母親として、1プレイヤーとして
今回はマイ視点がメイン。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!
なんでこういう時に限って問題が一気に起こるかなぁ!!?
ナツ君と魔法の練習してたら急にメインシナリオ始まったのはいいよ! そういうものだから! アールが残ってたアキちゃん達連れてファクリアで依頼を受けに行ったものいいよ!
一日家にいるよりは出かけた方がアキちゃん達の健康にも良いからね!!
ナツ君がいるからすぐにボスにカチコミに行けないのも別にいい!! ちょっと残念だけども!!
問題は!! ボスがギミック解除前提の壊れ性能らしくて世界中のプレイヤードが阿鼻叫喚なのと、そのギミック解除の為の手がかりが全くない事!!
何よりも!! アール達が!! 帰って!! 来ない!!
置手紙には日にちが変わるまでには帰ってくるって書いてあるのに帰ってこない!!
アールが約束を破る人間じゃないって事は私がわかってるから間違いなく何か問題に巻き込まれてる!!
そんな私にとっては一大事なのにいろんな所から至急応援の連絡がうるさい!! 特に掲示板! 覚醒者はよこいとか何様なのよ阿保!! こっちはそんなことよりもアールの心配してるのよ!!
アキちゃん達はアールがいるはずだから何とでもなると思うけど、アールに何かあったらアキちゃん達は絶対に危ない!!
今すぐ探しにファクリアに行きたいけど!!
「マミー・・・ごめん。俺のせいだよな・・・ごめん」
恐怖を押し殺して、すごく申し訳なさそうな表情で謝るナツ君を見て、改めて確信する。
「あぁあああ・・・違うんだよナツ君。私もちょっと混乱してるだけだから。ナツ君は悪くないよ」
ナツ君を!! 放って!! いける訳!! ない!! じゃん!!
私の可愛い息子でお弟子さんなんだよ!!? とってもかわいいんだよ!! 北海道弁でめんこいって言うんだよ!! 覚えておきなよ!!
申し訳なさそうなナツ君を抱きしめてとりあえず寝る!!
一人で寝られないナツ君。寝ている間に一人になれないナツ君。
うちの息子の精神年齢は見た目よりも低いんだよ!! 孤児舐めるな!!
・・・ふぅ。少し落ち着いた。
今の時間は夜中。アール達は帰ってくる様子はない。現在進行形でメインシナリオが発生してボスモンスターの討伐の為の手段や足止め、情報収集でプレイヤーが全勢力を駆けて奔走している。
アールが居ればナツ君を預けて私もそっちに参戦するんだけど、あいにく不在。そうなるとナツ君を守れるのが私しかいないから、今晩は全部無視してナツ君の安心を確保しよう。
明日は朝一からアールとアキちゃん達の捜索。ステータスダウンはしてないから四人が無事なのはわかる。
私の魔法で助けに行こうにも何らかの特殊な場所なのか転移魔法も上手く使えない。多分何らかのシナリオに触れたんだとは思う。シナリオ発生中に転移の魔法が使えなくなることはよくあるから。
けど、それでも。パーティーメンバーの所在地はリーダー権限がある私はマップでの確認が出来る。けど、それが全く機能していない。これが一番私が心配してる理由。
居場所がわからない。
居場所がわからないと対策も練られない。
本当にアールの事を優先するならナツ君につらいのを我慢してもらって探しに行くのが正解なのは頭で理解してる。けど、私はここではこの子の母親なの。子供につらい思いをさせることなんてできる訳ないじゃない。
「ナツ君。眠れそう?」
「わかんない・・・アキハ姉さんもハルナも、フユカもいないのすっごく久しぶりだから・・・」
アキちゃん達の存在がどれだけナツ君の精神を支えてきたのか改めて理解する。ずっと一緒に居たんだもん。急にいなくなるのは怖いよね。
優しく包み込むようにナツ君を抱く。背中を撫ぜて頭を抱き寄せ、心臓を鼓動を聞かせるようにやさしく抱き寄せる。僅かに震えているのが伝わる。怖いんだよね。
「今は私の事信じて。明日必ずお父さんもアキちゃん達も見つけてくるから。今はゆっくり休んで」
「・・・うん・・・ありがと、マミー」
こういう時、アールならどうするのか、はっきりわかる訳じゃないけど、アールならこうするって方法でナツ君を抱きしめる。
「私の心臓の音に耳を傾けて、目を閉じて、ゆっくり深呼吸しよっか」
「うん・・・」
ナツ君がようやく私の方に抱き着いて来てくれた。握りしめていた締めていた手を解いて、私の背中にそっと手を伸ばす。
「マミーも・・・あったかいんだね」
「でしょ? お父さんほどじゃないけど、私だってあったかいんだから」
「うん・・・マミー」
「なぁにナツ君」
「父さん達・・・大丈夫だよな?」
「お父さんは世界最強よ? アキちゃん達は絶対に大丈夫。だから今晩は寝よう? 明日朝から探しに行くからさ」
「うん・・・」
やがてナツ君の呼吸は穏やかになり、寝息を立てて静かに眠りについた。私はこの間に、情報の整理と、明日の予定を決めよう。
ーーーー
翌日。
朝方になってもアール達は帰ってこなかった。だから有言実行。ナツ君を連れてアール達を探しに行こう。
まずは町の宿舎。依頼で疲れて一晩こっちで過ごした可能性を潰していく。まずはルーキスト、次にファクリアだ。ルーキストの宿舎は少ないから直ぐに調査は終わった。ルーキストにはいなかった。
ファクリアは私の町だ。人員を動かすのは簡単。結果だけど、宿舎は利用してなかった。もちろん闘技場の利用も無し。
「そういう訳だから昨日アールが受注した依頼の開示をお願いしたいんだけど」
「すみません・・・規則でしてご本人の了承が無ければ依頼内容の開示は出来ないのです」
これだ。ギルドの規則に引っかかるから依頼の受注者に関する情報を教えて貰えない。
以前はそんなこと無かった。あとから合流するとか全然出来たからね。けど、出来なくなった。
原因はプレイヤード側にある。とあるプレイヤードのクランが起こした事件でプレイヤードの信頼と信用は一時期地に落ちた。その結果様々な機関、商店、街全体がプレイヤードを危険視して、様々な対策を取った。
依頼内容と依頼受注者の情報掲示をしないのもその対策の一つ。依頼受注者を守る為だ。
この世界には私たちプレイヤード以外の種族も存在している。ギルドは種族に関わらず、様々な人たちが依頼を受けに来る場所。当然プレイヤード以外の種族も依頼を受ける。
そんな彼らをプレイヤードから守るための規則。何故こんな規則があるか。簡単よ。依頼報酬目当てでプレイヤードが他の受注者を殺さないとは限らないから。
つまり横取り。強盗の類をギルドは恐れている。
そして今回、アールに同行してるのはこっちの世界で生まれたアキちゃん達。規則の保護対象だ。ここで言う本人って言うのはアールじゃなくてアキちゃん達になる。
だってこの規則はアキちゃん達を守るための規則なんだから。
「お願い。その本人たちが危険に晒されてるの。無理を言っているのは理解してるけど、教えてほしいの」
「申し訳ありません。ギルドが貴女の言う危険を確認できない以上、受注者の情報開示は出来ません」
「くっ・・・」
「失礼ですがそれ以上に隣町のヒーリアスでは悲種型モンスターが確認されています。そちらの方が危険なのでは?」
「それは・・・そうなのだけど・・・!!」
それを言われると返せる言葉がない。既に情報は世界中に広がっている。当然プレイヤード以外の人種にもそれは伝わっており、前大戦で悲種型モンスターの危険さは世界中の人が認知している。
今だってギルドの中では多くの人がこの危機を乗り越えるべく様々な動きをしている。戦う準備をする人、住民の避難の為に動く人。物資の用意をする人。情報を集める人。
最優先すべきことは悲種型モンスターの討伐だ。私だってそれくらいわかっている。分かっているのだけど・・・!!
「お・・・おね・・・おねがい・・・します・・・!!」
「ナツ君!?」
隣にいたナツ君が大きな声を出した。まだ他人が怖いと言っていたナツ君が、震える声で叫ぶように。その声は、騒がしかったギルドの動きを止めるほどに大きく、勇気ある声だった。
「だいじな・・・家族なんだ・・・!! おれの父さんに姉ちゃんに妹なんだ・・・!!だから・・・!! おねがいします・・・!! おしえてください・・・!!」
「・・・君。この人と君はどんな関係なのかな?」
「俺の・・・お母さん・・・です!!」
ぎゅっと私の腕をつかんで、ナツ君は涙ぐみながら答えてくれた。その言葉に私の心が温かくなるのを感じる。
「・・・人間の君とプレイヤードの貴女。血のつながりは無いのでしょう。それでも、君はこの人をお母さんだって誓えるんだね?」
「ち、かう・・!!! 俺の・・・母さん・・・は、この人・・・なんだ・・・!!」
「・・・少々お待ちください」
そういって受付嬢は奥へと向かう。私は必死に答えてくれたナツ君をそっと抱きしめた。
「ナツ君・・・ありがとう」
それだけしか言葉が浮かばない。私の息子になってくれて、本当にありがとう。
「お待たせしました。昨日中に帰還が可能だと思われていた依頼の中で達成報告に戻らなかった方々の情報です」
「ありがとう」
「お礼ならばその子に、裏町出身の子供には少々縁があったので」
受け取った依頼書に目を通していく。依頼内容と受注者。一枚ずつ見落としが無い様に。
「見つけた!!」
ーーーー
依頼:ファクリア南方のモンスター討伐
依頼主:ファクリア住民
内容:ファクリア南方『まどろみの森』近辺に出現した正体不明のモンスター討伐。
報酬金:討伐モンスター数×10000G
備考:対象モンスターは『パルノゴス』と推定される。
依頼受注者:アール・アキハ・ハルナ・フユカ
受注日時:----
ーーーー
「っ!!」
瞬間理解する。パルノゴスは砂漠地帯に生息する中型の蛇モンスター。はぐれである可能性は否定できないが、もしはぐれだとしても砂漠からヒーリアス、そしてファクリアを超えたまどろみの森に行くまでに誰も討伐しなかったのは違和感がある。
そしてパルノゴスの強さはあのベオウルフを抑え込んでいたアール達の実力ならば数刻も掛からない内に討伐できる。
それが百匹いたとしても、その状況のアールなら全力で臨むだろうから極大奥義で殲滅しているはず。
それに一晩野宿する位なら三人を抱えてアールなら帰還できる。アキちゃん達の眠りに関することはアールが誰よりも理解している。
にも拘わらず一晩帰って来ず、ギルドにも報告に戻っていない。そんなことがあり得る?
私がアールの立場なら絶対にありえない。すぐに戻ってアキちゃん達を休ませる。それこそ依頼を破棄してでも帰る。つまり・・・
「緊急依頼を出すわ! 依頼主は私。依頼内容はまどろみの森の調査! 受注者の数は問わないわ!!」
「は・・・はぁ・・・それは構いませんが、状況が状況です。果たして受けてくれる方がいるかどうか・・・」
「これは私の感だけど、たぶん星見砂漠に出現した悲種型モンスターに関係してる! おそらく邪神教団も関わってる気がする!!」
「っ!!? マイ様!! 発言にはお気を付けください!!」
「いいえ断言するわ。私の夫の実力と子供たちを連れた状況を考えれば帰ってこないのは異常よ。ならば彼が対処できない異常事態が起きていることは確実。そして同じタイミングで悲種型モンスターの出現。無関係とは考えられない」
「っっ!! しかし!! 証拠が」
「証拠は無いけど、証明は出来る。彼は・・・アールは過去に邪神本体を討滅しているわ」
「っ!!?」
これはこの世界の話ではないけれど、アールは確かに邪神を討滅している。文字通り実力だけで。そのアールが解決できない事態だと考えれば、おのずと答えは見えてくる。
「マイ様!! 今の発言! 本当ですか!?」
「えぇ。本当よ。今この時に限り、私は嘘も隠し事もしない。アールは・・・正確には彼は前世の記憶を所持している。そして前世で出現した邪神『アベルピスィア』を確かに討滅しているわ」
「っっっ!!? そ・・・それは・・・いえですがそんなまさか!!?」
邪神アベルピスィア。剣聖物語の、真剣聖編のラスボスであり、剣聖物語と言う世界で全ての権化ともいうべき邪神。
そして、この世界においては伝説の様な出来事。考察班がずっと歴史を漁り続け見つけた一冊の伝記。それこそ『剣聖物語』の物語そのもの。剣聖と呼ばれた剣士と、英雄と呼ばれた剣士。二人が力を合わせてこの世界に初めて襲い掛かった邪神を、女神さまの力を借りて討滅した。ありきたりな伝記。
今尚多くのファンがいるあの作品が、この世界に繋がっていると知った多くのプレイヤードは、この伝記を瞬く間に世界中に拡散した。
そして、それは多くのプレイヤードの前世でもある。多くのファンがいるって事は、多くの主人公がいた事なのだから。
けれど、それでも、本当に世界を救ったのはアール。ゲームの登場人物ではなく、あの世界で生きた一人の男が起こした奇跡。
都市伝説と言われているクリエイションモード唯一の完全クリアを成し遂げた私の自慢の恋人。主人公は多くはいれど、本物はアールだけだと、私は思っている。
「と・・・とうさんが・・・剣聖物語の主人公?」
「そうよナツ君。私たち家族のお父さんは、遠い昔に世界を救った剣聖が生まれ変わった人なの。だからとっても強いのよ」
「マイ様・・・!! 念のためです。こちらの水晶に触れてもう一度今の言葉をお願いします!!」
取り出した水晶は証言の真偽を図る水晶。プレイヤードであろうとも、どんなスキルを所持していても、この水晶だけは騙せない。
アール後で怒るかな? まぁいいや。怒られたらその時考えよう。でも、怒られてでも、私はアールを助けるために動くよ。
「私達家族のお父さん。アールは前世で剣聖として生きて、邪神アベスピスィアを討滅した英雄よ」
水晶が示すのは真実を証明する月の輝きの如く白。この瞬間、アールの情報が世界中に開示される事になる。
ーーーー
メインシナリオ『星喰らう砂の蛇』更新。
サブシナリオ『蘇る剣聖』発生。
・過去の伝説にこうある。『始まりの邪神、アベルピスィアは月の女神に愛された剣聖と英雄によって討滅された』と。誰もが忘れ、消えかかっていた過去。プレイヤードによって広められ今では誰もが知る伝説。
その英雄が蘇っていた。プレイヤードと言う新たな身体を得て、この世界に再誕していた。しかし、剣聖と呼ばれた彼は現在、追い詰められている。守るべき存在を人質に取られ、彼を陥れようとしている邪神を真の神と崇めたてる者たちによって。
彼を救え。それが世界を救う鍵となるだろう。
彼の剣には、その魂には、それが出来る力がある。思いがある。その誇り高い魂を、失ってはいけない。
ーーーー
っっっ!!!?
このタイミングでメインシナリオが更新した!!?
まさか運営はアールの事を組み込んだシナリオを描いていたというの!?
いや、エクスゼウスが特別版をアールに送った時点でこの可能性は十分あった。それが私の想像よりも早かっただけ。
そして掲示されたミッションはアールの窮地を救う事。それはつまり、現在必死になってプレイヤードが探している悲種型モンスター攻略のための必須項目。
本来シナリオ更新のためには様々な情報と時間が必要になってくる。地道で懸命な努力と人員を駆けてやっとたどり着くシナリオ攻略の鍵。シナリオ更新がないと、基本的に邪神攻略の糸口はつかめない。
それが今この瞬間に開示された。多分メインシナリオ史上最速の更新だ。それも良い方向の更新。
「超越者殿よ!! 確かまどろみの森だったよな!!? その依頼受けた!! すぐに出るぞお前ら!!」
「こっちも出るわよ皆!! まさかファクリアに居てシナリオに直接貢献できるなんてね!!」
「受けるつもりの新人はこっちこい!! 臨時のパーティー組んでまどろみの森を攻略するぞ!!」
「これってつまりそういう事だよね?」
「運営が認めた英雄で剣聖・・・つまり本物のクリエイションモードクリア者だよ絶対!!」
「何言ってんだ!! その事実の有無は後でいい!! 前線で頑張ってる連中の為にいち早くミッションクリアするぞ!!」
「前線で使い物にならなくて燻ってたんだ!! 暴れてやるわよ!!」
「邪神教団シスベシ!!!」
「今回の原因邪神教団確定じゃぇねか!!! あの連中絶対に見つけてぶっ飛ばす!!!」
となればプレイヤードのモチベーションは跳ね上がる。今まで苦渋ばかり飲まされてきた邪神と邪神教団相手に、最速で最善の手を打てるんだから。
「剣聖云々はともかく人質取ってるとかマジで許さん!!!」
「情報流せ!! 対応できるプレイヤーかき集めて総力をもって邪神教団をぶっ飛ばすぞ!!」
こうなったらもう良くも悪くも誰にも止められない。分散した矢印が全てまどろみの森へと向かう。そして私も。
「用意が出来た奴は南門に集合!! 百人程度だけどまどろみの森まで転移で一気に跳ぶわ!!」
「「「「「おう!!!」」」」」
「ナツ君。おんぶしてあげるから振り落とされないように全力でしがみ付いて。お父さんとアキちゃん達を助けに行くよ!!」
「う・・・うん!!!」
「それと、ナツ君。貴方の勇気が皆を動かしたの。今この瞬間、私にとってナツ君は勇者だよ」
「っ!!?!? そ・・・そうなのかっ!!?」
「そうだよ! だから一緒に行こう! 皆を助けるんだ!!」
ーーーー
「・・・っていう事があってね。この後もこの場所にプレイヤードが続々くるよ」
ここに来るまでの経緯をマイに聞いて、正直驚いている。まさか外ではそんなことが起きていたとは。まさか邪神が本当に関わってるなんてな。
霧の結界が破壊され、男の幻影も消え去った。同時に振動と気配が一気に増えて、今この場に大勢が来ていることもわかる。
しかし、まさか俺がメインシナリオって奴に組み込まれるとは思わなかった。
特別版を受け取った時から何かあるとは薄々思っていたけど、そう来たかぁ。
「父さん・・・アキハ姉さんたち苦しそうだけど大丈夫なのか?」
「代わりに私が答えるけど、大丈夫だよ。魔法で回復させたから。苦しそうなのはそうだね・・・単純に寝苦しいんじゃないかな」
「寝苦しい?」
「慣れない環境で寝てるから寝づらいって事」
マイ曰く丸一晩起きたまま逃げてたんだ。そりゃ安眠とはいかないだろうさ。
「起こすのは可愛そうだね。アール手伝うからアキちゃん達を抱えてくれる?」
「わかった。ミナツも手伝ってくれるか?」
「わかった!!」
二人に手伝って貰って両手背中にアキハ達を抱える。落ちないようにマイとミナツに補助してもらいながら。
「うぅ・・・とうさん・・・?」
動かしたことでハルナが起きてしまった。
「ハルナ。もう平気だ。助かったよ」
「そうだよハルちゃん。だからもう少しおやすみ『ドリームメモリー』」
「うん・・・むにゃ・・・」
マイが魔法でもう一度ハルナを夢に落とす。
「このまま家まで転移するよ。ちょっとふわっとするから気を付けて」
「了解」
「『ホームジャンプ』」
次の瞬間。マイが言っていたようにふわっとした感覚があった。瞬きする間もなく浮かび上がった感覚の後、一瞬で目の前の光景が変わる。
家の玄関。ずいぶんと久しぶりに戻ってきた感じもする我が家だった。
「このまま寝室に行こう。ちゃんとした布団で寝かせてあげればアキちゃん達もゆっくり寝れるでしょ」
扉を開けて貰い、三人を背負ったまま寝室へ、一人ずつベットに寝かせていけば、ほんの少しだが、表情が柔らかくなった気がする。
「アールもそのまま寝ちゃっていいよ。ナツ君。悪いけどアールと一緒にお留守番お願いね?」
「わかった!!」
「そうするわ。と言うかこの状況だとそうする以外に出来ないしな」
アキハ達はぎゅっと俺の服を掴んでいる。無理に離せばすぐに起きちゃうだろうし。
アキハ達の場所を少し動かしていつものように横になる。するとアキハ達は本能のように俺の腕を枕にしていく。寝てても甘えん坊だなお前ら。
「ナツ君もお父さんと少し寝なさい。昨日よく寝れなかったでしょ?」
「そんなことないよ? 母さんが抱っこしてくれてたし!」
「はうぅっ!!? そ・・・そう。なら良かった・・・じゃ・・・じゃぁちょっと私もアキちゃん達を苦しめた連中をぶっ飛ばしてくるわ!! お留守番よろしく!!」
そう言い残して、マイは飛び出していった。あれ、照れてたな。顔赤かったし。
「???」
ミナツはよくわからずに?マークを頭に浮かべていた。男子三日会わねば刮目せよなんて言葉があるように、マイとの魔法練習の間にマミーから母さんって呼ぶようになってたんだな。
ちょっとした成長って所か。いや、マイの話からすれば、人見知りだったミナツが人が大勢いる場所で大声で受付嬢にお願いしたのは大きな成長か。
「そういえば父さん! 母さんが言ってたけど父さんってあの本の剣聖だったの!?」
「まぁ・・・そうだともいえるし、ちょっと違うともいえるな」
「??? どっち?」
「半分正解、半分外れってこと。あの本は父さんの伝説を知った人が『こんな人だろうなぁ』って考えた書いた本だから半分正解ってこと」
「うーん・・・よくわかんないけど、父さんは本の中の剣聖って事だな!!」
「まぁそういう事だ」
「すっげぇー!!」
「だろ?」
まぁ、実際は霧の結界をどうにも出来ずアキハ達を危険に晒した馬鹿野郎だけどな。けどミナツの中の英雄像を壊すのも悪いし、今はそういう事で納得させておこう。
「あっ!! そういえば母さんが伝えてねって言ってたの忘れてた!! 父さん! えっとね? アキハ姉さんたちはせいしんいじょう? ってやつになってたみたいだから父さんのせいじゃないっていってたよ!」
精神異常ね。確かに不安とか恐怖は精神異常だろうな。冷静な判断と思考が無かったし、そう言われると納得しかない。
「よくわかんないけど父さんは悪くないってことだろ? ならいいじゃん! それより父さん! 昔の話聞かせてよ!! 父さんが本の英雄みたいに冒険してた話聞きたい!!」
「・・・そうだな。よし、ならたくさん話聞かせてやるよ。まずは父さんが剣を教えて貰った時の話からしようか」
ーーーー
「おらぁ!! オメェらの暗躍もここまでだ!!」
「ば・・・ばかな・・・!!? 何故ここがわかったのだ!!? 結界は完璧だったはずだ!! 認識できないはずだ!! それなのに何故!?」
まどろみの森に戻ってきた私は、縛り上げられた邪神教団の男の姿を見た。どこにも逃げられないように大勢のプレイヤードに囲まれる姿は一週回って哀れに見える。
「馬鹿め! こっちには超越者改め魔導女帝様がついてるんだ!! ちょちょいのチョイよ!!」
「それアンタが言っていいセリフじゃないと思うんだけど?」
「いいじゃん!! 今マイさん居ないんだし!!」
「いるけど?」
「「「「いつの間に!!?」」」」
ノリがいいわね。人の群れが割れて私をつるし上げられた教団の男まで案内してくれる。此奴が今回の黒幕か。いかにも邪神教団って感じの黒一色ね。
「貴様は‥‥!!?」
「初めましてクソ野郎。私がアンタの邪魔くさかった魔法をぶっ壊した張本人よ」
「貴様が・・・貴様が我らの崇高なる儀式おごぉっ!!?」
「黙ってくれる? こっちは娘が苦しめられててムカついてるの。すぐに殺さないのはアンタから他に儀式とやらをしてる場所が無いかと教団の隠れ家を聞き出すため。そうじゃなかったらすぐにでも殺してるわ」
金的を蹴り上げる。気色悪い感覚があるけど、ここは我慢。感情は激しく、でも心は冷静に。
「答えなさい。儀式とやらは他にどこでしているの?」
「こ・・・こたえるとおもって・・・」
「『ミラクルカース』」
「ごがぁぁぁああ?!?!?!?!?!?!」
特大の呪いの魔法を目の前のクソ野郎に叩きつける。血液が沸騰する感覚。心臓が破裂するような感覚。声を出す事すら苦しく感じる幻覚の呪い。
「『カースドペイン』」
「 」
全身が痛みを感じる呪い。気絶することすら許さない。私が呪いを解除しない限り永遠にこのクソ野郎は苦しみ続ける。死ぬことは出来ない。許さない。
一度呪いを解いて男を開放する。呪ったままで話を聞けるとは思わないからね。
「さぁ、答えなさい? 他の儀式は何処でやってるの」
「が・・・はぁ・・・」
「『ミラクルカース』『カースドペイン』」
「 」
三十秒くらい呪ってからまた呪いを解除する。口が開けるように最低限の回復魔法は掛けておく。
「理解できたかな? アンタに選択権は無いの。答えなさい」
「わ・・・われらはどうしをうらぎらない・・・うらぎるくらいならば・・・!!」
「自害でもするって? 残念だけど無理。『ミラクルカース』は私以外の手段で死ぬことを許さない呪い。毒だろうと自爆魔法だろうとアンタが死ぬことはないわ」
「っッッ?!!?!?!?」
本来は呪いを受ける代わりにステータス値に補正が掛かり、物理ダメージを大幅に軽減がする補助魔法『ミラクルカース』。要するに私以外からの干渉では傷つくことはない。けれど呪いがあまりにも大きすぎて使いどころがなかった魔法なのだけど、尋問のための魔法って考えると便利ね。
ここにモンスターでもいれば話は変わるけど、人しかいない今の状態ならばこのクソ野郎が死ぬことはない。
「勿論精神が壊れてもすぐに治してあげる。私は優しいからね。理解したわね? じゃぁ答えなさい。儀式は何処でやってるの?」
「・・・ぁ・・・ぁぁ・・・」
「『ミラクルカース』『カースドペイン』」
「 」
「答えなさい。儀式は何処でやってるの?」
「ゆ・・・ゆるしt」
「『ミラクルカース』『カースドペイン』」
「 」
「答えなさい。儀式は何処でやってるの?」
「や・・・やめt」
「『ミラクルカース』『カースドペイン』」
「 」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「答えなさい。儀式は何処でやってるの?」
「・・・ぐんじょうこうげん・・・りゅうせいどうくつ・・・きょうかいのみさき・・・」
「他にないわね?」
「・・・な・・・い・・・」
「じゃあ次よ。アンタ達のアジトは何処?」
「っ!!? そ・・・それはこたえられn」
「『ミラクルカース』『カースドペイン』」
「 」
「学習しないわね。私は何処か聞いたのよ? あんたは答える以外に口を開かなくていいのよ」
「こ・・・こえぇ・・・」
「えげつない・・・想像よりもえげつないッス」
「ちょっと・・・可哀そうになって来たわ」
「失礼ね。ちゃんと回復魔法もかけてあげてるのよ? 心も体も傷がない状態に戻してあげてるんだから優しいでしょ?」
「「「「「「「「「「優しいです!!! マイ様は優しいです!!!」」」」」」」」」」
記憶は残るから無傷ではないけれど。精神も肉体も死なないのだから優しいでしょ?
「ほら、答えなさい。アジトの場所は?」
「た・・・たすけt」
「『ミラクルカース』『カースドペイン』」
クソ野郎がアジトの場所を吐いたのはそれから一時間後の事だったわ。手間取らせてくれたわね全く。
勇気と言う名の魔法が人を動かすこともある。
他人が怖いミナツが初めてマイの為に使った勇気と言う名の魔法。
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