剣聖の御旗の元に
チーザーからの提案。
似た者同士でクランを作ろう。
クラン。それは同じ志。あるいは仲のいい友人同士で組む党派のこと。まぁ良くある奴だ。
「俺は前々から思ってたんだ。あの時の仲間でクランを組んだら絶対に楽しいってな!!」
「クランか・・・悪くないかもな」
「そうね。組んじゃえばしつこい勧誘も無くなるだろうし」
「このメンツにゃら文句言ってくる奴は馬鹿にゃしにゃ」
「クランかぁ・・・でも配信あるからインする時間はあんまりないかも」
「みんなで遊べるのはいいな。でもネクロロンと同じで僕も時間取りにくいかもしれないけどいいかな?」
「僕も不定期で短時間ではあるけど、それでもいいならお邪魔しようかな」
「悪くない。メリットデメリットを考えてもこのメンバーで組むなら俺からも加入させてほしいと頼むくらいだ」
「アハ☆ 楽しそう☆」
皆割と乗り気だ。所で・・・火力さんが言ってるメリットデメリットって何? 本当に俺は何も知らないんだなとちょっと落ち込むが、そんなことはどうでもいい。
「アール。クランの説明するよ。まずクランは最低プレイヤード5人以上の構成員が必要なの。それからクランハウス。貸し部屋とかじゃなくてクランで所有する物件がね」
「なんだアール知らねぇのか。ならその続きは俺様がしてやる。クランハウスの場所は何処でも構わねぇ。ただしちゃんとした物件とクラン構成員に応じた条件を満たした物じゃないとクランハウスとしては認められねぇ。条件はクラン構成員全員が休息を取れる場所である事。広さがある事だ。分かりやすく言えばお前らが住んでるこの家みたいにちゃんと住める場所であることだ」
本当にハウスとして機能してないと認められないって事か。しかも構成員の事もプレイヤード五人以上と決められている。
「続きは俺が話そう。クラン結成時はギルドへの報告が必須だ。ギルドに認められて初めてクランと認められる。クラン結成のメリットとしてクランハウスには店舗の併設が許されている。武器屋。防具屋。加工屋などの装備に関わる事から料理店などの関係ないものまで何でも許されている。あと売るものにクラン名と作成者の名前を付ける事が出来る。その為にクランを作る奴もいるくらいだ」
店を持つためにはクランへの加入が必須な訳か。あ、だからゴザイの兄さんは露店をしてるのか。露店なら店舗ではないし、クランへの加入もしなくていい。聞いた限りゴザイの兄さんが出来ないのは自分の名前を武器装備に彫れない事くらいか。
「次はにゃーが話すにゃ。もちろん良い事ばかりじゃないにゃ。クランは維持の為に維持費をギルドに納めなきゃいけないのにゃ。納めないと闇クランとして指名手配されちゃうのにゃ。指名手配されると大変にゃよ。当然、クランハウスも押収されるにゃ」
「逆にちゃんと認証費を払ってクランとして名を上げれば店舗の宣伝にもなるし、クランとして依頼を出すことも出来るわ。それに貢献度に応じてギルドから仕事も回してくれる。これがシナリオに直結することが多いから受けて損することは無いわね。一部例外で依頼を出したり闘技場を運営してるやつがここにいるけど」
「え?」
ちょっとまって、レイレイが指さしたのは串焼きをしているマイ。ちょっと待って? マジで?
「いやーついに話す時が来たね。実はファクリアの闘技場運営私なのよ。名義は別だけど事実上の支配人は私」
「何言ってやがる。ファクリアの事実上支配者だろうがテメェは」
「ちょっとチーザー! 支配者じゃないわよ! ちょーっと有権者とつながりがあるだけよ」
・・・マイさん。マジですか。もしかしてマイの本当の収入源ってファクリアでの収入ってこと? マジかよ前に国作ったプレイヤードの話は聞いたけど、マイもその一人だったのかよ。
待てよ? それならもしかして裏町の事も詳しく知ってた?
「先に言うけど裏町に関してはあの時の私は詳しくなかったわ。アールが動いてアキちゃん達と会ってから現状を知った。今はちゃんと裏町含めて治めてるけど」
「あぁいや、なら良いんだ」
「・・・一瞬ものすごい顔したわね」
「したな」
「あぁもう! そういう顔されるって思ったから黙ってたのよ!! 言い訳みたいだけどアキちゃんたちに会うまで本当に裏町の治安があんなことになってるのは知らなったの!!」
「いや、嘘とは思ってないから大丈夫」
知ってて放置してたんならちょっと色々話すべきだと思ったけど、知らなかったんならとりあえずは良い。
「話が逸れれるけどまとめるとこうだね☆ クラン結成の為にギルドにお金を収めてクランハウスを経てて経営をしていく☆ 早い話がこういう事☆」
悪い話ではないだろう。色々やることはあるだろうけど、それでも、うん。
あの日あの時、同じ目標を掲げて一緒に頑張った大切な人たちとこうして出会える機会が増えるのは嬉しい。出来るなら、もし叶うのなら、今度は皆と一緒に戦いたいな。
「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」
ん? 急に皆黙ってしまった。
「此奴前もそうだけどサラッと人誑しの片鱗魅せるよな」
「わかる。本音をポロっとまっすぐ言うからグッとくるのよ」
「本当に嬉しそうな笑顔なのもあって余計にくるのよ」
「ニャハハ・・・悪い気はしないのにゃ」
「あぁー畜生。恥ずぃ」
「姉ちゃんのそういう顔見たの初めてかも」
「・・・アハ☆」
「あー・・・うん。これはダメだ。ちょっとキャパオーバー・・・」
もしかして、口に出てた?
「店の初恋泥棒何て言われるともあるからね」
「「「その話詳しく」」」
「あーあーあー!! それよりもクラン!! 組むんだろ!! 全員入るって事でいいの!?」
これは照れ隠しではありません! 話が逸れそうなので強引に戻してるだけです! そんな目で見るんじゃねぇ!!
「私はアールがいいなら当然入るわ」
「提案者の俺が断る訳がねぇ!」
「俺もこのメンバーで組むなら異論はねぇな」
「クランハウスで小さな喫茶店でも開いていいかな?」
「俺も小さくていいから仕事場と売り場が欲しい。折角だ。名を刻むのも悪くない」
「私は自由に使える共用倉庫が欲しいゾ☆」
「決めた。うん。僕もぜひ参加させてほしい。初心者だけどね」
「そっか・・・うん。うん!! 私も決めた!! 私も参加する!! 配信とか事務所とか難しいこと考えずに私が好きな事したい!!」
「にゃーは勿論参加にゃ!! 居合を極めるための協力者としてもこれ以上にゃいメンバーだにゃ!!」
「そうね。覚醒者八人もいるんだし鍛錬に関しては困る事無いわよね。当然私も参加で」
・・・まって?
ねぇまって? いま聞き逃せない話無かった? え? E? え? E?
八人? 今覚醒者八人って言わなかった?
「アールが宇宙猫みたいな顔してる」
「やっぱり知らなかったのねお前」
「アッハッハ! マイさんの反応の後に知ってるような反応してたからもしかしてとは思ってたけどやっぱりだね!」
「アハ☆ アールくん吃驚した?」
「あ・・・おまら・・・えっ・・!?」
「覚醒者?」
「テイマーさん何も知らない感じ? 私はちょっと調べて知ってた。この世界で二十人程度しかいないプレイヤーを超えたプレイヤー。俗にいう人外って奴」
「へー・・・皆そんなすごい人たちになってたんだね」
「私たちもこれから目指せばいいのよ! 同じクリエイション挑戦者として挑ませてもらうわ! 覚醒者への道!」
「悪くないね。やるからには高い目標を持とうか」
「おーいアールにゃーん。戻ってくるにゃ」
・・・ハッ!!?
「お前ら全員覚醒者なのっ!!?」
「「「「「「「「そうだよ」」」」」」」」
マイ、レイレイ、マー坊、チーザー紫、老眼鏡、火力魂、にゃーる、ももちゅん。新規参戦のテイマーズとネクロロン以外全員トップ層なのかよっ!!?
「・・・やべぇな」
「そうだろ? このメンバー揃ってて喧嘩売ってくる奴は早々いねぇ」
「と言うか世界の最高戦力が八人揃ってんだ。文句言えねぇだろ」
俺ですら開いた口が塞がらないと言うか、意見していい立場じゃないと言うか。
「何俺は無関係ですって顔してやがる。月光と桜花をスキルじゃなくて技術として使えるお前も十分人外だよ」
「あ、ちなみにアールは極大と最終奥義も含めて全部使えるって」
「「「「「「「「十分人外じゃねぇか!!? というか師匠マリアーデ確定じゃねぇか!!?」」」」」」」」
「僕は知ってたよ」
「・・・そう言われるとなんか安心したわ」
にゃーるとももちゅんなんて口調忘れてるし。と言うか皆地声だったな。
「え?え?え?え? マリアーデさんって師匠に出来るの?」
「出来ねぇから驚いてんだよ愚弟!」
「いやぁ・・・今世紀最大のネタですね。今からやり直して配信したら稼げそう」
「クリエイションクリア者はやっぱぶっ飛んでんなぁ」
「天然の人外ってアールみたいな人の事を言うのね」
「えぇ・・・そこまでかよ」
「前に僕も言ったじゃないか。それこそ公開すれば新聞の一面を飾れるよ」
そういうのはちょっと遠慮したいなぁ・・・
「ハハハ・・・オッホン☆ とりあえず全員参加って事でクラン結成だネ☆ じゃぁ結成記念であたらめて乾杯でもしよっか☆」
「そうね。そういえば始まりの乾杯もしなかったしちょうどいいわね。アキちゃん達もグラス持って。乾杯するよ」
手近にあったグラスをもって皆立ち上がる。クラン結成か。うん。最高の気分だ。
「オラお前ら行くぞ! じゃぁクラン『ブレイドエンセスター』結成とエレティコス討伐、あとアールの祝賀会諸々含めて乾杯!!」
「「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」」
チーザーの奴。クランの名前まで決めてたのね。
ーーーー
飲んで騒いで祝って。食事も一通り無くなってしまった。マスターが手持ちの道具でコーヒーを入れてくれたので、皆で味わっている。
「でだ。クランハウスの場所を決めねぇといけねぇ。誰か希望あるか?」
「なら俺から。アキハ達の事もあるから出来るだけルーキストに作ってくれるとありがたい」
これは俺にとっては重要案件だ。クラン結成したのは良いが、クランに全気力を向けるのは出来ない。家族が優先だ。
「私も同じよ。今日会ってアキちゃん達の事は知ってくれたと思うけど、まだまだ精神的には幼いからね。一緒に居てあげたいのよ。一緒に過ごせない時間ももちろんあるけど。可能な限り私かアールはアキちゃん達と一緒に居たいわ」
「僕も同意見だね。この子たちを放置しておくのは大人として見過ごせないかな」
「にゃーもそう思うにゃ!」
「俺は特に希望は無い。皆に合わせよう」
「そういう事ならクランハウスはルーキスト近辺に作るか。土地は見渡すほどあるからいけるだろ」
チーザーも同意してくれたしこの辺の問題は解決出来た。ならあとは皆の意見を優先してもいいな。
「だったらこの家の隣に作っちゃう? なんてな?」
「「「「「「・・・それだ!」」」」」」
え?
テイマーズのそんな一言に半数が乗っかった。
「悪くねぇんじゃねぇか? アールは基本家にいるんだろ? ならそのままガキ連れてハウスも行けるな」
「アール君なら軽食も作れるし、僕がいない時の店番も頼めるね。この子たちの社会勉強にもなって良いんじゃない?」
「にゃー!! つまり居合切りの極意をアキにゃんに教えてあげる機会も増えるって事にゃ!? 最高にゃ!!」
「・・・悪くないわね。アキちゃん達が人に慣れる練習にもなるし、戦う知識を教える機会も増える。何より知り合いが増えて頻繁に会えるのは悪くないわ」
マイまで乗り気だ。いや、別に俺も悪くないとは思うけど。でもいいの? そんな簡単に決めちゃって。もっとこうさ? 地形とかクランハウス立てるための物資の運搬や資金。土地代とか色々考えることあると思うんだけど。
ポンっと、肩を叩くのはマー坊。笑顔だった。
「アールお前の考えてることはなんとなくわかる。心配するな」
「マー坊」
「このメンバーがいればクランハウスは一時間で出来上がる」
「マー坊!?」
「そうね。チーザーが幻想魔術で仮組してそこにマイと火力さんの魔法と錬金術で構築すれば出来そうね。マイ。出来そう?」
レイレイ!? そんなこと出来るの!? いや流石にマイでもそれは
「出来るわよ。ジョブを錬金術師に変えてきてそれを魔法に落とし込めば余裕ね」
「なら僕も錬金術師に変えて来よう。内装を少し変えるならその方が便利だろうし」
「素材は有り余ってるからちょっと貸倉庫から全部持ってくる☆ 好きに使っちゃって☆」
「ねぇ!? ちょっとその光景録画してもいい!? 顔隠すから動画のネタにさせてくれない!?」
「それならにゃーも希望あるにゃ!! ちょっとした道場部屋欲しいにゃ!!」
「幸い土地の広さは十分ある。稼ぎも俺たちなら問題ないだろう。ふっ、これからを考えると久しぶりに高揚しているな」
「すげーな。皆そんなこと出来るんだ。うん。やれることが多くてこれから楽しそうだ」
うん。改めて思うわ。覚醒者って本当にすげぇ連中なんだな。
「所でよ? 水差すようで悪いけどクランマスター誰がやる?」
マー坊の一言で全員がぴたりと動きを止めた。
あーもしかしてこれはあれか? 自分はやりたくないパターンか、自分がやりたいパターンのどっちかでごたつく流れか?
皆自我強いからな。まとめるの大変そうだし。さて、どうなる事やら。とりあえず飛び火しないようにアキハ達をこっちに呼んで静観の構え。
「「「「「「「「「「「アールで良くない?」」」」」」」」」」」
「やっぱそう思う? じゃぁアールよろしく」
「なんでだよっ!!!?」
なんで今の流れで俺になるんだよっ!!? おかしくねぇ!!?
「いやだって」
「だってなんだよマー坊」
「この中で一番強いのお前だし」
「尚更なんでだよ!!? どう考えても下から数えた方が早いだろ!!?」
「「「「「「「「「「「またまた、御冗談を」」」」」」」」」」
「本気だわっ!!?」
一時間で家建てるとか出来ねぇわ!! そういう事じゃない? そういう事だわ!! それくらい出来る化け物連中に勝てるかっ!!? 少なくとも今は無理だわ!!
「はぁ・・・しゃーねぇな。おいアール。外出ろ」
「チーザー? 一応聞くけど何すんの? 決闘系は断るぞ?」
「ちゃうわボケ。お前の異常さを確認すんだよ。老眼鏡の爺さん。あとにゃーる。お前らも手伝え」
本当に何するの?
言われるがままに外に出る。あ、全員着いてくるんですね。
「アールはそこに立て。んでにゃーる。お前そこ」
「にゃー」
チーザーに言われた場所に立つ俺とにゃーる。何するんだろう?
「今から爺さんに頼んでアールにバフを掛ける。そしたら五秒以内ににゃーるの場所まで行ってタッチしろ」
「にゃるほど。つまりにゃーは目印ってことにゃ」
「そういうことだ。動くんじゃねぇぞ」
「にゃー」
「??? まぁわかった」
??? 意味が分からないがとにかく触ればいいのか。これで何がわかるんだろうか? 言われた通りにしよう。良くわからないし。
「じゃ、アールくん行くよ」
「いつでもどうぞ」
「『超過思考』」
「 」
なんだこれ。身体と思考が一気に切り離された感覚がする。いや違う。思考に身体が追い付いていない?
手を握ろうとしても全然握れない。正確には動いている。僅かにだけど。
これがバフ・・・いや、思考加速と言う意味では強化なんだろう。でも身体が思考に追いつけないから体が上手く動かせない。
いや、動かないと言うべきか。思考を回せど身体は動かない。と言うか既に五秒以上経っている気がする。でも止められない、あるいは解除されないという事はまだ五秒経過していないんだろう。
でも、うん。何とかなりそうだ。あくまでも思考だけが加速している。んでその思考に身体が追い付かない。条件反射で動こうにも思考が邪魔をする。もちろんなんも考えないでいることも出来ない。
なら、前に進む事だけ考えよう。
まずは一歩前へ
ーーーー
ようやく一歩進めた。まだ解除されないから経過時間は五秒無いのかもしれない。
なら二歩目だ。
なぜだかにゃーるの顔が凄いことになっていく。
ーーーー
進んだ。三歩目。
ーーーー
四歩進んだ。あと一歩進めばにゃーるにタッチできる。
ーーーー
五歩目。これで
にゃーるに手が届く。右手を伸ばしにゃーるの肩を叩こう。
ーーーー
にゃーるの肩に触れた。
ーーーー
すっと、身体と思考が元に戻る感覚がある。
「あーあーあー・・・うん。元に戻った」
声を出そうとすればすぐに声が出る。手も握れる。バフ?の解除をしてくれたみたいだ。
「にゃ・・・にゃにゃ・・・」
「テイマーとネクロロンは解かんねぇだろうけど、だいたいは今の見てアールの異常さがわかったろ」
「なぁチーザー?今ので何がわかるんだ?」
「オメェの思考能力の異常さだよ」
思考能力の異常さ?
「僕は相手に過剰なバフを掛ける事で自爆させる過剰術師と言う覚醒者なんだよアール君」
「へー。薬も飲み過ぎれば毒みたいな感じですね」
「そ、んで今君には思考能力だけを異常に発達させる魔法を掛けたんだ」
「あー、だから思考速度に身体がついて行けなかったんですね」
「・・・一瞬でそれを理解するのもやべぇんだよ。んでその上で五秒以内にしっかりにゃーるにタッチしやがった。と言うか見てるこっちはスムーズに動きすぎてビビったわ」
「そうにゃ。なんであのバフ受けて通常通り動けるにゃ?」
「そんなに変か? 考える時間たくさん貰えるから便利な魔法だと思うけど」
思考速度以外は普通っぽかったし、相手の動きを見てから自分の動きを出来るから使いどころによってはめちゃくちゃ強いと思うけど。
「「「「「「「アレを便利と思えるのはお前だけだ」」」」」」」
「事実上のデバフなんだけどね僕の魔法」
「おし次!! にゃーる!! 寸止めでアールに居合切り決めろ。んでアールは回避と防御してノーダメージで反撃しろ。ハイはじめ!」
「任せるにゃ!! と言うかそういってくれると思ってたにゃ!!」
「ちょっと!!? 決闘系は断るって言っただろ!!?」
「寸止めは決闘じゃないにゃ!! 試すだけにゃ!! 行くにゃ」
あぁいつの間にか刀構えてるし!! しゃーない! 俺も刀を・・・置いて来てるっ!! 回避一択じゃぇねか!!
いやまて!? さっきチーザー回避と防御しろっていたよな!? あぁもう! やることが多い!! やってやる畜生!!
集中。
呼吸を変えて、意識を相手に集中する。一挙手一挙動見逃さず。相手を視る。刀の長さからこの場所は既に有効範囲内。にゃーるは居合切りと言っていたから初速は早い。
さっきのバフを受けていれば簡単だが、受けてない以上今のままでやるしかない。
抜刀開始。にゃーるが動き始める。全身の動きを見て剣筋を推測する。胴体ど真ん中。倒れるようにしゃがめば回避は出来るが完全に視界からにゃーるが外れるからこれは除外。
なら素直に一歩後ろへ。いや、二歩くらい下がらないと逃れられない。
なら跳ぼう。
「『月風』」
刀の有効範囲外へと抜ける。直後、にゃーるの刀が走る。既に俺は範囲外へと離脱しているから当たらない。
にゃーるは直ぐに納刀し二撃目に向けて動き出す。さて、防御しろとは言われたが、どう防御しようか。白刃取り? 無理だ。にゃーるの刀が早い。装備も最低限のものだからやればこっちが負ける。
ならどうするか。
うん。まぁこれが一番だろう。
にゃーるの納刀と同時に今度は前へ。にゃーるの懐へと跳ぶ。
にゃーるの驚く顔が見えるが、すぐににゃーるも表情を戻し、抜刀の動きを取る。だけど、俺の方が一手速い。
「『月波』」
「に゛ぁ゛ッ゛」
刀の柄に手を添えて月波でその衝撃を受け止める。凄まじい衝撃だ。と言うかこれで寸止め出来るにゃーるの腕も凄い。これが覚醒者。いいや、にゃーるの努力の結晶か。
あとはノーダメージ反撃だったな。どうせ皆には話したし、今更隠すことはない。
「『葬心葬祭アルゲディ 』」
武器が無い訳じゃない。手刀という立派な刀がある。にゃーるの腹に当てるように放つ一撃必殺を叩き込むための一撃。にゃーるの呼吸に合わせて、出来るだけ苦しまないように、身体の自由だけを奪い取る。
「 」
「おっと」
がくんと崩れ落ちるにゃーるを腕で受け止めて、状態の確認。うん。意識はある。呼吸も出来てる。ちゃんと手加減できている。
出来るだけ優しく地面に座らせて、構えていた刀を拝借。ついでに鞘も一緒に借りて、上を向くにゃーるの首筋へ峯と皿で挟むように構える。
「おきろー」
「・・・にゃっ!?」
優しく鞘で小突いて体の自由を返す。
「チーザー。とりあえずこれでいいか?」
回避に防御、反撃。全部したしこれで良いだろう。
「出来過ぎだ馬鹿野郎。なんだオメェ」
「・・・にゃーの居合切りが負けたにゃ・・・完全敗北にゃ・・・最強の居合だと思い込んでいた結果がこれにゃのか・・・」
「えぇぇぇ・・・この結果は想像外すぎる・・・」
「アルゲディ・・・えっぐ・・・」
「生で見れた・・・!!!」
「これが私達養殖物とアールって言う天然ものの違いなのね」
「すごい!! これだけで動画に出来る!!」
「ほげぇ・・・」
「なんじゃこりゃ★」
「・・・ねぇマイ。あんたアレ相手にして勝てる?」
「あんたに協力してもらっても勝てる気がしないわ」
「わ・・・わぁ・・・アルゲディ・・・!!!」
なんか。想像以上にドン引きされてる。いやね? どんなことでも負けるのは嫌なんですよ。だからほら、つい本気になったんですハイ。
「理解しろアール。テメェは居合切りで言えば最速のにゃーるを瞬殺できるし、爺さんの過剰バフを受けて普通に動いた。んで個人戦になれば二人は覚醒者の中じゃ頭抜けて強い。その二人を完封できる実力があるお前が一番強いんだよ」
「でもマスターが他にもバフ使ってきたら流石にどうなるかわからんぞ?」
「僕が付与できる過剰バフは現状一つだけさ。その中でも対人戦で最も有効なのは超過思考だ。これを破られた時点で僕じゃどうしようもないね」
あ、そうなんですか。
「って訳だ! アール! オメェが俺ら『ブレイドエンセスター』のクランマスターだ。文句あっか?」
そのセリフって相手に自分を認めさせるときに使うセリフであって相手に自覚させるときに使うセリフじゃないと思うんですけどねぇチーザーさんよ。
「「「「っ!!!」」」」
「アキちゃん達も目を輝かせてるし、受けたらアール? マスターやって大変な事もあるけど出来る事も色々あるし」
アキハ達をダシにされたら断りにくいじゃん。うっわ滅茶苦茶嬉しそうな顔してる。まぶしいです。
「わかったよ。やる! 俺がマスターやりますよ! お前ら全員文句ないな!!」
「「「「「「「「「「「「「異議なし!!」」」」」」」」」」」」」
「じゃぁサブマスターは私がやるよ。アールの補助ならやらない理由も無いし」
「マジ? やったぜ。俺がやるつもりだったがマイがやってくれるならこれで俺様はついに完全フリーでやりたい放題だな」
「・・・もしかしてチーザー。アンタ他の勧誘しつこくてクラン組もうとしたのもあるわね?」
「おう! それもあった!」
「・・・はぁ、まぁいいわ。アールもマスターはともかくクランは乗り気だったし。はい全員とりあえずルーキストに行くわよ。決まったならクラン登録と土地の申請しないといけないし」
「そうだにゃ。うん!! 落ち込んだって仕方にゃい! むしろ伸びしろを見つけた事に喜ぶべきにゃ!! サクッと登録しませて修業にゃ!!!」
「その前にクランハウスの間取りを決めないとね。間取りを決めて作って・・・そうだね。どうせなら皆で一つくらい依頼を受けて今日は解散するかい?」
「おっ! いいね! せっかく来たんだ! モンスター一匹くらいは倒したいと思ってたんだよ」
「なら録画回してもいい? 投稿は事務所に確認してからになるけどせっかくなら思い出も込みで録画したいのだけど」
「私はOKだゾ☆」
「顔隠してくれるなら僕も大丈夫です」
「実はちょっと実戦で試したいことあったのよね。マイ。協力してくれる?」
「いいわよ」
「このメンツで行くなら・・・盗賊団の捕縛とかあったら受けるか」
「不殺の依頼か。子供もいるし悪くないだろう」
あ、依頼も行くの決定ですかそうですか。まぁ良いんだけどね。
アールの能力
・思考能力
・洞察力
『その間わずか0.2秒ッ!』を素でやる人間。これを努力で磨き上げて身に着けた正真正銘の人外。
感想・星評価・レビューにブックマークなど、作者月光皇帝の私の大好物です。
是非是非たくさん下さい。お願いします。




