下拵えは念入りに
5の付く日更新って言いながら五日ごとに更新してたけど、いいですよね?
数多に投影されるスクリーン。そこに移されているのはプラネットクロニクルと言う世界で生きているプレイヤーたちの姿。
それらを見る者たちは手元のコンソールを叩き、様々なプログラムを作り出す。
「おうおう早速ガセネタぶち込んできた奴いるね。BANしちゃう?」
「ガセネタ程度ならいいんじゃない。嘘を見抜けない方もアホだし」
「相変わらず厳しいねぇ。そういえばだれか一人でもスキル強化出来た人でた?」
「まだゼロっスね。条件きつ過ぎっスかね?」
「別にいいと思うけど? 簡単に強くなられるとか気分悪いし」
「「「「そっちが本音じゃん」」」」
ここにいるのは裏で世界を支え、創り、広げている神と言っても差し支えない者たち。
プラネットクロニクル運営チームである。
日本と言う国を世界最大のゲーム大国に引き上げたVRシステムの生みの親たち。今尚根強いファンが遊び続ける『剣聖物語』と言う世界的ゲーム作品の生みの親。
「私は思う訳なのよ。平等に与えられるチャンス程度で最強が生まれるとかありえないって」
「まぁ気持ちはわかる」
「私は泥臭く血反吐を吐きながらも前を向いて戦う子が好きなのよ!! 大した努力もしないで俺TUEEEとかマジ嫌い!!」
「リーダーそれもう何度も聞いてます」
「知ってる。全員を洗脳するくらいの気持ちで言ってるから」
その正体は、想像以上に自己主張が激しい集団である。好きなものは全てを擲ってでも推すし、嫌いなものは完全無視・無関心。ここまで行くと清々しさまである。
「だから今回の番外スキルは結構譲歩したのに」
「リーダー最後まで反対してましたからね」
リーダーと呼ばれた女性は表情を隠そうともせず、先日実装し、現在プレイヤーの中で盛り上がっている装備ではなく本人が習得できる運営曰く『番外スキル』に苦言を呈す。
「スキル使いたいなら自分で取捨選択しなさいって話よ。そこそこ自由にやらせてるんだから、何かを捧げれば自由なビルド組めるでしょ」
どうやら番外スキル実装に対して、今でもいい気分ではないらしく、その不機嫌さを隠そうともせずにぶつぶつ文句を言いながら作業をしている。
「はぁ・・・ちょっとメインスクリーンにアール君の戦闘シーン誰か流して。息抜きがしたいわ」
どこからどう見ても職権乱用である。お気に入りのプレイヤーである彼、プレイヤー名アールをメインスクリーンに映せと言われてそう簡単にYESという社員がいる訳・・・
「どれがいいです?」
「自分はこの前のベオウルフ戦がいいですね」
「えー? デスぺ2でしょ。極大奥義みたいじゃん」
「裏町のマフィアボコったシーンにしません? 」
「迷うわね・・・よし決めた! 一番最新の戦闘シーンにして」
「じゃあアキハとの手合わせですね」
「いいじゃない!! あの子もスクスク育ってきたわよねぇ!! 愛弟子枠よね!! 昔のアール君を思い出すわ!!」
「「「「「「わかる~!!」」」」」」
居た。と言うか作業中の全員が満場一致であった。
そうしてメインスクリーンに映されたアールとアキハの手合わせシーン。
全力で挑むアキハと、師としてそれを受け流し受け止めていくアール。互いに殺気などは出してないがかなり高レベルの戦いである。
レベルやステータスの数値という概念が存在していないアールと、既にレベル99となったアキハの間には超えられない数値の壁がある・・・はずなのだが、アールは全くの無傷でアキハの攻撃を受け流していく。
「あのアキハちゃんの必死な顔つき! クゥ!! 昔のアール君の必死な顔にそっくり!! アール君もマリアーデに似てきたわね!! ベリベリグッドよ!!」
「無駄のない月光真流。流石俺たちの剣聖。さす剣」
「本人はこれでまだ上を目指せるとか思ってるの推せるわ~」
「前線で戦って無双するアール君を見るのも楽しみだったけど、こうして師匠してるアール君もたまらん!!」
「現状アール君下せるプレイヤー候補って誰かいましたっけ?」
「『軍神』か『雷撃』、あとは『死閃』が初見ならワンチャンくらいですかね?」
「『雷撃』はアール君の反応速度次第で勝てますけど、個人的見解では多分勝てないっスね」
「『軍神』も厳しくないか? PvEに特化してるし・・・ワンチャンアール君をEに見立てたらいけるか?」
「無理でしょ。地力が違いすぎるし、『軍神』の性質知ったら速攻で落としに行くはずだし」
「となると『死閃』?」
「あれは共倒れ上等の戦いをするからアール君の一撃受けただけで負けるよ」
「『死閃』が先に一発入れるかもだし!!」
「蒼牙との一戦で慢心が完全に抜けてるアール君に一発入れれると思う?」
「・・・おのれ蒼牙・・・よくやったぞ畜生」
「『魔導』ならいけないかな? 知人補正でデバフかかるとかで」
「それ『魔導』側にもかかるからダメじゃね? そもそも対立しないでしょあの二人。マジで熟年夫婦だよ?」
「そうなんだよな~」
話題はお気に入りで推しであるアールの話題に。誰なら彼に勝てるか、どうしたら勝てるか、彼の弱点は何かなども話していくが、誰も答えが導き出せない。
それほどに、彼と言う男は異次元の実力を持つ。
伊達に人生の半分をクリエイションモードに捧げていないのだ。そしてここにいるのはそんな彼をずっと見守り続け、応援してきたファンクラブ。そもそも最強は誰かと聞かれたら全員アールと答える以外の選択を持たないのだ。
「そういえば次のメインシナリオどうします? この前のベオウルフシナリオでプレイヤーが結構メインシナリオ更新待ってますけど」
「アレでいきましょう。『星喰らう蛇の砂漠』でいきましょう。あれならそこそこ満足するでしょう」
「あれ完全ギミック解除前提のシナリオですけど行けますかね?」
「ファクリアから離れた場所に村があったわよね。そこに仕掛ければうまく行けば他にも気づくんじゃない?」
「うわ~・・・砂漠と真逆の場所にギミック置くんですね・・・相変わらずえげつない」
「どこのバカが簡単に攻略できるギミック置くのよ。まぁ近くの村の人は可愛そうだけど、運が悪かったと諦めて貰いましょう。『邪道なる荒武者』を出すよりは被害少ないでしょう?」
「荒武者は・・・今のプレイヤーじゃクリア無理ですね。レベル云々じゃなくてプレイヤーとしての能力が足りないし」
「アール君が最前線で無双してるなら遠慮なく『荒武者』って言えるんだけどね。流石に自重しましょう」
「そうですね・・・もしかしてリーダー、アール君にギミック解除させようとしてます?」
不穏な言葉が飛び交う中、チームの一人がリーダに問う。まさかとは思ったが。それに対してリーダーは良い笑顔で返す。
「勿論!! そのためにファクリアのちょっと先にするのよ!」
「ちょっとギミック内容見直してきますね!! ヒャッハー!!」
「どうせなら倒せない不死性乗せようぜ!!! アール君にギミックの恐ろしさを体験させよう!!」
「どうしよっかなぁ!!あえて魔法ギミックにしちゃおうかな!!!」
「無双ゲーさせよう!! 千体撃破でギミック解除第一段階とかいいだろ!!?」
「ここはあえてアール君の怒りを勝ってぶち殺される悪党だそう!!」
「甘いな!! ここはあえて謎解きだ!! ヒントは出てくるモンスターの数と種類で!!」
「いいや駄目だね。ここは『荒武者』レベルの怪物を置いておいてそいつを倒すことで『蛇』が弱体化するギミックにしましょう。ダブルシナリオ形式です」
ノリノリである。推し活を始めた運営は止まることはない。いかに彼が活躍するか、輝かせることが出来るか、輝いてくれるかしか考えていない。
他のプレイヤーに対する難易度など、彼の活躍の為ならば空に投げ捨てるのがこのエクスゼウスと言う連中の総意だ。
「全部採用は無理だし、今回初めてのギミックだしちょっと優し目にしましょう?」
「なら不死性乗せた敵を配置して一定範囲に無限沸き。解除方法は魔法陣の破壊とかどうです?」
「いいわねそれ! 採用! シナリオライター仕事よ! 今の話をシナリオに組み込んで実装準備!」
「了解ですリーダー!」
「皆、眠らせている『蛇』の最終調整を始めて。容赦なく、残酷な調整をしてあげなさい」
「「ラジャー」」
「ギミック調整組は解除後の『蛇』のステータスの調整を。こっちは解除後だから温情を上げていいわ。覚醒者五人が居れば勝てる程度まで落とし込んで」
「「「へーい」」」
「あと問題はどうやってアール君をギミックがある場所まで呼ぶかの方法ね・・・不自然すぎるのは良くないわ・・・自然的に偶発的にが理想」
「なら確かミナツが冒険したがってるはずだからそれを上手く組み込んだらどうかな?」
「それよ!! ナイスアイデア!! ・・・??? あら主任。会議はもう終わったので?」
「少し前に終わったよ。メインシナリオを動かすんだね。いいね。僕もそろそろ彼の活躍を視たかったんだ。リーダー、この案件君に任せるよ」
「いいんです? 私結構遠慮なくやりますけど? もしかしたら星滅んじゃうかもしれないですけど?」
「ハハハ。それこそ彼らの熱意が僕らの熱意に負けただけさ。気にしないで遠慮なく、残酷にやろう」
「なら遠慮なく」
「まぁ、僕らの熱量程度なら彼は絶対に超えてくれるんだけどね」
「「「「「「「「「「ですよね!!!」」」」」」」」」」
プレイヤーにとって悪夢となるシナリオが今この瞬間また一つ生み出される。
メインシナリオ『星を枯らす砂漠』は、今この瞬間、産声を上げる。静かに眠る悲種は、ゆっくりと、発芽のための準備を始めたのだった。
ーーーー
夕食の準備中。アキハ達には掃除をお願いし、俺はせっせと夕食の支度だ。今日はハンバーグ。肉と野菜をたくさん混ぜた我が家伝統の味だ。ニンジンピーマン玉ねぎ。あとは気分で野菜を入れるが今日はこれだけ。あとは野菜より多くひき肉を用意してっと。
「ただいまー」
「た・・・ただいま・・・」
帰って来たのは今日も魔法創造に励んでいるマイとミナツ。ぐったりしているミナツとまだまだ元気なマイ。今日もしごかれてミナツはヘトヘトだ。
「おかえり。お風呂空いてるから入ってきな」
「ありがとお父さん。ナツ君お先にどうぞ」
「あ・・・ありがとうマミー・・・ちょっとゆっくり入ってくる・・・つかれた~」
とてとてと音が聞こえてきそうな歩き方で風呂に向かうミナツ。ちょこちょこ寝てしまわないように声掛けに言ってやるか。
「アキちゃん達は?」
「寝室と庭の掃除やってもらってる」
「ははーん? アールまた甘やかしたね?」
「いやその・・・ハンバーグ食べたいって言うのはほら、晩飯の要望だからセーフ・・・的な?」
決してハルナのお肉コールに負けたわけではない。フユカのハンバーグって笑顔で言われた言葉に負けたわけじゃない。そう。これは晩御飯のリクエスト。つまり合法。
「なんてね。アールはアキちゃん達の飴、私は鞭だからいいよ。お風呂空くまで作るの手伝うよ」
「助かる。なら肉こねといて。野菜切っとくから」
「はいはーい」
用意した野菜をみじん切り。パンを牛乳につけておいてっと。
「アール」
「はいよ」
塩と胡椒、ナツメグをこねている肉へ、ついでに卵も割り入れる。全部入れ終えたのを確認して野菜のみじん切りに戻る。
付け合わせはポテトとブロッコリーにしよう。あとナスも食べたいから用意しよう。
「マイ」
「いいよ」
みじん切りした野菜を肉と合わせ、牛乳をしみ込ませたパンも投入。こねて貰っている内にお湯を沸かし、塩少々を入れてからブロッコリーの下茹でを。
ジャガイモは泥を綺麗に洗い流して皮を付けたまま食べやすい大きさに。表面に軽く小麦粉を纏わせてからっと揚がるように。
「父さん。掃除終わったよ・・・マミーおかえり」
「ただいまアキちゃん。お掃除ありがと」
「ありがとうなアキハ。休んでていいよ」
「いいや。私も手伝う」
「そう?じゃあ私と一緒にお肉こねようか。手洗いしてきて」
「任せてくれ」
ハンバーグ作りにアキハが合流してくれたからあっちは任せよう。
ブロッコリーの下茹ではこのくらいでいいか。どれ一つ味見を・・・いい塩梅。ブロッコリーをザルに上げて軽く水を切り、コンロにフライパンを用意。空いた鍋は水気を切って油を投入。この油すぐに熱くなるから揚げ物するとき便利なんだよな。
とか言ってる間に箸の先端から気泡が上がる。もう良さそうだ。油へジャガイモ投入。良い音だ。この音だけでご飯が食べれそうだ。
おっとっと、そろそろご飯が炊けるかな。ご飯用の羽釜を火から上げ、蒸らす。あとは食べる時まで放置でいいな。
こねるのはまだかかりそうだから先にブロッコリーを仕上げてしまおう。
バターをひとかけら落し入れてブロッコリーを投入。火は入ってるからバターの香りと塩味を軽くつける程度に炒めてっと。こんなもんでいいか。
「・・・お肉」
「コラッ! ハルちゃん生のお肉食べようとしないの!! お腹壊すよ!?」
隙を見てつまみ食いに来たハルナに一喝入れるマイ。本当にハルナはお肉好きだな。けど生で食べるのは勘弁して。
「・・・今まで壊したこと無いし大丈夫」
「そういうことじゃないのー! マミー怒るよ!? 具体的にはハンバーグにナス混ぜるよ!?」
「・・・仕方がないから食べない。だからナスは入れないで」
「全くこの子は・・・」
とりあえず生食は阻止できたらしいのでよし。
「マイ」
「もうちょっとこねたいかな」
「あいよ」
なら先にナスの揚げ浸しを作ろう。飾り包丁をいれた側を下にしてジャガイモを揚げている鍋の隅にナス投下。ジャガイモそろそろ良さそうだ。一つ試しに油から上げて割ってみる。外カラり、中ほくほく。良い感じだ。
「おいもですね」
ひょこっと出てきたフユカ。もう目がね? 訴えてるんですよ。食べたいって。
「味見するか?」
「えへへ・・・そういってくれると思ってました」
「あついからフォーク持っておいで」
「そう言うと思ってもう用意しました。えへへ」
こやつめ。
「あふあふ・・・おいひいでふ」
「・・・フユカだけズルい。お父さん。私も味見する」
「はいはい。一個だけだぞ?」
ハルナにも一つ味見用に渡してから、残りのジャガイモも全部油から上げる。油が切れたらボウルに入れて軽く塩コショウ。全体に馴染ませて、どれ一つ・・・あーはいはい。
「これで終わりだからな?」
「「・・・」」
無言のまま頷き、塩コショウを馴染ませたジャガイモも一つずつパクリ。美味しそうにしているので味付けはこれでいいか。
「こーらー? 二人ともご飯食べられなくなるよ?」
「お肉は別腹だから」
「です」
「ほら、ハンバーグ形作るからハルちゃんフユちゃんも手伝って」
「わかりました」
「私は食べる担当なんだけど・・・」
「はーるーちゃーん?」
「・・・わかったよぉ」
「アールもこれ以上つまみ食いさせちゃだめだからね?」
「りょーかい」
お母さんに怒られたので味見はおしまい。出来上がったポテトは深皿に入れ替えてっと。ボウルは軽く濯いでそのまま使おう。
醤油とお酢、砂糖少々に水。三杯酢を作って、これにいい感じに揚がったナスを軽く油切りしてそのままボウルへ。食べる頃にはいい感じに味が染みてるだろう。
さてと、ハンバーグを焼くためにフライパンを火にかける。ちょっと大きめのフライパンを使うのは家族六人分のハンバーグを焼くからだ。うちのハンバーグは一人一個ではなく大皿に複数入れて一個ずつ手元の皿に取って食べるスタイルだ。
食べ盛りだからな。一個じゃ足りない事もあるだろうし。なので焼くフライパンも大きめものを使う。軽く表面をペーパーでふき取り、油を入れて温める。
「アール。第一弾出来たよ」
「こっちも準備出来てる」
成形したハンバーグをマイがフライパンへ並べていく。この綺麗に成形できてるのはマイのやつで、ちょっと不格好なのはアキハだな。小さいのはフユカだろう。
「ハルナっ!?」
「何? 姉さん」
「そんな大きいの作るのはダメだろうっ!?」
「ダメなんて言われてないからいいんだよ」
「大きいですね」
「まぁ・・・先に言わなかったマミーが悪いね・・・しょうがないから認めてあげるよ」
「ぶい」
ハルナが作ったのは最後かな。デカいなら他に焼けなくなるだろうし。焼いているハンバーグの焼き面を確認。良い焼き色が入っていたら裏返し、蓋をして弱火で中まで火を通す。
「ふぃーお風呂あがったー・・・あっ!! ハンバーグ!!!」
「ナツ君もてつだ・・・いやいいや。もうあと少しだから休んでていいよ」
「やったー!! ハンバーグ!! ハンバーグ!」
丁度いいタイミングでミナツがお風呂から上がってきた。
「ミナツ。悪いけどこの羽釜と出来たおかず、向こうのテーブルに持っていって貰えるか?」
「任せて! 今日のご飯は何ご飯!?」
「押し麦入りのご飯だよ」
「やったー!! 俺あれ好きなんだ!!」
「熱いから気を付けて運んでな?」
「はーい!」
ハンバーグそろそろいいか。ふたを開ければいい匂いが鼻腔を抜ける。食欲をそそるいい匂いだ。串を刺して引っこ抜けば、透明な肉汁が染み出てくる。中まで火は通ったな。
「はいお皿」
「ありがとう」
マイから受け取った更に出来上がったハンバーグを並べていく。空いたフライパンにはすかさずマイが第二弾のハンバーグを入れていく。
「あとはハルちゃんが作った特大ハンバーグが一つね」
「了解。洗い物任せていいか?」
「いいよ。皆手を洗って洗い物手伝ってね」
使った料理器具を洗って貰い、俺は残りのハンバーグを仕上げていく。火加減を調整しつつ、焦げないように、丁寧に。
洗い物が終わったタイミングで第二弾のハンバーグも焼けたので皿へ移す。最後のハルナ特製の特大ハンバーグを焼こう。フライパンに入れてみれば普通サイズの三倍くらい大きなハンバーグだ。焼き方気を付けないと中まで火を通せないな。
火加減は弱火でじっくり。音を聞きながら慎重に焼き目を入れて、時折めくり焼き目を見る。もう少し美味そうに焼き目を付けたいな。
「お肉・・・」
「もう少しで焼けるから待っててな」
ぎゅるるるるとお腹を鳴らしてハルナが焼けていくハンバーグを見る。そんな感じでハルナに見守られながらハンバーグを焼くこと数分。
「っし、良い感じ」
「流石父さん。美味しそう。お皿持ってきたよ」
「持ってた。だろ? でもありがと」
ハルナが持ってきた更に焼き上がったハンバーグを乗せてやれば、満足げなハルナがテーブルへとそれを持っていく。ミナツがそれに対してズルいとか俺もとか言ってるが悪いなミナツ。
そのハンバーグはハルナ専用なんだ。今度お前にも作ってやるから今日は我慢してくれ。
「いまソース作るからもう少し待っててな~?」
旨味がこびり付いたフライパンに水、ソースと自家製ケチャップ。隠し味に醤油少々とバターを入れて煮詰めていく。表面にこびり付いた旨味をこそげ落しながらじっくりソースを仕上げていく。どれ味は・・・良い感じだ。
「アキハ」
呼べばアキハは直ぐ来てくれた。スプーンに一口お手製ソースを救い、アキハに渡す。
「味見頼む」
「私でいいのか?」
「アキハだけ味見してなかったからな」
「・・・じゃあいただきます」
「どう?」
「おいしい・・・」
アキハにも美味しいを貰ったからこれで完成でいいな。向こうで早く早くと急かしてくる腹ペコ二人も待ってることだし。
出来上がったソースを皿に移して、ナスの揚げ浸しと共にアキハとテーブルへ持っていく。ハンバーグの横にソースを置いていつもの場所へ腰を下ろす。隣にすかさずハルナが陣取り、その隣にアキハが座る。
マイが俺用にご飯をよそってくれたので受け取り、夕飯の完成だ。
「それじゃ、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
さて、ソースとハンバーグのお味は・・・うん。
「おいしいです・・!!!」
「おいしい」
自画自賛だが流石俺。良い味付けだ。ハンバーグの味付けも、ソースも最高。ご飯の炊きあがりもいい感じにハンバーグに合う。ブロッコリーはどうかな・・・悪くない。
「もぐもぐ・・・」
「ハルナ、特大ハンバーグ美味いか?」
「肉々しくて美味しい・・・あげないからね」
「取らないよ」
そんなうまそうに食べてくれるなら猶更な。
「お父さん。私の作ったハンバーグ食べてください」
ハルナとは裏腹に、フユカは自分が成形した一口ハンバーグをフォークに刺して俺に差し出す。
「どれ、じゃあ貰おうかな」
「えへへ・・・どうぞ」
「いただきます・・・うん、美味しい」
「そうですよね。美味しいですえへへ・・・!」
「父さん・・・私のも食べてほしい・・・だめか?」
「勿論食べるよ。一口貰えるか?」
「っ!! わかった!」
一口サイズに切ったハンバーグを貰う。やっぱりうまい。
「美味いよアキハ」
「そうか・・・そうか・・・!!」
「マミーご飯お代わり!!」
「食べ盛りだね」
「今日はいつもの倍は食べるよ俺!!」
「よく噛んで食べるんだよ? あとハルちゃん、野菜も食べなさい」
「マミー。このハンバーグには野菜がたくさん入ってる。だかr「食べないとお父さんのナス食べさせるよ?」・・・むぐぅ」
ブロッコリーとポテトを一つずつ口に運ぶハルナ。今日の野菜は嫌いなものじゃないんだから素直に食べなさい。
そう思いながらナスを一口。もう少し砂糖を入れても良かったかもな。
「父さん。私もナス食べたいんだが」
「いいよ、ほら」
「いただきます・・・美味しい」
「ならマミーも一つ貰おうかな。ナツ君もどう?」
「食べるー!」
「じゃあ私も一つ食べたいです」
皆食べるそうなので取りやすいように真ん中へ。お味は? そう。美味しいのね。ありがとう。
「ハルナも一口食べてみない?」
「・・・食べたら褒めてね」
「わかった。じゃぁ一つ」
「うえぇ・・・あぐ・・・うげぇ・・・」
凄い嫌そう。けどちゃんと食べたから誉めてあげる。
「よしよし。偉いよハルナ」
「・・・もう食べないからね」
と、言っているが、この手で何度か嫌がる野菜類を食べさせているので、悪いが今後も食べてもらう。
「マミー。ご飯お代わりがほしい」
「いっぱい食べなさい。はい、どうぞ」
「ありがとう」
各々のペースで食事を進めていく。少し腹も膨れてきたところで話題を提供しようか。
「マイ。ミナツの魔法はどんなかんじ?」
「まだまだだね。でもちょっとずつ成長してるよ」
「冒険の為だからな! 頑張れる!」
「・・・ほんとに冒険したいの?」
「したい!! 本の剣聖みたいにスゲー冒険して伝説的な剣士になる!!」
「ほんと、ミナツってよくわかんなくなる時あるよね」
「ハルナはしたく無いのかよ? 冒険」
「興味ない。私は父さんとマミーに布団、あとお肉があればいい。あと剣の練習」
「アキハ姉さんは?」
「私も冒険と言われてもあまり・・・興味はない。ただ父さんと剣を振るうのは好きだ」
「フユカは?」
「私もお父さんがいれば特に・・でも本は毎日読みたいです」
「じゃぁ冒険したらいっぱいいろんな本読めるぞ!」
「いや冒険はいいです」
「えぇー!!?」
にぎやかな奴だよ。けど悪くない。個人的に言えば冒険の前にちゃんと夜寝れるのかが心配ではある。そこらへんはマイが解決できる魔法をミナツと作ってるから待つとしよう。
「ねぇ父さんは冒険どう思う? やっぱりスゲー冒険っていいよな!?」
「凄いかどうかはともかく、冒険するっていう夢は良い事だよ」
「ほらみろー! 父さんも冒険は良いぞって言ってる!」
「人に強制するのはちがうけどな?」
「うっ・・・でもみんなで冒険したら絶対凄い冒険になるし!!」
「そのためにもナツ君は魔法を頑張ろうね」
「ううう・・・冒険までの道は辛いんだぜ」
「・・・何その口調。変なの」
ミナツの冒険の為の修業は続くってか?
シナリオの為の下準備と料理の下拵えを掛けてみました・・・みましたのか?
いっぱい食べる子が好き。
感想評価諸々を私に下さい。もぐもぐ食べて新しい話として皆さんに還元してくので!!




