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最後のビデオ通話  作者: 桐谷 霞
8/13

葛藤

1週間ぶりに学校に来た。

先週借りた本を返すためだ。


先週と言えば、面白い男の子に会った。

わたしが図書室を出て、すこし学校をうろついていたら、男の子が私に話しかけてきた。

すごく汗をかいていて疲れている様子だった。


何かと思えば、彼はわたしに図書室の場所を尋ねてきた。わたしはすこし不思議に思った。制服は新しい感じではなかったし、雰囲気も1年生っぽくはない。わたしの学年では見たことがない顔をしていたので、わたしは彼のことを2年生だと思っていた。


でも違うらしい。2年生で図書室の場所を知らない人なんているわけがない。でもわたしは念のため聞いてみた。


「1年生···だよね?」


さすがに「そうです」と言われると思っていたけど、彼はわたしの顔を見ながら黙り込んだ。何か考えているように見える。

すこしすると、彼の口から耳を疑うような言葉が帰ってきた。


「2年生です···」


わたしは目を大きく見開き、まゆを上げ、口を手で隠していた。おどろいた。


「うそ、2年生なのに図書室の場所知らない人っているの?」


心の中で言ったつもりが、声に出ていた。


「今まで行ったことがなかったので、」


今まで行ったことがなくても探せばわかるところに図書室はある。


「え~、それでも探したらわかるでしょ~」


わたしは「暑かったので、探すのがすこし面倒だったので、」みたいな返事が返ってくと予想していた。でも彼の返事はわたしの予想をはるかに上回っていた。


「いや、30分くらい探しても見つかりませんでした。」


30分。チキンラーメンを10個も作れる時間だ。

そもそも30分あれば学校全体をまわりきれるんじゃないかな、

彼の発言に驚きすぎて、よく考えると面白くて、わたしは笑みをおさえることができなかった。


「30分も探したのに見つからなかったの?笑笑」


すこし失礼だとは思うが、笑いをおさえることができない。


「じゃあ君はあれだね笑

方向音痴だね笑笑」


彼の顔には汗が流れていて、そのうえムスッとしている。


「そうかもしれないです。だから図書室を教えてくれませんか?」


さっきよりすこし強めの声で彼は言った。

わたしは彼の要求をすっかり忘れていた。


「ああ~そうだった、忘れてた、」


「ついてきて」と言って、わたしはまだクスクスしながら彼を図書室まで案内をした。


そんなことを思い出して、わたしは思い出し笑いのせいですこしニヤニヤしながら図書室へ向かった。

またあの2年生に会わないかな~と思いながら図書室に入った。


時計を見ると、午後2時を少しまわっていた。

本を返すためカウンターに行き、先生に本のバーコードを見せる。ピッとしてもらい、返却完了。後はもとの場所に戻すだけ、と思い、カウンターを離れようとすると、先生がなにか言ってきた。


「かすみちゃん、あそこの机にうつぶして寝ている男の子に声をかけてあげてくれない?

ずいぶん長く寝てて、もう3時間くらいあそこにいるのよ、」


わたしは1年生の頃からよく図書室にきていたので、先生とは仲良しだ。そんな先生のお願いならもちろん引き受ける。


「わかりました笑」


「よろしくね、」


わたしはあまり周りの目は気にしないので、こういうことは全然できる。むしろ面白そうだと感じてしまう性格だ。


カウンターからそのまま寝ている子の席へ向かった。パッと見ただけでわかるくらいぐっすり寝ている。わたしは彼の横に立ち、声をかけた。


「お~い、きみきみ~

図書室は寝るところじゃないぞ~」


そう言うと男子生徒は、目をこすりながらわたしの方を見た。その男子生徒と目が合うと、わたしは少し固まった。そして、つい大きな声で行ってしまった。


「あっ、先週の方向音痴くんじゃん!」


彼もわたしのことを覚えていたようで、少し間を置いてから「あ、」と言った。


彼は少し寝ぼけているようで、「何でこの人は自分に声をかけてきたんだ?」みたいな顔をしていたので教えてあげた。


「てゆうか君ね~、いま寝てたでしょ、

ここは寝るところじゃないよ」


そう言うと彼は自分が寝てたことを自覚したのか、あっとした顔になって時計を確認した。


「あ、すいません、すぐ出ていきます」


「いや、出ていけと言ったつもりはなかったんだけど···」


「いえ、用事があったのを思い出しただけなので」


「そう、だったらいいんだけど···

なんかごめんね、」


気づけばまるでわたしが悪いみたいな雰囲気になっていたので、謝った。


彼はわたしに軽くおじぎをして、机の上の本を置きっぱなしにして図書室から出ていった。


まったく、本ぐらいもとの場所に返してから帰りなさいよ、

心の中で愚痴をこぼしつつも、先生の方を見て自慢げに微笑んだ。

先生も口パクでありがとうと言っていた。他にも何か言っていたようだったけど、わたしは読み取れなかった。


仕方がないな~、このかすみ様が本をもとの場所に戻してやろう。4冊の本の番号を見て自分が借りた本とともにもとの場所に戻した。


次に読む本を見つけ、5時まで図書室で読んで帰ろうと思い、空いている席を探した。


ちょうどさっきの方向音痴くんの席が空いてるじゃん、席に行くとまだ本が置いてあった、まったく、と思いながらよく見ると本ではなくノートだった。表紙には『8月からの日常』と書かれてあった。


たぶん彼のだ。忘れたことに気づけばそのうち取りに来るよね。取りに来たら返してあげようと思い、その席に座り、本を読んだ。


1時間経っても彼は戻ってこない。まだ気づいてないのかな、5時までに来なかったらどうしよう、そんなことを考えているうちに、本に集中できなくなった。

このノートには何が書いてるんだろう、8月からの日常ってどういうことかな、ノートはきれいだし、新品だったのは最近だろうな、8月からってことは、今日は8月24日だからだいたい3週間くらい前か、何が書いてるのかな、人のものを勝手に見るのは良くないよね、ちょっとならダメかな?ちょっとくらいならいいよね、だってわたしは忘れ物を返してあげるんだから、うん、ちょっとくらいなら


葛藤のすえ、わたしはノートを1ページ見ることにした。



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