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月光真流を継ぐ光

アクセスを増やすなら更新頻度少し増やせばいいと思ったんですよ。という訳で今月三度目の投稿です。


誤字報告をくれる方いつもありがとうございます。

月光真流を教える上で最も大切なのは衝撃のコントロール。その基礎となるのは呼吸。空気を取り込み体内で自在に操ることが出来るイメージが完成することで、衝撃のコントロールが出来るようになる。


「それじゃあ早速始めよう。準備は良いか?」


「「「「「うん (!)」」」」」


「いい返事だ。 所でマイもやるの?」


「えぇー? 仲間外れにするつもりだったの?」


「・・・父さん。それは無いと思う」


「えへへ、仲間外れは悲しいですよねマミー」


「父さん。ひどい」


「あわわ・・・お前たち父さんはそんなつもりで言ったんじゃないはずだ」


フォローするようにあわあわしてるアキハだが、ハルナ達の言う通りだな。皆でやろう。


「ごめんなマイ。一緒にやろう」


「うん! 見てなさい! 戦う戦士としては私の方が先輩だからあっという間に習得して見せるわ! スキルは持ってないけど!」


「よし、まずは呼吸の仕方をマスターしようか。足を肩幅にひらいて」


「えっと・・・こうか?」


「そうそう。次に両手を肺とお腹に添えて。右左はどっちでもいいから・・・そうそう。そうしたら肺と腹両方で空気を吸い込んで満たす深呼吸。この時両手で呼吸するのをしっかりと感じて」


簡単そうに見えてこれが難しい。ただ吸い込めばいいという訳じゃない。両方を空気でいっぱいにするというのは実際やるのも結構難しい。肺だけ、腹だけと言うのは出来る人がいても、その両方を同時に満たすのは簡単ではない。少し入ればいいんじゃない。満たすんだ。これ以上はいらない位にな。


出来ているかどうかは呼吸音を聞けばわかる。アキハ達は完璧ではないけれど出来かけている。練習していけばケロッと出来るようになるだろう。


マイは・・・要練習だな。


「・・・これいつまでやるの?」


「一生」


「え?」


「月光真流を継ぐなら一日一回以上。完璧にしたこの呼吸を毎日欠かさずするんだ。この深呼吸をしなくなるイコール月光真流を捨てる事だと思え」


月光真流は一日にしてならず、欠かしてはならず、生涯を捧ぐべし。


「朝起きた最初の深呼吸でいい。何時間もやらなくてもいい。けどマスターしたこの呼吸は必ず毎日取り入れるんだ。それこそ読書中にしてもいい。とにかくこの生涯を通じてこの呼吸があたりまえだと言う感覚になるまで毎日。一生だ」


「・・・わかった」


ハルナはそういって深呼吸を何度も繰り返す。他の子たちもびっくりはしたもののその重要性は通じたのか真剣に呼吸を繰り返す。


「あのぉ・・・お父さんも一緒にやりませんか? その方が覚えられるかなぁって・・・えへへ」


「勿論。一緒にやるよ。見てな」


皆の前に立ち、軽く目を瞑り、口から、鼻から、全身に空気を取り込むように深呼吸。呼吸を整えつつ、身体全身が空気を受け入れるように大きく膨張させる。


「な・・・なるほど、全身で呼吸をすればいいのか・・・」


「そうだ。見て気づくのも大切な事だ。教わるだけじゃ月光真流は覚えられない。師匠・・・俺の動きを見てどんな体の使い方をしているか。どこに重点を置いているのかも探しながら自分のモノにしていくんだ。結構難しいから頑張れよ」


「む・・・難しいねアール。これがあたりまえの毎日とか凄いよ」


「そうでもないよ。慣れるまではきついけど慣れてしまえばすぐさ。皆も頑張れ。これが出来るようになるまではこれしか教えないから」


「・・・そう・・・なんですか?」


「そうだよフユカ。これは月光真流の基本だ。これが出来ないと次は無い。何日何か月かかってもこれが出来るようになるまではひたすら呼吸の練習だ」


地味で苦しくなってくる深呼吸だ。やると決めたんなら最後までしっかりとやってもらうから覚悟しろよな。








ーーーー








正直子供たちの才能を舐めてた。


呼吸の練習を始めて三日。既に効果は出始めていた。


最初はハルナだった。次にミナツ、フユカと続いて、コツを見つけたアキハが急成長が如く呼吸を完璧にした。三日だ。俺が習得するまで半年以上かかった呼吸を三日でマスターした。


もとから才能があったとはいえまさかこれほどとは。


「うん。お父さんびっくりだ。お前ら本当に才能の塊だよ」


「えへへ・・・褒められました・・・うへへ」


わしゃわしゃと頭を撫ぜてやればフユカミナツは嬉しそうに、アキハとハルナは恥ずかしそうにしながらも俺の手を振り払う事は無かった。


因みにマイは今日いない。用事があるらしくしばらく戻れないと言っていた。何やら今手掛けていることがあるらしくそのまとめを見届けるらしい。


「それじゃあ次の修業を始めよう。とはいっても同時に二人ずつしか出来ないから・・・誰からやる?」


「はいはい! 俺!」


「・・・私は後でもいい」


「わ・・・私はやるぞ!」


「えへへ・・・アキハ姉さんとミナツに譲ります。私はあとでハルナ姉さんと一緒にやりますね」


「決まりだな。じゃぁミナツ、アキハ。俺の前においで」


「「はい!」」


「まずは呼吸を絶やさずに繰り返して・・・そうだそれでいい。今から軽くお前たちの頭を小突く。当てるぞ?」


軽くチョップする程度に。優しく当てる。


「何度も小突くからそれでも呼吸を乱さずに繰り返して。あと俺の目をしっかりと見ながら」


トントンと木魚でも叩くように二人のおでこより少し上にチョップを繰り返す。この辺で一回やっとくか。


「「「「ひっ!!?」」」」


直後、バッと身をかがめて頭を守る二人。後ろで呼吸してた二人もそれに飲まれ呼吸を忘れて呆然となる。無論二人の頭をかち割る気はない。ただの殺気だ。


「これが殺意、あるいは殺気だ。戦う相手が持つ『相手を殺す』っていう明確な意思だ。怖かったろ?」


「「「「・・・」」」」


フルフルと震えながら首を縦に振る四人。


「多分この修行がお前たちの一番の壁になる。俺と出会う前のお前たちにとってはきっとトラウマに近いだろうから。けど、それでも、月光真流を覚えるなら、戦うならこの壁は打ち破らないといけない。もしやめるならきっとここだ」


厳しい事言っているのはわかってる。でももし彼女たちがこれから先戦場に、戦いの場に出るならば、殺気や殺意からは逃れられない。そしてそれらに恐怖し縮こまるという事は明確な隙を生み出す事に外ならず、死を意味する。


だからここから先に進むなら、トラウマを、恐怖を乗り越えなけてばいけないんだ。


「どうする?」


強制はしない。怖いものは怖いんだ。仕方がない。俺はそれを無理に乗り越えろと言わない。戦わない事を選ぶのも、一つの戦いなのだから。


「・・・す・・・少し考えたい」


「おれも・・・」


「わたしもです」


「・・・ちょっと、むり。かんがえる」


「わかった。今日はここまでにしよう。みんな決めるまでは続きをしないからゆっくり考えて」


さて、アキハ達はどんな選択をするだろうか。それだ例えどんな答えだとしても、俺は彼女たちを責めはしない。










ーーーー








「・・・父さん。決めた」


一週間後。ハルナが突然そう言った。


「そっか。どうする?」


「・・・やる。怖いのは怖いけど」


「わかった」


まず、ハルナが続ける選択をした。








ーーーー










その翌日


「怖くて怖くて仕方ないけど・・・頑張りたい。いい?父さん」


「勿論。俺はミナツがそう決めたんなら応援する。でも無理はするなよ?」


「うん」


ミナツが頑張ると言った。








ーーーー








「あのぉ、もしもう嫌だって言ったらお父さんは私の事どうしますか?」


「どうもしないよ。今までと変わらない。だって家族ってそういうものなんだ。修業しなくてもフユカは大切な家族だよ」


「えへへ・・・それを聞けて良かったです」


「フユカ」


「あ、もちろんそれは途中で出来なくなっちゃったらの確認ですよ? もう少しやってみようかなぁっておもったので」


「あ、そうなの?」


「はい。折角お父さんが教えてくれてるから、もう少しだけ、勇気を出してみようかなって」


フユカが、勇気を振り絞り、前に進んだ。








ーーーー








「私だけ・・・答えを出せずにいるんだ」


三人が答えを出してから数日後の夜。アキハが話をしたいと言って寝室で話し始めた。ハルナ達はもう夢の中で綺麗な寝息を聞かせている。


「父さん・・・私は・・・どうしたらいいんだろう?」


「優しい言葉と、厳しい言葉。どっちがいい?」


「・・・それもわからないんだ。私はきっと父さんの言葉で簡単に決めてしまうから・・・それがダメなんだって事はわかっているはずなのに」


アキハはずっと悩んでいた。三人が決めたのに自分だけ決められない事を。なんとなくこうなるとは思っていた。


きっとハルナ達を守る為に、ハルナ達以上に怖い思いをしてきたアキハだ。それに対しては人一倍敏感なはずだから。


「アキハ。ちょっと俺の上に乗って心臓の音を聞いてごらん」


「お・・・重くないか?」


「重くないよ。おいで」


「わ・・・わかった」


ミナツ達を踏まないようにゆっくり動き、アキハは仰向けに寝る俺の上に乗っかり、心臓に耳を添える。


「・・・ドキドキしてる?」


「そうだよ。正直に言ってな? この話するの結構怖いんだ」


「とうさんも・・・怖い事があるのか?」


驚くようにアキハが言う。


「怖いよ。もしこれがきっかけでアキハ達から嫌われたらどうしようって考える日もある。それに戦う時だってそうだ。怖いと感じるときはあるよ」


「じゃあ・・・どうやってとうさんはそれを?」


「嫌われたらっていうのは・・・まだどうしたらいいのかわからない。けど戦う時の恐怖はそうだな・・・守りたいって気持ちで恐怖に挑んでるんだ」


「守りたい?」


「そう。大切な人、大切な場所。何でもいい。自分が今大切にしていることを守る為に。俺はこの恐怖っていう怪物と心で戦っているんだ。今も昔も、ずっとな」


「・・・父さんも戦っているんだな」


「勿論。いまは嫌われたらどうしようって気持ちと一生懸命戦ってるのさ。大切なアキハ達がこれからどんなことがあっても、助けられるように頑張るぞってな」


「・・・やっぱり父さんは立派な大人なんだな」


「・・・ありがとうアキハ。その言葉で俺はこれからも頑張れるよ」


「今日はこのまま寝てもいいか? 父さんの心臓の音を聞きながら眠りたい」


「いいよ。おやすみアキハ。良い夢を」


「うん。おやすみ・・・お父さん」


その二日後、アキハも続けると決意を告げた。俺のように立派な人になる為にと嬉しい言葉と共に。






ーーーー








「「「「ひっ」」」」


「頑張れ! 失敗してもいい。何度でも何度でも何度でも! 最初の一回を乗り越えるために頑張れ!!」


再開した修業はやはり呼吸の修業ほどうまくはいかなかった。恐怖に飲まれ、四人は直ぐに頭を丸めて呼吸を乱す。けれどそれを責める事はせず、ただただ応援を繰り返す。


呼吸を整えるには時間はかかったが、それでもまた立ち上がって俺の目を見れるようにはなってきた。


軽く小突くことに関しては問題ない。しっかりと目を見たまま呼吸を繰り返せる。けれど少しの殺気を乗せればやはり取り乱し、震える。


もうこれは数をこなして乗り越えるか、完全に諦めるかの二択だ。だけど、そんな度にアキハが言うのだ。


「とうさんは・・・これを気持ちで乗り切ったんだろう?」


そうだと答えれば震えながらアキハは何度も立ち上がり挑戦し続けた。それに感化されるようにミナツ達も頑張った。


頑張って頑張って頑張って・・・気が付けば一か月の時間がたっていた。


「「「「っ!!!」」」」


その時は突然訪れた。殺気を乗せた小突きに対し、受けていた二人は呼吸は乱すが目を瞑らずに俺の顔をしっかり見て、受けていない二人は目を瞑りこそしたものの呼吸は乱さずに。確かに恐怖に対して一歩前にすすんで受け止めた。


「お前たち!!」


それがとてもうれしくて、四人を抱き寄せた。あぁ、本当に。本当に嬉しかった。アキハ達が今この瞬間。俺が見ている前で、確かに一歩、大きな一歩を進んだのだ。


「うへぇ・・・苦しいです・・・・えへへ」


「ふみゅ」


「・・・泣いてるし」


「お父さん・・・私がんばれたかな?」


「あぁ・・・あぁ・・・すごいぞアキハ、ミナツ、フユカ、ハルナ。うん・・・!! 本当に! 本当によく頑張った!!!」


この涙の感覚はきっと俺の心にずっと残すだろう。それくらい嬉しかった。








ーーーー








恐怖に対し、一歩前に進んだアキハ達はそれからと言うもの驚異的な適応力を魅せた。本当に子供の成長と言うのは一瞬たりとも見逃してはいけないとよく言うが、まさにそうだ。


少しずつ乗せる殺意や殺気を増やしていくが、アキハ達はそれを飲み込み目を見開いている。呼吸の乱れも少しずつ無くなり、気が付けば俺の本気をぶつけても、僅かにぐらつくだけでしっかりと目を開け続けていた。


そしてその日は来た。


「「「「・・・」」」」


平常心が恐怖に打ち勝った。あるいは恐怖を打ち消す勇気が勝った瞬間の日。本気の殺意をものともせず、アキハ達は全員呼吸一つ乱すことなく立ち続け、俺の目を見ていた。


「・・・よし。皆本当にありがとう。全員合格だ!!」


「ーーーっっ!! 本当かお父さん!!」


「あぁ本当だとも!! 皆凄いぞ!! 本当にありがとう!! お前たちは俺の前で大きな壁を乗り越えてくれたんだ!! 本当に・・・ほんどうにありがどう!!!」


「ちょ・・・泣きすぎだし」


「父さん結構涙もろいよね・・・はいハンカチ」


「ううう・・・ずびぃー」


「えへへ・・・鼻かまれちゃいましたねミナツ。あとで洗濯しないとですね」


「・・・洗濯は俺がするからいいよ・・・さぁ! 今日はお祝いしよう!! 好きなもの作ってやる!! 何食べたい?」


「お肉」


「えっと・・・甘い物食べたいです。林檎のタルトがいいなって」


「俺お米!! 前にマミーが作ってくれたチャーハンってやつ!!」


「わ・・・わたしはその・・・初めて一緒に作ったピザがいい」


「任せろ!! 全部作る!! って事で今日の修業はここまでだ!!」


頑張ったこの子たちの為に、全力でうまい飯を作ってやろう。


その日の夕食は豪勢なものになった。丁度帰ってきたマイは少々呆れながらも、『お祝い事ならしかたないか』と嬉しそうに受け入れてくれた。








ーーーー








「さてと、今日から次の修業に移る訳なんだが、修業前に基礎として十分間の呼吸をするぞ。用意・・・はじめ」


呼吸を切り替えて深呼吸を行う。さて、今日から行うのはついに衝撃を体で感じ、実感する修行だ。同時にここから危険度も上がってくる。教える側としては細心の注意を払いつつ、アキハ達に衝撃を体感させていこうと思う。


「・・・よし、そこまで。じゃあ今日からの修業は月光真流もう一つの基礎。衝撃に関する修行だ。ここから一気に難しくなるから頑張ろう」


「「わかった」」


「・・・ん」


「わかりました」


まずは庭にマイにお願いして買ってもらったマットを敷いて、飛ばす方向にも受け止めるクッションと落ちた先のマットをしっかり置いてっと。これでよし。


「アキハ。ここに立って」


「ん・・・こうか?」


マットの上に立たせ、背中を設置したクッション側に向けさせる。これで吹き飛んでも問題なし。


「今からアキハの事を衝撃で軽く押すからこらえて。呼吸を忘れずにね?」


「??? わかった」


軽く胸に手を当てて呼吸をしっかりと切り替える手から伝わるアキハの呼吸の鼓動。まずは軽く・・・フッ!!


「わっ!?」


アキハは想像通り後ろに設置したクッションに吹き飛び。その距離一メートルも無いけれど確かに吹き飛んだ。


「わっ? え? はぇ?」


「どうだった?」


「わ・・・わからない・・・言葉では言い表せないんだが・・・胸元だけ押されたはずなのに、全身を押された感覚で吹き飛んでいたんだ・・・」


言い表せてるよ。そのまんまだ。


「これが衝撃を操るって事だ。触れた一部から自由自在に衝撃を操り、対象に与える。今回は全部後ろに抜けるように加えたけど、これを全部内側に向ける事も、一部に集中させることも出来るんだ」


「す・・・すごいな」


「いきなり真似しろって言うのは無理だからしばらくは体感することを優先する。ミナツ達も全員後ろに吹っ飛ばすから覚悟しろよ?」


「お・・・面白いじゃん!! ぜってー最初に耐えてやるから見てろよお前ら!!」


「えへへ・・・それって本で読みました。フラグっていうんですよね?」


「・・・まぁやってみるよ」


「その意気だ。今はまだ楽しみながら月光真流に触れていけばいい。さぁやるぞ! ミナツこい!」


「オッス!!」


そうして全員後ろに吹っ飛ばした。流石に初日は耐えるどころか踏ん張ることも出来ずに綺麗に後ろに吹き飛んだ。










ーーーー








「うごごごご・・・!!!」


耐えたよ。吹き飛びこそしたが、足はしっかり地面についているし踏ん張っている。クッションに当たるギリギリだったが、確かに耐えた。ミナツが。


「・・・マジで?」


「ほ・・・本当に最初に耐えましたよ!?」


「凄いなミナツは」


ハルナ達も驚いていた。まだ耐える事に関して全然糸口をつかんでいないのもあるが、そんな中でミナツが確かに耐えたのを見て驚く。


「ど・・・どうだ!!」


「うん。正直びっくりだ。まだ数日しか経ってないのに耐えるとは・・・これなら完全にこらえるのも時間の問題かもな」


「よっしゃ!!!」


「うわぁーこうしてみると本当に子供の成長ってすごいんだねぇ」


別件、と言うかマイの用事がひと段落突いたらしく、今日から家にいる時間が増えたマイは修業には混じらず、俺の補佐をしてくれている。主に何かあった時やスタミナが減った時の回復だ。おかげで疲れてもすぐに回復出来て、少々休憩すれば完全な状態で修業を再開できる。


さてと。状況の整理はここまでで、今耐えた分の衝撃を、とりあえず発散させないとな。


「ミナツ。耐えた分の衝撃はどこにあると思う?」


「え? えっと・・・ここ?」


指をさしたのは足の裏。確かにそれも正解だ。足で支えて耐えたのだから。でも少し違う。


「正解は全身だ。全身に与えた衝撃は確かに足でこらえたけど、こらえたって事はその分の衝撃は地面に逃げた。けど地面に逃げなかった分の衝撃は全身に残っている」


「そ・・・それって実は危ない奴!?」


危険な状態だと思ったのか、あわあわして震えるミナツを安心させるように手を広げる。


「コントロールできないと危ないな。だから一旦全部外に吐き出させる」


「どどどどどーやって!?」


「簡単だ。ミナツ。全力で俺に飛び込んで来い! タックルだ!! こい!!」


「わ・・・わかった!! やぁー!!!」


抱き着いてくるような、タックルとは言えないけれど、全力で突っ込んできたミナツを全身で受け止める。当然ながら伝わってくる衝撃は見た目以上に大きかった。けど、この分だけミナツはしっかりと衝撃を受け止めたんだな。


「こ・・・これで大丈夫なんだよね!? ・・・父さん?」


「あ・・・あぁごめん。大丈夫。これで全部綺麗に無くなったよ」


「はぁぁぁー・・・よかったぁ・・・父さんあったかい・・・」


「「「・・・」」」


背中を引っ張られる。振り返ればアキハ達が若干ふてくされていた。


「次は私の番だ。早くして」


「・・・別にいいけど早くして」


「私もやります」


「くっくっく・・・子供の嫉妬だねぇ・・・可愛いじゃんね? そう思わない? お父さん」


そうだな。可愛いよ。








ーーーー








吹き飛ばす訓練を初めてさらに数日。


「こい!」


「えへへ・・・いきます」


ボフっと聞こえてきそうな抱き着きでフユカが突っ込んでくる。衝撃も結構大きくなってきた。


「えへへ・・・いいですねこれ」


「・・・フユカ後が詰まってるから早くして」


「ハルナ姉さん・・・もう少しお父さんのあったかいの感じてたいんですけど・・・えへへ」


「・・・ダメ。早くして」


「むぅ・・・わかりました」


ミナツにコツを聞いて全員がこらえるようになってきた。衝撃の量は多くないとはいえ子供が吹き飛ぶ衝撃だ。それを耐えるようになってきたのは凄まじい。と言うか本当にこの子たち才能の塊じゃないか。


「ハルナ、行くぞ?」


「・・・ん」


グッと力と衝撃を込めて吹き飛ばす・・・吹き飛ばない? え、まじで?


「うそぉぉ!!? 俺より出来るようになってるぅぅ!!?」


「・・・私にかかればこんなもんだよミナツ」


「すごいなハルナは・・・私も頑張らなければ」


まさかこんなにも早く完全にこの衝撃量を受け止めるのか。しかも一歩たりとも動いていない。衝撃量こそ少ないが完全にハルナはこらえて見せた。


「・・・それよりも体がなんか変な感じするんだけど」


「マジでか。ハルナ。その感覚コントロールできそうか?」


多分衝撃が身体を循環している証だ。身体がムズムズとは少し違うが、力が内側で動いている感覚。ハルナは文字通りこの量の衝撃を体内に吸収し、循環させているんだ。


「どうやるの?」


「呼吸をしながらゆっくり右手全体に空気を流すイメージって言えばわかるか?」


「・・・まぁなんとなく」


自分の手を見ながらハルナはゆっくりと呼吸を繰り返す。見ればわかる。ちゃんと集まってきている。完全にコントロールが出来ている。


「あ、なんか出来たっぽい。出来てる?」


「うん。出来てる。じゃあ次、今度は全身に集めた衝撃を戻して。ゆっくりでいい。焦るなよ」


「わかった・・・スゥー」


血が流れるように、空気が巡るように衝撃が集めたてた右手から体へと流れていく。コントロールはハルナが一番うまいのかもしれないな。初めてでここまでされたら当時の俺なら間違いなく自信を無くすわ。


「うん。さっきの感覚が戻ってきた。なんかもぞもぞする」


「次からはここまでの練習を一通りやってくからそのつもりでなハルナ」


「・・・ん。わかった」


「とりあえず一旦吐き出そうか。こい」


「・・・」


無言のまま体当たり。受け止める量も放った分と完全に同一。次からはハルナには少し強く衝撃を与えてもいいかもしれないな。


「・・・あったかい」


「ハルナ姉さんも抱き着いてるじゃないですか!!?」


「・・・先に進んだご褒美だよ。悔しかったらフユカも出来るようになりなよ」


「に・・・二番目こそ俺だから!! 見てろよ!! 父さん早く次!! ハルナも早くはーなーれーろー!!」


「・・・いいなぁ・・・」


「聞こえたよアキちゃん?」


「っっっ!??!?!?」


「あーかーいいねぇ!!! もうそういうの可愛すぎる!! よーしよしよし!!」


余談だが、この後時間はかかったがその日のうちに全員がハルナと同じ段階まで登ってきた。二番目はアキハで三番目がフユカ、残念ながらミナツが最後だった。『なんでぇぇ!!!?』と悔しそうな悲しそうな叫びをあげていたので晩飯はマイ特製焼豚たっぷりチャーハンだった。








ーーーー








子供の、いいやこの子たちの才能は本当にすごい。一日、いや、一秒ごとに進化していると言っても過言じゃいくらい。修業は順調に進んでいる。既に大人一人を吹き飛ばす衝撃で吹き飛ばそうとしてもしっかりとこらえて、その衝撃のコントロールも出来るようになっているのだから。


集中させたい場所に集中させ、分散させる。外に出力する方法こそまだ体当たりしかさせてないのだが、これを試しに受け止めたマイが逆に吹き飛んだと言えばその凄まじさが伝わるだろうか?


『えちょっと嘘でしょ?』と本気で驚いていたからマイも想定外だったんだろう。俺だってここまでの成長率だとは思ってなかった。


「次の段階に移ろう。ハルナをはじめとして皆もう完全に衝撃のコントロールに関しては中級者と言っても過言じゃない」


「・・・一応もう一回やっておきたいからやろう?」


「ずるいです! お父さん私もやります!」


「俺だってやる! 負けてられない!!」


「・・・」


顔を真っ赤にするアキハもその気らしく構えていた。お前ら最後の体当たりに楽しさを見出してるよね? まぁやる気があるのは良い事だけど。


そういう訳で次の修業の前に全員衝撃のコントロールを済ませて間違いなく出来ていることを確認する。


「ハァ!!」


「ッッシ! 良い感じだったぞアキハ」


最後のアキハの衝撃を受け止めて全員終わり。


「じゃあ今度こそ次の修業だ。今度のは辛い修行だ頑張るぞお前たち」


やる気十分の返事を返し、子供たちはやる気満々だ。


「次の修業はコンロトールした衝撃を自由自在に外に出す。つまりさっきまで体当たりで発散してた奴を手足、果てには持っている武器から繰り出すための修業だ」


「ついに実戦の様な感じになってくるのか・・・」


「どんとこいだ!」


「えへへ・・・ここまで来たらどこまでも頑張れます」


「・・・ん」


「が、残念なことにお前たちに足りないものがある。まずはそれを鍛える事から始める」


「「「「?」」」」


出会ってからこの半年で体つきは年相応に、肉付きも良くなってきた。しかし、衝撃を一点集中で耐えるにはまだ華奢だ。与えてきた衝撃だって全身に分散し繰り出してきたから耐えられたが、文字通り手を当てた場所に集中させていたら身体は耐えられないだろう。だから。


「体がしっかりとしたものになるまで筋肉トレーニングだ。今までやって来た修業を全部反復練習しつつ、お前たちの身体を月光真流が使えるまでに鍛え上げる。多分肉体面で言えば一番厳しい修行になるから・・・逃げるなよ?」


「「「「っ!!?」」」」


さぁ!楽しい楽しい全身強化トレーニングの開始だ!!


因みに初日から一週間は全員筋肉痛で毎日マイの回復魔法に頼りっきりだった。







殺意には敏感な元孤児がトラウマを乗り越える話。


質問です。

投稿時の文字数減らせば話数伸ばせるけど、皆さん一気に見れるのとちまちま見るのどっちが好きですか?今後の参考にするので聞かせてください。

因みに現状10000文字程度で更新してます。減らすなら3000から4000くらいかなって思ってます。


そういう訳で、いつも通り感想レビュー星評価いいねの懇願です。承認欲求モンスターに感想下さい待ってます。どなたでも気軽に下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 色んな方がもう答えたのだと思いますが、現状維持が良いなぁ…
[良い点] 修行風景はやっぱ面白いです!!月光真流の呼吸と衝撃についての説明を受けて、さらに理解もできました!! 呼吸方法の取得に三日かぁ!!すごく天才なことをアールが自慢してくるシーンを思い浮かべ…
[一言] 私は一気見がいいと思います。
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