく投げつける。ちょっと衝撃を乗せる量が少ないが牽制にはこの程度でいい。
「あぶないぃぃい!!!?」
回避されたか。流石にこの程度ではダメージを受けてはくれないか。おい、すかさず盗みやがったなコイツ。やっぱ手癖悪いじゃねぇか。使える武器が一つ減った。
「空中に出たのは甘えでは?」
遊撃手のもう一人の男が弓を構え、死角から放つ。一本ではない。風を切る音的に複数本連続でだ。
「『星波ピスケス』」
使用許可が出ているのは『星波ピスケス』ならば使わせてもらうさ。空を蹴り、地面に落ちる。落ちた直後にもう一度空を蹴り飛ばしながら態勢を整えて、弓使いまで距離を詰める。
「マジでか!!?」
懐まで入った。右手のリーチは、いいや。ここは殴った方が早い!
「『月光拳』」
「うおぉぉおおお!!!?」
ジャストガードか。流石に出来るか。けど、込めた衝撃はそれすらぶち抜く。
それを証明するように男が後ろに吹き飛ぶ。前回死神改め死閃との戦いでジャストガードをぶち抜くための最低限の衝撃は確認済みだ。
こっちの消耗は最低限に、相手にはガードを強制するいい塩梅を見つけたんだ。一気に勝負を決める時までは温存させてもらうさ。
「俺を無視するかぁぁああああ!!!!」
「行きます!!」
「てりゃぁぁ!!!」
三方向から攻めてくる。前、後ろ、右。速度が速いのは後ろの蒼牙。横の二番目がああああ、ドベがミラファと呼ばれた短剣使い。
連携も精度が高い。一人に対応しすぎれば他二人から手痛いダメージを受ける。速攻で対処していくのが理想か。
「『風花雪月』」
左手の剣を上に放り投げ、シマカゼ改を抜刀。突っ込んできた蒼牙の攻撃を受け止めて衝撃をゼロに。一瞬止まった隙を逃さず、月風で無理やり押し込み後ろへ態勢を崩させる。
次に短剣を二振り構えて突っ込んできたああああの連続攻撃を迎撃、間を縫ってリーチの分こっちが有利なので攻撃ではなく、防御せざるを得ない太刀筋で反撃。
そして大振り、あるいは大きめの一撃が来ると直感し、そこに月波を合わせる 。
「『ダブルバスター』!!」
「『月波』」
「嘘っ!!? ジャスト!!?」
良い衝撃をありがとう。ゼロとなったああああに対し、携えていた短剣を投げつけ下がらせる。
「やぁああ!!」
最後の一人、初動は許した。スキルか、自前か。僅かに刀身が光った。スキルか。シマカゼ改の鞘を抜き、放たれた一撃を受け止める。多段ヒット系の攻撃か。伝わる衝撃がそれを教えてくれる。
「『ブレイクブレイド』!!」
ガリガリと削るような火花が短剣と鞘の間から散る。武器破壊系の攻撃スキル。シマカゼ改本体で受けていたら刃毀れしてただろうな。
しかし、月光真流の弱点が割れている。多段攻撃は月光真流の弱点だ。それを相手全員が理解してるのはめんどくさい。こっちもそれに合わせて防御しないといけないからな。
素直にデカい一撃はしてくれないと見た方がいいか。
「『月波』」
「っ!!? 防御途中からでも使えるの!!?」
「出来ないとは言ってない!!」
動きがゼロに、シマカゼ改の軽さと周囲の状況なら首取れるな。まずはひと・・・ちっ。
「またお前か!!」
「ひぃ!!? またバレた!!?」
コソ泥小僧がまた背後に迫っていた。両手で短剣まで構えてるから一人やりに行ってたらそのまま背中ズドンだったか。だったら。
「吹き飛ばす!!」
シマカゼ改を納刀し背負う大剣に手を伸ばす。弓矢の男も二度目の攻撃支援で既に矢を構えている。その矢ごと吹き飛ばしてやるさ!
「『月輪』!!」
大剣の重量に任せて大きく回転し、その遠心力を衝撃に加えて周囲を一閃。大剣は小さな風を起こし、コソ泥小僧はしゃがんで回避したが、弓矢の男のバランスを崩す。蒼牙はじめとするほか三人も風に圧倒されて僅かに動きを止める。
勢いそのままに大剣を背負い直し、放り投げていた剣をキャッチ。相手五人の動きは止まってる。動き出す前にまずは一人・・・そういえばいたな!!
響き渡る鋼が打ち合う音。対戦相手は五人じゃない。六人だ。
「まさか・・・防がれるとは思いませんでしたわ」
最後の一人、先ほどまでチーザーとやりあっていたはずの雷華がこちらに攻撃をしてきた。チーザーはどうした? やられた・・・訳じゃなさそうだ。迎え撃った先で、チーザーが暢気に砂埃を払い落としていた。
「そりゃ褒められてるのか?」
「そのつもり・・・です!!」
速いな。けど気配と地面から伝わる衝撃で追える。すぐに後ろへ振り返り、振るわれる槍を防御する。重い一撃だ。
「本当にこれも防ぐんですのね。ならば全力で! 参りますわ!!」
「『オーバーライドエンハンス』『フィジカルエンハンス』『オルカエンハンス』」
「『雷撃閃光』!!」
チーザーからのバフが掛かったのと、雷華が能力を使ったのは同時だった。身体が理想を超えた動きと思考能力を得た事で、雷華の次の一手を追える。身体が着いてくる。
死角に入り込むと見せかけたフェイント。正面からの連続突き攻撃。
弾き、受け止め、また弾く。
手が足りん。シマカゼ改を鞘ごと抜いて攻撃の受け流しに専念。
雷華の狙いどころもうまい。急所狙いと見せかけて小さな傷狙いに変えてきたり、俺の武器そのものを落そうと手先を狙っても来る。
一筋縄ではいかなそうだ。
クラン仁義組。プラクロ初期から結成してるクランで構成員は六名。クランランクA。
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