画面外のエピローグ、あるいは新たなプロローグ
アール視点でのシナリオの終わり。
「・・・お父さん?」
「おはようハルナ」
「・・・お父さん・・・お父さん・・・お父さん!!」
目覚めたハルナは泣きながら俺に抱き着いてきた。分かるとも。怖かったよな。
「うぅうう・・・あれ?ここって・・・?」
「むぅ・・・ハル・・・?」
「おはようアキハ、フユカ」
ハルナの声でアキハとフユカも目覚めた。そこからはちょっと大変だった。
あの後何があったかとか、そういう説明もそうだが、三人そろって大粒の涙を流して泣くもんだから慰めるのに一時間以上かかった。
それもハルナが空腹で一旦ご飯食べたいと申し出たからだったし、ご飯の用意中も三人が離れないので簡単なものを作り食事にした。
あまりにも三人がべったりだったのでミナツが物申そうとしたのだが、三人に睨まれて黙ってしまった。力関係がはっきりしているのってこういう時大変だよな。
んで満腹になってからもずっと引っ付いてずっと話し続けるもんだから流石に俺もちょっと疲れた。
けどまぁ、最終的に四時間ほどかけて、いつものアキハ達に戻ったから良かった。
そんな感じであっという間に日が暮れて夜。そろそろ夕食時だ。
「お父さん・・・晩御飯はお肉がいい。野菜は食べないからいらない」
「今日だけだぞ?」
「うん」
「だったら私ハンバーグが食べたいです! お肉だけのハンバーグ!」
「わたしはその・・・父さんの手作りご飯ならなんでもいい」
「肉!! 俺も文句ない!!!」
「確か前に倒したドラゴンの肉が残ってたな・・・それでハンバーグを作ろうか」
「「「「ドラゴンオンリーハンバーグ・・・!!!」」」」
これで野菜入れたら機嫌悪くしそうだ。今日はご要望通りドラゴン肉100%のハンバーグにしますかね。
「お米はいる?」
「「「「いる!!!」」」」
なら先に米の用意だな。
ーーーー
「ってわけで!!父さんは昔スゲー剣士だったんだ!! すごくね!!?」
「「「凄いのは知ってた」」」
「なんか俺の時の反応と違う!!! だって伝説の剣士なんだぞ!? スゲーじゃん!!」
夕食を終えて、ミナツに話したことを、ミナツなりの言葉でアキハ達に話していた。のだが、アキハ達は『何当たり前事言ってんだコイツ』みたいな顔でミナツを見ていた。
俺もそういう反応で返すのはちょっと想像できなかったかなって。
「そもそもだミナツ。父さんは私たちを助けてくれた時に建物を斬っていたんだ。凄いのは知ってたはずだ」
「でもでもあれだぜ!? 昔世界を救った英雄ってやつなんだぜ!?」
「父さんならそれくらい出来ても不思議じゃないよ」
「なんでだよ!? もしかしたら父さんでも出来なかったかもしれ・・・なくもないけど・・!!」
「ミナツは馬鹿ですからね。ようやくお父さんの凄さを実感できたんですね」
「なんかムカつくー!!! 父さんからも何か言ってよ!!」
そうは言われてもな・・・自分の昔話で自慢するのはちょっと恥ずかしい。
「あー・・・その、なんだ。とりあえず頼りになるって事だけわかってくれればいいよ」
「「「それはいつも思ってる」」」
「そか・・・ありがと」
「父さんも言いくるめられてるー!!?」
ミナツよく言いくるめられてるなんて言葉出てきたな。本読んだから語彙力も成長したんだな。
「そういえば・・・マミーはどうしたの?」
「母さんならハルナ達を泣かせた奴泣かせてくるって出かけたけど」
「あれ? ミナツってマミーのこと母さんって呼んでましたっけ?」
「っっ!! 呼ぶようにしたの!! マミーって呼ぶよりもカッコいいじゃん!!」
「「「ミナツ・・・」」」
「なんでそんな顔するんだよ!!?」
「まぁ、マイはそれで嬉しそうだったから良いんじゃないか」
「だよな!? ほーらみろ!!」
「「「ガキミナツ」」」
「ムキィィィ!!!」
そろそろミナツも諦めたらいいんじゃないかな。多分アキハ達三人に一人じゃ勝てないと思う。俺ですらマイ一人に勝てないんだし。女性は口が回るんだよ。
ーーーーー
「いやーエレティコスは強敵でしたね」
「嫌みか貴様」
「まさか後半で瞬殺されるとは・・・プレイヤーの底力を舐めてましたねぇ」
「グギギギギギ・・・色々考えてたのにぃ・・・!!!」
今回のメインシナリオを描いていた運営は、今回の内容の評価に関して様々だった。
もう少し難易度を上げればよかったと思うもの。
プレイヤーを甘く見過ぎたと考え直すもの。
ボーナスシナリオだったと割り切るもの。
とりあえず楽しめたから良かったと思うもの。
「ともかく、現状の覚醒者の実力の底は知れたね。僕としてはマイにはさらに研鑽を積んで、彼に並ぶ実力を持って欲しいな」
主任と呼ばれる彼は、今回の功労者たち、覚醒者に対して素直な意見を口にした。
「自分はシロマサですね。そろそろ楽しむために使わないんじゃなくて、強くなるために使う様に切り替えてほしいもんです」
「私はレイレイですかね。強いんですけど他の覚醒者と比べるとワンランク劣るから」
「俺は覚醒者が後二人位増えてほしいもんだけどな。大陸を動かすくらいの怪力の覚醒者とか」
「うーん・・・そうなるとこちらの予定を少し変更するのがいいかもね。終末クラスのシナリオはもう少し先延ばしにしようか」
「「「了解です」」」
「それはそれとして・・・ようやく僕らの主人公が認知されたね」
「それですよ主任!! エレティコスは残念でしたけどアールの存在を大々的に出せたのでおつりがくるくらいです!!!」
今回のシナリオを任されたリーダーの女性は興奮を隠さずに、鼻息を荒くしながら吠える。
「あのミナツがまさかここまで成長してるとは思いませんでしたよ!! おかげで諦めてたシナリオも出せたので私は大満足しました!!!」
「あの判断は早かったね」
「えぇ! えぇ!! 勿論ですとも!! いつか出したかった剣聖救出シチュとかもうもう!!! しばらくは裏方でも満足して仕事が出来ますよ!!!」
「リーダーの興奮具合はもはや猿でしたからね。猿ですよ?」
「気持ちはわかるけどな。でもマジで猿だったわ」
「ウキャー!! なんて生で聞くの初めてだったわ」
「こらこそ!! 仮にもレディーに向かって失礼よ!!」
「「「「「自分で仮って言うなよ・・・」」」」」
「アハハ! 相変わらず愉快な職場だよ! んで、僕からの提案なんだけど皆聞いてくれるかな?」
主任は一呼吸を置いて全員に聞こえるように言った。
「荒武者を動かすよ」
「「「「「ッッ!!?」」」」」
「目途は三か月から半年の間。あの世界での死亡カウントがそうだね・・・5000を超えたタイミングで起こす」
「正気ですか主任? マジで荒武者やるんです?」
「プレイヤー側に『覚醒者がいれば邪神は余裕』なんて思わせておくのは気に入らないんだよ。成長の停滞こそ僕が最も嫌う事だ」
温厚な表情だが、眼には怒りが如く焔が浮かび上がる。本気で言っている。
「さらに荒武者の設定も僕が少し調整しよう。そうだね・・・『絶対王者』と『雷撃女王』の能力を一部譲渡しようか」
「ちょっ!!?」
「理性を消さないで本物の武人として再構築しよう。力押しが出来ないようにね。あと魔力障害もつけよう」
まるで新しいおもちゃでも作るように、主任はコンソール上に今口にした力を出力していく。
「うっぅわぁ・・・・・・魔改造レベル・・・」
「元々の荒武者の設定ってアレよね? 過去に君主を失った落ち武者が理性を失って破壊の限りを尽くすってやつ」
「あとは魔法耐性と物理耐性が高い事だな。それ考えてもかなり強い設定のはずだけど」
周囲の社員がドン引きするほどに、荒武者と呼ばれる存在は異常な強化を受けていく。
「そうだ。『魔月剣技』も荒武者に覚えさせようか」
「主任それは本当に不味いですって!!?」
リーダーが止めに入る。それだけは不味いと理解しているからだ。
「そうかい?」
「そうですよ!! 現状を考えたら『魔月剣技』なんて誰にも超えられないですって!!」
「そうだね。確かに現状のまま停滞してるなら間違いなくこれは惑星終末シナリオだ」
けれど、と言葉を繋ぐ。
「そもそも邪神とはそういうものだ。常識の外の存在。理不尽の権化。そうだろう?」
「「「「「・・・」」」」」
「僕らはプレイヤーを甘く見過ぎていた。だから今回はあえて理不尽を叩きつけに行く。それにね。僕は見たいのさ。人の可能性・・・いいやハッキリ言おう。彼の可能性が見てみたい」
プレイヤー全員ではなく、主任はハッキリと、一人のプレイヤーを名指しで指名する。
「彼はいつも僕らの常識を壊して、可能性を魅せてくれた。だからまた見たいのさ。彼の可能性のその先。まだ誰も見た事がない光景をね」
「・・・そこまで言うなら、最後まで付き合いますよ主任」
「ま、彼の話出されたら反対する理由無いですからね」
「そもそも、彼が来るまで控えてたんですし、一回こっちの本気を教えてやってもいいでしょうね」
「あー、五月蠅い抗議の連絡増えそうだなぁ・・・まぁいいか」
エクスゼウス。それは自由を求めてもう一つの現実を作り出した稀代の天才たちが立ち上げた企業。そして、自己の欲望に忠実で、何よりも、誰よりも、自分たちが作り出した世界で生きるものが大好きな人間たち。
この世界の創造神。神はいつの時代も気まぐれなのだ。
ーーーー
メインシナリオが無事にクリアされたらしい。
「おめでとう」
「ありがとう」
現在夜中。扉が開く音で目が覚めた俺は帰ってきたマイを出迎える事になった。その表情はやり切った顔をしており、話を聞けばメインシナリオをクリアしていたらしい。
んで、聞く所によると俺の存在が改めて大々的に周知されたとか。特別版を送ってきたくらいだからそうするよなとは思う。
多分現状の俺の様子を運営としてはあまり良いとは思って無さそうなんだよな。多分前線で活躍するみたいな願望を盛られている気がする。
じゃなきゃ月光真流を最初からここまで使わせてはくれないだろう。だからこういう形で表舞台に引きずり出そうって腹積もりかもしれない。
「そこまで考えてないと思うけどな。私が運営側ならただ自慢したいだけで特に思惑とかは無いけど?」
「エクスゼウスの考えは本当に誰にもわかんないし」
海外企業に技術提供したと思えば、今度は国内企業に、また今度は民間の小さなインディーズゲームにまで投資するからな。
結果としては投資された側はある程度良い感じに売れていくのだから、何も悪い事はない。
まぁ何が言いたいかと言うと、ここで俺たちが何か考えてもエクスゼウスの思惑なんてわからないって事だ。
「それよりアール。前にマスターがオフ会云々の話してたの覚えてる?」
「勿論」
剣聖物語クリエイションモード攻略組のオフ会だ。開催は一回きりだったけど、リアルであって友人も増えたしこんなに一緒に頑張っている人がいると勇気を貰った。
それをまたやろうと企画してくれていたんだ。忘れるわけがない。
「それなんだけどね? こっちでやらないかって話が出たのよ」
「??? こっちって?」
「此処の中でよ。今回の戦いでマー坊とレイレイに会ってね。どうせなら今回の祝賀会もかねて皆に連絡してみるって言ってたの」
「マジでか・・・そういえばマスターもやってるって言ってたな」
「でしょ? それにマー坊からリアルの方で皆に連絡入れて貰えるみたいだからこれを機会に『プラクロ』始めてくれるかもだし」
「あー・・・それいいな」
「でしょ? あの時は相談だけで協力はそれくらいしか出来なかったけど、こっちなら一緒に戦えるし」
それはいい。うん。凄くいいな。あの時の仲間たちと文字通り一緒に肩を並べて戦える。リアルと違って会おうと思えばいつでも会える。小さな相談から大きな問題解決まで。何でも出来る。
何よりも、いつでも会えるって言うのがいい。
「乗った。その辺の打ち合わせ任せていいか? マスターには俺の方から話をしておくよ」
「そういってくれると思った。それで場所なんだけど、家にしない?」
「え? 家って・・・ここ?」
「そ」
それは・・・うーん・・・
「アールが考えてるのアキちゃん達の事でしょ?」
「うん。まだ人見知りと言うか人嫌いと言うか、苦手意識が強いから」
ストレスを感じて体調を壊してしまうかもしれない。ただですら先日悲惨な思いをしたばかりだから。
「だけどいつまでも私達二人に依存させるわけにもいかないよね?」
「・・・おっしゃる通りで」
アキハ達が前よりも俺たちに対して心を開いてくれているのはすごくうれしい。でも依存させるのは良くないとは思ってる。思ってはいるんだけど・・・
「そのー・・・もう少し時間をかけてゆっくり成長させたいなって思うんだよ」
「たまには荒治療も必要なんだよ。それにナツ君はこの前一歩前に進んだんだよ?」
「・・・」
「かわいがるのは大事だけど、時には厳しくするのも親の責任だよアール」
ダメだ。言い返せる気がしない。と言うかマイの言う通り過ぎて反論が難しいが正解だ。
俺はアキハ達を守っているが、依存させたいわけじゃない。いつかは自分たちで歩いて行ける大人になって欲しい。
「・・・わかった。降参だ。起きたら話をしておくよ」
「安心して。不特定多数に合わせるんじゃなくて私たちの共通の友人に合わせるだけ。アキちゃん達なら大丈夫だよ。私だって母親なんだもん。そうなるって信じてるんだから」
「ハァー・・・これで反対してたら俺がアキハ達の可能性を信じてないって思われそうだ。ならせめてもてなしの料理は豪華なものでも作ってアキハ達にも腹いっぱい食えるようにしてやんないとな」
「決まりだね。メニューの相談とかは明日しよっか。じゃあ、私も寝ようかな」
ベットに横になり、近くにいたミナツを引っ張り抱き寄せる。
「おやすみ」
「ん。おやすみ」
俺ももうひと眠りしますかね。
ーーーー
「って話があるんですけど、どうですマスター?」
「良いじゃない。実は皆中々都合がつかなくてリアルで集まるの難しそうだったんだよね」
バイトの休憩時間中。正確にはお客さんが途切れた一服タイム。マイから持ち掛けられた向こうでのオフ会モドキの話をマスターに振ると、思った以上に好感触だった。
「日時と時間さえ決めてくれればその日を休みにして僕もゲームしてればいいからね。それに真央君が美味しい御馳走も用意してくれるみたいだしネ」
さすが喫茶店のオーナー。店の事は自分の都合でどうにでも出来るもんな。
「料理に関してですけど期待しすぎてガッカリしないでくださいね?」
「ふっふっふ・・・ウチでバイトしてる真央君の料理の腕は知ってるからね。安心して任せるよ。僕はお土産にドリンクとコーヒーでも持っていくよ。あと君の養子の子たちにお菓子でも作っていくよ」
「マスター向こうでも料理してるんで?」
「ハッハッハッ! あっちでもマイホームを持っててネ。材料集めも楽だからこっちじゃ絶対に作らない料理とか作ってるんだヨ。無論コーヒーセットも作ったとも」
「ほえぇー」
本当に料理好きなんだなマスター。あとコーヒーも。実は向こうでも喫茶店的な店舗を持ってたりしてな。
「いやーしかし楽しみになって来たネ! あの時のメンバーがどれくらい来るかとか、向こうでどんな姿をしてるのかとか、楽しみで仕方ないよ」
まるで子供のように小躍りし始めちゃった。これは、お持て成しする側としては満足させねばいけないと言う使命感が凄いな。
まぁ実際。シナリオに参加してない俺は、マイはじめとしたイベントに参加した友人知人たちを持て成す事に対して、ちょっとわくわくしてたりもする。
マイから色々聞いてはいるけど、他の人からの視点で語られる物語ってもの興味深い。
「僕も皆をびっくりさせるための仕掛けはあるんだよね。ふっふっふっ。当日驚いて腰を抜かさないでネ?」
お茶目だなぁ。
ーーーー
プラネットクロニクルへと戻ってきた俺がすることは、御馳走の用意である。
アキハ達は最初こそ渋ったものの、マイと俺の説得により一応納得してくれた。ハルナは最後まで抵抗してたけど俺の傍を離れない事を条件に納得してくれた。
ハルナが一番依存度が高いから、気を付けて見守っていくとしよう。
料理は和洋折衷様々な料理を用意しよう。実は最近庭に窯とバーベキュー用のコンロを作ったので作れる料理の幅が増えた。
当日は家の中には出来立ての料理を、庭では自分で焼いて食べるスタイルでバーベキューなんかをする予定だ。
んで、今回は今まで作ったこと無いものにもチャレンジしようと思う。そういう訳で食材を求めて家族みんなで出かけている。
「と・・・ととと父さん!? 引いてるんだが!!? どうすれば!!?」
「初ヒットだなアキハ。ぐっと引き上げるんだ。リールを巻いて少しずつ手繰り寄せるように」
「わわわわかった!!」
「・・・ヒット。小物かな」
「えへへ・・・大きいのが釣れました」
「うううう・・・俺だけかよまだ一匹も釣れてないの・・・」
「拗ねない拗ねない。釣りはのんびりやるものなんだから。お、ヒット。ほらナツ君。手伝って」
「え!? いいの!! やるー!!!」
釣りである。それも海釣り。ルーキストから少し離れた場所に河口があり、そこから海へ繋がっている。この海の先には魔人種が住んでいるらしく、以前は人類種・亜人種とは良い関係ではなかったらしいが、紆余曲折あって現在は友好関係を結んでいるらしい。
まぁそれは追々知っていけばいい。今回の獲物は魚だ。それも生食が出来る魚。
そう。今回俺が新しく作るつもりなのは寿司である。日本人なら寿司がなけりゃな!!
幸い酢は確保したのであとはネタとなる魚を確保することだけだ。
んで、市場で売ってるものを買うのも良いんだが、せっかくだからアキハ達に釣りの経験をさせようという事で、ピクニックもかねて皆で釣りに来た。
ハルナとフユカは早々にコツを掴んだらしく、ひょいひょいひょいと魚を釣り上げている。アキハはようやく初ヒット。ミナツは連れる気配がなかったが、マイの釣り竿にかかった魚を一緒に釣りあげている。
俺はまぁそこそこだ。20cmくらいの魚をちらほらと釣っている。釣りの経験は『剣聖物語』の時以来だが、あの時の腕はまだ落ちていなかったらしい。良かった良かった。
「とととうさん!!? たすけて!!」
「あー、焦るなアキハ。こっちおいで」
「あわわわわ!?!?!」
「アキハ姉さんなんでそんなに下手なのさ。ミナツの方がまだ上手だよ? 」
「えへへ・・・アキハ姉さんの苦手な事発見ですね」
「なななんんんっでお前たちはそんな簡単にぃっ!? また引いたぁ!?」
完全にテンパるアキハの釣り竿を一緒に持って、リールをゆっくり回していく。
「ほーらゆっくり焦らずに。少しずつ魚の体力を減らすように引いたりして」
「あうあうあうあぁぁ・・・」
弱って引きが甘くなったタイミングを見定めて・・・釣り竿から伝わる振動を体で感じながら、弱った一瞬を見定めて・・・今!!
「今だ!!リールを一気に回せ!!」
「うぉ・・・うおおおおおおお!!!」
竿を引き上げて糸を引き上げていく。来た来た!!
「つ・・・釣れたぁ…!!!!」
「やったな!」
釣れたのは脂がのってそうな大きな魚。
「・・・ふっ、私の方が大きいね」
「私のより小さいですね」
「ふん! だが私の初物だ!!」
「あー・・・ごめんねアキちゃん。それ毒持ってる魚だからお寿司には出来ないかな」
「そんなっ!!?」
現実は非情だった。初めて釣り上げて喜んでいたアキハが目に見えて落胆している。南無。こればかりは仕方がない。
「まぁ焼けば食べれるから私たちの晩御飯だね」
「そ・・・そうか・・・でも食べられるなら良かった・・・」
「ふっ、まぁ気を落とさなくてよかったね姉さん」
「えへへ・・・毒持ってるのに焼けば食べれるなんて不思議な魚なんですね」
「くっ・・・だが今ので釣りは理解したぞ!! 今度はお寿司に出来る魚を釣って見せる・・・!!!」
「おりゃぁぁ!!! 釣れたぁ!!!」
「おぉナツ君大物だね! これお刺身で美味しい魚だよ!」
「やったぜ!!」
「・・・ちょっとよこになりたい・・・」
現実は非情である(二度目)。マイと一緒に釣ったとはいえ大物でお寿司向きな魚を隣でフィッシングされたらそりゃ落ち込むわ。
「ほーらアキハ。おいで、よしよししてあげるから」
「・・・戦力外ですまない・・・すまない父さん・・・」
「・・・なんか負けた気分なんだけど」
「あ、また来ました!」
その後アキハは一匹も釣れなかった。まぁそういう日もあるさ。
ーーーー
マイが祝賀会の調整をして、ついに明日、我が家で剣聖物語クリエイションモード攻略班のオフ会もとい、再会のお祝いの日がやって来た。
なんと明日来るのは10人もいるそうだ。オフ会には都合がつかなかったが、こっちでなら会えると言ってくれた人がいたらしい。
他にもこれを機会にプラクロを始めると言ってくれた人もいたとか。嬉しい限りだ。あの時の旧友たちと会えるってだけで楽しみで仕方がない。最大限のお持て成しをしなければ。
明日の為にいろんな所から食材やら調味料を用意してくれたからな。マイが主に。
俺は前日である今日から料理の下ごしらえだ。やることはたくさんあるから朝からずっとキッチンに立ちっぱなしだ。
揚げ物に中華料理。パスタとピザにバーベキュー用の串。ドラゴン肉の角煮も作っていこう。ご飯物もたくさん用意する必要があるからチャーハン用にご飯も炊いて。
お寿司用のは明日の早朝に炊いて酢飯を作るから今はいい。
ハンバーグもたくさん作ろう。
「・・・お父さん味見してあげるから何か作って」
「さっき昼ご飯食べただろ?」
「これは別腹」
この食いしん坊め。料理している俺の元にハルナがやってくる。並べられた下ごしらえの済んだ食材を見て目を輝かせておる。
「ふぅ・・・冷蔵庫に練習で作った海苔巻きがあるからそれで我慢しなさい」
「・・・仕方ないからそれで勘弁してあげよう」
何処から目線だよ。
「お前食べてばかりだと太るぞ?」
ちなみにミナツはマイといつものように魔法創造のための修業、アキハは庭で剣の修業中。フユカは読書中だ。ハルナはさっきまで昼ご飯食べて満腹で横になってたはずなんだけどな?
「この後姉さんと一緒に稽古してくるから問題ない」
「食った後すぐ動いたらお腹痛くなるぞ?」
「平気。食べたらすぐに消化する体質だから私」
「それって太りやすいって事なんじゃないか?」
「・・・お父さん。食べた分動けばいいんだよ。本に書いてあった」
そういってハルナは試作した海苔巻きを・・・・おまっ一つ摘まむんじゃなくて一本丸々持ってくのかよ。
「あー・・・運動量今度増やすか」
ハルナは特に。まだ太ってはいないけど、油断してると太るからな。半年前ならともかく、今はしっかり三食食べさせているから体の肉付きは年相応だし、誰が見ても普通の子供に見える。
というかマイに怒られそうなんだよな。甘やかしすぎって。分かってはいるんだけどね? こう、保護欲と言うか父性というか、ともかく気が付くと甘やかしちゃうんだよ。
「おほうはん。こへおいひい」
「どうも。あと口の中に入れたまま話さないの」
「あっ!! ズルいですハルナ姉さん!! 私も食べたいです!!!」
「どうしたんだフユカ・・・なっ!!? ハルナお前また食べてるな!!? 太るぞ!!?」
「んっぐ・・・この後剣振るから平気」
「アキハ。悪いけど目いっぱいしごいてやれ。脂肪分削ぎ落とすくらいに」
「わかった。そういう事だハルナ。覚悟しろ」
「はいはい。それより姉さんも一つ食べる?」
「・・・」
ちらっとこっちを見てくる。
「いいよ食べな」
「・・・あむ・・・ん!!」
「美味しいでしょ?」
「んんー!!!」
次回、運営がガチで終わらせに来る件について。
アール達はそんなこと知らず旧友たちとの再会でワクワクしてます。
楽しそうなアールを見てアキハ達もわからずワクワク。皆でお出かけ楽しい。




