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最後のビデオ通話  作者: 桐谷 霞
7/13

再会

朝起きて図書室に行き、本を借りて病院で読む。という1日のサイクルが1週間続いた。


もちろん毎日本を借りたり返したりしてるわけではない。夏休みの宿題をやらないと行けないし、1日で本を読みきれるものもあれば、そうでないものもある。


ぼくが毎日図書室に行く理由は、クーラーの効いた部屋で本を少し読んだり、選んだりするのが楽しいからだ。しかも涼しい部屋で宿題ができる。だからぼくは毎日図書室に行っていた。


今日は読み終えた本を返し、新しい本を借りるために図書室に来た。


図書室に入って、まず本を返す。

そして本をもとの場所に戻して新しい本を選ぶ。


本棚を見ていると、面白そうな本が4冊もあった。いつも1冊すぐ決めて借りているため、迷うことなんてなかったが、今回はどれも譲れない。


4冊とも借りればいいじゃないか、という言葉が聴こえてきそうだが、ぼくは本を借りるときは1冊と決めている。そういう主義の人間だ。


もちろんつぎ図書室に来たときにまた借りることができるが、ぼくはどれを最初に借りようか、かなりの時間迷っていた。


それぞれの本を少し読んで、いちばん面白そうな本を借りようと決めた。


どうせなら座って読もうと思い、空いている席を探した。


今日もまあまあ人が多い。

でも座れる席はいくつかある。


空いている席を見つけそこに座り、机の上に4冊の本を置いて、1冊ずつ読み始めた。


少しだけと思っていても、キリのいいところで終わりたい。後もう少しだけ読もうというのが何度も続き、1冊にかなり時間をとられた。


やっとキリのいいところを見つけ、2冊目を読もうとしたが、急にあくびが出てきて睡魔がぼくを襲いった。最近夜遅くまで本を読んでいるからだろう。ぼくはそのまま机にうつぶして眠ってしまった。





「お~ぃ、きみきみ~

図書室は寝るところじゃないぞ~」


横から女の人の声がして、ぼくは目が覚めた。

ゆっくりと顔を起こし横を見た。


最初は少し目がかすんでいて顔がはっきりとわからなかったが、目をこすってからよく見ると、

見覚えのある顔だった。


眠っているぼくに声をかけてきたのは、先週ぼくに図書室の場所を教えてくれた女子生徒だった。


目が合った瞬間、どちらも数秒固まった。


そして彼女は周りに聴こえる声で、


「あっ!先週の方向音痴くんじゃん!」


と言った。失礼な人だ。

周りの視線を少し感じたが気にはならない。

とりあえず何か反応しなければと思ったので、

「あ、」と言っておいた。


「てゆうか君ね~

いま寝てたでしょ、ここは寝るところじゃないよ」


ぼくは眠っていたことに気づき、時計を見た。


午後2時半。


ぼくがここに来たのは午前11時だ。

本を読み始めたのはここに着いて20分後くらいだったので、約3時間も眠っていたことになる。


いつもなら病院で本を読んでいる時間だ。

今日はもう本を借りずに病院へ行こうと思った。


「あ、すいません、すぐ出ていきます。」


「いや、出ていけと言ったつもりは、

無かったんだけど···」


「いえ、用事があったのを思い出しただけなので」


「そう···だったらいいんだけど···

なんかごめんね、」


彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。


軽くおじぎをして、ぼくは図書室を出た。


病院に着きさやのところへ行くと、さやはまだ眠っていた。死んでしまったんじゃないかといつも不安になる。

今日は読む本が無いので、ずっとさやを見ていた。


かなりの時間が過ぎ、そろそろ帰る時間になったので、今日のさやの状態をノートに書こうとした。

ノートとは、『8月からの日常』のことだ。


ノートには毎日さやのことを書く、

基本的には毎日同じことを書き続ける。

週末には、その週のさやに対するぼくの気持ちを書いている。

他には、ぼくが新しいことや面白いことに出会った日のことをその時に書いている。


例えば、今日も書いた。内容は「初めて4冊もの本で、どれを借りるか迷った。」だ。


こんな感じの出会いをノートに書いている。


さやのことを書くためノートを取り出そうとかばんを開けると、ノートが入っていなかった。


かばんの中を覗き込んでみたが、無い。

焦った。

だがすぐに冷静になり、最後にノートを見たのはいつだ、と記憶の中を探した。


少し時間をさかのぼるとすぐにわかった。

図書室だ。


4冊の本で迷ったことをノートに書き、そのまま置いて病院に行ってしまったのだ。


時計を見ると、時間はとっくに午後5時をまわっていた。

図書室はすでに閉まっている。


だがあのノートをほったらかしにするわけにはいかない。

だから走って学校に向かった。


学校に着き、図書室の前まで来た。

もう午後6時を過ぎたところだ。

もちろん扉には鍵がかかっていて入れなかった。


職員室で鍵を借りようと、職員室に行った。

職員室に入るのは初めてで、少し抵抗があったが、そんなことよりあのノートの方が大切だ。


職員室の先生に図書室の鍵を貸してほしいと言うと、図書室の鍵は担当の先生が持って帰ったため、ここには無いと言われた。


これはまいった。明日まで待たないといけない。今日は諦めるしかなかった。


もし明日、図書室にノートが無かったらどうしようと思いながら校舎を出た。


校門まで来ると、「お~い」と、後ろから声がしてきた。

振り返ってみると、そこにはあの女子生徒がいた。


「はい、これ君のでしょ?」


そう言って渡されたのは、ぼくが探していたノートだった。


「どうしてこれを···」


「君が寝てた机の上に置きっぱなしだったよ~」


「こんな時間まで、ずっと待っててくれたんですか···?」


「そうだよ?優しいでしょ~

来なかったらどうしようかと思ったけどね~」


彼女は微笑みながらそう言った。


「ありがとうございます···

無くしたらどうしようかと···」


すると、彼女の顔から笑顔が消えてすこし暗い顔になった。


「あのね···ノートのなかみ、

読んじゃった·····」


「·····

そうですか·····」

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