売られた喧嘩は全力で買う。
Q、アールに喧嘩を売るとどうなるの?
ヒント、アールは親馬鹿。
「んだよマスター。可能な限り全員集合何ていきなりじゃねぇかよ」
マイとマスターに頼んでクラン全員の予定が合う日にクランハウスに集合してもらった。
「ちょっと皆に手伝って貰いたいことが出来たんだ。その相談がしたくてな。マイと老眼鏡にはもう話してあるし、了解も貰ってる」
「お? 事前に話通してるって事はデカい事でもやるのか?」
「まぁデカい事ではあるな。調べた限り相手は推定百人前後いるみたいだし」
「………ほぅ?」
マー坊が中々に楽しそうな笑みを浮かべる。それにつられるように、あるいは想像が出来たのか一同思い思いの表情を浮かべている。ルークだけはまだ良くわかっていないようだが。
「単刀直入に言おう。喧嘩を売ってきた闇クラン『デスサイズ』を殲滅したい。協力してほしい」
「喧嘩を売られたから買うのはわかるけど、そこまでする?」
「アキハが喧嘩売られた」
「OK買ったわその喧嘩」
「にゃーの可愛い弟子に手ぇ出して生きていられると思うにゃ」
レイレイとにゃーるが即座に賛同してくれた。レイレイはうちの子たちを皆可愛がってくれてるし、アキハとにゃーるは居合切りの師弟関係のような存在だ。
「俺も乗った。他でもないマスターの頼みだし、世界的にもクランの旗揚げとしても闇クラン討伐は悪い事じゃないしな」
「俺も構わん。火力の限界を極めるための新しい技を試したかったんだ」
「私も参加するゾ☆ そろそろお馬鹿さん☆達にはお仕置きが必要だと思うんだゾ☆」
主力はほとんど参加してくれるようだ。あとはチーザーとルーク、ネクロロンとテイマーズの四人だ。
「俺様を動かすんだ。対価を貰えるんだろうな?」
「そうだな………何が欲しい?」
「何でもいいか?」
「俺に出来る事なら」
アキハ達に万が一にでも被害がある可能性がある。喧嘩を売ってきた連中がただの下っ端だとしても、いずれ情報は出回る。そうなる前に、危険の芽は全て潰す。
家族第一、仲間第二だ。その為なら俺が支払える対価はなんでも支払おうじゃないか。
「なら協力してやる。その代わりマスター。今の話忘れんじゃねぇぞ」
「ありがとうチーザー」
「へっ、あとでお前が『それはやめてぇー!』って表情にしてやるから覚悟しときな」
「っはは………お手柔らかに頼むよ」
「安心しろや。ちゃんとマスターなら出来る事だ。おい愚弟。お前も参加だ。文句ねぇな?」
「いや良いけどさ………デスサイズってそこそこ大手じゃん。僕戦力になる?」
「雑魚狩りでもしててくれりゃ充分だ」
「………事実だから何も言えないけどさ………まぁわかったよ」
「僕まだレベル20だから戦力になれそうにないね」
「私も厳しいかな。40までは上げたけど多分全員80くらいあるでしょ?」
テイマーズとネクロロンはレベルの問題で参加は難しいか。流石に低レベルが突っ込めば相手からしたら鴨葱みたいなもんだからな。
「そこに関しては私が支援すれば問題ないわ。二人で分配することになるけどレベルカンスト程度のステータスにはしてあげられる」
「装備は俺が提供しよう。あとでステータスを教えてくれ。現状で最高の装備をくれてやる」
「おろ? レイレイってばそんなこと出来るの? 火力さんも貰っていいの?」
「私の覚醒者としての能力よ。基本は一人に譲渡する力を二人に譲渡すればいいだけだからテイマーズもネクロロンも十分戦力になれるはずよ。二人ともプレイヤースキルは高いし」
「どうせ使われないならお前たちに使って貰った方が此奴らも喜ぶはずだ。貰ってくれ」
「そういう事なら参加してみようかな。折角だし」
「あ、どうせならライブ配信していい? 申請通ってエクスゼウスから専用のライブ配信機材も届いたから試してみたいの」
「彼らに泣かされたプレイヤーも多くいるだろうし、スカッとする配信になるんじゃない?」
「えちょっ!? 配信!!? 僕ちょっと恥ずかしい………!!!」
「何言ってんだ愚弟。リアルでも似たようなことしてるだろオメー」
「わーわーわー!!! 馬鹿姉貴リアルの事情持ち出さないでよ!! それはそれ!!」
チーザー姉弟のリアル事情はともかく、戦力は整った。皆かなり協力的だったのはありがたい。流石に一人で攻め込むと取り逃しが出そうだったからな。
「じゃぁ、みんなアールのお願いに協力する方向で良いのね?」
マイの一言に全員が首を縦に振ってくれた。
「ところでアールさん。デスサイズのアジトの場所分かる?」
そこだ。実はというか、闇クランは基本的に自分たちのアジトを隠蔽する。バレたら場所を変えて、また活動する。つまり固定されていないのだ。
ネットに情報が流れた頃には既にもぬけの殻なんてことは当たり前。
普通なら探すだけでも一苦労なのだが。こっちにはその道のプロフェッショナルがいる。
「連中の所持品から私の魔法で場所を追える魔法を創ったの。皆にも教えるわ」
マイだ。マイは魔法の専門家。そして魔法に出来ない事はない。だからマイに頼んで作ってもらった。所持品に宿る痕跡を辿る魔法を。その痕跡を辿り、連中のアジトを見つけ出す。
「つまりまずは探すところからって事か」
「あぁ、けど探すのは俺がやる。皆に頼むのは見つけたアジトを潰す時だ」
頼んだ側として場所の特定は俺がやる。痕跡を追う魔法の消費MPは多くない。スキル『家族の絆:英雄』があるから長時間の使用も問題ない。
「おいおい、寂しいこと言うなよマスター。手伝ってやんよ」
「そうそう。一人より皆でやった方が早いでしょ?」
「マスターだけ働かせるのは悪いんだゾ☆」
「待ってるだけなのも暇だしな」
「なら頼めるか?」
「「「「「「「勿論」」」」」」」
「じゃ、頼んだ」
「私はアキちゃん達と留守番してるわ。万が一向こうからの報復があっても、私なら皆を連れて逃亡も出来るから」
「頼むよマイ」
マイの魔法なら緊急避難でアキハ達を連れて逃げられる。返り討ちにしてもいいが、逃亡する方がいい。
「それじゃ、『ブレイドエンセスター』としての仕事だ。『デスサイズ』を全員討伐する」
ーーーー
魔法による痕跡が示した拠点らしき場所は三か所。
王都と呼ばれる街の近くの山岳地帯。海の先の孤島。そして星見砂漠の奥。
山岳地帯には、チーザー、ルーク、ももちゅん、マー坊の四人。
孤島にはレイレイ、ネクロロン、テイマーズ、老眼鏡、火力魂の五人。
砂漠には俺とにゃーるの二人が向かう。
クランハウスに残るマイがボイスチャットで現状と魔法による痕跡追跡の動きを報告してもらう事になった。
「にゃはは! 流石マスター! めっちゃ早いのにゃ!!」
「そりゃどうも! まだ飛ばすぜにゃーる!!」
背中ににゃーるを乗せてにゃーるのガイドの元、星見砂漠まで一気に駆け抜ける。時折地面に着地して、その衝撃を受け、『星波ピスケス』はさらに加速する。
「これ縮地って奴にゃね!! ちょっと違う気はするけどにゃ!」
縮地って確か走法の一つだったな。詳しくないからあれだけど、確か一瞬で距離を縮める仙術とかだった気がする。違ったっけ? 何でもいいか。
「ヒーリアスが見えてきたのにゃ! その奥に広がってるのが星見砂漠にゃ!!」
見えてきた。確かに砂漠だ。その砂漠のオアシスがある場所に町が出来てる。あれがヒーリアスか。時間があれば今度いつでも行けるようにファストトラベル登録をしておこう。
「にゃーる。ガイド頼むな」
「任せるにゃ! とりえあずあっちの方向にゃ!!」
「了解」
『聞こえっか? チーザーだ。目的地に着いたがもぬけの空だ。何も残っちゃいねぇ』
『孤島もいないわ。いた痕跡はあるけど島には人の気配なし』
「ってことはニャー達が当たりって事にゃね」
『そうなるね。ヒーリアスで一旦合流しよう』
『居残りのマイだけどこっちの索敵範囲に人影無し。今の所は報復とかは平気そうよ』
「了解にゃ! そういう事にゃマスター。ヒーリアスに方向転換にゃ」
「了解だ。ちょっと回るぞ?」
「にゃー!」
くるりと方向転換し、空を踏んで反動を受け止めながら町へと跳ぶ。身体に受けるGは強いが全部受け止めて『星波ピスケス』の動力に回す。
「空中ジャンプならぬ空中ブレーキとかもはや飛行機にゃね。マスターヤバすぎにゃ」
「それ貶してる?」
「褒めてるのにゃ。あ、初めて入るにゃら正門に行くにゃ」
「ってことは・・・あそこか」
特に行列も無いしすぐに入れそうだ。上から入れば許可もくそも無いが、入る許可を貰わない理由も無いので正門前に飛び降りる。
門番は上から来た俺たちにびっくりしていたが、とりあえず話をして町に入る許可は貰えた。
砂漠のオアシスに出来た町ヒーリアス。過酷な環境で生活するために適応した町。
大きな建物はないが、町をぐるっと囲む城壁が特徴だ。また、オアシスの水を枯らさないための工夫もされており。水路などは日陰になるように日よけのタープなどが張られている。
「ヒーリアスの水は美味しいのにゃ。帰りにお土産で買うと良いのにゃ。こっちにゃよマスター。ファストトラベル地点の噴水まで案内するのにゃ」
ヒーリアスのうんちくを聞きながら、にゃーるについて歩いていく。ここでも露店は多く見える。品物は砂漠の町らしく水に関係する品物が多いように見える。
それにプレイヤードの数も多い。そういえばこの前メインシナリオがあったって話を聞いた。その舞台がこのヒーリアスと向こうの星見砂漠だと言っていた。
故に復興とかでプレイヤードが多いのかもしれない。
辺りをきょろきょろしながら歩いていると、建物の陰に不自然な格好をした奴がいた。
見るからに死神って感じの黒い衣装。闇にまぎれるような佇まい。怪しさ満点過ぎるだろ。
しかし、特に何もアクションを起こす気配も雰囲気も今の所は無さそうだ。だが、要注意人物として呼吸と気配は覚えておこう。すると相手もこちらに気付いたのか、スッと影の奥へと消えていった。
「どしたにゃ?」
「いや、とりあえず何でもないよ」
「おーいマスター! こっちだこっち!!」
噴水エリアに到着したみたいだ。既に俺達以外は全員揃っていた。
「おいマイ。全員揃ったぜ。状況は?」
『変わり無しよ。そこに居なかったら今回はお手上げね』
「だそうだ。マスターもいいな?」
「流石に探す方法無かったら仕方ないしな」
まぁ、定期的に三か所を見回りに行くくらいはしよう。それで見つけたら可能な限り討伐していけばいい。毎回集めて回るのも申し訳ないし。
「砂漠走るからネクロロンとテイマーズはマスターにでも運んでもらえ。俺らは自前で砂漠爆走できるからな」
「凄かったにゃ! マスターの『星波ピスケス』!」
「とりあえず録画だけ回しとこっと」
「ちょっとわくわくするね」
「皆準備良さそうね。それじゃぁ行きましょう」
レイレイの号令と共に星見砂漠へ向かう。さて、いてくれると助かるんだがな。
ーーーー
砂漠を走る事一時間。目的地に着いた。そこは砂漠の真ん中にぽっかりと空いた大穴。聞いたところによるとメインシナリオのボス『エレティコス』と言う邪神が作った穴らしい。
穴の全長からして、相当デカいモンスターだったんだろう。
「誰か気配探知のスキルあるか? 魔法でやって気づかれるのは避けたいぜ」
「任せろ。スキルじゃないが自前でわかる」
意識を集中させ、振動を足で感じる。足元が砂なので振動は微弱だが、かすかに感じはする。気配は………うん。いるな。大勢いる。
「大穴の底に大勢いる。ターゲットなのかはまだわかんねぇけどな」
「にゃーのスキルでも確認したにゃ。全員レッド。PKにゃね」
「はっ、大当たりか」
「それと………一人やべぇのがいるにゃ。多分にゃーのスキルに反応した奴がいるのにゃ」
「………それはちとやべぇな」
にゃーるのスキルは居合切りに特化したスキル。その為相手を的確にとらえるための能力を持っているのだが、それに反応した相手がいると言うのはつまり。そういう事だろう。
「ちっ、表に出て来てない覚醒者が居やがったか」
「どうする? 俺とにゃーるが相手しようか?」
「おいマー坊。にゃーを巻き込むにゃ。良いけどにゃ」
覚醒者同士なら数で押し込めば勝てるとは思う。けど。
「いや、そいつの相手は俺がする」
なんとなくマー坊たちじゃ相性が悪い気がする。根拠も何もない直観だけど、でも、そう感じたんだ。
「いいのかマスター? 相手は間違いなく強いぞ」
「だからこそだよ火力魂。この中で一番強いのは俺なんだろ? なら大将首は俺がやる」
それに、一番強い奴と戦いたいって気持ちも無い訳じゃない。売られた喧嘩を買うだけだが、それでも、戦うのならば強い奴と戦ってみたい。
「そういえばそうだったな。なら任せる」
「マスター。相手は黒い外装の鎌持ちにゃ。見たら分かるにゃ」
「わかった。さて、それじゃ全員準備は良いか?」
「「「「おう」」」」
「「「いつでも」」」
「うん」
「にゃー」
「OK☆」
準備を終えたのを確認して、マイから預かった魔導書を起動する。一定時間転移魔法を阻害するマジックアイテム。これで連中が逃げることは出来ない。
「さぁ行くぞ皆。悉く敵を滅ぼそうか」
ほぼ同時に、大穴内部へ向かって、砂の壁を滑り降りる。
「流石に向こうも気づいたにゃ。まだにゃー達を捕捉はしてにゃい見たいだけどにゃ。あの野郎にゃーたちの事黙ってるみたいにゃ」
「はっ!! 舐めてくれるぜ!! なら先制攻撃行くぜお前ら!!!」
「オッシャ一番槍はこのマー坊が貰ったぁ!!!」
「若い子は活気があっていいねぇ」
「爺さんだって若いよ全然」
「あはは、火力くんありがとう」
「『光乃祝福』。テイマー、ネクロ、いいわよ。ステータスの暴力見せてやりなさい」
「準備良し!! 緊急生配信開始するよ!! ミッション、闇クラン『デスサイズ』を殲滅する!! 夢見こころはネクロロンで出る!!」
「僕の錆落としに付き合って貰うよ!!」
「目覚めたまえ、宿る魂、誇りを持って立ち上がれ『天真解禁』。アハー☆ いっくよー☆!!」
「『ブレイブエンハンス』『ブレイドエンハンス』『アンチレイザーエンハンス』『剣聖の御業』『剣真解放』『月精霊の加護』!!」
「にゃはは!!! 『居合仙眼』!! 有象無象諸共皆成敗にゃ!!」
「『幻影召喚・破壊の魔人』!! いけやオラァ!!」
全員が突っ込む。それぞれが得意とする能力を解放して大穴内部に仮設された拠点へと。さて、俺もターゲットを捉えた。まさかこんなに早く再開するとはな。さっき見つけた怪しい奴。
相手も俺を見てすぐに動き出した。魔法のエフェクトが見えるから自己強化系の魔法を積んでいるんだろう。
距離が少し離れすぎている。足場も良くないから、下手に手を出すよりも、素直に強化させてやった方が被害は少なそうだ。
他の面々は既に戦闘状態だ。怒号と轟音が響き渡る。あちこちで聞こえる戦闘音がその激しさを物語る。
強化を終えたのか黒装束の男が動き出す。おいおい、俺を無視して他の所に行くんじゃねぇ。
「『LAAAAAAAAA!!!!』」
「っ」
意識と気迫を一点に押し付け、黒装束の動きを止める。黒装束もすぐに切り替えたのか、こちらへ向き直り飛び込んできた。武器は鎌か。またマイナーな武器を使う。
迎撃するようにシマカゼを抜刀。振るわれた刃に合わせてシマカゼを合わせ、受け止める。
「俺に牙を向けるか! 蛮勇か英断! どちらだろうな!!」
聴こえてきたのは男の声。見た目と武器から死神と呼称しよう。と言うかまんま死神って感じだしな。
「テメェを斬れば全部分かるだろうさ」
左手に鞘を持ち鎌を振り払う。死神は鎌を引き、別方向から再び振るってくる。
刃のついていない柄の部分に鞘を叩きつけて再び迎撃。
ちっ、此奴戦い慣れてやがるな。空中落下戦をしてるとは思えないほど動きがいい。落下での負傷はないと考えた方がいい。
上から死神が鎌を振るい、下で俺がそれらを打ち払う。
何度も何度も繰り返される攻防だが、そろそろ着地の時間だ。
「『十六夜』」
瞬時に鞘に納め抜刀。死神は上手い事一閃に合わせて篭手でガードを決めた。ジャストガードって奴か。吹っ飛ばすことも出来なかった。が、今だけはそれでいい。止められた刃を軸に身体の位置を入れ替える。
俺と死神の上下が入れ変わり、勢いそのまま俺は見えてきた地面へと着地すべく、自ら地面へ吹き飛ぶ。
くるりと態勢を立て直し、死神よりも一歩先に地面に降り立つ。そして死神が着地する前に吶喊。右手にはシマカゼを、左手には鞘を持ち、二天一流が如く剣を振るう。
「ハハハハッ!!」
死神の行動はシンプルだった。着地の為の態勢だけを整えて、真正面から斬りあいを挑んできた。俺と死神の攻撃が交差する。その衝撃で死神は未だ地面に着地しないが、一本の鎌で二刀流で斬り結ぶ俺の攻撃を捌き切る。
いや、認めよう。此奴の方が早い。マイナーな武器を使ってると侮ればこちらが首を落されると感じるくらいには使い慣れている。
俺が一撃叩き込めば、死神は一撃と次の行動の為の予備動作を既に終えている。上を取られていないのは此方が二刀流紛いの手数で攻めているからだ。
と言うか、本当に早い。一手一手の動き始めから、次の一手までの動作に無駄がない。PKと言うものを多少舐めていたかも知れない。
対人戦に特化した連中。相対してみればこんなにも厄介な相手だとは。魔法と言う剣聖物語時代に存在していなかったものがあるとはいえ、これは賞賛すべきだ。
「『月下美人』」
薙ぎ払い、叩き割る。動作と隙はデカイが死神の技量を見極めるにはちょうどいい。薙ぎ払いは回避、叩き切った一閃は空中ジャンプで回避。
「『大車輪』!!」
出来た距離を利用して縦方向に回転して死神が振ってくる。防御は………ダメだちょっと目で追いにくい。素直に後ろに下がって回避する。
叩きつけられた一撃は砂を巻き上げ、視界を奪う。
「『首狩鎌』!!」
「『月波』」
砂埃を吹き飛ばし、死神が俺を両断せんと鎌を振るう。一撃に合わせてシマカゼを合わせ、受け止める………多段攻撃か。身構えていて正解だった。
「クァハハハハ!!!!」
しかも連続攻撃系のスキルかっ! 一撃止めても動きと速度は変わらない。けれど追えない速度ではない。一手間に合う。
死神の速度も込みですさまじい連続攻撃だが、防御は間に合う。気配からどこを狙ってくるか追えるので、そこに合わせてシマカゼを置くように合わせる。
一撃が重い上に多段攻撃なので両手持ちで対応するしかないのが歯がゆい。片手が開けば鞘でのカウンターを叩き込めるが、出来ない事を強請っても仕方がない。
無軌道に無差別に振るっているように見えるが、どの一撃も急所狙いの攻撃。主に頸動脈などの出血が多くなるであろう場所、あるいは俺が行動不能になる場所を的確に狙ってくる。
「なんだ防戦一方ではないか!!! クアァハハハハ!! 何時まで持つかなぁ!!?」
「悔しいが確かに防戦一方だなオイ!」
「仲間に助けを求めろ!! 自分の弱さを無様に晒せ!!」
「生憎それは出来ねぇ………なっ!! 『月光閃』!!」
確かに現状速度では敵わないが防御は間に合ってる。なら防御と同時に反撃を叩き込む!
衝撃を乗せ、ゼロから爆発的に加速させた一閃で死神を鎌諸共吹き飛ばす。
野郎、こっちの反撃に合わせて手の甲で鎌の柄を叩きやがった。それでほとんどやり過ごされた。またジャストガード系のスキルか。本当に厄介なスキルだ。
「なら死んで己の未熟さを知ればいい!!『魂殺』!!」
直後、感じるのは受けてはいけないと言う危険信号。これは不味いと経験が悲鳴を上げる。
「『ピスケス』!」
無理やり身体を吹き飛ばし、転がるようにその場から離れる。死神の一撃は空を切り、特に見た目ではおかしな部分はなかった。が、あれを受けては絶対にいけない。『魂殺』と言ったな。あのスキルは気を付けよう。
幸い大振りの一撃だったので回避は十分間に合う。
「なんだ回避したのか………無駄に勘だけは良いようだなお前………なら、これならどうだぁぁ!!!」
心の悲鳴が鳴りやまねぇ! あのスキル持続系のスキルかよ! 本当に対人戦特化のスキル構成なんだな畜生!!
速度はそこまで速くないから回避は出来るが、防御できないのと、まだ本気なのかも判断できねぇ、下手に反撃を狙って殺されたら目も当てられねぇ! 回避一択!
今度の攻撃は本当に乱雑だ。ただ当てようとする攻撃だから見てからどこを狙ってくるか見極めて回避しないといけない分、さっきよりもめんどくせぇ!
あと足場!! 砂の足場はやっぱり踏ん張りがきかねぇ!! 『月風』を常に使い続けてギリギリ回避が間に合う程度にはやりにくい!!
が、他の場所もどっこいどっこいだ。やるしかねぇ!!
と言うか死神の野郎はそんなのお構いなしに動き回ってるな此奴! スキルかアイテムか知らんが立地条件で有利取れてるのはさぞやりやすいだろうな!!
さっきからあーでもないこーでもないと叫ぶ余裕を見せながら攻撃を飛ばしてくる。
「覚醒者だと! 自分が特別だと! そう思って戦うお前らの天敵こそ俺だ!! ただお前らの様な奴らを殺すためだけに!! 俺はここにいる!!」
「そうかよっ!!」
「先導者にでもなったように振舞う!! 自分たち以外を見下して!! 取るに足らんと振舞う貴様らが!! ここで死ぬ!! 全員この手で殺す!!」
速度が上がり始めやがった。此奴テンションで動きにキレが増すタイプの人間か。めんどくせぇ奴。
「レスバがしたいなら勝手にやってろ!!」
「言い返せないのか!! そうだろうな!! 事実だ!! 俺は故に!! 俺だけが貴様らを殺す資格を持つ!! この力こそ!! その証!!」
「あぁそうかよ!! チィッ!!」
悲鳴は止まらない。スキル持続時間なげぇな畜生! ここまで来たら永続スキルと考えた方がいいか! 防御不可の攻撃は月光真流とも桜花戦舞とも相性悪いからやりにくい!!
だったら………!!
「『ピスケス』!!」
過剰気味に砂を蹴り、身体を宙へと放り出す。一瞬、死神の視線が俺から離れた。この一瞬で充分!!
「奥義!!『響詩ヴェルゴラ』!!」
蓄えた衝撃を攻撃ではなく、身体能力、正確には運動神経の電波信号をより早く伝えるための衝撃に書き換える。
身体にかかる負担はデカイが根性でカバー!! 具体的に言うなら常に二倍くらいの重量を背負った感じ!!
「判断を誤る!! それが貴様らの弱さだ!!」
死神が俺を追って宙へと跳び上がる。地面は砂埃一つ巻き上げていない。俺の考え通り地形無視、あるいは空中浮遊系のスキルかアイテム装備中の線で確定か。
「死ぬがいい!! 己の判断の甘さを噛みしめて!! 死ねっ!!」
「さっきまでと同じと思うな!!」
防御できなくとも、軌道を逸らすことは出来る。ジャストガード? 関係ねぇ。持ち手の指だけを斬りに行けば勝手にテメェで軌道を変えざるを得ないだろうよ!!
「っ!!」
「さっきの言葉!! そのまま返す!! 勘がいいなお前!!」
死神は無理やり攻撃の軌道を変えてシマカゼの刃を防ぎに動いた。響き渡る剣戟音。
同時に収まる心の警告音。スキル発動中じゃこっちの攻撃は防御できないってか!! 良い事知った!!
「ハァァァッ!!」
「チィィッ!!」
攻守が逆転した。持ち手の指を集中的に狙う俺と、振るわれる刃を防御に回す死神。
『ヴェルゴラ』の反動で身体が重いがまだまだ許容範囲内! 少なくとも此奴の太刀筋ならぬ鎌筋を見極めるまでの時間は稼げる。
一挙手一挙動に集中する。どう攻めればどう防ぐのか、防御時の身体の動きは? 軸の位置は? 重心の傾きは? 攻撃を防御した際、衝撃の流れはどうなっているか? 繰り返す攻防の中で死神の動きを全て視る為に思考回路を回す。
視ろ。識れ。魅ろ。未ろ。
このわずかな時間に、全てを知れ。
「調子に乗るな!! 『魂殺』!!」
「『ピスケス』!!」
距離を取り、地面に着地する。同時にヴェルゴラも一時解除。身体にのしかかっていた重量の様な衝撃が消えて軽くなる。神経を研ぎ澄ますと負荷も増えるから、使い時は間違えられないな。
死神のスキル使用時の動きは死なば諸共、あるいは肉を切らせて骨を断つかの如き一撃だった。見た目に変化はない。ただ再び鳴り響く心の悲鳴が教えてくれる。
「お前は見えているとでもいうのか!? 堕落し、傲慢に満ちた覚醒者である貴様が!! 天敵たる俺の力を!!」
再度衝突する俺達。けれど先ほどよりも余裕がある。
「手の内を晒しすぎだよお前!!」
力の入り方。動き出し。呼吸の入れ方。全てが手に取るように解かる。鎌を横に振るう時、僅かに重心が後ろに動く事が、鎌の軌道を無理やり変える時、どこから力が入っていくか。
「愚かな!! 慢心が過ぎる!! 偶然が生んだ産物を偶然ではなく必然と言う!! 貴様ら覚醒者が陥る典型的慢心!! その慢心が貴様を殺す!!」
心臓狙い。脇腹、足首、耳、胸。
繰り出される攻撃を回避しながら、より精度を上げて、より最適化して。自己進化を続けるが如く、身体を動かす。
「っっ!!」
焦り、あるいは悲鳴。死神の表情がようやく変わった。覚醒者の天敵種を名乗って力に溺れていたように見えた表情から、余裕が抜け落ちる。そうして死神は初めて自分から、俺から距離を取った。
「ありえない!! この力は覚醒者の天敵種!! あらゆる力は晒けだされ!! 貴様らはただの個人へと戻る!! なのに何故!! 何故!! 何故!!」
まるで狂ったように死神は声を張り上げる。答える義理は無いので放置。それよりもだ。
「終わったか」
「あぁ、終わったぜ、PKだから手こずると思ったが想像より雑魚だったぜ!」
「皆見てるよね!! 闇クラン残り一人!! あとはウチのマスターとやりあってる奴を倒せばお仕事終わりだよ!!」
チーザーが戻ってきた。続くのはネクロロン。そして他メンバーも次々とこの場にやってくる。
「掃討完了☆」
「まだ一人残ってるけどね」
「アール相手にここまで持つか、なかなかやるなアイツ」
「でもレッドネームにゃ。大人しく牢獄行くにゃ」
「こういう時仙人眼のにゃーるさんが羨ましく感じるよ」
「マスターめ。俺が打った刀を使っていないのか」
「思ったよりもこのゲームのPKって実力無いのかな? それとも対人戦の心得を知らない?」
「どっちもでしょ。害悪PKって時点で弱い者いじめしかしない連中よ」
「いや十分強かったと思うんだけど!!? 僕かなり苦戦したんだけど!!?」
「それはお前が弱ぇえからだよ愚弟」
「酷い!! これでも僕だってカンストさせてるんだけど!!?」
急に騒がしくなったな。
「どうするよアール。全員で殺るか?」
「何にゃマー坊。獲物横取り希望かにゃ?」
「ちゃうちゃう。その方が早く終わるだろ。別に高潔な戦い、決闘って訳じゃないんだ。アールだって手柄欲しくて喧嘩買った訳じゃねぇだろうし」
「言われてみればそうにゃね」
「ククク………k「いやいい。お前ら手を出すな。俺一人で充分だ」………っ!!」
見逃すかよ。マー坊が手を貸す云々の話をしたとき、死神は僅かに余裕を取り戻し、笑みを浮かべた。この圧倒的不利と思われる状況でだ。
「此奴の能力は対峙する覚醒者が多いほど強さを増す能力だ。囲んで戦えば逆に強くなるだろうよ」
ビンゴ。笑みが消えて驚愕が残った。詳細は不明だがな。
「うわマジかよ、クソメンドクセェ能力持ってんなコイツ」
「うわぁ………覚醒者特攻の能力持ちとかうわぁ………」
「それなら援護もしない方が良さそうだね。皆観戦に徹しようか」
「おいマスター。どうせなら俺が打った『フレイムエンペラー』を使え。武器なら問題あるまい。武器の固有能力のトリガーは『爆炎刀』だ」
「せっかくの要望だ。答えないと男じゃないな」
シマカゼを収め、携えたもう一刀、火力魂から譲り受けた刀『フレイムエンペラー』を抜く。刃は赤く、燃えるような波紋が映る。重さはシマカゼよりも重いが、片手で持てる重量だ。
「見せてくれマスター。俺の理想。俺の求める究極の焔纏う剣士の姿を」
「おー見て分かる大業物!! 鬼に金棒! 勝ったね!!」
「ちょっとおいネクロロン。それフラグじゃない。不穏なこと言わないでよ」
不穏なフラグが聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
「………何故だ………!!」
そして、多くの隙を見せていたにも関わらず、動かなかった死神がようやく構え直し、口を開く。
「何故!! 何故!! 何故!! 何故慢心があるにも関わらず戦える!? 貴様ら覚醒者を殺すための力を前に!! 何故平然としてられる!!?」
それは焦燥。あるいは悲鳴。死神はあるがままの事実を受け入れられないように叫ぶ。
「そりゃテメェ。うちの大将が手ェ出すなって言ってんだ。テメェに敵意向ける訳ねぇだろ」
「っっ!!?」
「まさかテメェ。俺らがそいつの言ったこと聞かねぇと思ってんのか? 舐めんなカス。テメェが戦ってる相手が誰だか教えてやる。この世界で俺達が認めた最強だ。まがい物でもねぇ、後付けでもねぇ。実力で成り上がった本物の剣聖だ。テメェ含めて俺達とは格が違うんだよ」
「っっっ!!?! ありえない!! そんな事があり得るわけがない!!」
チーザーの言葉を否定するように死神は首を振るいながら錯乱する。
「この世に存在する覚醒者はまがい物だ!! 与えられた力を当然のように振り回す!! 慢心し、人を見下し!! 堕落させる!! 故に俺が生まれた!! 全ての覚醒者を殺すために!! この力を取り戻した!! 貴様らが言う本物など!! ありえる訳がない!!」
「なんだコイツ。自分に酔ってるのか」
「宗教活動にゃら他所でやれにゃ。醜くてみてにゃれん。マスター。さっさと始末しちゃって欲しいのにゃ」
「動画的にもこういう発言はNGなんで早めにお願いしまーす」
「じゃぁ止めればいいのに………」
「甘いよテイマーさん!! それは私のポリシーに反する!!」
「何のポリシーだよ………まぁ、ルークの情緒にも悪いからアール。やっちゃって」
「そうだな………狂ってる奴をこれ以上狂わせるのは良くねぇな」
呼吸を再び切り替えて、意識を全て死神へ向ける。直後、死神の動きが止まる。額から流れ落ちた汗と涙。そして。
「アアアアア!!『魂殺』!!」
もはや理性も無く、本能のままに鎌を振り回して、獣のように突撃してくる。
別に情が沸いた訳じゃない。けど、これ以上狂って貰っては、戦った俺としては不満だ。
戦うならば最後まで自分の意志で戦ってほしい。例え負けるとしても、狂ったとしても、理性を投げ捨てて戦うなど許せない。別に高潔だとか崇高だとか言うつもりは無い。
ただ、戦うならば自分の信念と意志だけは貫いてほしい。それだけだ。
「月光真流極大奥義」
故に全力で、故に安らかに、理性も本能も失わせ、死んだことすら認識させず殺そう。
鎌を振るう腕を、刀を握りながら殴り飛ばし、胴体を大きく開かせる。
「『葬心葬祭アルゲディ 』」
心臓に叩き込む一撃の拳。拳から流れた衝撃は心臓の鼓動を歪め、動脈を狂わせる。筋肉が乱暴に伸縮を繰り返し、肺は呼吸を忘れる。
「 」
持っていた鎌を砂の上に落し、膝から崩れ落ち、泡を吹いて空を見上げる死神。まるで自分に死を授ける事を願う様に、無抵抗な身体を晒す。
「………名も知らないプレイヤード。お前の叫びは、お前自身にも突き刺さっていた事、解かっていたのか?」
死神は答えない。答えられない。俺の声はまともに聴こえてもいない。でも、言わないと気が済まなかった。
「お前は本当は、覚醒者なんてものになりたくなかったんだと、叫んでるようにしか聞こえなかったよ」
死神が落とした鎌を拾い上げ、空いた手で持って構える。
「『爆炎刀』」
刀、フレイムエンペラーが燃えるように焔を纏う。まるで死神の禊を行う様に、轟轟と燃える。
「その首、もらい受ける」
鎌で首を狩り、刀で心臓を切り裂く。首が飛び、心臓が輪切りになって、死神の身体は砂の上に倒れ込む。そして、砂に変わるように消えていった。
「生まれ変わったら、今度は狂わずに誠実に生きろよ」
空を見上げ、吹くはずがない風に乗って舞い上がる砂を視ながら、死神へと別れを告げた。
Q.アールに喧嘩を売るとどうなるの?
A.仲間引き連れて全力で買ってくる。
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