過去の過ち。クランの日常。
書き貯めの都合で更新頻度変わります。七月の確定更新日は毎月一日と十五日。
メンタル復活傾向。やっぱ職場の先輩の励ましの言葉って染みるにぇ
現実世界。今日はアルバイトの日。
とは言っても、最近向こうでも全く同じことし始めたから気持ちとしてはそれの延長なんだけどな。しいて言うなら俺とマスターの二人でのんびり回してるくらいか。
「いやー繁盛してたねぇ」
「想像以上にネームバリューあったんですねマスター達」
結局、営業時間ギリギリまで人が途切れる事はなかった。火力魂の店の方も、在庫含めてほとんど売れたらしい。取り分を差し引いても半年分くらいのクラン維持費が稼げたというのだから、多くのプレイヤードが火力魂の装備を求めていたんだろう。
チーザーも一緒になって何か売っていたらしいからそれもあるとは思うが。
今更だが生産職で覚醒者ってかなり凄い事だよな。
チーザーは裁縫師、火力魂は鍛冶師。戦闘職とはステータスに差があるはずだが、覚醒者と言う事実がそれを覆している。あとのメンバーは基本的に戦闘職。
マスターだけは生産も戦闘も出来る万能な錬金術師だからちょっと違うけど。
「真央くんのオムライスも大好評だったね」
「ですね。そのお陰って言うか、そのせいって言うか、しばらくメニューはオムライス系で固定しましたけどね」
あまりにもオムライスの注文が多すぎて、他に手が回らなくなったのだ。なので思い切ってメニューをオムライスだけに絞り、落ち着くまではそれで行くことにした。
落ち着き次第、予定していた喫茶店メニューの提供を始める事にした。
「僕はコーヒーさえ提供できれば文句ないからね。それに、マスターである君が決めたんだから僕も異論はないよ」
「こっちじゃマスターがマスターですけどね」
ちょっとややこしいな。あっちじゃ俺がクランマスターで、こっちではマスターこと、『加々美原千治』さんが喫茶店のマスターだし。
「ややこしいね」
「ややこしいですね」
「「アッハッハ!」」
「と言うか本当に驚きましたよ。マスターめっちゃ有名人じゃないですか」
世界に二十人くらいしかいない覚醒者の一人とか、ものすごいと思う。それこそ雲の上の存在だろう。
「いやぁ、好きが極まって気がついたらね。知っての通りお店があるから向こうにいる時間は少ないんだけどね」
こっちでの営業はマスターの家計に関わる大事な仕事である。そりゃどっちを優先するかと言われればこっちに決まっている。
因みに、俺もマスターも向こうに行ってない時は店は閉めている。流石にアキハ達だけに店を任せるのはまだ早い。隣にある我が家にはマイが結界を重ね掛けしてくれたので、俺とマイ、あとアキハ達以外の許可された人でなければ敷地内に入る事が出来ないようにしてくれた。
クランハウスの隣にあるからって興味持たれて留守中に来られても困るからな。
アキハ達にも誰か来ても扉は開けなくていいと言っておいた。とはいっても、誰かしらクランメンバーが隣のクランハウスにはいるので何かあったら助けてくれるだろう。
「そういえばこれ見てよ」
「なんですか? あ、これって」
マスターが見せてくれたのは動画投稿サイト。皆で倒したデスペラードの戦闘シーンとそのハイライト。ネクロロンが録画していたものだ。
「聞いたら運営と事務所が許可くれたみたいで、配信始めるみたいだよ。しかも普段のレベリングとかプラクロ生活もたまに生配信するっていってたね」
「流石動画配信者」
となると俺たちも顔出しすることになるのか。ちょっと緊張。
「でも凄いよね。早速再生数12万回超えてるんだもん。人気配信者ってすごいよね」
「12万って・・・ヤバいですね。大手の配信動画並みに再生されてるじゃないですか」
「コメントも見てよ。これとか」
「えっと何々・・・『初神者の動きスゲェ!!』『流石ネクロロン。ゲームを選らばねぇ』『覚醒者の戦闘シーン助かる』『サラッと刀一本で受け止めた女の子かわいカッコいいい!!』・・・まだあるのか」
コメント数も400を超えている。それに海外からのコメントも多い。プラクロは海外展開もしてるから見る人は多いと思うけど、まさかコメントするまでとは。
「一番言われてるのはアキハちゃんの初撃までの所とネクロロンの垂直走りだね。いやぁ凄いよね」
「確かに、そう言われると始めたばかりで垂直走りは凄いですよね。アキハはまぁ俺の子であり弟子なので当然です」
「アッハッハッ! その前だヨ。真央君の攻撃誘導とアキハちゃんへの信頼の現れが凄いって皆行ってるよ」
「あ、そっちですか」
「桜花戦舞の技能は未だプレイヤードでも検証中だからね。テスターって形で真央君が使ってるからそこからヒントを得ようと皆必死なのサ」
なるほど。確かにそう言われると納得。月光真流も桜花戦舞もまだまだ検証不足でスキル解放が進んでいないらしいからな。
とは言われても、どうやって使っているのかと言われると難しくもある。プレイヤードの常識の外でやってる事だから、スキルというシステムに落とし込んで説明するの難しいんだよ。
「そうだ。唐突に話変えますけど、マスターはクランについて何か知ってます?」
「ん? 何かって何だい?」
「ほら、あれあまりにも縛りが厳しいと言うか生々しいと言うか」
「あぁ、そういう事ね。知ってるよ。僕も当事者の一人だからね」
「ちょっと教えてもr「こんにちわー」・・・いらっしゃいませ。今日は皆さんお揃いで」
話を聞く前に、常連の奥様達が店にやって来たので仕事に切り替えよう。時間もそろそろ腹をすかせた学生がやってくる頃だ。喫茶店で一番忙しい時間帯だな。
さぁ、稼ぎましょう。
ーーーー
客足も途絶えて、静かな時間が戻ってきた。営業時間もあと一時間くらいなので片付けを始める。
「さっきの話だけど、クランの話だよね」
掃除中、マスターから話を振ってくれた。心遣いに感謝して色々教えて貰おう。
「えぇ。あまりにもプレイヤード側に厳しいから気になって」
「全部話すと長くなるんだけどね。片付けしながら話そうか。まず、プラクロ稼働時はここまで厳しくなかったんだよ。クランもギルドに報告すればそれで良し。クランハウスも必要ない。もちろん維持費もね」
何処ななく悲しそうな顔をするマスター。言葉を遮らず、最後まで話を聞くことにしよう。
「だから当時はもっと大勢の人たちがクランを結成してたんだ。NPCの人たちも僕らには基本的に友好的だから問題にもならなかった。クランを作って名を上げて、最強だったり有名人を目指したりそれは人それぞれだったけどね。とにかく皆自由にあの世界を楽しんでいたのさ。けど、プレイヤー全員が善人って訳じゃなかった。俗にいうPKって奴だね。対人戦を楽しむならそれはそれでいいんだけど、初心者狩りとか雑魚狩り、挙句の果てにはPKが集まってクランを結成して有益な情報を独占しようとする連中も現れた」
それは、うん。残念な事だけどあり得る話だ。それを咎める事は難しい。オンラインという事は不特定多数の人間が集うという事だ。良くない考えを持つ人だっている。
「まぁそれは良いんだよ。皆MMORPGだって理解してたし、どの時代もPKや害悪なんて言われる人はいるからね。問題は、その中でNPC相手に殺しを始めた連中が出た事だ」
「・・・」
「あるクランがキュリアスって言う大きな町でNPCの大虐殺を始めてね。目的はどこまでやれるのかと言う検証と自分たちの国を作る事だと豪語してたよ。兵士貴族平民関わらず大勢殺したんだ。事態を重く見た運営はプレイヤードの問題をプレイヤードで解決させようとシナリオを動かしたんだ。大虐殺を止めろってね」
自分たちの仕出かした事は自分たちで解決させる。エクスゼウスならそう考えてもおかしくないな。
「無論大勢の人が大虐殺を止めるために動いた。その時にはすでに皆あの世界に魅入られていたから余計だね。けど向こうからしたら鴨葱だった訳さ。勝手に獲物がホイホイ来るわけだからさ。事態はライーダってプレイヤーが覚醒者となったことで解決した。PKクランを壊滅させてようやく事態は収束したんだ」
「でも、NPCがプレイヤードに対する思いは変わったんですね」
「そう。彼らNPC人類はプレイヤードと言う種族に危機感を覚える事になった。死者は推定1200人以上。町は町としての機能を失い、多くの被害者を出した。それは瞬く間に全世界に伝わって、NPC人類はプレイヤードという種族を嫌悪するようになった。そこからは地獄さ。プレイヤードお断りの店舗が増えて、ギルドでも全てのクランの登録を抹消した。依頼の手配もしてくれなくなった。町を歩くだけで『人殺しの化け物』って罵声を掛けられることも少なくなかったね」
俗にいう差別。それが起こったんだな。知らないから恐ろしい。恐ろしいから知ろうとしない。これは実際の歴史でも立証されている。人種宗教何でもいい。自分とは違う価値観を持つ相手を認めず、おそれ迫害する。それがプラクロ世界でも起こった訳か。
「それが人類の総意として発表されたものだから僕らは焦ったよ。このままじゃシナリオに挑むなんて夢のまた夢。何が楽しくて支援の無い戦いに挑まなければならないのかってね。引退した人も少なくなかったよ。けど、僕を始めとした多くの人たちは立ち上がることにしたんだ。今までがあまりにも自由過ぎたんだ。なら、自分たちでルールを決めよう。世界に認められるように生き方を変えて、もう一度求めていた世界を作る為にね」
そうして語られたのはプレイヤーたちの行動だった。
あるプレイヤーは何度も王都に赴き弁明と今後のあり方についてを話すために謁見の申し出をし続けた。
あるプレイヤーたちは共存するためのルール作りを始めた。
あるプレイヤーたちは失った信頼を取り戻すためにNPC人類への協力を始めた。
「結果として様々なルールと法律を取り決めて王都から執行された。その一つがクランについてだよ。中身は真央くんが読んだ通り。かなり厳しいものになった。でもようやく僕らの世界復帰の為の一歩が踏み出せたんだよ。そこからはもう必死だったよ。信頼の回復とプラクロ世界での社会的地位の復帰活動。とにかく皆が一致団結して求めていた世界を取り戻すために頑張ったんだ」
「そんな時代が、あったんですね」
「プラクロ世界は現実世界の四分の一。現実で言えば約三か月から半年くらいかな。向こうだと一年と半年ほどかけて、ようやくもとに戻り始めたんだ。んでそこに運営から邪神関連のシナリオが突っ込まれてさぁ大変。けど、以前ほどとは言わなくても、各地から支援もあった。情報提供もしてくれる人がいた。店を開けて僕らを助けてくれる人もいた。僕らにとっての当たり前が返ってきた瞬間だったんだよ。結果邪神討伐は上手く行って、NPC人類からの信頼も回復。今ではこうしてクランを組んだりも出来るし、NPC人類と仲良くすることだってできる。まさに世界を自分たちで変えたんだよ。僕が覚醒者になったのもその時さ。詳細は教えてあげないけどね。これは僕だけの思い出さ」
悪意は広まりやすく、染まりやすい。そのジレンマから抜け出すためにどれだけ大変だったんだろうとは思う。
けど話を聞く限りプレイヤード全員が一致団結して手に入れた、取り戻した世界だ。きっと他のゲームよりも思い入れが強くなったんだろう。
「大変だったんですね」
「まぁね。けど、想像の通り僕らはあの世界に強い思い入れを抱くようになった。同時にルールや法律が何のためにあるのかも理解した。そういう意味では社会勉強としてはこの上ない経験だったね。さて、ここでクランについての話に戻そうか」
洗い終わったコーヒーカップを磨きながらマスターはキリっとした。
「まずクランのシステムを再建するために僕らが行ったのは犯罪を犯したプレイヤードをどうするかだ。どんな小さな犯罪でも、犯罪に変わりはないからね。それを取り締まる手段を作らないと集団を作る事なんて出来ないからね。ここで役立ったのが魔法さ。魔法使い職が様々な方法で魔法を作り出し、『咎人の烙印』って魔法を創ったんだ。この魔法自体に拘束力はない。けれどこの魔法烙印を付けられたプレイヤードは犯罪者になる」
「それ、悪用されない?」
「勿論。それを見越して対策済みさ。この魔法はNPC人類とギルドに認められた人だけがだけが使えるように創った魔法だ。誰もかれもが使える魔法じゃないよ」
咎人の烙印ね。そういえばジョブも咎人に固定される仕様になっていたな。
「んで、この烙印が着いた状態で死ぬ、つまりリスボーンすると、王都の地下牢獄施設で蘇生するようになるんだ。その時の状態は本で読んだ通りだよ」
「全アイテムロスト。ステータスリセット。ジョブを咎人で固定だったっけ」
「そう。咎人に許されるのは現実の犯罪者と同じように社会貢献活動だけ。でもこっちほどやさしくない。ファンタジー世界の罪人は扱いが酷いからね。まず牢獄で一か月分の労働を貸される。ここで間違えちゃいけないのは一か月間ではなくて、一か月分であること。そうじゃないとログインしないで過ごしてしまえば何もせずに解放されるからね。次に王都での社会奉仕活動。主に町の清掃やどぶ攫いとか、あまりやりたがる人がいない作業だね。これをまた一か月分行う。最後にギルドで奉仕活動を一か月分。つまり最低でも三か月間は奉仕活動に注力しないと罪人の証である咎人のジョブは外れないようになってるんだ」
「えっぐ・・・」
「まぁ犯罪歴だったり犯罪の度合いで期間は前後するけど、だいたい三か月が基本だね。最長だと向こうで終身刑の人もいるよ。実質BANされたって言ってもいいね」
「それを聞いたら軽犯罪でもしないように気を付けないとな。なぁ? もしかしてPKはいなくなったのか?」
犯罪者を取り締まる法律が出来上がったんなら安易なPKも犯罪扱いされる可能性がある。
そういった人たちは居場所を追われて、あり方を変えたか、ゲームそのものから離れたんじゃないかと思ったんだが、マスターの顔を見る限りそうでもないらしい。
「実はそうでもないんだよ。PKだって一種のゲームの楽しみ方。けど、そういう人たちも節度は持ったと言うべきだね。やり過ぎると魔法烙印付けられて犯罪者扱いだからほどほどに。けど、犯罪者になるって事も込みで楽しんでるのもまたPKって人種だね」
流石に簡単には無くならないか。オンラインゲームだし。けどそれ含めて現状で落ち着いてるんだ。民度はかなり良くなったんだろう。
「あとね。これは悪い話なんだけど、こういう規則やルールって言うのは必ず破る連中がいる。闇クランって僕らは呼んでいるんだけどそういう連中がいるんだ。申請もせず、世界の何処かに拠点を持っていて、PKは勿論、多少の犯罪にも手を出す。悪い連中さ。当然指名手配されて懸賞金も掛けられている。もし見かけたら遠慮なく斬ると良いよ。闇クランの主要メンバーの情報とクラン名は調べたらすぐに出てくるからね。寧ろ積極的に闇クランを狙っているPKKや『闇クラン壊滅』を掲げているクランもいる訳だからある意味で彼らを狙う競争率は高いよ」
ゲームだけどゲームじゃないって名言があったけど、まさにプラクロはそんな感じだな。自分たちでルールを決めて、そこに住んでいる人類と共存していく。
言葉にすればこれだけだけど、その為に大勢がたくさん大変な思いをして、苦労して今俺やネクロロンみたいな新規参入者が温かく迎え入れられる世界になったんだな。
「あ、ちなみにクランで闇クランを討伐するとギルドから好印象を得られるから、サクッと成り上がりを目指すなら闇クラン壊滅させると良いよ。維持費に関しては僕らは問題ないから、そこはマスターである君がどうしたいかで方針を決めていいよ」
「身も蓋もない話になったな」
「ま、ギルドも認可してないのにクランを名乗る連中に遠慮しないからね。名乗った時点で魔法烙印を押されてるから気にせずやっちゃって」
「わかった。まぁ、会わない事が一番いいとは思うけどな」
「君なら問題なく壊滅させられるとは思うけどね。火力魂から魔法を斬れる剣を貰ったんだろ? なら問題ないさ」
「相手からしたら鴨葱扱いかも知れないけどな」
色々知ることは出来た。あとは、ちょっとプラクロについて自分でも色々調べてみよう。そろそろ無知な自分とはサヨナラをしないと駄目だからな。
仮にもクランマスターだ。せめて皆に恥をかかせるような男にはなりたくないし。
ーーーー
「いやぁあのアールさんがクランを結成! しかも覚醒者八人も所属してるなんてもう私たちの間じゃその話でもちきりですよ!!」
「こらオルちゃん。あんまりしつこいと怒られるよ?」
「大丈夫だよマーガリン。この程度で怒りはしないさ」
ある日のプラクロ世界での一日。俺以外のメンバーは皆出かけているか、ログインしていない。んで、特にやることも無いのでこうしてクラン経営の喫茶店を開けている訳だ。
店員は俺とアキハ、ハルナにフユカしかいないので提供しているのはコーヒーを始めとした飲み物と軽食のみ。
ほとんど冷蔵庫から出せばすぐに提供できるからアキハ達しかがいなくても店は回せる。んでそんな日に来たのがクランの先輩にあたる『電卓騎士団』の面々。前に居なかったカフェインさんと言う方も一緒だ。
「・・・うむ。悪くないコーヒーだ。けどまだまだ甘いね」
このカフェインさん。『電卓騎士団』のクランハウスでうちと同じく喫茶店を経営しているとの事。時期を考えれば彼の方が先輩なのだ。
「あはは、コーヒー系統は老眼鏡の専門だから、俺はそこまでじゃないんですよ」
「そうなのかい。なら今度は是非老眼鏡さんがいる時に来店するよ」
しかも本人曰く現実でもコーヒーマイスターらしいので凄いコーヒーを愛してる人。そんな人に悪くないと言われれば、俺が淹れたコーヒーも中々の物じゃないだろうか。
「旨いなこのサンドイッチ」
「このホットサンド、中のチーズ伸びて美味しいわね」
軽食を注文してくれた胡坐ウェイとトリスたんからはいい評価を頂けた。ありがたい限りだ。
彼ら七人は今日店を開けて最初のお客さんだったので席は選びたい放題だったのだが、みんなして俺に近いカウンター席を選んで座っている。
話掛けてくるオルガン然り、俺から色々話を聞きたいようだ。と言うかさっきからずっといろんな話をしている。
「んでんで! どういったつながりがあったんですか!?」
「こらオルガン。それは踏み込みすぎ」
「だってお兄! 気になるじゃん!」
「それでもダメ。アールさんが優しいからって何でも聞くのは良くないよ」
「うぅ・・・」
「すみませんアールさん。うちの妹が」
リアル兄妹の兄アルトりすはそういうが、実際俺としては隠さなくてもいいとは思ってる。けどチーザーは現実でもかなり有名人なので、そこから勘繰られると、彼女のイメージが悪くなるので、とりあえず隠しておく。
何処から話が漏れて広がり、身バレするかわからんからな。情報社会を甘く見ない方がいい。
「秘密は誰にだってあるものさ。気になる年頃なんだろう? なぁオルガン」
「そう! そうなんです! 私、気になるんです!!」
「おいなんでどっかのアニメみたいな発言してんだお前」
「ノリ」
「・・・マジで疲れたら相手しないでいいですからねアールさん」
「良いじゃないか。面白い奴だよ」
「ヤッター!」
「あんまり調子に乗らん方がいいとは思うけどなー。アールさんリンゴジュースお替りで」
「毎度あり」
パチスロット追加注文ありがとう。飲み物の用意をしていると店の扉が開いた。四人組のプレイヤードだ。
「いらっしゃい。空いてる席にどうぞ。アキハ。メニュー持っていってあげて。あと水も」
「わ・・・わかった」
「頑張れ少女! なんちゃって」
「オルちゃん・・・」
何ともテンションが高いオルガンである。対照的にカフェインさんはずっとコーヒーと向き合って大人な雰囲気。その他はオルガンに呆れたり、食事を楽しんだりそれぞれだ。
「おい。店員」
「ひゃ・・・はい」
「食い物が少なすぎるんだが?」
「あの・・・その・・・」
あちゃー、今回のお客さん。あんまりいいお客さんじゃなかったか。
「あーすいませんねお客さん。今日は軽食だけなんですよ」
カウンターから顔を出しアキハの代わりに対応する。マーガリンとオルガンがアキハを呼び寄せてくれたので、逃げるようにアキハはこっちに来た。
「んでだよ。ここ喫茶店なんだろ。なんか作れよ」
「今日はほぼワンオペなんで出来ないんですよ。他に店員がいればよかったんですけどね。申し訳ないですけどそのメニューで納得してください」
「こっちはわざわざ食いに来てやったんだぞ? まともなメニュー持ってこいや」
「ちょっとアンタ達!! 黙って聞いてれば何なのさ!! 文句あるなら帰ればいいじゃん!!」
オルガンが声を張り上げた。
「部外者は引っ込んでろ! 俺らはこの店のそいつに話してんだ!!」
「だからって話し方ってものがあるでしょ!! 常識無いんじゃないのアンタ!!」
「あ゛ぁ゛!!?」
「オルガン落ち着けって!」
「そうよオルガン! 気持ちはわかるけども!」
不味いな。オルガンも相手にキレてる。オルガン側はトリスたんたちが止めてるけど、四人組側はニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべてる。
最初から騒動起こしに来た厄介な客だったか。
「そっちのお客さん」
「なんだ店員。マシなメニュー出す気になったか?」
キレてる男とは別の男が答えてくれた。
「帰ってくれ。悪いがアンタらに出せるものは無い」
「んだとテメェ!!」
厨房兼カウンターから出ていき、アキハを厨房へと避難させる。位置関係的に何かあってもアルトりすたちが盾になってくれるだろう。
「言った通りだ。こっちにも客を選ぶ権利はある。喧嘩目的なら帰ってくれ」
「なんだテメェ!! 強い連中の親玉やってるからって良い気になってんじゃねぇか!? あぁ!!?」
「だったらなんだ? お前らに関係あるか?」
「だったら現実を教えてやるよ雑魚が!!」
武器を抜いたな。どこからともなく出現したのは槍。全く、荒事を起こすんじゃねぇよ。あとで修繕の為にマイに魔法を頼まないとな。
「今ならまだ騒ぎ程度で納めてやる。痛い思いしたく無かったら早く出てけ」
「上等だテメェ!! ぶっ殺してやる!!」
「そうか、なら、遠慮しない」
全員が立ち上がった瞬間に距離を詰める。懐に入り込んで外目掛けて掌底を叩き込む。
一人。二人。後ろの二人が動き出したな。蹴り飛ばすか。
一歩前に踏み込んで軽く飛び、ドロップキックの感覚で腹のど真ん中を蹴り飛ばす。
ほぼ四人全員が同時に店の窓を割りながら外へはじき出される。
蹴り飛ばした反動を制御して着地し、あとを追う様に外に出る。
「もう一度言う。失せろ。不要な殺生をする気はない」
「てんめぇ!! 俺らに手を出すって事がどういうことかわかってんだろうな!!?」
「知らん。そもそもお前らなんぞ迷惑客に興味もない」
アキハをビビらせたってだけでこっちとしてはもう面倒な客ABCDでしかない。
「俺たちは『デスサイズ』の構成員だ!! お前もう終わりだよ!!」
デスサイズ・・・確か昨日名前を見たクランだ。マスターが言ってた闇クランの一覧でな。まさかこんなに早く接触することになるとは。
でもよかった。つまり此奴ら魔法烙印を押された連中って事か。
「良かったよ」
「あ゛ぁ゛ん゛!!?」
「お前らぶっ飛ばしても罪にならないんだって思ったら安心したんだ。遺言なら聞いてやるぞ」
「死ねやてめぇ」
四人が動き出す。武器は槍に短剣。杖とハンマー。後衛は杖持ちだな。なら先に潰す。
「『月風』」
「っっ!!? んなっ」
前衛の間を縫って抜け、杖持ちの男の懐に入り込む。明らかな動揺の表情が見える。あんまり強くないなこいつ。
「まず一人」
持っていた杖を奪い取って、衝撃を乗せてそのまま腹に突き刺す。技や奥義を使うまでもない。その程度の相手だ。
「二人目」
突き刺さったまま杖を振り回し、近くにいたハンマーを持つ男に杖の尖った先を向ける。顔面に突き付けてそのまま吶喊。肉を貫く感覚と衝撃を感じながら二人目も討伐。
僅かに生きていた杖の男も手刀で顔を抉ってこれで確殺。
「っ!!?」
「三人目」
杖から手を放し、動揺の息が漏れた短剣持ちに接近する。男は乱暴に短剣を振り回す。刃から何か飛び散っているから毒の類だろう。触れないように姿勢を低くしてそのまま足を手刀で切り落とす。
バランスを崩した男が一瞬止まったのを確認してから、手に持つ短剣を取り押さえ、そのまま喉へと突き立てる。衝撃を乗せてそのまま地面に縫い付けるように突きさせば、毒らしき何があっという間に回り、顔色が黒くなる。
そしてピクリとも動かなくなった。
「・・・は?」
残る槍持ち。最初に喧嘩を吹っかけてきた野郎だ。あえて残した、という訳じゃないが状況がそう思わせる状況だ。
何が起こったか理解できず、動くことも忘れてただ棒立ちになっている。
「さて、特別に選ばせてやる。謝罪して安らかに死ぬか、抵抗して無残に殺されるか。三秒で選べ」
3
2
1
状況を理解出来ずに槍持ちの男はただ言葉を漏らすのみ。
謝罪はなし。ならさっさと始末しよう。
駆けて距離を詰め、まずは槍を奪う。関節を捻り上げて手の力を奪い、槍を手放させる。
手を離したのを確認したら首を空いている手でつかみ、大きく持ち上げ背負い投げで地面に叩きつける。呼吸を奪って防御を封じた状態で投げられた男は苦しそうに息を漏らす。
地面に倒れた男の顔面を蹴り飛ばし先に殺った短剣持ちの男の傍まで送る。
地面に落ちる前に槍を手に取り、駆ける。
走る衝撃と速度を乗せて姿勢を下げながら男二人を顔面から槍で貫く。
プレイヤードの血は設定している人によるが光の液体だったりするときもあるらしいが、俺は特に弄ってないので真っ赤な血だ。
出来るだけ血を浴びないようにはしたが、多少の血は浴びてしまう。
一応まだ生きてるか確認の為に全員に視線を向ける。なるほど、これがスキルの力か。まだ生きている。僅かに呼吸してるのがわかるし、心臓の鼓動音も聞こえる。よく見れば傷が少しだけ癒えている。
毒が回った短剣持ち以外全員まだこの状態で生きている。
それならばと毒が付着している短剣を男から抜き、生きている連中の心臓を刺し貫く。直度毒が回ったのかピクリとも動かない。
それを三回、三人に行えば、今度こそ全員死んだのか、粒子となって消えていく。返り血も粒子となって消えていくので綺麗にする手間が省けた。
そうして残ったのは男たちが持っていたアイテムが多数。それと所持金。財宝まである。相当ため込んでいたみたいだ。
闇クランを名乗るだけあって持ち物が多い。
「・・・これは人外ですわ」
「うん。手際があまりにも良すぎる」
「対人戦強すぎない?」
「手刀って初めて見たかも」
「闇クラン名乗っておいて惨敗するのウけるwww」
「どうせ大した調べもせずにのりこんできた馬鹿でしょうね」
「デスサイズと言ったか。確か賞金首だったな」
後ろでアルトりすたちが色々言ってるが、今はとりあえずこのアイテムを頂こう。一応PKにはなるが、賞金首扱い、すなわち魔法烙印を押されているプレイヤードは所持する全てをその場で失う。つまりここにあるアイテムは全て現在所持主不在のアイテムとなる。
「アキハ、ハルナ、フユカ。悪いけど手伝ってくれるか。全部倉庫に突っ込む」
「わかった」
「・・・りょーかい」
「えへへ・・・悪い事をしようとしたら天罰が下るって本当ですね」
「え? お嬢ちゃん達今の現場見ても何も思わないの?」
手伝いをお願いしたアキハ達が動くのに合わせてカフェインさんが声を掛けた。アキハ達は当然のように答えた。
「昔住んでた場所ではよくある光景だった。意見の食い違いでの殺しは当たり前だった」
「・・・こっちが子供で下に出てたから私たちは殺されなかっただけだし」
「えへへ・・・身の程を知った生活って奴でしたから。辛かったですけどアキハ姉さんもミナツもハルナ姉さんもいましたから幸せでした。えへへ」
「「「「「「「・・・」」」」」」」
絶句していた。そりゃそうだ。これが当たり前の日常だと言われて、平然としていられるプレイヤードがどれほどいるだろうか。
ゲーム世界ではあるが、こちらは平和な日本で生きてる人間。堅気ってやつで裏社会とはかかわりを持っていないはずだ。
「アルトりす。悪いけど臨時休業にする。また来てくれ」
「え・・・えぇ、解かりました・・・その、アールさんはもっと穏便に納めるつもりは無かったんですか?」
まぁ、そう思うのが当然だ。誰だってそう考えるはず。
「流石に相手は選ぶさ。けど魔法烙印を押された時点でこの世界の人からすれば脅威だ。その牙がいつ大切なアキハ達に向くか分かったもんじゃない。大事なものを守る為なら、悪魔でも天使にでもなんでもなるし、相手が誰であれ斬り殺すよ」
何が大事か、その優先度はつけている。俺にとっては家族が一番大事。次に大切な友人たちだ。その一番大事な家族に牙をむいた奴を、俺は許さない。
「アールさんって、ただ優しいだけじゃなくて、信念みたいなもの持ってるんですね」
「褒められたもんじゃないかも知れないけどな。まぁこれはもう俺が俺である証明みたいなもんだから」
さてと、デスサイズだったか。喧嘩を売る相手がどんな相手だったか、後悔させてやるとしよう。
設定が生々しいのが好きと言う人もいて、今日もプラクロは世界中で人気です。
感想・星評価・レビューにブックマークなど、作者月光皇帝の私の大好物です。
是非是非たくさん下さい。お願いします。




