実戦
久しぶりの戦闘回。四姉弟の実力は如何程?
装備は整った、アイテムの補充もその他準備も万端。さぁ、初めての戦いに行こう。
ルーキストの街を出て数分。高原にて一匹のモンスターを見つけた。蝙蝠の様な姿で、犬猫のように四つの手足を持つ奇妙なモンスター。
「はぐれかな? コウモリモドキがここまで町に近いのも珍しい」
マイは奇妙なモンスター。それを『コウモリモドキ』と言った。割とネーミングはそのまんまなんだな。
「せっかくだ。初めての獲物はあいつにするか。アキハ、ミナツ、ハルナ、フユカ。準備と覚悟はいいか?」
「あぁ、出来ている。大丈夫だ父さん」
「ちょっとドキドキしてるけど今までやって来た事全部出せれば出来る!!」
「・・・いいよ」
「私も良いです」
「俺とマミーは万が一まで手を出さない。お前たちが自分で考えて行動し、連携を取って相手に適応して見せろ。そして勝て」
「・・・なら先制攻撃は私とフユカでやる。武器的にもその方がいいでしょ」
「ととと・・・準備しますね」
二人がそれぞれの武器を構える。先ほどまでしっかりと練習したからか、その構えは一人前を言うほどしっかりとした姿勢だ。
「・・・フユカ、アンタに合わせるから好きなタイミングで撃ちなよ」
「わかりました・・・『狙撃』・・・・いつでもどうぞ」
「・・・結局私にタイミング任せてるじゃん。別にいいけど・・・行くよ、さんはい」
砲撃と狙撃が放たれる。まっすぐに飛ぶ矢と弾丸。
風を切りながら、こちらの事を何とも思っていない呆けた顔で見ているコウモリモドキは、次の瞬間、その両翼を撃ち抜かれる。
『キキキキキキキキキキッ!?!??!』
「・・・まぁ最初だしこんなもんでしょ」
「当たりましたね・・・えへへ・・・ちゃんと当たりました」
コウモリモドキは今度こそこちらを敵対者として捉え、残る手足で大地を駆けてこちらへと走ってくる。速度はそこまで早くない。流石始まりの街のモンスター。よほどの事がない限り轢き殺されるなんてことにはならないだろう。
「行くぞミナツ。近接戦は私たちの間合いだ」
「応!! 俺の伝説魅せてやる!!」
「・・・またフラグ」
「だからハルナが言うフラグってなんなんだよぉ!!?」
「散開しろ!!」
アキハの号令と共に3人が散開する。アキハはそのままコウモリモドキを真正面にとらえ、構えを取る。正面から受けるか。
「ここから先・・・いいや、私の後ろにいる父さんとマミーに触れられると思うなよ」
『キキキキキキキキキキ!!!!』
コウモリモドキは姿勢を低くして、突進態勢でアキハへ目掛け走り出す。ドスドスと地面に響く振動が徐々に大きくなっていく。
近づいたとこでわかったが、体長4mって所か。巨大とは言えないが、人間からすればそこそこ大きな分類だ。
そんな巨体が助走込みで走って突っ込んで来たら、これは流石に轢かれるかもしれないな。
「『月波』っ!!!」
一歩前に出て、コウモリモドキの頭目掛け刀を振り下ろしながら『月波』を使うアキハ。突進にて生まれた衝撃はアキハの身体に全て取り込まれ、その残証が刃を伝い、コウモリモドキの頭を斬る。
「ドオォォォラァァ!!!!『月輪』!!!」
真横に入ったミナツが大振りで大剣を振り上げる。遠心力と共に振るわれた一撃は、止まったコウモリモドキのがら空きだった腹部をまっすぐにとらえ、そこから曲げるように克ち上げる。
「・・・フユカ」
「はい!」
ハルナ達の一撃がコウモリモドキの目を射抜き、四肢を削ぐように連続して放たれていく。
これはもうどっちが勝つか考えるまでも無かろう。
「とどめは私がやる・・・いいかミナツ」
「譲ったよアキハ姉さん!!」
「奥義『剛歌キャンサー』!!」
放たれる斬撃面は打ち上げられたコウモリモドキの身体を真ん中から引き裂くように斬り剥いでいく。やがて斬撃面はそのままコウモリモドキの身体を貫通し、コウモリモドキの命を塵に変える。
ドシンと落ちた死骸を目にしたアキハ達だが、宣言してた通り、覚悟は決まっていたようで、動揺の色も呼吸も無い。やることをやった。とでもいおうか。そんな感じだ。
「ま・・・まぁ、うん。初めての戦闘にしては上々って所だね!!! ね!!! うん!!!!」
「そうだな。連携の確認をするって意味ならもう少し強いモンスターでも良かったかもしれないな」
「一応コウモリモドキもそこそこ強い分類に入るんだけどね!! 初心者の中では!!!」
そう言いながらマイは死骸に近寄って、その死骸に触れる。触れた死骸はやがて光となって消えていった。そうして残ったのは大きな肉の塊と翼膜らしき素材。
「本来は『解体』系のスキルが有ればいいんだけどアキちゃん達はまだ持ってないから今回は私が倒したモンスターの素材回収をしてあげる」
「ありがとうマミー・・・いつも本当にマミーがいてくれてよかった」
「・・・と言うか今日の私の役目これくらいしかなさそうだしね。ま、頼ってくれたまえよ娘たちよ!」
マイもそういってくれてるしモンスターの素材回収に関しては問題なさそうだ。となれば。
「とりあえず今日一日はこの高原でひたすらモンスターと戦おうか。実戦経験は多い方がいい。皆やれるな?」
「「「「うん!!」」」」
ーーーー
ホーンウルフ、ダッシュボア、レッドラビット、はぐれゴブリン。この辺に出るモンスターを順調に狩り進め、アキハ達もだんだんとモンスターとの戦闘における基本を学んできた。
立ち回りはどうすればいいかとか、援護のタイミング、連携する際の注意点など。俺との戦闘だけでは得られない様々な知識を取り込んでいく。
そうしてモンスターの群れとの戦いでもその経験を活かし、四人で立ち回り、一匹ずつ確実に倒しながら、群れの長、ネームド個体すら打ち倒した。
これだけ戦えれば今日の目標としては十分だろう。そんな時だった。
『グゥァァァアアアア!!!』
「うん。これは想定外。アール。雑魚ドラゴンではあるけど私たちも出るよ」
戦い始める事三時間。小休憩をしていた俺たちの頭上から聞こえてきた咆哮は、太陽からやって来た。
真っ赤な肉体。大きな翼。獲物を砕く強靭な顎と牙を持ち、強靭な尻尾を持つ。そう。ドラゴンだ。
何時か見たことがある。確かあればルーキストだったはずだ。どこかのグループが倒した個体を自慢げに荷車で運んでいたんだ。
「アキちゃんはアールについて!! ナツ君フユちゃんハルちゃんは私の直衛!! アール!! 相手が悪い! 本気でいくよ!!」
「そういう事だアキハ。やるぞ」
「わかった。父さんとマミーと一緒に戦うんだな。うん。こんな時に言うのも変な事だけどとても嬉しく思う」
「ありがとよ。さ、行くぞ!」
散開した俺たちがいた場所に、そのドラゴンはその巨体を叩きつけるように着地した。竜ではなく龍種。四本の足で大地に立つファンタジーの目玉ともいえるモンスター。ドラゴン。
紅蓮の身体を見せつけるように、見つけた獲物である俺たちから目を離さずにギロリとこちらを睨みつける。
「・・・桜花戦舞、ご照覧あれ」
呼吸のリズムに乗せて、足踏みをしながら舞う。ドラゴンの首が俺の動きに合わせて動き始める。しっかりと俺を捉えたな。
先制はドラゴンだった。その前足を振り上げて俺に向かって叩きつけてくる。
「アキハ、出来るな?」
「うん。『月波』!!」
舞を辞めず、直衛に入っていたアキハがその攻撃を刀の鞘で受け止める。
「ぐっ・・・重い・・・だが・・・父さんの一撃に比べればこの程度・・・!!!」
「『ブレイブティアーズエンハンス』!! 『アサルトバスターエンハンス』!! 『デュアルソニックエンハンス』!!! 『ドラゴンキラーズエンハンス』!!! これで行ける!! 行くよナツ君ハルちゃんフユちゃん!! 何でもいいから攻撃開始!!!」
「オッシャァ!!!」
「・・・体軽い」
「今なら何でもできそうですね」
マイたちも攻撃を開始した。だが流石ドラゴン。そう簡単に怯んではくれない。
「いい加減うちの娘から足を退けろ蜥蜴」
回し蹴りでアキハを踏み潰そうとしていたドラゴンの足を蹴り飛ばす。体勢を崩した所に、アキハが顔を上げて刀を抜いた。
「『十六夜』!」
居合抜刀にて崩れた体勢の首筋目掛けて放たれた一閃。しかし切り落とすことは叶わずに僅かに傷つける程度で終わる。
「連続で攻めろ。切れたって事は切り落とせるって事だ」
「わかった。ハァッ!!!」
一閃、二閃、三閃・・・アキハは連続で同じ場所を何度も切り刻んでいく。ドラゴンに出来た傷が徐々に深くなっていく。それに驚いたドラゴンは直ぐに防御、あるいは反撃に転じようと大きく翼を広げ飛び上がろうとする。
「皆行くよ!! 攻撃を右の翼に集中!! ナツ君突っ込んじゃえ!!!」
「この瞬間を待ってたぜぇぇぇ!!!!」
「撃ちます!! ミナツはそのまままっすぐお願いします!」
「・・・適当に付け根でも狙ってみるよ、ミナツには当たらなそうだし」
「お前らの気遣いなんなの!!? 俺だって危ないと感じたら避けれるよ!!?」
両翼にマイたちが後ろからとびかかる。空に上げてたまるかと言わんばかりの雄叫びと共に、広げた翼へと攻撃を集中した。
「アキハ、合わせて。俺たちは左翼を墜とす」
「わかった・・・何を使えばいい?」
「距離がある。こういう時はサジットで突っ込む」
「わかった。行こう父さん」
呼吸を切り替え、大地にしっかりと両足とその指で掴むように立つ。抜いた刃に衝撃を込めて、一気に突き抜ける。
「「『天翔サジット』!!!」」
共に飛び上がった二つの双槍ともいうべき吶喊。ほぼ同時に飛び上がった俺たち二人の一撃は重なり、一つの巨大な槍のようになり開いた左翼を斬り、抉りぬいた。
『ゴガァァァアアア!!!?』
「負けて・・・られるかぁ!!!! 『天裁リブラ』ァァ!!!」
反対側で、負けじとミナツが放った奥義『天裁リブラ』が右翼を大きく切り裂いた。
「・・・一応剣持ってきてよかったね」
「ですね。私たちだけ置いてきぼりは悲しいですもんね」
「・・・合わせなよ。私は勝手にやるから」
「はい」
「「『月華美刃』」」
ミナツの切り口をさらに抉るように、ハルナとフユカの同時2連斬撃が翼を斬る。そうして右翼はその中央からバッサリと切り落とされる。
右は半分が無くなり。左は大きな穴が開いている。とてもじゃないが飛ぶのは無理だ。
「私の事忘れてんじゃないわよ!!! 『大地の剣、我が手に宿り、敵を切り裂け』」
三節の詠唱を終えたマイの両手には巨大な剣が握られていた。それこそドラゴンを一太刀で切り裂いてしまいそうなほど巨大で、鋭利な一振りの剣。
「尻尾貰ったぁ!!!!『ガイアパニッシュブレイド』!!!」
文字通り大地を震撼させる勢いで放たれた一閃は、ドラゴンの尻尾をその根元から切断した。その痛みで咆哮を上げるドラゴンだが、その悲鳴すらこちらの攻撃チャンスだった。
「「ハァァッ!!」」
「ヤー!」
「・・・うるさ」
それぞれの武器で、ドラゴンの身体のあちこちを攻撃していくアキハ達。
鬱陶しいと振り払おうとすればアキハが受け止め、ミナツが吹き飛ばす。そうしている間にハルナの矢が傷口を抉るように貫き、フユカの弾丸がその傷をより深いものに変えていく。
『グルゥゥゥ!!!!』
「ブレスが来るよ!!!」
「アキハミナツ!! 喉の下!! 明らかな弱点だ!! ぶった切れ!!」
ブレス攻撃に転じようとしたドラゴンの喉の下には、外からでも見えるほど赤く輝く力の集まりが見えた。
「ミナツ!!」
「あとで文句言うなよ!!『月輪』!!」
飛び上がり、ミナツの大剣に乗ったアキハ。月輪の勢いにのってアキハが飛ぶ。身体をクルリと入れ替えて地面を滑りながらアキハがドラゴンの懐に入る。
アキハの刀は鞘に納められ、けれどこの一撃の為に納め直したと言わんばかりに構え、アキハはその名を叫び、爪を鳴らす。
「月光真流奥義『葬爪レオ』!!!」
衝撃の爪が鱗を抉り、肉を断ちながら、アキハはドラゴンの懐を走り抜けながら必殺の奥義を叩き込む。
『ゴギャァァァ!!!!!!?』
断たれた肉の下から溢れ出た火炎が主であるドラゴンの身体を焼いていく。傷だらけの身体で耐えるのはさぞ苦しいだろう。
「マイ!!」
「その首貰ったぁ!!!」
振るわれた大地の剣は、苦しむドラゴンの首を燃え盛る火炎ごと切り落とす。
「まだ!! 心臓を!!」
「それは俺がやろう・・・そこか」
聴こえる鼓動音を捉え、まっすぐに走る。前足の付け根、その奥。血を流してなお動き続ける心臓の位置を捉え、『シマカゼ』を突き刺す。刃の先に衝撃を乗せて、届かせた心臓へ、衝撃を送り込む。
「『月光閃』」
そのまま押し込むように、衝撃を破裂させるように貫く。手を伝わる感覚が、心臓の破裂を確認する。
そして、今度こそドラゴンはその巨体をぐったりと大地に倒し、沈んだ。
「ドラゴン退治。これにて完了ってか?」
「お疲れ様アール。アキちゃん達もナイスファイト! マミー大興奮しちゃった!!」
二人でハイタッチ。マイはそのままアキハ達の元に向かい同じくハイタッチをしていった。ミナツはそれはもう嬉しそうに。アキハはやり切った感を出しながら。フユカは若干照れ臭そうに、ハルナは少々ダルそうにしながらも口元が緩んでいた。
「父さん・・・父さんともハイタッチがしたい」
「いいよ、イエーイ」
「い・・・いえーい?」
「あ、ずりぃ俺も!!!」
「私もしたいです!」
「・・・ん」
全員とハイタッチし、喜びを分かち合う。改めて勝ったんだと言う気持ちが湧き上がってきた。そういえばパーティーでモンスターを討伐したのはこれで二回目か。
「ふふふ、そっか」
「あ、お父さんが笑ってます。えへへ。お父さんも嬉しかったんですね」
「あぁ、何だろう。めっちゃ嬉しくなってきた・・・!!」
しかも大切な家族でこんな大物倒したんだ。うん。やっぱり嬉しい。とても楽しかった。そうだ。この感覚。これが戦いの後の高揚感。うん。やっぱりこの感覚も好きだ。
「さてと、喜びを分かち合った所で解体しちゃおう! ちょちょいのちょいとね!!」
マイが死体に触れてポンポンとドラゴンを素材に変えていく。肉。鱗。翼膜。鱗。肉。翼。牙。眼。肉。肉。肉。尻尾。肉。やっぱり肉が多いな。
「・・・本で読んだドラゴンステーキ・・・じゅるり」
ハルナの頭の中ではすでに今日の夕飯はドラゴンステーキで決まっているみたいだ。
「おっ! 逆鱗ゲット!! 心臓も出ないかなぁ?」
出てきた一枚の鱗を見てマイのテンションが上がった。ドラゴンの逆鱗はやはりレア素材なんだろう。
「よっしゃ心臓結晶も来た!! これは私たちの運命力の勝利だね!!」
「ドラゴンテールスープ・・・」
「ドラゴン肉のチャーハン」
「・・・ドラゴンステーキ」
「流石に・・・甘い部位は無いですよね・・・」
子供たちは既に晩御飯のメニューの虜だ。帰ったらすぐに飯の用意してやらないとな。
ーーーー
「「召し上がれ」」
「「「「いただきます!!!」」」」
その日の夕食。今日はドラゴンの肉をふんだんに使ったドラゴン祭りだ。ハルナご要望のドラゴンステーキは勿論、じっくりコトコト煮込んで作ったドラゴンテールスープ。高火力で一気に炒めたドラゴン肉チャーハン。他にもドラゴン焼肉にドラゴンハンバーグまで用意した。
「うっめぇ!!!」
「・・・」
「美味しい・・・今日頑張ったから余計に美味しい」
「えへへ・・・幸せですぅ」
「たくさんあるから焦らないでゆっくり食べなよ。はいアール。私たちは乾杯しよ?」
「いいねぇ、これは?」
「私お手製の林檎のカクテル。アルコール風味入り」
「良いセンス。流石マイ」
「でしょー? はい、乾杯」
「乾杯」
チリンとグラスを鳴らしあい、一口。口に広がるほのかな甘さとほろ苦さ。あとから湧き上がってくる芳醇な香り。うーん美味い。ウイスキーに似たこの風味は悪くない。
「父さん父さん」
「どしたアキハ?」
「私たちともその・・・か・・・乾杯」
「うん。乾杯」
「ナツ君もはい! かんぱーい!」
「かんぱーい! かんぱいってなに?」
「ニャハハ! 乾杯っていうのはね?」
アキハ達が飲んでいたリンゴジュースとも乾杯する。味は変わらないけど、こみ上げてくる思いはまた少し違った。優しくも嬉しい。
「今日はどうだった?」
「うん・・・思ったよりもちゃんとできたと思う。生きるための戦い。この肉は私たちが倒したドラゴンの肉なんだよな」
「そうだ。これが戦い。狩りってやつだよ。生きるための戦いの一つさ」
「そうか・・・うん。だから『いただきます』だったんだな」
納得したように、アキハはご飯を口に運ぶ。
「うん。おいしい」
ーーーー
高原での戦いも三日を過ぎればなんとやら。アキハ達はもうすっかり一人前の戦士だ。なんだかんだ戦い始めて丁度一週間ほど。アキハ達の具合はと言うと。
「そこだ!」
『ギャギィン!!?』
迫るホーンウルフの群れの首を次々とはねていくアキハ。その動きは確実に以前よりも磨かれており、一瞬の隙も無い様に見える。少なくとも呼吸を乱す事は無いだろう。
「ダァラァッシャァァ!!!!」
『ッギギギギギギギィッ!!?』
向こうではコウモリモドキを膾切りが如く叩き切るミナツがいる。以前は四人で対峙していたコウモリモドキも、もはやミナツ一人で対処できるほどに成長していた。
「・・・じゃま」
『ゴギャィ!?』
「えい!」
『キュキュィ!!?』
「・・・近づかれるの本当に面倒」
「そうですか? 狙わないで当てられますから私は楽ですけど」
「フユカはそれで殴るだけで立派な武器になるからね。私のは矢で斬るとか、剣に持ち替えるとかしないといけないから面倒なの」
はぐれゴブリンやら、レッドラビットやらを近接攻撃で仕留めつつ、増援を狙い撃ち減らしていくハルナ達がいる。近接戦闘が出来る遠距離専門って言うのはマイが言う様にやっぱり強い。
「アールごめーん。本命が引き返したー任せていいー?」
「あいよー・・・あれか。『星波ピスケス』!!」
逃げるモンスターの群れを捉え、上を取る。そのまま追い抜いて群れの進む方向の真正面に着地して『シマカゼ』を抜く。
ひーふーみー・・・いいやめんどくさい。全部まとめて斬るんだ。数えるのはとりあえず後でいい。
『ブモォォォ!!!!!』
「今夜の晩飯確保ってな!!!」
突進してきたボアをしたから打ち上げるように斬り捨て、横にいたボアを蹴り飛ばす。そのボアを足場にしてぐるりと一周刀を振るう。
飛ぶ斬撃が群れの身体を切り裂きながら霧散するように消えるのを確認したら残りまだ息がある個体の首を跳ねる。
「さて・・・偶然生き残った諸君はこの後どうするかな?」
『ご・・・・ゴブッ!!』
ボアの後ろに隠れて難を逃れたゴブリンの一団。数は五匹。
「俺としては何もせずに斬られてくれると大変楽だ。が、抵抗するなら好きにしろ。結果は変わらん」
一歩進めば、ゴブリンたちは一歩引く。背中見せてくれれば即座に斬るんだが、意外と根性あるゴブリンたちだ。まぁ、モンスターの群れを率いて町、しいて言うならうちの近くまで進軍してた時点で全員始末するんだが。
「残念。時間切れだ」
『ゴb』
五匹全員がそれぞれの死に方で死んだ。
首を狩られた一匹。縦半分に切られた一匹。内部から燃やされ死んでいく一匹。頭と心臓に矢を受けて絶命する一匹。ゼロ距離から心臓を撃ち抜かれて死んだ一匹。
「ゴブリンだけは絶対に殺せと。このモンスターは人を殺すためだけに生きている害獣だと言っていた」
「・・・キモいしなんかキモイから別に異論はないけど」
「たまにその・・・いやぁな目で見られてる気がするんですよね。ゴブリンに」
「そうか? 俺はよくわかんねぇけど?」
「「「ミナツだからなぁ」」」
「だから何だよそれぇ!!?」
「はいはい喧嘩しないの。皆お疲れ様。臨時クエストだけどこれで無事完了だね」
そう。今回は臨時クエスト。ギルドから至急という事で発令されたクエストで、内容はモンスターの群れの掃討。多方向から迫ってくるモンスターの群れを掃討、その後可能なら群れを率いているモンスターの確認とこれを排除。これがクエストの内容。
群れの掃討は問題なく終わり、率いていたモンスターの特定もマイが魔法でちゃちゃっと解決。その率いていたのが今マイたちが倒したゴブリン五匹だ。
やっぱりゴブリンは発見次第全種殺すべきだな。存在していて良い事が全くない。食材としては最悪だし、取れる素材も粗悪品ばかり。別に素材云々は良いんだが、それが他人から奪った可能性があるアイテムだったりするもんだから最悪だ。
「とりあえずこいつらの死骸はギルドに納品して、それ以外は全部素材化しちゃうね。アキちゃんナツ君手伝ってね。アイテムポーチに空きあるでしょ?」
「わかった」
「はーい」
アキハ達はこの高原での戦いでいくつかスキルを入手したらしい。入手したスキルは装備品のスロットに装着することで発動が可能になり、それはNPCも例外ではなかった。
マイのレクチャーを聞いてスキルを装備し、初めて自分たちでモンスターを素材化させたときのアキハ達は、それはもう驚いていた。まさか自分たちがスキルなんて代物を手に入れるとは思ってなかったんだろう。
最初こそどうしたらいいか分からなかったが『使えるものは全部使っとけ』と俺が言えば、アキハ達は遠慮なく使い始めた。
とまぁそんな感じでアキハ達もこの世界で生きていく為の様々な事を学び始めた訳だ。
ーーーー
「いつもありがとうございます。これでクエストは達成です。お疲れさまでした」
「はいはいどうも。あ、向こうの席に家族でいるから今日のおすすめ定食五人分とダッシュボアのステーキ一つお願いできる?」
「わかりました」
ギルドでクエスト完了の報告をして、そのまま久しぶりの外食をすることにした。少し前まではアキハ達は食事をするのに家以外だと全然食べれなかったので控えていたのだが、モンスターを狩って、ギルドに報告してを繰り返していくうちに雰囲気と人の数に慣れてきたのか普通に食事も出来るようになった。
流石に他人と話すのはまだ出来ないけど、他人がいる場面でも食事が出来るようになったのは十分な成長だ。
因みに席は丸テーブルにミナツ・マイ・フユカ・アキハ・俺・ハルナ。それでまたミナツに戻ると言う感じの指定席が出来上がっている。アキハとフユカはたまに入れ替わるけど、だいたいこの席順で座る。これが一番落ち着くらしい。
「んで、幾らになったんだ? クエスト報酬」
「全部込々で6万G。コウモリモドキがいたからちょっと色付けて貰った感じだよ。でも相変わらずルーキストだと安いね」
「もしかしてマミー・・・家計が厳しいのか?」
「ううん別に? 他の街で同じモンスター倒したらもう少し貰えるよーって話。と言うかアキちゃんはそういう言葉どこで覚えてくるのかな?」
「本で読んで辞典で調べたんだ。父さんが持ってきてくれた本には私の知らない世界がたくさんあって好きだ」
「なるほどねー? じゃぁおんなじ本の虫のハルちゃんも結構言葉覚えてる?」
「・・・さぁね。けどそうなんじゃない?」
「ううう・・・冷たい反応されてマミーさみしい。私にはナツ君の素直さだけが頼りだよ。ヨヨヨ」
「うわっ!? なんだよマミー急に頭撫ぜるなよぉ!?」
「・・・別に冷たくしてないし。普通だよ普通」
ハルナはダウナー系クール少女だからな。
「ま。冗談はこれくらいにして、今日から報酬金を皆で分けたいと思います!」
「急だな」
「そろそろこの子たちもお小遣い欲しいかなって思ってね。折角お仕事して稼いでるんだからお小遣いくらいは用意してあげないと」
そういえばそうかもしれないな。こうして外に出る事も増えてきたんだし。買いたいもの、欲しいものに対する欲も出てくるだろう。
「も・・・もしかして私たちはもうじぶんたちでいきていけというのか?」
俺とマイ、それぞれの両腕にアキハ達がしがみつき目をウルウル湿らせる。大丈夫だから心配しないでいいよ。
「そんな震え声しなくていいよアキハ。ただのお小遣いだから」
「・・・すてない?」
「捨てない捨てない。捨てるわけがない。あれだ。頑張ったご褒美だよ」
「・・・なら・・・貰う」
ほっとしたのかぎゅっと仕立てを緩めはしたものの、二人とも俺の服をぎゅっと掴んだままだ。マイの方を見ればマイも同じような状態で、思わず笑ってしまった。
「大丈夫。あの日お父さんが言ったでしょ? 私たちは家族なんだから。ずっと一緒だよ」
「「「「・・・・・・うん」」」」
「はい! そういう事だから頑張ってるご褒美! 一人15000Gずつ臨時収入だよ」
こうすることを見越していたのか、かわいらしい財布を取り出して、マイは四人に15000Gずつ入ったそれをアキハ達四人に渡した。
「あれ? 父さんにはないのか?」
「お父さんは別で収入あるからいいの。それに今回含めてこの町でのクエストはアキちゃん達の手柄なんだからね」
別収入と言うのはモンスターの素材を売ったことで得たお金だ。便利な解体スキルは無いのでマイにそこは任せているが、そこそこの値段になっているので俺も最近は少しばかり温かい。
「人に慣れたらアキちゃん達が持ってる素材も自分たちで売ってお金にする勉強もしてもらいたいんだけどね?」
「「「「・・・」」」」
まだ無理そうだな。全員人と話すと言ったとたんそっぽを向いてしまった。これは前途多難そうだ。
「日替わり定食とステーキお待たせしました~」
「ありがとう。はいアキちゃん受け取ってね」
「わ・・・わわ・・・わわわ」
おろおろしながらも持ってきてくれたお盆を受け取り全員に渡してくれるアキハ。かなり震えているのはやっぱり他人と関わるのが不慣れだからだろう。こういう形で慣れさせようとするマイの教育方針は見習わないとな。俺だとどうしても甘くしてしまいがちだ。
「アールはそれでいいの。鞭は私担当。アールは飴担当」
「ま・・・マミー・・・このステーキは?」
「それはハルちゃん用だね。お肉無かったらハルちゃん嫌でしょ?」
「別にそんなことは・・・なくもないけど」
因みに本日の日替わり定食は焼き魚定食だった。そこそこ大きな魚の開きで、炭か何かで焼いたのか香ばしい匂いもする。
「ハルナ・・・」
「・・・マミーが頼んだんだから別にいいでしょ。私何も言ってないし」
そういってハルナは俺に焼き魚を押し付けて、ステーキと入れ替えた。なんだかんだ言いつつ肉にするのね。
「骨取ってやるから少しは魚も食べるんだぞ?」
「剥いたら教えて。食べるから」
「ハルナ・・・父さん本当にすまない」
「いいよ。それよりアキハのも取ってやろうか?」
「いや・・・自分で頑張ってみる」
「俺だって自分でやるし」
「わ・・・私は取って欲しいですマミー」
「はいはい。ナツ君も出来なさそうならいってね?」
ーーーー
『今日も平和』ルーキストの日誌『報告書!』
616:名無しのプレイヤード
なんか家族団らんとしてるプレイヤーおる
617:名無しのプレイヤード
平和の証じゃねぇか
618:名無しのプレイヤード
最近裏路地から孤児見つけて里親になるプレイヤー増えたらしいよね
619:緋焔
あれでしょ? 前にあった家族システム実装はよ云々のスレで家族に憧れた人増えたやーつ
620:名無しのプレイヤード
親兄弟になりたくて各町で孤児を探すのがブームだったらしいね
621:くろへび
まぁ孤児が心開いてくれるかはこっちの歩み寄り方次第なんですけどね
622:睦月卯月
可愛いおんにゃのこに毎日可愛いソックス履かせてめでる毎日ですにゃぁ
幸せすぎるぅ
623:名無しのプレイヤード
お巡りさんあいつです
624:白輝
お巡りさんここです。ここに変態がいます。
625:ライーダ
そこに愛はあるんか?
626:睦月卯月
ある!(迫真)
627:ライーダ
ならば良し!! 何か子供に関して困ったことがあればウチの孤児院まで相談に来るように!
628:名無しのプレイヤード
うわでた!!?
629:シロマサ
オメーはスレの監視でもしてんのかってくらいの速度でどこにでも現れるなショタコン。
630:アーノレ
ルーキストでそういえば臨時クエストあったみたいでしたね。誰が受注したんです?
状況次第では援軍でいきましょうか?
631:マイ
私だけど?
632:サクラ
はい解散。絶対平和じゃんね。ルーキスト在住なのはなんとなく知ってたけどこれでもう確定じゃんね
633:ハルト
前線から離れていいの? 最近結構盛り上がってるよ?
634:マイ
今は興味ないかな。スローライフをなんだかんだ楽しんでるから。
635:名無しのプレイヤード
本当に何があったら最前線組のマイ氏がスローライフなんて始めるんだか・・・
636:ああああ
分かった!! 前に家族の話題あったからマイさんそれだよきっと!!!
637:名無しのプレイヤード
未来の怪物でも育成してんのか?
638:マイ
はっ倒すわよアンタら
戦闘前
アール『急所を落せば勝てるから狙うなら急所狙え。あと何が来ても焦らない事』
アキナツハルフユ『頑張る』
マイ『初実戦どうなるかな?』
戦闘後
マイ『皆ほぼ確定クリティカル・・・やば、イヤ怖っ』
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