終わりと始まり
どうもはじめましての方、お久しぶりの方。リメイク版プラネットクロニクル始まります。
戦いは佳境だろう。仲間たちはみんなすでに力を使い果たした。死んではいない。けどこれ以上戦えば命の保証はない。俺だってそうだ。これ以上無理はできない。でも、今だけは無茶も無謀も貫く場面だった。
『シネェェェ!!!!』
敵の、邪龍の一撃が迫ってくる。奴もすでにボロボロだ。だからこそこの一撃に全てを賭けてきたんだろう。覇気にも似た気迫と共に放たれた叩きつけ。この一撃を食らえば俺の体は一撃で砕け、文字通り死ぬだろう。だがそれがどうした。それを理由に逃げるわけにはいかない。
「おおおおおお!!!」
構えた刀に力を乗せて、全力でその一撃を乗せて流す。刃からは火花が舞い散り、巨体から放たれる剛撃は通常の人であれば防ぐことすら叶わない。俺だってもうギリギリだ。そんな中でこんな一撃を真正面から受け流そうとしてるんだ。四肢が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。一歩間違えばこの体は塵芥の如く砕け散る。けど、それでもここだけは引くわけにはいかない。
「アール………!!」
「ぐぅ………ガァァアア!!!!」
だって今俺の後ろには、守りたい人がいる。守りたい人がいるのに、逃げるのは男じゃねぇ。ここで逃げたら俺は俺じゃなくなるんだ。
『今度こそ死に絶えよ只人!!』
邪龍の力が増す。奴の怨念がどれほどのモノか、俺には理解できない。けれど。
「ッッラァアアアアア!!!」
『ガッ!!? ば………馬鹿なァァァァ!!?』
邪龍の一撃を突き返したことで生まれた一瞬の隙。すでに体はボロボロで奥義を放とうものなら先に肉体が限界を迎えるはずだ。だから奥義での一撃は良くて一撃。けど、一撃叩き込めれば勝てる。根拠はない。でも、負ける未来は見えない。勝つ。
「ありったけだぁぁ!!! 『月波』!!!」
俺の始まり。最初に学び習得し、極めた基本。月光真流の全てとも言える基本にして原点の技。衝撃を我が物とし、身体に流す戦技。
全力で跳んだ先にある邪龍の額。そこにある結晶。邪龍唯一の弱点。ようやく、届きそうだ。
「『天翔サジット』!! とどけぇぇぇ!!!」
空間をかける一矢となり、額を貫く吶喊。この一撃は確かに届いた。
『 』
響き渡る邪龍の悲鳴。それは痛みか、はたまた恐怖か。けれど確かに、邪龍はその命を脅かされていると理解していた。逃がさない。確実にここでこいつは倒す。
「おおおおおおおおおお!!!」
体に巡る全てを剣先へ、持てる全てをこの一撃に。例えここで果てたとしても、絶対に此奴だけはここで倒す。数年にも渡るこの因縁は、ここで必ず絶つ。
―――ピキリ。
何かが砕ける音がした。
―――パキリ。
何かがひび割れる音がした。
―――ピキピキ。
亀裂の走る音がした。
『イヤダァァァ!! ワレハマダ!!! ワレハマダァァァ!!!!』
それが邪龍の命が砕ける音であると理解できた時、それが俺の勝利を告げる音であると理解できた。
「大人しく終わっとけ怨念クソ野郎!!」
ダメ押しの一撃が、結晶を砕く。奴の命の形。その怨念が砕ける。
『AaaaaAAAAあああああAAAAAAあAaaaaaaaaaアアアアア………………!!!!!』
怨念と共にその巨体が朽ちていく。周囲を飲み込んでいた怨念の闇が晴れていく。闇の合間から太陽の光が少しずつ大地に戻ってきた。
「勝った………」
地面に落ちていく自分の身体。正直もう指の一つも動かせない。この高さから受け身取れずに落ちたら遉に死ぬな。分かってるがそれでも体が動かない。けど、仕方ないかと納得してしまう自分がいた。
出来れば生き残って勝ちたかったが、相討ちで勝ったんだからそれでも良いだろう。痛いだろうな。せめて骨の折れる感覚を感じずに即死だといいなぁ。
「…………っ!!」
「………ほぇ………生きてる?」
覚悟を決めて目を閉じたのに、やってきたのは柔らかい感覚。そして背中から感じた地面への衝撃。誰かが俺の命を救ってくれた。
「この………馬鹿!! 死なせるわけないじゃん!! 貴方が死ぬなんて私は許さない!! 世界中の人が許しても私は絶対に許さないんだから!!!」
「ユーリ………?」
飛び込んできてくれたのは彼女だったんだろう。ボロボロの身体を動かして、俺の命をつないでくれた。
「貴方に全部奪われたのよ………忠義を誓ったあの人も………もうこの世界に未練なんかなかったのに、貴方のせいで………アールのせいで未来が欲しくなっちゃったんだよ………」
この旅を始めた最初の仲間、大切な幼馴染で、ライバルだった友人の忠臣となった彼女。そして彼女にとって俺は敵であり、恨むべき相手。
「やっと世界が綺麗なんだって知ったのに………やっとあの方以外に見つけた生きる意味を見つけたのに………ふざけるな………全部全部アールのせいだ。だから………勝手に死ぬな馬鹿………」
覆いかぶさるように、彼女の顔が俺の目の前にあった。その瞳から落ちる涙の雨。
「俺………敵だぜ?」
「敵よ………敵なんだから………私以外の理由で死ぬな………」
「なんだよそれ」
「それと………私以外の女と縁切れ………縁切って………私と一緒になれ馬鹿………責任……とってよ」
「おいやめろ。その言い方は語弊があるだろうが」
「うっさい………剣馬鹿とか妖精とかいるんだからこれくらいしないと私に勝ち目無いじゃん………」
そういって彼女はそっと額と額を当てて泣きながら笑っていた。
「惚れられる要素あったか?」
「黙れ………」
「ひどくね? 俺とお前は王の仇と臣下だよね? あれじゃあ酷くていいのか?」
「次喋ったら唇塞ぐからな………」
「………」
攻略チャート進んだつもりなかったんだけどなぁ。ヒロイン枠だけどそういう枠じゃないでしょ貴女。戦友でしょ良くて、と思ってたんだが。
「ん……」
「むぐっ!?」
キスの味は鉄の味がした。お互いボロボロだし口の中くらい切ってるだろう。当然と言えば当然の味だ。けど舌絡めてくる必要なくない?
「………ん………言っておくけど、貴方は敵。だから私以外の奴と幸せな未来を描いてる事を想像するだけで殺したくなる………だから私のモノにしていつでも殺せるようにしときたいの」
「こわ………サイコパスじゃん」
「そうよ? 知らなかったの? 私目的の為なら誰だって殺すもの」
知ってるとも。だから向こうの自分は彼女をそばに置いていたんだから。それが例え運命で決められていたとしても、彼女を傍に置いておきたかったんだから。
「あぁ、でもそうね………私を受け入れるなら多少の火遊びは許してあげるわ」
「えぇ………そもそも最初の前提g」
キスの味は以下略。
「二度目ね。これは責任取らないと屑よ」
「むしろ屑に奪われたんだが?」
「三度目も必要かしら?」
「止めぬか貴様ら!! 愛弟子もユーリも盛るな!!」
いつの間にか倒れていた仲間たちが近くまで来ていた。みんなボロボロだけど生きてた。それもそうだけど盛ってません。
「チッ………老精が」
「おい小娘、この場で貴様を斬り捨ててやろうか? 魔剣聖の家臣を切ったという大義名分なら用意できるのだぞ? 老精と呼んだこと撤回するならば許すがどうする?」
「失礼しました四代目。少々虫の居所が悪かったようでつい本音が出ました。謝罪します」
「よし愛弟子から離れよ小娘。斬る」
「ちょっ師匠!? ユーリもやめてくれマジで!」
「斬るならこのままどうぞ。此奴に消えない傷を付けられるなら吝かではないので」
「………チィッ!!」
『大団円に出来んのか貴様は』
『マッタクダ。カッタノニチナマグサイ』
「犬畜生と獣畜生が何か言いましたか?」
『よし殺そう。妖精手伝うぞ』
『ザンネンダ。ナカマダトオモッテイタノハコレマデダ』
「まって!! マジで待って!! 世界を救った感じで終わろうや!! なんでここで仲間同士の殺し合い始まる雰囲気醸し出してんだよ!!? いや原因はユーリだけど!!」
「「『『………冗談だ』』」」
「嘘だ!!絶対マジだっt「ん」」
キスの以下略。というか人前で唇奪うな! 抵抗できないのいいことに!
『おい猿、我はもう何も言えん。貴様ツッコミくらい出来るだろう』
『メンドウダ。コノオンナハモトヨリクウキナゾヨマン』
「だから盛るなら別の場所で盛れ小娘」
「………ぷはぁ、ではそうします」
「俺の意志ガン無視かよ。師匠助けて」
「はぁ………もう余にもどうにも出来ん。愛弟子、お前が上手く手綱を取るしかないな」
嘘だろ。マジで? 味方いないの? いやちょっと?
「そういう事です。私を暴走させたくなければ責任取りなさい。いいですね?」
「え、勘弁してくれません?」
一応俺王族の人に婚約者候補扱いされてるからそうなると色々問題が起こるんです。いや婚約者になるつもりは無いからそれはそれで困ってるんだけど。
「それなら堕ちて堕剣聖になったと言ってどこか誰もいない場所にでも行きましょうか」
「………どうしよう。責任云々は置いといて新しい旅するのはありだな」
邪神もとい邪龍を倒したんだ。この事実を知ってるのは俺たちしか居ないんだから言い回らなければ誰も知ることはない。王都に戻ったらあの王女様と結婚させられるのは確定だしそれ考えたら旅を続けるのはいいかもしれない。
「お、なかなか楽しそうであるな。余も着いていくとしよう」
『退屈はしなさそうだ。我も着いていくとしよう』
『オレハモトヨリハミダシモノダ。アルジハオマエダカラツイテイクゾ』
仲間たちも着いてきてくれるのか。ならきっとまた楽しい旅になりそうだ。
「その前に、疲れたからひと眠りするわ」
「………えぇ、おやすみなさい。次にあなたが起きた時、また新しい旅を始めましょう。それまでは、私たちが貴方の事を守りますから」
「きっと愛弟子は此度の事を誰にも話さぬだろう。だから余が言おう。本当に、よくやった。お主は誰よりも、世界中の誰よりも英雄であった」
『我の主人なのだ。この程度で満足するなよ。次は美味い物がある地で旅をするのだ』
『タトエセカイガカワッテモ、オレハアルジノミカタダカラナ』
やってきた睡魔に身を任せ、そっと目を閉じた。耳に聞こえるのはユーリの子守歌。優しく、どこか悲しい歌を聴きながら。俺は意識を落としていく。
剣聖物語 アフターストーリー 『世界を救ったその後で』 完結
制作:エクスゼウス
・シナリオクリア状況 100%
・サブシナリオクリア状況 100%
・味方ユニット加入率 100%
・マップ制覇 100%
・モンスター図鑑 100%
・エンディング『新しい世界』達成
・真エンディング『まだ見ぬ世界へ』達成
END
―――
目覚めると部屋だった。向こうで睡魔に飲まれるように寝るとエンディングを迎えていた。やっぱりあの邪龍ラスボスだったか。けど第三形態まであるのはマジで鬼だと思った。しかも額の結晶にしかダメージ判定ないし、攻撃は全部一撃必殺だし………これはいつも通りか。
ともかくひたすらに辛い戦いだった。けど勝ったから良し。真エンディング条件はおそらく他の収集要素100%達成だったんだろう。
一周目ではほとんどクリア出来てなかったから通常エンディングだったんだろう。流石に第一形態だけのラスボスなのはありえなかったしな。だからと言って第三形態まであるのは聞いてないかな。あの時本当に死ぬかと思ったし。なんであれだけ攻撃叩き込んだのに生きてんだよ。死ねよ。
とはいっても、何とか勝てたし、相討ちで死ぬかと思ったらユーリが助けてくれたし良かった。キスされたけどゲームだしセーフ。リアルじゃないからこれは浮気にならない。ならないよね?
そっと身体を椅子から起こし、時刻を見る。午後十時。今から寝れば明日のバイトには余裕で間に合うだろう。携帯の通知は………彼女から一件。内容は。
――――
家に行ったんだけどゲームしてたからご飯だけ作って帰るよ。あんまり遅くまでやってると体壊すから11時にアラーム設定しとくね。山場だったらごめん。
――――
お母さんかな? けど心配してくれての事だからありがたい。確認すると外部から時刻アラームが鳴る設定にされていた。他にはキッチンにカレーの入った鍋があった。ご飯も炊いてくれたのかホカホカのが炊飯器に入っていた。
強いて言うなら一応誰か来たら通知来るように設定してたのにならなかったのは………いや、彼女、『宮路真衣』なら上手いことやるからならなくても不思議じゃねぇか。とりあえず考えをまとめつつ、作ってくれたカレーを食べて明日に備えて寝るとしますか。
――――
「暇ですね」
「暇だねぇ」
バイト先の喫茶店。平日の午後二時過ぎ。店長と二人で掃除をしながら過ごしていた。ここの店長は俺が通っている学校のOBで、『この辺でお店やれば稼げる』と謎の確信をもって店を開いた男。ぼろ儲けまでいかなかったが、それなりに入りは良く、そこそこ儲けている。
「そういえば真央くん。『剣聖』クリアしたかい?」
それとそこそこのゲーマーでもある。東西南北興味がでたゲームはジャンル問わずなんでもやる。ついでにハマればコンプリートも目指すやり込みゲーマーだ。俺がここでバイトするきっかけも『剣聖物語』のクリア援助会のオフ会でこのお店を使ったことが由来する。というか7板のスレ主だったからな店長。
クリア援助会と言っても協力プレイがあるわけではない。それぞれプレイ中の情報を交換して目標クリアを目指していた板だ。そこから盛り上がって十数人程度の集まりが出来てオフ会まで開いたのである。言い出しっぺは店長。
「クリアしましたよ」
「だよねー………え? マジ?」
「マジっす。なんなら真エンディング見てきました」
店長は俺が『クリエイション』モードで現在進行形でプレイ中だったのを知る数少ない人だ。流石に全部ソロでクリアするのは無理があったので所々相談して進めていた。とはいってもやってるのは俺だけなので養ったゲーム脳で攻略ポイントとか考察とか進めてもらってた。
あと板にも投げてたが、オフ参加民以外は半信半疑だったけどな。
「自慢していい?」
「目立ちたくないのでオフレコで」
「ちぇぇーケチ。『クリエイション』クリアとか絶対ニュースになるのに。そうしたらうちの店の宣伝に使えるじゃん」
「目的そっちじゃないですか」
「そうだけど、でも実際『クリエイション』クリアは偉業でしょ。しかもアフターストーリーとかもう都市伝説じゃん。生きる伝説がここにいるけど」
「いえーい」
「今度公式からストーリー体感できるモードでいいから配信してくれないかなぁ」
「あ、さっきエクスゼウスから連絡来てて俺視点ですけどプレイ動画貰えるそうなのでそれでよかったら見ます? 拡散厳禁ですけど」
朝起きて通知を見たら公式から連絡来てたんだよな。
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覇道真央 様
この度は弊社の『剣聖物語』を遊んでいただき誠にありがとうございます。全難易度全ルートクリア本当におめでとうございます。これら偉業を表彰し後日表彰状を郵送させていただきます。またプレイ中の貴方様の視点での動画をこちらで編集し一つの物語として提供させていただきます。
またアフターストーリークリア者の特権として弊社で展開しているオンラインVRMMORPG『プラネットクロニクル』を贈呈させていただきます。こちらは通常版とは違い『覇道真央』様の為に作られたスペシャルエディションの為中古での販売は禁止とさせていただきます。不要となった場合はデータの廃棄、もしくは弊社へ連絡いただければこちらで処分いたしますのでご連絡いただければと思います。
最後になりますが、『クリエイション』モードのクリア及び制覇、弊社社員一同心から祝福しております。我々に夢と希望、そして感動をいただきまして本当にありがとうございます。
エクスゼウス社員一同
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『クリエイション』モードとは、まるで異世界転生したかのようなゲームモードである。通常ゲームなのでアシスト機能やらモーションで自動発動するスキルやらがあるのだが、このモードでは一切そういうアシスト機能はない。
更に五感がすべてそのまま感じるのだ。当然痛覚もある。痛覚があるという事はつまり死ぬときは死ぬほど痛いのだ。語彙力がないから悪いがこういうしかない。実感するとやばいわ死ぬの。痛いとか苦しいとかそういうのじゃない。なんでこんなモード採用したのか理解できなかったからね。
あとセーブ機能がない。そう。セーブ機能がないのだ。途中セーブオートセーブは当然ないし、死ねば最初から。引き継ぎ? そんなもんない。どこまで進めようが死ねばそこまで。これが最もこのモードの難易度を引き上げていた要因だろう。表にも裏にも一章クリアの報告すら上がってこなかったからね。
じゃぁ中断方法はどうするかって? 寝るんだよ。どこでも寝ればゲームから現実に戻ってくることが出来る。ただし寝る場合はその状態をそのまま維持される。つまり寝る場所が戦闘中なら場合によっては死ぬ。つまり最初からだ。ある程度味方が守ってくれるが野外で寝るときは命懸けだ。夜にモンスターに寝てるときに襲われて起動したら最初からになってたのはトラウマ量産だったので一部プレイヤーが発狂してた。
まぁ『クリエイション』モード選択時に安全性の確保の為と万が一に備えた通報の為に同意書と連絡先の記入があるので万が一はまず無い。その辺はエクスゼウスさん神対応だと思った。難易度は阿修羅だったけど。
そんな阿修羅難易度だったから戦技とかスキル一つ習得の為にも死ぬほどの努力と根性を要求されたからな。作業ゲーとも違うしアクションゲーと違う努力と練度を自ら高めて世界に順応しないと敵一匹倒すのだって死に物狂いだ。おかげで現実世界でも少し体鍛えたからね。おかげで細マッチョ以上ゴリマッチョ以下の体育会系男子の体だよ。ゲームの為に筋トレとかジム通うとは思わなかった。あと実家が道場開いてるから実家に帰って剣道とかめっちゃやったよね。素振りがメインだったけど。
そんな訳で、ゲームクリアの為に色々やって来た訳だからクリアした時の感動は凄まじかったわけよ。正直今もあんまり実感なかったりするけど。
「マジで!? みるみる!! うひゃぁ! 絶対激熱じゃん! 当然RPしてたよね!?」
「もちです。俺剣聖なので」
「くぅ! 最高! あ、見せてもらえるならバイト代に少し色付けとくね。観覧料で」
「しつこいですけど拡散NGですからね? あとコピーもです」
「大丈夫だよ、エクスゼウスに喧嘩売るつもりは無いよ。見せて貰えるだけでもう神さ。楽しみだぁ………あ、いらっしゃいませー」
お客さんだ………ってありゃ。
「店長こんにちは。真央も昨日ぶり~」
「真衣ちゃんいらっしゃい。いつものでいい?」
「あ、それならケーキも一つおすすめお願いします。ゆっくりしてくつもりなので」
「ならちょっといいもの作っちゃおうかな。真央くん彼女のエスコート任せたよ」
やって来たのは自慢の彼女『宮路真衣』。幼馴染兼ゲーム仲間だ。実家の道場の隣に住んでいて生まれたのも一日違い。家族ぐるみで付き合いもあるとかどこの美少女ゲー? と思うだろうが事実だ。色々あって付き合い始めて俺につられるようにゲームの沼に落ちた彼女だ。あとそこそこ良い令嬢。電気系に強くて自作のパソコンとか一から作る程度には凄い人。
「昨日のカレーありがとう。美味かったよ」
「ふふん。当然でしょ? 愛情たくさん込めたからね。そういえばどこまで行けたの?」
「クリアした」
そして店長と同じく俺が『クリエイション』モードでプレイしていたことを教えていた数少ない人だ。というか少し前までは真衣も『クリエイション』モードの挑戦者だった。とはいっても俺がやっているから自分も挑戦すると言ってやっていたので正直進行度は御察しだった。
「もしかしてアラーム邪魔だった?」
「いいや、十時頃に終わったから気にしないでいいよ」
「そうだったの? ならもう少しいたら良かったなぁ。そうしたらお祝いできたのに」
「今日一限からだって言ってたろ。仕方ないだろ」
「真央の家から行けばいいもん。あぁやっぱりお泊りするつもりで用意していけばよかったぁ!」
それはまぁ、ドンマイ。
「悔しいからヤケ食いしてやるもん!真央アイス!一番大きいのね!」
「追加注文ありがと。コーヒーと一緒に持ってくるよ」
――――
それから、真衣は閉店まで有言実行で店の利益に貢献してくれた。店長も真衣の愚痴を聞きながらアップルパイを焼いていたし楽しんでいたようだ。
そんな帰り道、今日は泊まるという事でそのまま家まで歩いている。
「ねぇ真央、クリアしたなら次なんかゲームやるよね? 単位余裕あるもんね」
「実は次やるゲームは決めてんだ。数日中には届くと思うからそうしたらだな」
「何やるの!? もし良かったら協力プレイできる奴がいいなぁって」
「良かったな。『プラネットクロニクル』ってゲームやるつもりなんだ」
「っっ!! ほんと!? 『プラクロ』やるの!?」
「お………おう、そうだけど」
「じゃぁ初日から一緒にやろう! 私結構やりこんでるから手伝えるよ!」
「そうなの?」
「うん! 『クリエイション』クリア諦めてから色々漁っててそこから『プラクロ』にたどり着いたんだよね。今はソロ専でやってるけど私そこそこ強いよ?」
それは期待できそうだ。真衣は『クリエイション』モードこそクリアできなかったけどそれ以外の難易度は全部クリアしてたしセンスはある。真衣が先輩プレイヤーなら色々指導してもらおう。
「じゃぁお世話になろうか。プレイヤー名何にしてるの?」
「『マイ』だよ。そのまんま。こういう時ありきたりな自分の名前便利だよね」
自分の名前ありきたりとか言うんじゃないよ。
「俺は『アール』でやるつもり。フレコわかったらすぐ登録すっか」
「当然! わかんなくても初期設定したらすぐ会えるようにすればいいよ! 届いてやるときすぐ連絡してね!」
「あいよ。ところで晩飯昨日のカレーでいい?」
「カレー南蛮にしてあげるよ。買い物してこ?」
今晩の飯も美味い物食えそうだ。
――――
数日後、エクスゼウスから小包が届いた。中身は表彰状と『プラネットクロニクル』のパッケージ版。表彰状は飾っとこう。総集編はまだ完成していないのでもう少々待って欲しいとの事。
とりあえず、『プラクロ』が真衣に届いたからやるよって連絡入れて………返事早。
―――
分かった! 始めたら町の中央にある噴水にいって! 案内してあげる!
―――
コンソールにパッケージ版の『プラネットクロニクル』をセットし、ゲーム前の準備を整えていく。トイレと鍵の施錠、あと不在設定に一応の時刻アラームと。晩飯は………昨日作ってもらった肉じゃがあるしこれでいいか。あとは米の用意をしてっと………。
準備をしている間にインストールが終わったらしくヘッドギアの蛍光が青に変わった。ちなみに赤は準備中、青は起動完了の合図だ。点滅の赤は非常事態で強制シャットダウン処置がされる。そうなる場合の人は規定時間以上の時間遊びすぎていたり、身体に異常反応を確認した場合にそうなる。ほどほどに楽しく健康にゲームしようっていう企業からの警告ってことだ。
ちなみにこれは開発企業によって異なっており、俺はエクスゼウスが提供してるコンソール一式を使用してる。エクスゼウス製のが一番安定してゲームできるからな。しかも初期から現在までトップシェア走ってるから信頼性も高い。そんなこともあってエクスゼウスは変態企業なんて世間様では言われている。誉め言葉だって声明返したときは笑ったよね。
さてそれじゃあ始めよう。新しい世界へ旅立ちますか。
感想は返したり返さなかったりします。気分とか気持ちとかそういうのによります。
それでも良かったら感想とか評価とかしてくれると嬉しいです。