序章.勇者タナカ、叙勲される
不定期更新でやっていきますので、ご了承ください。
基本的に、1章ごとに完結。1章分のストックができたらまとめて投稿していきます( `・∀・´)ノ
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ピカピカに磨き上げられた総大理石の床。微かに反射する自分の顔は、薄っすらと笑みを浮かべている。この顔を皇帝の忠臣が見たならば、ひょっとすると「謀反でござる」とか言うかもしれない。
……言わないか。
「面を上げよ」
くだらない想像を巡らせていると、遥か高みから声が掛けられた。言われた通りに顔を上げると、周囲より数段高くに配置された玉座に腰掛ける老齢の男性が、静かに笑みを浮かべていた。
「此度の戦、誠に大儀であった。勇者タナカよ」
「有難き御言葉。恐悦至極にございます」
玉座の男性は、ただの老人ではない。大陸の半分を占める超大国〝帝国〟の最高権力者にして、〝太陽教会〟の庇護者。唯一無二の〝皇帝〟である。
そして俺が勇者。
魔王軍の侵攻を防ぎ、侵攻拠点であった大陸南部を解放し、敵将〝魔王〟を討ち取った人類の救世主。称号に恥じない男。稀代の英雄。
止めてくれー!チートのお陰なんだ!……とは、恥ずかしくて言えない。言わないけどね。だって称賛されるの気持ちいじゃん?
「帝国は勇者タナカに金貨10万枚を報償として下賜する」
おお。太っ腹だねぇ。まあ、事前の打ち合わせ通りだから驚かないけれど。帝国金貨が2枚もあれば平均的な4人家族が1か月は生活できる。そう考えると結構な……というよりかなりの大金だ。我ながら麻痺ってるなぁ。
慣れ親しんだ日本円じゃないから仕方ない。なお帝国には円のような通貨の呼称がない模様。だから金貨〇枚、銀貨〇枚と数えてる。可笑しな話だ。
「勇者タナカが魔王軍から回収した装備等については別途、協議によりその所有を決する」
魔剣とかね。
打合せ通り宣告を行うと、宰相ビスケは羊皮紙をクルクルと丸め、控えている文官に手渡した。これで今日の大仕事は終わりである。終わり次第、旅に向けた準備をしよう。
目的?趣味趣味。もうやることないしね。
「勇者タナカ」
早く終わんねーかな。と思っていたら、なんか皇帝が喋り始めた。
「その功績を称え、この者をラドン侯爵に叙する」
ファ。
聞いてない。打合せにないぞ。焦って宰相ビスケを見ると視線を逸らされた。帝国の爵位制度は一部の官僚を除き、原則的に土地に依存している。つまり、除爵されるということは、皇族でもない限り間違いなく土地を与えられるということだ。勘弁して欲しい。俺は旅に出るんだ……内政チートは要りません。
しかし、皇帝の決定は絶対だ。特にこのような公の場での発言を覆すのは難しい。帝国と戦争をする覚悟があるなら別だが。そこまではしたくない。できないこともないか?いや、一人じゃさすがに無理がある。一緒に戦った仲間でも集めればワンちゃんあるか?……俺ってばソロプレーヤーだったから仲間なんていなかったわ。
こうして俺は、ただの勇者タナカから〝ミノル・タナカ・ラドン侯爵〟に転職したのだった。まじか。てかラドンってどこだっけ。
謁見終了後、俺は宰相ビスケの執務室に殴り込みを掛けた。「どういうことですか?!」と詰め寄ると、宰相ビスケは苦笑を浮かべた。
「陛下とも話したんですがね?」
曰く、徐爵は魔王討伐という功績に対する報償の一部らしい。納得できない。ラドンがどこかは知らないが、そもそもたった10万ぽっちの財産で運営できるのか?
「ラドンはタナカ殿が解放した大陸南部の地名です」
「魔王軍の収奪で廃墟と化した土地じゃないですか!」
16歳で強制的に召喚され、4年間従軍した俺に対するなんという仕打ち。青春を返せ。いや、もう帝国と戦争しかないのでは?俺の胸中を察したのか、宰相ビスケは慌てて補足した。
「も、勿論、支援は致します。どうか早まらないでください」
「具体的には?」
「タナカ殿……いえ、閣下が魔王軍から回収した装備があるでしょう。それを帝国が買い取り、ラドンの開発に充てるのです。それに領地に民が住むようになれば税収も得られますよ」
「その心は?」
「帝国が魔王軍の装備を独り占め。ラドンの開発でうっはうは」
おい。
帝国は魔王軍の装備を独り占めできた上、ラドンの開発を進められる。ゆくゆくは、ラドン侯爵領からの税収入もせ占めると。つまりは帝国の一人勝ちだ。
「帝国しか得してなくないですか?」
「よく考えてください。装備は閣下一人で回収した訳ではないでしょう?」
「ぐぬぬ」
確かに俺は魔王軍と一人で戦ってきたわけではなく、常に帝国軍と共に戦ってきた。魔王を討ち取ったのは結果的に俺だが、そこまでの露払いは帝国軍がしてくれたのだ。
「装備の所有は別途、協議。閣下の働きを考慮しても、一体、どの程度の装備が閣下の所有になるのでしょう。そしてどうやって所有を明らかにするのです?」
「つまり、魔王軍の装備の所有権をすべて俺に渡すと?」
「ええ。ただしそれを他で売却することを禁じ、厳正な鑑定額で帝国が買い取ります」
しばし考えた後、俺は結局この提案を受諾した。
よくよく考えてみれば、報償の金貨10万枚もあれば一生遊んで暮らしても莫大なお釣りが出る。魔王軍の装備で帝国がラドンの開発を行うと考えれば、別に俺に不利益はないように思える。唯一の懸念はラドンに縛り付けられること。
「私は旅に出たいのです。ラドンの内政なんてとても」
すると宰相ビスケは「なんだそんなことですか」と笑みを浮かべた。
「代官を手配しましょう」
「……しかたない。それで手を打ちましょう」
別に不利益があるわけじゃないのであれば、ここは帝国の事情にも配慮を示そう。こうして話は決着した。俺は帝国貴族になった。さあ、冒険の始まりだ?
最後までありがとうございます。
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