プレイヤー『マイ』の物語のエピローグ。プレイヤード『マイ』のプロローグ
主人公って誰だっけ?
塵も残らないとは、まさに目の前の光景の事なんだろう。先ほどまで俺たちが戦っていた異形の騎士はその欠片一つ残さずに消滅した。
「絶好調! 悪くないわねこの感覚、思考もすごくクリアになった感じ」
消滅させた本人は爽やかな笑顔を浮かべて手から火の玉を出したり、水に電気、石なんかもだして自分の周囲に飛ばし、回している。
まぁそれ以上に俺が気になったのは眼の輝きだ。あからさまに変わっている。濁りながらも輝いていた瞳は月夜の光が如く輝き、真っ直ぐだった。
「マミー・・・怖い」
アキハ達には刺激が強すぎたのか、ビビって俺の後ろに隠れる。そりゃそうなるわ。俺ですら正直ビビってる。あれがもし自分に対して放たれた時、今のままだとどうにも出来ないからな。魔法を斬るくらいしか思いつかないが、流石に難しいか?
「・・・ふーん、なるほど。これが報酬だったのね」
「マイ?」
「何でもないよ。こっちの話。それよりアール。ポーチに見覚えのないアイテムとか入ってない?」
いきなり何の話だろうとは思うが、とりあえず言われるがままにポーチに手を突っ込み漁ってみる。こういう時アイテム確認の画面が出ないのは不便に感じる。ん? これか?
「・・・槍?」
取り出したのは購入した覚えのない大型の槍。ただ見覚えはある。つい今しがた戦っていた異形の騎士が使っていた槍にそっくりだ。いいや、瓜二つと言っても良いだろう。
「それ、今の異常事態を収めた人に運営・・・ううん、月の女神さまからのプレゼントだってさ。アキちゃん達もポーチ見てみて? 同じものがあるはずだよ」
「・・・ほんとにあるし。てか重・・・」
「槍・・・どうしましょう私使ったこと無いです」
「女神様・・・本当に存在していたんだな。ただの戯言だと思っていたのに」
「これ振り回しても使えそうだな」
三者三葉ならぬ四者四葉と言う感じで取り出した槍に対して感想を呟く。
俺も槍術はあまり使ってこなかったから自信ないんだよな。使えないことはないけど。そうなるとこれは倉庫番行きか?
「そろそろこんな風にたらたらしてるのは良くないね。アール。アキちゃん達を連れてエントランスホールに行ってくれる? こっちで話を付けておくから係員の指示に従って上のスイートルームで休んでて、じゃ、ちょっと先に動くね」
そういってマイは魔法陣に乗り、先に戻っていく。まぁ、マイの言う通りにしよう。生憎今の俺はマイの言う通りにする以外には何も出来そうに無いしな。
「とりあえず行こうか」
「すいーとるーむ?」
「休む所って事だよ。多分マイが事後処理してくれるんだろうさ・・・あ、そうだ」
いけない。マイのインパクトが強すぎて忘れるところだった。
「アキハ」
「なんだ?」
「ミナツ」
「なに?」
「ハルナ」
「・・・なに?」
「フユカ」
「はい?」
「よく頑張った。今日この時から、月光真流継承者として、お前たちを次世代の月光真流の担い手として認めるよ」
ここに師匠が居ても異を唱える事ないだろう。アキハ達の戦いはそれだけの実力を示したものだった。
「・・・担い手とかはどうでもいいけど・・・褒められたのは嬉しい」
右にハルナが寄り添う。
「えへへ・・・頑張りましたから」
背中にフユカが飛び乗ってくる。
「ヤバい・・・褒められたの滅茶苦茶嬉しい・・・!!!」
恥ずかしそうに顔を隠すが、指の間からにやけ顔が見えるミナツ。
「・・・」
ただ無言のまま空いた左に寄り添ってきて、黙って俺の手を自分の頭に持っていくアキハ。
さてさて、このまま移動しなきゃいけなさそうだね全く。まぁなんだ。悪い気はしない。うちの子の成長ってのはこんなにも喜ばしい事なんだから。
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「そ。他に何かある? なさそうね。じゃあ一時間後を目安に通常通りの営業を再開して。客は幸いこの異常に気付いてないし、プレイヤードに関しては私の方で話はつけたから」
ごたごたした事後処理の仕方と今後の動きを、運営している彼らに伝える。これも覚醒者って奴になったからかな? 彼らの事をただのNPCと思う事が出来なくなった。
まぁ元々ただのNPCにしては考えられないほど人間味はあったし、今更よね。プレイヤーの中にはこっちが本当の世界だなんて言ってる人もいるくらいだし。
とりあえず掲示板に事の顛末と事態収拾のために私のスレも立てたし、参加してた他の連中にも手回しはしておいた。
あとは時間が解決してくれるでしょう。見る限り私が覚醒者になったのがお祭り騒ぎになってるくらいだし、アール達にウザ絡みしてくる連中はある程度抑え込めるかな。
あとは自称最前線組から攻略参加のうるさい勧誘があるくらいかしら。それは私の問題だから適当に対応しましょう。アールの手を借りるまでもない。
「さて、そろそろ出て来たら? さっきからずっと話しかけるタイミング探してたでしょ?」
「流石だね超越者さん。勘も鋭い」
「よく言うわ。隠すつもりも無かったくせに」
守護聖帝の名で呼ばれるプレイヤードの中で最強の盾。シロマサ。まるで映画のワンシーンみたいに柱の陰から出てきたけど、奥の待合スペースに同じクラン『タンクウォリアーズ』の面々もいる。
「実はちょっと憧れててね。こういうカッコいいワンシーン良くない?」
フランクな笑顔でちょっと照れたように顔をかくシロマサ。気持ちはわからなくもないわ。
「それで? もしかして貴方ほどの人がまさか勧誘なんてつまらない事言い出すんじゃないでしょうね?」
「それはないね。僕らのクランは同じ信念を持つ仲間の集まりさ。マイさんをそれに当て嵌めようとはしないよ。ただそうだね。覚醒者の先輩として色々話しておこうと思ってね」
「それはありがたいわ。身体に関しては理解してきたけど覚醒者についてはまだ理解しきれてないから」
「決まりだね。フレンド登録お願いできるかな? 僕らのグループチャットがあるから詳しくはそこで話そう」
飛んで来たフレンド登録を了承して、そのまま送られてきたグループに入会する。『覚醒者同盟』って。シンプルね。参加人数は私含めて21人。結構いるわね。
「じゃ、僕はこれで失礼するよ。幼邪とはいえ邪神の単体撃破おめでとう。後輩さん」
「ありがとう先輩。これからよろしく」
用事はそれだけだったのか、シロマサは友人たちと闘技場から出て行った。最後の一瞬、試されたみたい。アールほどのじゃないけど覇気を感じた。これくらいは皆出来るぞってことかしら?
それなら私も覇気の訓練くらいはアールにしてもらおうかな。絶対に使えるだろうし。とりあえずグループに適当な挨拶を書いておいて反応があったらまた返しましょう。
歩きながら各所に指示と話を飛ばしながら、アール達を待たせているはずの上階の部屋に向かう。あそこは基本的に闘技場の関係者か私の許可がある人しか行けないからゆっくり休めてると思う。
そう考えながら魔法陣で部屋の入口まで飛んで、ノック。返事なし。マスターキーで鍵を開けて中に入れば何て言うか、想像通りだったわ。いつもみたいに親子揃って大きなベッドで寝てた。
「本当の親子みたいに綺麗に寝てるわね」
アキちゃんとアールは奇跡的に同じ髪の色をしているし、ハルちゃんは瞳の色がアールと一緒。フユちゃんはお父さんっ子だし、ナツ君の戦う表情はアールに似てきた。
そう考えるとアールがした選択って言うのは良い事だったんだって思う。仮想現実とはいえ未成年の私たちが子育てだもん。決めるのもかなり決意がいるわよ。
色々大変な事も多いけど、今までうまい事やれてるのは本当に良い事よね。それに。
「ありがとうね」
アキちゃん達のおかげで、私の迷いも内に秘めた不満も全部吹き飛ぶ特大のプレゼントを貰っちゃった。
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『『英雄』と『女帝』の元で育った子供たち』エピローグⅠ
・英雄と女帝に迎え入れられ、育った子供たちは、その意思と決意を受け継ぎ、見えなかった未来へ向かって育っていく。そんな子供たちから勇気を貰った女帝はこの世界で新たな肉体と力を得て、邪神の力を打ち砕いた。もしも子供たちと彼らが出会わなければ起こることが無かった奇跡の所業。女帝は新なる肉体と力を得てこの星と運命を共にするだろう。隣に立つ愛する男の為に。愛する子供たちの為に。より強く、より美しく。誇るように・・・
シナリオクリア条件
・旧名『『英雄』の意志を継ぐ子供たち』 を発生させている。
・一定数以上のモンスターを子供たちが討伐する。
・『戦火の悲種』に関係するモンスターと戦闘を行う。
・子供たちの攻撃によって関連モンスターのHPを削り、尚且つ誰一人欠ける事無く勝利する。
シークレット
・発生させたプレイヤーどちらかが覚醒する。
・覚醒した能力で関連モンスターを討滅する。
シナリオ評価:SS+
クリア報酬
・覚醒者マイは『覚醒者:魔導女帝』として肉体を再構築し、レベルの概念を失う。
・子供たちのレベル概念を消去し、才能として『ジョブ:魔導女帝』の可能性を与える。
・現在自身とその家族が装備している『白亜龍の羽飾り』に『スキル:家族の絆『英雄の一族』』を付与する。
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覚醒者
・この世界に生まれ落ちたプレイヤードという種族が持つ本当の姿。肉体を縛る鎖を砕き、種族としてあるべき姿を取り戻した事で、本当の意味でこの星で生きる資格を得た。
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ジョブ:魔導女帝
・『覚醒者:魔導女帝』の力を具現化したもの。魔法を究め、命を導く存在に与えられる。魔力・耐魔法力が極めて上昇する。
スキル:魔導覇王
・魔法使用時の詠唱が不要になる。
・MP消費が大幅に減少する。
・魔法に関わる万物を目視できる。
・自身の魔力を他者へ無期限に貸し与える事が出来る。返却は任意で行える。
スキル:空ノ裁定
・全ての魔法が敵味方識別能力を持つようになる。
・全ての魔法に聖属性、邪神特攻の効果を追加する。
・魔法連続使用時、超級魔法を合計5つ命中させることで『ムーンライトプリンセス』の発動が可能になる。
『ムーンライトプリンセス』
・自身と相手のステータス合計数値×100の値で、現状のHPより数値が上回った場合敵を消滅させる魔法。
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スキル:家族の絆『英雄の一族』
・一定範囲内の『家族の絆『英雄の一族』』をもつ生命と自身の力の一部を共有化する。
・共有化するものはMP・運命力・各種アイテム・装備品。
・共有するMP・運命力はスキル保持者全員の合計数値をその数値とする。
・スキル保持者が死亡した場合。同じスキル保持者のステータスが一定時間大幅に減少する。
・常時発動。
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まず目を引くのはスキル『家族の絆『英雄の一族』』。正に一心同体。死ぬ時までずっと一緒にってことね。そうなると私もこれは簡単に死ねなくなっちゃったな。少なくとも家族で戦う時は猶更。
ステータスの大幅減少はそのまま死につながるから、私の死がアキちゃん達含めた家族全員の事実上の死になるって事だからね。
ここは多分精神が揺さぶられて戦える状態じゃなくなるっていう事を表現してるんじゃないかな。
それを天秤にかけてもMPと運命力の共有化は破格。私は確認した魔力と対魔法力のステータス数値的にMP保有量は2000以上は間違いなくある。そこにハルちゃんとフユちゃんの高い魔法適性の事を考えれば全員がMP3000位overの数値があるという事になる。
魔法が使えなかったアキちゃんとハルくんが魔法を使えるようになると考えれば戦力は大幅に増える。
運命力に関してはレアドロップとシナリオ遭遇率がかなり上がるんじゃないかしら? そうなるとレア素材で色々作れてありがたいかもね。逆に通常素材がドロップしなくて困ることになったりしてね。
他には所持アイテムと装備の共有化だけど、これは多分アイテムポーチの共有化って事よね。使い方次第でこれもかなり化けそうね。
特に戦闘中に自分が持ってる武器が壊れてもポーチ経由で渡すって言う選択が取りやすくなった。直接渡せるのはそれでいいけど、状況によってはポーチから取り出す方が良い場合もある。こんなものかな。
じゃあ次。覚醒者と魔導女帝。
覚醒者はこの世界で本来プレイヤーが持って生まれた『プレイヤード』っていう種族本来の力だったとはね。覚醒者が異常に強いのは決められた枠を超えたんじゃなくて、本来持っている力を開放したからだったって事。
うまく言えないわね。つまり一般人は種族としての半分とちょっとくらいしか力を引き出せないってことかな。人が30%くらいしか力が使えないみたいな感じね。んで私の場合は魔法に特化した力を持っていたと。
あの時のアナウンスを考えればそういう風に肉体が再構築されて目覚めた。そういう事よね。なるほど。だからあの教祖は力、シロマサは守護の力、雷華は速さが抜きんでているのね。もとからそういう生き方をしていた、あるいはそういう力を望んだから。つまり色々悟った先輩ってこと。
教祖の覚醒した一連の藩士は聞いていたから私自身の経験も踏まえればそういうスキルになるわよね。
んで私自身の覚醒者としての能力は初出のジョブの『魔導女帝』と同じ。けどつまりこれってサブジョブみたいにもう一つジョブを付けられるって事よね。
何度も言うけど、そりゃ強いわよ。普通ステータスを二極化させたうえで適切なジョブを選んで強くするけど、私たち覚醒者はジョブの上昇値込みで最低でも三つ以上のステータスをとがらせることが出来る。
そのうち一つ二つは通常を遥かに超える。一人で二人分のステータスを保持してると言っても過言じゃないんだもの。
まぁこの辺は招待を貰った先輩方のお話でも聞いて話を煮詰めていきましょう。先人の知恵って奴ね。教えてくれなくても自分で試せそうではあるけど。
他にも考察したりできそうなことは多いけど、私も寝ちゃお。皆が起きた時、一緒におはようを言うのも悪くないでしょう? 折角のSS+。俗にいうTRUEENDってやつだ。最高の終わり方って事。ならこの高揚感を残したままひと眠りするのって最高じゃない?
ちょちょいと設定を弄ってっと・・・良い感じにいるアキちゃんを抱きしめて。おやすみなさい。あ、子供体温心地いい・・・。
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寝て起きたら全部解決していた。というかマイが解決してくれていた。
早い話がそういう事だ。何でもマイはあの時人外の領域に至ったらしく、あの魔法の数々もその力で使えるようになったらしい。
あとスキル。俺が選んだ『白亜龍の羽飾り』に『家族の絆『英雄の一族』』なるスキルが追加されたらしい。効果はステータスの一部とアイテムの共有化。
ステータスに関しては俺はほとんど関係無いのだが、アキハ達にとってはかなりの強化だ。あと関係ないとは言ったがMPが共有化されるのは嬉しい。
これで俺もファストトラベルなどの魔法による移動で『できません』って事が無くなるから。マイかアキハ達の誰かが同行してるときに限るけど。
あとは一応魔法を相殺できるようになる手段の模索もしやすくなった。その前に魔法の練習だったりはしないといけないが。
他にこれと言って気になることはなかったな。マイ曰くアキハ達のレベル上限が解放されて無限に強くなるとは言っていたが、普段から成長している姿を見ていたし、今更って感じ。
そうだ。あの時戦った異形の騎士。あれがベオウルフだったらしい。言われてみれば確かにベオウルフって感じのモンスターだった気がする。
そしてあの黒く染まったのはメインシナリオに関わってくる『戦火の悲種』に寄生され、それが発芽したかららしい。まさかあんな所でメインシナリオに関わることになろうとは。
けどマイが一瞬で消し去ったからあんまり実感がない。
こういう時相手の体力ゲージが見えないのは不便かもな。俺たちがどれだけ削れたのか目視する方法がない。あの手の再生する系の相手は外傷での状況判断が出来ないから。
どちらにしてもまだまだ修行不足なのはハッキリしてるからな。教えてるだけじゃなくて俺も自分磨きに自主鍛錬の時間少し増やすとしよう。今度そういう相手に会ったときは再生が間に合わないほどにぶった切る。
そうなると課題は速度だな。現状ではまだ速度が足りない。けれどこれでも月光真流としての速度は最速化してきたつもりだ。そうなると別の流派、あるいは武術に手を伸ばす必要があるが、月光真流は俺の柱であり信念でもあるのでそう簡単に切り替えることは出来ない。
共生ないし共存させるのは全然構わないのだが、それを捨てて別の流派に乗り換えるのは許されない。
しょうがない。この問題は時間もあるしゆっくり解決しよう。焦っても何も解決できないし新しい剣技流派の習得なぞまたの夢だ。指標が出来た事をとりあえずはありがたく思うとしよう。
けど最悪一旦『剣聖物語』に戻ってマリアーデに教えを乞うのも・・・いや無しだな。自由だった半年前ならともかく、今は子持ち。少なくともアキハ達が大人になるまでは眼を放したくない。それだけアキハ達の存在は俺の中で大きなものなんだ。
「と言う感じですかね。どう思いますマスター?」
「いやー流石真央君って感じだね。実はその光景見てたんだよ僕。映像越しだけど」
本日営業日。お客さんは奥様達と学生二人といつもの日々。学生は教科書開いて勉強中。奥様達は聞き耳を立ててみればスーパーのセールやら安売りの話やら、家庭の話で盛り上がってらっしゃる。
マスター選曲のジャズがいい感じに雰囲気を作っているため居心地もよさそうだ。
「幼邪に関しては真央くんが心配することはないと思うよ? 映像越しだけど真央くんの攻撃でゴリゴリ削れてたからね。真衣ちゃんが何もしなくても十分倒せてたと僕は思うね」
「そう? ありがとう」
でも足りないんだよなぁ。超えるべき課題は見つけちゃったわけだし。ここで満足するのは自分の限界を認めたみたいで癪だし。
「でもそうだね・・・速度を極めたいって言うなら『雷華』ってプレイヤーに話をしてみるのがいいかも。彼女プラクロで最速の女戦士だから何か教えて貰えるかもね」
「最速か。良い響きだな。ありがとうマスター。今度真衣にも相談してあってみるよ」
「いやぁしかし。真央君剣聖物語時代よりも動きにキレが増してたよ。見ててゾクゾクする位にね」
「褒めてもマスターと違って還元できるものが無いですよ俺は」
「いやいや、これは一プレイヤーとしての称賛だよ。少なくとも僕には真似できないし、幼邪とはいえ邪神個体だ。その攻撃力は通常のプレイヤーが受けられるものじゃないよ。それを刀一本で全部捌くのは全プレイヤーを見ても無理だと僕は思うね」
「ずいぶん褒めてくれますね」
「当然の事だと思うよ。あの大立ち回りに響いた和歌のような歌を歌いながらゲージ1本を汗一つかかずに削るのは偉業さ」
「・・・アザッス」
合計何本あったかは知らんが斬って斬れる相手だったのがわかっただけでも収穫ではある。と言うかここまで褒められると流石に恥ずかしい。
「でも実際ゲージ1本くらいならやろうと思えばできる人いるんでしょ?」
「そりゃいるさ。けどそういう人たちは常人とは別枠だよ。それか複数人で入念に準備して特攻の乗った一撃を叩き込むくらいさ。そういう意味では真央くんは別枠・・・つまりあの世界でいう所の覚醒者枠だね」
「あー・・・真衣が言ってましたね。確か20人いない常識の外にいるステータスお化けの奴らでしたっけ?」
「そうそう、それだよ。今回ので真衣ちゃんもその枠に入ったけど、それでも世界総人口七千万人越えのゲームでたった20人程度の枠組みさ。常人からしたらそうだね・・・アイドルとか超有名俳優くらい空の上の人だよ」
「へー」
「あんまり興味なさそうだね」
「正直な所ないですね。人外だろうが何だろうがあの世界では俺が最強なので、こっちでも最強目指すんで、と言うかなります」
「くぅー!! 人生で一度は言ってみたいセリフベスト3に入りそうなセリフありがとう!」
どういたしましてってか? 実際の所、最強かどうかはともかく、戦いで負けるつもりは無い。と言うか負けたくないのだ。負けず嫌いだし俺。
「野暮だけど敢えて聞くよ。その自信の根拠ってあるのかな?」
「実力ですよ。こちとら人生の半分以上を剣に注いだんです。誰が相手でも負けられないですよ。それに負けたら師匠が怖いんで」
「おぉ・・・イカすセリフだねぇ。なら現状を憂う必要ないんじゃない?」
「それとこれとは話が別です。可能性の壁が見えたんです。超えないと気が済まないんですよ」
現状は超える手段は全く未知数だけど。
「本当に君は仮想現実のあの世界で生きているんだね。流石だよ」
「流石に混同はしませんけどね。趣味・・・とは違うな。もう一つの人生? みたいな」
「真央くんやっぱりもう一回くらい大舞台に上がった方が絶対いいよ。全プレイヤーが君に感化されて強くなる気がするよ僕は」
「その時が来たら上がりますよ。今は今の舞台が性に合ってます」
「その謙虚さもイカすねぇ」
「すみませーん。コーヒーのお代わりもらえますか?」
「ただいま行きます。マスター仕事来たよ」
「用意できてるよ。ハイよろしくネ」
「流石マスター」
話しながらも店内の様子はバッチリ確認済みってか。そんな喫茶店の一日が過ぎていくのであった。
主人公の物語第一部完結。
設定も二つほど投下してますので引き続きご覧ください。
『おい』って思った方。主人公活躍してねぇじゃねぇか!! って思った方。
ぜひ感想下さい。




