初めての魔法
更新です
とりあえず今後の方針も決まった。気持ちは前世ありRPで行く感じで楽しもう。
「そういえばアールは加護の影響どれだけ受けるのかな?」
「どうなんだろう? 目で見えるものは無いけど、多分何とかなる気はしてる」
「何それ、変なの」
だってそれくらいは何とか出来るだろう。加護って言う位だから世界の理だろうから推定異世界転生状態の俺にも恩恵はあるはずだ。
「じゃぁ、さ? ちょっと試してみない?」
「うん。試してみようか」
「ノリがいいね。じゃぁ『聖泉の加護』から試してみよう」
「おう………街中でもいいの?」
「問題ないよ。それに『聖泉の加護』は支援魔法主体の加護だから街中で使っても変に見られないし、まぁメタ的な事言うと攻撃系の魔法も特段町中で使えない制約ある訳じゃないから使えない訳じゃ無いんだけどね」
「流石に街中で攻撃魔法ぶっ飛ばすほど常識無い奴じゃないぞ俺」
「分かってるよ。でも一応、ね?」
それにしても魔法か。剣の道ばっかり進んできたから王道ファンタジー感あるな魔法。実は結構楽しみだ。
「まずアールのMPっていくらあるの?」
「え………MP?」
「え? あ」
「「………」」
おれじぶんのすてーたすもわかんないこどもいかのそんざいです。ぴえん。
「え………えっと………ちょっと待ってて!!」
いいもん。おれはかたながあればだいたいかいけつできるもん。
――――
「見つけたよアール! 場所変えるなら先に言ってよ………えぇ??」
444、445、446、447、448、449、450、451、451。
心頭滅却、心を無にしただ剣の道に真髄を見つける事こそ我が人生。素振りで余計な考えも削ぎ落とすべし。
「アール!」
「455……ハッ!」
俺は一体何を? 確か魔法は使えないと気付いて………いいやそれはもう仕方ない。人間は普通魔法は使えない。仕方ない。うん。
「マイ?」
「良かった。戻って来たね。それじゃあはい、これ持って」
渡されたのは水晶玉。透き通った青い綺麗な奴だ。言われるがまま水晶玉を持つと、水晶玉の色が緑色に変化した。
「うん、MPが無い訳じゃないみたい。数値として確認は出来ないけどね」
マジで?
「この水晶MPの総量で色が変わるの。緑だから大体100から130くらいの量はあることになるの」
「お………おぉ………」
ちょっと感動してる。そっか、数値とかでわからないだけで俺にもちゃんとあったんだな。MP、もとい魔力。
「そういうことだからアールも魔法使えるよ。良かったね!」
「うん。正直諦めてたから感動してる」
そっか、魔法使えるのか………良い。せっかくファンタジーなら魔法の一つくらいは使いたい。めっちゃ使いたい。回復魔法とか目茶苦茶憧れてたんだよな。
「すごい目がキラキラしてる。じゃあ初級の回復魔法からやってみよっか」
「おう! 頼むよ先生!」
「もう、恥ずかしいから先生はやめてよね。でもその前に場所変えようね?」
言われてみればいきなり素振り始めた奴街中にいたら変な奴扱いされるよな。絶望したとはいえ小っ恥ずかしい。今後は気を付けよう。
「あのレベルの素振り魅せられてたら釘付けにもなるよ」
「なんか言ったか?」
「何でもないよーギルドの訓練場行こっか」
街の喧騒で聞こえなかったマイの言葉、何て言ったんだろうか? まぁ気にしなくてもいいような気はする。
――――
連れられて来たのはギルド。要するに依頼を受けたりする良くある場所だ。大きな建物の中には大勢の人々と依頼書が貼ってある大きな掲示板。この時間帯からもすでに酔っぱらっている人もいれば、これからの冒険に対する打ち合わせなどをしている人もいる。
「許可さえとれば誰でも利用できるから魔法覚えたら来るといいよ。ギルドの人には魔法に精通してる人もいるから」
「覚えとく」
「アールってばワクワクしてるね」
そりゃそうだ。魔法が使えるのだからテンションくらい上がるに決まってる。こちとら剣一本でずっと戦ってきた身だ。例えどんな魔法だろうと使えたら嬉しいさ。
マイに手を引かれて先へと進んだ先、そこは中庭の正に訓練場という感じの開けた場所だった。既に先客もいるようで何人かは魔法の練習や組手など様々なことに取り組んでいた。
「あっちの方は見たら分かるだろうけど決闘スペース。街中でも出来ない訳じゃないけどスペースの確保考えたらこっちの方が便利だから。それでこっちが射撃場。魔法がメインだけど弓とかボウガンの練習にも使われてるの。まぁ実戦で覚えるって人の方が多いからあんまり居ないけど」
「そりゃそうだよな。実戦できる環境あるなら皆普通はそっち選ぶよな」
実際俺の師匠は実戦経験積ませるのが一番ってことで組手よりも実戦の方が多かった。何回死んだか覚えてない位には厳しかった。まぁそのお陰で今の俺がある訳なのだが。
「基礎だったりオリジナルの連携攻撃だったりを最初に試すのはこっちの方が多いけどね? 今回のアールは前者だから気楽にいこう。あの辺空いてるね」
何事も基礎は大事だからな。マイもこう言ってくれてるし気楽にいこう。下手に気を張り過ぎて上手く行きませんでしたなんてなった日には流石に俺だって落ち込む。
「まず最初に魔法を使うにはMPを消費………ってどうしよう? 基礎中の基礎の話までする?」
「頼むわ。いざって時に知らないのは自殺行為に等しいし」
「じゃあちょっと長い話になるからね? 魔法を使うにはまずMPが必要なの。これはレベルアップしていけば勝手に増えて行くから特に気を付けることは無いね。次に魔法の威力に関してなんだけど、これは魔力数値、メタ的なこと言えばステータスの魔力によって効果が上昇していくの。魔力の上げ方はレベルアップ。自分のジョブによって上昇する成長度が変わっていくから後衛目指すなら最初から『魔法使い』系の後衛ジョブを選んでレベルを上げるのをお勧めするよ。けど、魔法系のジョブじゃなくても最低値以上は確率で上がっていくからそこは運頼みだね。まぁお金さえ積めば理想のステータスビルドは出来るから本格的にやるならお金貯めてからステータス弄り始めたらいいよ」
「ステータス強化はアイテムでも出来る訳か。因みに上限は?」
「各ステータス自分のレベル+50までだね。体力・筋力・魔力・俊敏性・防御力・耐魔力・運命力の7つのステータスがあって、アイテムで盛れる数値は共通して50まで。レベルアップでの変動値もアイテムで弄れるから極振りビルドも出来るよ。因みにレベルの上限は今現在だと120。私は120あるからステータスを盛れるのは170まで好きにステータス強化が出来るの。私は魔力に100、俊敏性に70振ってる」
「二極ビルドかよ。しかもどちらかと言えば魔法特化」
「因みに職業は近接特化の魔法戦士。上級職だよ」
「それ強いの?」
「まぁまぁ強いよ? ステータスも弄って二極振りしてるから紙装甲だけど魔法でバフ積めばどんな攻撃も一撃は耐えるからそこから残り体力に応じて威力が上がる魔法とか、スキル使ってカウンターでズドン。魔法剣とかには防御無視の魔法もあるからパターンにハメ込めば対人なら勝てるね」
「魔法剣………ロマンだな」
「ロマンでしょ? 私『クリエイション』モードクリアは出来なかったけど一章半分までは頑張ったからね。折角ならその経験生かしたかったし。師匠もソウシさんだったし」
マイの言うソウシさんとは、『剣聖物語』というゲームの登場人物の一人で主人公である自分達が最初に出会う剣術の師範代の一人だ。主眼とするのは速度。分かり易く言えば殺られる前に殺る剣術を教えてくれる人だ。反射と思考を並行して実行する為の修業をしてくれる為、『クリエイション』モードに挑む猛者達にとっては絶対に教示を乞うべき人だと言われていた。
そういう俺も最初はそうだと思って疑わなかったし、色々教えても貰った。しかしあの世界線で生きて戦うにはあの人の教えでは足りなかった訳で。最終的にお世話になった人は別にいるのだが、『剣聖物語』という世界の残酷さを良くも悪くも教えてくれたのは間違いなくあの人だろう。
他にも師範代は複数人おり、それぞれが掲げる信条に従って様々な剣術、武術を教えてくれる。まぁ俺の師匠程じゃないとは思う。あの人マジで多方面で天才だったし。
「話を戻すね。そういう訳で使える魔法=自分のレベルに見合ったものしか使えないんだけど、最初だからそこは諦めてね? 一部『俺私最強!』みたいな事を夢見てる人もいるけど、最強になりたいなら日々の積み重ねが大事だから。まぁアールは戦闘面で言えば積み重ねどころか世界救った英雄様な訳だけど」
「………やっぱ少し自重した方がいいか? 変なのに絡まれないように」
死なない最低限の戦い方でこの世界線に合わせた方が角は立たない気がする。向こうと違ってこの世界では目の前の誰もがこの世界の主人公だ。そう思う人間は多いはずだ。そこに異世界の異物が入り込めば良い気持ちにはならないだろう。
「しなくていいよ。だってそれは全部アールが今日まで積み重ねてきたアールの努力の結晶だもん」
「マイ………ありがとう」
それならマイに言われた奥義の制限だけで、外は制限自重の類は無くやらせてもらおう。
「それじゃ魔法の話しよっか! 魔法の使い方だけどまず自分が使える、覚えている魔法の確認からだよ。今アールが使える魔法は数値で考えれば幾つかあるけど、初期職業が『剣士』であることを考えると、『聖泉の加護』で付与されている魔法だけってことになるね。『聖泉の加護』で使えるようになる魔法は回復魔法、体力回復と状態異常回復、あとは外傷治癒とかだね」
「体力回復と外傷治癒の違いは?」
「どっちもそのままの意味だけど、外傷をそのままにしておくと普通は出血で死んじゃうでしょ? このゲームそういう所も結構ちゃんと作られてて体力だけ回復してもそういう所で死ぬこともあるの。体力はステータス面で、外傷は生物面として、どっちもちゃんと回復しないとダメですよってこと」
「細かいな」
でもこのリアリティがより異世界感を強くしてるな。ゲームであってゲームではない異世界での出来事って感じで俺は好きだ。
「そこが良いって一部からは好評なんだよ。それにレベルが上がれば体力と外傷両方回復できる魔法もあるから嫌だって言ってる人もあんまり居ないし。嫌なら素直にアイテム使う方が早いんだよ」
「そうなのか?」
「うん。お金はかかるけどアイテムの方が魔法よりも早く確実に両方一気に回復できるから序盤はアイテムに頼るのが良いって推奨してる」
「序盤はってことはそれ以降はそうじゃないんだな?」
「もちろん。ソロでも最低限の回復魔法は覚えとくのがベスト。初期値でも外傷治癒の魔法は使えるからね。外傷って結構洒落にならない要素なんだよね。体力的には余裕あっても出血とか、毒素で死亡なんてのは分かり易い方で、骨折とか脱臼まで再現されてるから場合によっては動けなくなった所をボコられて死亡なんて惨いこともあるし」
「うわぁ………」
『クリエイション』モードを彷彿とさせるリアリティだなぁ。言わば万人受けする『クリエイション』モードがこの世界のデフォルトって事か。それなら確かに外傷治癒は覚えないと詰むな。逆に外傷治癒の要素がある分、『クリエイション』モードよりは便利かもしれない。あっちそういうのになったらアイテム使って自然治癒能力高めたりして治す以外方法無かったからな。
「チュートリアルで色々やってればこの辺は教えてくれるから覚えるはずなんだけど、アールチュートリアル無かったんだもんね」
「体一つで世界に放り出された俺の気持ちは考えられて無かったわ。まぁ良いけど」
「良いんだ………」
いきなり戦場とかに送り出されるより良いさ。いきなり死んでしまうのは流石にやめてほしい。
「それで今のアールの装備には『聖泉の加護』で回復魔法が一式全部使えるようになってるの。アールのMPが100だとすれば使えるのは体力回復・小の『ヒール』、外傷治癒・小の『ライフ』、状態異常回復・小の『クリア』の3つだね。それぞれ消費MPは『ヒール』と『ライフ』が25、『クリア』は30。この消費MPは使用回数が増えれば増えるほど少しずつ減って最終的には全部10で使えるようになるから積極的に使うのが良いね」
「小って事は回復量はそこまで高くない?」
「うん。体力は魔力×5の回復量、外傷は切り傷とか軽傷のモノに限るし、状態異常は一部の毒くらいかな。まぁ序盤だからそこは諦めてね? それでもって言うならアイテム買お?」
流石に最初からそこまでの求めるつもりは無い。むしろそれだけできれば十分だ。
「いいや大丈夫。寧ろこの加護つけてくれてありがとうな」
「だってアールと一緒に冒険出来るんだもん! このくらい喜んでやるよ! それに何かあったら私が回復かけるから安心してね!」
「それは心強い。何かあったら助けてくれな?」
「任せて! じゃ、次は魔法の使い方! とは言っても難しいことじゃないんだよ。使う魔法の魔法名を口に出しながら対象に向かって『えいっ』って撃つ感じ」
「ポージングとか詠唱は?」
「いらない。ただかっこいいからってポーズ決める人は結構多いよ。ロマンだからね」
ロマンがわかる人マイ。やっぱ良いよな魔法のポーズ。
「じゃあ早速やってみよう! 私に対して何か使ってみて!」
「おっしゃ任せろ」
想定するのはマイが切り傷を負った状態。マイの綺麗な肌に傷を付けた害獣は始末したが、小さな傷と若干の体力を消耗したようだ。負傷個所は右腕と左足首。
「『ヒール』『ライフ』」
魔法が俺に応えるように、マイの右腕と左足首に緑の輝きが浮かび上がった。それと同時に体の中から何かが抜けていく感覚があった。成程、これがMPを消費した時の感覚か。脱力感とは違うが、あったものがなくなる感覚は確かにある。その後無くなった何かが満たされる感覚が溢れてくる。そうか。一応この場所は訓練場だからすぐに補填されるように何か魔法があるのかもしれないな。これなら何度でも使えそうだ。練習にはもってこいの場所だな。
「………マジ?」
魔法に何か問題があったのだろうか? マイは何とも言えない表情をすると患部(仮定)を擦りながら確認し、俺の方を見た。
「マイ? どうした?」
「アール、もしかして場所狙って使える?」
「お………おう。使えたっぽい?」
実際に感じるのは俺じゃないから使えたと確信を持って言える訳ではない。けど狙いは着けたつもりだ。
「もう一回やってみて。今度は私の後頭部と右足踵で。『ヒール』だけで良いよ」
「分かった。『ヒール』」
指定してくれるならすぐに出来る。使ったら抜けていく何かと満たされるされる感覚。この感覚は早いうちに慣れた方が良さそうだ。支障は無いが一々気にしている訳にもいかないだろう。
その後もマイに言われるがまま3つの回復魔法を指定された箇所に打ち続けた。マイは毎回場所を変えたり僅かに移動したりしながら俺が使う魔法を受け続けてくれた。回復魔法だから受け続けたっていう表現があっているのかは分からないけど。
大体10分くらいだろうか。小走りで走るマイの肩甲骨あたりに『ヒール』を掛けたくらいで、マイは何かを確信したような表情でこちらを見た。
「アール聞いて。アールの魔法の精度だけど熟練者レベルで的確だよ。初心者じゃまず狙った場所だけになんて集中して当てられないし、動いてる対象に当てるのなんか絶対に無理。出来たって事は、アールの空間認識能力が頭抜けて高い証拠だと思う。ここまで質問ある?」
「無いな」
「対象を的確に狙えるなら回復量は通常の1.2倍はあるって考えていいよ。俗にいうクリティカルだね。アールはそれを狙って出来るみたいだから突き詰めれば魔法使い職で間違いなく輝ける」
「そこまでなのか?」
「初級火属性魔法の『ファイヤーボール』とかで例えるけど、通常は大きさ50cmの火球がまっすぐに飛ぶ。けどアールはその大きさを自由に変更出来て真っ直ぐじゃなくてある程度の追尾弾が撃てるみたいな感じ」
「それは………やばいな」
大きいから避けやすいが小さければ避け難い。しかも若干の追尾性能があるとなればそれはもう一つの脅威になる。外傷一つで死に至る可能性があるなら猶更だ。
「そういう訳だからもう今後の方針を決めようアール。魔法使い職で魔法を極めるか極めないか。決めるのはこの一点で十分。どうする?」
そんなの、決まってる。
「決まってる。俺が目指すのは剣の頂だ。魅力的ではあるが魔法の頂は他の奴に譲るよ」
今も昔も刀を振ってきた。まだ頂には至っていないと俺は思っているし、極めたいとも思っている。確かに魔法使いと言うのもロマンだが、俺は剣の頂こそ最高の目指すべきものだ。
だってカッコいいだろう? 一つの道を究めて誰も辿り着かなかった頂点に君臨するって言うのはさ?
「あっさり決めたね。でもアールらしいや。でも勿体ないなぁ。この精度なら間違いなく頂点目指せそうなのに」
「魔法はロマン。剣は目指すべき頂ってな」
「うん。じゃあ今のまま剣士職で前衛やる方向で行こう。上がりやすいステータスは筋力と俊敏性と防御力の三つ。剣士職でもそれぞれに特化させる方向でいくのか、平均的に上がる方向でいくのかどうする?」
「どうしようか」
実際俺はその辺決めていない。そもそも見えない数値を気にして何かを選ぶ事をするつもりは無いし。でも強いて言うならそうだな。
「平均的でいいかな。出来たら全ステータス平均並みに成長する職業ある?」
「あるにはあるけど………器用貧乏職だよ? 良いの?」
「構わん」
そもそも急所に一撃貰えば死ぬのだ。それなら全体的に平均値取れてる方が俺としては扱い易い。と思う。
「じゃあ剣士じゃなくて放浪剣士かな? 剣士じゃ伸び難い魔力耐魔力運命力がそれなりに上がるんだ。代わりに剣士で覚える攻撃スキルとかは覚えられないよ」
「自前の剣術あるから問題無い」
「あ………そうだったね。じゃあ寧ろ放浪剣士ありなのかも?」
どうやら俺の現状を忘れていたらしい。
「もしかして、今までの話半分くらい無駄だったかな?」
申し訳なさそうにこちらを伺うマイ。気にしないでいいのに。それに。
「そんなこと無いだろう? 知らなかったら知らなかったで困ることもあるだろうし。今後の参考にはなったよ。ありがとうマイ」
「むぅ~そういうのズルい。アールのバカ」
ポコポコと胸元を叩くマイ。若干顔が赤くなってるのは熱があるとかそういうテンプレ的な理由ではないだろう。言うのもなんだがチョロくない?
――――
訓練場での魔法練習も終えて、職業を得るために、まずはギルドで討伐クエストを受け、クリアする必要があるらしいので依頼を受けることにした。練習ではそこそこ行けたから今度は実戦でうまく使えるのか確認したかったからだ。マイに案内して貰い、クエストが掲示されている広間にやって来た。
「アールの能力ならこの辺は全部余裕で行けると思うから好きなの選んでいいよ」
「じゃあアレにしよう。上の方にある紙が若干古いやつ」
放置されている感じの依頼は何かあると俺の中のセンサーが反応してる。
「『デスペラードの討伐』ね。報酬は………あぁうん。確かにこれは放置されるのも納得できるかも」
「デスペラード………名前はめちゃくちゃカッコいいな。報酬が良くないのか?」
名前的にはとても強そうだ。が、報酬を確認してみると確かに良くない感じだ。他の依頼書を見てみると、そちらの方がもっと良い感じの賞金がかけられている。
「報酬と難易度があってないんだよ。デスペラードってレベルで言えば50超えたくらいの六人パーティーがちゃんと装備整えて戦うモンスターなんだけど、報酬が6000Gだから少なすぎる。仮に三人で受けたとしても一人頭2000G。ソロなら全取りだけどデスペラードソロなら他の町で同じ依頼受けた方がもっと貰えるから」
「懸賞金的なの掛けられて無いの?」
「掛けられて無いね。詳しいこと聞いてみないと分かんないけど、とりあえず聞いてみる?」
「だな」
意外だ。こういう危険なモンスターなら報酬金とは別に懸賞金位はかけられていそうなのだが。
紙を持って受付カウンターに並ぶ。数人の人とパーティーが並んでいてこの数だと少し待つことになるな。
「しかし意外だな。こういう所ってシステムでチャチャっと受けられるようにされてそうなのに」
「『より現実味がある世界を』がコンセプトだからね。何でもかんでもゲーム感覚で出来る訳じゃないんだよ」
「流石エクスゼウス産のゲーム。現実性の追求に隙がねぇな」
そういう感じでゲームしたいなら別のゲームやれ感がすごい。けどこの感じ、俺は好きだ。
「そういえばデスペラードってどんなモンスターなんだ?」
「ガタイの良いゴリラに胸から腕を生やした四本腕のモンスターだよ。全長は2m以上あってゴリラみたいに大きな拳振り回したり、胸から生えた短い腕で相手を捕まえて大きな腕でボコボコにしてくる結構面倒なモンスター。結構素早いから見失うと頭に一撃食らってそのまま殺されることもあるよ」
想像以上にえげつない攻撃をしてくるモンスターみたいだ。捕まえてくるのか。ちょっと面倒だ。殴ってくるならそのまま受け止め受け流すで封殺出来そうだが、こちらを捕縛してくるなら下手な距離の詰め方、戦い方は出来ないな。
「次の方どうぞ」
話をしている内に俺たちの番になっていた。受付の担当さんは美人さんだ………痛いマイさん痛いです足踏まないで。
「この依頼書に関して教えてほしいんですけど」
俺の足を踏みながらマイが若干機嫌悪そうに受付さんに聞いてくれた………けど受付さん何してしまったんだろうって困惑してるからやめてあげてね?
「この依頼書は………数か月前に出された物ですね。少し離れた場所にある村が出した依頼です。貧しい村らしくてこの報酬も何とか集めて出したみたいなんですけど、『デスペラード』の討伐と考えると低過ぎて誰も受けてくれなかったんです」
「ギルドで懸賞金とかつけたりは?」
「………一応討伐していただいたデスペラードの素材を買い取ることは出来ますが、心臓以外あまり需要のある素材とは言えないのであまり期待は出来ないんです」
「心臓?」
「デスペラードには心臓が三つあるんです。両腕に一つずつ、あとは体に一つです。珍味として美味で需要があるのですが、傷があるとすぐに腐食してしまうので討伐後にその場で食べる方が多いので市場に出ることが少ないんです」
心臓が珍味か。そう聞くと食べてみたい気持ちがあるな。それに傷物は腐食しやすいなら確かにその場で自分たちで美味しく頂いた方が得した感じになるな。
逆を言えば心臓を傷付けず、持ち帰る事が出来れば良い報酬が期待できるって事か。三つあるなら一つ食べて二つ売れば………いけるな。
「この依頼受けます」
「っ! 本当ですか! ありがとうございます! では少々お待ちください!」
そう言って受付さんは後ろの棚から地図を取り出し、テーブルに広げてくれた。
「依頼内容はデスペラード一体の討伐です。村の外れに住み着いたデスペラードが怖いので討伐してほしいとの事です。現在までに被害は確認されていませんが、今後もないとは限りません。村の場所はこの位置になります。詳細は村の方に聞いてください」
「確認するけど素材の買い取りはしてもらえるのよね?」
「勿論です。金額は多くは無いかもしれませんがギルドで買い取らせていただきます」
「アールも問題無いんだよね?」
「勿論」
「ありがとうございます。こちらギルドから依頼を受けた証明となる紋章になります。村に着いたらこれを見せていただければ対応してもらえると思うので大切にしてくださいね」
渡されたのはギルドの看板にもなっていた紋章。タグのようにネックレス状になっている。装備と肌着の間に入れておけば無くすことは無いだろう。
「では、説明は以上です。気を付けてください。お帰りをお待ちしています」
さぁ、この世界で初めての仕事だ。張り切って行こう。
――――
「村の位置的に馬で一時間くらいだね。馬車使う?」
ギルドを出て依頼先の村へ行く中、マイが言った。馬車で一時間だからそこそこ距離があるんだろう。
「走っていけないのか?」
「行けない訳じゃないけど疲れるよ? この世界普通に疲労するから戦う事考えたら馬車で行くのが楽だよ」
「なら使わない。走っていこう。あとちょっと試したいことあるんだけどいいか?」
「………ちょっと嫌な予感するけどまぁ良いよ」
よっしゃどこまで出来るかちゃんと試したかったから丁度良い。そんなことを考えながら呼吸を変え、準備を始める。街の外に行くまでにどれだけ蓄積できるかな?
「………もしかして『星波ピスケス』?」
「よく分かったな」
どうやら俺がやろうとしたことが分かったらしい。
今からやろうとしてるのは月光真流奥義『星波ピスケス』による高速移動だ。空を蹴り、空を駆けてどこまで行けるか、今の状態でどれだけの疲労感を感じるのかも確認したかったんだ。
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