盟友会、あるいは異世界オフ会
別名憑りつかれた者たちの宴。
GWは実家でゆっくりな作者です。誤字報告いつも本当にありがとうございます。
料理良し、天気快晴、窯とバーベキューの火おこし良し! 片付けも全部終わり!
準備完了!
早起きして頑張った甲斐があった。我ながら完璧な持て成しの用意が出来た。来てくれた人たちがこれで満足してくれると嬉しい。
「・・・じゅるり」
「はいはいハルちゃんはもう朝ごはん食べたんだからお客さん揃うまでは我慢だよ?」
「マミー、これは別腹。それに出来立ては美味しいんだよ。」
「駄目です。ほら、本でも読んで時間潰してようね」
「父さん」
「お父さんに頼ってもダメ。ほら、とりあえずテーブルから離れようねー?」
「あぁ・・・お肉ぅぅ・・・」
つまみ食いをしようとしていたハルナは今回、マイにしっかり見つかり連れていかれた。昨日食べれたから今日も食べる気満々だったみたいだ。この後幾らでも食べていいからお客さん来るまでは待っててな。
「父さん」
「どうしたアキハ?」
「その・・・緊張している。それで、お願いがある」
「聞くだけ聞くよ」
怖いんじゃなくて、緊張してるか。良かった。人に対して恐怖感を持ってる訳じゃなさそうで。これで怖いと言われたらどうしたらいいか分からなかった。
「一戦だけ、手合わせをしてくれないか。身体を動かせば少しは・・・多分」
「してあげたいけどそろそろ来始める時間だからちょっと無理かな」
「そ・・・そうだよな・・・すまない・・・」
「代わりにほら」
優しく心臓の音を聞かせるように抱きしめる。アキハは前に俺の心臓の鼓動音を聞いてから、こうしてあげると落ち着くようになった。本人曰く心が静かになっていくらしい。
「・・・父さんは優しいな」
「これくらいならいつでもしてやるさ」
俺の旧友との再会であると同時に、アキハ達の初めての他人との会合でもある。せめて一言二言。もっと言えば一人か二人位とは仲良く話せるようになってくれると嬉しい。
「ありがとう。もう平気」
「また何か緊張したら言いなさい。これくらいは人が居てもしてやるから」
「・・・うん」
丁度その時だ。玄関の扉をたたく音がした。
「こんにちわー」
「ちょっと早いけどお邪魔しまーす」
「この声はレイレイとマー坊ね。はいはい今開けるわー! アールは向こうでハルちゃん達と待ってて」
「了解。いこうかアキハ」
「ん」
リビングに向かいいつもの場所に座る。そしていつものようにアキハ達が周りを囲む。ミナツだけは先に少し成長しているようで、一人でちょこんと座っている。
「すげー・・・いよいよ父さん母さんの友達で冒険してきた人たちと会えるんだな!」
なるほど。確かにそういう意味ではミナツはわくわくしてるかもな。間違いなく俺よりもこの世界では先輩だしいろんな経験もしている。
冒険話はたくさん持ってるだろうからたくさん聞き放題かもしれないな。
「うっそマジで!!?」
「マジマジにゃ!」
「アッハッハッ! さっき合流した時も同じ反応されたよ」
「うわぁ! もしかしてとは思ってたけど異常にものすごい事になりそうじゃないこれ!?」
マイが玄関先で滅茶苦茶驚いてる。そういえば三人くらいは面識があるとは言っていたけど、それ以外の人とはこっちで初対面とも言ってたな。そこそこ有名人なのだろうか?
やがてマイに案内されてお客さんたちがやって来た。
筋骨隆々の男性一人に老人一人。THE侍が一人。あとは職人みたいな姿をしてる人に良くいる魔法使いみたいな姿だったり、とにかく皆個性の塊だ。
「言う必要ないと思うけどマイよ。こっちがアール」
「こっちでは初めましてですね。アールです。よろしく」
「硬ッ苦しい!! 知り合い同士なんだからもっと友人間だそうぜ! チーザー紫だ! 久しいなアール!」
「おう! マー坊だ。よ。アール!」
「やっほー、レイレイよ。意外と元気そうじゃない」
「拙者にゃーるでごにゃる! 旧友との再会にテンションがたかいでごにゃる!!」
「老眼鏡だよ。マスターって言えば君には伝わるよね?」
「火力魂だ。久しぶりだなアール」
「いやーこの世界も凄いね。テイマーズだよ。子沢山だねアール」
「何この料理!? すごっ!!? あ、ネクロロンだよ。おひさー」
「ももちゅんです☆おはおひちゃろー☆」
「ほら愚弟。お前も挨拶しろや。お前はマジで初見なんだから」
「わ・・・わかってらい!! 初めまして、ルークです。よろしくお願いします」
みんな知ってる名前だ。掲示板で名乗っていた名前だし、オフ会でも皆自分のゲーム内での名前を名乗っていた。皆覚えてる。懐かしいなぁ。
「なら改めて。皆久しぶり。こうしてあえて嬉しい。アールだよ。んでこっちの子らが俺とマイの家族。挨拶できる?」
「み・・・ミニャチュです! はじめましちぇ!!」
嚙み嚙みやんけ。
「あ・・・アキハ・・・です。こんにちわ」
「フユカです・・・」
「・・・」
ハルナは・・・ダメそうかですかそうですか。俺に隠れて顔を見せようとしてないもんね。
「アハハ・・・隠れてるのがハルナって言うんだ。人見知りだから隠れてるけど」
「話にゃ聞いてたけどマジで子沢山だな!! ヤッたのか!?」
「ちょっ!? チーザーちょっとわかって言ってるわよね!!?」
「私無知だからわかりませんの。すみませんマイさん」
「急に猫被るな気色悪い! と言うか今更猫被ってもここのいる全員がアンタの本性知ってるから意味無いわよ!!」
「んだよつまんねぇな・・・これでも年上で有名人だぜアタシ。敬え下々の者どもー」
「アッハッハッ! それを言ったら僕が一番年齢高いよ?」
老眼鏡・・・もといマスターが笑顔で話す。マスターのこっちでの姿はそういう姿だったんだな。現実よりも若々しい姿だ。
そしていきなり豹変したり清楚風になったりしてるのはチーザー紫。この人は自分でも言ってるけどマジの有名人だ。
前にオフ会に来た時も『なんでこんな有名人が!?』なんてみんなで口にしたが、話出した途端掲示板で見ていた男勝りのガサツさだったので『あぁ、なんだチーザーか』で納得しちゃったんだよな。
「ニャハハ!! この感じ本当に昔のオフ会そのまんまにゃ!!」
「アンタ語尾ににゃなんてつけてたか?」
「キャラ付けにゃ! 個性が出ていいにゃろ?」
「まぁ本人がそれでいいなら構わんが」
にゃーにゃーキャラ付けしてるのはにゃーる。剣聖物語では居合切り系統縛りでクリエイションモードクリアを目指していたある意味狂人。けどその熱意は本物で、その為に情報一つも取り逃さないと掲示板では一番情報を求めていたし、話すことも多かった。
全身炎みたいな模様の装備付けているのは火力魂。この人は名前の通り火が大好きだ。マッチの火からキャンプファイヤーなどの大きな火まで、とにかく火が好き。剣聖物語では火を纏う剣術『爆炎剣』が大好きで、それで限界を超えるためにクリエイションモードをやっていたと話していたのを覚えている。
「マジでうまそうなんだけどこの料理・・・剣聖時代より絶対クオリティ上がってるよねこれ」
「だねぇ~技術の進歩は凄いもんだ」
「アハハ☆こんなくらいで驚いてると身が持たないゾ☆」
初心者装備な二人のうち、男性はテイマーズ。女性はネクロロン。この二人がこのためにプラクロを始めてくれた二人みたいだ。
テイマーズは剣聖物語で味方に獣人系NPCと意思疎通可能なモンスターオンリーで挑んでいた超が付くほどのケモナー。現実だとアレルギーがあって犬猫に触れなくて悲しいって話をしていたのを覚えている。
ネクロロンは凝り性だ。一度始めてしまったからとことんやってやると掲示板に参加した。その熱量は俺やにゃーるに劣らずガチ勢の領域だった。因みに配信者でもあるらしく、動画投稿サイトではそこそこの登録者がいると自慢してた。
そして多分一番キャラが立っている超ギャル風の姿をして、☆を連発してるのはももちゅん。実年齢PP歳の超ギャルだ。ギャルだぞ。本人に年齢を聞くと関節決められるから聞かない事。俺は一度聞いてサソリ固めで絞められた。
一番小さいルークってのは、本当に初めましてだけど、チーザーの口調からリアルの弟だろうか? まぁお客さんには変わりない。楽しんでいい思い出でも作ってくれればうれしい。
「おいおいおいおい、久しぶりの再会なのに俺と話そうとしてくれなくて泣いちゃうぜ? アール?」
「お前そんなキャラだっけ?」
「にゃろお前。そりゃ久しぶりに会って話も合う相手だぞ? 絡みに行きたくてたまらんさ」
此奴はマー坊。前回のオフ会主催者で俺が一番仲良くなった友人。年が近い事もありすぐに意気投合した。お互い住んでる場所が遠かったのでこうして会うのは本当に久しぶりだ。
「男同士のウザ絡みって奴ね・・・アキハちゃんにフユカちゃん。ハルナちゃんにミニャチュくん・・・プッ・・・」
「っっっ!!!!?!?!」
「ごめんごめん。ミナツ君だよね。マイから聞いてるわ。初めまして。貴方たちの両親の友達のレイレイよ」
アキハ達に目線を合わせて話しかけているのがレイレイ。マイの悪友的存在。オフ会の時に俺といちゃいちゃ(マイ視線)してたからマイに目を付けられたのだが、意外と話があったらしく意気投合。今でも連絡を取るくらいには仲良くなったらしい。
「んん!! アールこれ美味いじゃねぇか!!」
「あぁー!! チーザー先に食べてるー!!? ズルいにゃーも食べるにゃ!!!」
「待ちきれなかったんだ!! ヒャッァー!! 食い物ー!!」
「つめこめー!」
「その前に乾杯位しようぜ・・・だめだ聞いてねぇ」
「キャハハ☆ 皆変わってないね☆」
「ももちゅんさんも変わらないな。流石年長者」
「何言ってるのかナ☆? 私はぴちぴちの若者だゾ☆?」
「オッス」
ーーーー
それはもう大宴会って感じだった。食べて飲んで話して。
今日までのいろんな話をたくさんした。
掲示板自体はもう残ってないけど、皆此方をしながらも彼方(剣聖物語)にも挑戦し続けていたと話していたのが嬉しかった。
テイマーズはリアルの事情でゲームに触れる機会が少なくなったと話していたが、それでもあの時の思い出は今でも大切だと話してくれたのが嬉しかった。
ネクロロンも配信者としていろんなジャンルに手を出してはきたが、あのころが一番楽しい時間だったと楽しそうに話してくれて嬉しかった。
「んで俺様が言ってやったのよ! 『この俺を相手にするなんざ百万年早い』ってな!!」
「すげー!!!」
「ミナツっつったか。気に入った!! なら俺様が体験したダンジョンの話をしてやろう!!」
「そういう事なら俺もいつか倒した財宝龍討伐の話をしてやろう」
「うおぉぉお!!! お願いします!!」
ミナツはチーザーやマー坊の話す冒険の話に目を輝かせて聞き込んでいた。それはそれじゃ目が飛び出すんじゃないかってほど興奮してだ。
「にゃるほどにゃるほど・・・この手の感覚は良い剣士の証拠にゃ。アキにゃん。居合切りに興味はにゃいかにゃ?」
「あ・・・その・・・えと・・・」
「にゃーる。人見知りとアールが言ってただろう。そうグイグイ行くな」
「しかしにゃ火力魂。この手を持つ剣士はすばにゃしい居合切りの才能があるにゃ。ぜひ居合切りを伝授せよとにゃーの中の魂が叫ぶのにゃ」
「それにしたってもう少し距離の詰め方があるだろう。アキハと言ったな。いやなら振り払ってアールの所に逃げてもいいんだぞ?」
「あ・・・その・・・だいじょうぶです・・・怖くは・・・ないので」
にゃーるはアキハが刀を使ってる事を見抜いて居合切りの宣伝を始めている。火力さんが隣にいるから暴走しても止めてくれるとは思う。と言うかにゃーるの奴。前よりも居合切りに対する熱量が増えてる気がする。
「あぁぁぁ・・・フユカちゃんあったかいねぇー」
「そ・・・そうでしょうか?」
「くせになりそう・・・あ、嫌だったら言ってね?」
「あ、はい。でも嫌じゃないです。えへへ」
「かわええぇぇ・・・お寿司食べる?」
「あ、それならあの赤いのがいいです」
「良いよ~はい、あーん」
「あむ・・・・おいひいでふ」
「癒し~」
レイレイはフユカに夢中だ。抱っこしてさっきからずっと甘やかしてる。フユカも可愛がってくれるレイレイに心を開いてるようで良かった。
「すげー!! ピザ焼けた!!!」
「THEピザ!! ディスイズピザ!!!」
「二人は本当にいい反応してくれるわね」
「リアルだと忙しくて総菜パンくらいしか食べてないからこんなうまい飯食うのは久しぶりなんだよ!」
「ちょっとテイマーズさん!! そういうこと言わないでください! 私はいまそういうの忘れてるので!!」
「キャハ☆ 二人は大変なんだね☆ なら今日と言う日を存分に楽しむんだゾ☆」
庭ではマイがピザを焼いていて、テイマーズとネクロロン。ももちゅんさんが一緒にバーベキューを楽しんでいる。ちょっと生々しい話が聞こえたが聞こえなかったことにしよう。
「・・・人が多い」
ハルナはずっと俺の傍から離れず、ちびちびと料理をつまんでいる。ハルナはまだ他人と関わるのに時間が掛かりそうだな。まぁ嫌がってどこか行かれるよりは、こうして俺から離れずともこの空間にいられる事を喜んだ方がいいか。
「ホントにお前。父親みたいな顔つきになったな」
マー坊が焼けたピザをもってやって来た。皿を一つ渡してくれたので受け取ると、隣に座る。ハルナはすぐさま俺が受け取ったピザに食いついた。
「それ老けたって言ってる?」
「ちげーよ。俺らの中で一番結婚しそうなペアだとは思ってたけどまさかこっちで家族して、しかも子供までいると思わなかったからな」
「俺もこうなるとは思ってなかったけど、悪くない生活だよ」
「ん・・・」
わしゃわしゃとハルナを撫ぜる。食べたピザに満足してるのかもごもご食べ進めているのがハルナらしい。食い物に対しては図太いんだけどな本当に。
「あのー皆さんは本当に僕の馬鹿姉がご迷惑かけてます」
「いやいやルーク! 実は俺らが中身知ったのも今回始めてたんだよ。『名前同じだなぁ』とかは思ってたんだけどまさか本人とは思って無くてな」
「なんだマー坊。俺様と同姓同名がそうそういると思ってんのか? 天下のチーザー様だぞ?」
「すげぇ・・・天下のチーザー様なんだ・・・!!!」
「・・・おいアール。この餓鬼純粋過ぎて浄化されそうなんだが?」
「自慢じゃないがミナツは家の純粋担当だぞ?」
「・・・単純担当の間違いじゃない?」
「ハルナ聴こえてるからな!?」
「えへへ、ミナツですからね」
「あぁ、ミナツだからな」
「なんでさぁぁ!!!?」
「面白れぇ家族だなお前ら!!」
「アヒャヒャ☆ 姉弟仲が良さそうでお姉さん安心したゾ☆」
「お婆ちゃんの間違いでに゛ゃ゛に゛ゃ゛!!?」
「にゃーるちゃん何かイッタカナ?」
「何でもないにゃ!!!」
「相変わらず地雷原で踊る奴だなお前は」
ももちゅんの鋭い眼光に睨まれるにゃーるとそれを呆れてみる俺たち。本当にあの時みたいで楽しい。この空間にいるだけで楽しい。
「おーいアール!! これ!! ドラゴンの串焼きなんだって!!? めっちゃうめぇぞ!!」
「ほい!! これ中の皆の分! たくさん焼いてるからお裾分け!!」
「・・・っ!!!!」
「嬢ちゃんが食いついたな。おい愚弟。受け取ってこい。ついでに一本嬢ちゃんにやれ」
「自分で動いてよ・・・はいはいわかりましたよ。この馬鹿姉め」
ルークがテイマーズとネクロロンから串焼きを受け取って空いている場所に置き、一本持ってハルナに渡す。
「はい。どうぞ」
「・・・足りないから皿ごと持ってきて」
無言で受け取ってむしゃむしゃ食べ始めるハルナ。やっぱり食い物に対しては図太い。
「なんだろう・・・馬鹿姉と同じ感じがするんだけどこの子」
「とかいいつつ皿持ってくるお前は魂が弟なんだよ。良い事じゃねぇか」
「いいこと・・・なのか?」
「ルーク。君も大変そうだな。色々と」
「アールさん、火力魂さん・・・ありがとうございます。気持ちは嬉しいです本当に」
まぁチーザーの弟だと色々大変そうだよな。勝手なイメージと言うか、この短時間で思ったが人使いが荒い。主に弟の。
「ハッハッハ!! 俺の愚弟だからな!!」
「それ褒めてるのかな?」
「褒めてるよ爺さん! それより爺さん食ってるか?」
「食べてるとも。こっちだと向こうよりも食べられるからいいね。アール君の料理の腕もあっておいしく食べてるとも」
「マスターに言われると照れるな・・・」
「いや実際滅茶苦茶美味いぞ?」
「それは俺も思ったな。火加減も素晴らしい」
「わかる~。アールってばこんなに料理上手だったんだね」
「にゃーはこのジューシーなから揚げに惚れ込んだにゃ!!」
「なんだよお前ら!!? 急に褒めるのやめてよね!! マジで照れるから!!」
「もう顔赤ぇよ!! おっもしれー顔!!」
畜生。褒められるの慣れてないんだよ・・・!!!
「そろそろこの話すっか」
「ん?どうしたチーザー。急に真剣な顔をして」
「茶化すなよ火力。ちょっとマジな話だ。外の連中も一旦こっちこい!」
「ん? なんかまじめな話?」
「ネクロロンそっちもって。コンロごと持って移動しよう」
「おっけー」
チーザーのまじめな表情に全員の顔つきが変わる。チーザーがまじめな話をするときはいつもかなり重要な情報を持ってくることが多かった。
全員がチーザーを見られる位置まで移動してきたのを確認して、チーザーは口を開く。
「まずアール。この前のあれはお前の事で間違いないな?」
「・・・すまん。何のこと?」
「あれだよあれ。福音、あるいは女神の声。メタ的に言えばアナウンスだ」
「あー・・・ごめんチーザー。俺それに関しては聞こえてないんだ」
「は?」
俺は俺がこの世界に来た切っ掛けを話した。『クリエイションモード』クリアの話。その先に会ったアフターストーリの話。そしてそれをクリアした後にエクスゼウスから送られてきた特別版プラネットクロニクルの話。
アキハ達を混乱させないために頭の中である程度理屈が通るように物語を描きながら。
「・・・なるほどな。だからあの時月光真流が公になったのか」
「にゃっとくしかにゃいにゃ」
「スキルではなく技術か・・・お前は本物なんだな」
「僕も証人になれるよ。実際その記録を店で流したからね」
「噂になってた店やっぱ爺さんの店だったか!!」
「え? 何噂って?」
「テイマーとネクロロンは知らないか? 剣聖物語のアニメみたいな動画を流す店の話」
「ごめんわかんない」
「それが老眼鏡のリアル喫茶店って話だ」
「「えぇ!?」」
「僕はアール君の友人であり大ファンだからね。二人も今度予定を作って僕の店においでよ。特別にいつ来ても見せてあげるよ」
「爺さん。それは今度話せ。ともかく話を戻すが、明確に上が特定の人物を名指ししたのは初めてだった。んで今の話を聞いて確信した。間違いなく今後お前は表舞台に上げられる」
「だろうな」
マイからちらっと話を聞いてはいたが、こうしてチーザー達から改めて話を聞くと実感する。エクスゼウスは間違いなく俺を表舞台に上げるために何か動きを見せるだろう。
「その時お前はどうする? 俺は今のうちにお前の今後について聞いておきたい。剣聖アールの動き方次第で俺たちも色々考えないといけねぇ」
「そうか?」
「マー坊は脳筋だからわかんねぇか。おいレイレイ。教えてやれ」
「はぁ・・・つまりアール基準で邪神関係が出てくる可能性があるって事よ」
「「マジでっ!!?」」
「邪神? 確かこの世界の破壊を目論む神だっけ?」
「なんかチュートリアルの時言ってたね。最近も一体倒したって聞いたよ」
そっか。テイマーズとネクロロンは最近始めたから知らないのか。とはいっても俺も直接関わってないから詳しくないが。
「そうだ。俺はそう考えてる。って事は今後邪神関係はアール。お前がいる前提で考えないといけない」
「ちょっと姉さん。それとアールさんがどうするかが僕らに関係するのさ?」
「今回のエレティコス戦はマイとの相性が良かったから被害は最小限だった。でもこれが対アールを想定されて生まれていたら、どうなると思う愚弟?」
「え? えっと・・・強い?」
「違う。間違いなく覚醒者総出で挑まねぇと確実に負ける。俺はそう思ってる」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「だが覚醒者への覚醒条件は確定してねぇ。雷華や教祖の野郎が色々情報は流してるが、覚醒したのは21人だけだ。何か他にも条件があると思ってる。増やすには時間とソイツの気持ちが関係するだろうから直ぐにはどうしようもねぇ」
「しかしチーザー。対アール専用の邪神が生まれたとしても、相性がいい戦い方を出来る奴はいるはずだ。アールには嫌な言い方だが、アールは剣士。遠距離戦で挑まれれば厳しいものがあるだろう」
「火力。忘れてねぇか? おいアール。お前が使える武術はなんだ?」
「月光真流と桜花戦舞」
「・・・なるほど、ピスケスだな」
「そうだ。此奴に距離は無いと同じだ。なら近接戦に持ち込むべきだが、今度は桜花と月光の合わせ技でこっちが制限を喰らう。相手がそれを想定して生まれてきたら、普通の連中はただの有象無象だ」
ここのプレイヤーの実力は詳しくない。だから俺は口をはさめないが全員特に言い返さないって事は同じことを思ってるんだろう。
「だからアール。今決めろ。今後のお前のスタンスを。前線に出るか出ないかだけでいい。例えどっちを選ぼうと誰も恨みはしねぇ」
チーザーのまっすぐな視線が俺を射抜く。
「そういう事なら話は早い。決まってる。戦うさ」
「理由は? つまらねぇ理由なら下がってろ」
「ちょっ!? 姉さん!?」
「ルーク。この話はそれくらい大事な話なんだよ。黙って聞いてろ」
まるで世界の命運を決める話し合いみたいな空気になって来たけど、俺の心はいつだって変わらないさ。
「世界の為とかじゃない。今の俺には家族がいる。此奴らに危険が及ぶなら例え神だろうとぶった切るだけだ。それに何より、邪神とは因縁があるからな。放置は出来んさ」
「・・・」
果たして、チーザーにとっていい返答になっただろうか?
「・・・く・・・くくく・・・」
真剣な顔つきから頬が持ち上がっていく。そして笑った。
「アーハッハッハッ!! 面白れぇ!! 遊戯だからじゃなくて現実だからと言える奴がどれだけいるだろうな!! やっぱりお前の熱量はいつ聞いても俺を楽しませてくれるぜアール!!」
どうやらお気に召した回答だったようだ。少なくとも俺は本心しか言ってない。アフターストーリーで確実に殺したはずだ。けれど戦火の悲種と言う形で未だ邪神は世界に残っている。この世界があの世界の続きであると確定したわけではないが、ほぼ確定だと言う話を聞いて居る。
なら俺は邪神殺しの先輩として、放置するわけにはいかないだろう。何よりも、アキハ達の生きる世界だ。そういう危険は排除するさ。
「なら安心だ! 俺たちも俺たちなりに成長してくが、切り札があるってのは気持ちに余裕が出来てありがてぇ! それにお前の事だ。現状に満足もしてねぇ口だろ?」
「ばれたか」
「にゃ? 自前で月光と桜花使えてまだ先を見てるのかにゃ?」
「まぁな。日々精進ってな」
「にゃぁー・・・向上心の塊だにゃ。だからこそ、前世で邪神殺しが出来たんだろうにゃ」
「俺たちも負けれられねぇな! アールがまだ上を目指すって言ってんのに、俺らが満足してたらすぐ追い抜かれちまう!!」
「若いっていいネ☆ 熱を感じるヨ☆」
「僕も外で見過ぎてて熱量を忘れるところだったよ。うん。こっちで本人の口から聞くと身が引き締まる感じがするね」
「負けてられんな。火を極めたからと満足している訳にはいかなくなった」
「ねぇマイ。アンタの旦那イカすわね」
「自慢の旦那だもん。ちょっかい出すんじゃないわよ?」
「これが・・・本物の覚悟・・・!! かっこいい・・・!!!」
「凄いなぁ。うん。凄く良い。あの頃を思い出すようで私まで熱くなってきたかも・・・!!」
「ちょっと仕事頑張ってゲーム復帰しようかな。熱意あるゲーマーに負けてられないっている僕のゲーマー魂に火がついたよ」
「おっしゃぁ! これで先の話をしてもいいな!! と言うかアールが想像以上の答えを返してくれたから話しやすくなってよかったぜ! 今日ここにきた全員に俺様から提案だ!!」
チーザーは嬉しそうに立ち上がり、大きく手を広げ告げる。
「俺たち全員でクランを作ろうぜ!! 世界最強のクランをよ!!」
全員クリエイションモードクリア目指してたメンタルお化け。
クリアできたのはアールだけでしたが、それでも、他のプレイヤーから見たら上澄みのなかの上澄み
前書きでも言いましたが、いつも誤字脱字の報告本当にありがとうございます。




