星の災い『邪神』
古戦場頑張った皆さん。本日仕事の皆さんこんにちわ。作者です。
作者も今日は仕事ですので一緒に頑張りましょう。
さて始まりましたメインシナリオボス戦。
ギミックありです。
手心?ヒント?
ここの運営がそんなに優しいと思います?
「馬鹿じゃねぇの?」
「おや? そうでしょうか? 一人の命で三人が助かる。悪くない条件でしょう?」
男が言ったここを生きて抜け出す条件。
俺たちの誰かを生贄にするという事だ。阿保らしい 。
「大事な娘を生贄にする父親がどこの世界にい
ると思ってんだ?」
「では貴方が命を捧げればよろしいのでは? その魂、どうせ一つではないのでしょう?」
コイツ。俺がプレイヤードなのを知ってて話を持ち掛けている。
「そうしたらお前、俺が死んだ後で娘たちを殺すだろ?」
「おやおや、失礼な方だ。生きて返すとお約束しますよ?」
「信じられん」
不意打ちで俺たちを閉じ込めた此奴を信用するのがそもそも間違い。仮に本当に生きて返したとしても、何かしらの事をするのは間違いない。
この手の奴は、生かした奴を洗脳して何かをやらせる。経験則だがな。
「ここで全員死ぬのと、一人が死ぬの。どちらが正しい選択か、解からぬ愚者ではありますまい?」
「だったら愚者で結構だ。俺はその選択肢から選ぶつもりは無い」
「そうですか・・・残念です」
するつもりも無かった交渉が終わるのと同時に身体を前へと走らせる。幻影の横を突き抜けて、今走ってきた道を戻る。
悔しいがここは相手の掌の上。どこへ逃げてもすぐに見つかるだろう。だから距離を取ることだけを考える。そして呼吸を変えて索敵範囲を広げる。どこかに必ず本体がいる。
その本体を倒せば解決するはずだ。今はその可能性に賭けて進む。
「と・・・とうさん・・・」
「安心しろ。お前たちは絶対に守るよ」
不安がるアキハを強く抱きしめながら走る。些細な事でもいい。なにかこの状況を打開する手がかりを見つけるために目を光らせる。
「お・・・おとうさん・・・そろそろつかまってるのつらいです・・・」
フユカは既に二時間以上背中に掴まったままだ。腕に限界が来たんだろう。
「わかった。ちょっと休憩しよう」
周辺に振動はない。少なくともモンスターは存在してない。ただ、地面にいるのは些か危険だ。
周囲を見渡し、見つけたのは立派な樹木。上の方の枝はしっかりしており、全員が座っても折れることは無さそうだ。跳び上がって太い枝へ飛び乗る。
「アキハ、ハルナ。ゆっくり降りて」
「・・・」
「とうさん・・・」
しゅるりと掴まっていた腕を解き、枝の上に座る二人を確認し、背中に捕まるフユカをゆっくりと降ろす。
ポーチに入れておいた水を取り出し、三人に渡す。
「とりあえず水分補給しようか。お腹減ってないか? 減ってるなら軽く何か食べておこう」
「「「・・・」」」
小さく首を横に振るので、とりあえず水分補給だけに留める。
「・・・なんなのさ・・・あれ」
一呼吸ついてようやくハルナが口を開く。手は震えており、ようやく絞り出せたって感じの言葉も震えている。
「わからん。分かってるのは実体がない敵ってことだ」
「・・・そうじゃ・・・なくて・・・!!!」
そっとハルナを抱き寄せる。言いたいことがあるのはわかってる。何が言いたいのかもわかる。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・!!!!」
押し殺すように声を漏らすハルナ。こういう時抱きしめてやるしか出来ない俺が情けない。
運がよかったのか、それとも別の思惑があるのかは不明だが、このあとしばらく、謎の男が俺たちの前に姿を現すことはなかった。
ーーーー
「近接攻撃はダメだ!!! 魔法攻撃で攻めろ!!!」
「もうやってるよ!!! 畜生!! 魔法も喰われる!!!」
夜、綺麗な星々が見られることから名づけられた『星見砂漠』。そこは今、戦場だった。
運営からのアナウンスで突如始まったメインシナリオ『星を喰らう蛇の砂漠』。以前マイやアールが撃破した『幼邪騎士ベオウルフ』とは比べ物にならない怪物がそこにいる。
「頭を狙うな!! 身体狙え!!!」
「ダメよ!! 表皮に魔法反射能力がある!!! 下手に撃てば味方を殺すわ!!」
「ならどこを狙えってんだよ!!?」
「それがわかったら苦労してないわよ!!!」
「グワァァァアア!!?!? 滅茶苦茶いてぇ!!!?」
「あの巨体に突っ込んだらそうなるだろうよ!!」
メインシナリオボス『幼邪砂大蛇エレティコス』。異端者の名を持つ蛇は数多のプレイヤー
からの攻撃をものともせず、砂漠を喰らいながらその穴を広げていく。
最初からプレイヤーの攻撃など、蛇は気にしていない。ただ喰らう。全てを。それしか考えていないのだ。
「此奴・・・!! 俺たちの事無視かよ!!!」
「食う事しか考えてない怪物よ!! 何でもいいからまずは食う事をやめさせないと!!」
「こんな相手勝てるのかよ!!?」
「泣き言の前に手を動かせ!!! こんな怪物が人の多い場所に行ったら壊滅だ!!!」
「畜生!!! この化け物がぁ!!!」
繰り出されるプレイヤードの攻撃は並みのモンスターであれば十分にダメージを与えられる程度には威力がある。
しかしエレティコスはダメージを受けない。それどころか、稀に口の中へ放たれる魔法を喰らう事で、その魔法に対する抵抗力を即座に身に着けてしまうほどだ。
戦闘開始から三時間。プレイヤード側はエレティコスに対して、何も出来ないまま時間が過ぎていた。
「お待たせ。遅くなったね」
「デケェなおい」
状況を変えるべく、召集された二人のプレイヤードがようやく到着する。一人は純白の鎧を纏い、両手に盾を構える騎士。もう一人は巨大な斧を担ぐ剛腕の戦士。
たった二人。この世界でまだ新人プレイヤードはそう思うだろう。近接攻撃が通じない相手に対して、完全に近接特化のプレイヤーが二人来たところで何が出来ると。
だが、歴戦のプレイヤード達は誰よりも彼らの到着を待ち望んでいた。
「おい教祖!! おせぇぞ!!! 何してたんだ!! 聞くまでも無いけど!!」
「孤児院の避難優先してたに決まってんだろ!! 俺の天使達の安全第一じゃボケナス!!!」
「僕はリアルの用事を片付けてきたんだ。こっち換算で一週間はずっと行けるよ。さてと、まずは僕から行くよ教祖」
「逝ってこいシロマサ。死んだら代わりにぶった切ってやるから安心して逝け」
「酷いなぁ」
盾を構える戦士、シロマサはプレイヤーたちの波をかき分けてエレティコスへと接近する。
「さぁ何処まで通じるか試そうかぁ!!!『紺碧ノ鋼』!!」
シロマサの持つ盾と身に着ける鎧が紺碧の輝きを宿す。何人も通さない、何物も通さない絶対防御。そして。
「こっち見な!!『守護聖帝』!!」
直後、エレティコスがその動きを止めた。食っていた砂漠から顔を上げ、周囲を見渡す。そして見つけた。エレティコスが感じた違和感。あるいは初めて明確に感じた邪魔者の存在。
「流石僕だね。タゲ取り成功」
『 』
エレティコスは雄たけびを上げる。
おのれの中に生じた邪魔なもの。嫌悪する存在。それをなくすために。
その巨体を這わせ、有象無象のようにそれを喰って消そうと口を開き襲い掛かる。
「甘いんだよ!!『白亜城壁』!!」
浮かび上がる線は城壁の形を成し、大口開けて迫るエレティコスを文字通り真正面から受け止めた。
『白亜城壁』。シロマサが所有する対戦術魔法攻撃用防御。魔法ではなく、シロマサのみが持つ事を許された力。
これが、世界に数人しかいない『覚醒者』の実力。星の寵愛を、月女神からの祝福を受けた存在の力。
「重いけど・・・耐えられる!! 教祖出番だよ!!」
「邪神死すべしショタの為に!!! 『絶対王者』起きやがれぇ!!!!」
そして、もう一人の覚醒者がその刃を振るう。
「オラオラオラオラオラオラ!!!!!」
最初はかすり傷もつけられない攻撃。だが、徐々に、少しずつ確実に威力が増していく。
エレティコスはもう一つ邪魔な存在がいる事に気づいた。けれどそいつに対して体が動かなかった。
「エレティコス・・・異教徒ねぇ。って事はコイツ邪神教団が関わってる可能性高いね。誰かー! 掲示板で邪神教団の捜査を依頼して!! あと怪しい場所があればそこも!!」
「お・・・おう!! 俺がやる!!!」
『 』
エレティコスは雄たけびを上げて、シロマサから離れ、もう一人を片付けようと思・・・えない。この存在をどうにかしなければいけないという思考が身体を支配している。
現れた城壁に頭突きをするが、城壁は崩れない。何度も何度も頭を叩きつけるが、城は未だ無傷。
「シャァオラァァァァアアアアア!!!!!!」
雄叫びを上げるはプレイヤーの中で知らぬものは少ない物理最強の男。相手が強ければ強いほど己を進化させるスキル『絶対王者』の持ち主。
王者は城を破壊せんとする愚か者を滅殺すべく斧を振るい続ける。一撃ごとに強くなり、相手に合わせて自分を進化させ続けていく。そして、最適化が完了する。
「来たぜぇ!!!!『絶対王者:異端者滅殺撃』!!!」
頭の中に響いた言葉を発し、全身に光の線が走る。その一撃は目の前の相手だけを殺すためだけの力。それ以外には一切の効果を持たないが、目の前の相手にだけは必殺の一撃を持つ。
その一撃は、いまだ誰も傷つけられなかったエレティコスの表皮を切り裂いた。
『 』
その痛みは確かに届いた。初めて受ける感覚。知らない感覚。エレティコスはこの感覚の名を知らない。だが、この感触を与えた相手を許さない。
「あ、ごめんタゲ動いた」
「ですよね畜生!!! 撤退!!!」
束縛を解いて、エレティコスは巨体をしならせて周辺全てを叩き潰す。舞い上がる砂がプレイヤードの視界を奪い、勢いよく飛んだ砂はプレイヤードの身体を傷つける。
すぐさま状況を理解した盾持ちはそのスキルを発動し、弾丸と化した砂から身を守る。防御手段を持たない者たちはその後ろに隠れ回復に努める。
「MP回復アイテムも使って!!! ゴリゴリMP削れてる!!」
「任せろ!!! ここにオアシスを作るがごとく注いでやらぁ!!!」
「イアタタタタタタ!!?!!? ダメージえぐい手!!?」
「あ、死ぬメンゴ!!」
「うおぉぉぉぉおおお!?!!?!? 範囲攻撃はえぐいぃぃいい!!?」
推定50mを超える巨体が暴れれば、周辺の被害は想像を絶する。ただの砂が弾丸のように飛び散る中、プレイヤード達は生存のために協力し、攻撃を防ぐ。
「んで、君は俺の所に来るわけね?」
「しゃーないだろ。一番近かったんだから。なー? お前ら」
「「「「「「「「「「お世話になりまーす!!」」」」」」」」」」
この場で最も安全な白亜の城壁に隠れる教祖ライーダとシロマサの近くにいたプレイヤード達。他が必死に生き抜く中、ここだけはオアシスの如く安全だった。
「まぁタンクとしてはこの上ない栄光だけどね。それでライーダ。ゲージの一本くらいは削ったかい?」
「んにゃ、無理だった」
「マジで? あんなに特攻乗ったぜみたいな攻撃してたのに」
「しゃーないじゃん!! だってアイツ切った瞬間回復してんだぜ? 完全にギミック解除しないと無理。ってかゲージ何本あるかもわかランス」
「やっぱりそっち系のボスかぁ・・・他の人たちにギミック解除お願いするしかないね」
「だな。お、こっち雷華来るってさ。マー坊の奴も来るみたいだな」
「どっちもアタッカーァァ・・・出来ればタンク系の人来て欲しかったな」
「連絡はしたからインしたら来るだろ多分。それまで頑張れメインタンク!」
「これ僕の責任大きすぎない? 実質戦線支えるの僕じゃん」
「嫌なのか?」
「まさか! やる気出てきたところさ!!!」
暴れていたエレティコスが砂嵐を消すように首を振るう。それでも尚、多くのプレイヤードは残っていた。
「『守護聖帝』!!」
『 』
「はいタゲ取り余裕ッ!! ほらアタッカー連中はこの場で出来ること無いか探してくるんだよ!!」
「やってやるぜ畜生~!! おぼえてろー!!!」
三下の様なセリフを吐いてライーダは走る。少なくとも検証すべきことはまだたくさんある。攻撃が通らなかった程度で攻撃をやめる理由にはならないからだ。
「オラァ!! 今無能状態のお前ら!! 弱点探すの手伝え!!!」
「「「「「「言われなくてもやったるわ!!!!」」」」」」
それはライーダに限らない。ここに集うプレイヤードはこんな経験を既に何度もしている。
攻撃が通らない? それはそうだ。相手は邪神。簡単には倒せない。
勝てない? それはそうだ。相手は神。人間が勝てる相手じゃない。
それがどうした?
その常識を覆してやろうと彼らはここに集うのだ。大好きなこの世界を守る為。あるいは全力で楽しむために。
神殺し? 上等ではないか。相手が何であろうと自分たちが楽しんでいるこの世界を破壊するならば土下座するまでぶん殴る。土下座しても許さない。
要するに、ここに集うは歴戦の戦士たち。理不尽に抗い、理不尽を打ち砕いてきた勇者たち。
彼らにとってこの戦いはいつもの事だ。
負けられないいつもの戦い。
ならば勝つまでだ。望むのはHAPPYEND。皆が笑顔の大団円。
「テメェら行くぞ!!! 俺たちが主人公だって邪神様に叩きつけてやらぁぁああ!!!!」
「「「「「「「「「「オオオオオオッッ!!!!」」」」」」」」」」
故に、この程度の苦境。彼らにとっては苦境にもならない。
だって、自分たちこそ勇者であり英雄であり、主人公なのだから。
ーーーー
「ようやく見つけましたよ。まさかこんな所にいるとは」
「どうせなら一生見つけられずに迷ってればいいものを」
「その前にあなた方が死にますとも」
休息を終えて、移動の為に木を降りてすぐ、男の幻影は現れた。
「おっと逃げないでください。残念ながら私はあなた方を傷つける手段を持っていないのですよ」
「お前。信用できない。オーケー?」
「愚か者ですね・・・しかしこれは事実なのですよ。ここに存在している命は貴方方d」
「『アンチファントムエンハンス』『十六夜』ッ!」
死怨特攻を乗せた十六夜で幻影を斬る。すぐに納刀してアキハ達を抱く。今回は背中にアキハ。両手にハルナフユカだ。
直ぐに走り始め『星波ピスケス』で加速し霧の中を駆ける。うちの娘たちの教育に悪い話しかしない馬鹿は斬るに限る。
しかし、斬った時の感覚がまるでない。素振りをした感覚だ。霧も変わらないし効果はなかったんだろう。
「あ・・・あの・・・さいごまで、聞かなくて良かったんですか?」
「いい。俺はあの男の事を一切信じてない。つまり何を聞いても信じる要素がない」
「・・・でも、出られる手段教えてくれるかもしれないじゃん。さっきみたいに・・・」
「あれは出るとは言わないよハルナ。あれは死ねって言ってるのと同じ」
「・・・すまないとうさん・・・私のせいで」
「さっきも話したけど誰のせいでもないの! しいて言うなら村行こうって言った俺! だからこの話もうなし!!」
メンタル的にやられたのか、アキハもハルナもフユカも弱ってきている。身体は休めたが心は疲労し、先ほどの休息中も、泣いたり自分を責めたりばっかりだった。
アキハとハルナが喧嘩一歩手前までいった時は焦ったが、何とか落ち付かせた。
「とうさん・・・」
「・・・」
「今は俺の事だけ信じてほしい。何とかするから」
「・・・アキハ姉さん」
「なんだ・・・ハルナ」
「次めそめそしたら叩くから」
「・・・わかった。我慢してみる」
「そういうことじゃないんだけど・・・まぁそれでいいよ。父さんに感謝しなよ」
「あぁ、そうだな。父さん。ありがとう」
「いいよ」
とりあえず二人のメンタルはギリギリの所で耐えている。これ以上戯言を聞かせて心をおかしくされるのはごめん被る。
フユカは意外と・・・というか元から図太いので俺が近くにいれば大丈夫そうだ。楽観視は出来ないが、一人手が掛からないのは今の状況ではありがたい。
「・・・ところでさ。父さんは平気なの?」
「何が?」
「この状況がってこと」
「良くない状況ではあるのはわかってるけど、それくらいだな」
自慢じゃないが絶望的な状況の経験数は数知れずだ。死ぬかもしれない戦いに、絶望的な状況。孤軍奮闘を強いられる状況など、様々あった。
その経験からすれば、今の状態はそこまで悪くない。逃げられるから全然だ。
それに、守るべき家族もいるからな。
「・・・大人ってすごいね」
「ハルナもいつか俺みたいになれるさ。ただ経験が足りないだけだよ」
「・・・だといいな」
「今は逃げの一手でいく。ハルナ達は俺の事だけを今は信じてくれ」
「わかった・・・父さんの言葉を信じる」
「・・・もとからそのつもりだし」
「えへへ・・・死ぬときはお父さんと一緒です」
「「縁起でもない事言わないで」」
「はぅ」
やっぱりフユカ、図太いな。
ーーーー
「鬼ごっこは満足しましたか?」
「やっぱり斬れてないか。お前ら、移動するぞ」
何度目かの休憩中。男の幻影は何処からともなくやって来た。数時間前に死怨特攻を乗せた攻撃をしてみたが効果なし。完全に無敵、あるいは実態を持たない敵って事か。
「つれませんね。お互い攻撃手段を持たないのです。話し合いで妥協点を探す気はありませんか?」
「ハルナ。背中に乗って。アキハとフユカは腕においで」
「無視ですか? 悲しいですねぇ。皆さん苦しいでしょう? 楽になる手段を教えt」
「『星波ピスケス』」
幻影を蹴り飛ばすようにかき消し、そのまま走る。攻撃手段を持たないと言うのは本当らしい。試しに隙を見せてみたのだが攻撃、あるいは何かをする気配はなかった。
そうなるとしつこいだけの悪霊になるのだが、そうなると死怨特攻がのった刀の一撃が効果なしの理由がわからない。
まぁ、こちらに直接被害をだす手段がないとわかっただけで十分な収穫だろう。無論これを過信して慢心はしない。今しなかっただけで、出来ないとは限らないからな。
「・・・とうさん・・・つかれた」
「ごめんなさい・・・わたしもつかれました・・・」
「ごめんとうさん・・・しょうじきつらい」
問題はアキハ達の限界がもうすでに近い事だ。肉体的にではなく、精神的にだ。参ってしまい休息を取っても休めてないのだ。
それ以外にも既に霧に閉じ込められて十時間以上経過している。一旦ちゃんとした睡眠をとらないと辛いだろう。
今の移動方法はアキハ達が起きていることが最低条件の移動だ。眠れば俺一人で三人を抱えて移動するのは無理だ。
・・・仕方ない。多少リスクはあるが、アキハ達が倒れるよりはマシだ。
足を止めて三人を下す。ポーチに手を入れて家を出る前に用意して置いた毛布を地面に引く。
「とうさん・・・?」
「寝にくいだろうけど少し寝なさい。父さんが守ってるから」
「・・・いっしょにねてくれないの?」
「寝てあげたいけどモンスターが出てこないとも言い切れないからな。見張りをしてるよ」
「が・・・がんばればおきてられます」
「頑張らなくていいよ。ほら、少しおやすみ。片手だけだけど、手を握ってあげるから」
「「「・・・」」」
おずおずと敷いた毛布の上に身体を預け、三人に手を掴まれる。三人が寝息を立てて眠ったのは数分もしないうちだった。
手を掴む力は強いけど、寝ることは出来ている。いや、体力が限界だったと言うべきか。
「流石に子供はもう持ちませんね」
「失せろ」
幻影男がふらふらとやって来た。本当なら今すぐ移動したいが、ここはこらえる。けれど刀から手は離さない。
「言ったでしょう? お互い有効な攻撃手段を持たないんです。話し合いで妥協点を探しませんか?」
そういって寝ているアキハに触ろうとしたので剣を振り、幻影の腕を斬り飛ばす。
「酷いですね。無害の私を斬るなんて」
「無害の意味を辞典で引き直してこいクソ有害野郎」
うちの娘に触れようなんざ百年経っても許さねぇ。
「しかし好都合です。こうしてあなたとお話が出来るのですから。子供とは、まさに便利な生命だと思いませんか?」
此奴はあれだ。邪神に連なる連中と同じで、命を命と思っていない奴らと同じだ。前世で経験したから覚えてる。
「邪神宗教」
「おや。ご存じだったのですね。いやはや、説明する時間が省けましたよ」
邪神教団。あるいは邪神宗教。要するにこの世界は邪神様のモノだからそれ以外は皆邪神様の為にある道具だと信じて疑わない狂った連中。
邪神と言う存在がいるのだからあるとは思っていたが、やっぱりあったか。
英雄は此奴らを利用して邪神をよみがえらせ、討つ為に行動していた。
剣聖と英雄が進んだ二つの未来を知った剣聖が説得し止めたことで未来が変わり、邪神宗教を叩くことになった。結局、邪神はその教団の命と戦場で死んだ数多の命を糧に復活したんだがな。
「なら尚更お前らと話すことはねぇ。邪神宗教は俺の敵だ」
「おや、大切な方を失ったのですか? ですがそれは逆恨みです。私たちの同志は神の為にこの仮初の魂を捧げる事こそ存在意義。それを私たちのせいだと恨むのはおかしな話です」
基本的に話が通じない。命すら道具のように扱う連中の言葉など。聞くに値しない。
その後もまるでこちらを誘惑し、楽な道に進ませようとする甘言をずっと発するが、こっちはそういうのも含めて覚悟決まってるんだ。靡く訳ねぇだろうが。
「これは私からの称賛ですが、貴方と子供たちは他人でありながら、宛ら本当の家族のようだ。私たちの同志と同じように」
「一緒にすんな。と言うかいい加減どっかいけ」
「もし貴方が我々の同志になってくれるならば、この霧の結界をすぐに解いてもいいとすら思えるのです。同志が四人も増える。あぁ、素晴らしい事だと思いませんか?」
「思わないね。この霧の結界を解いてもらえるなら入るとでも思ったか?」
「悪くない取引ではありませんか? 貴方はともかく、子供たちは既に疲労困憊。あとどれだけ正気でいられますかね?」
「・・・クソ野郎だな」
「同志でもない命は、私たちにとっては無いも同然なのです。しかし同志は別だ。正しい魂の使い方がある。無駄には出来ないのですよ」
本当に腐っている。どっちにしろ同志だろうが何だろうが最後には死ぬ。殺す。そういっているのだから。
「だったら尚更話すつもりは無い。何度目か忘れたがどっか行け」
「つれませんねェ。貴方は賢い方だと認識しました。であれば子供たちの為に貴方が本当にするべきことは何だと思いますか?」
・・・チッ。アキハ達をダシにすんじゃねえとキレたかったが、感情に任せて口走ればどんな甘言が飛んでくるかわからない。それにそれがきっかけで寝ているアキハ達が起きてしまうかもしれない。
寝て起きたら此奴がいるとか最悪だ。少なくとも俺がアキハ達の立場ならそう思うね。
「簡単です。同志になると私に誓っていただければ、すぐに結界を解きましょう。無論表面上での誓いではなく、魂による誓いですが」
「・・・そうやってあの村に住んでた人たちを誑かしたのか?」
「失礼ですねぇ。私は彼らの命の恩人なのですよ? 彼らの命はこれ以上恐怖の無い優しい世界へ旅立ちました。この地から遥か遠くの神様へ捧げられたのです。これは幸せな事なんのですよ?」
村が無人だったのはこの男が原因か。村人は何らかの呪術的なもので殺され生贄にされた。最悪だ。反吐が出る。
「『パルノゴス』の依頼も人を呼ぶための餌か?」
「ふむ? 何のことですかな?」
あれは本当の依頼か。
「しかし教団で飼育していた蛇がたまたま逃げ出した時がありましたねぇ」
コイツ・・・いけしゃあしゃあと。改めて嫌悪する対象になったよ邪神教団。つまり筋書きはこうだ。
この付近で本来見られないモンスターを放ち村人を恐怖に陥れる。
逃げようとしても霧の結界のせいで逃げられず、いつ死ぬかわからないまま恐怖を植え付ける。
そこに此奴が現れてパルノゴスと戦う姿を見せて村の救世主になりあがり、そこで邪神宗教の素晴らしさとやらを説いて同志にして、そのまま邪神復活の儀式の生贄にされた。
けれどまだ足りず、この辺でパルノゴスが現れたって情報を流してギルドに依頼を出させる。そしてのこのこ来た相手を霧の結界に閉じ込めて精神を殺して同じように生贄に。
「最悪だな邪神教団。死んでしまえ」
「おやおや、言いがかりですよ。私は無駄な血を流してはいません。必要な命だけを捧げたのですよ」
「本当に耳障り。いつ聞いてもムカつくわ」
「はい?」
やっと来てくれた。信じてた。
「『ムーンライト・オラクル・フラッグ』」
彼女が付きたてる地面に突き刺さる神々しい光を放つ御旗。突き立てた御旗が邪なる結界を砕く。
「お待たせ。遅かったかしら? アール」
「そうだな出来ればもっと早く来て欲しかったよ。マイ」
「そうだね・・・アキちゃん達の事を考えれば遅すぎたかも」
「ば・・・馬鹿な・・・! 結界が破られ・・・ぐぉぉおお!!?」
俺ではどうしようもなかった幻影の男が苦しみ始める。
「まさかこんな所にこんな仕掛けをするなんて想像できなかったわ。まぁアールのおかげで突き止められたんだけどね」
「ぐがぁぁぁああ!?!!??!!? な・・・なにが・・・おきでぇぇぇえええ!!!?」
「教えてあげるわ邪神教団。私たちプレイヤードは邪神に対して全勢力をもって挑むのよ。例えそれがこんな辺境の森だろうとね」
勝ち誇るようにマイは言う。
「この場所に百人以上のプレイヤードが来てる。私は斥候。結界が解けた今、百人を超えるプレイヤードがあんたの仕掛けたものを全て破壊しているのよ」
「ぎ・・・・ぎざm」
幻影は突如消え去った。おそらくだが本体が死んだ。あるいは術を使えない状態になったのどちらかだろう。
「ふぅ、改めて。おまたせアール。皆で助けに来たよ」
主役は遅れてやってくる。sideマイもやるので何があったかはその時までお待ちください。
皆さんからの感想見るのが私のモチベーションです。
もっともっと感想読みたいので皆さん何でもいいので感想ください!
具体的にいうと20人以上から感想ほしい!!
仕事終わったら感想への返信するから皆さん感想ほしいです!!
承認欲求が暴れ出ているのです!




