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序章.勇者タナカ、叙勲される

不定期更新でやっていきますので、ご了承ください。

基本的に、1章ごとに完結。1章分のストックができたらまとめて投稿していきます( `・∀・´)ノ

 ◆

 ピカピカに磨き上げられた総大理石の床。微かに反射する自分の顔は、薄っすらと笑みを浮かべている。この顔を皇帝の忠臣が見たならば、ひょっとすると「謀反でござる」とか言うかもしれない。


 ……言わないか。


「面を上げよ」


 くだらない想像を巡らせていると、遥か高みから声が掛けられた。言われた通りに顔を上げると、周囲より数段高くに配置された玉座に腰掛ける老齢の男性が、静かに笑みを浮かべていた。


「此度の戦、誠に大儀であった。勇者タナカよ」

「有難き御言葉。恐悦至極にございます」


 玉座の男性は、ただの老人ではない。大陸の半分を占める超大国〝帝国〟の最高権力者にして、〝太陽教会〟の庇護者。唯一無二の〝皇帝〟である。


そして俺が勇者。


 魔王軍の侵攻を防ぎ、侵攻拠点であった大陸南部を解放し、敵将〝魔王〟を討ち取った人類の救世主。称号に恥じない男。稀代の英雄。


 止めてくれー!チートのお陰なんだ!……とは、恥ずかしくて言えない。言わないけどね。だって称賛されるの気持ちいじゃん?


「帝国は勇者タナカに金貨10万枚を報償として下賜する」


 おお。太っ腹だねぇ。まあ、事前の打ち合わせ通りだから驚かないけれど。帝国金貨が2枚もあれば平均的な4人家族が1か月は生活できる。そう考えると結構な……というよりかなりの大金だ。我ながら麻痺ってるなぁ。


 慣れ親しんだ日本円じゃないから仕方ない。なお帝国には円のような通貨の呼称がない模様。だから金貨〇枚、銀貨〇枚と数えてる。可笑しな話だ。


「勇者タナカが魔王軍から回収した装備等については別途、協議によりその所有を決する」


 魔剣とかね。


 打合せ通り宣告を行うと、宰相ビスケは羊皮紙をクルクルと丸め、控えている文官に手渡した。これで今日の大仕事は終わりである。終わり次第、旅に向けた準備をしよう。


 目的?趣味趣味。もうやることないしね。


「勇者タナカ」


 早く終わんねーかな。と思っていたら、なんか皇帝が喋り始めた。


「その功績を称え、この者をラドン侯爵に叙する」


 ファ。


 聞いてない。打合せにないぞ。焦って宰相ビスケを見ると視線を逸らされた。帝国の爵位制度は一部の官僚を除き、原則的に土地に依存している。つまり、除爵されるということは、皇族でもない限り間違いなく土地を与えられるということだ。勘弁して欲しい。俺は旅に出るんだ……内政チートは要りません。


 しかし、皇帝の決定は絶対だ。特にこのような公の場での発言を覆すのは難しい。帝国と戦争をする覚悟があるなら別だが。そこまではしたくない。できないこともないか?いや、一人じゃさすがに無理がある。一緒に戦った仲間でも集めればワンちゃんあるか?……俺ってばソロプレーヤーだったから仲間なんていなかったわ。


 こうして俺は、ただの勇者タナカから〝ミノル・タナカ・ラドン侯爵〟に転職(ジョブチェンジ)したのだった。まじか。てかラドンってどこだっけ。


 謁見終了後、俺は宰相ビスケの執務室に殴り込みを掛けた。「どういうことですか?!」と詰め寄ると、宰相ビスケは苦笑を浮かべた。


「陛下とも話したんですがね?」


 曰く、徐爵は魔王討伐という功績に対する報償の一部らしい。納得できない。ラドンがどこかは知らないが、そもそもたった10万ぽっちの財産で運営できるのか?


「ラドンはタナカ殿が解放した大陸南部の地名です」

「魔王軍の収奪で廃墟と化した土地じゃないですか!」


 16歳で強制的に召喚され、4年間従軍した俺に対するなんという仕打ち。青春を返せ。いや、もう帝国と戦争しかないのでは?俺の胸中を察したのか、宰相ビスケは慌てて補足した。


「も、勿論、支援は致します。どうか早まらないでください」

「具体的には?」

「タナカ殿……いえ、閣下が魔王軍から回収した装備があるでしょう。それを帝国が買い取り、ラドンの開発に充てるのです。それに領地に民が住むようになれば税収も得られますよ」

「その心は?」

「帝国が魔王軍の装備を独り占め。ラドンの開発でうっはうは」


 おい。


 帝国は魔王軍の装備を独り占めできた上、ラドンの開発を進められる。ゆくゆくは、ラドン侯爵領からの税収入もせ占めると。つまりは帝国の一人勝ちだ。


「帝国しか得してなくないですか?」

「よく考えてください。装備は閣下一人で回収した訳ではないでしょう?」

「ぐぬぬ」


 確かに俺は魔王軍と一人で戦ってきたわけではなく、常に帝国軍と共に戦ってきた。魔王を討ち取ったのは結果的に俺だが、そこまでの露払いは帝国軍がしてくれたのだ。


「装備の所有は別途、協議。閣下の働きを考慮しても、一体、どの程度の装備が閣下の所有になるのでしょう。そしてどうやって所有を明らかにするのです?」

「つまり、魔王軍の装備の所有権をすべて俺に渡すと?」

「ええ。ただしそれを他で売却することを禁じ、厳正な鑑定額で帝国が買い取ります」


 しばし考えた後、俺は結局この提案を受諾した。


 よくよく考えてみれば、報償の金貨10万枚もあれば一生遊んで暮らしても莫大なお釣りが出る。魔王軍の装備で帝国がラドンの開発を行うと考えれば、別に俺に不利益はないように思える。唯一の懸念はラドンに縛り付けられること。


「私は旅に出たいのです。ラドンの内政なんてとても」


 すると宰相ビスケは「なんだそんなことですか」と笑みを浮かべた。


「代官を手配しましょう」

「……しかたない。それで手を打ちましょう」


 別に不利益があるわけじゃないのであれば、ここは帝国の事情にも配慮を示そう。こうして話は決着した。俺は帝国貴族になった。さあ、冒険の始まりだ?

最後までありがとうございます。

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次回

魔法使いの町Ⅰ

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