伝説の足音
この世界は剣と魔法の世界。そしてかつて世界を救った英雄が生まれた時から数百年たった世界。世界を脅かす邪悪は滅び、いくつかの国が生まれ、繫栄し、滅んでいった。
世界は常に動いていく。そんな世界。貴方はそこで新人類プレイヤードという種族として生まれます。
――――
まずは世界観の簡単な説明。なんかというかがっつり『剣聖物語』匂わせてくるじゃん。いや『剣聖物語』が元からありきたりな王道RPGだったからそう言ってしまえばそれまでだけどさ。
けどとりあえずなんとなく世界観を勉強していく感じで。さて最初の設定はどうしようかな。
――――
貴方は前世を覚えている人。世界を救った貴方。世界を滅ぼした貴方。人知れず蘇った邪悪を殺した貴方。古の英雄。語られなかった本当の英雄。世界に英雄が生まれるとき、それは世界に再び何かが起こることを示唆している。けれど貴方が生まれ変わるのなら、きっと世界は貴方を中心に変わっていく。
――――
おい。がっつり〝俺〟じゃあないか。もしかして運営最初から狙ってたな? 発売は確か五年前。俺が『クリエイション』モードの『剣聖』ルートクリアしたのも五年前。やったなこれ。絶対にやりやがった。流石変態企業。やることがマジ変態の所業なんよ。
――――
きっと貴方はこの世界でもあの世界のまま戦える。他のプレイヤードの助けになっている女神の加護は足枷になるでしょう。だから代わりに貴方には『月の加護』を。世界を変えていく貴方だけに渡せる貴方だけの力。それはきっと世界を変えるモノだけど、貴方はきっとそれを良い方向に変えてくれると信じている。
――――
もう驚かん。スペシャルエディションって言ってたしもう何が起きても驚かんぞ。やれってか。ここでも『クリエイション』モードでやれってか? やってやんよ。見てろ変態企業。そのかわりせめてセーブ機能だけください。装備全損はいいけどセーブ機能だけはください。マジで。
――――
月の加護
・復活の加護
死んだ場合、ステータスの三割を失う代わりに最後に立ち寄った町の噴水で復活できる。
・剣姫の加護
古の英雄に付き添い最後を見届けた女性の加護。あらゆる剣を条件無視で扱える。
ステータスの数値に関係なく身体能力を得る。世界の理に順応する。
・銀狼と豪猿の加護
古の英雄に付き従った獣たちの加護。食事を行うことで身体能力に影響を及ぼす。
・妖精剣姫の加護
古の英雄の師が施した加護。例えどんなに離れていてもいつかまた出会う。約束の証。
――――
はい『クリエイション』モード確定。けど神調整。もう復活機能あるだけで神。しかもこの書き方多分装備損失ないから実質無料。デメリットないのはマジでありがたい。ステータス? このゲーム性がどうか知らんが飾りでいいよ。殺るときは絶対急所斬るし貫くし。どんなにステータスあっても世界に順応するってことは首落とせば殺せるし心臓止めれば倒せるだろ。
剣姫がユーリの加護で銀狼と豪猿がギルファーとガガンドラの加護で妖精剣姫がマリアーデ。直接的に能力に関わるのは三人の加護でマリアーデのは多分再会フラグ。出来れば使ってた太刀もまた使えると嬉しいんだけどな。高望みしすぎか? けど希望するのは自由だし良い方向に考えとこ。
――――
英雄様。どうか生まれ変わった世界を見てください。貴方の新しい旅を、新しい出会いと別れを、貴方に祝福を。祈っています。けれど忘れないでください。私はいつも貴方の事を見ています。貴方が望むなら、私はもう一度世界の為に貴方に力を貸しましょう。それまでは、どうか世界を見てください。貴方の今生に幸福あれ。
――――
目が覚めると丘にいた。アナウンス、女神様の言葉を聞いていたと思ったら突然光に包まれて気が付けばここにいた。見た目はよくある駆け出しの冒険者って感じの装備だ。体の感覚は『クリエイション』モード特有の異世界転生感。
マイと合流する前にちょっと体の感じを確認しておこう。呼吸を整え〝切り替える〟。より多くより濃く。体に巡る力を感じるように空気を体に巡らせる。この異世界転生したかのような感覚だからこそ出来る感覚の切り替え。現実世界ではないけれど〝現実の異世界〟のように体を動かす感覚。
よし、だいたい分かった。多分俺は〝俺〟として動ける。型はこの体ではないけれど、心に刻まれている。ゆっくりと体に力を入れて構える。仮想敵はそうだな………師匠だな。先手は向こうから。一撃、大振りからの切り下ろし。甲で受け流し一撃を流す。地面を蹴りながら後ろに下がり衝撃を巡らせる。問題ない。〝出来ている〟。
攻撃を交わしながら動き続け、少しずつ衝撃を貯めていく。一手一手着実に、されど焦らずに。そして軽く一撃。打ち込んで来いと言うように魅せられた隙に対して一撃を叩き込む。
「『天翔サジット』!」
轟と、空気が震撼する。月光真流の奥義が一つ、『天翔サジット』。俺が最も得意とする奥義であり最も自信をもって放てる奥義。仮想敵の師匠は簡単に受け止め流したけどここで打ち止めだ。師匠がいたらまだやるだろうけどあいにく今は体の確認だ。〝動ける〟と確認するのが目的だしこれ以上を求めるならそれこそ実戦だ。対人戦対獣戦までなんだっていいぞ。
さて、それは今度で今は目下町にある噴水まで行こうか。そこにマイがいるはずだ。探し方は………まぁ何とかなるさ。
――――
その時ちょうど町にいた人々は見た。空の雲が吹き飛ぶ様子を。風が空を食らうように鳴り、直後雲が割れた。人々はそれを見て何かの前触れだと感じるが、この時はまだ、誰もそれが一人の男の慣らしによる現象であると理解など出来るはずもなかった。
――――
ルーキストの町。始まりの町と名称されたこの町はどうやらプレイヤードが絶対に初めて訪れる町らしい。門番の兄さんが気前よく教えてくれた。プレイヤードはここから大陸中に動いていくらしい。なぜかは知らんが絶対にプレイヤードはここに訪れる事から始まりの町と呼ばれるようになったらしい。メタ的なことを言えばそういう設定なのだが、うまいこと世界のほうが合わせてきた。門番の兄さんに地図を貰ったので地図に沿って中央の噴水のある場所に向かった。
町中は小さな商店街に露店。他にもプレイヤードが行うバザーのように商品が並べられていた。値段はそこそこだが、所持金で買えなくもない金額だ。もしかして初心者救済をプレイヤー側が独自にしているのかもしれない。逆に初心者から巻き上げようとしてるかもしれないが。そんな中、バザーの中に一本の刀を見つけた。ちょうど俺が使っていた武器より少し小さい程度の大きさだ。
「お、あんちゃん初心者かい?」
「ん、あぁそうだよ。始めたばかりでね」
「そうかいそうかい。バザーに興味があるのはいいが気をつけな? ここで買える装備は正直少し頑張ればだれでも手に入る装備だ。しかも悪い奴は適正レベル外の装備を売りつけようとする奴までいる。俺が言う事じゃないが買うなら慎重に選びな」
「そういう貴方なら安心だな。もし悪徳販売者なら嘘でもそんなこと言わねぇよ。知らんけど」
「そういって貰えるのは売り手側としてはうれしいね。いいぜオマケして安く売ってやるさ。けど刀は売れねぇな」
「なんでだ?」
「此奴の適正レベルは10以上だ。そうじゃねぇと装備もできねぇのさ。仮に出来たとしても刀はちゃんと使えないとそこいらの剣より弱い。ただ振り回すだけじゃ使えたとは言わねぇのさ」
「じゃぁなんで売ってるんだ?」
「そりゃ需要があるからな。刀は結構入手難易度が高いんだ。低レベルの刀でも店先に並べとくだけで宣伝にもなるのさ。うちでは刀も手に入るよってね」
「へー」
親切丁寧だが儲けには貪欲ってことか。でもそうか。売ってもらえないのか。この金額なら所持金全部で買えるから買いたいんだけどなぁ………ふむ。
「なぁ兄さん。記念に買いたいって言ったら怒るかい?」
「かぁー! あんちゃん物好きだねぇ! いいよ売ってやるさ。けど所持金全部使っちまうぜ? 回復アイテムとか初期装備より少しいい装備も買えなくなるぜ?」
「いいよ。腕っぷしには自信あるからな」
それに回復アイテムとか無用の長物だし。装備も見た目だけ気に入ればそれでいいからな。剣聖っぽい格好出来れば機能は正直気にしてない。
「どうしても………かい?」
「どうしてもだな」
「………」
「………」
しばしの沈黙。視線で考え直す気はあるかと問われたから、覚悟の上だと視線を返す。さてどうだろうか。
「しゃーない! あんちゃんは俺の店に来てくれた客だ! しかも話も聞いたうえでの購入だから文句もなしだ! それでいいなら売ってやろう!」
「文句なんてないさ! じゃあ契約成立だな」
「おうよ!」
そういって店の兄さんはコンソールを操作する。やがて俺の目線に提示された取引を行うかの確認画面が出てきた。分かっていたがここは他プレイヤーに合わせて共通なんだな。『クリエイション』モードよろしく現物でのやり取りじゃないといけないなんてことにならなくてよかったぜ。さてと一応確認っと………ありゃ?
「兄さんこれ」
「あんちゃんにオマケだ! 初心者ならこの辺のアイテムさえあればしばらくは何とかなるだろうさ!」
そこには初心者セットと言わんばかりの回復アイテムと今の装備よりよさそうな装備一式。こんなに貰ってしまっていいのだろうか?
「いいのか?」
「おうよ。俺は鍛冶師でね。そいつは初心者用に作った装備だ。普通に売っても大したもんにならねぇからセットにしてやった。先輩プレイヤーからの贈り物ってことで受け取ってくれ!」
「そういう事ならありがたく。でも兄さんにメリットあるのかい?」
「おうよ。鍛冶師のスキルは作った装備が得た経験値の三割が入るのさ。装備を使ってくれる奴が多いほど俺のレベルが上がるって寸法よ! まぁジョブスキルが上がるのであって通常のレベルが上がるわけじゃぁねぇが」
なるほど。つまり装備してくれる奴が増えればそれだけでジョブレベルってやつを上げられるのか。多分職業クラスもあるんだろうな。レベルで開放か、それとも俺以外の奴には最初から解放されてるのか。
「そうだあんちゃん! 名前は?」
「そういえば名乗ってなかったな。『アール』だ。兄さんは?」
「俺ぁ『ゴザイ』だ。さっきも言ったが鍛冶師でな。初心者からそれなりの上級者の装備も作ってんだ。お! そうだ良かったらフレンド登録もしねぇかい?」
「あー………すまん。フレンド登録なんだけど……実は最初にしようって約束してるやつがいてな」
マイは約束破るとホント怖いからな。慣れたけど怒らせないで済むならそれに越したことはない。ちょっとヤンヤンしちゃうからな。
「あちゃーそうかい。じゃぁ仕方ねぇ。けどもし良かったらその約束の後でも一緒に来てくれよ。そいつにも装備を売れたら俺もうれしいんでな!」
「もちろん。そいつと一緒にまた来るよ。とりあえず契約成立っと」
中身を確認して契約のサインを書く。ボタン形式ではなくサインなのは『クリエイション』モードの影響かもしれないな。きっと『はい/いいえ』形式が本来だったりするかもしれないけど、今の俺に確かめる術はないし。
「確認したぜ。毎度あり!」
「早速装備………装備ってどうやるの?」
「おいおいあんちゃんそりゃないぜ! メニュー画面を開いて装備選択でつけれるぜ! って聞いてきたってことはあんちゃんチュートリアルすっ飛ばしたな?」
「あ………あははー、そうともいう」
何それ聞いてないんだけど。そういうのは飛ばさないでほしかったなぁ! 仕方ないけども!
どうしよう。今聞くべきかそれともマイに会ってから聞くべきか。迷う必要ないか。マイに聞こう。
「友達に詳しく聞くよ。待たせるのも悪いし」
「そうかい! ならそうしなよ! 後でまた顔出してくれよ! その時にでも良かったら一から全部教えてやるよ!」
「助かるよ。じゃぁまた後で」
ゴザイと別れその場を後にする。でもそうか。メニュー画面開き方わかんないとログアウトも出来ないか。いやログアウトないとか言わないよね流石に? いや、あり得るか。また寝ないといけないとかあっても不思議じゃない。むぅ、せめてアイテムで帰還系のアイテムの確保くらいはしておくべきか。けどメニュー画面かぁ………しばらく見てないし見れるなら見たかったなぁ………。
「はぁ………〝メニュー〟画面かぁ………うぉっ!!?」
突然現れた仮想コンソールに驚き声が出ちまったじゃないか。しかも声にびっくりしたのか周りの人めっちゃ見てるし。苦笑いしながらその場から去りつつ出てきた画面を確認する。
――――
・装備
・所持品
・図鑑
・ログアウト
――――
項目は4つだけどメニュー画面を見られたことに感動している俺がいる。素晴らしいよメニュー画面。しかも図鑑標準装備なんだ。助かる。ログアウトは出来るっぽいけどこれは後で試してみないと怖いからおいておこう。
早速所持品の確認っと。お、さっき貰った装備発見………したけど装備のボタンは出てこない。あるのは取り出すのみ。あぁはいはいわかります。そういう事ですね。持ち歩けるけど装備するのは手動でやってってね。
今更だけどこの辺の設定手動にしてるの逆にすごくない? 細かい設定しないとこういうの表現できないんだろ? やばいよね。エクスゼウスやっぱ変態じゃん。
それはさておき、せめて小手くらいは装備してしまおう。今のグローブだし耐久性も不安だ。小手の方がまだ武装にもなるし良いだろう。
取り出すボタンを選択すると画面から出るように小手が出てきた。なかなか重量があるな。重いとは言わないけどもう少し軽い方が好みだ。えぇっとこの辺からっと。
歩きつつ小手を装備する。大きさはぴったりだ。少し動けばこの重さもなれるだろう。
――――
鍛冶師ゴザイの小手を装備しました。
――――
お、装備出来たらこんな感じで頭に直接アナウンスが聞こえるのか。というか今の声最初の女神様の声じゃねぇか。見てるとは言ったけどもう見てるのか。
そうだ。どうせなら刀も装備しよう。加護あるし多分行ける。えぇっと……ほほいのほいっと。
出てきたのは一振りの刀。流石に町中で抜くわけにはいかないから刀身を見られるわけじゃないけど多分良い刀だな。背負う剣から刀に変えて剣はとりあえず画面に押し込めば多分………行けたな。
――――
刀:小鬼絶を装備しました。
――――
良い銘だな。小鬼絶か。良いセンスしてると思う。ってことは小鬼系のモンスター。ありきたりな所でゴブリンとか出るんだろうな。あいつら弱いけど狡賢いから確実に殺さないと足を掬われて死ぬんだよな。
――――
さて、いろいろあったが無事に噴水まで来た訳なのだが、マイはどこだ? 結構いるな。噴水が復活ポイントだって言ってたし死に戻りした場合の合流地点にしてたりするのか? そう思うくらいには人が多い。あ、何人か噴水から上がってきた。装備は俺に似て初期装備。ってなるとパーティー全滅して戻ってきたパターンだな。そんな感じの会話も聞こえるし。
さて、改めてマイを探そうか。どこだろう? 向こうからしたら多分初期装備できょろきょろしてるから見つけやすいとは思うんだけど。
声出すか。その方が早い気がする。
「すぅ………っ「いい加減にしてくれないかしら!! こっちは人待ってるって言ってるでしょうが!!!」………今の声」
声の先には数人の装備が整っているパーティーと明らかにキレている女性一名。いや、正確に言おう。今の声、真衣だ。毎日聞いてるから間違いない。
「頼みますマイさん! 銀狼討伐は今回逃せば次はいつになるかわからないんです! 貴女の力を貸してほしいんです!」
「しつこい!! 私は興味ないの! 勝手にやってろ!!」
「お願いします!! その友人の方も一緒でもいいですから!!」
「し・つ・こ・い・だ・ま・れ!」
「こっちも覚悟決めてきてるんです!」
「この場で殺すぞお前ら!!」
「なら復活して何度でも頼みます!!」
「………っっ!!!!」
ブチギレとるやん。あの連中勇気あるなぁ。真衣じゃなくてもあそこまでキレてたら引くだろう普通。というか聞こえた銀狼って………いやいやまさか………ないよね?
「お前らいい加減に………あっ!!」
目が合った。バッチリあった。多分それだけで真衣は俺だと理解したんだろう。表情が急に明るくなったもん。おっかしいな。ちょっと現実と変えてるはずなのに一発で見破られた。
「アールだよね! そうだよね?」
「お前が一発で見破ったことにびっくりだよ」
真衣もとい『マイ』は銀髪碧眼の美少女だった。ショートヘアなの完全に好みですありがとうございます。
「もう遅いよ! おかげであの五月蠅いのに絡まれたんだから」
さっきまでの怒りはどこへやら、一発で機嫌が直ってしまった。お前は飼い犬か何かかな? 気のせいか尻尾が見える気がする。
「マイ」
「なに?」
「お手」
「ワン!」
「止めなさい。やったの俺だけど」
「やだ♪」
くっかわいい。写真撮りたい。俺の彼女可愛すぎない? たまにヤンヤンするけど。周りに当たらないし被害あるの俺くらいな上に対応できるから事実上無害だから。
「マイさん!!」
「あ゛ぁ゛!?」
君ら諦め悪いね。こういうのもあれだけどしつこい奴は嫌われるよ?
「その人が待ち人………ですか?」
「それが何? あんた達に関係あるの?」
「………なぁあんた。悪いけど今日は出直してくれないか」
「h「はぁ!!? ふざけるな!! お前らにアールの予定変える資格あると思ってるのかゴミが!!」マイ口悪すぎ、BANされるから抑えてマジで」
オンラインゲームなんだからBANされる可能性はある。気を付けるのに越したことはないだろう。特にマイは装備もいい感じだしBANされたら勿体ない。
「だってそうだろう! あの銀狼が近くに出たんだ! もういくつかのクランも討伐に出てるし上位者だって動いてる! 貴女だって銀狼に興味ないわけじゃないですか!」
「それがどうしたのよ! 関係ないの! 今日の私はそういう気分じゃない!」
「この機を逃したら次の「ちょっといいかい?」………なんだよ。こっちは大切な……っ!!?」
ちょっと強引すぎるんだよな。気持ちはわからんでもないけど人の予定変えるほどの強引さはちょっと見過ごせない。人の気持ちを考えられない奴はまともな人間になれないんだぜ?
「気持ちはわかる。けどやる気のないやつ連れていっても結果なんて知れてる。今日はあんたらだけで行けばいいんじゃないか?」
「「「っっ………!!??!??!」」」
「しつこいと二度と組んでくれなくなるぜ?」
後退ったな。威圧成功か。あと一言で帰ってくれるだろうか。帰らないならちょっとお話しなきゃだから面倒だ。
「ひ…………ひぃぃぃ!!!」
「あっ………待ってよ!!」
「…………!!!」
逃げた。まぁ結果オーライ。呼吸一つでこういうこと出来るんだから月光真流マジで覚え得だよな。現実じゃあんまり使うことないけど。使えるかは知らん。試したことないし。
「アール………」
「ん? どした?」
「うん………ちょっとだけね? 怖かった。さっきのアール怖かったよ。本当に今日始めたばかり? このゲーム」
「嘘ついてどうする。何ならさっき道中バザーで買い物したけどそれ以外は何もしてない初心者だよ」
「………上位者………ううん最上級クラスの怪物の威圧感だったよ。流石『クリエイション』モード制覇者だね」
最後の一言は俺にしか聞こえない声で言ってくれた。あまり広めるつもりは無かったから助かった。
「それより案内してくれるんだろ? あとフレンド登録。やっちまおうか」
「うん。そうだね。それに今のでもう分からず屋がちょっかいかけてくることはないし」
「そうか?」
「アールは武器を持たないままドラゴンの前に行かないでしょ?」
「………」
いや実際、種族によっては拳一つあれば場合によるけど多分突っ込むがここは言わぬが吉と見た。
「そういう事だよ。少なくともここでの格付けは済んだってこと。まぁ代わりに上位陣の勧誘はあるかもだけど。まぁいいか。じゃあいこう!」
「おう!」
――――
プラクロ掲示板
≪【速報】やべぇ新人現る≫
1:プレイヤード
ルーキストで見かけた新人の威圧が新人のそれじゃねぇ。
2:プレイヤード
Kwsk
3:プレイヤード
超越者に銀狼討伐の勧誘してた連中いるじゃん? 今日もしつこい訳よ。しかもルーキストだから止めれる奴少ないんよ。その新人がメッチャキレてそいつらビビって逃げてったのよ。ヤバくない?
4:プレイヤード
超越者ったら………マイか。ってことはいつものレーヴァテンの連中の勧誘か。あいつらも懲りないねぇ。
5:プレイヤード
あいつらなんでBANされないの?
6:プレイヤード
被害届マイが出してないから。出せば一発なのに。
7:プレイヤード
その後を考えたんじゃね? あの人口悪いから敵作りたくないんじゃん?
8:プレイヤード
にしてもレーヴァテンしつこすぎ。マイさん引き入れようったってあの人頷くわけないじゃん。ソロ専でしょあの人。
9:プレイヤード
新人の話からそれててワロタ。なんで誰も触れないの?
10:プレイヤード
超越者の連れやぞ。そうされても驚かん。というか納得してる。
11:プレイヤード
マイさんと一回イベントで組んだけどあの人動き人間やめてるし、ご友人が怪物でも驚かない。マイさんのご友人じゃなかったらビビってた。
12:プレイヤード
ワイ現地にいた民。あれは銀狼クラスの威圧だったね。対峙したワイが言うんだから間違いない。ちょっと怖くて漏れそうだった。
13:プレイヤード
≫≫12ハハっ! 面白い冗談だ! ………冗談だよね? 銀狼クラスっておま………ちょいステ張ってみ。
14:12プレイヤード≫≫昼行灯
昼行灯レベル:119
クラン:仁義組
これでいい?
15:プレイヤード
嘘やろお前!!? いたのかよ!!?
16:プレイヤード
まっおま………それ………しんじん……? 新人類の間違いじゃない?
17:アルトりす
ちょっと理解が追い付かない。ガチじゃん昼行灯さんならガチじゃん…………。
18:プレイヤード
昼行灯さんが止めないのは面倒ごと嫌いだからなのわかるけど、昼行灯さんビビるって………人の皮被った銀狼じゃんそんなん。
19:カレイさん
そっかぁ………ついに超越者が増えるのか(メソラシ)。
20:アーノレ
覗いてみたらとんでもない話してて草。
21:シロマサ
新人なら誘いたかったなぁ………マイさんの友人かぁ………無理だな。
22:プレイヤード
あの人の友人だから間違いなく組むでしょ? んてことは必然的にマイさん来るやん。
23:プレイヤード
あの人出力抑えると勿体ないし、かといって合わせに行くとこっち側の戦力落ちるし。
24:プレイヤード
あの人だっけ? 『クリエイション』モードやってる説あった人。
25:プレイヤード
あの動きは常人じゃないからその節濃厚………だけど時期合わないんじゃない? あのスレと。
26:プレイヤード
詳細はともかく有望なのは理解した。誘えればなぁ。
27:プレイヤード
無理やろ。少なくともブチギレたマイさんの機嫌直ってご友人が承諾せんと。
28:ああああ
マイさん伝説ってあれだよね? ソロ攻略中に邪魔されて1対12のフルパーティー相手にボッコボコのギッタンギッタンにしたっていうやつ。
29:ライーダ
正確に言えばボス諸共総レベル500の相手全員撃破したが正しいな。
30:プレイヤード
ヒェ………怪物じゃん。
31:プレイヤード
怪物クラスに強いソロだから超越者って言われてるんやで。
――――
マイに町中を案内されながら、ゲームの基本情報を色々と教えてもらった。俺の現在の情報もある程度照らし合わせて考えるとだ。
1、ステータス画面が開けないのでステータスは飾り。
2、メニュー画面は≪メニュー≫と口に出せば開く。閉じるときも同じ。
3、図鑑は電子図鑑的な感じでいつでも開ける。
4、装備の仕方は実際に装備するしかない。
5、食い物が美味い。
6、アイテムの使用はメニュー画面開いて使うので手間。
これくらいだろうか。味覚の反映もしっかりされていたので美味い味付けに出会えれば美味いのが食える。強い身体は良い食生活からとも言うし意識しながら食事を取るようにしようか。
「そういえばその装備買ったって言ったよね? どこ?」
「ん、そうだった。実は後で顔出してほしいってバザーの人にお誘い受けててな? 良かったら一緒に行かないか?」
「いいよ。初心者装備って考えなら悪くない装備だしお礼くらいはしてあげる」
「穏便にね?」
「大丈夫♪ もう機嫌直ったもん。バザーなら表通りだね。いこっか」
そういうなら信じましょう。嘘ついたら泣くからな? 手を引かれながら目的のゴザイの兄さんのいる場所まで向かっていく。周囲の人たちが一瞬驚いてこっちを見てくるけどやっぱアレか? さっきの事もう噂になってんのかね。
「お、マイストップ、居たいた。ゴザイの兄さん!」
「おうあんちゃんさっきぶりだ…………うぉぉおお!!? 超越者殿じゃねぇか!!?」
「ふーん。アンタだったんだ。アールに装備売ってあげたの。それならこの精度も納得かも」
「超越者?」
「そ、私の二つ名みたいなものなの。カッコいいでしょ?」
無茶苦茶かっこいいと思う。厨二? 言ってろ。男はいつまでも心に少年を宿しているんだよ。ゲームなんだから曝け出してなんぼだろ。
というかそれはそうとして、マイとゴザイの兄さんは顔見知りだったんだな。
「オイオイマジか。超越者殿の友人だったのかあんちゃん」
「まぁそんな感じ」
「正確には彼氏だけどね」
「ガッハッハ! そりゃ失礼した! 超越者殿も乙女だったわけだ!」
「いつも言ってるけどその呼び方言いにくくないの?」
「性分でな! しっかし世の中意外と狭いもんだなぁ! こんな出会いもあったもんだ!」
「まぁ確かに。ゴザイの兄さん。フレンド登録どうだい?」
「おっとそっちが本題だったな! ちょい待ってな! そうだ超越者殿! もし良かったらこのゴザイとのフレンド登録してもらえねぇかい? うちの店に箔が着くってもんでね!」
「自分に忠実なのはアンタの良い所よね。いいよ。最初の登録名にアール出来たし」
もしかしてマイ、君俺を最初のフレンドにするためだけに今まで登録してなかったとか言いません?
「??? そうだよ?」
「まだ何も言ってない」
「なんとなくわかるよ。アールだもん」
「??? よくわかんねぇが仲が良いってことはわかったぜお二人さん! よっしゃこれで完了だ!」
フレンド名にゴザイの名前が追加された。≪鍛冶師ゴザイ≫か。二つ名あるのカッコいいな。俺も願わくばかっこいい感じの二つ名ほしいが、流石に始めたばかりだし仕方ない。
「ゴザイ。装備を見せて貰える? タイミングも良いし一新してみようと思ってるの。良い物があればここで買い揃えてあげる」
「マジでか! 勿論だ! ほいよ! うちのカタログだ!」
表示されたコンソールにはいろいろと商品の名前と性能が事細かに書かれていた。ゴザイの兄さん結構仕事には手を抜かないタイプの人と見た。
「ん、これいいわね。見た目も好み。スキルスロットは幾つ?」
「28個あるよ! ついでに炎王龍の加護と大地の加護も着いてる俺の自慢の一品よ!」
「………悪くないわ。オーダーメイドで泉の加護つけてくれない? あと聖泉の加護もつけてほしいのだけど」
「それだと炎王龍の加護がきれるのとスロットが22になるがいいかい?」
「構わないわ。大地の加護が残るならそっちは無くていい。スロットも18あれば今より便利だし問題無しよ」
「あいよ! ってことは超越者殿はサポート特化のビルドかい?」
「そ、さっき軽くアールとレベリングしてきたけどサポートに回った方が楽しくできそうだったのよね」
「なるほど………だからもう刀装備出来てたのかい」
ここはマイと打ち合わせた。加護のおかげで条件無視で装備できるが、あまり公にしたくなかったので、マイにパワーレベリングしてもらった体にしてもらったんだ。この方が自然だからな。
「あんちゃん。お節介だけどあんまりパワーレベリングはお勧めしないぜ?」
「ん? やっぱりなんか弊害ある感じか?」
「まぁ………な。こっちじゃスキルとか戦技頼りに戦うだけじゃ上には上がれねぇし、見てくれだけ強い奴が跋扈するのは鍛冶師としては見たくねぇんだよ」
それは理解できる気がする。見た目だけ強くて中身がクソ雑魚の輩ほどウザい奴はいない。強い訳じゃないのに強い様に見せて搾取してく屑だ。偏見かもしれないけどちゃんとした相手に挑むなら猶更だ。戦い方と装備、対策も含めてちゃんとした上で相手に挑めるならそれに越したことはない。ハクスラで無双してTUEEEしたいならそういうゲームで遊ぶべきだ。全否定するわけじゃないけど、やっぱりその方が見てる方も遊ぶ方も良いに決まってる。
「大丈夫だよ。アールは強かった。贔屓無しでの感想だから信じていいよ」
めっちゃ贔屓してますよねマイさん。まだ戦ってすらいないんやけど?
「超越者殿がそういうなら安心だ。悪かったなあんちゃん」
「気にしないでくれ。気持ちはわかるから」
なんか良い感じで話を纏められたけど、すげぇな。ほぼ嘘しかなかった気がする。いや俺が弱いとは認めないし強い自覚はあるけども。
「そうだ。ゴザイ。アールの装備を整えたいの。お金は私が出すから頼める?」
「ちょ!?」
「任せな! 俺も鍛冶師だ。しかもあんちゃんの事は気に入ってる! バッチリいい装備にしてやるさ! んであんちゃん! 希望は!?」
「え………えぇっと………」
マイ、急すぎて追いつけないです。現在の装備だってまだ使ってないんですよ? レベル1の相手の装備整えるってお前。いや嬉しいけどね?
「………軽い装備だと嬉しい。防御力とか性能はそこまで求めないから軽さが欲しい」
「ってなるとそうだな………軽剛石の装備とか良さそうだ。軽くて動きやすい上にそれなりに防御力もある! 新人が手を出すにはちぃと金額と要求素材が高いが」
「そこは私が全部工面する。あと加護とスキルスロットだけど、加護の方を優先させてあげて」
「あいよ! なら風の加護とそうだな………あんちゃんジョブは?」
ジョブ? いや無いんです。
「剣士よ。魔法は初心者。けどそうね。聖泉の加護はつけてほしいの。あって困らない加護だし」
「任せな。ってなるとスキルスロットは完全に無くなるがいいかい?」
「構わないわ。下手にある方がアールの強さを阻害するから無い方が都合も良いし」
「そこまで言うのかい。成程これは将来が楽しみな御仁だね! あんちゃん!!」
「お………おう!」
正直話の半分もわかってない。加護? スキルスロット? いやなんとなくニュアンスでわかるけど、半分もわからん。その他マイが必要な素材を渡したり細かなオーダーを伝えたりで話が進んでいく。これ他所から見たらヒモだよね俺。ちょっと泣きそう。
「他にオーダーあるかい?」
「とりあえずこんな感じで良いわ。いくら?」
「46万Gだな。オマケしても44万Gだね」
「未来投資でプラス30万G出すわ。何かあったらすぐに調整してくれるように便宜を図ってくれるならもう5万出すけど」
「気前が良いねぇ超越者殿! 了解だ! 30万Gで便宜も図るぜ! だからその5万はまた今度うちで買い物してくれるように取っておいてくれ!」
「ん、分かった。アール他に何か欲しいものある? 記念だしなんでも買ってあげる」
「いやもう十分おなか一杯です」
なんで総額80万近い金額ポンと出すんですの? 私何も理解が出来ませんわ。いや半分以上は自分の装備だからって理由もあるとは思うけどさ。自分の装備の金額聞くの怖い。
「そう? 遠慮しなくていいのに、それならゴザイ、アールに刀を用意してあげて」
「マイサン!!?」
「おぉあんちゃん気に入ったのかい。任せな! 良い刀打ってやるよ!」
「兄さん!?」
「とりあえず品質は5万Gのでいいわ。素材は………これ使って」
「おぉガンドロックフェザーの羽かい。いいねぇこれなら良い刀が出来そうだ! 軽剛石の余裕もあるし任せな! 軽くて良く切れる刀バッチリ用意して見せるぜ!」
もう何も言えない………泣く。
感想は返したり返さなかったりします。気分とか気持ちとかそういうのによります。
それでも良かったら感想とか評価とかしてくれると嬉しいです。