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ブレイドエンセスターの功績。アールの日常。

闇クラン掃討後のお話です。

唐突だが、デスサイズ掃討に関して、ギルドに報告に行った面々からの話を纏めようと思う。


まず初めに、『闇クラン』及び犯罪者集団の集まりが『デスサイズ』だった。


罪状はPKの他に法に則らないクランの設立とクランを名乗ったこと。街中での軽犯罪。NPCからの強奪も確認されており、聞けば聞くほどろくでもない連中だったことがわかる。


んで、そのロクデナシどもを討伐して、王都の地下牢獄へぶち込んだ俺たちはギルドからかなり感謝された。


闇クラン掃討報酬と指名手配犯投獄、さらに強奪品の返却も行ったので報酬として多額のお金を貰った。更にクランランクがFからDに飛び級し、表彰状・感謝状まで貰ってしまった。


んで、その光景をネクロロンが配信していたから情報がプレイヤード間に瞬く間に広がった。


そうして、デスサイズ掃討後、クランハウスには連日人が波のように押し寄せてきた。理由は様々ある。俺に月光真流のスキル解放条件を聞いてくる人に覚醒者のクランを作った経緯を聞きに来る人。挙句には引き抜きまで来たが、まぁこれは却下した。


んでだ。それ以上に多く人が来る理由だが。


「ありがとうございます!! これ、一生懸命素材から集めた大事な武器だったんです!!」


「そっか。良かったな」


「ホントにありがとうございます!!」


ネクロロンの配信を見た人が多かったのか、はたまた討伐の話が一気に広まったのか、あるいはどちらもか。


デスサイズの連中にやられて武器を奪われたプレイヤードが大金叩いて武器と装備を譲って欲しいと押し寄せてきた。


一部装備はテイマーズとネクロロンが気に入って持っていったが、それ以外の装備はクランの共有倉庫行きだ。


なのでどう扱おうが誰も文句は言わない。そういう訳でだ。老眼鏡のイン時間は現実での夜なので、それ以外で俺がこっちにいる間は、基本的に俺がそういう目的でやって来た人の対応をしている。


「すいません・・・あの・・・装備、譲って欲しいんですけど・・・」


「はいはい。悪いけどそっちのテーブルで装備の名称書いて持ってきてくれ。各テーブルに紙とペン置いてあるから」


「父さん。紙に書いてあったもの持ってきたぞ」


「ありがとうアキハ。えっと、はーい!『金色の城壁鎧』希望の方!」


「あ! 私よ!」


「・・・『鑑定』。最低価格12万Gだってさ」


「サンキューハルナ。そういう訳だお姉さん。15万Gで売ろう。だせるかい?」


「勿論!」


金を受け取って返却希望していた装備をプレイヤーに渡す。一応俺たちの資産扱いなので、元持ち主だろうと無償では譲らない。手間賃というか手数料で少し多めに貰うが、みんな文句を言わずに払ってくれるのでありがたい。


このためだけにハルナが『鑑定』と言うスキルをスキルスロットに装備し、スキルを習得してくれた。


『鑑定』のスキルは素材や装備品の価値や効果、能力を明らかにするというよくあるタイプのスキルだ。客商売を生業とする人やプレイヤードにとっては必須技能である。


んで、ハルナが鑑定して諸々込みの金額を提示、支払いが出来なければ、見合った装備か素材で割引すると言う形に落ち着いた。


「持ってきました~・・・重かったです」


「お疲れ様フユカ。ちょっと休む?」


「いいえ、もう少し頑張ります。えへへ。頑張った後のおやつは美味しいので」


こんな感じで、アキハ達三人に手伝って貰ってほぼ毎日装備返却会を開催してる訳だ。


因みに隣では火力魂がいつものように商売しているので、装備を買い戻しに来たプレイヤードがついでに寄って買い物をしていくと言うサイクルも相変わらず機能している。








ーーーー








「って事があったんだよ兄さん」


「知ってるよ!! あんちゃん只者じゃねぇとは思ってたが案の定すげぇ奴だったなぁ!!」


ルーキストの露店街。いつもの場所で商売していたゴザイの兄さんの元を訪れていた。


「自分で言うのは憚られるが、まぁ腕っぷしには自信があるよ」


「おうおう謙虚だねぇ! それもあんちゃんの魅力ってかねぇ! 量産品のシマカゼであそこまで大立ち回りされちゃぁ鍛冶師の俺としては黙ってられねぇな! って訳で忘れないうちに渡していくぜ!! ほい。『シマカゼ』の改修刀『シマカゼ改』だ。シマカゼよりも若干重さは増してるが、その分刀身を伸ばした一品だ」


以前改修を施すと言われて、渡していた『シマカゼ』が返ってきた。太刀・・・とまではいかないが、普通の刀よりも少々長い刀身だ。軽く振ってみれば手に馴染む。代わりに受け取っていた『シマカゼ』とは全く別物のように思えるほどだ。


「うん。気に入ったよ。流石ゴザイの兄さんだ」


「鍛冶師としては最高の誉め言葉だ! 材料にはあんちゃんから預かってたシマカゼと硬くて鋭いことで重宝されてる鉱石を使った。俺ら鍛冶師の、もしかしたら俺だけの妄信かもしれねぇが、武器は生きてる。だから新しく作るよりも場数を超えた武器を元にした方がいい武器を作れると信じられてんだ」


「そんなこと無いさ。兄さんが言うんだ。武器にも兄さんの思いは伝わってるさ」


「だと嬉しいんだがね! それからほら! あんちゃんの子たちの装備も改修済みだ。使い方は据え置きで全体的に能力を強化した。気に入ってもらえると思うぜ!」


アキハ達の預けていた武器も受け取る。一つずつ簡単に説明は受けるが、ゴザイの兄さんの言う通り基本性能の強化に主眼を置いた改修だそうだ。


「それじゃ、代わりに借りてた武器は返すよ」


改修中の武器として借りていた量産品のシマカゼ含めて家族全員分の武器を返す。


「いいや、そいつらもそのまま貰ってくれ!」


「そうか? なら正規料金を払わせてくれ」


代わりという事で安くして貰っていたんだ。正式に受け取るならちゃんと料金は払いたい。だが、ゴザイの兄さんは笑顔で首を振った。


「気にすんな! その代わりと言っちゃなんだが、これからもあんちゃん達の武器を作らせてくれ! あんちゃんとこの鍛冶師にはまだまだ劣るが、俺だって鍛冶師だ! あんちゃんという人とのつながりを失いたくねぇのさ!」


「・・・わかった。そういう事ならこれからもゴザイの兄さんの所で武器は買わせてもらうよ。それでいいかい?」


「願っても無い事だ! いうならばあんちゃん家の専属武器職人って奴だな!!」


差し出された手を握り返し、固く握手をする。特に契約などを結んだわけではないけれど、俺と兄さんの間柄ならこれで充分だ。


「んでだ。あんちゃん。あんちゃんは二刀流なのかい?」


「二刀流”も”使える。が、正解だな。アニメみたいに口にくわえて三刀流なんてのは無理だが」


「なるほど・・・本命は別にありそうだな」


「勘がいいなゴザイの兄さん」


「あんちゃんの戦いを動画で見てたが、刀よりも太刀の方が好きそうだなって思ったんだよ」


ネクロロンの配信動画は絶賛話題になっている。主にネクロロンのセンスとスキルが注目されているが、最後に少し映った俺と死神・・・もとい、『死閃』というPKとの一騎打ちも話題になっていたらしい。その結果がクランハウスに俺目的でやってくる人たちという訳だ。


「んでだ。あんちゃん。貸してた『シマカゼ』を太刀に改修してみる気はないかい?」


「乗った」


「判断が早いねぇ! 太刀を作るのは久しぶりだ! どんな太刀が希望だい?」


「鋭さはそこまで求めない。頑丈で折れにくく、砕けにくい太刀にしてくれ」


「ははっ! なかなかの要望だ! 任された!!」


こうして、また『シマカゼ』を預ける事になった。実はちょっとワクワクしている。


俺が剣聖物語時代使っていた最後の武器。それが太刀だったからだ。








ーーーー








闇クラン討伐から現実世界で一週間。ようやく落ち着いた。


正確には運営からのお知らせで矢印が別の方向に向いたと言った方がいだろう。


プラクロが不定期に行っているイベントシナリオの開催が決定したのだ。イベントシナリオとは、まぁ文字通りの事だ。ソシャゲとかで言うアレだ。プラクロは珍しくこのイベントを定期的に行っている。イベントの内容はその時によってさまざまあるが、俺がスルーした時のイベンとは不足気味の薬草関係の採取及び生産というイベントだったらしい。


内容は、前大戦で大量に消費した回復アイテムが各地で枯渇気味だったので、薬草採取の依頼をギルドが多数用意し、それを受けたプレイヤードが納品していく。依頼の達成数に応じてギルドを通して、運営から後日アイテムが配られると言うものだったとか。


んで、普通ならこういう地味なイベントはスルーされがちな気もするんだが、そこはエクスゼウス。スルーされるようなイベントにはしなかった。


話でしか知らないが、個別シナリオが多数用意されていたり、イベント時にしか出現しない特別なモンスターが出現したりして、飽きさせない内容だったとか。


なので毎度イベントは多くのプレイヤードが参加し、それぞれ思惑を持ちながら生活していくのだとか。


そして今回のイベントだが。


「『月女神様祭り』ねぇ」


「早速調べてるんだ」


自宅にて、珍しく、と言うか、たぶんイベントに対して初めて調べてる。夕食は久々にデリバリーピザを注文し、いつもいる真衣と仲良く食べた。自分で作るのとお店が作るピザってこう、美味さの違いがあるんだろうなっていつも思う。


「向こうの周期で夏ごろに毎年あるお祭りだよ。月にいるだろう女神さまに一年の平和を願っていろんなものを奉納したり、舞を踊ったりするの」


確かにそう書いてある。告知ページを下に下がっていけば具体的に何をするかも書いてあった。


要するに夏祭りみたいなものだ。人類領で行われる一大イベント。それが『月女神様祭り』。んで、これだけではなく、祭りの為に必要なアイテムが多数あるらしく、各地のギルドで素材集めの依頼が張り出されるらしい。依頼の中には、今回しか出会えない希少なモンスターと出会えることもあるとか。


「皆が求めてるのは、真央が見てるページの事じゃなくて、別の事なんだけどね」


「???」


「運営から発表されてる訳じゃないけど、お祭りにはトラブルが付き物でしょ? それがシナリオに派生するから、どちらかと言うと皆の目的は個別シナリオに関わる事なの」


「あ、そういう楽しみ方なのね」


「勿論、素直にイベントを楽しむ人も多いけどね。自分だけの思い出作りがしたい人って結構多いのよ」


なるほど。そういう楽しみ方もまた一つではあるのか。


「あとはお祭りでプレイヤードが集まって何かすることもあるね。巨大な鉄板の上で料理作ったり、演劇してみたり、演奏会もしてたの見たし、あとは・・・コスプレ喫茶ならぬ、コスプレ露店なんてのもあったね」


「何でもありだな」


「お祭りだからね。文化祭みたいで楽しいって皆言ってるよ」


あぁ、そう言われると確かに。文化祭って準備期間がすごく楽しいんだよな。皆で用意して、創って、練習して。まぁ一部そう言うのが嫌って人もいるけど、俺は好きだ。


「もしかしたらクランでも何かしようって人出てくるかもね」










ーーーー








「おいマスター! 約束を果たしてもらうぜ! お祭りでなんか出し物しようぜ!!」


フラグ回収が早すぎるんだよ。


チーザーが昼時、皆で昼食を食っていた時に、唐突にやってきての第一声がこれだ。


「ちょっとチーザー? 今お昼食べてるんだけど?」


「ん? みたいだな。お!! 美味そうじゃん! 俺にも食わせてくれ!」


「だってさ。アキちゃん達いい?」


「構わないマミー。その人なら大丈夫」


「・・・私の分はあげないから」


「えへへ・・・私の分もあげません」


「はぐはぐっ!!」


下二人は自分の分はあげない、ミナツは飯に夢中でそもそも気づいてない。アキハは顔見知りなのでいいとの事。


仕方ないと呟いてマイが台所へ向かう。


「いい奴だなお前、今度俺様が一品作ってやるから楽しみにしときな」


「あぅ・・・ど・・・どぅも」


アキハの隣に座ってうりうりと頭を撫ぜるチーザーにあぅあぅしながら返事をしてるアキハ。そこへマイが台所から戻ってきた。


「はい。ドラゴン焼肉ライスバーガー。おかわりは無いから味わって食べてね」


本日の昼ご飯。ドラゴンの焼肉炒めをご飯で挟んだライスサンド、あるいはライスバーガーって奴だ。焼肉炒めに玉ねぎとピーマン、ニンジンにキャベツを加えてるので野菜もある程度取れる。


本当はなすびも入れるつもりだったのだが。なすび嫌いのハルナがなすびを取り出した途端に次々奪い取ったので仕方なくなすび抜きにした。


「美味そうじゃねぇか! いっただきます! 悪くねぇな!! うめぇ!!」


たいそう気に入ったのかガツガツ食べ始めるチーザー。


「で? 出し物しようって話だけど、具体的に何すんの?」


「おほぉ!! ひょっとまふぇ!!」


「・・・食い終わってからでいいよ」


とりあえずコップもマイが用意してくれたのでポットのレモン水を注ぐ。


「ん? なんか人おるー!!?」


「・・・今更気づくとかミナツ鈍すぎる」


「ミナツですね」


「冒険冒険言うならもっと周りを見られるようになった方がいいと思うぞミナツ」


「ぐぬぬ・・・アキハ姉さんの言う通りだから言い返せない・・・ぐぬぬぬ!!!」


一人客人を加えて昼食を食べ進めていく。


あっという間に食い終わり、デザートの林檎ゼリーもぺろりと平らげて、チーザーは満足そうだった。


「いやぁ食った食った! わりぃな! でもめっちゃ美味かったぜ」


「そりゃどうも。作った俺としては喜んでもらえて嬉しいよ」


「・・・私がお代わりしようとしてたのに・・・」


ウチの食いしん坊筆頭はお代わり分を食べられて不満らしい。


「しゃーないな小娘、今度俺様が最高級の肉を持ってきてやんよ」


「・・・ウチのご飯なら好きな時に食べに来たらいいよ。ね? お父さん。」


現金な奴め。目に肉って書いてあるぞ。チーザーなんかツボに入ったみたいでケラケラ笑ってるし。


「おっし! じゃぁ本題だ! 前に約束したお願い聞いてもらうって奴を今使うぜアール! せっかくの祭りだ! 俺とお前で出し物やろうぜ!」


それはもうウッキウキで、テンション高めに言ってくるチーザー。断る権利は無いし、出来そうなことなら俺は特に問題ない。


「ねぇチーザー? 何する気なの? それによっては私は止めるけど?」


「大丈夫だぜマイ! 手軽で準備も必要ない! 場所さえ確保できれば誰でも出来る事だ!!」


「バンドでもする気?」


「ちげぇ! これやんぞ!!」


バシーンと叩きつけるようにテーブルに広げたお手製のポスター。そこに書かれていたのは。


「『最強挑戦権』?」


「おうよ!! 俺とアールが組んで対戦相手をひたすら募集する!! んで!おもしれ~奴を見つける!」


「つまりお祭りで組手するわけね」


「そこは月女神さまへの奉納の演武とでもしとけばいいんだよ!」


「うん。良いんじゃないか? 俺は全然構わないよ」


無理難題を突き付けられると思ったが、これなら全然OKだ。


「ルールとか決めてあるの?」


「まだ決めてぇね! これから決める! って訳だ! アール! ルール決めすっぞ!」


「行き当たりばったりなのね。まぁ了解」








ーーーー


月女神祭り演武目『クラン:ブレイドエンセスターへ挑戦! 剣聖と幻影に挑め!!』


・挑戦料:一人3000G


・観戦:無料


・両名がいる日のみ開催予定。


【ルール】


・挑戦者はアールとチーザー紫のタッグへ挑戦ができる。


・挑戦者人数は一度につき10名までとする。


・挑戦者側の勝利条件は決闘場の特別ルールを使用し、前衛のアールが戦闘不能状態になった場合、勝利とする。


・『ブレイドエンセスター』の勝利条件は挑戦者側の全員が戦闘不能になった場合、勝利となる。


・ハンデとして、アールは月光真流の基礎技と挑戦者が指定した奥義を一つだけ使用できるものとする。チーザー紫は幻影魔法を戦闘中一度だけ使用する。


・勝利者には火力魂が制作した『焔剣:エクリクスィ』を先着50名にプレゼント


・敗北者には頑張ったで賞でチーザー紫の作成した『なんかのお守り』を先着1000名にプレゼント。


ーーーー


片手剣:焔剣『エクリクスィ』


制作者:ブレイドエンセスター鍛冶師『火力魂』


属性:火・爆破


・鋼鉄に火炎の力が宿った剣。斬った対象を爆発させる力を有している。


ーーーー


装飾品:なんかのお守り


制作者ブレイドエンセスター裁縫師『チーザー紫』


効果:ランダム


・手持ちの素材で作られた奇妙なお守り。装備者の状況により何らかの能力を付与する。


ーーーー








「ってことだ火力。剣作れ」


「・・・言いたいことはあるが、それくらいなら問題ない。急な話だから報酬として龍種の逆鱗をいくつか希望するがいいか?」


「いいぞ。どれがいい?」


「いくつか倉庫に入れておいてくれ。あとで吟味させてもらう」


「あいよ。んじゃ頼んだぜ。アール。俺も適当にお守り作るからしばらく篭るぜ。差し入れは片手で食えるものにしてくれ! じゃ、よろしくな!」


まず一つ。火力魂に話通してなかったんかい。よく火力魂もいいぞって言ってくれたな。そしてチーザー。なんだよなんかのお守りって。せめてもう少しわかりやすい方がいいんじゃないか?


因みに景品の下りはチーザーが全部考えていたので俺はノータッチ。今初めて火力魂に話言ってなかったことを知ったくらいだ。


あと差し入れってお前・・・いやいいけどさ。差し入れって普通好意で受け取るものであって要望するものじゃないと思うんですよハイ。


もう一つ。俺の負担デカくない? いやいいけども。良いんだけども。つまりチーザーってば完全援護のみで、前衛の俺に丸投げって事でしょ? 良いんだけどさ。もっとこう・・・あったじゃん? 


とか話したのだが、約束は約束なのでチーザーの望むがままにやることにする。頑張るか。


「そんな感じでいきなりなんだが火力魂。景品作ってもらえるか?」


「チーザーだけに言われたのなら考えた所だが、マスターには話がいっていたんだろう? ならば断わるつもりは無い。だがマスター。今度俺の頼みをお前にも聞いてもらいたい」


「わかった。出来る範囲で頼むよ」


これが自転車操業って奴ですか? クランマスターは大変だな。主に自分のせいの気がしないでもないけど。


「心配するな。お前に武器を一つ授けたいだけだ。マスター。そういう事だからまずは『フレイムエンペラー』を一度返してくれ。俺の納得がいったものに仕上がったらまた渡す」


そのくらいのお願いなら是非お願いしたいくらいだ。武器ってのはどれだけ強化しても困らないからな。そういう訳で火力魂から貰った『フレイムエンペラー』を一度返す。


「ふむ・・・なるほど。マスター、俺も景品づくりと合わせてしばらく工房に篭る。良ければ気が向いた時にでもおにぎりを用意してほしい」


「あぁうん。いいよ。こっちにいる間で良いなら用意するよ」


「助かる」


チーザー見ろよ。火力魂のあり方が普通差し入れをお願いする人の頼み方だからね? 本当に傍若無人って感じだなチーザー。相変わらずともいうべきか。


それともリアルでのストレスとか猫被ってるものを剥ぎ取って本性で暴れてるのかどっちかだな。










ーーーー










「いいぞ、こい!」


「全力で行くぞ、父さん・・・!!」


イベンとまではまだ日数がある。具体的には1か月ほど。んで、出し物をすることを決めたわけだが、特に俺が出来る準備はない。


場所の確保はマイがやってくれたので、当日『取り忘れてた』なんてポカはない。ギルドとした正式な許可書なのでなんの問題でもない。


そうなると、俺は本当にすることがない訳だ。しいて言うなら負けないように稽古する位だ。


で、一人稽古していればアキハが手合わせを申し込んできたから、それを了承。


こうして木刀片手にお互い向かい合っている。


「ハァッ!!」


月風と月波を織り交ぜて加速しながらまっすぐ迫ってくる。ほぼ自然体で出来るようになっているのは修業の成果が出ていて嬉しく思う。


振るわれる一撃に合わせて剣を置く。ぶつかり合う衝撃を互いに受け止め合いながら、アキハは次の一手を繰り出してくる。


対する俺は防御。連続して振るわれるアキハの攻撃をひたすら防御していく。


時折反撃をしてみれば、アキハも上手く防御し、即座に攻撃の為の動きに戻していく。


「そろそろこっちから攻めるぞアキハ!」


一撃を往なし、切り払いと突きを織り交ぜた攻撃を放っていく。防御も本当に上手くなった。危うさこそあるが、しっかりと動きに対して身体がついてきている。


数度の攻撃を繰り返していく後、アキハが大きく後ろに下がる。蓄積の限界値が近いか。


「見様見真似だが・・・やってみる!!」


木刀を両手で持ち、構える。キャンサー・・・ではないな。見様見真似って言ったし。でも構えはキャンサーに似ている。思考を回し考える。そうして辿り着く答え。


「先に言っとくぞ。失敗したら痛いぞ?」


「わかった・・・!! だから・・・成功させて見せる!!」


極大奥義が一つ。『剛歌剣嵐ブラキアス』。アキハがやろうとしているのはそれだ。本来ならもっと通常の奥義を磨き上げてから覚える方が失敗しにくいのだが、アキハがやると決めたんだ。見届けてやるさ。


無論成功した場合は文字通り家が真っ二つなので真正面から相殺、あるいは防御できるように本気で向かい合う。もちろん殺気も乗せる。


若干ピクリと動いたが、すぐに呼吸を整えて集中するアキハ。さて、どうなるか。


「ハァァァァ!!! フイギィィッ!!?」


「『ライフストリーム』」


剣を振るったのがだ、衝撃の乗せ方と振るい方がうまく行かず、アキハの腕に激痛が走り、木刀を落した。女の子が出していい悲鳴じゃないのは仕方ない。


すぐに駆け寄り、体力回復と外傷回復能力が高い魔法『ライフストリーム』で痛みを和らげる。


「ううう・・・すまない父さん」


「気にすんな。挑戦しようって思ったのは良い事だからな。ちょっと休もうか」


「・・・うん」


アキハの腕に後遺症が無いかを確認しながら動かして、何も無さそうなのでそのまま休憩に入る。


「ふぅ・・・難しいな。今の私なら、出来ると思ったのに」


「キャンサーの精度は悪くない。問題はリブラの精度だな。甘く言えばリブラの精度さえ上がれば出来るようになる。厳しく言えばどっちもブラキアスの基準に満たない未熟な精度だからもっと修業に励むように」


淹れたお茶をアキハに渡し、隣に座る。


「そうか。まだまだだったのか・・・むぅ」


「教え始めてからまだ1年経ってないんだ。正直もし成功してたら俺が自信無くすよ」


「むぅぅ」


「・・・ホントアキハ姉さんって凝り性だよね」


のそっとやって来たハルナが俺の膝の間に座り込む。そのまま俺が一口飲んだお茶を強奪して飲みだす。


「だがハルナ。助けて貰った時に見せてくれた技だ。使えるようになりたいと思うだろ?」


「別に私はそこまで思ってないし。父さんと同じ剣技使ってればそれでいいよ」


「むぅ・・・だが、同じ剣技を使うなら、父さんと同等の使い手になりたいだろ?」


「父さんの領域になるまでどれだけ大変かって話前にしてもらったじゃん。アキハ姉さん焦りすぎ」


「・・・そう・・・だろうか?」


「気持ちはわからなくも無いけど、焦れば功を仕損ずる。だっけ? そんな感じの言葉があったじゃん。ゆっくり着実にやりなよ」


「・・・ハルナ」


「まぁ私は奥義11個まで覚えたけどね」


「むぅぅぅぅ!!!」


途中まで良い感じだったのに最後の一言でアキハがめっちゃ悔しそうにしてる。才能は確かにアキハの方があるのだが、習得度と言うべきか。練度はハルナに軍配が上がってる。


一つ『剛歌キャンサー』と『天翔サジット』に限ればアキハの技量は高いのだが、ハルナは広く平均的に奥義の精度を磨いているためそこで差が出来ている。


ここは性格が出るだろう。


アキハは一つの奥義を完全に覚えて、安定して繰り出せるようになってから次の奥義を覚えていく。


対してハルナは奥義として成立する威力になれば次の奥義習得を目指して稽古をする。なので奥義を覚えている数が違うのだ。


覚えている数はハルナ>フユカ>アキハ>ミナツの順番だ。


ハルナが圧倒的に多い。『ピスケス』以外の奥義は使えるようになっている。んで次点のフユカが『ピスケス』と『ヴェルゴラ』『カプリゴイル』以外の9つの奥義が使える。


アキハだが、『サジット』『キャンサー』『レオ』『ジェミニ』『リブラ』の5つ。ミナツは『レオ』と『キャンサー』の2つだ。


俺からしたらこの短期間で既に一つ以上の奥義が使えるだけで驚きなのだが、この子たちは本当に才能に恵まれている。


「父さん。もう少し自主練してくる」


「もうちょっと休んでからにしなさい」


「むぅぅ・・・」


「その代わり詳しく視てやるし教えてやるから」


「っ! 本当かっ!」


「・・・私もピスケスの練習しよっかな」

感想・星評価・レビューにブックマークなど、作者月光皇帝の私の大好物です。

是非是非たくさん下さい。お願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ・勝利者には火力魂が制作した『焔剣:エクリクスィ』を先着50名にプレゼント 片手剣:焔剣『エクシクスィ』 どちらが正解でしょうか?
[良い点] アールさんへの挑戦権となると、確実に嬉々として挑みに行く方がいるでしょうね。挑むであろう方々には強さの次元の違いを見せつけられながらも、その経験を糧として成長していただきたいものです。 […
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